説明

魚類用免疫賦活剤及び魚類用免疫賦活用飼料

【課題】魚の免疫力を強化し、魚病の発生を簡便に抑制できる、魚類用免疫賦活剤及び魚類用免疫賦活用飼料を提供する。
【解決手段】カンゾウ油性抽出物からなる魚類用免疫賦活剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の免疫力を高める免疫賦活剤及び魚類用免疫賦活用飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
漁獲高の減少傾向、魚の安定供給の点から、養殖業の重要性が益々高まっている。しかしながら、養殖業において、養殖魚を魚病から守ることは非常に重要であり、魚病の発生は非常に大きな問題となっている。魚病の原因としては、細菌、ウイルス等感染、養殖環境の変化(水温、気候等)が挙げられる。魚病を防ぐ方法として、抗菌剤等を用いる方法もあるが、魚病の原因となる環境下、細菌、ウイルス等に感染したとしても、魚の免疫力が強ければ魚病の発生が抑制できる。以上のことから、魚の免疫力を高め、魚病の発生を簡便に抑制できる手段が望まれていた。
【0003】
【特許文献1】特開平5−262658号公報
【特許文献2】特開平2−250832号公報
【特許文献3】特開2001−190231号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、魚の免疫力を強化し、魚病の発生を簡便に抑制できる、魚類用免疫賦活剤及び魚類用免疫賦活用飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、カンゾウ油性抽出物が魚類に対する優れた免疫賦活効果を有することを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0006】
従って、本発明は、
[1].カンゾウ油性抽出物からなる魚類用免疫賦活剤、
[2].カンゾウ油性抽出物を有効成分として含有する魚類用免疫賦活用飼料を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、魚類に対する優れた免疫賦活効果を有する魚類用免疫賦活剤及び魚類用免疫賦活用飼料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明はカンゾウ油性抽出物からなる魚類用免疫賦活剤であり、カンゾウ油性抽出物を魚類用の免疫賦活用途に用いるものである。カンゾウ油性抽出物は、カンゾウの根もしくは根茎から、又はこれらから水又は温水等の水性溶媒でグリチルリチン等の水溶性成分を抽出した残渣から、アセトン、メタノール又はエタノール等の有機溶媒を用いて抽出することによって得られるものである。カンゾウ(甘草、Licorice)は生薬として知られ、現在では主に食品用甘味料や医薬品・医薬部外品等の原料として使用されている。特に、その水溶性成分であるグリチルリチンには、免疫賦活作用、抗炎症作用及び抗アレルギー作用等の優れた薬理作用があることから、広く食品、医薬品及び化粧品等に利用されている。しかしながら、グリチルリチン等の水溶性成分を抽出した残渣から、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒を用いて抽出されるカンゾウ油性抽出物が、魚類に対して優れた免疫賦活効果を有すること、特にブリ、ヒラメ等の免疫力を高める効果を有することは、本発明者による新知見である。また、カンゾウ油性抽出物は嗜好性が良好で、餌に混ぜることで簡便に免疫賦活効果を発揮させることができる。
【0009】
カンゾウ油性抽出物の製造方法は、カンゾウの根もしくは根茎から、又はこれらから水又は温水等の水性溶媒でグリチルリチン等の水溶性成分を抽出した残渣から、アセトン、メタノール、エタノール等の有機溶媒を用いて抽出することによって得ることができる。原料となるカンゾウは、マメ科グリチルリイザ(Glycyrrhiza)属に属する植物で、例えば、グリチルリイザ グラブラ(G. glabra)、グリチルリイザ ウラレンシス(G.uralensis)、グリチルリイザ インフラータ(G.inflata)等が使用可能である。使用部位は根、根茎、葉、茎のいずれの部位でも原料として使用することができるが、根又は根茎を原料として使用することが好ましい。また、これらは生のものを使用しても乾燥させたものを使用してもよいが、工業的に製造されているグリチルリチンの抽出原料となっている乾燥根及び乾燥根茎を原料として使用することができる。なお、甘草は生産地の名前を冠して呼ばれることが多く、例えば、東北甘草、西北甘草、新疆甘草、モンゴル産甘草、ロシア産甘草、アフガニスタン産甘草等を挙げることができる。
