高電圧インバータ装置
【課題】高出力の高電圧を連続的に、安定的にしかも安全に得られるようにする。
【解決手段】直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された電圧を入力電圧とし、その入力電圧をスイッチング素子によってスイッチングして、同一の特性を持つ個別の第一、第二、第3のトランスT1,T2,T3の一次側の励磁巻線に同時に励磁電流を流して励磁させ、その各トランスT1,T2,T3の各出力巻線を互いに直列又は並列に接続して、出力電圧を出力する。その各トランスT1,T2,T3を、その各コア11の外周面から所定の間隔dを保って、各トランスが発生する磁束の流れに沿う方向にコア11を周回する無端状の金属帯17を設けて、共通の実装基板15上に列設する。
【解決手段】直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された電圧を入力電圧とし、その入力電圧をスイッチング素子によってスイッチングして、同一の特性を持つ個別の第一、第二、第3のトランスT1,T2,T3の一次側の励磁巻線に同時に励磁電流を流して励磁させ、その各トランスT1,T2,T3の各出力巻線を互いに直列又は並列に接続して、出力電圧を出力する。その各トランスT1,T2,T3を、その各コア11の外周面から所定の間隔dを保って、各トランスが発生する磁束の流れに沿う方向にコア11を周回する無端状の金属帯17を設けて、共通の実装基板15上に列設する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高電圧電源装置や放電用電源装置等に用いられるスイッチングレギュレータ、インバータ等の高電圧インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧プラズマは、表面処理の一つの手段として、表面の改質や汚染物の除去等、様々な工業製品に応用されている。樹脂等に接着や印刷、コーティング等を施す場合に、大気圧プラズマにより前処理を行うと、濡れ性を向上させることが可能になる。
例えば、電子写真方式による画像形成装置により樹脂トナーが印刷された印刷物に、紫外線硬化型のニスをコーティングしようとすると、樹脂トナーに含まれるワックス成分により、樹脂トナー印刷部分のニスを弾いてしまう場合がある。しかし、大気圧プラズマによる表面処理を行うと、濡れ性が向上するため、ニスコーティングが可能になり、印刷物の付加価値が向上する。その大気圧プラズマを発生させるためには10数KV〜20KVの高電圧が必要となり、インバータ装置によって安全に高電圧を得る必要がある。
【0003】
国際規格IEC60950(J60950)の安全規格によると、入力電圧はSELV(Safety Extra Low Voltage :安全特別低電圧)である直流60V(DC)以内もしくは電圧尖頭値が42.4Vを超えなければ安全とされている。そのため、そのSELV以内の電圧をインバータの入力電圧とし、何らかの原因でインバータ回路の構成部品が絶縁破壊されても、入力側で供給電力が制限される構成が必要である。
【0004】
そこで、電源装置全体の構成としては商用入力電源を使用し、その電源回路の出力電圧範囲をSELV以内の電圧として、それを入力とする高圧インバータによって高電圧を発生させる装置がある。
入力電圧がSELV以内であると、所定の出力Voutを得るためには、その数10倍から数100倍の昇圧比(倍率)nが必要となる。ここで、
n=Vout/SELV
とすれば、Vout=15KVで、SELV=48Vのときは、n=312.5倍の昇圧が必要になる。
【0005】
これを実現するためには、トランスやコッククロフトウオルトン回路(Cockcroft-Walton circuit)等のN倍整流回路等があげられる。しかし、コッククロフトウオルトン回路等のN倍整流回路は、コンデンサによる充放電で行うものであるため、瞬間的な単発出力は引き出せるが連続的に出力電力を取り出すことは困難である。したがって、安定な出力を得るには大型のトランスに頼らざるを得なかった。
【0006】
一般に、励磁巻線の巻数と出力巻線の巻数は比例関係にある。そのため、励磁巻線の巻数と出力巻線の巻数が出力電圧によってほぼ決まるため、入力電圧Vinが低く昇圧比nが非常に大きな場合には、出力巻線の巻数が必然的に多くなり、巻線間容量の増大と層間容量の増大等が起こってしまう。そのため、次のような問題が生じる。
・使用したい動作周波数でトランスとして必要なインダクタンスが得られない。
・トランスの周波数の範囲が狭い。
・誘電損失が増大する。
・高電圧による近接効果による損失が増大する。
これらによって、トランスの性能を低下させてしまう。
【0007】
従来のスイッチングコンバータとして、例えば特許文献1に記載されたものがあり、このスイッチングコンバータは、直流の入力電源を持ち、一つのトランスにて1次巻線(励磁巻線)が分割された巻線であり、その出力側に2つの出力巻線をもつ他励型ON−OFF方式の直流電源である。
【0008】
また、特許文献2に記載された高圧電源回路は、オンデューティが50%に固定され、プッシュプルモードで動作する1対のスイッチング素子によって、絶縁高圧トランスの2つの1次巻線(励磁巻線)の励磁電流をスイッチングし、1つの2次巻線(出力巻線)の出力を整流平滑して直流高電圧を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−144544号公報
【特許文献2】特許第3152298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたスイッチングコンバータや特許文献2に記載された高圧電源回路は、いずれも1個のトランスに複数の励磁巻線と出力巻線を設けて、その各出力を出力巻線の中点をとって整流平滑したり、2次側の交流出力を単に整流平滑して直流出力とするものである。そのため、出力巻線の巻数を多く巻けず、昇圧比が高い高電圧を連続して出力させることはできなかった。
また、これらはトランスの持つ磁束密度を最大限有効に活用しようとするものであるが、更に昇圧しようとすると磁束密度が飽和してしまい、それ以上昇圧することができないという不具合があった。
【0011】
この発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、高電圧インバータ装置をなるべく大型化せずに、高出力の交流高電圧を連続的に、安定的にしかも安全に得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は上記の目的を達成するため、直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された電圧を入力電圧とし、その入力電圧をスイッチングしてトランスの一次側の励磁巻線に励磁電流を流し、その該トランスの二次側の出力巻線から高電圧を出力する高電圧インバータ装置において、上記トランスを、同一の特性を持つ個別の複数のトランスによって構成し、その複数のトランスの各励磁巻線を並列又は直列に接続して同時に励磁させるようにし、その複数のトランスの各出力巻線を互いに直列又は並列に接続する。
さらに、上記複数の各トランスごとに、そのコアの外周面から所定の間隔を保ってそのトランスが発生する磁束の流れに沿う方向に上記コアを周回する無端状の金属帯を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、上記複数のトランスを共通の実装基板上に、互いに上記コアの外周面の一部を上記金属帯を介して隣り合わせにして列接するとよい。
その場合、上記複数のトランスのコアの外周面が隣り合った部分では上記金属帯を共通にすることができる。
【0014】
上記複数のトランスの各励磁巻線を並列に接続して同時に励磁させるようにし、その複数のトランスの各出力巻線を互いに直列に接続すると、最も高い電圧を出力することができる。
上記複数のトランスの各出力巻線の出力電圧波形の時間軸が同期することが望ましい。
さらに、上記複数の各トランスは、出力電圧が共振の鋭さに比例する共振トランスであるのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の高電圧インバータ装置によれば、上記の構成によって、高出力の高電圧を連続的に、安定的にしかも安全に得ることができる。また、複数のトランスを近接して配置しても磁気干渉を起こすことがないので、出力を低下させることなく、高電圧インバータ装置の大型化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明による高電圧インバータ装置の基本的な第1実施例の回路図である。
【図2】図1に示した第1実施例のターンON時の等価回路図である。
【図3】同じくON時の等価回路図である。
【図4】同じくターンOFF時の等価回路図である。
【図5】同じくOFF時の等価回路図である。
【0017】
【図6】図1に示した第1実施例の動作中の各部の電圧波形の変化を示すタイミングチャートである。
