説明

高麗人参を有効成分として含むHIV−1の5’LTR/gag遺伝子欠損用の薬学的組成物

【課題】
本発明の目的は高麗人参を有効成分として含む,HIV−1の5’LTR及び/又はgag遺伝子欠損用の薬学的組成物を提供することである。
【解決手段】
本発明は高麗人参を有効成分にするHIV−1の5’LTR及び/又はgag遺伝子欠損用薬学的組成物に関する。本発明の薬学的組成物はHIV感染個体に投与することによってHIV−1の5’LTR及び/又はgag遺伝子の欠損を誘導することができる。したがって,本発明はエイズの予防及び治療に役立つように使われることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高麗人参を有効成分として含むHIV−1の5’LTR及び/又はgag遺伝子欠損用の薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス1型 (HIV−1)は後天性免疫不全症候群(エイズ)の病因である。HIV−1はHIV−2と共にレトロウイルスのレンチウイルス科に属し,感染性ビリオンは二つの同じ一本鎖からなるRNA(+)ゲノムを有する。HIV−1が細胞に感染すれば,上記RNA(+)ゲノムがコーディングする逆転写酵素によりRNAが二本鎖DNAに転換され,このDNAが宿主細胞の染色体に挿入されてプロウイルスを形成する。そして,プロウイルス状態で,ウイルス遺伝子を転写することで複製と構築に必要なタンパク質のmRNAらが生産されて,ウイルスを増殖することになる。
【0003】
HIV−1ゲノム(9.2kb)はgag,pol,envの構造遺伝子とtat,rev,nef,vif,vpu,vprなどのアクセサリー遺伝子と,両端に存在する末端反復配列(LTR;long terminal repeat sequence)とで構成されている。
【0004】
gagタンパク質及びpolタンパク質は前駆体タンパク質を分解して生成され,envタンパク質はgp160前駆体タンパク質となり,構築過程においてgp120とgp41で分解される。HIVに最初に感染した際は,症状が無かったり,風邪のような症状が現れて,ウイルスがCD4T細胞,マクロファージ,ミクログリア細胞などで潜伏感染して,長期の潜伏状態に入る。gp120に対する抗体は感染後3〜20週目に現れ,この時以後に感染の有無を診断することができる。2〜10年ほどの潜伏期を経る間に免疫体系に変化等が誘導されて,免疫欠乏症状が現れる前に前駆期症状(エイズ関連症候群(ARC:AIDS-related complex):疲労,発熱,体重減少,下痢)が現れる。HIV感染によってCD4T細胞数が200/μl以下に低減すれば免疫欠乏の症状が現れるので,臨床的にエイズと定義される。
【0005】
高麗人参(Panax ginseng C. A. Meyer(Panax schinseng Nees))は五加皮科(Araliaceae)のパナックス属に属する多年生宿根草で,数千年の間,東洋圏の国で様々な病気の治療に補助的に使用されてきた。高麗人参はこれまでに多くの薬理実験を通じて,コレステロール低下,脂質過酸化抑制,血圧降下,血流増加,脳血管拡張,心臓機能こう進,抗不整脈,抗血栓,慢性腎不全治療効果,免疫調節作用,記憶力増加,脳代謝こう進,抗ストレス,坑酸化作用,抗老化作用,抗潰瘍及び胃液分泌抑制,抗糖尿,解毒,肝細胞酵素増加,喘息治療,抗炎症,鎮痛作用,貧血治療,生殖能力増進,アルコール血中濃度低下,抗アレルギー,抗ガン剤などの効能を有することが知られている。
【0006】
また,高麗人参及び紅参は加工法に応じて区分され,高麗人参は未加工のものを指し,乾燥したものを乾参,乾燥されていないものを水参と呼ぶ。紅参(Red Ginseng)は高麗人参を蒸して乾燥させて水分含有量が14%以下になるよう加工したものを指し,製造過程中に茶色化反応が促進され,濃厚な茶褐色の色を呈する丈夫な形態として円形が維持された高麗人参である。
【0007】
したがって,約75%の水分を含有する水参の状態では長期間保存が困難であり,流通状態中に微生物汚染による腐敗又は高麗人参自体が含有する様々な酵素によって高麗人参成分が分解されるが,紅参は加工乾燥により水分が減少しているため,細菌,黴,及び微生物による汚染を防ぎ,体積及び重量が減少するために保存,運搬が容易という長所がある。高麗人参の代表的な有効成分であるサポニンの定量方法と品質管理の発達によって,加工過程中にサポニンが分解されるのを最大限に抑制することが可能となり,サポニンの他にマルトール,ジンセノサイドRh2などの有効成分がさらに生成された。すなわち,高麗人参の主成分はサポニンであり,紅参はこの効能が変質しないように加工したものである。
【0008】
特に紅参は中枢神経に対して鎮静作用と興奮作用があり,循環系に作用して高血圧や動脈硬化を予防する効果があり,その一方で造血作用及び血糖値を低下させ,肝を保護し,内分泌系に作用して性行動又は生殖効果に間接的に有効に作用し,抗炎及び抗腫瘍作用があり,放射線に対する防御効果,皮膚を保護しながら軟化する作用を有する。また,紅参の効果の中で重要なのは,アダプトゲン効果として周囲環境に起因する各種有害作用の流涙症(epiphora),各種ストレスなどに対して防御能力を増加させて,生体をより簡単に適応させる効果を有する。これまでに,紅参に対する成分及び薬理的効能に対して,韓国内外で数多くの研究が進められており,特に紅参は坑酸化活性を有することが報告されている(クォン・ヨンフン他,高麗人参学会誌,24(1),29−34,2000)。
【0009】
また,本発明者は以前の研究で,HIV−1感染患者らを,高麗人参(以下,KRGと記載する)単独(参照文献1〜4),或いは1991年以降にはジドブジン(ZDV;zidovudine)と共に(参照文献5),1997年以降には非常に強力な高活性抗レトロウイルス療法(HAART;highly active antiretroviral drug therapy)により(参照文献6)治療した。臨床学的適用の間(参照文献1〜7),KRGによる治療とエイズの進行速度との間に意味のある逆相関関係を示した(参照文献8)。HIV−1遺伝子の変移率はKRGによる治療と反対関係にある。さらにKRGによる治療はジドブジンに対する抵抗性の発達を遅らせる。本発明者の結果によればKRGによる治療は治療法或いは患者の他の特性に関係なくCD4T細胞が減少する速度を低減させた。KRGとHAARTとの混合治療を分析した最近の結果では,薬品抵抗変移の発生なしで一貫されたウイルス調節がこれらの組合せにより可能であることを示した(参照文献7)
