説明

魚肉練製品およびその魚肉練製品の製造方法

【課題】魚肉すり身含有グルコマンナン食品素材を使用して、マグロの刺身(特にトロ食感)や生レバー様の食感を具備した魚肉練製品およびその製造方法を提供する。凍結保存中に食感が固くなることがない魚肉練製品およびその製造方法を提供する。。
【解決手段】魚肉、グルコマンナン、食塩、トランスグルタミナーゼ、アルカリ剤、および食用油又はアボカドペーストを含有する魚肉含有マンナンペーストを成形し、加熱してなる魚肉練製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロの刺身(特にトロ食感)や生レバー様の食感のように、ソフトで弾力性が少ない食感の魚肉練製品およびその魚肉練製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコマンナンと魚肉すり身とを含有する食品素材を、各種食品へ添加して利用することが従来より行われている。
【0003】
本出願人は、特許第3427194号(特許文献1)において、グルコマンナン水溶液と、アルカリ剤と、魚肉とを混合したペーストを加熱して得られるゲル状の魚肉含有グルコマンナン食品素材を提案した。この食品素材は食感に優れており、「かにかまぼこ」などの素材として用いることができる。
【0004】
特許第2857986号(特許文献2)には、グルコマンナン糊、ワキシー澱粉、水酸化カルシウムおよび魚肉などを含む竹輪が記載されている。特開平6−189720号公報(特許文献3)には、水膨張させたこんにゃくマンナン糊にアルカリ剤を添加混合し、これに魚肉を混合する練り製品が記載されている。
【0005】
しかし、これらの練り製品は、いずれも蒲鉾やカニカマのように、一定の固さを有する食品である。しかし、近年では、例えば、マグロの刺身(特にトロ食感)や生レバー様の食感のように、蒲鉾やカニカマよりもさらにソフトで弾力性が少なく食べやすい固さの食品が求められている。また、特許文献1に記載の魚肉含有グルコマンナン食品素材は、製造時には食感に優れているが、凍結保存中に食感がやや固くなる傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3427194号
【特許文献2】特許第2857986号
【特許文献3】特開平6−189720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、魚肉すり身含有グルコマンナン食品素材を使用して、マグロの刺身(特にトロ食感)や生レバー様の食感を具備した魚肉練製品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の他の目的は、凍結保存中に食感が固くなることがない魚肉練製品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
(項目1) 魚肉、グルコマンナン、食塩、トランスグルタミナーゼ、アルカリ剤、および食用油又はアボカドペーストを含有する魚肉含有マンナンペーストを成形し、加熱してなる魚肉練製品。
(項目2) グルコマンナンと水とを混合してマンナンペーストを得る工程、
魚肉すり身を食塩で塩摺り後、トランスグルタミナーゼおよび水を加えらい潰し魚肉すり身ペーストを得る工程、
該マンナンペーストにアルカリ剤を加えて混合し、該混合物を得る工程、
該混合物に、該魚肉すり身ペースト、および食用油又はアボカドペーストを加えて混合する工程、
得られた魚肉含有マンナンペーストを成形し、加熱する工程、
を包含する魚肉練製品の製造方法。
(項目3) 前記マンナンペースト中の前記グルコマンナンの濃度が2〜3重量%である項目2に記載の魚肉練製品の製造方法。
(項目4) 前記マンナンペーストにアルカリ剤が0.01〜0.2重量%混合される項目2または3に記載の魚肉練製品の製造方法。
(項目5) 前記混合物に、前記食用油又はアボカドペーストが3〜12重量%混合される項目2〜4のいずれかに記載の魚肉練製品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、魚肉、グルコマンナン、食塩、トランスグルタミナーゼ、アルカリ剤、および食用油を含有する魚肉含有マンナンペーストを成形し、加熱してなることにより、マグロの刺身(特にトロ食感)や生レバー様の食感を具備した魚肉練製品が得られる。この魚肉練り製品は、凍結保存中に食感が固くなることもない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の魚肉練製品の製造方法は、グルコマンナンと水とを混合してマンナンペーストを得る工程、を包含する。
