説明

高酸素親和性改変ヘモグロビンを含む、酸素輸送のための方法および組成物

【課題】本発明は、血液製品に関し、より具体的には、酸素に対して高親和性を有する改変酸素化ヘモグロビンを含む組成物、およびこのような組成物を作製する方法を課題とする。
【解決手段】本発明に従うこのような組成物は、自己酸化に対するより良好な安定性および優れた酸素運搬特性を有する。上記課題は、表面改変酸素化ヘモグロビンを含む代用血液製品であって、表面改変酸素化ヘモグロビンが、同じ条件下で測定した場合に、同じ動物供給源に由来するネイティブの支質非含有ヘモグロビンより小さなP50を有する、代用血液製品を提供することによって解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、米国特許法第119条(e)項の下で、2002年1月11日に出願された米国特許第60/347,741号に対する優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、血液製剤に関し、より詳細には、酸素に対して高い親和性を有する改変されたヘモグロビンを含有する組成物およびこのような組成物を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
(循環系およびヘモグロビンの性質)
血液は、組織に栄養分を送達し、排出のために組織からの廃棄物を除去するための手段である。血液は、赤血球(red blood cell)(RBCまたは赤血球(erythrocyte))、白血球(WBC)、および血小板が懸濁している血漿からなる。赤血球は、血液中で細胞の約99%を構成し、それらの主な機能は、酸素を組織に輸送し、組織からの二酸化炭素を除去することである。
【0004】
左心室は、動脈および循環系のより小さい動脈を通して血液をポンピングする。次いで、血液は、毛細管に入り、ここで、栄養分と細胞の廃棄物との大半の交換が行われる(例えば、非特許文献1を参照のこと)。その後、血液は、右心房に血液を戻すのに、細静脈および静脈を通って移動する。心臓に戻る血液は、心臓からポンピングされる血液と比較して、酸素量が乏しいが、安静状態である場合、戻ってくる血液はなお、本来の酸素含量の約75%を含んでいる。
【0005】
RBCの可逆性酸素付加機能(すなわち、酸素の送達)は、タンパク質ヘモグロビンによって行われる。哺乳動物において、ヘモグロビンは、約64,000ダルトンの分子量を有し、約6%のヘムと94%グロビンとから構成される。そのネイティブの形態において、ヘモグロビンは、2対のサブユニット(すなわち、四量体)を含み、各々が、ヘム基およびグロビンポリペプチド鎖を含む。水溶液中で、ヘモグロビンは、四量体形態(MW
64,000)と二量体形態(MW 32,000)との間で平衡状態で存在しており;RBCを除いて、その二量体は、腎臓によって早期(約2〜4時間の血漿半減期)に排出される。ヘモグロビンとともに、RBCは、支質(RBC膜)を含み、この支質は、タンパク質、コレステロール、およびリン脂質を含む。
【0006】
(外因性血液製剤)
病院および他の設定における血液製剤の需要に起因して、代用血液および血漿増量薬の開発における広範な研究が指向されている。代用血液は、酸素を組織に運搬および供給する能力を有する血液製剤である。代用血液は、多数の用途を有する。これらの用途としては、外科手順の間およびその後の急性出血により損失される血液の交換、ならびに外傷性損傷後の蘇生手順のための用途が挙げられる。血漿増量薬は、脈管系に投与されるが代表的に酸素を運搬する能力を有さない、代用血液である。血漿増量薬は、例えば、火傷により損失される血漿を交換して、容量欠乏性ショック(volume deficiency shock)を処置し、血液希釈をもたらすため(例えば、正常血液量を維持するためおよび血液粘度を低下させるため)に使用され得る。本質的には、代用血液は、これらの目的または保存血液を容易に患者に投与する任意の目的のために使用され得る(例えば、Bonsonらに対する米国特許第4,001,401号およびMorrisに対する米国特許第4,061,736号を参照のこと)。
【0007】
現在のヒト血液供給は、外因性代用血液の使用を介して軽減され得るいくらかの制限を伴っている。例えば、安全でかつ有効な代用血液の広範な有効性は、保存(同種異系)血液に対する必要性を低下させる。さらに、このような代用血液は、(血液に必要とされるような)交差適合試験にかかわらず、外傷性損傷後直ちに蘇生溶液を注入するのを可能にし、それによって、酸素を虚血性組織に再供給する際の貴重な時間が節約される。同様に、代用血液は、外科手術前に患者に投与され得、必要な場合、その手順の後半、または外科手術後に戻され得る患者からの自己血液を除去するのを可能にする。従って、外因性の血液製剤の使用は、患者が非自己(同種異系)血液に曝されるのを保護するだけでなく、その最適な用途について、自己血液も同種異系血液(保存され、交差適合された血液)も保存する。
【0008】
(現在の代用血液の制限)
従って、代用血液(しばしば、「酸素運搬血漿増量薬」とも称される)の製造に対する試みにより、限界効率を有するかまたはその製造が退屈であるか、高価であるかもしくはその両方である製剤が、かなり製造されてきた。頻繁に、このような製剤を製造するコストはかなり高いので、特に、最も高い需要が存在している市場(例えば、新たに独立した第3世界の経済)において、これらの製剤の広範な使用は事実上除外されている。
【0009】
代用血液は、以下の3つのカテゴリーに分類され得る:i)パーフルオロカーボン(perfluorocarbon)ベースのエマルジョン、ii)リポソームカプセル化ヘモグロビン、およびiii)改変無細胞ヘモグロビン。以下で議論されるように、改変無細胞ヘモグロビンを含む手順が最も有望であると考えられるが、全体的に成功しているわけではない。パーフルオロ化学物質ベースの組成物は、リガンドとして酸素に結合するのとは対照的に、酸素を溶解する。生物学的系において使用するために、パーフルオロ化学物質は、脂質、代表的には、卵黄リン脂質で乳化されなければならない。パーフルオロカーボンエマルジョンは製造するのが安価であるが、これらは、臨床学的に耐性な用量にて、有効であるのに十分な酸素を運搬しない。逆に、リポソームカプセル化ヘモグロビンは有効であることが示されているが、広範に使用するにはコストが高すぎる(一般に、非特許文献2を参照のこと)。
【0010】
現在の臨床試験における代用血液製剤のほとんどは、改変ヘモグロビンに基づく。これらの製剤は、頻繁にヘモグロビンベースの酸素キャリア(HBOC)と称され、一般に、他の赤血球残渣(支質)を本質的に含まない、化学的に改変されたヘモグロビンの同種水溶液を含む。ヒト由来の、支質を含まないヘモグロビン(SFH)は、HBOCの調製用の最も一般的な原料であるが、ヘモグロビンの他の供給源もまた、使用される。例えば、ヘモグロビンは、動物の血液(例えば、ウシまたはブタのヘモグロビン)または細菌もしくは酵母または分子的に変化されて所望のヘモグロビン産物を産生する、トランスジェニック動物もしくはトランスジェニック植物から得られ得るかまたはこれら由来であり得る。
【0011】
化学改変は、一般に、ヘモグロビンを改変するための、分子間の架橋、オリゴマー形成および/またはポリマー結合体化のうちの1つであり、この結果、循環におけるその持続性は、未改変ヘモグロビンの持続性に対して延滞され、その酸素結合特性は、血液の酸素結合特性と類似する。分子間架橋は、四量体ヘモグロビン単位のサブユニットを一緒に化学結合して、以前に示されたような、早期に排出される二量体の形成を防止する(例えば、Rauschらに対する米国特許第5,296,465号を参照のこと)。
【0012】
高コストのHBOC製剤の製造は、それらの商業的な実行可能性をかなり制限している。さらに、本発明者らは、既知のHBOCが、毛細管ではなく小動脈壁において、過剰量の酸素を組織に放出する傾向を有することを見出した。このことは、HBOCによって毛細管の周辺組織に送達するのに利用可能であるには、不十分な酸素を生じ得る。この事実にもかかわらず、HBOCの酸素での初期充填は、天然の赤血球を用いて通常達成されるのと比較して(非常に低い親和性の変異体である場合を除く)、相対的に高くなり得る。
【0013】
ほとんどの場合、HBOCは、ネイティブのヘモグロビンと同じかまたはそれよりも低い酸素親和性を有するように設計されている。しかし、上で議論されるように、このことは、酸素の組織への不十分な送達を生じ得る。従って、本発明は、水性希釈剤中で高酸素親和性を有するHBOCを含む代用血液に関する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】A.C.Guyton「Human Physiology And Mechanisms Of Disease」(第3版;W.B.Saunders Co.,Philadelphia,Pa.)228−229頁(1982)
【非特許文献2】Winslow,Robert M.,「Hemoglobin−based Red Cell Substitutes、Johns Hopkins University Press,Baltimore(1992)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の要旨)
本発明の方法および組成物は、種々の設定(緊急治療室、手術室、軍事衝突、癌病院、および獣医診療室を含む)において有用である。本発明の低い毒性および高い安定性によって、記載される代用血液の有効性を損なうことなく、室温での保存が可能になる。本発明はまた、血液型交差適合試験およびその関連する研究室試験に対する必要性を回避する。これによって、患者の処置における介入がより早期でかつより安全になる。従って、本発明の低い毒性、長期の安定性および普遍的な適用性の組み合わせは、血液との、特定の有用な代用品を提供する。
【0016】
1つの局面において、本発明は、表面改変酸素化ヘモグロビンを含む代用血液製剤を提供する。この表面改変酸素化ヘモグロビンは、同じ条件下で測定される場合、同じ動物供給源由来(すわなち、同種の動物由来)の、支質を含まないネイティブヘモグロビンよりも少ないP50を有する。適切な動物供給源としては、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ウマが挙げられる。
【0017】
好ましい実施形態において、この代用血液製剤は、表面改変酸素化ヘモグロビンと水性希釈剤とを含有する組成物の形態をとる。
【0018】
特定の好ましい実施形態において、この表面改変酸素化ヘモグロビンは、10トール未満のP50、好ましくは、7トール未満のP50を有する。
【0019】
他の局面において、本発明は、酸化型ヘモグロビンへの1つ以上のポリアルキレンオキシドの共有結合によって産生される代用血液製品を提供する。
