説明

魚肉練り製品の製造方法

【課題】高齢者などの嚥下・咀嚼困難者でも簡単に咀嚼できる軟らかさと、この嚥下・咀嚼困難者の口腔や咽頭に付着しにくい滑らかさとを兼ね備え、更に高い栄養価を有する秀れた魚肉練り製品を製造できる画期的な魚肉練り製品の製造方法を提供する。
【解決手段】魚肉のすり身や落とし身などの魚肉原料をらい潰すると共に食塩,水,澱粉などの添加物を加えてすりあがり身とし、このすりあがり身に食用油を加えて乳化処理して乳化すり身とし、この乳化すり身を加熱する前に予めタンパク質分解酵素を加えておき、このタンパク質分解酵素を含有する乳化すり身を加熱すると共に前記タンパク質分解酵素を作用させる魚肉練り製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉練り製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、蒲鉾や竹輪などの魚肉練り製品は、先ず、スケトウダラなどの魚肉のすり身や落とし身などの魚肉原料を解凍し、サイレントカッターなどで微細化すると共に食塩や水,澱粉などの添加物を加えてらい潰して、すりあがり身とし、このすりあがり身を耐熱性容器に詰め入れてスチームや煮湯によって加熱処理し、冷却することで製造される。
【0003】
ところで、この一般的な製造方法で製造した魚肉練り製品は、高い弾力性を有するゲル状である為、例えば高齢者などの嚥下・咀嚼困難者にとってこの魚肉練り製品は硬く、しかも口の中でバラバラとまとまりがなく飲み込みが困難で、非常に食べ難い。
【0004】
そこで、例えば、魚肉練り製品の製造方法において、すりあがり身を加熱する前にこのすりあがり身に食用油を加えて乳化処理して乳化すり身とし、この乳化すり身を加熱するようにした魚肉練り製品の製造方法が従来から提案されている。
【0005】
このように乳化処理を行った場合、添加する油量、水量のバランスによりそれだけ軟らかな魚肉練り製品を製造できる。
【0006】
しかしながら、乳化した後、加工時に熱ゲル化作用により弾力を有したり、粒状の固形物を生成したりするため、製造した魚肉練り製品は弾力を有したり粒状の固形物を多数含んだものとなってしまう。よって、せっかく嚥下・咀嚼困難者が食べ易いように乳化処理によって軟らかい魚肉練り製品を製造しようとしても、この弾力や粒状の固形物が嚥下障害の原因となってしまうため、結局、嚥下・咀嚼困難者には食べ難かった。
【0007】
そこで、例えば、魚肉練り製品の製造方法において、すりあがり身をタンパク質分解酵素処理によってペースト状に軟化し、これを加熱するようにした魚肉練り製品の製造方法が従来から提案されている。
【0008】
これは、すりあがり身を加熱する前に、タンパク質分解酵素を加えてこのタンパク質分解酵素を所定時間作用させる(例えば、タンパク質分解酵素を加え120分間放置する)ことで、タンパク質を分解されたペースト状のすりあがり身を調製し、これを加熱することでそれだけ軟らかな魚肉練り製品が製造できる製造方法である。
【0009】
しかしながら、タンパク質分解酵素処理を行うことで魚肉練り製品を軟らかくできても、この魚肉練り製品を嚥下・咀嚼困難者が食べる際に、この魚肉練り製品が嚥下・咀嚼困難者の口腔や喉頭に付着して嚥下障害を起こす場合があり、問題であった。
【0010】
即ち、タンパク質分解酵素処理を行うことで、魚肉練り製品を軟らかくすることはできても、嚥下・咀嚼困難者の口腔や咽頭に付着することのない滑らかな魚肉練り製品とすることは難しい。
【0011】
また、嚥下・咀嚼困難者の多くは一度に摂取できる食事量が少ないことから、少量でもカロリーなどの栄養価を多く含む、より栄養価の高い魚肉練り製品の開発が望まれる。
【0012】
このように、従来までの魚肉練り製品に対する取り組みにおいては、例えば高齢者などの嚥下・咀嚼困難者が食べ易いように軟らかさへの取り組みはあっても、滑らかさや栄養の観点からの取り組みは十分に為されていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高齢者などの嚥下・咀嚼困難者にも食べ易い魚肉練り製品への研究を重ねた結果完成した画期的な魚肉練り製品の製造方法であって、従来の魚肉練り製品が有する弾力性を抑止し、乳化,その後の加工処理によって生ずる硬い粒状の固形物が残ることも抑止して、これまでに無い軟らかさと滑らかさを有し、更にカロリーなどの栄養価も高く、例えば高齢者などの嚥下・咀嚼困難者でも嚥下障害の心配なく安心して食すことができて、且つ少量でも高い栄養価を摂取でき得る極めて商品価値の高い新規な魚肉練り製品の製造が可能な画期的で極めて実用性に秀れた魚肉練り製品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0015】