【図7】この発明による高電圧インバータ装置の第2実施例の回路図である。
【図8】この発明による高電圧インバータ装置の第3実施例の回路図である。
【図9】この発明による高電圧インバータ装置の第4実施例の回路図である。
【図10】この発明による高電圧インバータ装置の第5実施例の回路図である。
【図11】この発明による高電圧インバータ装置におけるトランスの数とスイッチング素子のドレイン・ソース間電圧の波高値との関係を示す曲線図である。
【0018】
【図12】この発明に使用するトランスの構造の一例を示す正面図である。
【図13】同じくその巻線部の右半部の縦断面図である。
【図14】高電圧インバータ装置を構成する3個のトランスの配設例を示す正面図である。
【図15】高電圧インバータ装置を構成する3個のトランスのこの発明による配設例を示す正面図である。
【図16】同じく他の配設例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、この発明による高電圧インバータ装置の基礎となる回路構成について説明する。
〔基本的な第1実施例:図1〜図6〕
図1は、この発明による高電圧インバータ装置の基本的な実施例である第1実施例の構成を示す回路図であり、INが入力端子であり、OUTが出力端子である(以後の実施例も同じ)。
【0020】
この図1に示す高電圧インバータ装置は、入力端子1a,1bから供給される直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された入力電圧Vinを、スイッチング素子Qswによってスイッチングして、2個のトランスT1,T2の一次側の励磁巻線NP1,NP2に同時に励磁電流を流し、その各トランス10の二次側の出力巻線NS1、NS2から高電圧を出力し、出力端子2a,2bから交流高電圧の出力電圧Vout を負荷に対して出力する。すなわち、図1においてINが入力、OUTが出力である。入力電圧Vinは安全特別低電圧(SELV)以内の電圧にするとよい。
【0021】
第一のトランスT1と第二のトランスT2は同一の特性を持つ別個のトランスであり、その励磁巻線NP1,NP2が、入力電源の正極側のa点とFET(電界効果トランジスタ)によるスイッチング素子Qswの正極側のb点との間に並列に接続されている。
そのa点とb点との間に、a点に一端を接続したコンデンサCとアノードをb点に接続したダイオードDとを直列に接続してスナバ回路を構成している。このスナバ回路は第一、第二のトランスT1,T2のリセット用およびスイッチング素子Qswの電圧抑圧用に設けられている。そのスナバ回路は、上記のダイオードDとコンデンサCの直列回路以外にも、図示していないが、コンデンサCに並列に抵抗Rを接続したいわゆるRCスナバ回路もある。
【0022】
20は発振回路を含む制御回路であり、集積回路(IC)として作られる。この制御回路20は入力端子1a,1bから供給される入力電圧Vinによって動作し、抵抗R1を介してスイッチング素子Qswのゲートにスイッチングパルスを印加してスイッチング素子Qswをオン・オフさせる。それによって、第一、第二のトランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2に断続的に同時に電流を流し、各出力巻線NS1,NS2に交流高電圧を発生させる。
【0023】
第一、第二のトランスT1、T2にはそれぞれ出力巻線NS1,NS2があり、第二のトランスT2の出力巻線NS2の上に第一のトランスT1の出力巻線NS1が積み上げられるように、出力巻線NS1と出力巻線NS2が直列に接続され、各出力巻線NS1,NS2の接続されていない方の各端子が出力端子2a,2bへ繋がる。
【0024】
ここで、出力巻線NS1,NS2からの出力は交流であるが、直流部分が少しあったときに、その直流分をカットしたい場合は出力の正極側ラインにコンデンサC0を配置する。ただし、この実施例では出力電圧が数KV〜20KVの範囲のものが対象であるため、そのコンデンサC0は出力電圧と同じ電圧以上の耐圧が必要になる。
【0025】
この高電圧インバータ装置において、スイッチング素子QswがターンONした時(Turn
ON時)には、図2に等価回路で示すようになり、入力電源の正極側から破線矢印で示すようにスナバ回路のコンデンサCとダイオードD(この時は接合間容量によりコンデンサとして機能する)を通してスイッチング素子Qswに電流が流れるが、第一、第二のトランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2には殆ど電流が流れず、出力巻線NS1,NS2にも誘起電流は殆ど流れない。
【0026】
スイッチング素子Qswが完全にオンになると、図3に等価回路で示すようになり、入力電源の正極側から破線矢印で示すように、第一、第二のトランスT1、T2の並列に接続された励磁巻線NP1,NP2とスイッチング素子Qswを通して電流が流れ、その第一、第二のトランスT1、T2の出力巻線NS1,NS2にも破線矢印で示すように誘起電流が流れ、出力電圧が得られる。
スイッチング素子QswがターンOFFした時(Turn OFF時)には、図4に等価回路で示すようになり、スナバ回路のコンデンサCの充電電荷が放電する。このときダイオードDは、順方向電圧が閾値になるまでの順方向回復時間の間は接合容量によりコンデンサとして機能する。
【0027】
スイッチング素子Qswが完全にオフになると、図5に等価回路で示すようになり、第一、第二のトランスT1、T2の並列に接続された励磁巻線NP1,NP2に逆起電圧が発生し、それが破線矢印で示すようにスナバ回路のダイオードD(このときは導通状態になる)とコンデンサCを通して流れるとともに、開放したスイッチング素子Qswのソース・ドレイン間(この時はコンデンサとして機能する)を通して入力電源側へも流れる。各出力巻線NS1,NS2にも逆起電圧が発生し、それにより出力端子2a,2bに接続された負荷に電流を流す。
【0028】
スイッチング素子Qswが周期的にオン・オフすることによって、上述した各状態を繰り返すことになる。そのときの各部の電圧波形の変化を図6のタイミングチャートに示す。この図6における各波形の大小の比率、絶対値、時間軸の比率及び大小の相関は正確なものではない。
【0029】
この図6において、Vgsはスイッチング素子Qswのドライブ電圧(ゲート・ソース間電圧)、VNp1、VNp2は励磁巻線NP1,NP2の電圧、Idsはスイッチング素子Qswに流れる電流、Vdsはスイッチング素子Qswのドレイン・ソース間電圧、VNout1は第一のトランスT1の出力巻線NS1の出力電圧、VNout2は第二のトランスT2の出力巻線NS2の出力電圧、Voutは出力端子2a,2bからの出力電圧である。そして、この図6から明らかなように、各出力巻線NS1とNS2の出力電圧VNout1とVNout2の波形の時間軸が同期している。
そのために、トランスT1、T2の特性が同じであることに加えて、スイッチング素子Qswのドレイン端子と各トランスの励磁巻線NP1,NP2の負極側端子との各接続線の長さが略同じになるように、スイッチング素子Qswを配置するのが望ましい。
【0030】
このように、この発明による高電圧インバータ装置は、磁路が全く違う別個のコアを持つ同じ特性を持つトランスを少なくとも2個以上設け、その各励磁巻線を同時に励磁し、好ましくは出力側において各出力巻線の出力電圧波形の時間軸を同期させ、その各出力を電圧加算あるいは電流加算する。上述した実施例では、2個のトランスT1、T2の出力巻線NS1,NS2の各出力を電圧加算によって積み上げ昇圧している。したがって、複数の励磁巻線に偏磁が生じることがなく、トランス全体として出力巻線の巻数を多くすることができるので、昇圧比が高い高電圧を連続して、安定にしかも安全に得ることができる。
【0031】
〔トランス2個の他の実施例:図7〜9〕
次に、トランスを2個使用した高電圧インバータ装置の他の実施例である第2〜第4実施例を、図7〜図9によって説明する。これらの図において、図1と同じ部分には同一の符号を付してあり、それらの説明は省略する。
図7に示す第2実施例では、同一の特性を持つ別個の第一、第二のトランスT1、T2の出力巻線NS1,NS2は、各出力が電流加算されるように並列に接続されて、出力端子2a,2bへ繋がっている。この実施例によれば、出力電圧Voutはトランスが1個の場合と略同等であるが、出力直電流を倍増できるので出力電力も倍増する。
【0032】
この各トランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2が入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極間に並列に接続されていることは、図1に示した第1実施例と同じである。その他の構成及び作用も第1実施例と同様である。
【0033】
