説明

魚病防除剤及び飼料

【課題】養殖業における細菌感染による病害防除対策ができ、安全で優れた防除効果を有する魚病防除剤及び飼料を提供する。
【解決手段】ミモザ抽出物を有効成分とする魚病防除剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミモザ抽出物を含有する魚病防除剤及び飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
養殖業における細菌感染による病害防除対策として、甘草末を配合した養魚用飼料(特許文献1参照)及び甘草末を含有する養魚用飼料添加物組成、それを用いた養殖魚類の生長促進方法及び飼料(特許文献2参照)、魚病原因菌に対する抗菌剤(特許文献3参照)、魚病防除剤(特許文献4参照)が提案されている。しかしながら、さらに安全で効果が高い魚病防除剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−283247号公報
【特許文献2】特開平11−169099号公報
【特許文献3】特開2004−292385号公報
【特許文献4】特開2007−70240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、養殖業における細菌感染による病害防除対策ができ、安全で優れた防除効果を有する魚病防除剤及び飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ミモザ抽出物、特にミモザタンニンが、優れた魚病の原因菌に対する発育阻止効果、免疫賦活効果を有することを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は下記魚病防除剤及び飼料を提供する。
[1].ミモザ抽出物を有効成分とする魚病防除剤。
[2].ミモザ抽出物が、タンニンを50〜90質量%(固形分)含むものである[1]記載の魚病防除剤。
[3].ミモザ抽出物が、ミモザの樹皮の熱水抽出物である[1]又は[2]記載の魚病防除剤。
[4].エドワジエラ症の魚病に対するものである[1]、[2]又は[3]記載の魚病防除剤。
[5].マダイの魚病に対するものである[1]〜[4]のいずれかに記載の魚病防除剤。
[6].[1]〜[5]のいずれかに記載の魚病防除剤を含有する魚用飼料。
[7].ミモザ抽出物を含有する魚病防除用飼料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、魚病に対して、安全で優れた防除効果を有する魚病防除剤及び飼料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】マダイのエドワジエラ症に対するミモザ抽出物の効果(マダイの累積死亡率%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の魚病防除剤の有効成分であるミモザ抽出物は、マメ科アカシア(Acasia)属に属する植物である。使用部位は、樹皮、根、根茎、葉、茎のいずれの部位でも原料として使用することができるが、樹皮を使用することが好ましい。抽出方法は特に限定されず、溶媒抽出、熱水抽出、水蒸気蒸留、超臨界抽出等の公知の抽出方法を採用することができる。例えば、溶媒抽出の場合、ミモザ樹皮を生のまま、又は乾燥した後に適当な大きさに切断・加工し、抽出溶媒に浸漬、撹拌することによって得ることができる。抽出は必要に応じて加温してもよく、時間は適宜選定され、抽出pHは、極端な酸性又はアルカリ性でなければ特に制限はない。上記抽出方法に用いる溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類等が挙げられ、これらを1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。抽出後ろ過を行い、適宜公知の精製を行ってもよい。さらに、抽出液は、適宜、濃縮、分離精製、噴霧乾燥等を行うことができる。
【0010】
特に、ミモザ抽出物(固形分)にタンニン量が50〜90質量%(固形分)、好ましくは55〜90質量%、より好ましくは60〜80質量%含まれるものが好ましい。このようなミモザ抽出物としては、ミモザの樹皮の熱水抽出物が挙げられる。また、上記のようなタンニン量のミモザ抽出物を得る方法としては、例えば、ミモザの樹皮を粉砕し、原料の3〜20倍量、好適には5〜15倍量の60〜90℃、より好ましくは熱水抽出により得ることができる。その後、減圧濃縮等の濃縮、分離精製、噴霧乾燥等を行うことができる。
【0011】
なお、本発明のタンニン含量の測定は、以下の測定方法による。
カテキン100mgを99容量%エタノール100mLに溶解した溶液0.1mLに、蒸留水8.0mL及びフォーリン・デニス試薬0.5mLを加え、室温で3分間静置した後、10質量%炭酸ナトリウム溶液1.0mLを加え、室温で30分間静置し、760nmにおける吸光度Aoを求める。次にミモザ抽出物100mgを50容量%エタノール100mLに溶解した溶液0.1mLを、同様に処理し吸光度Aを求める。カテキンの含量を100質量%として、その相対値(A/Ao×100)をもってミモザ抽出物のタンニン含量とする。
【0012】
本発明の魚病防除剤は、ミモザ抽出物を有効成分とする魚病防除剤である。魚病防除剤の対象となる魚病としては、エドワジエラ症:エドワジエラ タルダ(Edwardsiella tarda)、ビブリオ病:ビブリオ ダムセラ(Vibrio damsela)、ビブリオ ハーベイ(Vibrio harveyi)、ビブリオ オーダリー(Vibrio ordalli)、ビブリオ ペスシダ(Vibrio penaeicida)、ビブリオ スプレンディダス(Vibrio splendidus)、ビブリオ バルニフィカス(Vibrio vulnificus)、ビブリオ アンギラルム(Vibrio anguillarum)、細菌性腸管白濁症:ビブリオ イチオエンテリー(Vibrio ichthyoenteri)、潰瘍病:ビブリオ パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、桿菌性壊死症:ビブリオ トゥビアッシ(Vibrio tubiashii)、カラムナリス病:フラボバクテリウム カラムナレ(Flavobacterium columnare)、冷水病:フレキシバクター サイクロフィラム(Flexibacter psychrophilum)、滑走細菌症:フレキシバクター マリティマス(Flexibacter maritimus)、テナチバキュラム・マリティマム(Tenacibaculum maritimum)、ノカルジア症:ノカルディア アステロイデス(Nocardia asteroides)、ノカルジア・セリオラエ(Nocardia seriolae)、類結節症:フォトバクテリウム ダムセラ(Photobacterium damsela)、乳酸桿菌症:カーノバクテリウム ピシコラ(Carnobacterium piscicola)、ブドウ球菌症:スタフィロコッカス エピデルミデス(Staphylococcus epidermideis)、菌血症:ラクトコッカス ガービア(Lactococcus garvieae)、せっそう病:エロモナス サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)、連鎖球菌症:エンテロコッカス種(Enterococcus sp.)、ストレプトコッカス イニエ(Streptococus iniae)、ストレプトコッカス ディスガラクティエ(Streptococus dysgalactiae)、ストレプトコッカス・パラユベリス(Streptococus parauberis)等が挙げられる。中でも、エドワジエラ症に対して有効である。
【0013】
上記の魚病は、マダイ、ヒラメ、タイ類、ブリ類、ボラ、カレイ、アイナメ、ウナギ、コイ、ティラピア、ギンザケ、ニジマス、トラフグ、マグロ、メバル、アジ、サバ、カワハギ、アナゴ、チョウザメ等の広範囲な種類の魚介類に発生する上記記載の病害に有効であるが、マダイの魚病に好適であり、特にマダイのエドワジエラ症に対して有効である。なお、マダイのエドワジエラ症と、ヒラメのエドワジエラ症とは別の株である。
【0014】
本発明の魚病防除剤は、ミモザから得られる抽出物を用いるため、抗生物質による薬剤耐性菌の出現や副作用の問題がなく、安心して投与することができる。さらに、薬剤の残留による人体や環境への影響の心配がないため、特に、養殖魚に対する魚病の防除剤として好適である。
【0015】
本発明の魚病防除剤は、稚魚から成魚に投与することができ、投与方法は経口投与が可能である。経口投与する場合は、魚病防除剤をそのまま又は任意の魚用飼料成分と混合し、魚用飼料として投与することが可能である。また、その投与量は、通常、魚体重1kgあたり10〜1000mgが好ましく、50〜200mgがより好ましい。投与期間は特に限定されないが、7〜28日間で効果を得ることができる。
【0016】
本発明のミモザ抽出物は、後述する実施例における結果からも明らかであるように、優れた免疫賦活効果を有するため、ミモザ抽出物を有効成分とする免疫賦活剤を提供することができる。
【0017】
本発明は、上記魚病防除剤を含有する魚用飼料や、ミモザ抽出物を含有する魚病防除用飼料を提供する。ミモザ抽出物、対象となる魚病や、投与方法等は同じである。
【0018】
ミモザ抽出物以外の魚用飼料成分としては、魚粉、小麦粉、でん粉、魚油等が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。飼料中のミモザ抽出物(魚病防除剤)の含有量は0.03〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜2.0質量%である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0020】
[実施例1]
ミモザ(樹皮)1000gを粉砕し、ミモザ(樹皮)の10倍量で熱水抽出した。固体と液体とを分離して抽出液を得た。得られた抽出液を濃縮し、濃縮液(固形45質量%)を得て、これを噴霧乾燥し、ミモザ抽出物150g(タンニン含量65質量%)を得た。
得られたミモザ抽出物について、下記評価を行った。
【0021】
<魚病原因菌に対する発育阻止効果>
ミモザ抽出物含有寒天培地(ミモザ抽出物濃度:0.002〜1.000%(w/v)、2倍希釈系列)に種々の菌液を滴下し(5μL/滴)、2〜4日間、25℃で培養した。目視でコロニーの発育が確認できなかったミモザ抽出物最小濃度を、最小発育阻止濃度(MIC)とした。寒天培地には、ミモザ抽出物を溶解した培地24mLを直径9cmのシャーレに注いだものを使用した。また、発育陽性培地として、ミモザ抽出物不含寒天培地も同様に作成し、細菌の発育と滴下菌量を確認した。結果を表1に示す。下記9種類(15株)の魚病原因菌(細菌)に対し、発育阻止効果が認められた。
【0022】
【表1】

