説明

魚介エキスの製造方法

【課題】本発明は、生臭みが少なく、香味等に優れた魚介エキスの製造方法またはその製造方法により製造される魚介エキスを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、魚介類加工品の水性媒体抽出物を超臨界抽出することを特徴とする魚介エキスの製造方法またはその製造方法により製造される魚介エキスが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類の加工品としては、魚体を節と呼ばれる舟形に整形し、ゆで、焙乾、天日干し、カビ付け等の工程を経て製造される節類や、これらの加工を施さず、温度と湿度を調節することで腐敗を防ぎながら風乾させて製造される素干し、煮た後に乾燥させて製造される煮干し、塩漬けにした後乾燥させて製造される塩干し等様々なものが存在する。それらのいずれもが、その加工の過程でアミノカルボニル反応等の様々な化学反応によって多様な呈味成分や香味成分が生成されるという特徴がある。
【0003】
このため、魚介類の加工品から、呈味と香味のバランスのよい抽出物(以下、「魚介エキス」ともいう)を得ることができれば、各種食品に好ましい呈味と香味を付与できる調味料等への利用が期待できる。
【0004】
魚介類の加工品から呈味成分を抽出する方法としては、熱水抽出法、エタノール抽出法等が行なわれている。しかし、これらの方法で得られる抽出物は雑味成分や苦味成分を多く含むといった問題があった。
【0005】
また、魚介類の加工品から香味成分を抽出する方法としては、水蒸気蒸留法が一般的である。しかし、この方法では不揮発性の呈味成分が抽出できないといった問題があった。
【0006】
上記以外の抽出方法として超臨界抽出法が知られているが、超臨界二酸化炭素のみを用いた場合は呈味成分を抽出できないという問題があった。含水エタノール等のエントレーナーを用いると呈味成分を抽出できる(特許文献1等参照)が、エントレーナーに水が含まれると呈味成分と同時に生臭み成分も抽出されてしまい、水を含まないエタノールを用いると呈味成分の抽出率が低くなる。また、これらの方法では抽出できる水溶性成分の量が少なく、その収率も満足できるレベルにないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−57008号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、魚介類加工品の水性媒体抽出物を超臨界抽出することにより、生臭みが少なく、香味、呈味、および風味のバランスが優れた魚介エキスを製造できることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
本発明は、生臭みが少なく、香味等に優れた魚介エキスの製造方法と、その製造方法により製造される魚介エキスを提供することを目的とする。
【0010】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)魚介類加工品の水性媒体抽出物を超臨界抽出することを特徴とする、魚介エキスの製造方法。
(2)魚介類加工品が魚介類の素干し品または節類である、(1)に記載の製造方法。
(3)(1)または(2)に記載の製造方法により製造される、魚介エキス。
【0011】
本発明によれば、生臭みが少なく、香味等が優れた魚介エキスの製造方法と、その製造方法により製造される魚介エキスを提供できる点で有利である。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明の魚介エキスの製造方法は、魚介類の加工品を水性媒体で抽出して得られる抽出物を超臨界抽出することを特徴とする方法である。
【0013】
本発明に用いられる魚介類の加工品としては、魚体を節と呼ばれる舟形に整形し、ゆで、焙乾、天日干し、カビ付け等の工程を経て製造される節類(例えば、鰹節、宗田節、マグロ節、サバ節、うるめ節、イワシ節(いりこ節)、ムロ節、又はサンマ節等)、これらの加工を施さず、温度と湿度とを調節することで腐敗を防ぎながら風乾させて製造される素干し(例えば、するめ、身欠きニシン、干かずのこ、干たら、田作り、たたみいわし、ふかひれ等)、煮た後に乾燥させて製造される煮干し、塩漬けにした後乾燥させて製造される塩干し等が挙げられるが、素干し品または節類が好ましく用いられ、素干し品がより好ましく用いられる。
【0014】
魚介類の加工品はそのまま用いてもよいが、切断、粉砕、切削、ミンチ等の細分化処理を予め行なって用いると抽出効率が向上するため好ましい。
【0015】
水性媒体としては、水、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩水溶液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液等が挙げられるが、水が好ましく用いられる。含水エタノールを用いてもよいが、含水率が50%(v/v)以上であるものが好ましい。
【0016】
水性媒体による抽出は、攪拌機、超音波発生器、還流抽出器、ソックスレー抽出器、ホモジナイザー、振とう機等、通常の溶媒抽出で使用される機器が用いられる。
【0017】
水性媒体による抽出に用いられる水性媒体の量は、特に限定されないが、例えば被抽出物1質量部に対して2〜50質量部、好ましくは被抽出物1質量部に対して5〜20質量部用いる。
【0018】
水性媒体による抽出温度は、用いる水性媒体の沸点以下の温度であれば特に限定されないが、通常0〜100℃、好ましくは4〜90℃である。
【0019】
