説明

鮎釣り用下ハリス

【課題】自動ハリス止めおよびイカリ針との接続性が良好でかつ号柄の識別が容易であると共に、視認性にも優れた合成樹脂モノフィラメントからなる鮎釣り用下ハリスを提供する。
【解決手段】直径0.05〜0.5mmで長さが50〜800mmの合成樹脂モノフィラメントからなるハリスの長手方向中間部を除く少なくとも一端側に、速乾性インクによる着色部を形成してなることを特徴とする鮎釣り用下ハリス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮎釣り用下ハリスの改良に関するものであり、詳しくは自動ハリス止めおよびイカリ針との接続性が良好でかつ号柄の識別が容易であると共に、視認性にも優れた合成樹脂モノフィラメントからなる鮎釣り用下ハリスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鮎釣りにおいては、鮎の習性を利用した友釣りが盛んである。この友釣りとは、おとり鮎につけたイカリ針により、おとり鮎を追い払おうと攻撃する野鮎を引っ掛けて釣り上げる方法であり、少しでもイカリ針の針先が痛むと掛かりが悪くなることから、頻繁に針を付け替える必要がある。また、釣り場の状況に応じてハリスの太さ、針の大きさなど頻繁に変える必要があることから、仕掛けの一部分として下ハリスを用いる方法が一般的であるが、下ハリス自体が透明であるために視認性が悪く、号柄の判別や仕掛けつくりの作業性が劣るという問題を有していた。
【0003】
従来の鮎釣り用下ハリスの具体例としては、例えば自動ハリス止め強力の向上を目的として、一端側をテーパー形状としたもの(例えば、特許文献1参照)、表面に合成樹脂被膜を施したもの(例えば、特許文献2参照)、イカリ針との接続を容易にすることを目的として、先端部を先球加工したもの(例えば、特許文献3参照)および断面形状を角形にしたもの(例えば、特許文献4参照)などが挙げられる。しかしながら、これらの従来技術によれば、それぞれある程度の効果が得られるものの、鮎釣り用下ハリスの要求特性である接続性、識別性および視認性をすべて満足できるものでは無かった。すなわち、従来の鮎釣り用下ハリスは、耐久性に優れ、野鮎の掛りが良いという利点を有する反面、下ハリス自体の透明性が高く、且つ視認性が悪いため、号柄の識別やイカリ針との接続作業性が劣り、仕掛け作成に手間がかかる問題を依然として有していた。
【0004】
さらに、端部を所望色に染色した鮎釣り用下ハリス(例えば、特許文献5参照)が提案されているが、この下ハリスは、視認性および耐久性が改良され、自動ハリス止めおよびイカリ針との接続作業性も良好で、かつ号柄の識別が容易であるという利点を有する反面、着色部を形成するために染色工程を要することから、着色作業に時間がかかり、更には使用済み染液の廃棄処分など製造作業に時間と労力が掛かりすぎてしまうばかりか、使用済み染液の廃棄にもコストが掛かるため極めて高コストになるという問題があったため、着色部形成の効率化、低コスト化がしきりに望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平3−10770号公報
【特許文献2】実開平3−22660号公報
【特許文献3】実開平1−28871号公報
【特許文献4】実公平6−16543号公報
【特許文献5】特開平10−98996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術における問題点を解決すべく検討した結果達成されたものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、自動ハリス止めおよびイカリ針との接続性が良好でかつ号柄の識別が容易であると共に、視認性にも優れた合成樹脂モノフィラメントからなる鮎釣り用下ハリスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明によれば、直径0.05〜0.5mmで長さが50〜800mmの合成樹脂モノフィラメントからなるハリスの長手方向中間部を除く少なくとも一端側に、速乾性インクによる着色部を形成してなることを特徴とする鮎釣り用下ハリスが提供される。
【0009】
また、本発明の鮎釣り用下ハリスにおいては、
前記着色部が速乾性インクの塗布またはディッピングにより形成されていること、
前記着色部の長さが5〜60mmの範囲にあること、および
前記着色部がハリスの号柄別に異なる色で形成されていること
