説明

高電圧コイル

【課題】高温下での絶縁性と剛性とに優れた高電圧コイルを提供する。
【解決手段】ボビンと前記ボビンに巻回された導線と前記導線を封止する封止剤とを有し、前記封止剤が、下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)で表される繰返し単位を有する液晶ポリエステルを形成材料として含み、前記液晶ポリエステル中のm−フェニレン基を有する繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、0モル%以上6.5モル%以下である。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Ar:フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基;Ar,Ar:フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基、下記式(4)で表される基;X,Y:酸素原子、イミノ基)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar,Ar:フェニレン基、ナフチレン基;Z:酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキリデン基)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電力制御用のパワーリレー、電源トランスやDC−DCコンバーター等のスイッチングトランス、プラグ点火用のコイル等に用いられる高電圧コイルは、一般に100ボルト以上の電圧が印加される状況で使用され、射出成形などによる樹脂部品がその外周にマグネットワイヤーを巻線して用いられる。
【0003】
このような高電圧コイルを、例えばハイブリッド自動車のエンジン周りの電気系統で用いる場合、自動車の軽量化や、材料の使用量削減の点から、薄肉化できるように十分な絶縁耐圧を持つことが求められる。併せて、エンジンルームなどの高温環境で用いられ、通電下の発熱により、100℃以上での絶縁耐圧が求められる。
【0004】
従来、高電圧コイルの形成材料として、ポリフェニレンオキサイドとポリスチレン混合組成物が広く用いられてきた。また、近年では、液晶ポリマー等の材料も用いることが検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−15928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような高電圧コイルは、使用環境や通電による加熱で高温となる。そのため、高電圧コイルの高温環境下における剛性が低い場合、反りや変形が生じるおそれがある。また、高電圧コイルは、高電圧が印加されることから、高温環境下での絶縁耐圧が弱い場合、絶縁破壊が生じ信頼性が低下するおそれがある。
【0007】
しかし、上記特許文献においては、このように予想される課題に対する検討が充分開示されておらず、液晶ポリマーを形成材料に用いた高電圧コイルについて、検討の余地があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、高温下での絶縁性および剛性に優れた高電圧コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、ボビンと、前記ボビンの巻回部に巻回された導線と、前記ボビンとの間に前記導線を封止する封止剤と、を有し、前記封止剤が、下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)で表される繰返し単位を有する液晶ポリエステルを形成材料として含み、前記液晶ポリエステル中のm−フェニレン基を有する繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、0モル%以上6.5モル%以下である高電圧コイルを提供する。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0010】
本発明においては、前記Arが、p−フェニレン基または2,6−ナフチレン基であり、前記Arが、p−フェニレン基、m−フェニレン基または2,6−ナフチレン基であり、前記Arが、p−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基であり、前記Xおよび前記Yが、酸素原子であることが望ましい。
【0011】
本発明においては、前記液晶ポリエステルが、全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有することが望ましい。
【0012】
本発明においては、前記液晶ポリエステルとガラス繊維とを含む組成物を形成材料とすることが望ましい。
【0013】
本発明においては、前記ガラス繊維の含有量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下であることが望ましい。
【0014】
本発明においては、前記ボビンが、前記液晶ポリエステルを形成材料として含むことが望ましい。
【0015】
本発明においては、前記ボビンが、前記封止剤と同じ形成材料を用いて形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温下での絶縁性および剛性に優れた高電圧コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の高電圧コイルを有するリレーを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態の高電圧コイルは、ボビンと、前記ボビンの巻回部に巻回された導線と、前記ボビンとの間に前記導線を封止する封止剤と、を有し、前記封止剤が、下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)で表される繰返し単位を有する液晶ポリエステルを形成材料として含み、前記液晶ポリエステル中のm−フェニレン基を有する繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、0モル%以上6.5モル%以下である。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0019】
本実施形態の高電圧コイルは、例えば、電源制御用のパワーリレー(リレー)、電源トランス、DC−DCコンバーター等のスイッチングトランスとして用いることができる。
【0020】