水性媒体による抽出時間に特に制限がないが、1分間〜1週間が好ましく、30分間〜1日間がより好ましい。
【0020】
水性媒体による抽出後に得られる組成物は、そのまま水性媒体による抽出物として用いてよいが、沈降分離、ケーキ濾過、清澄濾過、遠心濾過、遠心沈降、圧搾分離、フィルタープレス等の固液分離方法、好ましくは濾過により固液分離を行い、得られる液体組成物を水性媒体による抽出物として用いてもよい。
【0021】
また、該固液分離法により得られた固体組成物を水性媒体でさらに抽出し、これを水性媒体による抽出物としてもよい。
【0022】
水性媒体による抽出物はそのまま超臨界抽出に供してもよいが、濃縮処理、または熱乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理を行ない、濃縮物または乾燥物とした後に、これを超臨界抽出に供してもよい。
【0023】
濃縮物または乾燥物を用いる場合、水または含水エタノールを用いて水分の含有量を0.1〜50質量%とした後に用いることが好ましい。
【0024】
超臨界流体抽出(単に「超臨界抽出」ともいう)を行う場合は、抽剤流体を単独で用いてもよいが、抽剤流体にエントレーナーを混合したものを用いてもよい。
【0025】
抽剤流体としては、二酸化炭素、アンモニア、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジメチルブタン、ベンゼン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、ヘキサン、一酸化二窒素等のいずれの超臨界流体を用いてもよいが、食品への利用の観点から超臨界二酸化炭素が好適に用いられる。
【0026】
なお、本発明において、超臨界流体(「超臨界ガス」ともいう)とは、臨界温度および臨界圧力を超えた状態にある流体のことをいう。
【0027】
エントレーナーとしては、メタノール、エタノール等の1価脂肪族アルコール、水、含水1価脂肪族アルコール、アセトンまたはヘキサン等、いずれも用いることができるが、水またはエタノールが好適に用いられる。これらの中でも、水が特に好ましい。
【0028】
エントレーナーの添加量としては、0.1〜50%(w/w)であることが好ましく、1〜20%(w/w)であることがより好ましい。
【0029】
超臨界流体抽出に用いられる抽剤流体量は、特に制限はないが、例えば水性媒体抽出物1質量部に対して、積算量として5〜1000質量部、好ましくは20〜50質量部である。また、必要に応じて、抽剤流体を循環させてもよい。
【0030】
エントレーナーを用いる場合、その使用量に特に制限はないが、例えば超臨界流体1質量部に対して、積算量として0.001〜100質量部、好ましくは1〜20質量部である。
【0031】
超臨界流体抽出は、超臨界流体抽出装置を用いて行なうことができる。
【0032】
超臨界流体抽出に用いられる抽出槽温度および抽出槽圧力は、それぞれ臨界温度および臨界圧力を超えていなければならないが、上限に関しては特に制限はない。
【0033】
臨界温度および臨界圧力は抽剤流体の種類によって異なるが、例えば二酸化炭素の場合、温度は0〜100℃が好ましく、10〜60℃がより好ましく、圧力は、7〜50MPaが好ましく、10〜40MPaがより好ましい。
【0034】
抽出時間に特に制限はないが、1分間〜100時間が好ましく、3〜24時間がより好ましい。
【0035】
超臨界抽出の終了後、分離槽の温度や圧力、充填剤等を変更する常法によって、抽出液を取得することができる。
【0036】
超臨界抽出は、任意の回数で実施することができ、例えば、1回だけ実施することもできるし、複数回実施することもできる。複数回実施する場合には、同一条件で複数回実施してもよく、実施条件(例えば、含水率、圧力、温度、時間)を変更して実施することもできる。
【0037】
超臨界抽出で得られた抽出液は、そのまま本発明の魚介エキスとして用いることができるが、濃縮処理または熱乾燥処理、凍結乾燥処理等の乾燥処理に供して濃縮物または乾燥物として、これを本発明の魚介エキスとして用いてもよい。
【0038】
また、超臨界抽出で得られた抽出液に上記水性媒体を添加して水性媒体による抽出処理を行い、遠心分離等により水層を分離し、該水層にメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等の1価脂肪族アルコール、好ましくは1−ブタノールを添加して抽出処理を行い、遠心分離等により水層を分離して、該水層を本発明の魚介エキスとしてもよい。
【0039】
本発明の魚介エキスは、液状、粉状、顆粒状等のいずれの形状を有するものであってもよい。
【0040】
本発明の魚介エキスは、食塩等の無機塩、アスコルビン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等のカルボン酸等の酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等のアミノ酸類、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等の糖類、醤油、味噌、蛋白質加水分解物等の天然調味料、スパイス類、ハーブ類等の香辛料、デキストリン、各種澱粉等の賦形剤等、飲食品に使用可能な添加物を含有してもよい。
【0041】
本発明の魚介エキスは、生臭みが少なく、こく味があり、香味と呈味のバランスがよいという特徴を有する。
【0042】