【0020】
特定の実施形態において、代用血液製品は、H(OCHCHOHの構造を有する、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))の重合体と共有結合することによって産生され、ここで、nは、4以上である。好ましくは、生成物は、0.10未満のメトヘモグロビン/総ヘモグロビン比を有する。
【0021】
さらなる別の局面において、本発明は、24℃で自己酸化に安定な代用血液製品(PEG−ヘモグロビン結合体を含む)を提供し、ここで、メトヘモグロビン/総ヘモグロビン比は、0.10未満であり、そしてPEG−ヘモグロビン結合体は、10トル未満のP50を有する。
【0022】
別の局面において、本発明は、次の工程を含む代用血液組成物を作製する方法を提供する:a)0.10未満のメトヘモグロビン/総ヘモグロビン比を有するヘモグロビンを調製する工程;b)ポリアルキレンオキシドとヘモグロビンとを共有結合させ、10トル未満のP50を有する表面改変酸化ヘモグロビンを形成する工程;c)表面改変酸化ヘモグロビンを適切な希釈剤中に懸濁する工程。さらに、好ましくは、ヘモグロビンの調製は、赤血球からヘモグロビンを単離する工程を含む。
【0023】
さらに、ヘモグロビンを調製する工程は、赤血球からのヘモグロビンの単離を包含し、ここで、ヘモグロビンは、0.10以上のメトヘモグロビン/総ヘモグロビン比を有し、メトヘモグロビン/総ヘモグロビン比を0.10未満まで下げるのに十分な時間の間、好気性条件(すなわち、大気中)に、ヘモグロビンを曝す。この工程は、チオール含有還元剤の非存在下で行われ得る。
【0024】
さらなる別の局面において、本発明は、組織に酸素を送達するために代用血液製品を用いる方法を提供し、それを必要とする、哺乳類に水性希釈剤中の産物を投与することを包含する。
【0025】
本発明の他の局面は、本明細書を通じて記載されている。
【0026】
本発明は、例えば以下を提供する。
(項目1)
表面改変酸素化ヘモグロビンを含む代用血液製品であって、該表面改変酸素化ヘモグロビンは、同じ条件下で測定した場合に、同じ動物供給源に由来するネイティブの支質非含有ヘモグロビンより小さなP50を有する、代用血液製品。
(項目2)
代用血液として有用な組成物であって、水性希釈液中に項目1に記載の代用血液製品を含む、組成物。
(項目3)
項目1に記載の代用血液製品であって、前記表面改変酸素化ヘモグロビンは、10トルより小さなP50を有する、代用血液製品。
(項目4)
項目1に記載の代用血液製品であって、前記表面改変酸素化ヘモグロビンは、7トルより小さなP50を有する、代用血液製品。
(項目5)
項目1に記載の代用血液製品であって、1以上のポリアルキレンオキシドを、前記酸素化ヘモグロビンに共有結合させることによって生成される、代用血液製品。
(項目6)
項目5に記載の代用血液製品であって、前記ポリアルキレンオキシドは、式H(OCHCHOHに従うポリエチレングリコールであり、nは4以上である、代用血液製品。
(項目7)
項目5に記載の代用血液製品であって、0.10未満のメトヘモグロビン/総ヘモグロビン比を有する、代用血液製品。
(項目8)
PEG−ヘモグロビン結合体を含む、24℃での自己酸化に安定な代用血液製品であって、前記メトヘモグロビン/総ヘモグロビン比は、0.10未満であり、前記PEG−ヘモグロビン結合体は、10トル未満のP50を有する、代用血液製品。
(項目9)
代用血液製品を作製する方法であって、該方法は、以下の工程:
a)0.10未満のメトヘモグロビン/総ヘモグロビン比を有するヘモグロビンを酸素化することによって、ヘモグロビンを調製する工程;
b)少なくとも1つのポリアルキレンオキシドを、該ヘモグロビンに共有結合させて、10トル未満のP50を有する表面改変酸素化ヘモグロビンを形成する工程;および
c)該表面改変酸素化ヘモグロビンを水性希釈液中に懸濁する工程、
を包含する、方法。
(項目10)
項目9に記載の方法であって、工程a)は、赤血球からヘモグロビンを単離する工程であって、ここで前記ヘモグロビンは、0.10以上のメトヘモグロビン/総ヘモグロビン比を有する、工程、および該メトヘモグロビン/ヘモグロビン比を、0.10未満に低下させるに十分な時間の間にわたって、該ヘモグロビンを雰囲気に曝す工程、
をさらに包含する、方法。
(項目11)
項目10に記載の方法であって、工程a)は、チオール含有還元剤の非存在下で行われる、方法。
(項目12)
酸素を組織に送達するために代用血液製品を使用する方法であって、該方法は、その必要性がある哺乳動物に、項目2に記載の組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目13)
項目1に記載の代用血液製品であって、前記ヘモグロビンは、ウマヘモグロビンである、代用血液製品。

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、MalPEG−HbおよびSFHのFPLCクロマトグラムを示す。
【図2】図2は、MalPEG−HbおよびSFHに対する酸素等価物曲線を示す。
【図3】図3は、2つのPEG改変ヘモグロビン(PHPおよびPOE)および未改変ヘモグロビン(SFH)のFPLC溶出パターンを示す。PHPおよびPOEのパターンが、定性的であるが、定量的に同じではないことに注意すること。さらに、POE曲線における明らかな未改変ヘモグロビンの小さなピークに注意すること。
【図4】図4は、2つのPEG改変ヘモグロビン(PHPおよびPOE)の酸素平衡曲線を示す。どちらも有意な共同性を有しないことに注意すること。
【図5】図5は、MalPEG−ヘモグロビンが室温である場合の、経時的な酸化率を示す。サンプルは、同様に貯蔵された2つの分離ボトルから、2回測定された。酸化率は、1時間あたり1%の総ヘモグロビンであり、10時間で5.0%〜5.5%に達する。
【図6】図6は、PHPまたはPOEのどちらかを受ける2つの群の動物のKaplan−Meier生存分析を示す。
【図7】図7は、2つのPEG改変ヘモグロビン(PHPおよびPOE)を受ける動物における、平均動脈圧値を示す。この応答は直ちに起こり、PHPを受けた動物よりも大きい。しかし、圧力は、出血期間の間、POE動物において良好に維持される。
【図8】図8は、MalPEG−Hbが、−20℃で6日間、+4℃で5日間、そして室温(24℃)で10時間、貯蔵された場合の、経時的な種々の酸化率の要旨を示す。
【図9】図9は、MalPEG−Hbが、+4℃で5日間貯蔵された場合の、経時的な酸化率を示す。
【図10】図10は、MalPEG−Hbが、室温で10時間貯蔵された場合の、経時的な酸化率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(発明の説明)
本発明は、高い酸素親和性を有するHBOCを含む代用血液に関する。特定の適用において、これらの組成物は、ネイティブへモブロビンに近似する酸素親和性を有する代用血液より、より効率的に、組織へ酸素を送達することができる。
【0029】
(定義)
後述の開示に記載される本発明の理解を深めるために、多くの用語が下記で定義されている。
【0030】
用語「ヘモグロビン」は、一般的に、酸素を運ぶ赤血球内に含まれるタンパク質をいう。各ヘモグロビン分子は、4つのサブユニットを有し(2つのα鎖および2つのβ鎖)、四量体構造で配列している。各サブユニットはまた、1つのヘム基を含み、ヘム基は、酸素と結合するイオン含有中心である。このように、各ヘモグロビン分子は、4つの酸素分子と結合し得る。
【0031】
用語「改変ヘモグロビン」は、化学反応(例えば、分子内架橋および分子間架橋、遺伝子操作、重合化、および/または他の化学基(例えば、ポリアルキレンオキシド、例えばポリエチレングリコール、または他の付加物(例えばタンパク質、ペプチド、炭水化物、合成ポリマーなど)との結合によって変化したヘモグロビンを含むが、それらに制限されない。つまり、ヘモグロビンは、その構造または機能的特徴のいずれかが、そのネイティブ状態から変化され得る場合、「改変される」。本明細書中で使用される場合、用語「ヘモグロビン」それ自体は、ネイティブヘモグロビン、未改変ヘモグロビン、および改変ヘモグロビンのいずれもいう。
【0032】
用語「表面改変ヘモグロビン」は、化学基(例えば、デキストラン、またはポリアルキレンオキシド)が結合した(最も一般的には、共有結合)、上述のヘモグロビンをいうために使用され得る。用語「表面改変酸化型ヘモグロビン」は、それが表面改変される場合、「R」状態であるヘモグロビンをいう。
【0033】
用語「支質非含有ヘモグロビン」は、全ての赤血球のメンバーが除去されたヘモグロビンをいう。
【0034】
用語「メトヘモグロビン」は、第二鉄状態でイオンを含む酸化型ヘモグロビンをいい、酸素キャリアとして機能しない。
【0035】
用語「MalPEG−Hb」は、マレミジル活性型PEGが結合されたヘモグロビンをいう。さらに、このようなMalPEGは、次の式によって説明され得る:
式I
Hb−(S−Y−R−CH−[O−CH−CH−O−CH
ここで、Hbは、四量体のヘモグロビンであり、Sは、表面チオール基であり、Yは、HbとMal−PEGとの間のスクシンイミド共有結合であり、Rは、アルキル、アミド、カルバミン酸塩またはフェニル基(生材料の供給源および化学合成の方法に依存して)であり、[O−CH−CHは、PEGポリマーの骨格を形成するオキシエチレン単位であり、ここで、nは、ポリマーの長さ(例えば、分子量=5000)を定義し、そしてO−CHは、末端メトキシ基である。PHPおよびPOEは、2つの異なるPEG改変ヘモグロビンである。
【0036】
用語「ペルフルオロカーボン」は、フッ素原子含み、そして全体的にハロゲン(Br、F、Cl)および炭素原子から構成される、合成の、活性のない分子をいう。乳剤の形式において、それらは、血液物質として成長する。なぜなら、それらが、血漿または水の等価量より何倍も多くの酸素を分解する能力を有するからである。
【0037】
用語「血漿増強剤(expander)」は、血液損失を処置するために被験体に与えられ得る任意の溶液をいう。
用語「酸素送達能力」または単に用語「酸素能力」は、酸素を送達するための血液物質の能力をいうが、それが酸素を送達する効率と必ずしも相関しない。酸素送達能力は、一般的に、ヘモグロビ濃度から算出される。なぜなら、1グラムのヘモグロビンが1.34mlの酸素と結合することが知られているからである。このように、ヘモグロビン濃度(g/dl)に1.34を掛けると、酸素受容能力(ml/dl)が算出される。ヘモグロビン濃度は、任意公知の方法(例えば、β−ヘモグロビンフォトメーター(HemoCue,Inc.,Angelholm,Sweden))によって測定され得る。同様に、酸素受容能力は、例えば、燃料電池装置(例えば、Lex−O−Con;Lexington Instruments)を用いて、ヘモグロビンまたは血液のサンプルから放出される酸素の量によって測定される。