魚肉のすり身や落とし身などの魚肉原料をらい潰すると共に食塩,水,澱粉などの添加物を加えてすりあがり身とし、このすりあがり身に食用油を加えて乳化処理して乳化すり身とし、この乳化すり身を加熱する前に予めタンパク質分解酵素を加えておき、このタンパク質分解酵素を含有する乳化すり身を加熱すると共に前記タンパク質分解酵素を作用させることを特徴とする魚肉練り製品の製造方法に係るものである。
【0016】
また、前記すりあがり身に食用油と、乳化を促進する副原料としての乳化基材とを加えて乳化処理して乳化すり身とすることを特徴とする請求項1記載の魚肉練り製品の製造方法に係るものである。
【0017】
また、前記乳化基材として、魚肉をタンパク質分解酵素の作用により少なくとも前記すりあがり身より高い乳化性を有し且つタンパク質分解酵素を含有するペースト状とした魚肉ペーストを採用し、この魚肉ペーストを乳化基材として前記すりあがり身に加えることで、このすりあがり身に乳化基材とタンパク質分解酵素とを加えるようにしたことを特徴とする請求項2記載の魚肉練り製品の製造方法に係るものである。
【0018】
また、前記乳化基材として、イカ肉をタンパク質分解酵素の作用によりペースト状としたイカペーストを採用し、このイカペーストを乳化基材として前記すりあがり身に加えることで、このすりあがり身に乳化基材とタンパク質分解酵素とを加えるようにしたことを特徴とする請求項3記載の魚肉練り製品の製造方法に係るものである。
【0019】
また、魚肉のすり身や魚肉の落とし身などの魚肉原料をらい潰すると共に食塩,水,澱粉などの添加物を加えてすりあがり身とし、このすりあがり身にイカペーストを加えて混合し、食用油を加えて乳化処理して乳化すり身とし、この乳化すり身を加熱すると共にこの乳化すり身に混合した前記イカペーストに含有されるタンパク質分解酵素を作用させてこの乳化すり身の加熱とタンパク質分解酵素処理を同時に行うことを特徴とする請求項4記載の魚肉練り製品の製造方法に係るものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上述のようにしたから、すりあがり身に、食用油を加えて乳化処理することで、食用油を多量に含んだ乳化すり身とすることができる。
【0021】
また、この乳化すり身を加熱する前に、予めタンパク質分解酵素が加えられているだけでなく、このタンパク質分解酵素をこの乳化すり身を加熱する際に作用させることにより、例えば加熱時に生じた粒状の固形物などの生成を抑止でき、軟らかな製品が得られる。
【0022】
従って、これまでにない軟らかさと滑らかさとを兼ね備えた全く新規な食感で、カロリーなどの栄養価も多く含んだ秀れた魚肉練り製品が製造できる。
【0023】
よって、本発明は、非常に軟らかく嚥下・咀嚼困難者でも簡単に咀嚼でき、しかも滑らかで嚥下・咀嚼困難者の口腔や咽頭に付着することも抑止でき、これまでは魚肉練り製品を食べたくとも困難であった高齢者などの嚥下・咀嚼困難者であっても安心して食すことができ、更に少量でカロリー等の高い栄養価を摂取でき、例えば高齢者などの嚥下・咀嚼困難者用の食品として極めて適した商品価値の高い画期的な魚肉練り製品を製造できる極めて実用性に秀れた画期的な魚肉練り製品の製造方法である。
【0024】
また、請求項2記載の発明においては、すりあがり身を乳化処理する際に、乳化を促進する副原料としての乳化基材を加えて乳化処理するので、より多量の食用油を良好に乳化でき、よって、多量に油を含んだ一層滑らかで一層カロリーなどの栄養価の高い乳化すり身を製造できる。
【0025】
また、請求項3〜5記載の発明においては、すりあがり身の乳化を促進する乳化基材として、魚肉ペーストを採用したから、乳化基材も魚肉由来の原料となり、製造した魚肉練り製品の風味や味を一層良好とすることができ、しかも、乳化基材としての魚肉ペーストがタンパク質分解酵素を含有し、すりあがり身を乳化処理すべく魚肉ペーストを加えることで、すりあがり身に乳化基材を加えることとタンパク質分解酵素を加えることとの双方の作業を達成できそれだけ作業性に秀れ、且つそれだけ原料点数も少なく済む。
