説明

魚類の住血吸虫の駆除剤および魚類の住血吸虫の駆除方法

【課題】マグロ属に属する魚類、ブリ属に属する魚類およびフグ目に属する魚類に寄生する住血吸虫の駆除、治療方法及び該寄生虫の駆除剤に関する。
【解決手段】2−シクロヘキシルカルボニル−1,2,3,6,7,11b−ヘキサヒドロ−4H−ピラジノ[2,1−a]イソキノリン−4−オンを有効成分とする魚類の住血吸虫の駆除剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−シクロヘキシルカルボニル−1,2,3,6,7,11b−ヘキサヒドロ−4H−ピラジノ [2,1−a]イソキノリン−4−オン(一般名称:プラジクアンテル(Praziquantel))を有効成分とする魚類の住血吸虫の駆除剤およびプラジクアンテルを魚類に投与することを特徴とする魚類の住血吸虫の駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラジクアンテルは、ヒトの肝吸虫症、肺吸虫症、横川吸虫症の治療に効果のあることが知られている(非特許文献1)。プラジクアンテルは、単生類の寄生虫、ベネデニア・セリオレ(Benedenia seriolae)(単後吸盤類)の駆除剤として動物用医薬品(水産用途)で承認されているが(特許文献1)、これらの寄生虫は、魚類の表皮に寄生するものであって血管内に寄生するものではない。
【0003】
魚類の住血吸虫は、心臓から鰓にかけての動脈内(ブリ属)、内臓の血管内(フグ目)、心臓から鰓にかけての動脈内(マグロ属)にそれぞれ寄生し、産卵する。その虫卵がブリ属・マグロ属では鰓または心臓の血管内、フグ目では内臓の血管内に詰ることで死に至り、その死亡率は高く、多大な被害を出している。また、魚類の寄生虫に対する薬剤は、たとえ同じ住血吸虫に属する寄生虫に対する場合であっても、対象魚の属・種が異なればその効果が異なるため、有効な薬剤の開発は容易ではない。
【0004】
魚類の吸虫に対するプラジクアンテルの駆虫効果に関しては、サワラ、ヒラマサ、トラフグの3種類の魚類で効果が検討されているが、明確な効果は確認されていない。プラジクアンテルによるサワラの住血吸虫に対する駆除効果の検討では、プラジクアンテル製剤300mg/Kg/日量投薬により死亡数は減少したものの虫卵保有個体率が再び増加したことが報告されている(非特許文献2)。プラジクアンテルによるヒラマサの住血吸虫に対する駆除効果の検討では、駆除効果が確認できなかったことが、また、トラフグの脳内吸虫メタセルカリアに対する駆除効果の検討でも、投薬によってもメタセルカリアが死亡しないことが報告されている(非特許文献3)。即ち、プラジクアンテルによる魚類の吸虫の駆除では従来あまり明確な効果が得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3290137号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】医薬品添付文書ビルトリシド錠(ブラジカンテル錠)600mg、2009年刊、1−3頁
【非特許文献2】平成13年度香川県水産試験場事業報告,平成14年度刊、97−98頁
【非特許文献3】平成16年度長崎県水産試験場報告、平成17年度刊、163−170頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、マグロに対して他の魚類と異なり、カルジコラ属に属する住血吸虫が寄生することが知られているが、死亡率に影響を与える心臓に寄生する住血吸虫に関してはその特定すらなされておらず(ただし、後日、Cardicola opisthorchisが特定された)、その駆除方法は全く知られていない。資源ナショナリズムの中で、クロマグロ等高級魚類の輸入量に制限が設けられる中、魚類の養殖技術の向上が望まれ、とりわけ養殖中に魚類の血管に寄生する住血吸虫の駆除が望まれている。本発明の目的は、魚類とりわけマグロの住血吸虫の駆除に有効な薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1) 2−シクロヘキシルカルボニル−1,2,3,6,7,11b−ヘキサヒドロ−4H−ピラジノ[2,1−a]イソキノリン−4−オン(一般名称:プラジクアンテル)を有効成分とする魚類の住血吸虫の駆除剤、
