説明

魚網用アラミド繊維および魚網

【課題】高沈降速性と長期間漁網として使用しても強度低下を発生しない、優れた耐候性および耐加水分解性を有する魚網用アラミド繊維を提供する。
【解決手段】アラミドポリマーに、特定の金属および/または金属酸化物、および着色剤を、それぞれ特定量含有させる。具体的には、アラミドポリマーから構成されるアラミド繊維であって、該アラミド繊維には、比重3g/cm以上、平均粒径1μm以上10μm以下の金属および/または金属酸化物微粒子が、アラミドポリマーに対して3〜50重量%、および着色剤がアラミドポリマーに対して3〜10重量%含有されている魚網用アラミド繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高比重を備えた水産資材用途に好適な繊維に関し、特に耐加水分解性、耐候性に優れた魚網用に適したアラミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚網、釣り糸、ロープ、消波網などの水産資材用繊維は、水中での沈降性、保形性、耐久性、安全性が要求され、高比重繊維が要望されていた。特に、魚網においては、海中での形状が漁獲量に大きな影響を与えるため、繊維の比重が大きく沈降性の高い物かつ、長期間の繰り返し使用に耐える高い耐久性が要求されてきた。
【0003】
このような課題を解決するために、高比重の水産資材用繊維の開発が行われ、種々のものが提案されている。延伸処理により高強度を発現する樹脂と高比重粉末との組合せによる繊維が考えられており、例えば、(1)高比重粒子を含有した熱可塑性樹脂を高倍率に延伸する方法(特許文献1:特開昭61−613号公報)、および(2)高比重粒子を含有した熱可塑性樹脂を芯層とし、強度付与の樹脂を鞘層とする有芯型繊維(特許文献2:特開昭58−4819号公報)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、上記方法(1)では、樹脂表層に粒子が露出するため、延伸する際に設備を破損させる可能性や、析出した粒子により延伸中に亀裂が生じ強度低下の原因となる可能性も有している。また、方法(2)では、耐久性を得ることはできるものの、製造工程が複雑な芯鞘複合構造が必要となるため、製造コストが増大するなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−613号公報
【特許文献2】特開昭58−4819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高沈降性と長期間漁網として使用しても強度低下を発生しない、優れた耐候性および耐加水分解性を有する魚網用繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の金属および/または金属酸化物、および着色剤を、それぞれ特定量含むアラミドポリマーからなる繊維を用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、アラミドポリマーから構成されるアラミド繊維であって、該アラミド繊維には、比重3g/cm以上、平均粒径1μm以上10μm以下の金属および/または金属酸化物微粒子が、アラミドポリマーに対して3〜50重量%、および着色剤がアラミドポリマーに対して3〜10重量%含有されている魚網用アラミド繊維である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の魚網用アラミド繊維は、高沈降性と長期間漁網として使用しても強度低下を発生せず、優れた耐候性および耐加水分解性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<アラミドポリマー>
本発明におけるアラミドポリマーは、溶液中でのジカルボン酸ジクロライドとジアミンとの低温溶液重合、または界面重合から得ることができる。
【0010】
[アラミドポリマーの原料]
(ジアミン成分)
具体的に本発明において使用されるジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン、2−クロルp−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロルp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなどを単独あるいは2種以上挙げることができるが、これらに限定されるものではない。中でも、ジアミン成分として、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを単独あるいは2種以上使用することができる。
【0011】
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
具体的に本発明において使用されるジカルボン酸クロライド成分としては、例えばイソフタル酸クロライド、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドなど挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、ジカルボン酸クロライド成分として、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドが好ましい。従って、本発明におけるアラミドポリマーの例として、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、およびポリメタフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。特に好ましくは、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである。
【0012】
[溶媒]
また、アラミドポリマーを重合する際の溶媒としては、具体的にN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶媒は、2種以上の混合溶媒として使用することも可能であり、特に制限されることはない。上記溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0013】