【0026】
よって、請求項2〜4記載の発明においては、軟らかく滑らかでカロリー等の栄養価の高い魚肉練り製品が製造できるだけでなく、この秀れた魚肉練り製品の製造を一層簡易に実施でき、しかも一層効率的に製造を行うことができる。
【0027】
特に、この魚肉ペーストとして、イカ肉をタンパク質分解酵素処理によってペースト状に軟化したイカペーストを採用した場合には、イカペースト自体が高い乳化性を有する為、すりあがり身と食用油との乳化を極めて良好に行うことができ、例えば一層食用油を多量に含み一層滑らかな魚肉練り製品を製造することも可能で、また、製造した魚肉練り製品にイカの風味や味を付加することができるうえに、イカ自体が極めて高い栄養価を有するため、例えば高齢者などの嚥下・咀嚼困難者にも食べ易くしかも少量で多くの栄養価が摂取でき、例えば病院食としても適し、またその他料理素材として種々の利用が可能な極めて商品価値の高い新規な魚肉練り製品を、しかも効率的に製造できる一層実用性に秀れた魚肉練り製品の製造方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0029】
魚肉のすり身や落とし身などの魚肉原料をらい潰すると共に食塩,水,澱粉などの添加物を加えてすりあがり身とする。
【0030】
このすりあがり身に食用油を加えて乳化すり身とする。
【0031】
この際、すりあがり身と食用油とを良く混合することで乳化状態とすることができるが、例えば、食用油だけでなく、乳化を促進する副原料としての乳化基材を加えて乳化処理を行った場合には、より多量の食用油を加えて良好な乳化状態とすることも可能である。
【0032】
この乳化すり身を加熱する前に、予めタンパク質分解酵素を加えておき、このタンパク質分解酵素を含有する乳化すり身を加熱すると共に、この乳化すり身に含有するタンパク質分解酵素を作用させることで、これまでにない、軟らかく、しかも滑らかな魚肉練り製品を製造することができる。
【0033】
即ち、従来例のように、単にすりあがり身にタンパク質分解酵素を加えてタンパク質分解酵素処理によってペースト状に軟化し、このペースト状のすりあがり身を加熱する製造方法では、軟らかさは十分でも、滑らかさが無く、よって例えば嚥下・咀嚼困難者の口腔や咽頭に付着して嚥下障害を起こし易いなどの問題を有し、嚥下・咀嚼困難者には食べ難い魚肉練り製品となることが多い。また、従来例のように、単にすりあがり身を乳化処理して乳化すり身とし、この乳化すり身を加熱して製造する製造方法では、すりあがり身を乳化,加熱処理する際にゲル化作用による弾力形成や粒状の固形物が多数生じる為、例えば通常の蒲鉾などの魚肉練り製品のような弾力を有するゲル状であったり、例えば粒状の固形物を多数有し、高齢者などの嚥下・咀嚼困難者にとって食べ難い魚肉練り製品しか製造できなかったところを、本発明においては、乳化すり身を加熱する前にタンパク質分解酵素を加えておき、更にこの乳化すり身を加熱する際にこのタンパク質分解酵素を作用させることによって、乳化すり身のタンパク質を分解せしめ、乳化すり身に含まれる粒状の固形物の固化もタンパク質の分解によって阻止でき、よって、これまでにない、軟らかく、しかも滑らかで嚥下・咀嚼困難者でも容易に咀嚼でき、口腔や咽頭に付着することなく良好に嚥下できる非常に食べ易い魚肉練り製品が製造できることとなる。
【0034】
本発明は、タンパク質分解酵素を加えるタイミングは、乳化すり身を加熱する前であればいつでも良い(例えば魚肉原料をらい潰する際でも良く、すりあがり身を乳化する際でも良く、乳化すり身に直接加えても良い)が、しかし、このタンパク質分解酵素を作用させるタイミングは従来例のように乳化すり身を加熱する前ではなく、乳化すり身を加熱する際にこの加熱と一緒に作用させることにより、上述のように加熱時の熱凝固反応や熱ゲル化作用を阻止し、軟らかで、しかも乳化処理により多量の食用油を含んだ滑らかで栄養価の高い魚肉練り製品を製造できるようにした画期的な魚肉練り製品の製造方法である。
【0035】