図8に示す第3実施例においては、別個に設けた同一の特性を持つ第一、第二のトランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2、入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極との間に直列に接続している。そして、その入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極との間にスナバ回路を構成するダイオードDとコンデンサCの直列回路も接続されている。
【0034】
第一、第二のトランスT1、T2の出力巻線NS1,NS2は、第2実施例と同様に出力が電流加算されるように並列に接続されて、出力端子2a,2bへ繋がっている。
その他の構成及び作用は、前述した第1実施例と同様である。
【0035】
図9に示す第4実施例においては、別個に設けた同一の特性を持つ第一、第二のトランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2は、第3実施例と同様に入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極との間に直列に接続されている。
しかし、第一のトランスT1の出力巻線NS1と第二のトランスT2の出力巻線NS2とが、出力巻線NS1の上に出力巻線NS2が積み上げられるように直列に接続され、それぞれ接続されていない各端子が出力端子2a,2bへ繋がっている。
その他の構成及び作用は第1実施例と同様である。
【0036】
〔トランス3個の実施例:図10〕
次に、トランスを3個使用した高電圧インバータ装置である第5実施例を図10によって説明する。
この第5実施例においては、別個に設けた同一の特性を持つ3個のトランスを使用しており、その第一のトランスT1、第二のトランスT2、第三のトランスT3の各励磁巻線NP1,NP2,NP3が、入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極との間に並列に接続されている。その各トランスT1、T2、T3の出力巻線NS1,NS2,NS3は全て直列に接続され、その出力巻線NS1とNS3のそれぞれ接続されていない方の端子が出力端子2a,2bへ繋がっている。
【0037】
この第5実施例によれば、3個のトランスT1、T2、T3の出力巻線NS1,NS2,NS3の各出力を電圧加算によって積み上げ昇圧しているので、一層高い高電圧出力を得ることができる。
【0038】
なお、同一の特性を持つ3個のトランスT1、T2、T3の各励磁巻線NP1,NP2,NP3を第3、第4実施例と同様に全て直列に接続してもよい。また、その各トランスT1、T2、T3の出力巻線NS1,NS2,NS3を全て並列に接続してもよい。また、それぞれ別個に設けた同一の特性を持つトランスは4個以上でもかまわない。
しかし、現実的には、そのトランスの数は、配置やパターン等が数とともに大きくなるため、不要輻射等のEMIに課題を残すことになるため、4個位までがよいと思われる。
【0039】
各トランスの励磁巻線は直列に接続しても並列に接続しても、ほぼ均一な分割された個々の磁界の強さが必要な強さになればよい。
また、第2〜第5実施例においても、出力の直流成分をカットしたい場合には、第1実施例と同様に出力線にコンデンサC0を設けるとよい。
【0040】
〔共振トランスとその使用個数〕
この発明による高電圧インバータ装置における各トランスT1〜T3は共振トランスを用いるのが望ましい。共振トランスではフライバック方式で高電圧を得るため、エネルギーが一次側からトランスに注入される期間と二次側から取り出される期間とが交互になる。すなわち、一次側のスイッチング素子QswがONの期間にエネルギーが励磁エネルギーとして各トランスに蓄えられ、そのスイッチング素子QswがOFFの期間にそれを二次側に吐き出すような動作をする。そのため、各トランスは、スイッチング素子Qswのスイッチング周波数fsw以上の自己共振周波数fo(fsw ≦fo)で共振する。
【0041】
励磁巻線への電圧印加のON期間(時間)とOFF期間(時間)の割合である時比率が50%:50%の場合はfsw=foである。しかし、高電圧高電流を出力するためには、トランスに励磁エネルギーを蓄えるON期間をなるべく長くする必要がある。ON期間の割合が50%を超えるようにするのはそのためであり、有効な出力を得るためにはON期間の割合が55%以上あることが望ましい。
【0042】
スイッチング周波数fswは可聴音周波数を充分に超える周波数、例えば20KHzの一定周波数に固定する。そして、スイッチング素子QswのONデューティが上記時比率のON期間に相当する割合になるように、図1等に示した制御回路ICから出力するスイッチングパルスの周期(1/fsw)とONデューティを予め設定する。
【0043】
このような共振トランスを使用した高圧インバータ装置において、実験を積み重ねた結果、入力電圧:Vin、共振の鋭さ:Qe、スイッチング素子Qswのドレイン・ソース間電圧:Vds、出力電圧:Vout 、巻線比(出力巻線のターン数/励磁巻線のターン数):Nps、およびトランスの数:Nの間に、次の理論式が成り立つことが分かった。
・Vds=Vout/(N・Nps)
・Vout=Qe・Vin
【0044】
したがって、出力電圧Voutは共振の鋭さQeに比例し、Qeを大きくすれば巻線比をあまり大きくしなくても充分な昇圧を達成することができる。
ここで、共振の鋭さQeについて説明する。周波数に対する共振電流の特性をとると、共振周波数foで共振電流が最大値になるが、その前後の周波数で共振電流が最大値の1/√2になる周波数の幅(半値幅という)をΔfとすると、Qe=fo/Δfで表される無次元数である。
【0045】
そして、図1及び図10に示した実施例のように、複数個のトランス(共振トランス)の各励磁巻線を並列に接続し、各出力巻線を直列に接続した場合、そのトランスの数(個数)Nとスイッチング素子Qswのドレイン・ソース間電圧の波高値Vds(Vp-0)との関係は、Qeを一定とした場合、図11に破線で示す曲線のように変化した。
すなわち、接続するトランスの数Nが多くなるほど、ドレイン・ソース間電圧の波高値Vds(Vp-0)の低下が認められた。図11に示す例では、トランスが2個の場合にはVds(Vp-0)が560Vであるが、トランスが3個の場合はVds(Vp-0)が384Vである。
【0046】
このことは、接続するトランスの数を多くするほど、スイッチング素子Qswの耐圧が低くて済み、MOS−FETであればON抵抗の低い素子を使えることになる。例えば、MOS−FETを3個並列駆動する必要があるところを2個並列駆動でもよいことになる。
実例として、入力電圧Vinが56V、出力電圧Vout が10.5KV、平均出力が20W〜800Wの場合、トランス2個では耐圧が900Vのところ、トランス3個にすると耐圧が600Vになる。それによって、スイッチング素子QswのON抵抗が著しく低下し、効率(出力電力/入力電力)が大幅に向上する。図10に示した実施例の場合、79.4%の効率を得ることができた。
【0047】
トランス配置のループ長や面積を考慮しなければ、トランスの数を多くした方が効率が向上し、不要輻射などのノイズの低減にも寄与する。しかし、実際にはトランスの数に応じてループ長や設置面積が大きくなってしまうため、不要輻射の発生や装置サイズの問題も生じるので、トランスの数は4個位までが実用的な範囲であると考えられる。
【0048】
〔トランス構造とその配置及び金属帯による磁気干渉防止〕
ここで、この発明による高電圧インバータ装置に使用するトランスの構造の一例を図12及び図13によって説明する。図12はそのトランスの正面図、図13はその巻線部の右半部の縦断面図である。
図12に示すトランス10はコア11と巻線部12とからなる。コア11はフェライト等の磁性材からなり、この例では両側部11bとその間の空間を仕切る中足(中央磁脚)11aを有するE字状のコアを2個向かい合わせに重ねたような形状をなす、例えばFEER42L型のコアである。
【0049】
このコア11は、矢印線H1,H2で示すように、中足11aと一方の側部11bを通る磁路及び中足11aと他方の側部11bを通る磁路との2磁路を形成しており、その中足11aの長さ方向の中央部に2磁路分の磁気抵抗となるギャップGrを、磁路に直交する方向に設けて磁束飽和を抑制している。組み付けの便宜上、両側部11bも上下に分割されているが、互いに密着してギャップを形成せず、磁気抵抗とならないようにしている。ギャップGrは空隙に限らず絶縁材等の非磁性材を介在させてもよい。
【0050】
コアの磁路に磁気抵抗を設けることによって、磁路から磁束が離れる漏れ磁束が生じるが、磁束飽和が抑制され、すぐに飽和しなくなり磁界の強さの幅がとれるので制御しやすくなる。磁界の強さに応じて磁束密度が変化し、それがインダクタンスの大きさに比例する。そして、このコア11の中足11aを巻き芯として、両側部11b,11bとの間の空間を埋めるように巻線部12を設けている。
この例では図示していないが、巻線するために予め中足11aを覆うように樹脂製のボビンを装着し、その上に巻線部12を巻装するのが一般的である。