リレーは、高電圧の直流電流が流れる回路において、電極(接点)の接触または非接触により、回路の導通または非導通を切り替える装置である。このようなリレーにおいては、装置内の高電圧コイルに印加することにより、開閉可能に設けられた一対の電極の一方(可動電極)を可動させるリニアソレノイドを構成している。
【0021】
電源トランスは、入力巻線(1次巻線)に入力される交流電流により、周期的に変化する磁場を発生させ、当該磁場を相互インダクタンスで結合された出力巻線(2次巻線)に伝えることにより、2次巻線に電流を生じさせる。このとき、各巻線の巻数を変更することにより、入力される交流電流よりも高い電圧(昇圧)または低い電圧(降圧)に変換する。このような電源トランスにおいては、各巻線が巻かれるコイルとして高電圧コイルが用いられる。
【0022】
スイッチングトランスは、スイッチング電源に用いられ、上述の電源トランスと同様に、入力される直流電力から、電圧を変化させた異なる直流電力に変換する装置である。このようなスイッチングトランスにおいても、各巻線が巻かれるコイルとして高電圧コイルが用いられる。
【0023】
以下、本実施形態の高電圧コイルを有するリレーについて、図を用いて説明しながら、本実施形態の高電圧コイルについて説明する。
図1は、本実施形態の高電圧コイルを有するリレーの概略断面図である。本実施形態のリレー1は、接点封止部10と駆動部20とを有する、いわゆるプランジャー形のリレーである。
【0024】
接点封止部10は、筐体11と、筐体11内に挿入された固定電極12と、を有している。筐体11は、開口部111aを有し絶縁性の材料を用いて設けられるとともに、電極を収容する空間(内部空間S1)を有する基体111と、基体111の開口部111aを閉じるように設けられた金属製の蓋材112と、を有している。
【0025】
基体111は、例えばセラミックスのような、樹脂材料よりもガス透過率が低い絶縁性材料を用いて形成されており、基体111と金属製の蓋材112で囲まれた内部空間Sは、高い気密性を有する空間となっている。内部空間S1には、例えば水素やヘリウム,アルゴン,窒素,6フッ化イオウ(SF)等を主体としたガスが加圧状態で封入され、気密に封止されている。
【0026】
筐体11において、基体111の蓋材112に対向する壁面には2つの貫通孔11aが設けられている。貫通孔11aには、固定電極12が挿入され接合されている。固定電極12は、筐体11の内外を接続する端子121と、端子121の筐体内側の端部に設けられた接点122と、を有している。
【0027】
また、蓋材112における内部空間S1側の面の全面を覆って、アーク遮蔽板15が設けられている。アーク遮蔽板15は、蓋材112の表面に設けられる1mm厚〜2mm厚の板状の部材であり、蓋材112の表面を絶縁している。なお、アーク遮蔽板15は、蓋材112と一体の部材として形成されることとしてもよく、蓋材112と別体の部材として形成されることとしてもよい。
【0028】
駆動部20は、内部空間S2を有する基体21と、内部空間S2に収容された非磁性体製のボビン22と、ボビン22の外周に巻かれて形成された導線23と、ボビン22の内周側に一部が挿入された軸部24と、ボビン22の一端に設けられるともに、軸部24が挿通する鉄製の固定鉄芯25と、軸部24の一端側24aに設けられた可動電極26と、可動電極26に設けられた接点27と、固定鉄芯25と蓋材112との間に設けられたばね28と、を有している。
【0029】
導線23は、絶縁性の樹脂材料である封止剤23aによってボビン22との間に封止されている。ボビン22と導線23と封止剤23aとが、本発明の高電圧コイル100に該当する。封止剤23aについては後に詳述する。
【0030】
接点封止部10の蓋材112およびアーク遮蔽板15には、連通する貫通孔11bが設けられており、軸部24は貫通孔11bに挿通されている。軸部24の一端側24aは、接点封止部10の内部空間S1に位置し、可動電極26は内部空間S1に配置されている。可動電極26の接点27は、固定電極12の接点122と対向して設けられている。
【0031】
軸部24の他端側には磁性体で形成されたコア24bが設けられており、導線23と、コア24bを有する軸部24と、がリニアソレノイドを形成している。
【0032】
このようなリレー1では、高電圧コイル100(導線23)に高電圧の電流を通電すると、生じる磁界によってコア24bが励磁し、励磁したコア24bが鉄製の固定鉄芯25に引き寄せられることにより、軸部24全体がボビン22の内部からボビン22の外部に移動する。そのため、軸部24の一端側24aでは、可動電極26の接点27と、固定電極12の接点122とが接続する。このとき、ばね28が圧縮される。
【0033】
一方、導線23への通電を停止すると、ばね28が弾性回復するために、可動電極26の接点27が、固定電極12の接点122と離間する。
以上のようにしてリレー1では、接点の開閉を行っている。
【0034】
(液晶ポリエステル)
本実施形態の高電圧コイル100を構成する封止剤は、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0035】
そして、本実施形態では、液晶ポリエステルとして、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」と称することがある)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」と称することがある)と、式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」と称することがある)と、を有し、液晶ポリエステル中のm−フェニレン基を有する繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、0モル%以上6.5モル%以下であるものを用いる。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0036】
ここで、本明細書において「全繰返し単位の合計量」とは、液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値のことである。
【0037】
これにより、封止剤を構成する液晶ポリエステルの骨格が剛直なものとなり、高温下での剛性に優れ、反りなどの変形が生じにくい高電圧コイルとなる。また、このような骨格を有する液晶ポリエステルは、メソゲン部分が結晶化し、高密度になりやすいため、高温下での絶縁性に優れ隣り合う端子間の距離が短くても絶縁破壊が生じ難い高電圧コイルを得ることができる。
【0038】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0039】
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。