また、例えば、前記すりあがり身の乳化処理を行う際、すりあがり身に食用油と、乳化を促進する副原料としての乳化基材とを加えて乳化処理を行うようにした場合には、この乳化基材として、例えば魚肉をタンパク質分解酵素の作用により少なくとも前記すりあがり身より高い乳化性を有し且つタンパク質分解酵素を含有するペースト状とした魚肉ペーストを採用した場合には、すりあがり身に加える乳化基材も魚由来であるが故に、一層風味や味の良い魚肉練り製品が製造できる。しかも、すりあがり身に乳化基材としての魚肉ペーストを加えることで、この魚肉ペーストが含有するタンパク質分解酵素もすりあがり身に加えられることとなるから、乳化基材を加える作業とタンパク質分解酵素を加える作業の双方を一緒に行え、それだけ作業性に秀れるうえに、魚肉ペーストが乳化基材とタンパク質分解酵素の双方を兼ねているのでそれだけ原料点数も少なく済むなど、作業性及び実用性に秀れ、一層簡易に実施可能で、しかも効率良く魚肉練り製品の製造が行えることとなる。
【0036】
特に、この魚肉ペースト(乳化基材)として、イカ肉をタンパク質分解酵素の作用によりペースト状としたイカペーストを採用した場合には、秀れた栄養価を有するイカペーストを乳化基材として採用することで、栄養価の一層高い、しかもイカの風味や味が付与された一層商品価値の高い魚肉練り製品を極めて簡易に、しかも効率良く製造できる極めて実用性に秀れた魚肉練り製品の製造方法となる。
【実施例】
【0037】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0038】
本実施例は、魚肉練り製品の製造方法であって、魚肉のすり身や落とし身などの魚肉原料をらい潰すると共に食塩,水,澱粉などの添加物を加えてすりあがり身とし、このすりあがり身に食用油を加えて乳化処理して乳化すり身とし、この乳化すり身を加熱する前に予めタンパク質分解酵素を加えておき、このタンパク質分解酵素を含有する乳化すり身を加熱すると共に前記タンパク質分解酵素を作用させるものである。
【0039】
具体的に、本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法を説明する。
【0040】
本実施例は、図1に図示した手順に基づいて製造する。
【0041】
先ず、魚肉練り製品の原料である冷凍すり身や落とし身など(本実施例においては、蒲鉾の原料として代表的な市販のスケソウダラすり身を採用する。)の魚肉原料を、らい潰すると共に添加物を加えてすりあがり身とする。
【0042】
詳述すると、例えばサイレントカッターなどの通常の練り製品を製造する機器を使用して前記魚肉原料を破砕し、食塩を加え、塩ずりを行う。これに澱粉や水を添加して、すりあがり身を調製する。
【0043】
尚、本実施例においては、添加する食塩の量は、魚肉原料から塩溶性タンパク質が溶け出し肉糊状となる2%(対魚肉重量)以上とした(良好な乳化状態を形成するに望ましい食塩の量とした。)。
【0044】
次いで、調製したすりあがり身に、食用油を加えて乳化処理を行う。
【0045】
ここで、単に食用油とすりあがり身とを良く混合することによっても、乳化状態を得ることができるが、本実施例においては、より多くの食用油を加えて良好に乳化でき得るように、前記すりあがり身に食用油と、乳化を促進する副原料としての乳化基材とを加えて乳化処理を行う。
【0046】
この乳化を促進する乳化基材として、一般的な乳化剤を採用しても良いが、本実施例では、魚肉をタンパク質分解酵素の作用により少なくとも前記すりあがり身より高い乳化性を有し且つタンパク質分解酵素を含有するペースト状とした魚肉ペーストを、乳化基材としてすりあがり身に加えることとする。
【0047】
従って、この魚肉ペーストを乳化基材として前記すりあがり身に加えることで、このすりあがり身に乳化基材を加える作業と、タンパク質分解酵素を加える作業とを同時に行える。また、乳化基材も魚由来のものを採用しいる為、製造した魚肉練り製品の風味や味を向上できる。
【0048】
この魚肉ペーストの原料となる魚肉原料としては、様々な魚介類を適宜採用すれば良いが、本実施例においては、イカ肉をタンパク質分解酵素の作用によりペースト状としたイカペーストを採用しており、このイカペーストを乳化基材として前記すりあがり身に加えることで、このすりあがり身に乳化基材とタンパク質分解酵素とを加えるようにした。尚、イカペーストとは、具体的には、イカ肉を破砕し、タンパク質分解酵素を加えて長時間放置して(長時間タンパク質分解酵素を作用させて)タンパク質分解酵素処理を行ったもので、図2に図示したように、タンパク質分解酵素処理を行っていない場合に比して、非常に高い乳化性を有し、且つペースト状にして非常に軟らかな物性を有し、また、このようにイカ肉をタンパク質分解酵素処理した際のタンパク質分解酵素が残存する為、調製したイカペースとは、タンパク質分解酵素を含有するものである。