この場合、溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時に一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩として、例えば塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0014】
[濃度]
本発明のアラミドポリマーの製造において用いられるアラミド溶液のポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ポリマー濃度が0.5重量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30重量%を超える場合、ノズルから吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり安定的に紡糸することが困難となる。
【0015】
(ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドとの組成)
また、アラミドポリマーを製造する際、これらのジアミン成分と酸クロライド成分は、ジアミン成分対酸クロライド成分のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
【0016】
[その他]
このアラミドポリマーの末端は、封止されることもできる。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えばフタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
【0017】
一般に用いられる酸クロライドとジアミンの反応においては、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩を併用できる。
【0018】
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応する。
【0019】
反応条件は、特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は例えば−25℃〜100℃好ましくは−10℃〜80℃である。
【0020】
このようにして得られるアラミドポリマーは、アルコール、水といった非溶媒に投入して、沈殿させ、パルプ状にして取り出すことができる。これを再度他の溶媒に溶解して成形に供することもできるが、重合反応によって得た溶液をそのまま成形用溶液として用いることができる。再度溶解させる際に用いる溶媒としては、アラミドポリマーを溶解するものであれば特に限定はされないが、上記アラミドポリマーの重合に使用される溶媒が好ましい。
【0021】
(金属または金属酸化物微粒子)
次に、本発明のアラミド繊維に含有される金属または金属酸化物微粒子としては、鉄、タングステン、チタン、ステンレスなどのほか、これらの金属の酸化物が挙げられる。中でも、製造技術面や取り扱い性、価格の面から、酸化鉄が好ましい。
【0022】
本発明のアラミド繊維に含有される金属および/または金属酸化物微粒子の比重は、3g/cm以上であり、好ましくは3.5g/cm以上6.5g/cmである。比重が3g/cm未満である場合には、上記アラミド繊維の比重が小さくなるため、優れた沈降性を得ることが困難である。
【0023】
また、金属微粒子の平均粒径は、1μm以上10μm以下であり、好ましくは3〜8μm、さらに好ましくは4〜6μmである。平均粒径が10μmを超えると、紡糸時の糸切れが頻発し連続的な紡糸が不可能である。
ここで、平均粒径は、粒度分布計により測定した値により定義される値である。
【0024】
(金属および/または金属酸化物微粒子含有量)
金属および/または金属酸化物微粒子のアラミド繊維中における含有量は、沈降性と紡糸の安定性から3〜50重量%、好ましくは5〜20重量%である。含有量が3重量%より低いと、得られる繊維の比重が小さくなり、優れた沈降性を示さない。一方、含有量が50重量%を超えるときには、紡糸時の糸切れが頻発し連続的な紡糸が不可能である。
【0025】
(着色剤)
次に、本発明の魚網用アラミド繊維には、金属および/または金属酸化物微粒子とともに、着色剤が含有されている。着色剤を含有しない場合には、耐候性が悪化する恐れがあるとともに、金属微粒子の有する光沢が魚などの水棲動物に警戒感を与える恐れがある。
着色剤の色としては、特に限定されず、黒、青、オレンジ、茶などの、通常、魚網に用いられる色であればよい。
着色剤としては、例えば上記で定義される平均粒径が3〜10μm程度のカーボンブラックなどの無機系顔料のほか、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系着色剤、スチレン系着色剤、キナクドリン系着色剤などの有機系着色剤が挙げられる。中でも、製造技術、耐候性から見て、カーボンブラックが好ましい。
本発明で、着色剤として用いられるカーボンブラック微粒子としては、特に限定されるものではないが、例えば、平均粒径が3〜10μmの範囲、BET表面積が50〜350m/g、ASTM D2414−65Tに準じて測定したジブチルフタレート(DBP)吸油量が50ml/100gから150ml/100gの範囲であるものがより好ましく用いられる。
【0026】
着色剤のアラミド繊維中における含有量は、耐候性や摩擦堅牢度および紡糸の安定性から3〜10重量%、好ましくは5〜8重量%である。特に、着色剤としてカーボンブラックを用い、含有量がこの範囲にあると、魚が警戒を抱きにくくなる黒色となり、魚網用途として最適である。含有量が3重量%より低いと、着色剤未添加の場合と比較して、繊維の耐候性が殆ど変わらず、効果が得られない。一方、含有量が10重量%を超えるときには、紡糸時の糸切れが頻発し、連続的な紡糸が不可能である。
【0027】
<アラミド繊維の製造方法>