用語「酸素親和性」は、酸素キャリア(例えば、ヘモグロビン)が分子酸素と結合するアビディティーをいう。この特徴は、酸素分圧(X軸)と、ヘモグロビン分子の酸素飽和の程度(Y軸)に関連する酸素平衡曲線によって定義される。この曲線の位置は、酸素キャリアが、酸素で半分飽和され、そして酸素親和性に逆相関するP50値、酸素分圧によって示される。ここでP50が低ければ、酸素親和性は高くなる。全血(および全血組成物(例えば、赤血球およびヘモグロビン))の酸素親和性は、当業者の公知の種々の方法によって測定され得る(例えば、Winslowら、J.Biol.Chem.252(7):231−37(1977))。酸素親和性はまた、市販のHEMOXTMTM Analyzer(TCS Scientific Corporation,New Hope,Pennsylvania)を用いて決定され得る(例えば、VandegriffおよびShrager「Methods in Enzymology」(Everseら、編)232:460(1994)を参照のこと。)
用語「高張」は、血液(約25mg〜27mg未満)よりコロイド浸透圧を有するコロイド溶液を意味する。コロイド浸透圧は、任意の適切な技術(例えば、Wescor機器)によって測定され得る。
【0038】
用語「酸素送達成分」は、体内の循環系に酸素を送達することができ、そして組織に、その酸素の少なくとも一部分を送達することができる物質を広くいう。好ましい実施形態において、酸素送達成分は、ネイティブヘモグロビンまたは改変ヘモグロビンであり、「ヘモグロビンベースの酸素キャリア」または「HBOC」として本明細書中でもいわれている。
【0039】
用語「血流学的パラメータ」は、血液の圧力、流れ、および容積の状態を示す測定値を広くいい、血圧、心拍出量、右心房圧、および左室拡張終期圧のような測定値が挙げられる。
【0040】
用語「晶質」は、塩、糖、および緩衝液のような低分子(通常、10Å未満)をいう。コロイドと異なり、晶質は、いかなる腫脹活性成分も含まず、そしてその循環空間と間隙性空間との間で非常に素早く平衡化する。
【0041】
用語「コロイド」は、「晶質」とは対照的に、それらの大きさおよび電荷に依存して生物学的膜を越えて平衡化する高分子(通常は、10Åより大きい)をいい、アルブミンおよびゼラチンのようなタンパク質、ならびにペンタスターチおよびヘタスターチのようなスターチが挙げられる。
【0042】
用語「コロイド浸透圧」は、コロイドにより付与され、膜を越えての流体バランスを平衡化する圧力をいう。
【0043】
用語「自己酸化に対して安定」は、低い自己酸化率を維持するHBOCの能力をいう。HBOCは、メトヘモグロビン/総ヘモグロビン比が、24℃で10時間後に2%を超えて増加しない場合、24℃で安定であるとみなされる。例えば、自己酸化率が0.2hr−1である場合、そして、最初のメトヘモグロビンの割合が5%である場合、HBOCは、この割合が7%を超えて増加しなかった場合に、室温で10時間安定であるとみなされる。
【0044】
用語「メトヘモグロビン/総ヘモグロビン比」は、脱酸素ヘモグロビン対総ヘモグロビンの比をいう。
【0045】
用語「混合物」は、個々の特性を失う反応を生じることなく、2つ以上の物質が一緒に入り混ざったものをいう。用語「溶液」は、液体混合物をいう。用語「水溶液」は、いくらかの水を含有し、水と共に1つ以上の他の液体物質も含有し、多成分溶液を形成し得る溶液をいう。用語「約、およそ」は、実際の値が一定の範囲内にあることをいう(例えば、示される値の10%以内)
用語「ポリエチレングリコール」は、一般化学式H(OCHCHOH(ここで、nは、4以上である)の液体または固体ポリマーをいう。任意のPEG処方物(置換されているものまたは置換されていないもの)が使用され得る。
【0046】
本明細書中で使用される他の用語の意味は、当業者により容易に理解されるはずである。
【0047】
(酸素送達および消費の性質)
本発明の組成物および方法の首尾良い使用は、酸素送達および消費の基礎的な機構の理解を必要としないが、これらの推定機構のいくつかに関する基本的な知見は、以下の議論を理解することを補助し得る。一般的に、毛細管は、組織への酸素の主要な運搬体であると推定されてきた。しかし、休止している組織に関して、現在の発見は、細動脈の酸素放出と毛細管の酸素放出との間にほぼ均等分配(equipartition)が存在することを示す。すなわち、動脈系におけるヘモグロビンは、細動脈網におけるその酸素含有量の約1/3および毛細管における1/3を送達し、残りは静脈系を通じて微小循環を出ると考えられる。
【0048】
動脈自体は、酸素利用部位である。例えば、動脈壁は、血管抵抗に対する収縮を通して血流を調節するのにエネルギーを必要とする。従って、動脈壁は通常、血液からの酸素の拡散のための重要な部位である。しかし、現在の酸素送達組成物(例えば、HBOC)は、動脈系のそれらの酸素含有量の多くを放出しすぎ得、それによって、毛細管灌流における自己調節性の還元を誘導する。従って、代用血液の酸素送達の効率は、実際は、高すぎる酸素親和性または低すぎる酸素親和性を有することによって妨げられ得る。
【0049】
血管壁による酸素消費の速度(すなわち、機械的作業に必要とされる酸素および生化学的合成に必要とされる酸素の組み合わせ)は、血管壁での勾配を測定することによって決定され得る。例えば、Winslowら、「Advance in Blood Substitutes」(1997)、Birkhauser編、Boston、MA、167〜188頁を参照のこと。現在の技術は、種々の血管における正確な酸素の部分圧の測定を可能にする。測定された勾配は、測定領域中の組織による酸素利用の率に直接的に比例する。このような測定は、血管壁が、基底線酸素利用を有し、これは炎症および絞窄における増加と共に増加し、そして弛緩により減少することを示す。
【0050】
血管壁の勾配は、組織の酸化に反比例する。血管収縮は、酸素勾配(組織代謝)を増加させるが、血管拡張は、その勾配を低下させる。より高い勾配は、より多くの酸素が血管壁によって使用され、より少ない酸素が組織に利用可能であるという事実を示す。同じ現象が微小循環を通じて全体にわたって存在すると考えられる。
【0051】
(血管収縮と酸素親和性との間の関係)
高い酸素親和性を有するHBOCを開発するための原理は、一部、赤血球注入の代替として無細胞ヘモグロビンを用いた過去の研究に基づく。これらの溶液の生理学的効果のいくつかは、理解が不完全なままである。これらのうち、おそらく最大の論議は、動物および人間において高血圧として現れ得る血管収縮を引き起こす傾向である(Amberson,W.,「Clinical experience with hemoglobin−saline solutions」,Sicence 106:117−117(1947))(Keipert,P.,A.Gonzales,C.Gomez,V.Macdonald,J.Hess,およびR.Winslow,「Acute changes in sysmetic blood pressure and urine
output of conscious rats following exchange transfusion with diaspirin−crosslinked hemoglobin solution」,Transfusion 33:701−708(1993))。α鎖間でビス−ジボロモサリチル−フマレートを用いて架橋されたヒトヘモグロビン(ααHb)は、モデル代用赤血球として米軍により開発されたが、肺および全身血管抵抗の重篤な増加が実証された後、米軍によって中止された(Hess,J.,V.Macdonald,A.Murray,V.Coppes,およびC.Gomez,「Pulmonary and systemic hypertention after hemoglobin administration」,Blood 78:356A(1991))。この製品の市販版もまた、第III相臨床試験が実現しなかった後に中止された(Winslow,R.M.「αα−Crosslinked hemoglobin:Was failure predicted by
preclinical testing?」,Vox sang 79:1−20(2000))。
【0052】
無細胞ヘモグロビンにより生じる血管収縮についての最も一般的に前進した説明は、それが、内皮由来弛緩因子、一酸化窒素(NO)に容易に結合することである。実際、最高負荷ラット実験においてより低い高血圧性であるようである、NOに対して減少した親和性を有する組み換えヘモグロビンが生成された(Doherty,D.H.,M.P.Doyle,S.R.Curry,R.J.Vali,T.J.Fattor,J.S.Olson,およびD.D.Lemon,「Rate of reaction with
nitric oxide determines the hypertensive effect of cell−free hemoglobin」,Nature
Biotechnology 16:672−676(1998))(Lemon,D.D.,D.H.Doherty,S.R.Curry,A.J.Mathews,M.P.Doyle,T.J.Fattor,およびJ.S.Olson,「Control
of the nitric oxide−scavenging activity
of hemoglobin」,Art Cells,Blood Subs.,and Immob.Biotech 24:378(1996))。しかし、NO結合はヘモグロビンの血管作用性についての唯一の説明ではないかもしれないことを研究が示唆している。特定の大きなヘモグロビン分子(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)で改変されたヘモグロビン分子)は、それらのNO結合率が重篤な高血圧性のααHbと同一であるにもかかわらず、高血圧効果を実質的に有さないことが見出された(Rohlfs,R.J.,E.Bruner,A.Chiu,A.Gonzales,M.L.Gonzales,D.Magde,M.D.Magde,K.D.Vandegriff,およびR.M.Winslow,「Arterial blood pressure responses to cell−free hemoglobin solutions and the reaction with nitric oxide」,J Biol Chem 273:12128−12134(1998))。さらに、PEG−ヘモグロビンが出血前の交換輸血として与えられた場合、出血の影響を防ぐのに異常に効果的であることが見出された(Winslow,R.M.,A.Gonzales,M.Gonzales,M.Magde,M.McCarthy,R.J.Rohlfs,およびK.D.Vandegriff」,「Vascular resistance and the efficacy of red cell substitutes」,J Appl Physiol 85:993−1003(1998))。
