説明

魚道

【課題】 従来の魚道は、コンクリ−ト製の構造物で施工性が悪く、魚道内に小さな貯水池を段々に形成するので土砂が堆積しやすく維持管理が大変であった。
【解決手段】 20〜30°の緩傾斜で設置されるポリエチレン製の半円形コルゲート管または角型U字溝の溝に、対象魚類が遡上できる魚道幅、水深と流速条件を確保するため、溝と同じ厚さの扇形や台形等の脱着可能な隔壁を適宜間隔かつ適宜角度で差し込むことにより、流れを蛇行流として流下させ、隔壁間に魚類が休息できるスペースを形成する魚道を提供する。これにより、軽量で安価な市販材料を使用して容易に魚道を施工できるとともに、隔壁を取り除けば維持管理するうえで大変な堆積土砂の除去を容易にできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水田の落水口、農業用排水路や河川の落差工に設ける魚道に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水田や農業用排水路からなる水域網が、フナ類、モロコ類、メダカ、ドジョウなどの魚類にとって重要な生息場所であることが指摘されている。ところが、圃場整備事業により水田と農業水路間や農業水路内に1m程度の落差工が設けられ、魚類の遡上と降下に支障が生じている。
【0003】
そこで、このような落差工に設ける魚道が発明されており、U字溝状で階段状の水路部材の段差部に、切欠きと欠孔を有する隔壁を取り付けた魚道や(特許文献1)、U字溝状をなす複数の水路部材を階段状に敷設し、各水路部材の下流側部位に、水路水を嵩上げする隔壁を着脱可能に装着し、その越流部を、下流側の水位に対して魚類が遡上可能な高さに設定する魚道(特許文献2)が考案されている。また、U字溝水路部材に対して、水路部材底部に水路水の流れに対して垂直方向に角材を取り付け粗度を高める方法や、台形の隔壁を交互方向に取り付け低流量でも越流部の水深を確保する方法が採用されている(非特許文献1)。そして、水路に形成した差し込み溝に、脱着可能な隔壁を取り付け、各隔壁の形状を変更して、魚の遡上等に最適な魚道を形成する発明(特許文献3)がなされている。
【0004】
特許文献1〜3は、高所から低所へ流れる水を隔壁(阻流板とも呼ばれる)によって堰上げて階段状にプールを形成するものであり、プール内に魚の休息スペースを確保すると共に、水流の落差を小さくする。しかし、プール内に土砂が堆積しやすい。
【0005】
特に、特許文献3は、Katopodis(1982)が提唱した水路タイプの標準デニール型魚道の隔壁(図6)を脱着可能としただけであり、隔壁の形状も全く同じで、魚の移動に不具合があると隔壁の一部又は全部を変更することを記載しているが、具体的な変更形状を示しておらず、新たな隔壁をその都度作製する必要がある。その上、水路の側壁と底面に、所定の間隔で複数の隔壁用の差し込み溝を形成すると記載しているが、この差し込み溝を現場打ちのコンクリート壁面に作る手間は大変な労力が必要であり、施工性が悪く、施工コストも高価なものとなる。
【0006】
【特許文献1】特開2000−120052号
【特許文献2】特開2004−68571号
【特許文献3】特開平07−259060号
【非特許文献1】鈴木正貴・水谷正一・後藤章、水田水域における淡水魚の双方向移動を保証する小規模魚道の試作と実験、応用生態工学4(2)、P.163−177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の魚道の多くはコンクリ−ト製の構造物で、その魚道の構造は、対象魚類に対して魚道幅、落差の大きさ、水深、流速等の諸条件を決めており、現場打ち施工が多くなって、施工費用も高くなる。その上、魚道内に小さな貯水池を段々に形成するので土砂が堆積しやすく、土砂等の除去のための維持管理手間と費用が必要である。
【0008】
本発明は、軽量で安価な市販材料を使用して容易に施工でき、対象魚類の遡上条件にも柔軟に対応できて、堆積土砂等を簡単に除去できる維持管理の容易な魚道を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、45°以下の緩傾斜で設置される、ポリエチレン製のコルゲート管を半割にした市販の半円形コルゲート管の溝に、対象魚類が遡上できる魚道幅、水深、流速条件を確保するため、多種類の半円形コルゲート管口径より適切口径を選択することにより魚道幅を確保し、溝と同じ厚さの半円形または扇形の脱着可能な隔壁を、適宜間隔かつ適宜角度で半円形コルゲート管の溝に差し込むことにより必要水深と適正流速を確保し、流れを蛇行流として流下させ、隔壁間に魚類が休息できるスペースを形成する魚道を提供する。
【0010】
半円形コルゲート管においては、半円形または扇形の脱着可能で溝と同じ厚さの隔壁の一部に、図7のような切欠き又は欠孔を設けることにより、小さな魚類から大きな魚類まで適応できる魚道を提供する。
【0011】