【0010】
本発明者のコホートで長期未発症感染者(LTNP;long-term nonprogressor)或いは長期生存者(LTS:long-term surviviors)におけるエイズの進行が遅くなった原因をここで説明する。最近,本発明者は持続的なKRGによる治療を受けた10人のLTSにおけるnef遺伝子の大規模な欠損の比率とKRGの摂取期間との関連性を報告した(参照文献9) 。これら10人のLTSからのnef遺伝子で増幅された生成物を比較すると,gag領域と5’LTR領域で増幅された生成物に,プロウイルス全体の長さの塩基配列が,二つのバンド(野生型及び短バンド)が高い割合で現れた。
【0011】
LTNPでnef遺伝子の大規模な欠損に対する多くの研究が行われたが,幾つかの場合のみのgag領域と5’LTR領域における大規模な欠損の関連性を現在まで報告した(参照文献10〜18)。より具体的に,HIVサブタイプCに感染した一人のLTSで,gag遺伝子において3個のアミノ酸コドン中に1つの欠損があることが報告された(参照文献19)。他の研究では24人の治療経験がない人々の内の2人が5’LTRで16bpの欠損及び9bpの小さい欠損を示した(参照文献20)。しかし,長期間進行がない状態維持又はHIV感染の進行の速度が遅くなることと,5’LTR領域とgag領域の遺伝的欠陥(defects)との関連は報告されたことがない。
【0012】
本発明者はエイズの治療方法を研究中に,HIV−1に感染した患者に紅参を長期間投与すると,HIV−1の5’LTRとgag遺伝子の欠損を確認したことによって本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は高麗人参を有効成分として含む,HIV−1の5’LTR及び/又はgag遺伝子欠損用の薬学的組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような本発明の目的を達成するために,本発明は高麗人参を有効成分として含有するHIV−1の5’LTR/gag遺伝子欠損用の薬学的組成物を提供する。以下,本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明は,高麗人参の摂取によりウイルス成長及びエイズ病因と密接な関連があるHIV−1の5’LTR/gag遺伝子が欠損する可能性を示したことに特徴がある。
【0016】
好ましくは,前記高麗人参が紅参であることを特徴とする。
【0017】
本発明の一実施例では,5’LTR領域とgag領域での大規模な欠損(gΔ)の発生と,KRGの摂取との関連性があるかを調べるために,KRG(総量13,364±5,364g)で12年以上治療した10人のLTSと,KRGを摂取しなかった又は少量(総量1,436±1,027g)を摂取した8人のLTS(対照群)から,部分的5’LTR 部分とgag遺伝子を代表する1,125bpのPCR産物の塩基配列を調査した。前記10人のLTSで,189個のPCR生成物が80個の末梢血単核球(PBMC)サンプルで得られ,全体80個のPBMC中44個(55%)と189個のPCR産物中の71個(37.6%)とが大規模な欠損(gΔ)を示した。55%のPBMC及び37.6%のPCR産物が10人のLTSで見られた一方,8人の対照群LTSの値は各々30.3%と14.8%であった。このような差は統計的に意味がある(P<0.05及びP=0)。さらに,紅参を服用しなかった一般対照群患者28人の欠損遺伝子比率はPBMCとPCR産物を基準として各々13.3%と8.3%を示した(実施例3,図1〜図3参照)。
【0018】
したがって,個体に紅参を投与することによってHIV−1の5’LTR/gag遺伝子を欠損を誘導でき,これはエイズの予防及び治療に使用できる。
【0019】
本発明の薬学的組成物の有効成分として使用される紅参は公知の方法で製造することができる。
【0020】
一般的に紅参は水参(水分含有率:約75%)を一定の温度条件下で水蒸気で蒸す蒸煮段階,及び,蒸煮された水参を乾燥させる乾燥段階を経て製造される。このように製造された紅参を加熱抽出することによって紅参抽出液を製造し,これを濃縮して紅参濃縮液を製造することができる。
【0021】
一方,本発明では上記紅参抽出液又は濃縮液を単独で使用,又は,一つ以上の薬学的に許容される担体,賦形剤又は希釈剤を追加で含ませて,通常の方法で剤形化した後に使用できる。前記「薬学的に許容される」ということは生理学的に許容され,ヒトに投与される際に,通常,胃腸障害,めまいのようなアレルギー反応,又はこれと類似の反応を起こさない組成物をいう。また,上記のように剤形化された本発明の紅参は適切な投与方法を通じて投与できる。適合した投与方法としては経口投与でありうる。
【0022】
望ましくは粉末,顆粒,錠剤,丸剤,糖衣錠剤,カプセル剤,液剤,ゲル剤,スラリー剤,懸濁液などのような経口投与用製剤の形態で当業界に公知の方法を利用して剤形化することができる。例えば,経口用製剤は活性成分を固体賦形剤と配合した後,これを粉砕して適切な補助剤を添加した後,顆粒混合物に加工することによって錠剤又は糖衣錠剤を得ることができる。
【0023】
適合した賦形剤の例えばラクトース,デキストロース,スクロース,ソルビトール,マンニトール,キシリトール,エリスリトール,及びマルチトールなどを含む糖類と,とうもろこしでんぷん,小麦でんぷん,米でんぷん及びじゃがいもでん粉などを含むでん粉類,セルロース,メチルセルロース,カルボキシメチルセルロースナトリウム及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを含むセルロース類,ゼラチン,ポリビニルピロリドンなどのような充填剤が含まれてもよい。また,場合により架橋結合ポリビニルピロリドン,寒天,アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムなどを崩解剤として添加することができる。また,本発明の薬学的組成物は抗凝集剤,潤滑剤,湿潤剤,香料,乳化剤及び防腐剤などをさらに含有してもよい。
【0024】
また,本発明の薬学的組成物の有効成分である紅参は,市販のものを購入して使用できる。本発明の一実施例ではコリア ジンセン コーポレイションから販売されている紅参粉末カプセルを使用した。
【0025】
本発明の薬学的組成物はほ乳動物,特にヒトを含む動物に投与できる。望ましくは上記HIV−1に感染した患者に有効な量で投与できる。前記「有効な量」というのは試験管内又生体内でHIV−1のnef遺伝子を欠損させるのに効果的な量を指す。