本発明において、アラミド繊維の製造方法としては、アラミドポリマー、上記金属および/または金属酸化物微粒子、上記着色剤、および溶媒からなる紡糸用溶液(ドープ)を調製し、得られたドープをノズルより吐出し、貧溶媒からなる凝固浴中で凝固、脱溶媒し、延伸、熱処理(乾燥)させることにより製造することができる。
【0028】
なお、アラミドポリマーへ金属および/または金属酸化物微粒子、および着色剤をブレンドする際は、金属微粒子等および着色剤の凝集を抑制する必要がある。このため、アラミドポリマードープを調製するに際し、その方法は特に限定されるものではないが、金属微粒子等の分散液および着色剤分散液を、アラミドポリマー溶液に一定の圧力で注入し、ダイナミックミキジングおよび/またはスタティックミキシングする方法が好ましい。
【0029】
紡糸用ドープのポリマー濃度、すなわちアラミドポリマーの濃度は、好ましくは0.05〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0030】
また、本発明における紡糸用ドープには、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤、耐候剤、帯電防止剤、難燃剤、導電性ポリマー、その他の重合体を添加することができる。
【0031】
上記方法によって得られた紡糸用ドープを用いて、湿式法、半乾半湿式法などにより繊維に成形し、脱溶媒槽で溶媒を除去した後、乾燥することで本発明のアラミド繊維を製造することができる。
【0032】
また、得られた成形体を延伸することにより、ポリマーマトリクスであるアラミドポリマーが高度に配向し、アラミド繊維の高物性が発現すると考えられる。
【0033】
延伸の方法としては、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸、または乾燥糸状態での加熱延伸などを行うことができる。
【0034】
このように、金属および/または金属酸化物微粒子、および着色剤を含有させたアラミドポリマーを凝固液中に展開して、繊維状に成形する。続いて、得られたアラミドポリマーからなる繊維状物に対して、加熱条件下で延伸を行う。延伸倍率は、機械的物性から2〜10倍の範囲が好ましく、さらに好ましくは3〜6倍である。延伸倍率が2倍より低いと、高強力繊維としてのアラミド繊維の特徴が無くなる。一方、延伸倍率が10倍を超えるときには、延伸時の糸切れが頻発し連続的な延伸が不可能である。
【0035】
また、延伸温度は、機械的物性から450〜550℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは500〜530℃である。延伸温度が450℃より低いと、延伸時の糸切れが頻発し、連続的な延伸が不可能である。一方、延伸温度が550℃を超えるときには、アラミドポリマーの熱劣化が起こり、高強力繊維としてのアラミド繊維の特徴が無くなる。
【0036】
なお、本発明におけるアラミドポリマー、およびアラミド繊維の製造方法については、例えば英国特許第1501948号明細書、米国特許第3738964号明細書などに記載されている。
【0037】
このようにして得られるアラミド繊維の具体例としては、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分、もしくは芳香族アミノカルボン酸成分から構成されるアラミドポリマー、またはこれらの共重合アラミドポリマーからなる繊維であり、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維、ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維などが例示できる。なかでも、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミド繊維が高い強度を有すると同時に耐久性に優れているので特に好ましい。
【0038】
アラミド繊維の強度としては、18cN/dtex以上、さらに好ましくは20〜30cN/dtexの範囲が適当である。強度が18cN/dtex未満である場合には、長期間の使用に対し強度が十分でないために優れた耐久性を得ることが困難である。単繊維繊度および長繊維で用いる場合のヤーンデニールとも特に限定する必要はないが、好適な単繊維繊度は、0.55〜5.5dtex、特に1.1〜3.3dtexであり、ヤーン繊度は110〜5,500dtex、特に330〜3,300dtexの範囲が適当である。
【0039】
本発明の魚網用アラミド繊維の比重は、水への沈降性を考慮すると1.5g/cm以上であることが好ましい。比重の高い繊維のほうが水への沈降性に優れるという点で、比重に特に上限はないが、陸上での取り扱い性などを考慮すると比重は8g/cm以下であることが好ましい。
【0040】
本発明の魚網用アラミド繊維は、製編されて魚網として用いられる。
ここで、本発明の漁網の編み方には特に決まりはなく、本目網や蛙又網のような結節網、無結節網、もじ網、ラッセル網など、通常、漁網として用いられる形態のものを用いることができる。
また、本発明の漁網としては、ひき網、定置網、刺し網、流し網、まき網、敷き網、垣網、投網、生簀網に好適に用いることができるが、漁業用の網であれば使用用途としてなんら制限されるものではない。
【実施例】
【0041】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
<測定・評価方法>
(1)繊度
JIS−L−1015 B法に準じ、測定した。
(2)引張強度、破断伸度、モジュラス
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、糸試験用チャックを用いて、以下の条件の引張試験を行い、引張強度を測定した。
温度 :室温
測定試料長 :250mm
チャック引張速度 :100mm/min
初荷重 :0.35cN/dtex
チャック間距離 :250mm
試験スタート法 :スラックスタート法
【0042】
(3)繊維の比重
ピクノメータ法により繊維の比重を求めた
(4)耐候性、耐加水分解性
120℃飽和水蒸気で10日間処理後の強力保持率で評価した
(5)平均粒径