【0053】
この保護効果は、高血圧の欠如と関連し、このことは、血管収縮が多くの今日までに研究されたヘモグロビンベースの産物の効能を消失させることを伴うことを示唆している。これらの観察に基づいて、NO結合の効果の代替として、またはおそらくそれに加えて、血管収縮を説明する仮説が展開された。任意の特定の学説に拘束されることを望まないが、ヘモグロビンの血管作用効果の実質的な要素は、無細胞空間におけるヘモグロビンの拡散に対する弛緩応答であると考えられる。この仮説は、インビトロ毛細管系において試験され、そして低下した拡散係数を有するPEG−ヘモグロビンが、ネイティブの赤血球と非常に類似した様式でOを運搬したことが実証された(McCarthy,M.R.,K.D.Vandegriff,およびR.M.Winslow,「The role of facilitated diffusion in oxygen transport by cell−free hemoglobin:Impication for the design of hemoglobin−based oxygen carriers」,Biophysical Chemistry 92:103−117(2001))。酸素親和性は、血漿空間におけるヘモグロビンによるその促進された拡散において役割を果たすと予想される。なぜならば、ヘモグロビンから血管壁への飽和状態の変化は、ヘモグロビン自体の拡散勾配の決定因子であるからである。
【0054】
無細胞ヘモグロビンの酸素親和性は、血管緊張(vascular tone)の調節においてさらなる役割を果たし得る。なぜなら、Oの小動脈中の血管壁に対する遊離は、血管収縮を誘発するからである(Lindbom,L.,R.TumaおよびK.Arfors,「Influence of oxygen on perfusion capillary density and capillary red cell velocity in rabbit skeletal muscle」、Microvasc Res 19:197−208(1980))。ハムスター皮下脂肪において、このような血管中のPOは、20〜40Torrの範囲にあり、ここで、正常な赤血球酸素平衡曲線は、最も急勾配である(Intaglietta,M.,P.JohnsonおよびR.Winslow,「Microvascular and tissue oxygen distribution」、Cardiovasc Res 32:632−643(1996))。従って、理論的観点から、小動脈調節性血管におけるOの遊離を防止するために、無細胞ヘモグロビンのP50が、赤血球のP50より低い(すなわち、より高いO親和性)ことが重要であり得る。
【0055】
(酸素運搬成分)
好ましい実施形態において、酸素運搬体(すなわち、酸素運搬成分)は、ヘモグロビンベースの酸素運搬体(すなわち、HBOC)である。ヘモグロビンは、ネイティブ(未改変)であり;続いて、化学反応(例えば、分子内架橋または分子間架橋、重合、または化学官能基(例えば、ポリアルキレンオキシド、または他の付加物)の付加)によって改変され得るか;またはヘモグロビンは、組換え操作され得る。ヒトα−グロビン遺伝子およびβ−グロビン遺伝子は、クローン化され、配列決定されている。Liebhaberら、P.N.A.S.77:7054−7058(1980);Marottaら、J.Biol.Chem.353:5040−5053(1977)(β−グロビンcDNA)。さらに、多くの組換え産生され改変されたヘモグロビンは、ここで、部位特異的変異誘発を使用して生成されたが、これらの「変異型」ヘモグロビン変種は、望ましくなく高い酸素親和性を有するとして報告された。例えば、Nagaiら、P.N.A.S.,82:7252−7255(1985)を参照のこと。
【0056】
本発明は、ヘモグロビンの供給源によって限定されない。例えば、ヘモグロビンは、動物およびヒトに由来し得る。特定の適用に対する好ましいヘモグロビンの供給源は、ヒト、ウシおよびブタである。さらに、ヘモグロビンは、他の方法(化学合成および組換え技術を含む)によって産生され得る。ヘモグロビンは、遊離形態で血液製剤組成物に添加され得るか、または、小胞(例えば、合成粒子、マイクロバルーンまたはリポソーム)中にカプセル化され得る。本発明の好ましい酸素運搬成分は、支質非含有であり、そして内毒素非含有であるべきである。酸素運搬成分の代表的な例は、以下の多くの発行された米国特許に開示され、これらとしては、Hsiaに対する米国特許第4,857,636号;Walderに対する同第4,600,531号;Morrisらに対する同第4,061,736号;Mazurに対する同第3,925,344号;Tyeに対する同第4,529,719号;Scannonに対する同第4,473,496号;Bocciらに対する同第4,584,130号;Klugerらに対する同第5,250,665号;Hoffmanらに対する同第5,028,588号;ならびにSehgalらに対する同第4,826,811号および同第5,194,590号が挙げられる。
【0057】
前述のヘモグロビンの供給源に加えて、ウマヘモグロビンが、本発明の組成物中の酸素運搬成分として特定の利点を有することが最近見出された。1つの利点は、ウマヘモグロビンが精製され得る市販量のウマ血液が、容易に入手可能であるということである。別の予想外の利点は、ウマヘモグロビンが、本発明の代用血液において、その有用性を増強し得る化学的特性を示すことである。
【0058】
以前の報告は、ウマヘモグロビンが、ヒトヘモグロビンより早くメトヘモグロビンに自己酸化することを示し、このことは、ウマヘモグロビンが、代用血液成分としてより所望されないものにする。例えば、J.G.McLeanおよびI.M.Lewis,Research in Vet.Sci.,19:259−262(1975)を参照のこと。自己酸化を最小にするために、McLeanおよびLewisは、赤血球溶解の後、還元剤(グルタチオン)を使用した。しかし、本発明の組成物を調製するために使用されるヘモグロビンは、ヘモグロビンの供給源がヒトであるかウマであるかに関わらず、赤血球溶解後の事故酸化を防止するために還元剤の使用を必要としない。
【0059】
より最近、ウマヘモグロビンが、ヒトヘモグロビンと異なる酸素親和性を有することが報告された。例えば、M.Mellegriniら、Eur.J.Biochem.,268:3313−3320(2001)を参照のこと。このような差異は、ヒトヘモグロビンを模倣する代用血液を調製するためのウマヘモグロビンの選択を思いとどまらせる。しかし、本発明の組成物に組込む場合、ヒトヘモグロビン含有結合体とウマヘモグロビン含有結合体との間の酸素親和性に有意な差異は、観察されない(10%未満)。
【0060】
従って、これらの表面上所望されない特性に反して、本発明の組成物において、ウマヘモグロビンは、ヒトヘモグロビンより優れない場合、等価である。
【0061】
本発明における使用のために、HBOCは、全血より優れた酸素親和性を有し、同じ条件下で測定された場合、好ましくは全血の2倍であり、あるいは、支質非含有ヘモグロビン(SFH)より酸素親和性が大きい。ほとんどの場合において、これは、代用血液中でのHBOCが、10未満のP50を有し、より好ましくは7未満のP50を有することを意味する。遊離状態において、SFHは、約15torrのP50を有し、その一方で、全血に対するP50は、約28torrである。酸素親和性を増大し、それによってP50を低下することは、酸素の組織への送達を増大し得ることが以前に示唆されたが、SFHのP50より小さなP50が、許容されないことを意味した。Winslowら、「Advances in Blood Substitutes」(1997),Birkhauser編、Boston,MA,第167頁および米国特許第6,054,427号を参照のこと。この示唆は、代用血液としての使用のための改変ヘモグロビンが、より小さな酸素親和性を有するべきであり、全血のP50に近いP50を有するべきであるという広くもたれている確信と矛盾する。従って、多くの研究者は、リン酸ピリドキシルを使用して、SFHのP50を、10から約20〜22へと上げる。なぜなら、ピリドキシル化ヘモグロビンは、SFHと比べた場合、より容易に酸素を遊離するからである。
【0062】
高い酸素親和性を有するHBOC(すなわち、SFHより小さなP50を有するHBOC)を製造するために多くの異なる科学的アプローチが存在する。例えば、研究は、酸素親和性において役割を果たすアミノ酸残基(例えば、B−93システイン)を同定し、それによって、部位特異的変異誘発が、ここで、酸素親和性を所望のレベルに操作するために容易に実施され得る。例えば、米国特許第5,661,124号を参照のこと。他の多くのアプローチは、米国特許第6,054,427号に議論される。
【0063】
(ヘモグロビン関連毒性)
ヘモグロビンは、第1鉄形態(Fe2+)から第2鉄形態(Fe3+)(すなわち、メトヘモグロビン形態)に可逆的に変化する場合、自己酸化を示すことが公知である。これが生じる場合、分子酸素は、スーパーオキシドアニオン(O2−)の形態において、オキシヘモグロビンから解離する。これはまた、ヘム−グロビン複合体の不安定化を生じ、結果としてグロビン鎖の変性を生じる。酸素ラジカル形成およびタンパク質変性の両方は、HBOCのインビボ毒性において役割を果たすと考えられる(Vandegriff,K.D.,Blood Substitutes,Physiological Basis of Efficacy,第105頁−第130頁,Winslowら編、Birkhauser,Boston,MA(1995))。
【0064】
ほとんどのHBOSに関して、酸素親和性とヘモグロビン酸化との間に負の相関が存在し、すなわち、酸素親和性がより高いと、自己酸化の速度がより遅い。しかし、異なるヘモグロビン改変の、酸素親和性および自己酸化速度に対する効果は、いつも予測可能であるわけではない。さらに、酸素親和性と自己酸化速度との間の最適のバランスは、よく理解されてはいない。
【0065】
本発明は、本明細書中に記載されるPEG−Hb結合体が、非常に低い速度の自己酸化を示すという予期されない発見に、一部関する。酸化の速度として測定される場合、この値は、可能な限り低く(すなわち、1時間当たり全ヘモグロビンの0.2%)、より好ましくは、室温で少なくとも3時間の間、より好ましくは少なくとも10時間の間、1時間当たり全ヘモグロビンの0.1%である。従って、本発明のHBOSは、投与および/または室温での保存の間安定である。