【0026】
本発明による薬学的組成物の有効量は投与経路,治療回数,治療が必要な個体の年齢,体重,健康状態,性別,疾患の重症度,食餌及び排せつ率など様々な要因を考慮して,当業者が特定用途に伴う適切な有効投与量を決めることができる。望ましくは,本発明の紅参を含む薬学的組成物の有効量は男性の場合50〜100mg/kg/日,女性の場合20〜70mg/kg/日である。
【0027】
本発明の薬学的組成物は個体の診断後にエイズ疾患の進行を遅延させるために持続的に投与することができる。
【0028】
一方,本発明で上記5’LTR及び/又はgag遺伝子の欠損は早期成熟停止コドン(premature stop codon)を有すること,開始コドンが欠如することで定義できる。
【0029】
本発明の一実施例では10人のLTSから生成された増幅産物から非メチオニン開始コドン,G‐A超変異(G-to A hypermutation)による早期成熟停止コドン及び小さい欠損等の遺伝的欠陥等を観察した(実施例4)。各患者及び10人のLTS内において欠損,重複又は挿入の大きさは全て異なって現れた。
【0030】
8人の対照群LTSでも,早期成熟停止コドン,非メチオニン開始コドンによる遺伝的欠陥が観察された(図4参照)。
【0031】
望ましくは,本発明の方法によって欠損した5’LTR及び/又はgag遺伝子は,以下の配列で示される。ジェンバンク登録番号EF370172,EF370173,EF370175,EU047612,EF370184,EF370186,EF370187,EF370188,EF370191,EF370192,EF370193,EF370196,EF370197,EF370199,EF370201,EF370200,EF370202,EF370205,EF370207,EF370211,EF370213,EF3702115,EF3702116,EF3702118, EF 370219, EF 370221, EF370223,EF370224,EF370225,EF370226,EF370227,EF370228,EF370231,EF370235,EF370237,EF370239,EU047647,EF370245,EF370250,EF370251,EF370252,EF370253,EF370256,EF370259,EF370262,EF370261,EF370265,DQ295196,EF370275,EF370276,EF370277,EF3702778,EF370279,EF370282,EU047673,EF370283,EF370285,EF370286,EF370287,EF370288,EF370292
【発明の効果】
【0032】
前述のように,本発明の薬学的組成物はHIV感染個体に投与することによってHIV−1の5’LTR及び/又はgag遺伝子の欠損をもたらすことができる。したがって,本発明はエイズの予防及び治療に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下,本発明を実施例によって詳細に説明する。しかし,下記実施例は本発明を例示するためのものとして,本発明は下記実施例によって限定されることなく様々に修正及び変更できる。
【0034】
図1は抗レトロウイルス治療なしに最小限の高麗人参を投与,或いは,高麗人参を投与しなかった8人の対照群LTS(図1k〜図1r)と,最大限の高麗人参を投与した10人のLTS(図1a〜図1j)に対するCD4T細胞数の変化を示す。紅参の投与期間は直線で示す。3つのPCR反応が1つのサンプルを増幅させることに伴い,5’LTR及びgag遺伝子の配列に使用されたサンプル,及び,5’LTR及びgag遺伝子の大規模な欠損を示すサンプルは各々の下方に下側の矢印及び上側の矢印で示された。両グループで,CD4T細胞数は10年に亘って減少した。高麗人参の投与量を除いて二つのグループ間に有意な差はなかった。
【0035】
図2は最も初期に診断された3人のLTSから得られた末梢血単核球での5’LTRとgag配列の分析を示す。1%のアガロースゲルに対する電気泳動によって増幅された生成物が分離された。患者87−05,89−17,90−05由来のPCR生成物はレーン1−10,11−18,19−31各々で発現した。患者87−05は4種の野生型(レーン1,3,6,9)と共に3個の重複バンド(レーン2,7,10)と二つの単一の短バンド(レーン4,8)のように五個の短バンドを有していた。患者89−17は7個の短バンドを示し(レーン11,12,13,14,16−18),この中でレーン14は一つの短バンドであった(14%)。患者90−05は7個の短バンドを示した(レーン19,22,23,24,26,29,30)。その中でレーン22,24,26,29,30は一つの短バンドを示した(71%)(M:マーカー,WT:野生型バンド)。
【0036】
図3は3つのグループの大規模な欠損の頻度を比較した棒グラフである。大規模な欠損を表わす末梢血単核球サンプルの比率は他の28人の患者(13.3%)だけでなく9人の対照群LTSの26.7%よりKRGを投与されたLTSでさらに高かった(55%)。その上,大規模な欠損に対する陽性のPCR産物の比率は,高麗人参を投与した10人のLTSにおいて37.6%であり,8人の対照群LTSにおける比率である13.9%,並びに,他の患者28人における比率である8.3%よりも有意に高かった。28人の患者中には患者87−05及び90−50の夫人も含まれた。その上,彼らの一部はHIV−1診断後に10年が経過していないが,LTSになる可能性を有していた。
【0037】
図4はHIV−1に感染した10人のLTSの代表的な部分gagタンパク質の予想アミノ酸配列を示す。米国で非進行性患者由来のgagタンパク質の共通アミノ酸配列は一番上の列に示されており(参考文献23),10人のLTSに対する予想配列は下の列に示す。点は配列が同一であることを示し,直線は変異部分以外の部分欠損或いは大規模な欠損を意味する。クエスチョンマークは早期成熟停止コドンを意味する。アミノ酸配列は一つの文字コードで示した。各配列の出処は各患者コード(初めの2桁の数字はHIV診断年度を意味し,ハイフンの後の2桁の数字は韓国で各患者に割り当てられた固有の番号を示す)によって確認された。それぞれのジェンバンク登録番号に対するサンプルの採取日(date of sampling)は図7に示した。図7では,gag遺伝子の欠損を含まない7種の塩基配列は示されなかった。
【0038】