(2) 魚類がマグロ属に属する魚類であり、住血吸虫がカルジコラ属に属する吸虫である(1)記載の駆除剤、
(3) マグロ属に属する魚類がクロマグロ、ミナミマグロまたはキハダマグロである(2)記載の駆除剤、
(4) 魚類がブリ属に属するブリもしくはカンパチであり、住血吸虫がパラデオンタシリックス属に属する吸虫である(1)記載の駆除剤、または
(5) 魚類がフグ目に属するトラフグもしくはカワハギであり、住血吸虫がプセッタリウム属に属する吸虫である(1)記載の駆除剤に関する。
(6) なお、(1)〜(5)のいずれかに記載の駆除剤を含有する水産用飼料も本発明に含まれる。
本発明は、また、(7) プラジクアンテルを魚類に投薬することを特徴とする魚類の住血吸虫の駆除方法、
(8) 魚類がマグロ属に属する魚類であり、住血吸虫がカルジコラ属に属する吸虫である(7)記載の駆除方法、
(9) マグロ属に属する魚類がクロマグロ、ミナミマグロまたはキハダマグロである(8)記載の駆除剤方法、
(10) 魚類がブリ属に属するブリもしくはカンパチであり、住血吸虫がパラデオンタシリックス属に属する吸虫である(7)記載の駆除剤方法、または
(11) 魚類がフグ目に属するトラフグもしくはカワハギであり、住血吸虫がプセッタリウム属に属する吸虫である(7)の駆除方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によりプラジクアンテルを有効成分とする魚類の住血吸虫の駆除剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いる2−シクロヘキシルカルボニル−1,2,3,6,7,11b−ヘキサヒドロ−4H−ピラジノ[2,1−a]イソキノリン−4−オンは、一般名称をプラジクアンテルと呼ばれる公知の医薬化合物であり、特開昭50−93999号公報に、その製造方法が記載されている。
【0011】
【化1】

【0012】
本発明において、「魚類」には特に制限はないが、本発明の駆除剤は養殖に用いられる魚類に対して好ましく用いられ、そのような魚類の中ではマグロ属(Thunnus)に属する魚類、ブリ属(Seriola)に属するする魚類またはフグ目(Tetraodontiformes)に属する魚類が好ましく、とりわけマグロ属に属する魚類が好ましい。マグロ属に属する魚類としてはクロマグロ(Thunnus orientalis、Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)またはキハダマグロ(Thunnus albacares)が好ましくとりわけクロマグロが好ましい。ブリ属に属するする魚類としては、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)もしくはヒラマサ(Seriola lalandi)が好ましく、フグ目に属する魚類としてはトラフグ(Takifugu rubripes)もしくはカワハギ(Stephanolepsis cirrhifer)が好ましい。
【0013】
本発明において、「住血吸虫」には一般に住血吸虫と呼ばれる寄生虫であればどのようなものも含まれるが、住血吸虫の具体例としては、マグロ属に寄生するカルジコラ属(Cardicola orientalis, C. sp.(C. opisthorchisと同定))、ブリ属に寄生するパラデオンタシリックス属(Paradeontacylix grandispinus,P. kampachi等)、フグ目に寄生するプセッタリウム属(Psettarium spp.)等が挙げられ、本発明の駆除剤は、とりわけカルジコラ属に属する住血吸虫に好ましく用いられる。
【0014】
これらの住血吸虫は、魚の心臓から鰓にかけての動脈内、内臓の血管内、鰓弁の動脈内等に寄生し、産卵する。本発明の駆除剤は、とりわけ心臓に寄生する住血吸虫に好適に用いることができる。
【0015】