【0051】
そして、巻線部12は図13に示すように、コア11の中足11aに出力巻線NSを略同じ巻き幅の複数層の巻線NS1〜NS4に分割(この例では4分割)して積層して巻装し、その外側に誘電体でなる絶縁層Esを介して励磁巻線NPを出力巻線NSと略同じ巻き幅で巻装している。その出力巻線NSの分割された各層の最下層の巻線NS1と中足11aとの間および隣接する各層間にも、それぞれ誘電体でなる絶縁層Esを設けている。励磁巻線NPは1層で所定巻き数だけ巻装し、その上を絶縁被覆層12aで被覆している。巻線NS1〜NS4は直列に繋がって励磁巻線NPに対して所定巻数比の出力巻線NSを形成している。
【0052】
このトランス10の励磁巻線NPに励磁電流が流れると、図12のコア11内に矢印線H1,H2で示す方向に磁束が発生するが、その外部にも破線の円13で示すような範囲に漏れ磁束が発生する。
この発明による高電圧インバータ装置は、このようなトランスを前述した各実施例のように複数個使用する。例えば、図10によって説明した第5実施例の場合、3個のT1〜T3(それぞれ図12に示したトランス10に相当する)を、図14に示すように、実装基板15上に互いにコア11の外周面の一部である側面11cを隣り合わせて列設する。
【0053】
図14に示す各トランスT1〜T3は、それぞれ個別のコア11による磁路と巻線部12を持ち、個別に磁束を発生する。しかも高電圧を発生するので磁束変化が非常に大きいため、その漏れ磁束によって隣接するトランス間で磁気干渉を起こす。そのため、各トランスに偏磁が生じたり、磁気抵抗を持って消磁したりする。それによって、共振状態がずれたり前述した共振の鋭さQeが低下して、各トランスの出力巻線に発生する交流電圧を電圧加算した電圧である出力電圧(Vout=Qe・Vin)が低下し、充分な出力が得られなくなるという問題が生じる。
【0054】
この出力電圧の低下率は、磁気干渉が全くない場合と比べて5%〜20%程度になり、隣接するトランス間の間隔Dが小さくなるほど磁気干渉が増加するため、この低下率が大きくなる。
そこで、隣接するトランス間の磁気干渉を防ぐためには、隣接するトランス間の間隔Dsを拡げればよいことになる。しかし、そうすると、図10に示したスイッチング素子Qswから各トランスT1〜T3の励磁巻線NP1〜NP3までの配線距離が長くなり、パターンループ長やパターン面積が増大して、スイッチング制御が不安定になったり、不要な輻射ノイズの影響が増大するなどの問題が出てくる。また、高電圧インバータ装置が大型化する要因にもなる。
【0055】
この発明による高電圧インバータ装置はこの問題を解消するため、複数の各トランスごとに、そのコアの外周面から所定の間隔を保ってそのトランスが発生する磁束の流れに沿う方向にコアを周回する無端状の金属帯を設けている。
【0056】
例えば、図15に示す実施例では、高電圧インバータ装置を構成する各トランスT1、T2、T3ごとに、それぞれコア11の外周面から所定の距離dを保って、各トランスが発生する磁束の流れに沿う方向、すなわちコア11の外周に沿う方向に、コア11を周回する無端状(この例では四角筒のリング状)の金属帯17を設けている。この金属帯17は導電性のよい金属板で形成される。コア11の外周面と金属帯17の内周面との距離dは、3〜10mm程度、好ましくは3〜6mm程度がよい。
この金属帯17には、漏れ磁束を電流に変え且つ不要輻射ノイズを発生させないために、燐青銅あるいは銅やアルミニウムなどの反磁性(非磁性)金属を使用するのが望ましいが、鉄などの磁性金属を使用しても十分効果はある。
【0057】
したがって、3個のトランスT1〜T3が、共通の実装基板15上に、互いにコア11の外周の一部である側面11cを金属帯17を介して隣り合わせにして列接される。
各トランスT1〜T3のコア11の底面11dと実装基板15の上面との間には、コア11の外周と金属帯17との間隔を距離dに保つためのスペーサ18を介在させている。そのスペーサ18は、樹脂などの電気絶縁性が高く非磁性の材料によって形成される。
コア11の上面や側面と金属帯17との間にも、距離dに保つために必要であれば適宜スペーサを設けてもよい。
【0058】
この実施例によれば、各トランスT1〜T3の磁路から外れた漏れ磁束(破線の円13参照)は、それを打ち消すように電流を流そうとするが、金属帯17によって漏れ磁束自体をショートすることにより、このような磁界から電界あるいは電界から磁界という特性の変化が皆無となる。漏洩磁束は抵抗のない金属帯17を急速に通り、その外側には出なくなる。
【0059】
このように構成することによって、高電圧インバータ装置を構成する複数のトランスT1、T2、T3を近付けて、隣接するトランスのコア11の間隔Dsを小さくして配列しても、磁気干渉を起こすことがないので出力電圧が低下することがない。そして、装置の大形化を防げるとともに、配線距離を短くできるので、スイッチング制御が不安定になったり不要な輻射ノイズの影響が増大することもなくなる。
【0060】
図16は、高電圧インバータ装置を構成する複数のトランスT1、T2、T3を一層近付けて配列できるようにした実施例を示す。
この実施例における金属帯19は、各トランスT1、T2、T3のコア11の外周面から所定の距離dを保って、そのコア11を周回する無端状の金属帯を一体化して、複数のトランスのコア11の外周面が隣り合った部分には、その金属帯19の共通の仕切部19aを介在させるようにしている。
【0061】
このようにすれば、隣接する複数のトランスの各コア11を周回する金属帯の間隔をなくすことができるので、複数のトランスを一層接近させて(間隔Dsをより小さくして)コンパクトに配設することができる。その他の構成及び作用は、図15の実施例と同様である。
【0062】
なお、図15及び図16に示したトランスの配設例は、3個のトランスを使用する図10に示した第5実施例の場合であるが、2個のトランスを使用する図1及び図7〜図9に示した第1〜第4実施例の場合にも同様に適用できる。その場合は、2個の金属帯17又は仕切部19aが1つの金属帯19によって、2個のトランスT1,T2の各コア11の外周面から所定の距離dを保ってそのコア11を周回させ、そのトランスT1,T2を実装基板15上に互いに近接させて配設することができる。4個以上のトランスを使用する場合も同様である。
【0063】
以上、この発明による高電圧インバータ装置の各実施例について説明してきたが、この発明はこれらに限るものではなく、種々の変形が可能であり、各実施例は矛盾しない範囲で、適宜組み合わせて実施することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
この発明は、スイッチングレギュレータ、インバータ、高電圧電源、放電用電源等の高電圧発生装置に利用することができる。特に、印刷物の表面処理等を行うための大気圧プラズマを発生させるための高出力の高電圧を、連続的に安定して、しかも安全に得られるようにするのに適している。
【符号の説明】
【0065】
1a,1b:入力端子 2a,2b:出力端子 10:トランス(共振トランス)
11:コア 11a:中足 11c:コアの側面 11d:コアの底面
12:巻線部 12a:絶縁被覆層 15:実装基板 17:金属帯
18:スペーサ 19:金属帯 19a:仕切部 20:制御回路
T1,T2,T3:トランス(共振トランス) Qsw:スイッチング素子
D:ダイオード C,C0:コンデンサ R1:抵抗
NP,NP1,NP2,NP3:トランスの励磁巻線
NS,NS1,NS2,NS3:トランスの出力巻線
Vin:入力電圧 Vout:出力電圧 Es:絶縁層
【技術分野】
【0001】
この発明は、高電圧電源装置や放電用電源装置等に用いられるスイッチングレギュレータ、インバータ等の高電圧インバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧プラズマは、表面処理の一つの手段として、表面の改質や汚染物の除去等、様々な工業製品に応用されている。樹脂等に接着や印刷、コーティング等を施す場合に、大気圧プラズマにより前処理を行うと、濡れ性を向上させることが可能になる。
例えば、電子写真方式による画像形成装置により樹脂トナーが印刷された印刷物に、紫外線硬化型のニスをコーティングしようとすると、樹脂トナーに含まれるワックス成分により、樹脂トナー印刷部分のニスを弾いてしまう場合がある。しかし、大気圧プラズマによる表面処理を行うと、濡れ性が向上するため、ニスコーティングが可能になり、印刷物の付加価値が向上する。その大気圧プラズマを発生させるためには10数KV〜20KVの高電圧が必要となり、インバータ装置によって安全に高電圧を得る必要がある。
【0003】
国際規格IEC60950(J60950)の安全規格によると、入力電圧はSELV(Safety Extra Low Voltage :安全特別低電圧)である直流60V(DC)以内もしくは電圧尖頭値が42.4Vを超えなければ安全とされている。そのため、そのSELV以内の電圧をインバータの入力電圧とし、何らかの原因でインバータ回路の構成部品が絶縁破壊されても、入力側で供給電力が制限される構成が必要である。