本発明の魚介エキスはそのまま飲食品として用いてもよいが、味噌、醤油、たれ、だし、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ等の調味料、吸い物、コンソメスープ、卵スープ、ワカメスープ、フカヒレスープ、ポタージュ、味噌汁等のスープ類、麺類(そば、うどん、ラーメン、パスタ等)のつゆ、スープ、ソース類、おかゆ、雑炊、お茶漬け等の米調理食品、ハム、ソーセージ、チーズ等の畜産加工品、かまぼこ、干物、塩辛、珍味等の水産加工品、漬物等の野菜加工品、ポテトチップス、煎餅、クッキー等のスナック菓子類、煮物、揚げ物、焼き物、カレー等の調理食品等の飲食品の調理時に素材として添加することにより、または摂食時に添加することにより、飲食品に魚介エキス特有の風味を付与する風味付与剤として好適に用いることができる。添加量は、飲食品により異なるため、適宜調整する。
【0043】
本発明の好ましい態様によれば、魚介類加工品の水性媒体抽出物を、超臨界抽出することを特徴とする生臭み抑制方法、香味増強方法、呈味増強方法、および風味増強方法が提供される。
【実施例】
【0044】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0045】
実施例1:身欠きニシンの熱水抽出物を超臨界抽出に供した例(1)
熟成10日目の身欠きニシンを細切して凍結乾燥させたもの(約150g)に、質量比で10倍質量部となるように水を加え(ここでは1.5L)、100℃のオーブン(液温は約80℃)で3時間加熱し、濾過した。濾液を凍結乾燥させて21gの身欠きニシンの熱水抽出物の粉末を得た。
【0046】
該熱水抽出物の粉末に2gの水を加えて溶解させた後、15gを50ml容量の超臨界二酸化炭素抽出用容器に入れ、圧力25MPa、温度50℃、流速3ml/分の条件で5時間、超臨界二酸化炭素抽出を行なった。得られた超臨界二酸化炭素抽出物の水を留去して39.8mgの魚介エキス1を得た。
【0047】
実施例2:身欠きニシンの熱水抽出物を超臨界抽出に供した例(2)
実施例1で調製した身欠きニシンの熱水抽出物の粉末に2gの80%(v/v)エタノール水溶液を加えて溶解させた後、15gを実施例1に記載の超臨界抽出に供した。
得られた超臨界二酸化炭素抽出物のエタノール水溶液を留去して27.6mgの魚介エキス2を得た。
【0048】
比較例1:身欠きニシンをそのまま超臨界抽出に供した例(1)
熟成10日目の身欠きニシンを細切して凍結乾燥したもの(約150g)に質量比で0.3倍質量部の水を加えた。該被抽出物を50ml容量の超臨界二酸化炭素抽出用容器に約15g入れ、圧力25MPa、温度50℃、流速3ml/分の条件で5時間、超臨界二酸化炭素抽出を行なった。該抽出物を1500rpmで2分間遠心分離後、得られた水層を回収し、水を留去して6.3mgの魚介エキス3を得た。
【0049】
比較例2:身欠きニシンをそのまま超臨界抽出に供した例(2)
比較例1で得た超臨界抽出物の水層をブタノールと水とで分液して4℃の低温室で一晩放置した。水層を回収し、水を留去して4.7mgの魚介エキス4を得た。
【0050】
比較例3:身欠きニシンをそのまま超臨界抽出に供した例(3)
熟成10日目の身欠きニシンを細切して凍結乾燥したもの(約150g)に質量比で0.3倍質量部の80%エタノールを加えた。該被抽出物を50ml容量の超臨界二酸化炭素抽出用容器に約15g入れ、圧力25MPa、温度50℃、流速3ml/分の条件で5時間、超臨界二酸化炭素抽出を行なった。該抽出物に水を5ml加え、1500rpmで2分間遠心分離した。得られた水層を回収した後、水を留去し、13.2mgの魚介エキス5を得た。
【0051】
比較例4:身欠きニシンを熱水抽出に供した例
熟成10日目の身欠きニシンを細切して凍結乾燥したもの(約150g)に質量比で10倍質量部の水を加え、100℃のオーブン(液温は約80℃)で3時間熱水抽出した。該熱水抽出物を凍結乾燥して21gの魚介エキス6を得た。
【0052】
官能評価試験
上記実施例1〜2および比較例1〜4で得た魚介エキス1〜6の香味、呈味、および風味について、下記の基準で5人のパネラーで官能評価を行なった。結果を表1に示す。
◎:良い
○:やや良い
△:良くもないが悪くもない
×:悪い
【0053】
また、超臨界二酸化炭素抽出槽に入れた試料の質量に対して得られた魚介エキスの乾燥質量を回収率として算出し、実施例1の魚介エキス1の値を100として表1に示した。
【表1】

【0054】
表1に示すとおり、身欠きニシンの熱水抽出物を超臨界抽出して得られた魚介エキス(魚介エキス1および2)は生臭みが少なく、香味、呈味、および風味に優れたものであった。また、これらの魚介エキス(魚介エキス1および2)の回収率は、身欠きニシンを直接超臨界抽出したものや熱水抽出したものと比較して高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類加工品の水性媒体抽出物を超臨界抽出することを特徴とする、魚介エキスの製造方法。
【請求項2】
魚介類加工品が魚介類の素干し品または節類である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造される、魚介エキス。

【公開番号】特開2012−115167(P2012−115167A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265489(P2010−265489)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(505144588)キリン協和フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】