【0012】
本発明で使用するグルコマンナンは、コンニャクの原料として周知である市販のグルコマンナン粉末や、グルコマンナン水溶液にアルコールなどの有機溶剤を加えて、析出させて得られる低分子部分が除かれた市販の粉末グルコマンナンを使用することができる。
【0013】
市販の各粉末グルコマンナンを水溶液とするには、グルコマンナン濃度は特に限定されるものではないが、通常1.5〜5重量%とすることが適当であり、特に1.8〜3重量%の範囲が本発明の実施に際して好ましい。
【0014】
また、粉末グルコマンナンの水への溶解は常法に従って行えばよく、10〜40℃に調製した水に粉末グルコマンナンを添加混合し、15時間程度、冷蔵条件下(4〜10℃)で静置し、粘ちょうなマンナンペーストを得ることができる。
【0015】
次に、これらのマンナンペーストに対し、アルカリ剤を0.01重量%以上、好ましくは0.03〜0.1重量%添加し、撹拌混合して混合物を得る。
【0016】
アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどが適しているが、後工程である魚肉すり身ペーストとの混合工程における作業時間を考慮すると、水酸化カルシウムの使用が最も好ましい。
【0017】
アルカリ剤の添加量は、混合する魚肉すり身ペーストの配合量によって調整されるが、上記で使用した粉末グルコマンナンに対して1〜4重量%に相当する量のアルカリ剤を添加するのが好ましい。アルカリ剤の添加量が少なすぎる場合には、ゲル化完了までの時間が長くなり、また添加量が多すぎるときは、ゲル化完了までの時間が短くなり、多量生産における作業に困難を伴う等の弊害がある場合がある。
【0018】
次に、魚肉すり身を食塩で塩摺り後、トランスグルタミナーゼ、および水を加えてらい潰し魚肉すり身ペーストを得る。
【0019】
本発明で使用する魚肉すり身は、水産練り製品の原料に広く使用されているものが適している。例えば、魚肉すり身は市販のすり身を用いることができ、グチ、スケソウダラ、エソ、アジ、サバ、イワシ、ひらめ、イトヨリ、キンメダイ、ホッケ、タラ、メルルーサ等を常法により製造されたものを1種又は2種以上用いることができる。好ましくは、スケソウダラ由来のすり身を50%以上用いることが好ましい。
【0020】
なお、魚肉すり身とは、魚体より肉質部分を取り分け、その肉質部分を粗砕して水中に分散させて水溶性蛋白質を取り除いた荒ずりすり身、これに食塩を加えて更に擂り潰した塩ずりすり身、これらを冷凍した冷凍すり身を含む。
【0021】
トランスグルタミナーゼの使用量は、練製品の原材料に含まれる蛋白1g当り、0.01〜100ユニット、好ましくは0.1〜50ユニット添加することができる。
【0022】
魚肉すり身ペーストの配合量は、マンナンペーストに対し、30〜40重量%が好ましい。魚肉すり身ペーストの配合量が、マンナンペーストに対し、30重量パーセントより少なすぎる場合には、やわらかな食感となり、40重量%を超えると、ややかたい食感となり、目的とする食感が得られない。
【0023】
本発明では、マンナンペーストとアルカリ剤の混合物に、魚肉すり身ペーストおよび食用油を加えて混合する。食用油の配合量は、この混合物に対して3重量%以上、好ましくは3〜12重量%である。
【0024】
食用油の配合量が3重量%未満の場合には、通常のかまぼこに近い食感となり、目的の食感のものが得られない。12重量%を超える場合にはやわらかい食感となる。
【0025】
食用油としては、大豆油、なたね油、カカオバター、パーム油、豚脂などが適している。
【0026】
なお、食用油の代わりに、アボカドペーストを使用することもできる。アボカドペーストを用いた場合には、含まれるビタミンやミネラル成分等、健康的なイメージがアップするという利点がある。
【0027】
本発明の実施に当たって、魚肉すり身ペーストとマンナンペーストの混合物を得る工程においては、常法に従って、撹拌混合し均一な混合物とすればよい。
【0028】
次に、得られた魚肉含有マンナンペーストを、耐熱性のあるプラスチックや金属等の加熱容器に入れて、90〜100℃、20〜40分加熱蒸煮して、十分にゲル化を促進させることにより、目的とする本発明の魚肉練製品を得ることができる。
【0029】
このように、本発明の好ましい魚肉練製品の製造方法は、グルコマンナン濃度2〜3重量%のマンナンペーストに対して、アルカリ剤を0.01重量%〜0.2重量%添加混合したものに、約50%の魚肉すり身を使用して調製された魚肉すり身ペースト(塩摺り時に、トランスグルタミナーゼを添加したもの)を25〜45重量%の割合で混合し、次にこれらの混合物に対して、食用油3重量%以上を混合したものである。