【0066】
(酸素運搬成分の改変)
好ましい実施形態において、酸素運搬成分は、改変ヘモグロビンである。ヘモグロビンに対する好ましい改変は、「表面改変」であり、すなわち、化学的官能基のヘモグロビン分子上の露出アミノ酸側鎖への共有結合である。
【0067】
改変は、主として、ヘモグロビンの分子サイズを増大するように実行され、最もしばしば、ポリマー部分(例えば、合成ポリマー、炭水化物、タンパク質など)の共有結合によって実行される。一般的には、合成ポリマーが好ましい。
【0068】
適切な合成親水性ポリマーとしては、とりわけ、ポリアルキレンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド((CHCHO))、ポリプロピレンオキシド((CH(CH)CHO))またはポリエチレン/ポリプロピレンオキシドコポリマー((CHCHO)−(CH(CH)CHO)))が挙げられる。本発明の実施に適切な他の直鎖合成ポリマー、分枝鎖合成ポリマーおよび必要に応じて置換された合成ポリマーは、医学分野において周知である。
【0069】
最も一般的には、ヘモグロビンに結合される化学的官能基は、その薬学的受容性および市販入手性に起因して、ポリエチレングリコール(PEG)である。PEGは、一般化学式H(OCHCHOHのポリマーであり、ここで、nは、一般に、4以上である。PEG処方物は、通常、これらの平均分子量に対応する数を後に付ける。例えば、PEG−200は、200の平均分子量を有し、そして190〜210の分子量範囲を有し得る。PEGは、多くの異なる形態で市販されており、多くの場合、前もって活性化されており、タンパク質に容易に結合される。
【0070】
本発明の好ましい実施形態の重要な局面は、ヘモグロビンが、酸化された状態、すなわち「R」状態である場合に、表面改変が起こることである。これは、ヘモグロビンを結合体化の前に大気と平衡化させる(あるいは、活性酸化が実施され得る)ことによって容易に達成される。酸化されたヘモグロビンへの結合体化を実施することによって、得られたヘモグロビンの酸素親和性は、増大される。このような工程は、一般的に、禁忌としてみなされる。なぜなら、多くの研究者は、結合体化前の脱酸化が、酸素親和性を低下することを記載するからである。例えば、米国特許第5,234,903号を参照のこと。
【0071】
多くの局面において、表面改変されたヘモグロビンの性能は、ヘモグロビンと改変因子(例えば、PEG)との間の結合に非依存性であるが、より剛性のリンカー(例えば、不飽和脂肪族または芳香族のC〜Cリンカー置換基)は、付着のより可撓性の、従って変形可能な様式を有する置換基と比較される場合に、結合体の製造および/または特徴を増強し得ると考えられる。
【0072】
ヘモグロビン分子に付加されるPEGの数は、そのPEGのサイズに依存して変動し得る。しかし、得られる改変ヘモグロビンの分子サイズは、所望の半減期を達成するために、腎臓によって排除されることを回避するために十分な大きさであるべきである。Blumensteinらは、このサイズは、84,000より大きい分子量に達すると決定した(Blumensteinら、「Blood Substitutes and Plasma Expanders」、Alan R.Liss編、New York,New York,205−212頁(1978))。この文献において、この著者は、ヘモグロビンを、種々の分子量のデキストランに結合体化させた。この著者らは、ヘモグロビン(64,000の分子量を有する)およびデキストラン(20,000の分子量を有する)の結合体化が、「循環からゆっくりと除去され、そしてごくわずかにしか腎臓を通らない」ことを報告したが、84,000より分子量を大きくすることは、クリアランス曲線を変化させなかった。従って、Blumensteinらによって決定されるように、HBOCが、少なくとも84,000の分子量を有することが好ましい。
【0073】
本発明の1つの実施形態において、HBOCは、「MalPEG」であり、これは、マレミジル(malemidyl)活性化PEGが結合体化したヘモグロビンを表す。このようなMalPEGは、以下の式によってさらに表され得る:
Hb−(S−Y−R−CH−CH−[O−CH−CH−O−CH
式I
ここで、Hbは、四量体のヘモグロビンを表し、Sは、表面チオール基であり、Yは、HbとMal−PEGとの間のスクシンイミド共有結合であり、Rは、アルキル、アミド、カルバメートまたはフェニル基(原材料の供給源および化学合成の方法に依存する)であり、[O−CH−CHは、PEGポリマーの骨格を形成するオキシエチレン単位であり、ここで、nは、このポリマーの長さを規定し(例えば、MW=5000)、そしてO−CHは、末端メトキシ基である。
【0074】
(晶質成分)
本発明の1つの実施形態において、代用血液はまた、晶質を含有し得る。晶質成分は、任意の晶質であり得、これは、代用血液組成物の形態において好ましくは800mOsm/lより大きい(すなわち、代用血液を「高張性」にする)オスモル濃度を達成し得る。適切な晶質およびそれらの代用血液における濃度の例としては、例えば、3%のNaCl、7%のNaCl、7.5%のNaCl、および6%デキストラン中7.5%のNaClが挙げられる。より好ましくは、この代用血液は、800mOsm/lと2400mOsm/lとの間のオスモル濃度を有する。300〜800mOsm/lの間のオスモル濃度を有し、さらにコロイド(すなわち、デキストロースほど分散性ではない分子)を含む溶液中で、組換え産生されたヘモグロビンを使用することは、以前に報告されている。例えば、米国特許第5,661,124号を参照のこと。しかし、この特許は、800より大きいオスモル濃度を有する代用血液を産生することを教示せず、そしてヘモグロビン濃度は、6〜12g/dLの間であるべきであることを示唆する。対照的に、本発明の組成物の酸素保有効率は、より低い濃度のヘモグロビン(例えば、6g/dlより高濃度、またはさらに、4g/dlより高濃度)が使用されることを可能にする。代用血液が、晶質をさらに含有し、そして高張度である場合、本発明の組成物は、他の代用血液組成物(これは、コロイド成分を含む)より優れた、血流力学的パラメータの迅速な回復のための、改善された機能を提供し得る。少量の、非常に高張性の晶質注入(例えば、1〜10mg/kg)は、制御された出血で、認容可能な血液力学的パラメータの、迅速かつ持続性の回復において、有意な利点を提供する(例えば、Przybelski,R.J.,E.K.DailyおよびM.L.Birnbaum「The pressor effect
of hemoglobin−good or bad?」Winslow,R.M.K.D.Vandegriff、およびM.Intaglietta編、Advances in Blood Substitutes.Industrial Opportunities and Medical Challenges.Boston,Birkhaeuser(1997),71−85を参照のこと)。しかし、等張性の晶質溶液は、単独では、大脳の酸素輸送を十分には回復させない。D.Proughら、「Effects of Hypertonic saline versus Ringer’s solution on cerebral oxygen transport
during resuscitation from hemorrhagic shock」、J.Neurosurg.64:627−32(1986)を参照のこと。
【0075】
(処方物)
本発明の代用血液は、酸素キャリアと他の任意の賦形剤とを、適切な希釈剤で混合することによって処方される。この希釈剤中の酸素キャリアの濃度は、適用に従って変動し得、そして特に、予測される投与後の希釈に基づくが、好ましい実施形態において、増強した酸素送達および治療効果を提供する、本発明の組成物の他の特徴に起因して、通常、6g/dlより高い濃度は必要ではなく、そしてより好ましくは、0.1〜4g/dlである。
【0076】
適切な希釈剤(すなわち、静脈内注射に関して薬学的に受容可能なもの)としては、とりわけ、タンパク質、糖タンパク質、多糖類、および他のコロイドが挙げられる。これらの実施形態は、いずれの特定の希釈剤にも限定されることは、意図されない。従って、希釈剤は、アルブミンの水性無細胞溶液、他のコロイド、または他の非酸素保有成分を包含し、そして水溶液は、少なくとも2.5cPの粘度を有することが意図される。いくつかの好ましい実施形態において、この水溶液の粘度は、2.5cPと4cPとの間である。本発明はまた、6cP以上の粘度を有する溶液を包含することが意図される。
【0077】
(適用)
(A.臨床適用)
本発明およびその実施形態は、Oレベルの迅速な回復または増加したOレベルもしくはOレベルの置き換えが臨床的に示される適用において、有用であることが意図される。例えば、米国特許第6,054,427号を参照のこと。本発明の方法および組成物が用途を見出す多数の状況としては、以下が挙げられる:
外傷。白血球の急激な損失が、間質空間および細胞内空間からの流体シフトを生じ、血液の損失された体積を置き換え、同時に血液を優先度の低い器官(皮膚および腸を含む)から短絡させ得る。器官からの血液の短絡は、これらの器官におけるOレベルを低下させ、そして時々排除し、そして進行的な組織の死を生じる。Oレベルの迅速な回復は、このような急激な血液の損失を被る患者において、組織の有意により良好な救出をおそらく生じると予想される。
【0078】
虚血。虚血において、特定の器官は、酸素に「飢えて」いる。器官の小部分(梗塞として公知)は、Oの欠乏の結果として、死に始める。Oレベルの迅速な回復は、重要な組織における堰き止める塞栓形成において、重要である。虚血を生じる状態としては心臓発作、脳卒中、または心臓血管外傷が挙げられる。
【0079】
血液希釈:この臨床応用において、代用血液は、手術前に取り出される血液を置き換えるために必要とされる。患者の血液の取り出しは、手術後の同種輸血の必要性を除くために行われる。この適用において、代用血液は、取り出された自己由来の血液のOレベルを置き換える(すなわち置換する)ために投与される。このことは、手術中および手術後に必要な輸血のために、取り出された自己由来の血液を使用することを可能にする。手術前の血液の取り出しを必要とする、1つのこのような手術は、心肺バイパス手順である。
【0080】
敗血症性ショック。圧倒的な敗血症において、いく人かの患者は、血管収縮剤(vasocontrictor)を用いる多量の流体治療および処置にもかかわらず、高血圧症になり得る。この例において、酸化窒素(NO)の過剰産生は、低下した血圧を生じる。従って、ヘモグロビンが、これらの患者の処置のための理想的な薬剤に近づく。なぜなら、ヘモグロビンは、Oと平行する親和力でNOを結合するからである。
【0081】