粒度分布計(島津製作所製、商品名:SALD−200V ER)を用いて、レーザー回折/散乱法に基づく粒度分布計算により求めた。
さらに、テストに使用したポリマー溶液(ドープ)の調製と、金属微粒子および着色剤のブレンド製糸は、以下の方法によった。
【0043】
〔実施例1〕
(ポリマー溶液の調製)
金属微粒子として、比重が5.1g/cm、粒度分布計で測定した平均粒径が5.0μmの酸化鉄を、また着色剤として、同様にして測定した平均粒径が4.2μmのカーボンブラック(大日精化社製のMPS−1100 BLACK)を用いた。
ここで、酸化鉄の分散は、浅田鉄工株式会社製ビーズミル(Nano Grain Mill)を用いて行い、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)分散体を調製した。このとき、メディアとして、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。また、カーボンブラック分散体は、カーボンブラック20重量%のNMP分散溶液をNMPで希釈して使用した。
この酸化鉄分散体、カーボンブラック分散体およびNMPを、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(共重合モル比が1:1のアラミドポリマー、帝人テクノプロダクツ社製、前掲のポリマードープ濃度6重量%のNMP溶液中に、得られるドープ中の酸化鉄の含有量がアラミドポリマーの全重量を基準として5重量%、カーボンブラックの含有量がアラミドポリマーの全重量を基準として5重量%となる割合で添加し、温度80℃下4時間撹拌混合した。得られたドープを用い、孔数667ホールの紡糸口金から吐出し、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固した後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることにより、酸化鉄およびカーボンブラックが良好に分散した状態で添加されたパラ型アラミド繊維を得た。
その結果、得られたアラミド繊維は、総繊度1,100dtex、フィラメント数667フィラメント、単糸繊度1.65detx/フィラメントであり、強度は22.5cN/dtexであった。
【0044】
〔比較例1〕
酸化鉄添加量を1重量%とした以外は、実施例1と同様の方法でアラミド繊維を得た。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示す。耐候性・耐加水分解性、紡糸延伸の工程安定性は良好であるが、得られる繊維の比重が1.5g/cm未満となり、魚網用としての機能にやや劣る。
【0045】
〔比較例2〕
酸化鉄添加量を60重量%とした以外は、実施例1と同様の方法でアラミド繊維を得た。紡糸延伸時の断糸が多発し、安定的に製糸することが困難であった。得られたマルチフィラメントの特性を表1に示す。
【0046】
〔比較例3〕
カーボンブラック添加量を1重量%とした以外は、実施例1と同様の方法でアラミド繊維を得た。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。
【0047】
〔比較例4〕
カーボンブラック添加量を15重量%とした以外は、実施例1と同様の方法で、アラミド繊維を得た。紡糸延伸時の断糸が多発し、安定的に製糸することが困難であった。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。
【0048】
〔比較例5〕
アラミド繊維を延伸するに際し、延伸倍率を18倍とした以外は、実施例1と同様の方法でアラミド繊維を得た。紡糸延伸時の断糸が多発し、安定的に製糸することが困難であった。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。
【0049】
〔比較例6〕
アラミド繊維を延伸するに際し、延伸倍率を1.5倍とした以外は、実施例1と同様の方法でアラミド繊維を得た。得られたマルチフィラメントの特性を表2に示す。得られる繊維の強度が劣ることがわかる。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
*1:ポリマー100重量%に対する酸化鉄の重量%
*2:ポリマー100重量%に対するカーボンブラックの重量%
*3:紡糸および延伸工程において、断糸が0.30回/錘・日未満の場合を良好、0.30回/錘・日 以上を不良とした。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の魚網用アラミド繊維は、魚網のほか、釣り糸、ロープ、消波網などの水産資材用繊維として広く用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミドポリマーから構成されるアラミド繊維であって、該アラミド繊維には、比重3g/cm以上、平均粒径1μm以上10μm以下の金属および/または金属酸化物微粒子がアラミドポリマーに対して3〜50重量%、および着色剤がアラミドポリマーに対して3〜10重量%含有されている魚網用アラミド繊維。
【請求項2】
前記アラミドポリマーが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1記載の魚網用アラミド繊維。
【請求項3】
前記金属または金属酸化物酸化物が、酸化鉄である請求項1または2記載の魚網用アラミド繊維。
【請求項4】
前記着色剤がカーボンブラックである請求項1〜3いずれか記載の魚網用アラミド繊維。
【請求項5】
アラミド繊維が、延伸倍率2〜10倍で加熱延伸されたものである請求項1〜4いずれかに記載の魚網用アラミド繊維。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の魚網用アラミド繊維を用いた魚網。


【公開番号】特開2010−252712(P2010−252712A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107470(P2009−107470)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】