【0004】
そこで、電源装置全体の構成としては商用入力電源を使用し、その電源回路の出力電圧範囲をSELV以内の電圧として、それを入力とする高圧インバータによって高電圧を発生させる装置がある。
入力電圧がSELV以内であると、所定の出力Voutを得るためには、その数10倍から数100倍の昇圧比(倍率)nが必要となる。ここで、
n=Vout/SELV
とすれば、Vout=15KVで、SELV=48Vのときは、n=312.5倍の昇圧が必要になる。
【0005】
これを実現するためには、トランスやコッククロフトウオルトン回路(Cockcroft-Walton circuit)等のN倍整流回路等があげられる。しかし、コッククロフトウオルトン回路等のN倍整流回路は、コンデンサによる充放電で行うものであるため、瞬間的な単発出力は引き出せるが連続的に出力電力を取り出すことは困難である。したがって、安定な出力を得るには大型のトランスに頼らざるを得なかった。
【0006】
一般に、励磁巻線の巻数と出力巻線の巻数は比例関係にある。そのため、励磁巻線の巻数と出力巻線の巻数が出力電圧によってほぼ決まるため、入力電圧Vinが低く昇圧比nが非常に大きな場合には、出力巻線の巻数が必然的に多くなり、巻線間容量の増大と層間容量の増大等が起こってしまう。そのため、次のような問題が生じる。
・使用したい動作周波数でトランスとして必要なインダクタンスが得られない。
・トランスの周波数の範囲が狭い。
・誘電損失が増大する。
・高電圧による近接効果による損失が増大する。
これらによって、トランスの性能を低下させてしまう。
【0007】
従来のスイッチングコンバータとして、例えば特許文献1に記載されたものがあり、このスイッチングコンバータは、直流の入力電源を持ち、一つのトランスにて1次巻線(励磁巻線)が分割された巻線であり、その出力側に2つの出力巻線をもつ他励型ON−OFF方式の直流電源である。
【0008】
また、特許文献2に記載された高圧電源回路は、オンデューティが50%に固定され、プッシュプルモードで動作する1対のスイッチング素子によって、絶縁高圧トランスの2つの1次巻線(励磁巻線)の励磁電流をスイッチングし、1つの2次巻線(出力巻線)の出力を整流平滑して直流高電圧を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−144544号公報
【特許文献2】特許第3152298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたスイッチングコンバータや特許文献2に記載された高圧電源回路は、いずれも1個のトランスに複数の励磁巻線と出力巻線を設けて、その各出力を出力巻線の中点をとって整流平滑したり、2次側の交流出力を単に整流平滑して直流出力とするものである。そのため、出力巻線の巻数を多く巻けず、昇圧比が高い高電圧を連続して出力させることはできなかった。
また、これらはトランスの持つ磁束密度を最大限有効に活用しようとするものであるが、更に昇圧しようとすると磁束密度が飽和してしまい、それ以上昇圧することができないという不具合があった。
【0011】
この発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、高電圧インバータ装置をなるべく大型化せずに、高出力の交流高電圧を連続的に、安定的にしかも安全に得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は上記の目的を達成するため、直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された電圧を入力電圧とし、その入力電圧をスイッチングしてトランスの一次側の励磁巻線に励磁電流を流し、その該トランスの二次側の出力巻線から高電圧を出力する高電圧インバータ装置において、上記トランスを、同一の特性を持つ個別の複数のトランスによって構成し、その複数のトランスの各励磁巻線を並列又は直列に接続して同時に励磁させるようにし、その複数のトランスの各出力巻線を互いに直列又は並列に接続する。
さらに、上記複数の各トランスごとに、そのコアの外周面から所定の間隔を保ってそのトランスが発生する磁束の流れに沿う方向に上記コアを周回する無端状の金属帯を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、上記複数のトランスを共通の実装基板上に、互いに上記コアの外周面の一部を上記金属帯を介して隣り合わせにして列接するとよい。
その場合、上記複数のトランスのコアの外周面が隣り合った部分では上記金属帯を共通にすることができる。
【0014】
上記複数のトランスの各励磁巻線を並列に接続して同時に励磁させるようにし、その複数のトランスの各出力巻線を互いに直列に接続すると、最も高い電圧を出力することができる。
上記複数のトランスの各出力巻線の出力電圧波形の時間軸が同期することが望ましい。
さらに、上記複数の各トランスは、出力電圧が共振の鋭さに比例する共振トランスであるのが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明の高電圧インバータ装置によれば、上記の構成によって、高出力の高電圧を連続的に、安定的にしかも安全に得ることができる。また、複数のトランスを近接して配置しても磁気干渉を起こすことがないので、出力を低下させることなく、高電圧インバータ装置の大型化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明による高電圧インバータ装置の基本的な第1実施例の回路図である。
【図2】図1に示した第1実施例のターンON時の等価回路図である。
【図3】同じくON時の等価回路図である。
【図4】同じくターンOFF時の等価回路図である。
【図5】同じくOFF時の等価回路図である。
【0017】
【図6】図1に示した第1実施例の動作中の各部の電圧波形の変化を示すタイミングチャートである。
【図7】この発明による高電圧インバータ装置の第2実施例の回路図である。
【図8】この発明による高電圧インバータ装置の第3実施例の回路図である。
【図9】この発明による高電圧インバータ装置の第4実施例の回路図である。
【図10】この発明による高電圧インバータ装置の第5実施例の回路図である。
【図11】この発明による高電圧インバータ装置におけるトランスの数とスイッチング素子のドレイン・ソース間電圧の波高値との関係を示す曲線図である。
【0018】
【図12】この発明に使用するトランスの構造の一例を示す正面図である。
【図13】同じくその巻線部の右半部の縦断面図である。
【図14】高電圧インバータ装置を構成する3個のトランスの配設例を示す正面図である。
【図15】高電圧インバータ装置を構成する3個のトランスのこの発明による配設例を示す正面図である。
【図16】同じく他の配設例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、この発明による高電圧インバータ装置の基礎となる回路構成について説明する。
〔基本的な第1実施例:図1〜図6〕
図1は、この発明による高電圧インバータ装置の基本的な実施例である第1実施例の構成を示す回路図であり、INが入力端子であり、OUTが出力端子である(以後の実施例も同じ)。
【0020】
この図1に示す高電圧インバータ装置は、入力端子1a,1bから供給される直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された入力電圧Vinを、スイッチング素子Qswによってスイッチングして、2個のトランスT1,T2の一次側の励磁巻線NP1,NP2に同時に励磁電流を流し、その各トランス10の二次側の出力巻線NS1、NS2から高電圧を出力し、出力端子2a,2bから交流高電圧の出力電圧Vout を負荷に対して出力する。すなわち、図1においてINが入力、OUTが出力である。入力電圧Vinは安全特別低電圧(SELV)以内の電圧にするとよい。
【0021】
第一のトランスT1と第二のトランスT2は同一の特性を持つ別個のトランスであり、その励磁巻線NP1,NP2が、入力電源の正極側のa点とFET(電界効果トランジスタ)によるスイッチング素子Qswの正極側のb点との間に並列に接続されている。
そのa点とb点との間に、a点に一端を接続したコンデンサCとアノードをb点に接続したダイオードDとを直列に接続してスナバ回路を構成している。このスナバ回路は第一、第二のトランスT1,T2のリセット用およびスイッチング素子Qswの電圧抑圧用に設けられている。そのスナバ回路は、上記のダイオードDとコンデンサCの直列回路以外にも、図示していないが、コンデンサCに並列に抵抗Rを接続したいわゆるRCスナバ回路もある。
【0022】