【0040】
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。
【0041】
Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar、Ar又はArで表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0042】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10である。
【0043】
上記液晶ポリエステルがm−フェニレン基を含む繰返し単位を有する場合、m−フェニレン基は、繰返し単位(1)〜繰り返し単位(3)のいずれに含まれていてもよい。
m−フェニレン基を有する繰返し単位の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは6モル%以下、より好ましくは4モル%以下、さらに好ましくは3モル%以下である。また、m−フェニレン基を有する繰返し単位の含有量が少ないほど、封止剤の絶縁性が向上し易いが、あまり少ないと、液晶ポリエステルが成形し難くなるため、m−フェニレン基を有する繰返し単位の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、1モル%以上であることが好ましい。
【0044】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、及びArが2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0045】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Arがm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Arが2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0046】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Arがp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、及びArが4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0047】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、30モル%以上、好ましくは30モル%以上80モル%以下、より好ましくは40モル%以上70モル%以下、さらに好ましくは45モル%以上65モル%以下である。
【0048】
繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、35モル%以下、好ましくは10モル%以上35モル%以下、より好ましくは15モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0049】
繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、35モル%以下、好ましくは10モル%以上35モル%以下、より好ましくは15モル%以上30モル%以下、さらに好ましくは17.5モル%以上27.5モル%以下である。
【0050】
繰返し単位(1)の含有量が多いほど、溶融流動性や耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶融温度や溶融粘度が高くなり易く、成形に必要な温度が高くなり易い。
【0051】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、通常0.9/1〜1/0.9、好ましくは0.95/1〜1/0.95、より好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0052】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0053】
このような液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)を与えるモノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸)と、繰返し単位(2)を与えるモノマー(芳香族ジカルボン酸)と、繰返し単位(3)を与えるモノマー(芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミン)とを、重合(重縮合)させることにより、製造することができる。その際、m−フェニレン基を含むモノマーの量が、全モノマーの合計量に対して、0モル%以上6.5モル%以下になるように調整する。
【0054】
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0055】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
【0056】
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0057】
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0058】
また、液晶ポリエステルは、モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0059】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは280℃以上、より好ましくは290℃以上、さらに好ましくは295℃以上であり、また、通常380℃以下、好ましくは350℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や溶融張力が向上し易いが、あまり高いと、溶融させるために高温を要し、成形時に熱劣化し易くなる。
【0060】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0061】
本実施形態の封止剤の形成材料は、上述の液晶ポリエステルに充填材、添加剤、液晶ポリエステル以外の樹脂等の他の成分を1種以上配合して、液晶ポリエステル組成物として用いてもよい。
【0062】
充填材は、繊維状充填材であってもよいし、板状充填材であってもよいし、繊維状及び板状以外で、球状その他の粒状充填材であってもよい。また、充填材は、無機充填材であってもよいし、有機充填材であってもよい。
【0063】