癌。腫瘍塊の低酸素の内側コアへのOの送達は、その放射線療法および化学療法に対する感受性を増加させる。腫瘍の微小血管構造は、他の組織の微小血管構造とは異なるので、Oレベルを増加させることによる感作は、Oが、低酸素のコア内で抜き出されることを必要とする。換言すれば、P50は、Oの初期の抜き出しを防止してOレベルを増加させるために、非常に低いく、引き続く放射線処置および化学療法処置に対するその腫瘍の最適な感作を保証するべきである。
【0082】
慢性貧血。これらの患者において、損失したかまたは代謝されたヘモグロビンの置き換えは、損なわれるかまたは完全に非存在である。代用血液は、この患者における低下したOレベルを効果的に置き換えるか、または増加させなければならないことが予想される。
【0083】
鎌状赤血球貧血症。鎌状赤血球貧血症において、この患者は、鎌状赤血球化プロセスの間に起こるOレベルの損失、および赤血球の非常に高い代謝回転速度によって、衰弱される。鎌状赤血球化プロセスは、POの関数であり、ここで、POがより低いほど、鎌状赤血球化速度はより大きい。理想的な代用血液は、患者のOレベルを、鎌状赤血球化の危険の間に、正常な範囲内まで回復させることが、予想される。
【0084】
心臓停止法。特定の心臓手術手順において、心臓は、適切な電解質溶液によって停止され、そして患者の体温を低下させる。温度の低下は、P50を有意に低下させ、おそらく、いずれの通常の生理学的条件下においても、Oの抜き出しを防止する。Oレベルの置き換えは、このような手順の間に、組織の損傷および死を潜在的に減少させると予想される。
【0085】
低酸素症.兵士、高地に居住する人々、および極限状態下の世界クラスのスポーツ選手は、減少したOレベルを被り得る。なぜなら、肺において空気からのOの抽出が制限されるからである。制限されたO抽出は、さらにO輸送を制限する。代用血液は、このような個体におけるOレベルを置換または増加させることを企図する。
【0086】
器官灌流.器官がエキソビボで維持されている間、O含量の維持は、構造および細胞の完全性を維持し、そして梗塞形成を最少にするために必須である。代用血液がこのような器官のためのO要件を維持することが企図される。
【0087】
細胞培養.この要件は、O消費速度がより高くあり得ることを除いて、器官灌流のものと実質的に同じである。
【0088】
造血.代用血液は、造血の間の新しいヘモグロビンの合成におけるヘムおよび鉄についての供給源として機能することが企図される。
(B.獣医学的適用)
本発明はまた、非ヒトにおいて使用され得る。本発明の方法および組成物は、家畜およびコンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ、ウマ、トリ、爬虫類)、ならびに水族館(aquaria)、動物園、海洋水族館(oceanaria)および他の家畜動物の施設における他の動物のような家畜で使用され得る。本発明は、損傷、溶血性貧血などに起因する血液の喪失を被った家畜および野生動物の緊急処置において有用性が見出されることが企図される。例えば、本発明の実施形態は、ウマ感染性貧血、ネコ感染性貧血、化学物質および他の物理学的因子に起因する溶血性貧血、細菌感染、第IV因子断片化、脾機能亢進症(hypersplenation)および脾腫、家禽の出血性症候群、低形成貧血、再生不良性貧血、特発性免疫溶血性状態、鉄欠乏症、同種免疫溶血性貧血、微小血管症性溶血、寄生などのような状態において有用であることが企図される。特に、本発明は、稀な種および/または外来種の動物のための血液ドナーが探し出すことが困難な領域において用途が見出される。
【実施例】
【0089】
(実施例1)
(支質非含有ヘモグロビンの産生)
(工程−1−期限切れの赤血球の調達)
期限切れのパック詰めの赤血球を、市販の供給源(例えば、San Diego Blood Bankまたはthe American Red Cross)から調達する。好ましくは、期限切れの材料は、回収時から45日以下で受け取られる。パック詰めのRBC(pRBC)をさらなる処理まで(1〜7日間)4±2℃で保管する。全てのユニットを、ウイルス感染についてスクリーニングし、使用の前に核酸試験に供する。
【0090】
(工程−2−期限切れの血液のプール)
パック詰めの赤血球をクリーン施設の滅菌容器にプールする。パック詰めの赤血球の体積を記載し、そして市販の同時オキシメータまたは他の当業者に認識される方法を使用してヘモグロビン濃度を測定する。
【0091】
(工程−3−白血球枯渇(leukodepletion))
白血球枯渇(すなわち、白血球の除去)を、膜ろ過を用いて実施する。このプロセスの効率をモニタリングするために、開始および最終の白血球数を数える。
【0092】
(工程−4−細胞分離および細胞洗浄)
赤血球を、6倍容量の0.9%塩化ナトリウムで洗浄する。このプロセスは4±2℃で実施する。細胞洗浄物を、アルブミンについての分光光度的分析によって、血漿成分の除去を検証するために分析する。
【0093】
(工程−5−赤血球溶解および細胞細片の除去)
洗浄した赤血球を、6倍容量の水を用いて攪拌しながら少なくとも4時間または一晩、4±2℃で溶解する。溶解物を、冷却した状態で処理してヘモグロビンを精製する。これは、溶解物を0.16μm膜に通す処理によって達成する。精製したヘモグロビンは、加熱滅菌容器(sterile depyrogenetaed vessel)に回収する。この処理における全工程を4±2℃で実施する。
【0094】
(工程−6−ウイルスの除去)
ウイルス除去を、4±2℃にて、限外濾過によって実施する。
【0095】
(工程−7−濃縮および溶媒交換)
溶解物および限外濾過から精製したヘモグロビンを、10kD膜を用いて、Ringer’s lactate(RL)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS、pH7.4)中に交換する。次いで、このヘモグロビンを、同じ膜を用いて1.1〜1.5mM(四量体)の最終濃度まで濃縮する。10〜12容量のRLまたはPBSを、溶媒交換に使用する。この処理を4±2℃で実施する。RL中で調製した溶液のpHを、7.0〜7.6に調整する。
【0096】
(工程−8−滅菌濾過)
PBSまたはRinger’s lactate(RL)中のヘモグロビンを、0.45または0.2μmの使い捨てフィルタカプセルに通して滅菌濾過し、化学改変反応を実施するまで4±2℃で保管する。
【0097】
ヘモグロビンを精製する他の方法は、当該分野で周知である。さらに、細胞溶解後の自己酸化を防ぐための還元剤(例えば、グルタチオンまたは別のチオール含有還元剤)の使用は、通常不必要である。
【0098】
(実施例2)
(支質非含有ヘモグロビンの改変)
(工程−1−チオール化)
チオール化を、ヘモグロビンについて10倍モル濃度の過剰なイミノチオラン(iminothiolane)を使用して、4±2℃にて4時間、連続攪拌しながら実施する。
【0099】
反応条件:
・RL(pH7.0−7.5)またはPBS(pH7.4)中、1 mMヘモグロビン(四量体)
・RL(pH7.0−7.5)またはPBS(pH7.4)中、10 mMイミノチオラン
1:10 SFH:イミノチオランの比率および反応時間を、PEG化チオール基の数を最大にし、かつ異成分の生産を最小にするように最適化した。
【0100】
(工程−2−チオール化したヘログロビンのPEG化)
チオール化したヘモグロビンを、開始の四量体ヘモグロビン濃度に基づいて20倍モル濃度の過剰なMal−PEG(アルキルリンカーまたはフェニルリンカーを有する)を用いて、PEG化する。ヘモグロビンを、まず、ヘモグロビンを酸化するための雰囲気で平衡化させる。この反応物を、連続攪拌しながら4±2℃で2時間置く。
【0101】
反応条件:
・RLまたはPBS(pH7.4)中、1 mMチオール化ヘモグロビン
・RLまたはPBS(pH7.4)中、20 mM Mal−PEG。
【0102】
(工程3−未反応の試薬の除去)
PEG化−Hbを、70kD膜を通して処理し、過剰な未反応の試薬またはヘモグロビンを除去する。20−容量の濾過を、未反応の試薬の除去を確実にするために実施し、サイズ排除クロマトグラフィーによってモニタリング(540nmおよび280nm)する。このタンパク質濃度を、4g/dlに希釈する。pHは、1N NaOHを用いて7.3〜0.3に調整する。
【0103】
(工程−3−滅菌濾過)
最終MalPEG−Hb生成物を、0.2μm無菌ディスポーザブルカプセルを用いて無菌濾過し、4±2℃で加熱滅菌容器(sterile depyrogenated vessel)に回収した。
【0104】
(工程−4−MalPEG−Hbの形成)
PEG化したHbを4g/dl RLに希釈し、pHを7.4±0.2に調整した。
【0105】
(工程−5−無菌充填)
最終代用血液組成物を無菌濾過(0.2μm)し、無菌ガラスバイアルに重量で分取し、層流フード内で捲縮シールを備える無菌ゴム栓で封じ、そして、使用まで−80℃で保存した。
【0106】
(実施例3 MalPEG−Hbの生理化学分析)
(生理化学分析の方法論)
MalPEG−Hb代用血液の同質性および分子サイズは、液体クロマトグラフィー(LC)により特徴付けられる。分析用LCを使用して、PEG化ヘモグロビンの同質性および未反応のMal−PEGの除去程度を評価する。540nmでの吸光度を使用して、ヘモグロビンを評価し、ピーク位置により未反応のヘモグロビンからPEG化ヘモグロビンを分離する。280nmでの吸光度を使用して、遊離Mal−PEGからPEG化ヘモグロビンを分離する。この遊離Mal−PEGは、MalPEGの環状構造に起因して紫外(UV)スペクトルで吸収する。
【0107】
高速走査ダイオードアレイ分光光度計(Milton Roy 2000またはHewlett Packard Model 8453)を使用して、ヘモグロビン濃度およびメトヘモグロビンの割合の分析(多成分性分析による)のために、ソレー帯および可視領域の可視スペクトルを回収する(Vandegriff,K.D.,およびR.E.,Shrager。Evaluation of oxygen equilibrium
binding to hemoglobin by rapid−scanning
spcetrophotometry and singular value decomposition.Meth.Enzymol.232:460−485(1994)。
【0108】
同時酸素濃度計を使用して、MalPEG−Hb濃度およびメトヘモグロビンの割合を決定する。レオメーターを使用して粘度を決定する。膠質浸透圧計を使用して膠質浸透圧を決定する酸素結合パラメータを酸素平衡曲線から決定する。
【0109】
代用血液組成物のための好ましい規格を以下の表1に示す:
(表1)
【0110】
【表1】


【0111】
(MalPEG−HbにおけるPEG化部位の数)