【0030】
この技術を応用すれば、うなぎや穴子の蒲焼様の食感を有する魚肉練製品を作ることも可能である。
【0031】
このようにして得られた本発明の魚肉練製品は、魚肉と、グルコマンナンと、食塩と、トランスグルタミナーゼと、アルカリ剤と、食用油と、を含有する魚肉含有マンナンペーストを成形し、加熱してなる魚肉練製品である。
【0032】
好ましい配合割合は、魚肉9.3〜14.5重量%、グルコマンナン1.35〜2.50重量%、食塩0.3〜0.5重量%、トランスグルタミナーゼ0.01〜0.02重量%、水酸化カルシウム0.03〜0.04重量%、食用油5.9〜6.8重量%である。さらに好ましくは、魚肉10.7〜13.0重量%、グルコマンナン1.4〜2.2重量%、食塩0.39〜0.48重量%、トランスグルタミナーゼ0.01〜0.02重量%、水酸化カルシウム0.03〜0.04重量%、食用油6.0〜6.5重量%である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。本発明は本実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
グルコマンナン64g、水3000mlを良くかき混ぜて均一なマンナンペースト3064gを得た。マンナンペーストは調製後、冷蔵条件下(5℃)で15時間静置した。
【0034】
別に、魚肉すり身500gを食塩18gで塩摺り後、加工澱粉120g、トレハロース90g、調味料35g、トランスグルタミナーゼ製剤0.6gおよび冷水240gを加えて均一になるまでらい潰し、魚肉すり身ペースト約1000gを得た。
【0035】
次に、上記で得られたマンナンペースト3064gに対し、1.5gの水酸化カルシウムを加えて均一になるまで混合した。この混合物に、先の魚肉すり身ペースト1000gを加えて混合した後、食品用色素7gおよび食用油280gを加え、均一になるまで混合した。
【0036】
得られた魚肉含有マンナンペーストを、厚さ約3cmになるようにリテーナで成形し、90℃に温度調整された蒸気加熱装置で30〜40分間加熱してマグロ刺身様食品を得た。
【0037】
得られたマグロ刺身様食品を−25℃の冷凍室に保管した。
(実施例2)
グルコマンナン93g、水3000mlを良くかき混ぜて均一なマンナンペースト3093gを得た。
【0038】
マンナンペーストは調製後、冷蔵条件下(5℃)で15時間静置した。
【0039】
別に、魚肉すり身500gを食塩18gで塩摺り後、加工澱粉120g、トレハロース90g、調味料35g、トランスグルタミナーゼ製剤0.6g、および冷水240gを加えて均一になるまでらい潰し、魚肉すり身ペースト約1000gを得た。
【0040】
次に、上記で得られたマンナンペースト3093gに対し、2.5gの水酸化カルシウムを加えて均一になるまで混合した。この混合物に、先の魚肉すり身ペースト1000gを加えて混合した後、食品用色素7gおよび食用油280gを加え、均一になるまで混合した。
【0041】
得られた魚肉含有マンナンペーストを、厚さ約3cmになるようにリテーナで成形し、90℃に温度調整された蒸気加熱装置で30〜40分間加熱してマグロ刺身様食品を得た。
【0042】
得られたマグロ刺身様食品を−25℃の冷凍室に保管した。
(実施例3)
グルコマンナン64g、水3000mlを良くかき混ぜて均一なマンナンペースト3064gを得た。マンナンペーストは調製後、冷蔵条件下(5℃)で15時間静置した。
【0043】
別に、魚肉すり身560gを食塩20gで塩摺り後、加工澱粉135g、トレハロース100g、調味料40g、トランスグルタミナーゼ製剤0.6g、および冷水345gを加えて均一になるまでらい潰し、魚肉すり身ペースト約1200gを得た。
【0044】
次に、上記で得られたマンナンペースト3064gに対し、1.5gの水酸化カルシウムを加えて均一になるまで混合した。この混合物に、先の魚肉すり身ペースト1200gを加えて混合した後、食品用色素7gおよび食用油415gを加え、均一になるまで混合した。
【0045】
得られた魚肉含有マンナンペーストを、厚さ約3cmになるようにリテーナで成形し、90℃に温度調整された蒸気加熱装置で30〜40分間加熱してマグロ刺身様食品を得た。
【0046】
得られたマグロ刺身様食品を−25℃の冷凍室に保管した。
(実施例4)
