説明

高防食性亜鉛末含有塗料組成物

【課題】高い防食性を示し、付着性も良好な亜鉛末含有塗料を提供する。
【解決手段】(A)バインダー樹脂100質量部(固形分重量)、(B)亜鉛末200〜800質量部、(C)腐食性イオン固定化剤を1〜95質量部、(D)上記成分を分散するための溶媒200〜1000質量部を含有する高防食性亜鉛末含有塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛末含有塗料組成物に関する。更に詳しくは、大型鉄鋼構造物の一次防錆塗料又は、下塗塗料として有用で、かつ従来の亜鉛末含有塗料にない機能として腐食イオンを無害化する高防食性の塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バインダー樹脂に比較的多量の亜鉛末を配合した亜鉛末含有塗料は、船舶、橋梁、タンク、プラント、海洋構造物等の防食の目的で広く用いられている。亜鉛末含有塗料は、用いられるバインダー樹脂の種類により、有機系亜鉛末含有塗料と無機系亜鉛末含有塗料に大別される。
【0003】
有機系の亜鉛末含有塗料は、一般にエポキシ樹脂やウレタン樹脂、アクリル樹脂等のバインダー樹脂に亜鉛末を多量に含有せしめたものであり、素地調整作業、塗装作業が容易である上に、上塗り塗料に対する適用性が良好である特徴を持っている。
【0004】
一方、塗膜の防食機能や凝集力が幾分不足しているため、長期の防食性を重視する場合には、あまり使用されない。これに対し、無機系亜鉛末含有塗料は一般にアルキルシリケート系の樹脂がバインダーとして用いられており、塗膜の防食機能や耐久性が優れているため、特に大型鋼構造物の長期の防食目的に適しているが、素地調整作業、塗装作業性が容易とはいえず、そのため素地の研磨やブラスト処理等の素地調整を入念に行う必要がある。一般にブラスト処理することが基本となっている。更に、塗膜の付着性が不充分である。
【0005】
亜鉛末を多量に含有する塗料において、更なる高防食性、付着性を改良することが試みられている。しかしながら、何れの亜鉛末含有塗料においても、他の成分を添加して防食性を向上させる方法が主であるため、大きな効果となっていない。例えば、亜鉛末塗料に亜鉛末以外の金属粉末を配合して防食性を向上させる方法が開示されている。(例えば、特許文献1参照)。亜鉛末以外の金属粉末により防食性は若干向上するが、沈殿が生じやすい等塗料安定性が不充分で又良好な塗膜を形成しにくい。また、針状又は長柱状のカルシウムメタシリケートを含有せしめ、塗膜のワレやハガレを防止した防錆被覆組成物(例えば、特許文献2参照)や、燐酸マグネシウムやリンモリブデン酸アルミニウム等の市販の防錆顔料を添加した防錆塗料組成物(例えば、特許文献3参照)が開示されている。しかしながら、これらの針状又は繊維状物質は、濾過の際に使用するメッシュの通過性が悪いため、塗料製造の前工程の粉末成分を調整する場合の歩留まりが悪く、配合のブレを生じたり、塗装時において塗装機具のスプレーに目詰まりを起こすという問題があった。また、市販の防錆顔料は浸透してきた水分により防食性の良い被膜を形成するがこれらの被膜が亜鉛末表面に形成されて亜鉛粉末の犠牲防食作用を阻害する傾向にあった。
【0006】
また、既設鋼構造物の塗り替え時期になると、通常鋼材表面には多くの赤錆が発生しており、そのような表面に塗料を塗り替え塗装しても塗膜にフクレや剥離が生じ、鋼材を長期間錆から保護できない。その理由の一つとして、錆層に含まれている腐食性イオンが残存しているためである。
【0007】
そこで、従来は、塗装前に鋼材表面をブラスト処理等により、3種ケレン以上に除錆した後、塗料を塗装する方法や、塗装前に鋼材表面の浮き錆等を除去した後、タンニン酸等を含有する錆転換剤を塗布し、赤錆の主成分であるもろい水和酸化物を黒錆の主成分である硬いFe34に変換し、塗料を塗装する方法等がとられていた。
【0008】
しかしながら、前者の方法においては、除錆の際、多量の粉塵が生じ、作業環境が悪くなるだけでなく、作業効率も非常に悪い問題点があった。更に一般的な塗り替え塗装においては、2種又は3種ケレンを鋼材表面に施しているが、鋼構造物のくぼみ部分や、狭隘部分の錆は除去しにくく、その個所の錆層と鉄素地との界面には、Cl-や、SO42-等の腐食性イオン物質が残存しやすく、また、水分も存在しており、そのため塗り替え塗装しても、その個所での防食性が大幅に低下する問題点があった。
【0009】
また、後者の方法においては、錆層の強化はなされるものの、上記くぼみ部分や、狭隘部分の腐食性イオン物質の除去は不可能であり、更にタンニン酸は水に可溶性であるため、その上に形成された防食塗膜は、経時的にフクレやすく、その結果、剥離が生じやすくなり、その個所での長期防食性が悪い問題点があった。
【0010】
【特許文献1】特開昭52−54724号公報
【特許文献2】特開昭62−181370号公報
【特許文献3】特2002−348686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、かかる実情に鑑み、腐食性イオン固定化剤等を用いることにより鋼材表面に付着しているCl-や、SO42-等の腐食性イオン物質を効率よく捕集、固定化し、亜鉛末の溶出をコントロールして従来の亜鉛末含有塗料以上の高い防食性および付着性を示す高防食性亜鉛末含有塗料を提供することにある。
【0012】