【0049】
このイカペーストとすりあがり身とを良く混合し、食用油を添加して更に混合することで、このすりあがり身と食用油とを乳化し、乳化すり身を精製する。
【0050】
従って、非常に高い乳化性を有するイカペーストが混合されたすりあがり身には、それだけ多量の食用油と良好に乳化させることができる。
【0051】
尚、乳化処理とは、通常混ざり合わない水と油とが、一方が他方に対して細かい粒となり分散することで安定な状態となることを言う。また、本実施例でいう乳化性とは、乳化し易さ(どれだけ多くの油と良好に乳化できるか)を指す。
【0052】
ここで、食用油としては、種々のものを適宜採用すれば良いが、本実施例においては、キャノーラ油を採用している。
【0053】
また、この食用油を添加する量は、配合全体(精製した乳化すり身全体)に対してこの食用油が締める割合が約20%〜30%となるように調整するのが望ましいが、この食用油の添加量を、これより少なく調整しても良い(少なくとも、嚥下・咀嚼困難者の口腔や咽頭に付着しにくいような滑らかさが得られるように考慮してこの食用油の添加量を調整する。)。
【0054】
尚、精製した乳化すり身の配合例を以下の表(表1)に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
このすりあがり身とイカペースト,食用油(キャノーラ油)とを良く混合し、乳化を十分に行うことで、白く滑らかなペーストの状態の乳化すり身とする。
【0057】
次いで、この乳化すり身を、耐熱性の容器や袋に入れ、スチーム或いは湯煮などの種々の加熱手段によって加熱処理する。この際、乳化すり身に混合されているイカペーストに残存するタンパク質分解酵素が、その作用を発揮することで、乳化すり身のタンパク質を分解し、例えばこの乳化すり身に含まれる多数の粒状の固形物(すりあがり身を乳化,加熱処理する際に生ずる粒状の固形物)も、タンパク質分解酵素の作用によって軟化し、軟らかなペースト状食品(乳化ペースト)が得られる。
【0058】
これを冷却(自然放熱冷却と強制冷却のいずれでも良い)することで、軟らかいペースト状で、且つ乳化により油を多量に含む滑らかで栄養価の高い魚肉練り製品が製造できることとなる。
【0059】
本実施例は、以上のようにするから、軟らかく滑らかな魚肉練り製品を製造すべく、乳化処理を良好に行う為の乳化基材の添加と、加熱時に作用させるタンパク質分解酵素の添加との双方を、イカペーストの添加により複合させ(双方を同時に達成でき)、これまでにない極めて軟らかで嚥下・咀嚼困難者でも簡単に咬み砕いて咀嚼でき、且つ口腔や咽頭に付着しにくい滑らかさを有し、非常に軟らかく嚥下・咀嚼困難者でも簡単に咀嚼でき、しかも滑らかで嚥下・咀嚼困難者の口腔や咽頭に付着することも抑止でき、これまでは魚肉練り製品を食べたくとも困難であった高齢者などの嚥下・咀嚼困難者であっても安心して食すことができ、更に少量でカロリー等の高い栄養価を摂取できるなど、例えば高齢者などの嚥下・咀嚼困難者用の食品として極めて適する商品価値の高い魚肉練り製品を、効率的に製造することができる。
【0060】
尚、本実施例によって製造した魚肉練り製品と、従来の一般的な魚肉練り製品との物性の比較データを図3〜図5に示す。
【0061】
図3は、本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法によって製造した魚肉練り製品の硬さと、タンパク質分解酵素を加えずに製造した魚肉練り製品の硬さとを比較する図であり、この図3においては、本実施例品は比較品に比して極めて軟らかく、本実施例品が、箸などで容易に潰せる(即ち、簡単に咬み潰せる)程度の硬さしか有さないことを示す。
【0062】
また、図4,図5は、本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法によって製造した魚肉練り製品と一般的な食品との物性値(相対粘度(%))の比較図であり、図4は、常温時(10℃の場合)の本実施例品の粘度と他の各食品の粘度との比較図で、図5は、常温時と加熱時(47℃の場合)における、本実施例品の粘度と市販の嚥下・咀嚼困難者用おかゆの粘度との比較図である。特に、図4においては、本実施例に係る魚肉練り製品の製造方穂うによって製造した製品が、市販のマヨネーズやクリーム、嚥下・咀嚼困難者用のおかゆと略同等な非常に低い粘度であることを示し、図5においては、加熱した場合には本実施例品は一層低い粘度となり、加熱調理して食す場合に特に嚥下・咀嚼困難者に一層適した軟らかく滑らかで食べ易い食品であることを示す。