グルコマンナン64g、水3000mlを良くかき混ぜて均一なマンナンペースト3064gを得た。マンナンペーストは調製後、冷蔵条件下(5℃)で15時間静置した。
【0047】
別に、魚肉すり身500gを食塩18gで塩摺り後、加工澱粉240g、トレハロース90g、調味料35g、レバーエキス30g、トランスグルタミナーゼ製剤0.6g、および冷水290gを加えて均一になるまでらい潰し、魚肉すり身ペースト約1200gを得た。
【0048】
次に、上記で得られたマンナンペースト3064gに対し、1.0gの水酸化カルシウムを加えて均一になるまで混合した。この混合物に、先の魚肉すり身ペースト1200gを加えて混合した後、食品用色素50gおよび食用油420gを加え、均一になるまで混合した。
【0049】
得られた魚肉含有マンナンペーストを、厚さ約3cmになるようにリテーナで成形し、90℃に温度調整された蒸気加熱装置で30〜40分間加熱して生レバー様食品を得た。
【0050】
得られた生レバー様食品を−25℃の冷凍室に保管した。
(実施例5)
食用油に代えて、アボカドペーストを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施し、マグロ刺身様食品を得た。
【0051】
得られたマグロ刺身様食品を−25℃の冷凍室に保管した。
(比較例1)
トランスグルタミナーゼ製剤を使用しないこと以外は、実施例1と同様の方法で実施し、マグロ刺身様食品を得た。
【0052】
得られたマグロ刺身様食品を−25℃の冷凍室に保管した。
(比較例2)
食用油を使用しないこと以外は、実施例1と同様の方法で実施し、マグロ刺身様食品を得た。
【0053】
得られたマグロ刺身様食品を−25℃の冷凍室に保管した。
(比較例3)
トランスグルタミナーゼ製剤および食用油をそれぞれ使用しないこと以外は、実施例1と同様の方法で実施し、マグロ刺身様食品を得た。
【0054】
得られたマグロ刺身様食品を−25℃の冷凍室に保管した。
(評価)
上記実施例1−5および比較例1−3の−25℃で3日間冷凍保存した食品についての官能評価を15名のパネラーにて実施した。
【0055】
官能評価は、実施例および比較例で得られた各食品について、食品の固さについて、各自が官能評価した。なお、表1中の「ちょうどよい」とは、マグロの刺身(特にトロ食感)や生レバー様の食感のように、歯切れが良く、しかもソフトで弾力性が少ない固さを意味する。「かたい」とは、従来の蒲鉾のような食感を意味する。「やわらかい」とは、歯切れが悪く食べにくいやわらかさを意味する。
【0056】
その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

表1の結果から、トランスグルタミナーゼ製剤および/または食用油を使用しない比較例1−3の食品では、−25℃で3日間冷凍保存後で、固い食感が得られたが、トランスグルタミナーゼ製剤および食用油又はアボカドペーストを含有する実施例1−5の食品では、−25℃で3日間冷凍保存後でもやわらかい食感を保持していることががわかる。
【0058】
従って、マグロの刺身(特にトロ食感)や生レバー様の食感のように、ソフトで弾力性が少なく食べやすい固さの食品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、マグロの刺身(特にトロ食感)や生レバー様の食感のように、ソフトで弾力性が少ない食品の素材として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉、グルコマンナン、食塩、トランスグルタミナーゼ、アルカリ剤、および食用油又はアボカドペーストを含有する魚肉含有マンナンペーストを成形し、加熱してなる魚肉練製品。
【請求項2】
グルコマンナンと水とを混合してマンナンペーストを得る工程、
魚肉すり身を食塩で塩摺り後、トランスグルタミナーゼおよび水を加えらい潰し魚肉すり身ペーストを得る工程、
該マンナンペーストにアルカリ剤を加えて混合し、該混合物を得る工程、
該混合物に、該魚肉すり身ペースト、および食用油又はアボカドペーストを加えて混合する工程、
得られた魚肉含有マンナンペーストを成形し、加熱する工程、
を包含する魚肉練製品の製造方法。
【請求項3】
前記マンナンペースト中の前記グルコマンナンの濃度が2〜3重量%である請求項2に記載の魚肉練製品の製造方法。
【請求項4】
前記マンナンペーストにアルカリ剤が0.01〜0.2重量%混合される請求項2または3に記載の魚肉練製品の製造方法。
【請求項5】
前記混合物に、前記食用油又はアボカドペーストが3〜12重量%混合される請求項2〜4のいずれかに記載の魚肉練製品の製造方法。