繊維状無機充填材の例としては、ガラス繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等のセラミック繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカー等のウイスカーも挙げられる。
【0064】
繊維状有機充填材の例としては、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が挙げられる。
【0065】
板状無機充填材の例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ガラスフレーク、硫酸バリウム及び炭酸カルシウムが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
【0066】
粒状無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ガラスビーズ、ガラスバルーン、窒化ホウ素、炭化ケイ素及び炭酸カルシウムが挙げられる。
【0067】
これらの充填材の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0068】
中でも液晶ポリエステルにガラス繊維を配合することにより、封止剤にガラス繊維を含ませると、封止剤の強度、延いては高電圧コイルの強度が向上し易いので、好ましい。
【0069】
ガラス繊維の量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは10質量部以上100質量部以下、より好ましくは30質量部以上100質量部以下、さらに好ましくは30質量部以上80質量部以下である。ガラス繊維の量があまり少ないと、強度向上効果が不十分であり、あまり多いと、異方性が生じ易くなる。
【0070】
また、ガラス繊維は、その数平均繊維径が好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下であり、その数平均繊維長が好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下である。ガラス繊維の数平均繊維径及び数平均繊維長は、電子顕微鏡で観察することにより測定できる。
【0071】
添加剤の例としては、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、難燃剤及び着色剤が挙げられる。添加剤の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上5質量部以下であることが好ましい。
【0072】
液晶ポリエステル以外の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリアミド、液晶ポリエステル以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。液晶ポリエステル以外の樹脂の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0073】
液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル及び必要に応じて用いられる他の成分を、押出機を用いて溶融混練し、ペレット状に押し出すことにより調製することが好ましい。押出機としては、シリンダーと、シリンダー内に配置された1本以上のスクリュウと、シリンダーに設けられた1箇所以上の供給口とを有するものが、好ましく用いられ、さらにシリンダーに設けられた1箇所以上のベント部を有するものが、より好ましく用いられる。
【0074】
高電圧コイルの成形は、溶融成形法により行うことが好ましく、射出成形法により行うことがより好ましい。すなわち、射出成形で得られたボビンに導線を巻回したものを、再度射出成形機の金型内に設置し、上述の液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステル組成物を射出成形することにより、封止剤にて導線を封止して高電圧コイルを成形する。そのため、ボビンは、封止剤の加工温度において変形しない程度の耐熱性が求められる。
【0075】
このとき、ボビンの形成材料として上述の液晶ポリエステルまたは液晶ポリエステル組成物を用いることとすると、ボビンにも高い耐熱性と絶縁性を付与することができ好ましい。さらに、ボビンの形成材料と封止剤の形成材料とに共通の材料を用いると、ボビンと封止剤との界面が剥離しにくい信頼性の高い高電圧コイルとすることができるため、より好ましい。
【0076】
以上のような構成の高電圧コイルは、高温下での絶縁性および剛性に優れたものとなる。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0078】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
本実施例においては、m−フェニレン基を含む繰返し単位を与えるモノマーとしてイソフタル酸を用い、イソフタル酸の使用率を変更した液晶ポリエステルを重合した。そして、高電圧コイルの封止剤のモデルサンプルとして、このような液晶ポリエステルを用いた平板状の試験片を成形した後、当該試験片について耐熱性および耐電性を測定することで、各液晶ポリエステルを用いた成形体の耐熱性および耐電性を確認した。
【0080】
〔流動開始温度〕
液晶ポリエステルの流動開始温度は、フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて測定した。液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたフローテスターのシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下において、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出しながら溶融粘度を測定し、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度を流動開始温度とした。
【0081】
〔合成例1:液晶ポリエステル(1)〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸828.8g(6.0モル)、テレフタル酸473.4g(2.85モル)、イソフタル酸24.9g(0.15モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル558.6g(3.0モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。