表面改変について、式Iの数「m」は、ヘモグロビン表面に結合するPEGポリマーの数を規定するパラメータである。
【0112】
Hb−(S−Y−R−CH−CH−[O−CH−CH−O−CH
式I
この数を決定するために、ジチオピリジン比色定量アッセイ(Ampulski,R.,V.AyersおよびS.Morell.Determination of the
reactive sulfhydryl groups in heme proteins with 4,4’−dipyridinesdisulde.Biocheim.Biophys.Acta 163−169,1969)を使用して、チオール化の前後、次いで、Hbの再PEG化の後に、Hb四量体の表面の利用可能なチオール基の数を測定する。ヒトヘモグロビンは、2つの内因性の反応性チオール基をβ93Cys残基に含み、この反応性チオール基は、ジチオピリジン反応によって確認される。1:10
SFH:イミンチオラン(iminothiolane)の比でのSFHのチオール化の後、ジチオピリジン反応による反応性チオール基の数は2チオールから6チオールに増加する。PEG化反応の後、反応性チオール基の数は、1.3に減少する。このことは、MalPEG−Hbに4〜5のPEG化部位が存在することを示す。
【0113】
(MalPEG−Hb対SFHのサイズ排除クロマトグラフィー分析)
最終MalPEG−Hb生成物の分析のためにFPLCを実施する。未改変のSFHと比較したMalPEG−Hbについての代表的なクロマトグラムを図1に示す。SFHに対する保持時間は約57分である。MalPEG−Hbに対する保持時間は約44分である。
【0114】
(MalPEG−Hbの物理的および化学的性質)
血液および未改変のヒトヘモグロビン(SFH)と比較したMalPEG−Hbの物理的性質を以下の表2に示す。
【0115】
(表2)
【0116】
【表2】

全血について15g/dlおよびヘモグロビン溶液について約4g/dlで決定した
COP測定およびFPLCにより決定した。
【0117】
(酸素親和性)
以前に記載されるように、ヘモグロビン−酸素平衡結合曲線を測定した(Vandegriff,K.D.,R.K.Rohlfs,M.D.Magde,およびR.M.Winslow.Hemoglobinoxygen equilibrium cures
measured during enzymatic oxygen consumption.Anal.Biochem.256:107−116,1998)。MalPEG−Hbは、高い酸素親和性(P50=5mmHg)および低い協同性(n50=1.0〜1.4)を示す。図2は、支質非含有ヘモグロビン(SFH)溶液とMalPEG−Hb溶液を比較する代表的な曲線を示す。
【0118】
(粘度)
MalPEG−Hbのこの溶液特性は、ポリエチレングリコール鎖と溶媒の水分子との間の強い相互作用に起因する。このことは、以下の2つの理由から代用血液のための重要な特性であると考えられる:1)より高い粘度が溶媒を介して拡散するPEG−Hb分子とガス状のリガンド分子の両方の拡散定数を減少させ、そして2)より高い粘度が内皮壁に向って流れる溶液のずり応力を増加させ、血管狭窄に対抗するために血管拡張剤の放出を誘発する。表2に示すように、MalPEG−Hb溶液の粘度は2.5cPsである。
【0119】
(コロイド浸透圧(COP))
未改変の分子内および分子間架橋ヘモグロビンまたはPEG−表面−結合体化ヘモグロビンを含有するヘモグロビン溶液のCOPを測定して、その高分子溶液特性を決定した(Vandegriff,K.D.,R.J.RohlfsおよびR.M.Wislow.Colloid osmotic effects of hemoglobin−based oxygen carriers.Winslow,R.M.,K.D.VandegriffおよびM.Intaglia編、Advances in Blood Substitutes Industrial Opportunities and
Medical Challenges.Boston,Birkhauser,207−232頁(1997))。四量体ヘモグロビンは、理想溶液に近い挙動を示すが、PEGと結合体化されたヘモグロビンは、有意により高い膠質浸透活性を有し、非理想的な溶液を示す(Vandegriff,K.D.,M.Mcarthy,R.J.RohlsおよびR.M.Winslow.Colloid osmotic properties of modified hemoglobins:chemically cross−linked versus polyethylene glycol surface−conjugated.Biophys.Chem.69:23−30(1997))。表2に示す様に、MalPEG−Hb溶液のCOPは50である。
【0120】
(安定性)
PEG−表面結合体化ヘモグロビンを含むヘモグロビン溶液の安定性を、自己酸化の速度を試験することによって、決定した。室温において、MalPEG−Hbの自己酸化は、図5に示されるように、10時間で、約5%MetHbから5.5%MetHbに増加した。MalPEG−Hbの自己酸化速度は、0.05%/時間であった。
【0121】
(実施例4)
(改変ヘモグロビンと異なるP50との比較)
ポリオキシエチレン(POE)への結合体化によって改変されたヘモグロビンを使用する無細胞ヘモグロビンの効力における酸素親和性の役割は、代用血液としてのこのような物質の効力を研究する際に特に興味が持たれている。この改変は、最初に、Iwashitaおよび共同研究者(Ajisaka,K.and Y.Iwashita,「Modification of human hemoglobin with polyethylene glycol:A new candidate for blood
substitute.BBRC 97:1076−1081(1980))(Iwasaki,K.,K.Ajisaka,and Y.Iwashita,「Modification of human hemoglobin with polyoxyethylene glycol:A new candidate for blood substitutes」,Biochem Biophys Res Comm 97:1076−1981(1980))に記載され、高血圧効果を保持し、そして敗血症ショックの処置に有用であることが見出された。この産物の調製の一部として、ヘモグロビンは、ピリドキサール−5−ホスフェート(PLP)と反応して、そのP50を、ヒト血液についての値近くまで上昇させる。このように、POE改変ヘモグロビンの2つの溶液(1つは、PLPでの前改変を有し、そして1つは、PLPでの前改変を有さない)を調製することが可能であった。これらの溶液は、それらのP50を除いて、全ての方法で同一であり、そして重篤な(血液の60%)出血の間、ラットにおける生理学的機能を支持するそれらの能力について試験した。
【0122】
(材料および方法):
(代用血液)
改変ヘモグロビン溶液(「PHP」を形成するためのPLP改変を有するかまたは有さない)を、実施例1において上記されるように、調製した。
【0123】
(動物)
雄性Sprague−Dawleyラットを、この研究のために使用した。収縮期血圧および拡張期血圧を、この研究の間にモニターした;最大圧力および最小圧力それぞれ、および平均動脈圧(MAP)は、拡張期血圧+1/3(収縮期血圧−拡張期血圧)であった。dP/dtを、各圧力サイクルについての最大の正の傾きから計算した。心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧、平均動脈圧、脈圧およびdP/dtの平均値を、各分のデータについて平均化した。
【0124】
(血液ガス、血液学的測定および乳酸測定)
動脈pH、PCO、およびPOを、100μlのヘパリン処理血液サンプルを使用して、血液ガス分析器において測定した。乳酸を、Lactate Analyzerを使用して、動脈血において測定した。全CO、標準ビカーボネート(HCO)、および塩基過剰(BE)を、以前に記載されたアルゴリズム(Winslow,R.,「A model for red cell O2 uptake」,.Int J Clin Monit Comput 2:81−93(1985))を使用して、PCO、pHおよびヘモグロビン濃度から計算した。全ヘモグロビンおよび血漿ヘモグロビンを、市販の装置を使用して、各々測定した。ヘマトクリットを、微小遠心分離によって、動脈血の約50μlサンプルを使用して測定した。
【0125】
(交換輸血)
交換輸血を、約0.5ml/分の速度で、推定血液容積の50%に等しい溶液の合計容量まで実施した。血液容量は、65ml/kgであると推定された。血液が、試験物質が注入される速度と正確に同じ速度で除去されるように、蠕動ポンプを操作した。試験溶液を、注入の前に、水浴中に37℃まで温め、そして注入の間、温め続けた。
【0126】
(出血)
本発明者らが使用した出血プロトコルは、Hannon and Wade(Hannon,J.,C.Wade,C.Bossone,M.Hunt,R.Coppes,and J.Loveday,「Blood gas and acid−base status of conscious pigs subjected to fixed−volume hemorrhage and resuscitated with hypertonic sali dextran」,Circ Shock 32:19−29(1990))のモデルに基づいた。出血を、大腿動脈から0.5ml/分の速度で、動脈血をポンプで抜き出すことによって、交換輸血の完了の約3分後に始めて、60分の終わりまで、血液容量の60%を除去した。血液サンプル(0.3ml)を、出血および血液ガス分析のために10分毎に採取した。
【0127】
(統計的生存分析)
生存分析のために、出血の開始の後、最小で120分間、観察した。データを10分間隔に分類し、そして各間隔について、累積的な生存割合およびその標準誤差を計算した。
【0128】
(結果)
(溶液特性)
使用した溶液を以下の表3に記載する。全ヘモグロビン濃度、粘度およびコロイド浸透圧(COP)は、十分に一致する。PHPのP50(19.7トル)は、POEのP50(12.2トル)よりも高い。協同性の程度(Hillのパラメーター、n)は、2つの溶液について等しかった。
【0129】
2つの溶液についてのFPLCパターンを、図3に与える。未改変ヘモグロビンに対応する各々における小さなピークが存在するものの、ヘモグロビンの大部分は、未改変ヘモグロビンよりも有意により早く溶出する不均一なセットのピークにあるようである(SFH)。2つのPEG改変ヘモグロビンについてのパターンは、定性的に類似する。
【0130】
【表3】