20は発振回路を含む制御回路であり、集積回路(IC)として作られる。この制御回路20は入力端子1a,1bから供給される入力電圧Vinによって動作し、抵抗R1を介してスイッチング素子Qswのゲートにスイッチングパルスを印加してスイッチング素子Qswをオン・オフさせる。それによって、第一、第二のトランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2に断続的に同時に電流を流し、各出力巻線NS1,NS2に交流高電圧を発生させる。
【0023】
第一、第二のトランスT1、T2にはそれぞれ出力巻線NS1,NS2があり、第二のトランスT2の出力巻線NS2の上に第一のトランスT1の出力巻線NS1が積み上げられるように、出力巻線NS1と出力巻線NS2が直列に接続され、各出力巻線NS1,NS2の接続されていない方の各端子が出力端子2a,2bへ繋がる。
【0024】
ここで、出力巻線NS1,NS2からの出力は交流であるが、直流部分が少しあったときに、その直流分をカットしたい場合は出力の正極側ラインにコンデンサC0を配置する。ただし、この実施例では出力電圧が数KV〜20KVの範囲のものが対象であるため、そのコンデンサC0は出力電圧と同じ電圧以上の耐圧が必要になる。
【0025】
この高電圧インバータ装置において、スイッチング素子QswがターンONした時(Turn
ON時)には、図2に等価回路で示すようになり、入力電源の正極側から破線矢印で示すようにスナバ回路のコンデンサCとダイオードD(この時は接合間容量によりコンデンサとして機能する)を通してスイッチング素子Qswに電流が流れるが、第一、第二のトランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2には殆ど電流が流れず、出力巻線NS1,NS2にも誘起電流は殆ど流れない。
【0026】
スイッチング素子Qswが完全にオンになると、図3に等価回路で示すようになり、入力電源の正極側から破線矢印で示すように、第一、第二のトランスT1、T2の並列に接続された励磁巻線NP1,NP2とスイッチング素子Qswを通して電流が流れ、その第一、第二のトランスT1、T2の出力巻線NS1,NS2にも破線矢印で示すように誘起電流が流れ、出力電圧が得られる。
スイッチング素子QswがターンOFFした時(Turn OFF時)には、図4に等価回路で示すようになり、スナバ回路のコンデンサCの充電電荷が放電する。このときダイオードDは、順方向電圧が閾値になるまでの順方向回復時間の間は接合容量によりコンデンサとして機能する。
【0027】
スイッチング素子Qswが完全にオフになると、図5に等価回路で示すようになり、第一、第二のトランスT1、T2の並列に接続された励磁巻線NP1,NP2に逆起電圧が発生し、それが破線矢印で示すようにスナバ回路のダイオードD(このときは導通状態になる)とコンデンサCを通して流れるとともに、開放したスイッチング素子Qswのソース・ドレイン間(この時はコンデンサとして機能する)を通して入力電源側へも流れる。各出力巻線NS1,NS2にも逆起電圧が発生し、それにより出力端子2a,2bに接続された負荷に電流を流す。
【0028】
スイッチング素子Qswが周期的にオン・オフすることによって、上述した各状態を繰り返すことになる。そのときの各部の電圧波形の変化を図6のタイミングチャートに示す。この図6における各波形の大小の比率、絶対値、時間軸の比率及び大小の相関は正確なものではない。
【0029】
この図6において、Vgsはスイッチング素子Qswのドライブ電圧(ゲート・ソース間電圧)、VNp1、VNp2は励磁巻線NP1,NP2の電圧、Idsはスイッチング素子Qswに流れる電流、Vdsはスイッチング素子Qswのドレイン・ソース間電圧、VNout1は第一のトランスT1の出力巻線NS1の出力電圧、VNout2は第二のトランスT2の出力巻線NS2の出力電圧、Voutは出力端子2a,2bからの出力電圧である。そして、この図6から明らかなように、各出力巻線NS1とNS2の出力電圧VNout1とVNout2の波形の時間軸が同期している。
そのために、トランスT1、T2の特性が同じであることに加えて、スイッチング素子Qswのドレイン端子と各トランスの励磁巻線NP1,NP2の負極側端子との各接続線の長さが略同じになるように、スイッチング素子Qswを配置するのが望ましい。
【0030】
このように、この発明による高電圧インバータ装置は、磁路が全く違う別個のコアを持つ同じ特性を持つトランスを少なくとも2個以上設け、その各励磁巻線を同時に励磁し、好ましくは出力側において各出力巻線の出力電圧波形の時間軸を同期させ、その各出力を電圧加算あるいは電流加算する。上述した実施例では、2個のトランスT1、T2の出力巻線NS1,NS2の各出力を電圧加算によって積み上げ昇圧している。したがって、複数の励磁巻線に偏磁が生じることがなく、トランス全体として出力巻線の巻数を多くすることができるので、昇圧比が高い高電圧を連続して、安定にしかも安全に得ることができる。
【0031】
〔トランス2個の他の実施例:図7〜9〕
次に、トランスを2個使用した高電圧インバータ装置の他の実施例である第2〜第4実施例を、図7〜図9によって説明する。これらの図において、図1と同じ部分には同一の符号を付してあり、それらの説明は省略する。
図7に示す第2実施例では、同一の特性を持つ別個の第一、第二のトランスT1、T2の出力巻線NS1,NS2は、各出力が電流加算されるように並列に接続されて、出力端子2a,2bへ繋がっている。この実施例によれば、出力電圧Voutはトランスが1個の場合と略同等であるが、出力直電流を倍増できるので出力電力も倍増する。
【0032】
この各トランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2が入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極間に並列に接続されていることは、図1に示した第1実施例と同じである。その他の構成及び作用も第1実施例と同様である。
【0033】
図8に示す第3実施例においては、別個に設けた同一の特性を持つ第一、第二のトランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2、入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極との間に直列に接続している。そして、その入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極との間にスナバ回路を構成するダイオードDとコンデンサCの直列回路も接続されている。
【0034】
第一、第二のトランスT1、T2の出力巻線NS1,NS2は、第2実施例と同様に出力が電流加算されるように並列に接続されて、出力端子2a,2bへ繋がっている。
その他の構成及び作用は、前述した第1実施例と同様である。
【0035】
図9に示す第4実施例においては、別個に設けた同一の特性を持つ第一、第二のトランスT1、T2の励磁巻線NP1,NP2は、第3実施例と同様に入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極との間に直列に接続されている。
しかし、第一のトランスT1の出力巻線NS1と第二のトランスT2の出力巻線NS2とが、出力巻線NS1の上に出力巻線NS2が積み上げられるように直列に接続され、それぞれ接続されていない各端子が出力端子2a,2bへ繋がっている。
その他の構成及び作用は第1実施例と同様である。
【0036】
〔トランス3個の実施例:図10〕
次に、トランスを3個使用した高電圧インバータ装置である第5実施例を図10によって説明する。
この第5実施例においては、別個に設けた同一の特性を持つ3個のトランスを使用しており、その第一のトランスT1、第二のトランスT2、第三のトランスT3の各励磁巻線NP1,NP2,NP3が、入力電源の正極とスイッチング素子Qswの正極との間に並列に接続されている。その各トランスT1、T2、T3の出力巻線NS1,NS2,NS3は全て直列に接続され、その出力巻線NS1とNS3のそれぞれ接続されていない方の端子が出力端子2a,2bへ繋がっている。
【0037】
この第5実施例によれば、3個のトランスT1、T2、T3の出力巻線NS1,NS2,NS3の各出力を電圧加算によって積み上げ昇圧しているので、一層高い高電圧出力を得ることができる。
【0038】
なお、同一の特性を持つ3個のトランスT1、T2、T3の各励磁巻線NP1,NP2,NP3を第3、第4実施例と同様に全て直列に接続してもよい。また、その各トランスT1、T2、T3の出力巻線NS1,NS2,NS3を全て並列に接続してもよい。また、それぞれ別個に設けた同一の特性を持つトランスは4個以上でもかまわない。
しかし、現実的には、そのトランスの数は、配置やパターン等が数とともに大きくなるため、不要輻射等のEMIに課題を残すことになるため、4個位までがよいと思われる。
【0039】
各トランスの励磁巻線は直列に接続しても並列に接続しても、ほぼ均一な分割された個々の磁界の強さが必要な強さになればよい。
また、第2〜第5実施例においても、出力の直流成分をカットしたい場合には、第1実施例と同様に出力線にコンデンサC0を設けるとよい。