【0010】
カンゾウから、水又は温水等の水性溶媒でグリチルリチン等の水溶性成分を抽出する方法としては、中性〜アルカリ性下が好ましく、水抽出液のpHは通常7〜11であり、9〜10がより好ましい。抽出温度は、冷水、温水いずれでもよいが、5〜100℃、特に50〜100℃が好ましい。pHの調整には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。抽出時間は抽出温度によって異なるが、通常1〜72時間であり、特に2〜24時間が好ましい。
【0011】
次に、カンゾウの根もしくは根茎、又は上記グリチルリチン等の水溶性成分を抽出した残渣から、アセトン、メタノール又はエタノール等の有機溶媒を用いてカンゾウ油性抽出物を抽出する。抽出時間・温度は適宜選定される。固体部分をろ過し、得られたろ液を活性炭等で脱色してもよい。ろ液は減圧濃縮した後、エタノールを添加して、エキスとしてもよく、凍結乾燥して固形物としてもよい。下記測定条件において、本発明のカンゾウ油性抽出物中にグリチルリチン酸は検出されない。また、本発明のカンゾウ油性抽出物中には、極性の高いフラボノイド類は含有されていない。
[グリチルリチン酸]
カラム:Nucleosil−II 5C18 HG
溶媒:アセトニトリル:水:酢酸(体積比)=40:58:2
流速:1.0mL/min
検出:254nm
温度:40℃
注入量:20μL
【0012】
カンゾウ油性抽出物からなる魚類用免疫賦活剤をそのまま用いてもよいが、飼料等への配合を考慮した乳化タイプであるサンリコリスN、サンリコリスA(丸善製薬株式会社製)等の、カンゾウ油性抽出物9質量%含有乳化製剤を用いてもよい。
【0013】
カンゾウ油性抽出物の投与量(摂取量)は、魚の種類、投与方法によって適宜選定されるが、通常0.1〜1000mg/kg・dayであり、1〜200mg/kg・dayが好ましく、5〜50mg/kg・dayがより好ましい。これらの好適範囲により、免疫賦活効果を特に得ることができる。
【0014】
本発明の免疫賦活剤は魚用である。また、甘草から得られる抽出物を用いるため、抗生物質による薬剤耐性菌の出現や副作用の問題がなく、安心して投与することができ、薬剤の残留による人体や環境へ影響の心配がないため、特に、養殖魚に対する免疫賦活剤として好適である。魚としては、ブリ、ヒラメ、タイ、フグ、カンパチ、アユ、ニジマス、ウナギ、スズキ、カワハギ、メバル、ハタ、マグロ等が挙げられるが、ブリ、ヒラメに好適であり、特にブリに好適である。
【0015】
本発明のカンゾウ油性抽出物からなる魚類用免疫賦活剤は、各種組成物に添加剤として用いることができる。例えば、カンゾウ油性抽出物を有効成分として含有する魚類用免疫賦活用飼料、カンゾウ油性抽出物を有効成分として含有する魚用免疫賦活用医薬等にすることができる。魚用免疫賦活用医薬にする場合の剤型は特に限定されず、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の固形剤、液剤等に公知の方法により調製することができる。簡便性の観点から、カンゾウ油性抽出物を有効成分として含有する魚類用免疫賦活用飼料とすることが好ましい。
【0016】
カンゾウ油性抽出物を有効成分として含有する魚類用免疫賦活用飼料中のカンゾウ油性抽出物の配合量は、上記摂取好適範囲に基づき、魚の種類、摂取方法により適宜選定され、カンゾウ油性抽出物そのものを用いてもよいが、0.01〜5.0質量%が好ましく、0.02〜1.0質量%がより好ましく、0.1〜1.0質量%がさらに好ましい。また、魚用飼料成分としては、魚粉、小麦粉、でん粉、魚油等のオイルが挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。また、モイストペレット、ドライペレット、エクストルーダーペレット等を用いることもできる。免疫賦活用飼料の製造方法は特に限定されず、カンゾウ油性抽出物と任意の魚用飼料成分とを混合して、公知の方法により得ることができる。
【0017】