本発明において「駆除剤」とは、魚類の個体における寄生虫の数を減少させたり、あるいは寄生虫による魚の被害を減少させたりすることのできる薬剤を意味する。本発明の駆除剤は、プラジクアンテル単独としても用いることができるが、プラジクアンテルを他の添加剤とともに製剤化して水産用製剤としたり、プラジクアンテルを必要によりエタノール等の溶剤に溶解又は懸濁した後、飼料と混合し、混合物を乾燥して水産用飼料としたり、さらにその水産用飼料を固形飼料(ドライペレット、エクストルーダーペレット等)に成型して投薬したりすることもできる。これらの中、水産用飼料として本発明の駆除剤を投薬することが好ましい。
【0016】
該水産用製剤中のプラジクアンテルの含有量は10〜90重量部、好ましくは20〜80重量部とすることができ、特に30〜70重量部とすることがとりわけ好ましい。
【0017】
製剤化する際の添加剤としては、例えば、賦形剤、展着剤、安定剤等が挙げられるが、これらの中、賦形剤としては、例えば、乳糖、澱粉、ブドウ糖、デキストリン、セルロース、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。また、展着剤としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、グルテン、第一リン酸カルシウム、ポリエチレングリコール、グァガム、ポリアクリル酸ナトリウム、天然ガム類等が挙げられ、展着剤の具体的製品名としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、第一リン酸カルシウム、グァガムを含有する商品名「展着くん」(あすか製薬社製)が挙げられる。さらに、安定剤としては、例えば、プロピレングリコール、塩化マグネシウム、アスコルビン酸カルシウム、酢酸トコフェロール、エトキシキン、ピロ亜硝酸ナトリウム等が挙げられる。これらを単独又は組み合わせて使用することができる。
【0018】
本発明の水産用飼料におけるプラジクアンテルの含有量は0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜2.0重量部とすることができ、飼料の含有量は80.0〜99.99重量部、好ましくは98〜99.95重量部とすることができる。また、水産用飼料には、必要に応じて、前記安定剤0.1〜5.0重量部及び/又は賦形剤0.1〜10.0重量部を加えることもできる。
【0019】
本発明の水産用飼料に含まれる飼料としては、例えば、イワシ(ミンチ)、サバ(ミンチ)、アジ(ミンチ)、イカナゴ(ミンチ)等の生餌、魚粉、イカミール、オキアミミール、カイミール、飼料用酵母、モイストペレット、固形飼料(ドライペレット、エクストルーダーペレット等)等が挙げられ、これらは市販の飼料又は配合飼料であってもよい。
【0020】
本発明の水産用飼料が固形飼料である場合は、飼料の嗜好性の低下を防止すると共に、給餌した際に固形飼料からプラジクアンテルを漏出し難くするため、該固形飼料をゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フィッシュオイル、植物油等でコーティングすることが好ましい。コーティング方法としては、流動層コーティング、ワースターコーティング、ジェット気流分散コーティング等の公知の方法が挙げられる。
【0021】
本発明の駆除剤は、また、浸漬処理に用いることもできる。浸漬処理に用いる場合には、溶媒及び/又は溶解補助剤を加えても良い。溶媒としては、例えば、エチルアルコールが挙げられる。また、溶解補助剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。更に、添加剤としてフィッシュオイル、植物油等を用いることにより、プラジクアンテルの溶解及び個体への粘着をより好適に行うことができる。
【0022】
本発明の「魚類の住血吸虫の駆除方法」において、前記水産用製剤または前記水産用飼料を経口投与する場合の投与量としては、一日当たり魚体重1kgに対しプラジクアンテル1mg〜1g、好ましくは10〜200mg、より好ましくは3〜200mg、とりわけ好ましくは20〜50mg、よりとりわけ好ましくは7〜50mgの範囲とすることができる。投薬は1日1回又は2回である。投薬日数は1〜10日、好ましくは2〜5日、とりわけ好ましくは3〜4日である。また、投薬期間は1回のみならず、1〜30日、好ましくは3〜10日のインターバルを置いて複数回の投薬期間を設けることができる。