【0082】
次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。
【0083】
得られた固形物を、粉砕機で粉砕し、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から320℃まで5時間かけて昇温し、320℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(1)を得た。
【0084】
この液晶ポリエステル(1)は、全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を50モル%、テレフタル酸に由来する繰返し単位を23.75モル%、イソフタル酸に由来する繰返し単位(m−フェニレン基を含む繰返し単位)を1.25モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位を25モル%有する。流動開始温度を測定したところ、380℃であった。
【0085】
〔合成例2:液晶ポリエステル(2)〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び環流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸358.8g(2.16モル)、イソフタル酸39.9g(0.24モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)及び1−メチルイミダゾール0.20gを入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で60分還流させた。
【0086】
次いで、1−メチルイミダゾール0.9gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。
【0087】
得られた固形物を、粉砕機で粉砕し、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から305℃まで5時間かけて昇温し、305℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(2)を得た。
【0088】
この液晶ポリエステル(2)は、全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を60モル%、テレフタル酸に由来する繰返し単位を18モル%、イソフタル酸に由来する繰返し単位を2モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位を20モル%有する。流動開始温度を測定したところ、357℃であった。
【0089】
〔合成例3:液晶ポリエステル(3)〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、無水酢酸1347.6g(13.2モル)及び1−メチルイミダゾール0.18gを入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で30分還流させた。
【0090】
次いで、1−メチルイミダゾール2.4gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。
【0091】
得られた固形物を、粉砕機で粉砕し、窒素ガス雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(3)を得た。
【0092】
この液晶ポリエステル(3)は、全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を60モル%、テレフタル酸に由来する繰返し単位を15モル%、イソフタル酸に由来する繰返し単位を5モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位を20モル%有する。流動開始温度を測定したところ、330℃であった。
【0093】
〔合成例4:液晶ポリエステル(4)〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、無水酢酸1347.6g(13.2モル)及び1−メチルイミダゾール0.18gを入れ、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで30分かけて昇温し、150℃で30分還流させた。
【0094】
次いで、1−メチルイミダゾール2.4gを加え、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。
【0095】
得られた固形物を、粉砕機で粉砕し、窒素ガス雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで30分かけて昇温し、240℃で10時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(4)を得た。
【0096】
この液晶ポリエステル(4)は、全繰返し単位の合計量に対して、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位を60モル%、テレフタル酸に由来する繰返し単位を12モル%、イソフタル酸に由来する繰返し単位を8モル%、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位を20モル%有する。流動開始温度を測定したところ、290℃であった。
【0097】
〔ガラス繊維〕
ガラス繊維として、次のものを用いた。
ガラス繊維(1):日本板硝子(株)の「REV8」(数平均繊維径13μm、数平均繊維長70μm)
ガラス繊維(2):セントラルガラス(株)の「EFH75−01」(数平均繊維径11μm、数平均繊維長75μm)
【0098】
(実施例1)
液晶ポリエステル(1)100質量部と、ガラス繊維(1)67質量部とを混合し、2軸押出機(池貝鉄工(株)の「PCM−30」)を用いて、シリンダー温度390℃で造粒して、ペレット状の液晶ポリエステル組成物を得た。得られた液晶ポリエステル組成物を射出成形して、64mm×64mm×厚さ0.5、1.0および1.6mmの成形体を得た。得られた成形体について、次の方法にて絶縁破壊電圧および成形体の反りを測定した。
【0099】
〔絶縁破壊電圧〕
得られた成形体について、JIS C2110に従い、短時間破壊試験法にて室温、100℃および200℃の絶縁破壊電圧を測定した。測定に用いた電極は、上部電極が直径20mmの球状電極であり、下部電極が、直径25mmの円板状電極である。
【0100】