【0063】
尚、本実施例においては、タンパク質分解酵素を残存するイカペーストを乳化基材として採用しており、図1に図示したように、すりあがり身を乳化処理する際にイカペーストを加えることで、タンパク質分解酵素の添加も同時に達成しているが、例えば、図6に図示したように、イカペーストなどのタンパク質分解酵素を含有する乳化基材を採用しない(若しくは乳化基材自体を使用しないで乳化処理する)場合には、例えば、魚肉原料をらい潰すると共に塩,水,澱粉などの添加物を加えてすりあがり身とする際にこの添加物と一緒にタンパク質分解酵素を添加すれば良い。
【0064】
また、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法に用いるイカペーストの乳化性を示す図である。
【図3】本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法によって製造した魚肉練り製品と従来品との物性値(硬さ(g))の比較図である。
【図4】本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法によって製造した魚肉練り製品と一般的な食品との物性値(相対粘度(%))の比較図である。
【図5】本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法によって製造した魚肉練り製品と一般的な食品との物性値(相対粘度(%))の比較図である。
【図6】本実施例に係る魚肉練り製品の製造方法の別例を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉のすり身や落とし身などの魚肉原料をらい潰すると共に食塩,水,澱粉などの添加物を加えてすりあがり身とし、このすりあがり身に食用油を加えて乳化処理して乳化すり身とし、この乳化すり身を加熱する前に予めタンパク質分解酵素を加えておき、このタンパク質分解酵素を含有する乳化すり身を加熱すると共に前記タンパク質分解酵素を作用させることを特徴とする魚肉練り製品の製造方法。
【請求項2】
前記すりあがり身に食用油と、乳化を促進する副原料としての乳化基材とを加えて乳化処理して乳化すり身とすることを特徴とする請求項1記載の魚肉練り製品の製造方法。
【請求項3】
前記乳化基材として、魚肉をタンパク質分解酵素の作用により少なくとも前記すりあがり身より高い乳化性を有し且つタンパク質分解酵素を含有するペースト状とした魚肉ペーストを採用し、この魚肉ペーストを乳化基材として前記すりあがり身に加えることで、このすりあがり身に乳化基材とタンパク質分解酵素とを加えるようにしたことを特徴とする請求項2記載の魚肉練り製品の製造方法。
【請求項4】
前記乳化基材として、イカ肉をタンパク質分解酵素の作用によりペースト状としたイカペーストを採用し、このイカペーストを乳化基材として前記すりあがり身に加えることで、このすりあがり身に乳化基材とタンパク質分解酵素とを加えるようにしたことを特徴とする請求項3記載の魚肉練り製品の製造方法。
【請求項5】
魚肉のすり身や魚肉の落とし身などの魚肉原料をらい潰すると共に食塩,水,澱粉などの添加物を加えてすりあがり身とし、このすりあがり身にイカペーストを加えて混合し、食用油を加えて乳化処理して乳化すり身とし、この乳化すり身を加熱すると共にこの乳化すり身に混合した前記イカペーストに含有されるタンパク質分解酵素を作用させてこの乳化すり身の加熱とタンパク質分解酵素処理を同時に行うことを特徴とする請求項4記載の魚肉練り製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−228898(P2007−228898A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55559(P2006−55559)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(592102940)新潟県 (41)
【出願人】(597143971)柳下蒲鉾株式会社 (2)
【Fターム(参考)】