図5は,HIV−1に感染した18人のLTSの臨床学的特徴を示す表である。去る一年を除いて,LTS中の患者91−20のコンプライアンス(compliance)は患者90−05と共に最も良く,彼らの実際の高麗人参の服用量は個人的な購買によって22,422g以上だった。患者91−22及び患者91−23は患者91−20から提供された血液からHIV−1に感染した。LTS87−05を除いて,全ての患者はHIV−1サブタイプBの韓国サブクレイド(subclade)に感染した。
【0039】
図6は,18人のLTS及び28人の高麗人参の非投与患者に対する5’LTR/gag遺伝子の大規模な欠損の特徴を示す。
【0040】
図7は,nef遺伝子で大規模な欠損と比較して,5’LTR/gag遺伝子の大規模な欠損の頻度を示す。
【実施例1】
【0041】
実験対象者及びKRGによる治療
研究群は最大値のKRGを摂取した10人のLTS,8人の対照群LTS,及び,KRGを摂取したことがない28人のHIV感染患者で構成された。
【0042】
本研究で10人のLTSは,本発明者の以前の研究で詳しく説明された(参照文献9)。前記10人全員は,1987年から1996年3月までの間に診断され,本研究期間の間,1人の患者(93−04)を除いて,いかなる抗レトロウイルス治療もしなかった。その患者は間歇的にZDV(1日の容量200mg又は300mg)を1993年4月から1997年8月まで投与した。
【0043】
8人の対照群LTSは本発明者のコホートから選択された。上記対照群LTSに分類された患者らは1996年以前にHIV−1感染が診断され,彼らは非常に強力な抗レトロウイルス薬品による治療をしない状況で最小限の容量(1,526±1,183g)のKRGを投与する,或いは,全くKRGを投与しなかった(患者89−05)。患者91−23のみが1993年4月から1999年8月までZDVを投与された。患者89−05は1997年に他国に行ったため,本発明の研究サンプルから除去した。8人の対照群LTSの中に,LTS91−20から輸血を受けた二人の受血者(患者91−22及び91−23)が追加された。患者89−26と92−23はKRGの摂取を嫌った。患者90−01は血漿を83回売血した血漿提供者であった。その患者は提供者Oと説明された(参照文献21)。したがって,10人の高いKRG摂取LTSと8人の対照群LTSとを比較すると,最も基本的な特徴は似ていた。
【0044】
言い換えれば,10人のLTSと8人の対照群LTSとの間には基本的な病気の進行率又はCD4T細胞数において大きな差が無く,単にKRGの摂取量にのみ差があった。
【0045】
さらに,他の28人の対照群患者を調査した。これら28人中には患者87−05と90−50の夫人も含まれた。これら28人の患者の一部はLTSだった。しかし,彼らは1997年以後に診断されたので,LTSグループに含まれなかった。各参加者から提供された同意書を受理した。
【0046】
HIV−1感染患者に対するKRGによる治療は,1991年後半に韓国の国立保健院(National Institutes of Health)で始まった(参照文献1,2)。実験に用いたKRGはコリア ジンセン コーポレイションから販売されている紅参粉末カプセルを使用した。各患者へのKRGの一日の投与量は,男性の場合には5.4g(300mgのカプセル6個を一日に3回投与)であり,女性の場合には2.7g(300mgのカプセル3個を一日に3回投与)であった。各患者のKRGの投与期間を図1に示す。
【0047】
10人のLTSに投与された紅参の平均量は155±28ヶ月の間に13,364±5,364gであり,8人の対照群LTSでは132±29ヶ月の間に1,436±1,027gであった(図5参照)。10人のLTSと8人の対照群LTSにおいてKRGの年間投与量は各々1,035g及び131gであった。KRGの投与レベルにおける7.9倍の差は統計的に有意である(P<0.001)。
【実施例2】
【0048】
CD4T細胞数と血漿HIV−1RNAコピーレベル
3ヶ月〜6ヶ月間隔で実施例1の各患者から採血を,各サンプルで末梢血単核球細胞(PBMC;peripheralblood mononuclear cells)をフィコエリトリン(PE;phycoerythrin)-及び蛍光イソチオシアネート(FITC;Fluorescein Isothiocyanate)−コンジュゲートされたCD4抗原に対する抗体と共に各々インキュベートした(サイマルテスト試薬(Simultest reagent);ベクトン・ディッキンソン)Becton Dickinson, 米国,カリフォルニア州,サンノゼ)。CD4T細胞のレベルはファクスキャン(FACScan)(ベクトン・ディッキンソン)のフローサイトメーター を利用して測定した。血漿のHIV−1のRNA濃度はアンプリカーHIV−1モニタキット(Amplicor HIV-1 Monitor kit)(ロシェ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics),米国,ニュージャージー州,ブランチバーグ(Branchburg))で測定された(参照文献7)。
【0049】
CD4T細胞数は紅参を摂取した10人のLTSと8人の対照群LTSで毎月6ヶ月目で測定され,その結果は図1に示すものと同様である。
【0050】
最大限の紅参の投与による治療を受けた10人のLTSのCD4T細胞数は,168±29月後の最初の測定において,555±208/μlから245±160/μlへと大幅に減少した(年間22/μlの減少,図1a〜図1j参照)。また,8人の対照群LTSのCD4T細胞数は,132±29月後の最初の測定において,574±222/μlから353±297/μlへと減少した(年間20/μlの減少,図1k〜図1r参照)。
【0051】
両グループ全てで,CD4T細胞は10年に亘って,同様の形態で減少したことを確認できた。
【実施例3】
【0052】
部分的5’LTR部位とgag遺伝子の増幅
実施例2で収得したインキュベートされなかったPBMCsからプロウイルスDNAを抽出した。ファーストラウンド(first round)プライマーCE23(5’−tgtggatcta ccacacacaa ggctactt−3’;46〜73;配列番号1)及び514(5’−tccagaatgc tggtagggta tac−3’;1,617〜1,640;配列番号2),セカンドラウンド(second round)プライマーCE1(5’−cgagagctgc atccggagta cta−3’;297〜319;配列番号3)及び512(5’−ctgcagcttc ctcattgatg gtc−3’;1,398〜1,420;配列番号4)及びサードラウンド(third round)プライマー501(5’−gtgtggcctg ggcgggactg−3’;380〜399;配列番号5)及び510(5’−gatgtaccat ttgcccctgg a−3’;1,202〜1,222;配列番号6)を利用したダブル−(稀にはトリプル−)ネステッドPCRによって,297番〜1,421番(ここでのナンバリングは,HIV NL4−3の配列に由来する)の1,125bpのPCR産物が各サンプルから増幅された(上記297番〜1,421番の位置は部分的5’LTR領域とgag遺伝子を代表する部分である)。