一方、腐食性イオン固定化剤は一般に水溶解量が非常に大きく塗料に配合した場合ふくれやはく離の原因となることが多く防錆剤として使用しにくい面があった。本発明は配合量と配合方法の最適化を図ることで、そのような不具合点を解消し、本来の機能を発揮することを目的とする。特に、塗り替え塗装において2種又は3種ケレンを施す時、腐食イオン固定化剤が有効に作用し、従来の亜鉛末含有塗料にない高防食性亜鉛末塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、以下の構成により、上記課題を達成できることを見出し、本発明に到達したものである。
本発明は、下記にある。
【0014】
(1) (A)バインダー樹脂100質量部(固形分重量)、(B)亜鉛末200〜800質量部、(C)腐食性イオン固定化剤を1〜95質量部、(D)溶媒200〜1000質量部を含有する高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【0015】
(2) (A)成分が無機樹脂又は有機樹脂である上記(1)に記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【0016】
(3) (A)成分の無機樹脂がアルキルシリケートの部分加水分解縮合物または一般式R2O・nSiO2(式中、Rはアルカリ金属原子、nは1.0〜4.5の正数を示す。)で表される水溶性珪酸塩及びコロイダルシリカの水分散液である上記(2)に記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【0017】
(4) (A)成分の有機樹脂がエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選択される上記(2)に記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【0018】
(5) (C)成分がハイドロカルマイト又はハイドロタルサイトである、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【0019】
(6) 更に(E)カップリング剤を含有する、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水溶解量が非常に大きく、塗料に配合した場合にふくれやはく離の原因となる腐食性イオン固定化剤を用いながら、それを防止して、高い防食性及び付着性を示す亜鉛末含有塗料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に述べる。
本発明に使用される(A)バインダー樹脂は、有機系でも無機系でも良く、また、水系でも溶剤系であっても良い。
【0022】
有機系バインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等市販されている樹脂であれば何れでも良い。特に好ましくは、防食性や素地との付着性が良好なエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂である。
【0023】
また、水系の有機系バインダー樹脂としては、上記樹脂等に−OH、−NH2、−COOH等の親水性官能基を導入し水分散化或いは水溶化したものである。
【0024】
本発明に使用される無機系バインダー樹脂としては、アルキルシリケートの部分加水分解縮合物あるいはその変性物が挙げられる。例えば、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトラプロピルオルソシリケート、テトラブチルオルソシリケート、テトラペンチルオルソシリケート、テトラヘキシルオルソシリケート、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシランブチルトリエトキシシラン、アミルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等を原材料としたアルキルシリケートの加水分解初期縮合物であり、この場合の加水分解率としては50〜98%が好ましい。また、これら加水分解物は他の有機高分子化合物と反応させた誘導体であっても差し支えない。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
具体的には、例えば、エチルシリケート40(コルコート株式会社製)、エチルシリケート40(多摩化学工業株式会社製)、Silbond 40(Stauffer Chemical Co.製)、Ethyl Silicate 40(Union Carbide Co.製)等がある。
【0026】
又、水系無機バインダー樹脂としては、一般式
2O・nSiO2 (I)
(式中、Rはアルカリ金属原子、nは1.0〜4.5の正数を示す。)で表される水溶性珪酸塩及びコロイダルシリカの水分散液からなる群から選ばれた少なくとも1種のバインダーである。上記、一般式(I)において、Rで示されるアルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0027】
一般式(I)で表される水溶性珪酸塩は、従来公知のものを広く使用できる。
【0028】
また、本発明では上記の有機系あるいは無機系バインダー樹脂を1種単独で、又は2種以上混合して使用できる。有機系と無機系バインダー樹脂混合でも使用されるし、有機系と無機系バインダー樹脂の反応物も使用することができる。