【0040】
〔共振トランスとその使用個数〕
この発明による高電圧インバータ装置における各トランスT1〜T3は共振トランスを用いるのが望ましい。共振トランスではフライバック方式で高電圧を得るため、エネルギーが一次側からトランスに注入される期間と二次側から取り出される期間とが交互になる。すなわち、一次側のスイッチング素子QswがONの期間にエネルギーが励磁エネルギーとして各トランスに蓄えられ、そのスイッチング素子QswがOFFの期間にそれを二次側に吐き出すような動作をする。そのため、各トランスは、スイッチング素子Qswのスイッチング周波数fsw以上の自己共振周波数fo(fsw ≦fo)で共振する。
【0041】
励磁巻線への電圧印加のON期間(時間)とOFF期間(時間)の割合である時比率が50%:50%の場合はfsw=foである。しかし、高電圧高電流を出力するためには、トランスに励磁エネルギーを蓄えるON期間をなるべく長くする必要がある。ON期間の割合が50%を超えるようにするのはそのためであり、有効な出力を得るためにはON期間の割合が55%以上あることが望ましい。
【0042】
スイッチング周波数fswは可聴音周波数を充分に超える周波数、例えば20KHzの一定周波数に固定する。そして、スイッチング素子QswのONデューティが上記時比率のON期間に相当する割合になるように、図1等に示した制御回路ICから出力するスイッチングパルスの周期(1/fsw)とONデューティを予め設定する。
【0043】
このような共振トランスを使用した高圧インバータ装置において、実験を積み重ねた結果、入力電圧:Vin、共振の鋭さ:Qe、スイッチング素子Qswのドレイン・ソース間電圧:Vds、出力電圧:Vout 、巻線比(出力巻線のターン数/励磁巻線のターン数):Nps、およびトランスの数:Nの間に、次の理論式が成り立つことが分かった。
・Vds=Vout/(N・Nps)
・Vout=Qe・Vin
【0044】
したがって、出力電圧Voutは共振の鋭さQeに比例し、Qeを大きくすれば巻線比をあまり大きくしなくても充分な昇圧を達成することができる。
ここで、共振の鋭さQeについて説明する。周波数に対する共振電流の特性をとると、共振周波数foで共振電流が最大値になるが、その前後の周波数で共振電流が最大値の1/√2になる周波数の幅(半値幅という)をΔfとすると、Qe=fo/Δfで表される無次元数である。
【0045】
そして、図1及び図10に示した実施例のように、複数個のトランス(共振トランス)の各励磁巻線を並列に接続し、各出力巻線を直列に接続した場合、そのトランスの数(個数)Nとスイッチング素子Qswのドレイン・ソース間電圧の波高値Vds(Vp-0)との関係は、Qeを一定とした場合、図11に破線で示す曲線のように変化した。
すなわち、接続するトランスの数Nが多くなるほど、ドレイン・ソース間電圧の波高値Vds(Vp-0)の低下が認められた。図11に示す例では、トランスが2個の場合にはVds(Vp-0)が560Vであるが、トランスが3個の場合はVds(Vp-0)が384Vである。
【0046】
このことは、接続するトランスの数を多くするほど、スイッチング素子Qswの耐圧が低くて済み、MOS−FETであればON抵抗の低い素子を使えることになる。例えば、MOS−FETを3個並列駆動する必要があるところを2個並列駆動でもよいことになる。
実例として、入力電圧Vinが56V、出力電圧Vout が10.5KV、平均出力が20W〜800Wの場合、トランス2個では耐圧が900Vのところ、トランス3個にすると耐圧が600Vになる。それによって、スイッチング素子QswのON抵抗が著しく低下し、効率(出力電力/入力電力)が大幅に向上する。図10に示した実施例の場合、79.4%の効率を得ることができた。
【0047】
トランス配置のループ長や面積を考慮しなければ、トランスの数を多くした方が効率が向上し、不要輻射などのノイズの低減にも寄与する。しかし、実際にはトランスの数に応じてループ長や設置面積が大きくなってしまうため、不要輻射の発生や装置サイズの問題も生じるので、トランスの数は4個位までが実用的な範囲であると考えられる。
【0048】
〔トランス構造とその配置及び金属帯による磁気干渉防止〕
ここで、この発明による高電圧インバータ装置に使用するトランスの構造の一例を図12及び図13によって説明する。図12はそのトランスの正面図、図13はその巻線部の右半部の縦断面図である。
図12に示すトランス10はコア11と巻線部12とからなる。コア11はフェライト等の磁性材からなり、この例では両側部11bとその間の空間を仕切る中足(中央磁脚)11aを有するE字状のコアを2個向かい合わせに重ねたような形状をなす、例えばFEER42L型のコアである。
【0049】
このコア11は、矢印線H1,H2で示すように、中足11aと一方の側部11bを通る磁路及び中足11aと他方の側部11bを通る磁路との2磁路を形成しており、その中足11aの長さ方向の中央部に2磁路分の磁気抵抗となるギャップGrを、磁路に直交する方向に設けて磁束飽和を抑制している。組み付けの便宜上、両側部11bも上下に分割されているが、互いに密着してギャップを形成せず、磁気抵抗とならないようにしている。ギャップGrは空隙に限らず絶縁材等の非磁性材を介在させてもよい。
【0050】
コアの磁路に磁気抵抗を設けることによって、磁路から磁束が離れる漏れ磁束が生じるが、磁束飽和が抑制され、すぐに飽和しなくなり磁界の強さの幅がとれるので制御しやすくなる。磁界の強さに応じて磁束密度が変化し、それがインダクタンスの大きさに比例する。そして、このコア11の中足11aを巻き芯として、両側部11b,11bとの間の空間を埋めるように巻線部12を設けている。
この例では図示していないが、巻線するために予め中足11aを覆うように樹脂製のボビンを装着し、その上に巻線部12を巻装するのが一般的である。
【0051】
そして、巻線部12は図13に示すように、コア11の中足11aに出力巻線NSを略同じ巻き幅の複数層の巻線NS1〜NS4に分割(この例では4分割)して積層して巻装し、その外側に誘電体でなる絶縁層Esを介して励磁巻線NPを出力巻線NSと略同じ巻き幅で巻装している。その出力巻線NSの分割された各層の最下層の巻線NS1と中足11aとの間および隣接する各層間にも、それぞれ誘電体でなる絶縁層Esを設けている。励磁巻線NPは1層で所定巻き数だけ巻装し、その上を絶縁被覆層12aで被覆している。巻線NS1〜NS4は直列に繋がって励磁巻線NPに対して所定巻数比の出力巻線NSを形成している。
【0052】
このトランス10の励磁巻線NPに励磁電流が流れると、図12のコア11内に矢印線H1,H2で示す方向に磁束が発生するが、その外部にも破線の円13で示すような範囲に漏れ磁束が発生する。
この発明による高電圧インバータ装置は、このようなトランスを前述した各実施例のように複数個使用する。例えば、図10によって説明した第5実施例の場合、3個のT1〜T3(それぞれ図12に示したトランス10に相当する)を、図14に示すように、実装基板15上に互いにコア11の外周面の一部である側面11cを隣り合わせて列設する。
【0053】
図14に示す各トランスT1〜T3は、それぞれ個別のコア11による磁路と巻線部12を持ち、個別に磁束を発生する。しかも高電圧を発生するので磁束変化が非常に大きいため、その漏れ磁束によって隣接するトランス間で磁気干渉を起こす。そのため、各トランスに偏磁が生じたり、磁気抵抗を持って消磁したりする。それによって、共振状態がずれたり前述した共振の鋭さQeが低下して、各トランスの出力巻線に発生する交流電圧を電圧加算した電圧である出力電圧(Vout=Qe・Vin)が低下し、充分な出力が得られなくなるという問題が生じる。
【0054】
この出力電圧の低下率は、磁気干渉が全くない場合と比べて5%〜20%程度になり、隣接するトランス間の間隔Dが小さくなるほど磁気干渉が増加するため、この低下率が大きくなる。
そこで、隣接するトランス間の磁気干渉を防ぐためには、隣接するトランス間の間隔Dsを拡げればよいことになる。しかし、そうすると、図10に示したスイッチング素子Qswから各トランスT1〜T3の励磁巻線NP1〜NP3までの配線距離が長くなり、パターンループ長やパターン面積が増大して、スイッチング制御が不安定になったり、不要な輻射ノイズの影響が増大するなどの問題が出てくる。また、高電圧インバータ装置が大型化する要因にもなる。
【0055】
この発明による高電圧インバータ装置はこの問題を解消するため、複数の各トランスごとに、そのコアの外周面から所定の間隔を保ってそのトランスが発生する磁束の流れに沿う方向にコアを周回する無端状の金属帯を設けている。
【0056】
例えば、図15に示す実施例では、高電圧インバータ装置を構成する各トランスT1、T2、T3ごとに、それぞれコア11の外周面から所定の距離dを保って、各トランスが発生する磁束の流れに沿う方向、すなわちコア11の外周に沿う方向に、コア11を周回する無端状(この例では四角筒のリング状)の金属帯17を設けている。この金属帯17は導電性のよい金属板で形成される。コア11の外周面と金属帯17の内周面との距離dは、3〜10mm程度、好ましくは3〜6mm程度がよい。