【0053】
陰性対照群を含む最高で4つのPCR反応は,あらゆるサンプルで一度に実施され,一方,(陰性対照群を含む)合計5つのPCR反応がnef遺伝子を増幅するために使用される。PCR産物を精製して直ちにシークエンシングした。PCR汚染の有無はBLAST検索,マニュアル整列によるアミノ酸コドン比較及び系統分析の各手続きによりPCR産物の物理的分離によってモニターした。
【0054】
実験結果は平均±標準偏差で示した。統計の有意性はSPSSパッケージ(バージョン12.0)(SPSS package version 12.0)を使用してスチューデントの両側t検定(Student’s two-tailed t-test)及びカイ二乗検定によって評価された。
【0055】
実験結果
それぞれ異なった時点で10人のLTSから回収したPMBCサンプル80個から,189個のPCR産物を増幅した(図1a〜図1j参照)。多くの時点で10人のLTS全員が5’LTR/gag遺伝子領域でgΔを示した(図1参照)。80個のサンプル中44個(55%)で欠損が観察された(図2参照)。189個のPCR産物中で,71個(37.6%)がgΔを示した。これらの中で,23個(32.4%)の増幅は野生型遺伝子無しで単に一つの短バンドを示した。71個のgΔの特徴を図7に要約して示す。
【0056】
5個のPCR産物(2007年1月に患者87−05,2001年7月に患者89−17,1993年10月に患者90−05,及び2006年2月及び2004年5月に患者92−13から得る)と2個のPCR産物(1993年10月に患者90−05からΔ86bp及び2006年に患者90−50からΔ420bp)は単に5’LTR部位内又はgag遺伝子内でgΔを各々含んでいた(表3)。残存したPCR産物における欠損は,5'LTRの両側末端領域(少なくとも位置753を含む;Δ37bp)とgag遺伝子の開始部分(HIV−1 NL43における位置818のΔ29bp)に位置する。換言すれば,欠損はgag遺伝子開始コドンの近傍で66bp以上だった。
【0057】
したがって,5’LTR領域でgΔの比率は36.5%(69/189)であり,gag遺伝子に基づいたgΔ比率は34.9%(66/189)であった。これは,KRGの投与がgag遺伝子よりも5’LTRに影響を与えたことを示す。
【0058】
サンプルが入手できなかった患者91−20,及び,93−60は別にして,KRG摂取開始後の5’LT領域及びgag領域におけるgΔの最初の検出は,nef遺伝子の欠損の最初の検出よりも早かった(参照文献9)。gΔの最初の検出に対するKRG摂取開始からの中位時間は,26ヵ月(19〜101ヵ月の範囲)であった。これは,nef遺伝子において欠損の検出に要する時間よりもかなり短かった(参照文献9)。
【0059】
患者87−05は移入されて混入した凝固因子9から由来したC型肝炎ウイルス(HCV)及びHIV−1サブタイプBに同時感染した。この患者には1994年6月にKRGの投与が開始された。全ての増幅物で9bpの小さい欠損があったが,10人のLTS中で,唯一gΔnefを示さなかった(参照文献9)。驚くべきことに,本発明者は1997年4月に得られた最も初期に使用したサンプルでgΔを観察し,12個のサンプル中4個から得られた36個のPCR産物から全7個のgΔを観察した(図1a〜図1j,図5参照)。この患者は2007年4月からはエイズに関連した症状を示さなかった。この症例は,抗レトロウイルス治療法を実施せずに20年以上生存した,韓国における最初の症例に該当する。
【0060】
患者89−17へは1991年12月にKRGの投与が開始された。そして投与に対するコンプライアンスは一貫していなかった。1993年7月に報告された一つのgΔは非常に例外的だった。なぜなら,Δ917bpの欠損がpol遺伝子の474bp(逆方向に,NL4−3の4296bpから4037bp)及びgag遺伝子の末端部分(2029bpから1838bp)に置換されたためである。この患者には2002年2月にHAARTが開始され,CD4T細胞数は,2007年4月には513/μlであった。
【0061】
患者90−05は1990年2月にHIV−1感染と診断され,1991年12月にKRGの摂取を開始した。上記患者は本研究でKRGによる治療に対し最も優秀なコンプライアンスを示した。21,522gのKRGの供給と共に,上記患者自ら個人的に所持したKRGを摂取した。KRGの一日の服用量は95%のコンプライアンスで6.0g(300mgのカプセル10個を1日2回)であった。gΔの最初の検出は,KRG治療の開始から111ヵ月後(合計12,012gが摂取された)の2001年1月におけるgΔnefの最初の検出よりも87ヵ月早かった。gΔの例と残り7人のLTSに対する詳しい情報は図1及び図6に示す。
【0062】
また,追加的に8人の対照群LTSから回収した33個のPBMCサンプルから88個のPCR産物を増幅した。13個のgΔ(増幅されたものの内の14.8%)は10個のPBMCサンプルに存在した(全体の30.3%)。10人のLTSは8人の対照群LTSよりPBMCサンプルとPCT産物全てでgΔの著しく高い比率を含んだ(前者の場合はP<0.05,後者の場合はP<0.0001)(図3参照)。
【0063】
また,KRGを投与しなかった28人の患者から臨床学的段階に関係なく得られた30個のPBMCサンプルから60個のPCR産物を増幅した。5個のgΔ(増幅されたものの内の8.3%)は4個のPBMCで存在した(全体の13.3%)。
【実施例4】
【0064】
遺伝的欠陥と小さい欠損