POEの酸素親和性は、PHPの酸素親和性よりも有意に高かった(図4)。しかし、いずれの産物も、有意な協同性を示さなかった。
【0131】
(動物実験)
全ての実験を、表4に示す。多くの動物は、POE(11)よりPHP(18)を受け入れ、そしてPHP動物の平均重量は、POE群の平均重量より有意に大きかった(p<0.001)。しかし、重量に関するこの差異は、出血の程度を計算し、65ml/kgの全血液容量を推定する際に明らかになった。従って、交換輸血および出血の結果量は、同様に異なった。それにもかかわらず、死滅するまでの平均時間は、POE動物(116分)と比較してPHP動物について、有意により短かった(93分)。この差異は、統計学的に有意であった(P<0.02)。動物が、出血の開始後120分の観察期間、生存する場合、動物を、Kaplan−Meier生存分析の目的で「検閲された」とみなした(図5)。
【0132】
【表4】

*65ml/kg全血液容量に基づく。
【0133】
(血液学および酸−塩基調節)
ベースライン、ET後および出血後(60分)測定を、表5に示す。平均ヘマトクリットは、PHP動物と比較してPOEにおいてわずかにより高かったが、交換輸血後、この値は、2つの群に関して一致した。出血期間の最後に、POE動物の平均ヘマトクリットは、PHP動物より再びわずかに高かった。同様の小さな差異を、全ヘモグロビン値に関して見出し、POE動物が、全てのサンプリング位置でわずかにより高いことがわかった。血漿ヘモグロビンは、2つの群に関して異ならなかったが、交換期間後、POE動物に関して有意により高かった。
【0134】
動脈乳酸濃度は、全ての研究の段階でPHP動物と比較してPOEにおいて有意により高かった。この値が、POE群と比較してPHPにおいてより低いという示唆があるにもかかわらず、塩基過剰値は、2つの群の間で有意に異ならなかった。さらに、PHP動物(10.24mEq/l)についてのベースライン値の間の差異は、POE動物(7.01mEq/l)においてより高い。
【0135】
【表5】


(交換輸血の間の平均動脈圧力)
交換輸血の間の平均動脈圧力を、図6に示す。ベースライン平均動脈圧力は、2つの群について区別できない。しかし、PEG−ヘモグロビンの輸血に対する血圧応答は、2つの群の間で有意に異なる。MAPに関する最初の上昇は、POE動物と比較してPHPにおいてより大きく、そしてそれは、輸血期間の持続のために保たれる。対照的に、POE動物のMAPは、輸血の最後までにベースラインに戻る。
【0136】
出血の開始時に、MAPの減少は、PHP動物に関して即時であり、そしてPOE群においては遅れる。さらに、MAPが、PHP動物においてはベースライン値に決して戻らないが、MAPは、完全な出血についてベースライン値で、またはその近くで保たれ、そしてPOE動物を越える。PHP動物に関して特に、標準誤差の増加によって示されるように、データにおけるばらつきは、動物がPHP群から落とされるにつれて、時間とともに増加する。
【0137】
(議論)
本研究において、本発明者らは、重症(血液量の60%)出血からラットを保護するためのそれらの能力に関して2つに匹敵する改変ヘモグロビン溶液(「代用血液」)を研究した。この能力を試験するため、動物に最初、2つの試験溶液の1つを有する50%(血液量の)交換輸血を与えた。溶液自体は、それらの酸素親和性に関してのみ異なり、そしてFPLCパターン、膨張圧力、粘度および濃度に関して非常に密接に匹敵した。生理学的結果に対する特定の変数の効果を示すことを試みる他の研究は、調和と同様に溶液を比較することができなかった。例えば、Sakai、H.、Hara、H.、Tsai、A.G.、Tsuchida、E.、Johnson、P.C.、およびIntaglietta、M.、「Changes in resistance vessels during hemorrhagic shock and resuscitation
in conscious hamster model」Am.J.Physiol
276(45)、H563−H571.(1999)、Sakai、H.、Hara、M.、Yuasa、A.Tsai、S.Takeoka、E.Tsuchida、およびM.Intaglietta、「Molecular dimensions of Hb−based O carriers determine constriction of resistance arteries and hypertension」、Am.J.Physiol 279:H908−H915、(2000)を参照のこと。これらの実験は、このような親密に調和した溶液が、有意な差異である、一つの変数P50だけと比較され得るという最初の例示を示す。
【0138】
POEを受け取った動物の群は、わずかであるが、有意により高いヘマトクリット、全ヘモグロビンレベルおよび血漿ヘモグロビンレベルを有した。しかし、これらの差異が実験の結果または解釈を説明し得るという傾向は非常に低い。明らかに、2つの溶液は、図4において示されるように、異なる方法において血圧に影響する。注入の際に、血圧に対する効果は、レシピエント動物ではなく、注入溶液の特性の関数でなければならない。血圧応答は、POE動物と比較してPHPに関してより大きく、そして保たれる。
【0139】
過去における幾人かの研究者によって示唆されたように、動物の生存は、ヘモグロビン溶液の昇圧効果に明らかに関連しない。なぜなら、生存(および少ない塩基欠乏の示唆)は、PHP動物と比較してPOEに関してよりよく、そして血圧効果は、少なくかつ一過性にすぎないからである。Przybelski、R.J.、E.K.Daily、およびM.L.Birnbaum、「The pressor effect of hemoglobin−−good or bad?」Winslow、R.M.、K.D.Vandegriff、およびM.Intaglietta編、Advances in Blood Substitutes.Industrial Opportunities and Medical Challenges.Boston、Birkhauser(1997)、71−85を参照のこと。
【0140】
まとめると、これらの結果は、低いP50は、酸素キャリアとして細胞を含まないヘモグロビンの使用について利益があるという仮説を支持する。この仮説は、2つの概念に基づいている。第一に、細胞を含まないヘモグロビンについての拡散勾配は、酸素の源、赤血球と脈管壁との間のオキシヘモグロビン勾配の関数であるということ。この勾配は、順番に、酸素平衡曲線の形および位置に依存する(McCarthy、M.R.、K.D.Vandegriff、およびR.M.Winslow、「The role of facilitated diffusion in oxygen transport
by cell−free hemoglobin:Implications for the design of hemoglobin−based oxygen carriers」Biophysical Chemistry 92:103−117(2001))。第二に、この考えは、キャリアヘモグロビン分子が、POが非常に低い循環領域(例えば、虚血性組織または低酸素性組織中)に着くまで、高い酸素親和性(低P50)が、循環からOを効果的に「隠す」という本発明者らの仮説の第二概念的基礎に導く。
【0141】
(実施例5:MalPEG−Hbの安定性)
この研究の目的は、第I相臨床試験のためのサンプルの貯蔵のシミュレーションの間のMalPEG−Hbの安定性および取り扱い条件を決定することであった。取り扱いの三段階の間の安定性を評価した。段階Iは、製造施設での凍結保存から臨床現場に輸送される間の温度条件への移動を示した(凍結貯蔵研究)。段階IIは、+4℃で24時間にわたるそのMalPEG−Hbの融解およびその後の4℃で5日間にわたる貯蔵を示した(冷蔵研究)。段階IIIは、+4℃まで24時間でのそのMalPEG−Hbの融解およびその後の患者に投与する前に数日間室温でのMalPEG−Hbの貯蔵を示した(室温研究)。
【0142】
(実験方法)
安定性を、そのMalPEG−Hb試験材料の酸化の速度によって規定した。同時酸素測定(co−oximetry)(IL Co−oximetry 682)を使用して、サンプル中のメトヘモグロビンの割合を測定した。プロトコルに従って、各時点で、二連で測定を行った。
【0143】
温度計または温度チャートレコーダーによって、温度をモニターした。凍結貯蔵研究は、−21.0±3.0℃の温度範囲で行った。冷蔵研究を、+4.0±0.2℃の温度範囲で行った。室温研究を、+21.0±1.0℃の温度範囲で行った。
【0144】
温度、総ヘモグロビン、および%メトヘモグロビンを、示された時点の各々で記録した。凍結研究および冷蔵研究において、測定を時間0(完全に融解)、1時間後、および次いで、5日間にわたり24時間ごとで行った。室温研究において、時間0(完全に融解)およびその後10時間にわたり1時間ごとに測定を行った。
【0145】
(結果)
MalPEG−Hbは、図8に示されるように、−20℃での6日間の貯蔵の間に%メトヘモグロビンにおいて変化を示さなかった。同様に、MalPEG−Hbは、図9に示されるように、+4℃での5日間の貯蔵の間に、%メトヘモグロビンにおいて変化を示さなかった。室温での貯蔵の間に、MalPEG−Hbは、図10に示されるように、10時間にわたってメトヘモグロビンにおいて1%未満の増大を示した。
【0146】
上記の実施例は、組成物の好ましい実施形態の作製および使用の方法の完全な開示および記載を当業者に与えるために提供されるのであって、本発明者らが、彼らが発明として考えるものの範囲を限定することを意図するのではない。当業者に明らかな、本発明を実施するための上記の態様の改変は、添付の特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。本明細書中で引用される全ての刊行物、特許、および特許出願は、各々のこのような刊行物、特許または特許出願が具体的にかつ個々に本明細書中に参考として援用されることが示されるかのように、本明細書中に参考として援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−138197(P2010−138197A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52387(P2010−52387)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【分割の表示】特願2003−559525(P2003−559525)の分割
【原出願日】平成15年1月10日(2003.1.10)
【出願人】(504267116)サンガート, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】