また、魚道に市販のポリエチレン製の角型U字溝を使用し、三角形、矩形、台形の脱着可能な隔壁を角型U字溝の溝に適宜間隔で差し込むことにより、流れを蛇行流として流下させ、隔壁間に魚類が休息できるスペースを形成する矩形断面の魚道も、同様に作製できる。
【0012】
角型U字溝においては、三角形、矩形、台形の脱着可能で溝と同じ厚さの隔壁の一部に、切欠き又は欠孔を設けることにより、小さな魚類から大きな魚類まで適応できる魚道を提供する。
【0013】
半円形コルゲート管または角型U字溝の魚道内に堆積する土砂等は、常時溝に差し込まれている隔壁を取り外して、流水で押し流しながら洗浄すれば、容易に除去できる。
【0014】
上記の魚道の上に、網や板や半円形コルゲート管を被せることにより、魚類の遡上中に引き起こされる魚類の魚道外への飛び出しや、鳥類による食害をなくすことができる。
【発明の効果】
【0015】
魚道本体を構成するポリエチレン製の半円形コルゲート管は、コルゲート管を半割にした市販品であり、従来のコンクリート製品と比較して軽量で、隔壁の差し込み溝も作製する必要がないことから、施工性も良く、施工コストも極めて安価となる。また、市販のポリエチレン製の角型U字溝も溝を持っており、同様に容易で安価に施工できる。
【0016】
半円形コルゲート管または角型U字溝の溝は止水域となって中低層魚の休息スペースとなり、隔壁の下流域は表層魚や大型魚の休息スペースとなるので、魚種の適用範囲が大きい。
【0017】
魚道の設計条件の水深と流速は、半円形コルゲート管では半円形または扇形の隔壁の差込間隔と差込角度によって調節でき、角型U字溝においても三角形、矩形、台形の隔壁の差込間隔によって調整できる。
【0018】
魚道の設計条件の魚道幅は、半円形コルゲート管では多種類な口径100〜2000mmから選定でき、角型U字溝においても幅180〜1000mmから選定できる。
【0019】
落差の大きい場所でも、軽量な半円形コルゲート管や角型U字溝を保持するフレームを作れば、空中配管によって対応できる。
【0020】
ポリエチレン製のコルゲート管や角型U字溝は黒色であるから、魚が見えにくく、鳥害を少なくできる。更に、本発明の魚道の上に、網や板や半円形コルゲート管を被せることにより、魚類の遡上中に引き起こされる魚類の魚道外への飛び出しや、鳥類による食害をなくすことができる。
【0021】
魚道内に堆積した土砂等は、隔壁を取り外して流水で押し流しながら洗浄すれば、容易に除去できる。
【0022】
流れを一定勾配の蛇行流として流下させるので段差が小さく、魚類が跳躍遡上しないため遡上効果が高く、遡上条件の落差の大きさを検討項目から除外できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、ポリエチレン製の半円形コルゲート管(1)を20〜30°の勾配で設置し、溝(13)と同じ厚さの120〜140°の中心角を持つ扇形の形状を有する隔壁(2)を、ポリエチレン製の半円形コルゲート管(1)の溝(13)中に適宜間隔かつ適宜角度で差し込むことにより、流れを蛇行流として流下させ、隔壁(2)間に魚類が休息できるスペースを形成する魚道(3)が最良である。
【0024】
または、ポリエチレン製の角型U字溝(16)を20〜30°の緩傾斜で設置し、溝と同じ厚さの台形の形状を有する隔壁(2)を、ポリエチレン製の角型U字溝(16)の溝中に適宜間隔で差し込むことにより、流れを蛇行流として流下させ、隔壁(2)間に魚類が休息できるスペースを形成する魚道が最良である。
【0025】
対象魚類に対する魚道幅の設定は、口径100〜2000mmの半円形コルゲート管及び幅180〜1000mmの角型U字溝から選定する。
【0026】
対象魚類に対する魚道の水深と流速の設定は、半円形コルゲート管においては溝に差し込む隔壁の角度と間隔、角型U字溝においては溝に差し込む隔壁の間隔で設定するが、必要に応じて、これら隔壁に切り欠きまたは欠孔を設けることにより調整する。
【実施例】
【0027】
本発明の魚道における魚の遡上状況を明らかにするために、実験を行なった。
【0028】
魚道(3)は、図1のように内径250mmのポリエチレン製の半円形コルゲート管(1)を20°の緩傾斜で設置し、厚さ24mm、直径280mm、中心角135°の扇形ベニヤ合板を隔壁(2)として、ポリエチレン製の半円形コルゲート管(1)の溝(13)中に1つ置き間隔で、かつ流水方向に対して開口部を交互に配置するように差し込んで作製した。なお、隔壁の(2)の差し込み状況は図2に示すとおりで、ポリエチレン製の半円形コルゲート管(1)の溝(13)幅が25mmに対して、隔壁(2)の厚さは実際には若干薄くした。
【0029】
魚の遡上実験は、図3のように一定流量を通水する循環装置内に勾配20°、全長2mの魚道を設置し、循環水を貯水タンク、上流桝、魚道、下流桝の順に流し、上流の貯水タンクからの吐水量を一定にするため貯水タンクを常時満水にするように、水中ポンプで下流桝の水を汲み上げた。水量調節は、貯水タンク吐水口のバルブで行なった。
【0030】