大規模な欠損の他にも,本発明者らは非メチオニン開始コドン,G‐A超変異(hypermutation)による早期成熟停止コドン及び小さい欠損のような遺伝的欠陥を観察した。10人のLTSの中で,患者87−05は4個の配列(EU047601,EU047605,EU047607,EU047609)で早期成熟停止コドンを有しており,患者89−17も早期成熟停止コドン及び,開始コドン(ジェンバンク登録番号EF370193)としてイソロイシンを有した。患者90−18はgag遺伝子で6bpの挿入を有しており,患者92−13は102bp(ジェンバンク EF370252)の二つの重複(duplications)と,5’LTR領域に159bpの欠損,及び,G‐A超変異(ジェンバンク EF370256)を有しており,327と328との部分(ジェンバンク EF370258)間にも6bpの挿入を有していた(図4参照)。
【0065】
8人の対照群LTSの内,患者91−22は早期成熟停止コドン又は3個の配列(ジェンバンク EF370314,EU047654,そしてEU047655)で開始コドンとしてイソロイシンを有していた。患者89−26は1個の配列(EU047635)で2つの早期成熟停止コドンを有していた。
【実施例5】
【0066】
CD4T細胞数に従う大規模な欠損の頻度
本発明者はCD4T細胞数に従う大規模な欠損の頻度を分析した。10人のLTSのPCR増幅産物をCD4T細胞数200/μl以下,200〜400/μl,400/μl以上でグループを作った。KRGを投与した10人のLTSで大規模な欠損の頻度は47.4%(9/19),51.8%(14/27)及び61.8%(21/34)で現れ,これはCD4T細胞数に対する若干の依存性を示すことができる。しかし,8人の対照群LTSでは大規模な欠損比率は44.4%(4/9),20%(4/20),50%(2/4)であり,また,KRGを投与しなかった28人のHIV−1陽性患者は18.2%(2/11),14.3%(1/7),8.3%(1/12)であった。
【0067】
考察
本発明者は韓国でLTS又はLTNPの健康に持続的な関心を持っており,その結果,韓国国民において,有益な宿主因子,例えばCCR5又はHLA−B57におけるΔ32bpが存在しないにもかかわらず,本発明者は1993年12月31から診断された323人のHIV−1感染患者の中で多くのLTSを観察することができた。
【0068】
より具体的には,1987年に韓国で9人がHIV−1感染患者と診断され,その内の3人の患者はまだ生存しており,この3人全員がKRGの投与を一つの治療法又はHAARTと並行して行ってきた。LTS87−05はこれら患者の内の1人として,1996年6月以後にKRGを摂取してきた(図1a参照)。これら患者の内の他の2人はHAARTをKRGの投与と共に1998年から1999年まで受け,彼らのCD4T細胞数は1998年には231/μl,1999年には6/μl,2004年12月には1,052/μlに,2006年には1,127/μlに各々増加した。
【0069】
また,1988年には22人がHIV−1患者として診断され,KRGの投与により治療してきた2人の患者(9%)のみが生存している。患者のHIV−1サブタイプがCRF02_AGであるため,この患者は本発明の研究に含まれなかったが,上記患者はCD4T細胞数が500/μl以上のLTNPに分類された。1997年以降診断された多くの患者は,KRGの投与と共にHAARTを受け,薬剤耐性突然変異が欠如していることを示す。これらの患者は,併用療法に驚くほど良好な反応を示した。
【0070】
本発明者は以前行った研究を通じて,HIV−1感染患者のKRGによる治療がnef遺伝子の大規模な欠損(参照文献9)の高い頻度と関連があり,病の進行が遅くなると報告した(参照文献1,8)。
【0071】
本発明では,各サンプルから3個のPCR産物を増幅したところ,これはnef遺伝子から増幅された4個のPCR産物より少ない(参照文献9)にもかかわらず,本発明者は同じ10人のLTSで,nef欠損(サンプルの34.3%とPCR産物の18.8%)(参照文献9)と比較して,大規模な欠損(サンプルの55%,PCR産物の37.6%)のさらに高い頻度を観察することができた(P<0.0001)。5'LTR/gagの欠損の頻度はnef遺伝子の欠損で確認された頻度よりも1.6倍及び2.0倍高かった。全体で80個のサンプルの内,61個は以前にnef遺伝子増幅にも適用されたことがあり,上記61個のサンプルの内,13個(21.3%)は2つの遺伝子全てで大規模な欠損を示した。特に,患者87−05,89−17,90−05,90−50,96−51はnef遺伝子より,5’LTR/gag遺伝子で有意にさらに高い大規模な欠損頻度を示した(P<0.05)(図5参照)。また,大規模な欠損を示したサンプルの比率はKRGによる治療を受けた10人のLTSで37.6%確認され,これは,8人の対照群LTS(14.8%)及び28人のHIV−1感染患者(8.3%)の場合より有意にさらに高かった。さらに,本発明で8人の対照群LTS又は他の28人の患者のどのグループの場合にも大規模な欠損の頻度とCD4T細胞数との間にいかなる関連がないことを確認した(実施例5)。このような発見によって,大規模な欠損とKRGの摂取との間の関係が証明される。
【0072】
さらに,gΔとKRGの摂取との関連性は,8人のLTS対照群又は別の28人の患者においてgΔsの頻度とCD4T細胞数との間に関連性が無いことを発見したことによっても支持される。この知見は,10人のLTSのCD4T細胞に対する中程度の依存性との良好な対比を示す。KRGによる治療を行った10人のLTSの中でも,安定した良好な付着性を有する患者87−05,90−05,92−13,96−51はCD4T体細胞数を維持し,一方,過去1〜2年の間に良好な付着性を示さなかった患者90−50,91−20,93−60は,CD4T細胞数の急激な減少を示した。この結果に基づき,CD4T細胞の減少は,すでに患者89−18及び,90−18において示された。あらゆるエイズ関連の症状が無く10年以上が経過すると,多くの患者は,KRGの投与を怠る,或いは健康状態に注意を払わなくなる傾向がある。
【0073】
幾つかの論文において,LTNPにおけるウイルス配列の全長の遺伝子の特徴が発表されている。アレクサンダー(Alexander)他(参照文献22)は,nef遺伝子以外に他の遺伝子で欠陥を発見できず,早期成熟停止コドン,アウト−オブ−フレーム欠損(out-of-frame deletions)及び全体欠損を発見した。通常でない多形性(polymorphism)とnef遺伝子の大規模な欠損は8人のLTNPから発現した。また,フアン(Huang)他(参照文献23,24)は,8人のLTSから5’LTR及びgag遺伝子において遺伝的欠陥を報告した。この研究でウイルス配列の全体が得られ,一人の患者のみに,5’LTRとgag遺伝子においてG‐A超変異が発現した。最近,カルギ(Calugi)他はenv遺伝子(nef遺伝子のそばに位置する遺伝子)で大規模な欠損を確認した(参照文献25)。ブラックソン(Blankson)他(参照文献26)は,50コピー/mL未満の血漿RNAのウイルス量を有する,抑制因子におけるHIV−1全長の塩基配列においてもいかなる大規模な欠損は観察できなかった。