【0029】
本発明で使用される(B)亜鉛末としては、亜鉛が溶出して犠牲陽極作用を有するものである限り、従来公知のものを使用することができる。
【0030】
また、亜鉛末の粒径は、通常1〜100μmの範囲内のものが用いられ、好適な粒径は3〜7μmの範囲である。上記の粒径範囲、特に上記の好適な粒径範囲の亜鉛末粒子を用いると、塗装時の作業性が一層良好となり、かつ、一層均一な外観を有する塗膜を得ることができる。
【0031】
本発明の塗料に配合されるべき亜鉛末の量は、バインダー樹脂の固形分100質量部に対して、200〜800質量部である。好ましくは、250〜700質量部である。200質量部未満では防食性が不充分であり、800質量部以上では塗膜物性および塗膜外観が不良となる。また、バインダー樹脂が基材表面と充分に結合できなくなり、塗膜の付着性が劣る。
【0032】
次に、(C)腐食性イオン固定化剤について説明する。
(C)成分は、錆層と鉄素地との界面に存在するCl-や、SO42-等の腐食性イオン物質を捕集するとともに化学反応し、水不溶性の複塩を形成し、腐食性イオンを固定化し、不活性化するための腐食性イオン固定化剤である。該固定化剤により、鋼材表面に腐食性イオン物質が残存していても、それを不活性化するため、防食性の低下を防止することが可能となる。
【0033】
このような腐食性イオン固定化剤としては、代表的には、ハイドロカルマイトや、ハイドロタルサイト等が挙げられる。
【0034】
ハイドロカルマイトは、式、
3CaO・Al23・CaX2/m・nH2
(式中、Xは1価又は2価のアニオンであり、mはアニオンの価数を表し、nは20以下を示す。)
で示される層状構造をもつ含水結晶性粉末である。アニオン(X)としては、NO3-や、NO2-、OH-、CH3COO-、CO32-等が代表的なものとして挙げられる。これらアニオンは、塩素イオンや、硫酸イオン等と接触すると、アニオン交換し、XであるNO3-、NO2-等を遊離するとともに、腐食性イオン物質をハイドロカルマイト中に固定化(担持)し、不活性化する。また、遊離した上記アニオンは、鋼材表面に不働体皮膜を形成し、防食性を更に向上させる効果を有する。
【0035】
ハイドロタルサイトは、代表的には、式、
Mg4.5Al2(OH)13CO3・nH2
(式中、nは4以下、好ましくは3.5を示す。)
で示される層状構造をもつ含水結晶性粉末であり、ハイドロカルマイトと同様腐食性イオン物質と接触すると、アニオン交換し、腐食性イオンをハイドロタルサイト中に固定化し、その結晶構造から脱離させない能力を有するものである。
【0036】
本発明の塗料に配合されるべき腐食性イオン固定化剤の量は、バインダー樹脂の固形分100質量部に対して1〜95質量部である。好ましくは5〜50質量部である。1質量部未満では錆層と鉄素地との界面に存在するCl-や、SO42-等の腐食性イオン物質を全て捕集することはできないため防食性が不充分であり、95質量部を超えるとふくれやはく離を引き起こし防食性不良となる。
【0037】
本発明で使用される(D)溶媒は、上記の(A)〜(C)成分を溶解あるいは分散できるものであれば、有機溶剤又は水どちらでも良い。
【0038】
有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、エタノール、メタノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶剤、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル系溶剤が使われる。
【0039】
塗料形態が水系の場合、溶媒としては水が適用される。その場合、更に水溶性の有機溶剤を添加しても良い。上記水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、グリセリン、アセトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、プロピルカルビトール、ブチルカルビトール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0040】
(D)溶媒の配合量は、バインダー樹脂100質量部(固形分)に対して、200〜1000質量部であり、好ましくは200〜600質量部である。100質量部に満たない場合は、塗料粘度が高くなり、塗料安定性および塗装作業性が劣る。一方、1000質量部より多い場合は、塗料粘度が低くなりすぎ、規定の膜厚(50μm以上)を付けることができない。
【0041】
また、前記カップリング剤(E)は、鋼材の錆層への濡れ性や含浸性を向上させ、また、その上に塗装する塗料との付着性を向上させるためのカップリング剤である。カップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランや、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のシラン系カップリング剤;イソプロピルトリイソステアロイルチタネートや、テトラオクチルビス(ジドデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート等のチタン系カップリング剤;その他、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤等が代表的なものとして挙げられる。