【0023】
以下に本発明の実施例及び試験例を示す。
【実施例1】
【0024】
プラジクアンテルを50%含有するプラジクアンテル製剤(商品名「ハダクリーン」(登録商標)、バイエル薬品株式会社製)21gを99.5%エタノール500mlに懸濁し、これを配合飼料(商品名「ジャイアントツナ8号」、日清丸紅飼料社製)2.0kgに混合し、乾燥後、フィードオイル22mlでコーティングして水産用飼料(飼料A)を作製した。
【実施例2】
【0025】
ハダクリーン42gを99.5%エタノール500mlに懸濁し、これをジャイアントツナ8号2.0kgに混合し、乾燥後、フィードオイル22mlでコーティングして水産用飼料(飼料B)を作製した。
【実施例3】
【0026】
ハダクリーン30g、カルボキシメチルセルロース40g及びフィードオイル22mlを解凍イカナゴ8.0kgに混合し、水産用飼料(飼料C)を作製した。
【実施例4】
【0027】
ハダクリーン54g、カルボキシメチルセルロース40g及びフィードオイル22mlを解凍イカナゴ8.0kgに混合し、水産用飼料(飼料D)を作製した。
【実施例5】
【0028】
住血吸虫(Cardicola spp.)の寄生が確認された海面生け簀飼育の平均体重0.7kgのクロマグロ(Thunnus orientalis)幼魚を、イ群(試験開始時232尾、飼料A及び飼料C投薬群)およびロ群(試験開始時215尾、飼料B及び飼料D投薬群)に分け、各群から合わせて10匹を採取し、虫卵の寄生率、成虫の寄生率、鰓中の平均虫卵数、心臓中の平均成虫数を測定した。4日間予備飼育を行った後、第1回投薬期間として駆除剤有効成分投与量を1日に魚体重1kg当たり概ね150mgになるように給餌量を設定し、イ群に実施例1で作製した飼料Aを、ロ群に飼料Bを1日1回、3日間投薬した。一週間駆除剤を与えないで飼育した後、10匹を採取し虫卵の寄生率、成虫の寄生率、寄生率(成虫)、鰓中の平均虫卵数、心臓中の平均成虫数を測定した。その後、第2回投薬を開始し駆除剤有効成分投与量を1日に魚体重1kg当たり概ね150mgになるように給仕量を設定し、イ群に飼料Cをロ群に飼料Dを3日間投薬した。投薬終了後5日間飼育した後10匹を採取し虫卵の寄生率、成虫の寄生率、寄生率(成虫)、鰓中の平均虫卵数、心臓中の平均成虫数を測定したが、イ群およびロ群に効果の差は無く、総合した結果を表1に示した。
【0029】
表1によれば、プラジクアンテルの投薬により心臓の住血吸虫数は激減し、第二回投与を行った後では全く見られなくなった。
【0030】
【表1】


※平均虫卵数/鰓弁及び平均成虫数/心臓は非寄生魚を除外して算出した。
※NA: 計数せず。
※(2:8)は投薬前のイ群とロ群の生け簀中の生魚2匹と死亡魚8匹を検査したこと、(0:10)は第1回投薬後のイ群とロ群の生け簀中の死亡魚10匹を検査したこと、(2:8)は第2回投薬後のイ群とロ群の生け簀中の生魚2匹と死亡魚8匹を検査したことを意味する。なお、死亡魚の死亡原因はCardicola spp.によるものではない。
【実施例6】
【0031】
住血吸虫(Cardicola spp.)の寄生が確認された海面生け簀飼育の平均体重0.1kgのクロマグロ(Thunnus orientalis)幼魚354匹を試験対象として、予備飼育を1週間行った。予備飼育の間の給餌は飽食給餌を基本とし、最初の6日間は1日に2回、最終日には1日1回配合飼料またはイカナゴのミンチを摂餌しなくなるまで給餌した。予備飼育終了後、ハダクリーン54gを配合した配合飼料(商品名「ジャイアントツナ8号」、日清丸紅飼料社製)を用いて同様の飽食給餌で1日1回(魚体重1kg当たり概ね50mg投薬される)、3日間給餌した(試験期間24日間の1日当たり平均給餌量は7,445kgだった(1日当たり給餌量:4,215〜10,002kg、投薬期間3日間の1日当たり給餌量:8,000kg、7,890kg、9,000kg))。投薬前には1匹、投薬1日目、投薬2日目、投薬3日目及び3日間の投薬終了から14日後には各3匹のクロマグロの心室および鰓における生きた虫体寄生数、心室および鰓における死んだ虫体寄生数並びに鰓中の虫卵の数を測定した。なお、投薬1日目の3匹のクロマグロは、2日目の給餌直前に採魚され、測定された。投薬2日目の3匹のクロマグロは、3日目の給餌直前に採魚され、測定された。投薬3日目の3匹のクロマグロは、4日目に採魚され、測定された。