魚道における流量は25、50、100、500、800mL/Sの5段階を設定した。循環水は曝気した水道水を使用し、水温を23〜27℃に保った。
【0031】
実験に用いた魚は、全長60〜80mmのタモロコで、1実験につき10個体を使用した。実験回数は各流量につき3回の繰り返し試験を行った。
【0032】
魚の遡上降下行動の観察は、魚道の中央地点の上方にデジタルビデオカメラを設置して、下流桝にタモロコを投入後60分間記録した。
【0033】
魚道を1m以上遡上した個体数の割合は図4のとおりで、水深の浅い流量25mL/Sでは3%、流速の大きい800mL/Sでは17%と低かったが、流量50、100、500mL/Sでは、53〜77%の個体が遡上した。
【0034】
魚道の中央地点の隔壁間のプールを遡上するのに要した平均時間は図5のとおりで、50mL/Sでは37秒、100mL/Sでは30秒、500mL/Sでは23秒であったことから、50〜500mL/Sの流量があれば短時間で多くの個体が遡上できることが分かった。
【0035】
また、図8のように厚さ24mmの三角形ベニヤ合板の隔壁(2)を幅180mmのポリエチレン製の角型U字溝(16)の溝中に1つ置き間隔で、かつ流水方向に対して開口部を交互に配置するように差し込んで作製した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】半円形コルゲート管を本体とする魚道を示した斜視図である。
【図2】半円形コルゲート管を本体とする魚道を示した平面図である。
【図3】魚類の遡上実験に使用した魚道と循環装置を示した簡略図である。
【図4】魚道を1m以上遡上した個体数の割合を示したグラフである。
【図5】隔壁間のプールにおける遡上に要する時間を示したグラフである。
【図6】標準デニール型の魚道を示した説明図である。
【図7】半円形コルゲート管を本体とする魚道の隔壁を示した正面図である。
【図8】角型U字溝を本体とする魚道を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ポリエチレン製の半円形コルゲート管
2 隔壁
3 魚道
4 上流桝
5 下流桝
6 貯水タンク
7 下部貯水タンク
8 集水桝
9 バルブ
10 塩ビ管
11 ビニールホース
12 水中ポンプ
13 溝
14 切欠き
15 欠孔
16 ポリエチレン製の角型U字溝




【特許請求の範囲】
【請求項1】
45°以下の緩傾斜で設置される、ポリエチレン製の半円形コルゲート管を半割にした市販の半円形コルゲート管の溝に、対象とする魚類が遡上できる魚道幅、水深、流速条件を確保するため、多種類の半円形コルゲート管口径より適切口径を選択することにより魚道幅を確保し、溝と同じ厚さの半円形または扇形の脱着可能な隔壁を、適宜間隔かつ適宜角度によって半円形コルゲート管の溝に差し込むことにより必要水深と適正流速を確保し、流れを蛇行流として流下させ、隔壁間に魚類が休息できるスペースを形成することを特徴とする魚道。
【請求項2】
45°以下の緩傾斜で設置される、ポリエチレン製の角型U字溝の溝に、対象とする魚類が遡上できる魚道幅、水深、流速条件を確保するため、多種類の角型U字溝幅から適正幅を選択することにより魚道幅を確保し、溝と同じ厚さの三角形、矩形、台形の脱着可能な隔壁を、適宜間隔によって角型U字溝の溝に差し込むことにより必要水深と適正流速を確保し、流れを蛇行流として流下させ、隔壁間に魚類が休息できるスペースを形成することを特徴とする魚道。
【請求項3】
溝と同じ厚さの脱着可能な隔壁の一部に、切欠きまたは欠孔を有する請求項1及び2に記載される魚道。
【請求項4】
請求項1又は2に記載した魚道の上に、網や板や半円形コルゲート管を被せることにより、魚類の遡上中に引き起こされる魚類の魚道外への飛び出しや、鳥類による食害をなくすことを特徴とする魚道。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−233468(P2006−233468A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46624(P2005−46624)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月1日 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構中央農業総合研究センター発行の「平成16年度 関東東海北陸農業試験研究推進会議 作業技術部会資料」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月3日 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構中央農業総合研究センター発行の「平成16年度 関東東海北陸農業試験研究推進会議 関東東海・総合研究部会資料」に発表
【出願人】(000116622)愛知県 (99)