【0042】
(E)成分は、錆層への濡れ性や含浸性を向上させ、また、その上に塗装する塗料との付着性を向上させるために配合するものであるが、0〜10質量部配合され、好ましくは0.5〜5質量部配合される。前記範囲より多すぎても前記効果の向上は認められず、経済的にも不利である。
【0043】
本発明の亜鉛末含有塗料を構成する各成分の配合割合は、(A)バインダー樹脂100質量部(固形分重量)、(B)亜鉛末200〜800質量部、(C)腐食性イオン固定化剤を1〜95質量部、好ましくは、5〜50質量部であり、(D)溶媒200〜1000質量部、(E)成分であるカップリング剤は0〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0044】
本発明の塗料組成物には、亜鉛末、及び、腐食イオン固定化剤を均一に分散せしめるために分散剤を用いても良い。分散剤としては、第4級アンモニウム塩などのカチオン系、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩などのアニオン系、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、含窒素型などのノニオン系が挙げられる。
【0045】
その他に使用される添加剤として、タレ止め剤や顔料等を配合することが可能である。タレ止め剤としては、通常、塗料に配合されて構造粘性を発現し、塗料に揺変性を付与するもので、例えば、無定形シリカ、コロイド炭酸カルシウム、有機ベントナイト、水添ヒマシ油、脂肪族アミド、高級脂肪酸、マイクロジェル粒子等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられるが、特に有機ベントナイト系のタレ止め剤が、少量の添加で大きな構造粘性を発現するので好ましい。
【0046】
また、顔料としては、通常の防錆塗料に用いられる体質顔料、防錆顔料、着色顔料を用いることができる。具体的にはタルク、マイカ、硫酸バリウム、クレー、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、ベンガラ、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、メタホウ酸バリウム、モリブデン酸アルミニウム、リン酸鉄等が挙げられ、これらは単独又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0047】
塗料は、常法に従って調整が可能であり、塗料化は使用直前に両者を混合する方法が一般的である。液状成分と粉末成分の分散には、通常塗料の分散に用いられるロールミル、サンドグラインドミル、ボール等の媒体ミル、ディスパー分散機などが使用可能である。
【0048】
このようにして塗料化した亜鉛末含有塗料は、エアースプレー、エアレススプレー、ロールコーター、ハケ等の手段で鉄骨構造物等に塗布されるが、スプレーで塗布することが一般的である。
【0049】
塗装された塗料は、常温で18〜48時間乾燥するか、或いは80℃程度の温度で30分以上強制乾燥することで、溶媒が揮発し、塗膜となる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。尚、以下の記載において、「部」、「%」は特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を表す。
【0051】
実施例1
キシレンを溶媒とするエチルシリケート溶液A(コルコート社製、エチルシリケート40、固形分25%)400質量部、亜鉛末A(本荘ケミカル社製、平均粒径5μm)500質量部、腐食イオン固定化剤(東邦顔料社製、亜硝酸型ハイドロカルマイト)40質量部を容器内で攪拌し、更にキシレン20質量部を加え、均一になるまで攪拌し、塗料を調製した。
【0052】
次に、乾燥後の塩分量が0.2g/m2となるように霧吹きで食塩水を振りかけ乾燥させた3.0×70×150(mm)のサンドブラスト鋼板に上記塗料を、常温で48時間経過後の乾燥膜厚が70μmとなるように、エアスプレー塗装した。
作製した試験片を用いて、以下のように性能評価を行い、結果を表2に示す。
【0053】
実施例2〜実施例6及び比較例1〜比較例2
上記の実施例1と同じく、表1に示す配合で実施例2〜実施例6及び比較例1〜比較例2の各塗料を調製し、実施例1と同様に各々評価用試験片を作製した。
【0054】
更に以下のように性能評価を行い、表2に結果を示す。
<性能評価>
塗膜の防食性及び付着性を、以下のように評価した。
【0055】
塩水噴霧試験
上記のように作製した試験片を用いて、JIS K 5400、9.1 耐塩水噴霧性の試験方法に準拠し、3500時間塩水噴霧した後のクロスカットした塗膜の外観を、以下の基準で目視判定した。
【0056】
(評価)
◎;塗膜表面に、異常なし
○;クロスカット部に、若干の赤さびが発生
△;クロスカット部周辺に、直径1mm以上2mm未満の赤さびが発生
×;クロスカット部周辺に、直径2mm以上の赤さびが発生
【0057】
塩水浸漬試験
上記のように作製した試験片を用いて、JIS K 5400、8.23 耐塩水性の試験方法に準拠し、常温で5000時間塩水に浸漬後の塗膜の外観を、以下の基準で目視判定した。