本発明の魚類用免疫賦活用飼料は、稚魚から成魚に経口投与する。投与方法としては特に限定されないが、連続で投与することができ、間欠で投与することが好ましい。投与期間は特に限定されず、2ヶ月以上、2週間以上でもよく、1〜7日で効果を得ることができる。
【実施例】
【0018】
以下、試験例及び実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、特に明記のない限り、組成の「%」は質量%を示す。
【0019】
[実施例1,比較例1]
下記表1に示す組成の飼料を調製し、試験例1の条件で白血球貧食能試験、ポテンシャルキリング活性試験、血漿リゾチーム活性試験を行った。結果をコントロールを100とした相対値で、表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
[試験例1]
(1)供試魚:同一種苗由来の平均2.3kgのブリ3年魚
(2)試験時期:2〜4月
(3)試験尾数:6(各例)/放尾数55
(4)投与量(摂取量):カンゾウ油性抽出物27mg/魚体重1kg/day
(5)投与方法:週2回給餌(2ヶ月間)
(6)測定日:試験開始後2ヶ月
【0022】
[実施例2,3、比較例2]
下記表2に示す組成の飼料を調製し、試験例2の条件で白血球貧食能試験、ポテンシャルキリング活性試験、血漿リゾチーム活性試験を行った。2週間の試料投与後、引き続き試験例3の攻撃試験を行った。結果をコントロールを100とした相対値で、表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
[試験例2]
(1)供試魚:同一種苗由来の平均77.8gのヒラメ当才魚
(2)試験時期:5〜6月
(3)試験尾数:3(各例)/放尾数15
(4)投与量(摂取量):カンゾウ油性抽出物4.5mg/魚体重1kg/day
カンゾウ油性抽出物9mg/魚体重1kg/day
(5)投与方法:5日給餌2日休餌(2週間)
(6)測定日:試験開始後2週間
【0025】
採血法、白血球貧食能試験、ポテンシャルキリング活性試験及び血漿リゾチーム活性試験の方法を下記に示す。
<採血法>
注射器は事前にヘパリンナトリウム溶液でフラッシングした。ヘパリンナトリウム溶液の濃度は魚種により異なる(ブリ:3000U/mL、ヒラメ:800U/mL、ギンザケ、ニジマス、アユ:160U/mL、マダイ:300U/mL))。麻酔なしの状態で魚尾血管から1mL採血を行い、マイクロチューブに移した。血液50μLを白血球貧食能試験、血液200μLをポテンシャルキリング活性試験に使用し、マイクロチューブを1000G(9.8m/s2)、4℃で5分間遠心して20μLの血漿を分取し、血漿リゾチーム試験に用いた。
【0026】
<白血球貧食能試験>
(1)Zymosan(Sigma、以下同様)を0.5mg/mLとなるようRPMI1640培地(Sigma、以下同様)に浮遊させ、これを入れたチューブを超音波洗浄器に浮かせ、超音波処理(30秒、2回)した。(これをマイクロチューブに50μLずつ分注後、凍結保存し、使用する毎に解凍して使用した)。
(2)培地に浮遊したZymosanの入ったマイクロチューブに血液を50μL加え、ピペッティングで撹拌し、プラスチック毛細管(太)(ヘマトロンL(萱垣社)、以下同様)に100μL取った。毛細管を寝かせた状態で魚種別に所定の温度・時間でインキュベートした(ブリ:25℃・60分、ヒラメ:20℃・30分、ギンザケ、ニジマス:15℃・20分、アユ:20℃・30分、マダイ:25℃・120分)。
(3)その後、遠心分離(1000G(9.8m/s2)、4℃,5分間)し、白血球層と赤血球層の境界面で毛細管を切断後、血漿、白血球部分(図1参照)をマイクロチューブに取り、軽くピペッティングして均一にした後、その一部をスライドグラスに直接滴下し、直ちに塗抹、風乾した。
(4)これをメイグリュンワルド・ギムザ染色法*2により染色し、封入後検鏡した。
(5)貧食率を以下の式で求めた。
貧食率(%)=(Zymosanを食した貧食細胞数/観察した貧食細胞数)×100
観察する貧食細胞数は100以上とする。
*2:風乾した塗抹標本に市販のメグリュンワルド・ギムザ染色液を載せ、2分間染色する。これに直接蒸留水をほぼ同量加え、さらに3分間染色した。染色液を捨て、直ぐに蒸留水で約10倍に希釈して、ろ過したメグリュンワルド・ギムザ染色液を載せ、20分間染色した。反応終了後、染色液を捨て、蒸留水で十分に洗い、風乾した。