【0023】
<マダイの免疫に対する効果>
エドワジエラ症の原因細菌であるEdwardsiella tardaは宿主食細胞内で抵抗性を示すため、本症の予防には、食細胞のポテンシャルキリング活性(PK)の向上が有効と考えられている。ミモザ抽出物がPKに及ぼす影響を確認した。
100L水槽4槽に平均体重66.7gのマダイを5尾ずつ収容した。水温25℃に馴致した後、各水槽のマダイに、実施例1で得られたミモザ抽出物を表2の割合で添加したモイストペレット(MP)を給餌率4質量%/日で4週間毎日投与した。最終投与日の翌日、下記方法により血液のポテンシャルキリング活性を測定した。結果を表2に併記する。
【0024】
[ポテンシャルキリング活性]
マイクロチューブにNBT溶液(コントロール)及びZymosan加NBT溶液を15μLずつ分注し、魚より採血した血液100μLを毛細管(長さ75mm、φ2mm、ミナトメディカル製)に充填し1000G、4℃で5分間遠心分離を行った。遠心分離機より毛細管を取り出し、白血球層と赤血球層の境界面及び白血球層の上方2cmで毛細管を切断し、白血球を含む部分を、50μLRPMI1640溶液を用いて新しいマイクロチューブに移動させた。得られた白血球溶液をピペッティングにて白血球細胞を分散し、NBT溶液及びZymosan加NBT溶液を15μLずつ加え、25℃でインキュベート行った。その後、15質量%NaCl溶液を30μL加えた。次に、DMF400μLを各マイクロチューブに加えてピペットを用いて混和し、1500G,4℃、15分間遠心分離を行った。上清250μLを石英マイクロプレートに移し、540nmの吸光値(OD)を測定し、下記式を用いて評価を行った。
ポテンシャルキリング活性(PK)
=Zymosan加NBT溶液のOD−NBT溶液のOD
【0025】
【表2】