【0074】
HIV−1遺伝子の発現は,TATAボックスと,転写因子NF−κB及びSp1(参照文献27)の結合部位とを含むLTRにおいて幾つかの非常に高く保存されたシス作用調節要素(cis-acting regulatory elements)によって調整される。ある成分がNF−κBとAp−1転写因子活性をヒト細胞株で抑制することが知られている(参照文献28)。LTR領域はHIV−1の他の部分よりKRGの摂取によって,影響を受けることが可能である。
【0075】
本発明において,5’LTRの大規模な欠損は患者87−05(nef遺伝子の大規模な欠損を示さなかった)を含む10人のLTSで観察された。さらに,観察された大規模な欠損の各々のサイズは大きいが,遺伝子内で単一部位にのみ位置していた。本発明者らは6人のLTS(患者90−05,90−18,90−50,91−20,92−13及び96−51)からenv遺伝子大規模な欠損(>1,000bp)をHIV−1全体の長さ塩基配列が得られた時に確認した(データ図示せず)。
【0076】
したがって,KRGの摂取と遺伝的欠陥との間の関係なしで,本発明の観察は単に本発明の研究で観察された様々な有益な要素の中の一つの発見に過ぎなくても,本発明の結果は5’LTR領域とgag領域における大規模な欠損が,HIV疾病の進行率と有意に関係があるという一次的証拠を提供している(参照文献1〜9)。ウィルス遺伝子欠損は,どのようにLTS又はLTNPに貢献するかについての可能なメカニズムに関して,我々は,遺伝子欠損がKRGの摂取による免疫調整の間接的な結果ではないかと考える。KRGがTh1サイトカインを通じた細胞媒介性免疫反応を媒介して(参照文献29〜32),HIV−1感染で全般的な免疫活性状態(generalized immune activation state)を抑制することがよく知られている。それにもかかわらず,KRGを投与しないLTSが相変らずHIVに感染した他の28人の患者よりさらに高い5’LTR/gag欠損を有するということは,KRGの摂取が唯一の要素ではないと考えられる。このような知見は,LTS又はLNTPの延命にとって,KRGによって誘導された遺伝的欠損が重要であることを裏付ける。
【0077】
塩基配列データ
全336塩基配列の内,178個がジェンバンクに提出され,ジェンバンク登録番号EF370172〜EF370349,EU047600〜EU047667,EU047670〜EU047676及びEU047681〜EU047693が付与された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
詳述したように,本発明の薬学的組成物はHIV感染個体に投与することによってHIV−1の5’LTR及び/又はgag遺伝子での欠損を誘導することができる。したがって,本発明はエイズの予防及び治療に役立つよう使用できる。
【0079】
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【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1a】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1b】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1c】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1d】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1e】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1f】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1g】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1h】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1i】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1j】最大量のKRGの投与を受けた10人のLTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1k】抗レトロウイルス治療なしに最小限のKRGの投与或いは投与しなかった8人の対照群LTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1l】抗レトロウイルス治療なしに最小限のKRGの投与或いは投与しなかった8人の対照群LTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1m】抗レトロウイルス治療なしに最小限のKRGの投与或いは投与しなかった8人の対照群LTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1n】抗レトロウイルス治療なしに最小限のKRGの投与或いは投与しなかった8人の対照群LTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1o】抗レトロウイルス治療なしに最小限のKRGの投与或いは投与しなかった8人の対照群LTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1p】抗レトロウイルス治療なしに最小限のKRGの投与或いは投与しなかった8人の対照群LTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1q】抗レトロウイルス治療なしに最小限のKRGの投与或いは投与しなかった8人の対照群LTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図1r】抗レトロウイルス治療なしに最小限のKRGの投与或いは投与しなかった8人の対照群LTSに対するCD4T細胞数の変化を示すグラフ。
【図2】最も初期に診断された3人のLTSから得られた末梢血単核球での5’LTRとgag配列の分析を示す。