なお、本実施例における絶縁破壊電圧とは、上記方法に準拠して絶縁材料である成形体に電圧を加えたときに、成形体が破壊される最小の電圧(実効値)のことであり、成形体の単位厚さに対する破壊電圧として表現する(単位:kV/mm)。本実施例の測定結果は、5枚の成形体(n=5)についてそれぞれ測定した値の平均値(算術平均値)として求めた。
【0101】
〔成形体の反り〕
成形体の反りは、得られた厚み0.5mmの成形体を用いて、窒素雰囲気下250℃で5000時間加熱した後、成形体の四隅の頂点のうち、一点を指で押さえた時の対角側にある頂点について、成形体を載置した面からの浮き上がりを測定して求めた。1枚の成形体について、それぞれの頂点について測定することで得られた4つの値を平均し、成形体の反りの値とした。
【0102】
上記方法による反りの測定限界は2mm程度であり、最大1mmの測定誤差を考慮することで、上記方法における検出限界を3mm以下とした。
【0103】
(実施例2)
液晶ポリエステル(2)100質量部と、ガラス繊維(2)67質量部とを混合し、ペレット加工時のシリンダー温度を360℃としたこと以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体について、実施例1と同様にして絶縁破壊電圧および成形体の反りを測定した。
【0104】
(実施例3)
液晶ポリエステル(3)100質量部と、ガラス繊維(2)67質量部とを混合し、ペレット加工時のシリンダー温度を340℃としたこと以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体について、実施例1と同様にして絶縁破壊電圧および成形体の反りを測定した。
【0105】
(比較例1)
液晶ポリエステル(4)100質量部と、ガラス繊維(2)67質量部とを混合し、ペレット加工時のシリンダー温度を300℃としたこと以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体について、実施例1と同様にして絶縁破壊電圧および成形体の反りを測定した。
【0106】
実施例1〜3および比較例1について、絶縁破壊電圧および反りの測定結果を以下の表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
測定の結果、0.5mm厚の成形体についての反りの測定結果から、実施例1〜3の成形体よりも、比較例1の成形体は反りが大きく、高温条件下で変形しやすいことが分かった。また、実施例1〜3の中でも、実施例1、2の反りは3mmより小さく、実施例3よりも高い耐熱性を有していることが分かった。
【0109】
また、0.5mm厚の成形体についての絶縁破壊電圧の測定結果から、いずれの温度においても実施例1〜3の成形体よりも、比較例1の成形体は耐電性が低いことが分かった。
【0110】
さらに、室温における絶縁破壊電圧の測定結果から、実施例3(液晶ポリエステルのイソフタル酸含有率が5モル%)と比較例1(同8モル%)との間で急激に耐電圧が低下することが確かめられた。実施例1(同1.25モル%)を基準とすると、イソフタル酸の含有率が6.5モル%以上であれば実施例1の90%以上の耐電圧を維持することが可能であり、高い耐電圧を実現可能であることが分かった。
【0111】
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0112】
1…リレー、10…接点封止部、11…筐体、11a…貫通孔、11b…貫通孔、12…固定電極、15…アーク遮蔽板、20…駆動部、21…基体、22…ボビン、23…導線、23a…封止剤、24…軸部、24a…一端側、24b…コア、25…固定鉄芯、26…可動電極、27…接点、28…ばね、100…高電圧コイル、111a…開口部、111…基体、112…蓋材、121…端子、122…接点、S1…内部空間、S2…内部空間、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンと、前記ボビンの巻回部に巻回された導線と、前記ボビンとの間に前記導線を封止する封止剤と、を有し、
前記封止剤が、下記式(1)、下記式(2)及び下記式(3)で表される繰返し単位を有する液晶ポリエステルを形成材料として含み、前記液晶ポリエステル中のm−フェニレン基を有する繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、0モル%以上6.5モル%以下である高電圧コイル。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(Arは、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar、Ar又はArで表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar−Z−Ar
(Ar及びArは、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【請求項2】
前記Arが、p−フェニレン基または2,6−ナフチレン基であり、前記Arが、p−フェニレン基、m−フェニレン基または2,6−ナフチレン基であり、前記Arが、p−フェニレン基または4,4’−ビフェニリレン基であり、前記Xおよび前記Yが、酸素原子である請求項1に記載の高電圧コイル。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有する請求項1又は2に記載の高電圧コイル。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルとガラス繊維とを含む組成物を形成材料とする請求項1から3のいずれかに記載の高電圧コイル。
【請求項5】
前記ガラス繊維の含有量が、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上100質量部以下である請求項4に記載の高電圧コイル。
【請求項6】
前記ボビンが、前記液晶ポリエステルを形成材料として含む請求項1から5のいずれか1項に記載の高電圧コイル。
【請求項7】
前記ボビンが、前記封止剤と同じ形成材料を用いて形成されている請求項6に記載の高電圧コイル。

【図1】
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【公開番号】特開2013−98313(P2013−98313A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238982(P2011−238982)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】