【0027】
<ポテンシャルキリング活性試験>
(1)マイクロチューブにRPMI1640、NBT溶液*3及びZymosan加NBT溶液(5mg/mL)を15μLずつ分注し、氷冷した。
(2)血液100μLをプラスチック毛細管に充填して1000G(9.8m/s2)、4℃で5分間遠心した。
(3)毛細管を遠心機から取り出して、白血球層と赤血球層の境界面及び白血球層の上方2cmのところで毛細管を切断し、白血球を含む部分(図2参照)を50μLのRPMI1640で新しいマイクロチューブに流し出した。
(4)ピペッティングで細胞を分散し、15μLずつをRPMI1640、NBT溶液及びZymosan加NBT溶液それぞれに加えて、魚種別の温度(ブリ:25℃、ヒラメ、アユ:20℃、ギンザケ、ニジマス:15℃)で1時間インキュベートした。その後、15%NaCl溶液を30μLずつ加えた。
(5)DMF(N,N−ジメチルホルムアミド:Sigma)400μLを各マイクロチューブに加えてピペッティングで混和し、1500G(9.8m/s2)、4℃で15分間遠心した。
(6)上清250μLを石英マイクロプレートに入れ、540nmの吸光度を測定した。
(7)OD値から、下記式に基づきポテンシャルキリング活性を求めた。
ポテンシャルキリング活性=OD(Zymosan加NBT溶液)−OD(NBT溶液)
*3:Nitro blue tetrazorium(Sigma)を2mg/mL)となるようにRPMI1640に溶解した。
【0028】
<血漿リゾチーム活性試験>
(1)マイクロプレートの穴に、リゾチーム活性測定用バッファー*4(以下LY)60μLを入れ、血漿5μLと10倍に希釈した血漿5μLを別々の穴に加える。それぞれにM.lysodeikticus浮遊液(M.lysodeikticus(Sigma M−3370)3mg/mLLY)60μLを加え、マイクロプレートリーダーにセットし、0、15、30、45及び60分後に540nmの吸光度を測定した。インキュベート温度は、ブリ、ヒラメ、マダイでは37℃、ギンザケ、ニジマス、アユでは25℃とした。
(2)吸光度の1分間当たりの変化率で活性を評価した。勾配の最も大きい任意の2点間の値を時間で割って測定値(−mOD/min)とした。測定値をx、原血漿の希釈率をkとし、以下の式で活性値を求めた。
ヒラメ・マダイ・ブリ用活性値算定式
活性値(unit/mL血漿)=k(74.81x−28.0)
ギンザケ、ニジマス、アユ活性値算定式
活性値(unit/mL血漿)=k(89.46x−21.0)
注:原血漿5μLを用いた場合の希釈率は1、10倍希釈血漿5μLを用いた場合の希釈率は10である。
*4:A溶液:32mmol/L KH2PO4、B溶液:32mmol/L K2HPO4、A溶液200mL+B溶液50mLを混和し、pHメーターでpHを測定しながら、いずれかの溶液を追加してpH6.5とした。
【0029】
[試験例3]
下記攻撃試験を行った。結果を表3に示す。
(1)供試菌株 Edwardsiella tarda 052821株
(2)8.0×102CFU/尾を腹腔内接種
(3)20日間飼育観察(無給餌)
(4)試験尾数:10
【0030】
【表3】

死亡魚全てからE.tardaが分離された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】白血球貧食能試験における採材部位を示す図である。
【図2】ポテンシャルキリング活性試験における採材部位を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンゾウ油性抽出物からなる魚類用免疫賦活剤。
【請求項2】
カンゾウ油性抽出物を有効成分として含有する魚類用免疫賦活用飼料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−221148(P2009−221148A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67321(P2008−67321)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【出願人】(591224788)大分県 (31)
【Fターム(参考)】