説明

魚だし風味増強剤

【課題】手間のかかるだし取り作業を行わなくても、魚由来のだしの風味を強く感じさせる魚だし風味増強剤を提供する。
【解決手段】寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分として配合する魚だし風味増強剤及び魚だし入り食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な魚だし風味増強剤及びこれを配合した食品に関する。
【背景技術】
【0002】
魚だしは、魚節や煮干を清水等の溶媒に接触させイノシン酸に代表される風味成分を抽出したものである。風味に優れた魚だしを得るためには、水温、火加減、抽出時間等を調整することが必要であるが、和食の専門店で実施しているような手間のかかる諸作業を工業的に効率良く行うことは難しい。
【0003】
風味に優れた魚だしを得る方法として、特許文献1(特開2008−86298号公報)には、だし入り液体調味料において、ビタミンCを添加しだし風味を強化する方法が記載されている。しかしながら、ビタミンCは加熱により分解し易いため、上記方法は消費者の要望を十分に満足するものとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−86298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、魚だし風味増強剤及びこれを配合した魚だし入り食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、上記目的を達成すべく多糖類について鋭意研究を重ねた結果、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とを有効成分として配合することにより、意外にも食品の魚だし風味を増強できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とを有効成分として配合する魚だし風味増強剤、
(2)寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種を合計0.01〜10%配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩を0.001〜3%配合する(1)の魚だし風味増強剤、
(3)(1)又は(2)の魚だし風味増強剤を配合する魚だし入り食品、
(4)寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合する魚だし入り食品、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の魚だし風味増強剤は、手間のかかるだし取り作業を行わなくても、魚由来のだしの風味を強く感じさせることができ、それゆえ工業的に効率良く魚だしを提供でき魚だし入り食品市場の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0010】
魚だしとは、魚節や煮干を清水等の抽出溶媒に接触させ、イノシン酸に代表される風味成分を溶出させて得られる。魚節とは、舟形に成形した魚体を茹で干した「なまり節」、それを燻製した「荒節」、さらに黴付けした「枯節」のことであり、煮干とは、小魚を煮て干したものである。本発明に用いる魚節及び煮干は、市販されているものであればいずれのものでも良く、例えば、魚節であれば、鰹節、鯖節、鮪節等が挙げられ、煮干であれば、鰯、きびなご、鯵、飛魚の煮干等が挙げられる。
【0011】
本発明の魚だし風味増強剤は、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩を有効成分として配合することを特徴とする。
【0012】
本発明の魚だし風味増強剤の有効成分である寒天は、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されず、一般に紅藻類から抽出して得られるアガロースとアガロペクチンを含有する多糖類であればいずれを使用しても構わない。
【0013】
本発明の魚だし風味増強剤の有効成分であるゼラチンは、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されず、例えば、アルカリ処理ゼラチンや酸処理ゼラチン等、製造方法や原料の由来によって各種のものがあるが、いずれを使用しても構わない。
【0014】
本発明の魚だし風味増強剤の有効成分であるジェランガムは、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されず、例えば、グルコースのC−2位にグリセリル基1残基が結合しC−6位にアセチル基が平均1/2残基結合しているネイティブ型ジェランガムや、これを脱アセチル化して精製された脱アシル型ジェランガムがあるがいずれを使用しても構わない。
【0015】
本発明の魚だし風味増強剤の有効成分であるカラギーナンは、通常食品素材として利用されているものであれば特に限定されない。カラギーナンは、一般に紅藻類から抽出して得られる硫酸基を持つガラクタンの一種であり、硫酸基の位置と数によってκ、λ、ι型に大別され、目的に応じて分画することができる。また、各型の含有割合は海藻の種類や年齢、部位等により変動するが、本発明の魚だし風味増強剤には、いずれの純度の、いずれの型のカラギーナンを用いても構わない。
【0016】
ヒアルロン酸とは、グルクロン酸とN−アセチルグルコサミンとの二糖からなる繰り返し構成単位を1以上有する多糖類をいう。本発明で使用するヒアルロン酸及び/又はその塩は、特に限定されないが、例えば鶏冠、臍の緒、眼球、皮膚、軟骨等の生体組織、あるいはストレプトコッカス属等のヒアルロン酸産生微生物を培養して得られる培養液等を原料として、抽出(更に必要に応じて精製)して得られるものである。
【0017】