【0026】
マダイのPKは、ミモザ抽出物投与の方がミモザ抽出物無投与より有意に高かった。ミモザ抽出物の投与により、マダイの免疫が向上することがわかった。
【0027】
<マダイのエドワジエラ症に対する効果−1>
マダイのエドワジエラ症の感染予防に、ミモザ抽出物の投与が有効かどうか確認した。
100L水槽6槽に平均体重55.0gのマダイを10尾ずつ収容した。水温25℃に馴致した後、各水槽のマダイに、実施例1のミモザ抽出物を表3の割合で添加したモイストペレット(MP)を、給餌率4質量%/日で4週間毎日投与した。4週間投与した翌日、ミモザ抽出物を投与して1.5時間後にE.tarda(MEE0309株)の菌液(107CFU/mL)でマダイを1.5時間浸漬攻撃した。その後水槽に再収用し、攻撃後24時間目の血液と腎臓における菌量を測定した。
【0028】
【表3】

【0029】
ミモザ抽出物0.33質量%添加を4週間投与(水槽5)と、ミモザ抽出物0.67質量%添加を2週間投与(水槽3)とにおける体内菌量は、ミモザ抽出物無投与(水槽1)のそれよりも有意に低かった。ミモザ抽出物の投与により、体内菌量が低下することが確認された。
【0030】
<マダイのエドワジエラ症に対する効果−2>
マダイのエドワジエラ症の発生予防に、ミモザ抽出物の投与が有効かどうかを確認した。500L水槽2槽に平均体重79.1gのマダイを18尾ずつ収容した。水温25℃に馴致した後、各水槽のマダイに、実施例1のミモザ抽出物を表4の割合で添加したモイストペレット(MP)を給餌率4質量%/日で毎日投与した。4週間投与した翌日、ミモザ抽出物を投与して1.5時間後にE.tarda(MEE0309株)の菌液(107CFU/mL)でマダイを1.5時間浸漬攻撃した。その後水槽に再収用し、攻撃後28日間、マダイの累積死亡率を観察した。攻撃後も観察終了まで表4のミモザ抽出物を投与した。
【0031】
【表4】

【0032】
また、ミモザ抽出物投与と、ミモザ抽出物無投与の累積死亡率(%)を図1に示す。ミモザ抽出物投与の方が、ミモザ抽出物無投与に比べ累積死亡率が低かった。以上のことから、本症の発生予防にミモザ抽出物の投与が有効であることが確認された。
【0033】
[配合例1]
下記表5に示す組成の魚用飼料を作製した。
【0034】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミモザ抽出物を有効成分とする魚病防除剤。
【請求項2】
ミモザ抽出物が、タンニンを50〜90質量%(固形分)含むものである請求項1記載の魚病防除剤。
【請求項3】
ミモザ抽出物が、ミモザの樹皮の熱水抽出物である請求項1又は2記載の魚病防除剤。
【請求項4】
エドワジエラ症の魚病に対するものである請求項1、2又は3記載の魚病防除剤。
【請求項5】
マダイの魚病に対するものである請求項1〜4のいずれか1項記載の魚病防除剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の魚病防除剤を含有する魚用飼料。
【請求項7】
ミモザ抽出物を含有する魚病防除用飼料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−53071(P2013−53071A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174744(P2011−174744)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【出願人】(594156880)三重県 (58)
【Fターム(参考)】