【0032】
測定方法は、採材魚を生簀から釣り上げて、生きた状態の心臓および鰓弓における成虫の有無(生存)の確認、及び鰓弁(右側第一鰓弓の心臓に近い鰓弁12枚程度)中の卵の有無の確認をした。その結果を下記表2に示す。
投薬前の心臓と鰓には、生きた住血吸虫が多数確認され、死んだ住血吸虫は確認されなかった。鰓の虫体はCardicola orientalis (Ogawa et al., 2010、Parasitology International、59巻、44-48ページ)、 心臓の虫体は別種のCardicola (未同定種(Cardicola opisthorchisと同定))と考えられる。
【0033】
投薬後の状況を見ると、投薬一日目には既に生きた住血吸虫は心室にも鰓にも見られなくなった。投薬3日目には死んだ住血吸虫もほとんど見られなくなり、投薬終了から14日後には、死んだ住血吸虫も見られなくなった。
【0034】
しかし、住血吸虫の卵は、投薬前から投薬終了から14日後までの全ての個体で確認され、プラジクアンテルの投薬(魚体重1kg当りプラジクアンテル22.5mg)により住血吸虫は駆虫できるが、住血吸虫の卵は排除できないことがわかった。
【0035】
今回の試験では、獣医師の指示によりプラジクアンテルの1日の投薬量を魚体重1kg当り22.5mgとしたが、これは、プラジクアンテルをブリのハダムシ駆除に使用する場合の約30%の投薬量であった。それにもかかわらず、投薬1日目から住血吸虫は死亡した。このことから、プラジクアンテルのクロマグロ住血吸虫に対する駆虫効果は、統計的処理をする必要が無いほど顕著なものであったと言える。
【0036】
【表2】

【実施例7】
【0037】
住血吸虫(Paradeontacylix spp.)の寄生が確認された海面生け賓飼育の平均体重1,500gブリ(Seriola quinqueradiata)5,000尾を試験対象とした。
【0038】
プラジクアンテルを50重量%含有するプラジクアンテル製剤(商品名「べネサール」(登録商標)、あすか製薬株式会社製)750g(魚体重1kg当たりプラジクアンテル50mg投薬)と展着剤(商品名「展着くん」、あすか製薬株式会社製)200gを配合した配合飼料(商品名「マリン11号」、林兼産業製)を用いて、220kg(総魚体重の3%相当)を1日1回、3日間給餌した。
【0039】
投薬前及び投薬後5日目に10尾、投薬終了から20日目に5尾を採取し、虫卵の寄生率、成虫の寄生率、心臓から鰓の動脈内平均成虫数を測定した。結果を表3に示す。ブリにおいて、顕著な駆除効果(投薬後20日後の寄生率0%)が示された。
【0040】
【表3】


※平均成虫数は、非寄生魚を除外して算出した。
【実施例8】
【0041】
住血吸虫(Paradeontacylix grandispinus、Paradeontacylix kampachi)の寄生が確認された海面生け簑飼育の平均体重850gのカンパチ(Serlola dumerili)8,000尾を試験対象とした。
【0042】
プラジクアンテルを50重量%含有するプラジクアンテル製剤(商品名「ベネサール」(登録商標)、あすか製薬株式会社製)680g(魚体重1kg当たりプラジクアンテル50mg投薬)と粘結材(カルボキシメチルセルロース、和光純薬工業株式会社製)35gを配合したカタクチイワシ(冷凍生餌)を用いて、800kg(生餌の乾物換算で総魚体重の3.5%相当〉を1日1回、3日間給餌した。
【0043】
投薬前及び投薬後5日目に10尾、投薬終了から20日目に5尾を採取し、虫卵の寄生率、成虫の寄生率、心臓から鰓の動脈内の平均成虫数を測定した。結果を表4に示す。カンパチにおいて、顕著な駆除効果(投薬後20日後の寄生率0%)が示された。
【0044】
【表4】