本発明の有効成分であるヒアルロン酸及び/又はその塩は、当該粗抽出物あるいは精製物の何れを用いても良いが、精製物、具体的にはヒアルロン酸及び/又はその塩の純度が90%以上のものが好ましい。純度が90%未満の場合は、異味を呈する場合があり、魚だしの風味を損なう恐れがあり好ましくない。
【0018】
本発明の魚だし風味増強剤の有効成分である寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量は、魚だし風味増強剤中に0.01〜10%配合するのが好ましく、0.1〜10%がより好ましく、ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量は、魚だし風味増強剤中に0.001〜3%配合するのが好ましく、0.01〜3%がより好ましい。上記有効成分の配合量が、上記範囲より少ないと魚だし風味増強効果が得られ難く、上記範囲より多くしたとしても配合量に応じて魚だし風味増強効果が増し難いことから経済的でない。
【0019】
本発明の魚だし風味増強剤は、上記有効成分の配合量にもよるが、魚だし100部に対し0.1〜50部配合することが好ましく、1〜50部配合することがより好ましい。魚だし風味増強剤の配合量が、上記範囲より少ないと、魚だし風味増強効果が得られない場合があり、上記範囲より多くしたとしても配合量に応じて魚だし風味増強効果が増し難いことから経済的でない。
【0020】
本発明の魚だし風味増強剤は、上記記載の寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩の他に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し配合することができる。具体的には、例えば、食塩、みりん、酒、酢、核酸、アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム、酵母エキス等の調味料、各種ペプチド、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、酢酸等の有機酸及びその塩、グルコース、ショ糖、乳糖、麦芽糖、オリゴ糖、ぶどう糖果糖液糖等の糖類、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、キシリトール、トレハロース、パラチノース等の甘味料、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、オクテニルコハク酸化澱粉等の乳化剤、難消化性デキストリン、結晶セルロース、アップルファイバー等の食物繊維、ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ナイアシン等のビタミン類、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等のミネラル類、香辛料、色素、等が挙げられる。
【0021】
本発明の魚だし風味増強剤は、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合していれば、いずれの形態であっても良く、例えば、固体状、ゲル状、液体状等であっても良い。特に限定はされないが、例えば、固体状の魚だし風味増強剤はデキストリンや砂糖等の賦型剤を混合して製することができ、ゲル状又は液体状の魚だし風味増強剤は清水等の溶媒に分散又は溶解させて調製することができる。
【0022】
本発明の魚だし風味増強剤の魚だしへの添加方法は、特に限定されないが、魚節や煮干を清水等の溶媒に接触させ魚だしを抽出後、魚だしに本発明の魚だし風味増強剤を配合し、70〜95℃に加熱することで魚だし由来の風味をより引き立てることができ好ましい。加熱温度が70℃未満の場合、魚だし風味増強効果が得られないことがあり、95℃より高い場合、苦味が出てしまい魚だしの風味を損ねる場合がある。
【0023】
本発明の魚だし風味増強剤を配合する魚だし入り食品は、魚だしを配合してあればよく特に限定されないが、例えば、煮物つゆ、天つゆ、麺つゆ、どんぶりのたれ、お吸い物、味噌汁、煮物、炊き込みご飯、お茶漬け、お浸し、煮凝り、ぽん酢、ドレッシング、肉まん、肉団子等が挙げられる。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
寒天0.3%、キサンタンガム0.3%、ヒアルロン酸及び/又はその塩0.01%、クエン酸(結晶)0.1%、グラニュ糖1%、清水98.29%を品温80℃で混合溶解し、本発明の魚だし風味増強剤を調製した。
【0025】
[実施例2]
寒天0.3%及びキサンタンガム0.3%をゼラチン0.3%及びペクチン0.3%に置き換えた以外は実施例1の方法に準じて、本発明の魚だし風味増強剤を調製した。
【0026】
[実施例3]
寒天0.3%及びキサンタンガム0.3%をジェランガム0.3%及びカラギーナン0.3%に置き換えた以外は実施例1の方法に準じて、本発明の魚だし風味増強剤を調製した。
【0027】
[実施例4]
キサンタンガム0.3%をジェランガム0.3%に置き換えた以外は実施例1の方法に準じて、本発明の魚だし風味増強剤を調製した。
【0028】
[比較例1]
ヒアルロン酸及び/又はその塩0.05%を配合しない以外は実施例1の方法に準じて調製した。
【0029】
[比較例2]
寒天0.3%をペクチン0.3%に置き換えた以外は実施例1の方法に準じて調製した。
【0030】
[試験例1]
実施例1〜4及び比較例1、2の調製品各100gに、魚だし800g、醤油80g、みりん20gを攪拌混合後、85℃まで加温して各調味液を調製した。官能評価は、40℃に保温した各調味液について、実施例1〜4及び比較例1、2の調製品を清水に置き換えた対照と比較し、魚だしの風味に優れていると感じた場合をA、やや風味に優れていると感じた場合をB、同等と感じた場合をCとして行った。その結果を表1に示す。なお、魚だしは、95℃の湯1000mLに鰹の枯節を削ったもの30gを投入後、ひと煮立ちしたらすぐに火を止め、あくをていねいに取り除き、魚節が沈み始めたら布巾で静かに漉して調製したものを用いた。
【0031】
[表1]