【図3】3つグループの大規模な欠損の頻度を比較した棒グラフである。
【図4a】HIV−1に感染した10人のLTSの代表的な部分gagタンパク質の予想アミノ酸配列。
【図4b】HIV−1に感染した10人のLTSの代表的な部分gagタンパク質の予想アミノ酸配列。
【図4c】HIV−1に感染した10人のLTSの代表的な部分gagタンパク質の予想アミノ酸配列。
【図4d】HIV−1に感染した10人のLTSの代表的な部分gagタンパク質の予想アミノ酸配列。
【図4e】HIV−1に感染した10人のLTSの代表的な部分gagタンパク質の予想アミノ酸配列。
【図4f】HIV−1に感染した10人のLTSの代表的な部分gagタンパク質の予想アミノ酸配列。
【図5】HIV−1に感染した18人のLTSの臨床学的特徴を示す表である。
【図6a】18人のLTS及び28人のKRGの非投与患者に対する5’LTR/gag遺伝子の大規模な欠損の特徴を示す。
【図6b】18人のLTS及び28人のKRGの非投与患者に対する5’LTR/gag遺伝子の大規模な欠損の特徴を示す。
【図6c】18人のLTS及び28人のKRGの非投与患者に対する5’LTR/gag遺伝子の大規模な欠損の特徴を示す。
【図7】nef遺伝子で大規模な欠損と比較して,5’LTR/gag遺伝子での大規模な欠損の頻度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高麗人参を有効成分として含むHIV−1の5’LTR及び/又はgag遺伝子欠損用の薬学的組成物。
【請求項2】
前記高麗人参は紅参であることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
HIV−1に感染した患者に投与されることを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
男性の場合,50〜100mg/kg/日,女性の場合20〜70mg/kg/日の投与量で投与されることを特徴とする請求項2記載の組成物。
【請求項5】
前記5’LTR及び/又はgag遺伝子の欠損が早期成熟停止コドンを有し,開始コドンが欠如することで定義されることを特徴とする請求項1又は2記載の組成物。
【請求項6】
前記5’LTR及び/又はgag遺伝子の欠損が以下の配列のように示されることを特徴とする請求項2記載の組成物。
ジェンバンク(GenBank)登録番号EF370172,EF370173,EF370175,EU047612,EF370184,EF370186,EF370187,EF370188,EF370191,EF370192,EF370193,EF370196,EF370197,EF370199,EF370201,EF370200,EF370202,EF370205,EF370207,EF370211,EF370213,EF3702115,EF3702116,EF3702118,EF370219,EF370221,EF370223,EF370224,EF370225,EF370226,EF370227,EF370228,EF370231,EF370235,EF370237,EF370239,EU047647,EF370245,EF370250,EF370251,EF370252,EF370253,EF370256,EF370259,EF370262,EF370261,EF370265,DQ295196,EF370275,EF370276,EF370277,EF3702778,EF370279,EF370282,EU047673,EF370283,EF370285,EF370286,EF370287,EF370288,EF370292

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図1g】
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【図1h】
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【図1i】
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【図1j】
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【図1k】
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【図1l】
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【図1m】
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【図1n】
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【図1o】
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【図1p】
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【図1q】
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【図1r】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図4e】
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【図4f】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−263327(P2009−263327A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196644(P2008−196644)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 国際レトロウイルス学会(The International Retrovirology Association)学会誌『AIDS Research and Human Retroviruses』(エイズ研究及びヒトレトロウイルス),第24巻,第2号 発行日:平成20年2月1日
【出願人】(508231717)コリア ジンセン コーポレイション (1)
【出願人】(508231739)ファウンデーション フォー インダストリー コーペレイション,ユニバーシティ オブ ウルサン (1)
【Fターム(参考)】