※平均成虫数は、Paradeontacylix grandispinusとParadeontacylix kampachiの合計。
※平均成虫数は、非寄生魚を除外して算出した。
【実施例9】
【0045】
住血吸虫(Psettarium spp.)に感染した平均体重126gのトラフグ幼魚90尾を試験対象として予備飼育を1週間行った。予備飼育期間の飼料は、冷凍サバミンチ:冷凍オキアミ:配合飼料(商品名「マリンライト8号」、林兼産業製、を粉砕した粉末)=6.4:1.6:2の割合で作製したモイストペレットを1日1回350g給餌した。
【0046】
供試魚を30尾ずつ3水槽に分け、その内2水槽の供試魚に、プラジクアンテルを50重量%含有するプラジクアンテル製剤(商品名「ベネサール」(登録商標)、あすか製薬株式会社製)を1日に魚体重1kg当たり50mg及び100mgを設定した。50mg投薬するためにべネサール0.378gを予備飼育飼料100gに配合し、100mg投薬するためベネサール0.756gを予備飼育飼料100gに配合し、1日1回、3日間給餌した。残り1水槽はコントロールとして、べネサールを含まない同飼料を80g給餌した。
【0047】
投薬前、投薬終了後5日目に、各水槽から5尾ずつ取り上げ、虫卵の寄生率、成虫の寄生率、内臓血管内の平均成虫数を測定した。しかし、50mgと100mgに効果の差は無く、総合した結果を表5に示した。投薬終了後5日目の結果だけであるが、同じ投薬終了後5日目のブリやカンパチの結果を参照すれば、トラフグにおいても、顕著な駆除効果が認められる。
【0048】
【表5】


※平均成虫数は、非寄生魚を除外して算出した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、魚類に寄生する住血吸虫の予防及び駆除に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−シクロヘキシルカルボニル−1,2,3,6,7,11b−ヘキサヒドロ−4H−ピラジノ
[2,1−a]イソキノリン−4−オンを有効成分とする魚類の住血吸虫の駆除剤。
【請求項2】
魚類がマグロ属に属する魚類であり、住血吸虫がカルジコラ属に属する吸虫である請求項1記載の駆除剤。
【請求項3】
マグロ属に属する魚類がクロマグロ、ミナミマグロまたはキハダマグロである請求項2記載の駆除剤。
【請求項4】
魚類がブリ属に属するブリ、カンパチもしくはヒラマサであり、住血吸虫がパラデオンタシリックス属に属する吸虫である請求項1記載の駆除剤。
【請求項5】
魚類がフグ目に属するトラフグもしくはカワハギであり、住血吸虫がプセッタリウム属に属する吸虫である請求項1記載の駆除剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の駆除剤を含有する水産用飼料。
【請求項7】
2−シクロヘキシルカルボニル−1,2,3,6,7,11b−ヘキサヒドロ−4H−ピラジノ
[2,1−a]イソキノリン−4−オンを魚類に投薬することを特徴とする魚類の住血吸虫の駆除方法。
【請求項8】
魚類がマグロ属に属する魚類であり、住血吸虫がカルジコラ属に属する吸虫である請求項7記載の駆除方法。
【請求項9】
マグロ属に属する魚類がクロマグロ、ミナミマグロまたはキハダマグロである請求項8記載の駆除方法。
【請求項10】
魚類がブリ属に属するブリもしくはカンパチであり、住血吸虫がパラデオンタシリックス属に属する吸虫である請求項7記載の駆除方法。
【請求項11】
魚類がフグ目に属するトラフグもしくはカワハギであり、住血吸虫がプセッタリウム属に属する吸虫である請求項7記載の駆除方法。

【公開番号】特開2012−162524(P2012−162524A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−9059(P2012−9059)
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(000002990)あすか製薬株式会社 (39)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(000214191)長崎県 (106)
【Fターム(参考)】