【0032】
表1の結果、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合した場合、魚だしの風味を増強する効果がみられ好ましかった(実施例1〜4)。一方、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩のいずれかを配合しない場合、魚だしの風味は増強されなかった(比較例1、2)。
【0033】
[実施例5]
カラギーナン5%、ヒアルロン酸及び/又はその塩1%、デキストリン94%を混合し、本発明の魚だし風味増強剤を調製した。
【0034】
[試験例2]
寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量による本発明の効果への影響を調べるため、実施例5に準じてカラギーナンとヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量のみを変更し各調製品を得た。魚だしとして鰯の煮干を用いた以外は試験例1と同様に調味液の調製と官能評価を行い、その結果を表2に示す。なお、魚だしは、20℃の清水1000mLに鰯の煮干30gを投入後、あくをていねいに取り除きながら中火で煮立て、ひと煮立ちしたらすぐに火を止め、鰯の煮干を取り出し調製したものを用いた。
【0035】
[表2]

【0036】
表2の結果、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量が、魚だし風味増強剤中に0.01〜10%であり、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量が、魚だし風味増強剤中に0.001〜3%である場合、魚だし風味増強効果がみられた。特に、寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンの合計配合量が、魚だし風味増強剤中に0.1〜10%であり、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩の配合量が、魚だし風味増強剤中に0.01〜3%である場合、魚だし風味増強効果が顕著にみられた。
【0037】
[実施例6]
実施例1の魚だし風味増強剤100gに、魚だし(実施例1で調製したもの)800g、醤油80g、みりん20gを攪拌混合後、60℃まで加温し調味液を調製した。得られた調味液は、顕著な魚だし風味増強効果がみられたものの、試験例1で85℃まで加温した場合と比べやや劣った。
【0038】
[実施例7]
実施例1の魚だし風味増強剤100gに、魚だし(実施例1で調製したもの)800g、醤油80g、みりん20gを攪拌混合後、100℃まで加温し沸騰させ調味液を調製した。得られた調味液は、顕著な魚だし風味増強効果がみられたものの、試験例1で85℃まで加温した場合と比べやや劣った。
【0039】
[実施例8]
まず、鍋に魚だし(実施例2で調製したもの)200g、昆布だし200g、醤油45g、実施例5の魚だし風味増強剤0.5gを攪拌混合後、75℃に加熱して火を止め煮汁を調製した。次に、煮汁に、3cmダイスカットのかぼちゃ50g及びにんじん40g、厚さ1.5cmの銀杏切りのさつまいも75gを加えて火にかけ、沸騰したら弱火にし30分間煮込むことで煮物を得た。得られた煮物は、魚だしの風味に優れ非常に好ましかった。
【0040】
[実施例9]
まず、鍋に魚だし(実施例2で調製したもの)200g、昆布だし200g、醤油45g、カラギーナン0.1g、ヒアルロン酸及び/又はその塩0.05gを攪拌混合後、75℃に加熱して火を止め煮汁を調製した。次に、煮汁に、3cmダイスカットのかぼちゃ50g及びにんじん40g、厚さ1.5cmの銀杏切りのさつまいも75gを加えて火にかけ、沸騰したら弱火にし30分間煮込むことで煮物を得た。得られた煮物は、魚だしの風味に優れ非常に好ましかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩とを有効成分として配合することを特徴とする魚だし風味増強剤。
【請求項2】
寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種を合計0.01〜10%配合し、かつ、ヒアルロン酸及び/又はその塩を0.001〜3%配合する請求項1記載の魚だし風味増強剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の魚だし風味増強剤を配合する魚だし入り食品。
【請求項4】
寒天、ゼラチン、ジェランガム及びカラギーナンから選ばれる少なくとも1種と、ヒアルロン酸及び/又はその塩を配合することを特徴とする魚だし入り食品。

【公開番号】特開2011−78351(P2011−78351A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233078(P2009−233078)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】