【0058】
(評価)
◎;塗膜表面に、異常なし
○;塗膜表面に、1〜2点程度の赤さびが発生
△;塗膜表面に、面積で5%程度の赤さびが発生
×;塗膜表面に、面積で20%以上の赤さびが発生
【0059】
自然電位
上記のように作製した試験片を、3%食塩水に18000時間浸漬後、北斗電工社製全自動分極測定装置HZ−3000で、参照電極はAg/AgClを用いて、塗膜の自然電位を測定し、以下の基準で判定した。
【0060】
(評価)
◎;−900mV以下
○;−899〜−750mV
△;−749〜−650mV
×;−649mV以上
【0061】
<性能評価>
塗膜の防食性及び付着性を、以下のように評価した。
【0062】
付着性試験
上記のように作製した試験片を用いて、JIS K 5600 付着性の試験方法に準拠し、脱イオン水浸漬500時間後カッターナイフを用いて2mmの碁盤目を100個作製し、セロハン(登録商標)テープ剥離試験後以下の基準で目視判定した。
【0063】
(評価)
◎;塗膜表面に、異常なし
○;直線に沿った塗膜のはがれ若干あり
△;残存塗膜が95/100以上
×;残存塗膜が94/100以下
【0064】
【表1】

【表2】

【0065】
1)エチルシリケート:コルコート社製「エチルシリケート40」(固形分25%)
2)エポキシ樹脂溶液B:ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1001」(固形分70%)
3)ケイ酸リチウム水溶液C:日本化学工業社製「ケイ酸リチウム水溶液」(固形分40%)
4)ウレタン樹脂水分散液D:旭電化社製「アデカボンタイター290H」(固形分40%)
5)ポリシリコン水溶液E:信越化学工業社製「KBM403」(固形分80%)
6)亜鉛末A:本荘ケミカル社製「亜鉛末F−1000」(平均粒径5μm)
7)亜鉛末B:堺化学社製「亜鉛末#3−13L」(平均粒径4μm)
8)腐食イオン固定化剤A:東邦顔料社製「ソルカットC」:亜硝酸型ハイドロカルマイト
9)腐食イオン固定化剤B:協和化学工業社製「DHT−4A」:ハイドロタルサイト
10)シランカップリング剤A:信越化学工業社製「KBM403」
11)シランカップリング剤B:BYKケミー社製「BYK354」
12)ポリアミドアミン溶液A:富士化成社製「トーマイドTXK−659A」(固形分60%、アミン価120)
【0066】
表2の結果から明らかなように、亜鉛末含有塗料に腐食イオン固定化剤を配合した塗料は、塩分含有のサンドブラスト鋼板においてもまた電動工具でさびを除去した鋼板においても比較塗料と比べて極めて防食性が良好である。一方、腐食イオン固定化剤を配合しないでシランカップリング剤を配合した比較例1は防食性が不充分である。また腐食イオン固定化剤及びシランカップリング剤を配合していない比較例2および比較例3は防食性が不充分でありまた付着性も不良であった。
【0067】
上述したように、本発明によれば、塩分含有のサンドブラスト鋼板においてもまた電動工具でさびを除去した鋼板においても高い防食性及び付着性を示す亜鉛末含有塗料を提供することが可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)バインダー樹脂100質量部(固形分重量)、(B)亜鉛末200〜800質量部、(C)腐食性イオン固定化剤を1〜95質量部、(D)溶媒200〜1000質量部を含有する高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【請求項2】
(A)成分が無機樹脂又は有機樹脂である請求項1に記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【請求項3】
(A)成分の無機樹脂がアルキルシリケートの部分加水分解物または一般式R2O・nSiO2(式中、Rはアルカリ金属原子、nは1.0〜4.5の正数を示す。)で表される水溶性珪酸塩及びコロイダルシリカの水分散液である請求項2に記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【請求項4】
(A)成分の有機樹脂がエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選択される請求項2に記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【請求項5】
(C)成分がハイドロカルマイト又はハイドロタルサイトである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。
【請求項6】
更に(E)カップリング剤を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の高防食性亜鉛末含有塗料組成物。

【公開番号】特開2007−284600(P2007−284600A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114891(P2006−114891)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000227261)日鉄防蝕株式会社 (31)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】