この金属帯17には、漏れ磁束を電流に変え且つ不要輻射ノイズを発生させないために、燐青銅あるいは銅やアルミニウムなどの反磁性(非磁性)金属を使用するのが望ましいが、鉄などの磁性金属を使用しても十分効果はある。
【0057】
したがって、3個のトランスT1〜T3が、共通の実装基板15上に、互いにコア11の外周の一部である側面11cを金属帯17を介して隣り合わせにして列接される。
各トランスT1〜T3のコア11の底面11dと実装基板15の上面との間には、コア11の外周と金属帯17との間隔を距離dに保つためのスペーサ18を介在させている。そのスペーサ18は、樹脂などの電気絶縁性が高く非磁性の材料によって形成される。
コア11の上面や側面と金属帯17との間にも、距離dに保つために必要であれば適宜スペーサを設けてもよい。
【0058】
この実施例によれば、各トランスT1〜T3の磁路から外れた漏れ磁束(破線の円13参照)は、それを打ち消すように電流を流そうとするが、金属帯17によって漏れ磁束自体をショートすることにより、このような磁界から電界あるいは電界から磁界という特性の変化が皆無となる。漏洩磁束は抵抗のない金属帯17を急速に通り、その外側には出なくなる。
【0059】
このように構成することによって、高電圧インバータ装置を構成する複数のトランスT1、T2、T3を近付けて、隣接するトランスのコア11の間隔Dsを小さくして配列しても、磁気干渉を起こすことがないので出力電圧が低下することがない。そして、装置の大形化を防げるとともに、配線距離を短くできるので、スイッチング制御が不安定になったり不要な輻射ノイズの影響が増大することもなくなる。
【0060】
図16は、高電圧インバータ装置を構成する複数のトランスT1、T2、T3を一層近付けて配列できるようにした実施例を示す。
この実施例における金属帯19は、各トランスT1、T2、T3のコア11の外周面から所定の距離dを保って、そのコア11を周回する無端状の金属帯を一体化して、複数のトランスのコア11の外周面が隣り合った部分には、その金属帯19の共通の仕切部19aを介在させるようにしている。
【0061】
このようにすれば、隣接する複数のトランスの各コア11を周回する金属帯の間隔をなくすことができるので、複数のトランスを一層接近させて(間隔Dsをより小さくして)コンパクトに配設することができる。その他の構成及び作用は、図15の実施例と同様である。
【0062】
なお、図15及び図16に示したトランスの配設例は、3個のトランスを使用する図10に示した第5実施例の場合であるが、2個のトランスを使用する図1及び図7〜図9に示した第1〜第4実施例の場合にも同様に適用できる。その場合は、2個の金属帯17又は仕切部19aが1つの金属帯19によって、2個のトランスT1,T2の各コア11の外周面から所定の距離dを保ってそのコア11を周回させ、そのトランスT1,T2を実装基板15上に互いに近接させて配設することができる。4個以上のトランスを使用する場合も同様である。
【0063】
以上、この発明による高電圧インバータ装置の各実施例について説明してきたが、この発明はこれらに限るものではなく、種々の変形が可能であり、各実施例は矛盾しない範囲で、適宜組み合わせて実施することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
この発明は、スイッチングレギュレータ、インバータ、高電圧電源、放電用電源等の高電圧発生装置に利用することができる。特に、印刷物の表面処理等を行うための大気圧プラズマを発生させるための高出力の高電圧を、連続的に安定して、しかも安全に得られるようにするのに適している。
【符号の説明】
【0065】
1a,1b:入力端子 2a,2b:出力端子 10:トランス(共振トランス)
11:コア 11a:中足 11c:コアの側面 11d:コアの底面
12:巻線部 12a:絶縁被覆層 15:実装基板 17:金属帯
18:スペーサ 19:金属帯 19a:仕切部 20:制御回路
T1,T2,T3:トランス(共振トランス) Qsw:スイッチング素子
D:ダイオード C,C0:コンデンサ R1:抵抗
NP,NP1,NP2,NP3:トランスの励磁巻線
NS,NS1,NS2,NS3:トランスの出力巻線
Vin:入力電圧 Vout:出力電圧 Es:絶縁層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された電圧を入力電圧とし、該入力電圧をスイッチングしてトランスの一次側の励磁巻線に励磁電流を流し、該トランスの二次側の出力巻線から高電圧を出力する高電圧インバータ装置において、
前記トランスを、同一の特性を持つ個別の複数のトランスによって構成し、該複数のトランスの各励磁巻線を並列又は直列に接続して同時に励磁させるようにし、該複数のトランスの各出力巻線を互いに直列又は並列に接続し、
前記複数の各トランスごとに、そのコアの外周面から所定の間隔を保って該トランスが発生する磁束の流れに沿う方向に前記コアを周回する無端状の金属帯を設けたことを特徴とする高電圧インバータ装置。
【請求項2】
前記複数のトランスを共通の実装基板上に、互いに前記コアの外周面の一部を前記金属帯を介して隣り合わせにして列接したことを特徴とする請求項1に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項3】
前記複数のトランスの前記コアの外周面が隣り合った部分では前記金属帯を共通にしたことを特徴とする請求項2に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項4】
前記複数のトランスの各励磁巻線を並列に接続して同時に励磁させるようにし、該複数のトランスの各出力巻線を互いに直列に接続したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項5】
前記複数のトランスの各出力巻線の出力電圧波形の時間軸が同期するようにしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項6】
前記複数の各トランスは、出力電圧が共振の鋭さに比例する共振トランスであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項1】
直流電圧若しくは直流成分に脈流が重畳された電圧を入力電圧とし、該入力電圧をスイッチングしてトランスの一次側の励磁巻線に励磁電流を流し、該トランスの二次側の出力巻線から高電圧を出力する高電圧インバータ装置において、
前記トランスを、同一の特性を持つ個別の複数のトランスによって構成し、該複数のトランスの各励磁巻線を並列又は直列に接続して同時に励磁させるようにし、該複数のトランスの各出力巻線を互いに直列又は並列に接続し、
前記複数の各トランスごとに、そのコアの外周面から所定の間隔を保って該トランスが発生する磁束の流れに沿う方向に前記コアを周回する無端状の金属帯を設けたことを特徴とする高電圧インバータ装置。
【請求項2】
前記複数のトランスを共通の実装基板上に、互いに前記コアの外周面の一部を前記金属帯を介して隣り合わせにして列接したことを特徴とする請求項1に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項3】
前記複数のトランスの前記コアの外周面が隣り合った部分では前記金属帯を共通にしたことを特徴とする請求項2に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項4】
前記複数のトランスの各励磁巻線を並列に接続して同時に励磁させるようにし、該複数のトランスの各出力巻線を互いに直列に接続したことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項5】
前記複数のトランスの各出力巻線の出力電圧波形の時間軸が同期するようにしたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の高電圧インバータ装置。
【請求項6】
前記複数の各トランスは、出力電圧が共振の鋭さに比例する共振トランスであることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の高電圧インバータ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−239288(P2012−239288A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106279(P2011−106279)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000221937)東北リコー株式会社 (509)
【Fターム(参考)】
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