が、いずれも好ましい条件であり、これらの条件を満たすことによりさらに望ましい効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下に説明するとおり、自動ハリス止めおよびイカリ針との接続性が良好でかつ号柄の識別が容易であると共に、視認性にも優れ野鮎の掛りが良い合成樹脂モノフィラメントからなる鮎釣り用下ハリスを、染液などの廃棄物の発生が少ない優れた作業効率の元で低コストに得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の鮎釣り用下ハリスの一例を示す斜視図である。
【図2】図2は本発明の鮎釣り用下ハリスの他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の鮎釣り用下ハリスについて図面に沿って具体的に説明する。図1は本発明の鮎釣り用下ハリス1の一例を示す斜視図であり、Aは未着色部、Bは片端の着色部をそれぞれ示している。また、図2は本発明のもう一つの例を示す斜視図であり、Aは中央に残された未着色部、B1、B2は両端部に着色された着色部をそれぞれ示している。
【0013】
すなわち、図1および図2から分かるように、本発明の鮎釣り用下ハリスは、直径0.05〜0.5mmで長さが50〜800mmの合成樹脂モノフィラメントからなるハリス1の長手方向中間部(未着色部A)を除く少なくとも一端側(片端のみ(図1)または両端側(図2))に、速乾性インクによる着色部BまたはB1、B2が形成されていることを特徴とする。
【0014】
着色部BまたはB1、B2を従来の染色で着色をする場合には、染色をするために染液を準備して一定の温度を掛けながら数分から数十分の染色を行い、さらに表面についた余分な染液を洗い流すソーピング工程、ソーピング後の乾燥工程が必要になるなど、製造工程が煩雑であると共に、染色に使った染液の廃棄などにより加工コストがかかってしまうが、本発明の鮎釣り用下ハリスは、着色に速乾性のインクを使用することから、着色作業にかかる時間が短くてすみ、ソーピング工程も必要なく、染液の廃棄もなくなるため、号柄別に色を変えて着色を行ったとしても効率よく低コストで作成することができる。
【0015】
さらに、本発明の鮎釣り用下ハリスは、直径が0.05〜0.5mm、好ましくは0.1〜0.25mm、長さが50〜800mm好ましくは80〜150mmであることが重要である。
【0016】
鮎釣り用下ハリスの直径が0.05mm未満では、自動ハリス止め強力およびイカリ針結束強力が不足し、野鮎がかかっても切れてしまい釣り逃がしてしまうばかりか、仕掛け作りもしにくくなり、0.5mmを越える場合は、野鮎の掛かり具合が低下し、仕掛け作りもしにくくなるため好ましくない。
【0017】
また、鮎釣り用下ハリスの長さが50mm以下および800mmを越える場合は、いずれも野鮎の掛かりが悪くなるばかりか、仕掛け作りがしにくくなるため好ましくない。
【0018】
本発明の鮎釣り用下ハリスは、通常の方法で紡糸・延伸し、所望の長さに切断した合成樹脂モノフィラメントを所望の長さに切断した下ハリスの片端または両端に、速乾性インクにより任意の着色部を形成することにより製造できるが、その着色方法としては所望の長さに切断されたモノフィラメントを複数本引き揃えて、その少なくとも一端に速乾性インクをディッピングする方法、エアーブラシにより速乾性インクを吹き付ける方法、速乾性インクを筆もしくはローラーに塗布しその筆もしくはローラーに接触させる方法等が挙げられるが、なかでも筆に接触させる方法が、使用するインクの量が少なく、準備する道具も少なくて済むことから好ましい。
【0019】
着色部の長さは5〜60mm、特に10〜50mmの範囲とすることが好ましく、5mm以下では視認性と接続作業性の改良効果が小さく、また60mm以上では視認性と接続作業性の改良効果が飽和し、速乾性インクの使用コストが無駄になるという好ましくない傾向が招かれることになる。
【0020】
なお、本発明の鮎釣り用下ハリスは任意の色に着色することができるが、号柄別に特定の色に色分けすることにより、号柄の判別がしやすくなるという望ましい効果が得られる。
【0021】
なお 前記速乾性インクとしては、キシレン系油性マーキングペンのインキ、インクジェットプリンターに用いられている速乾性インクなどが挙げられるが、色の種類が多いことと、着色斑になりにくく発色が良いことから、キシレン系油性マーキングペンのインキが好ましい。これら速乾性インクは、例えばイマージュ(株)製(ケトン・インク)、寺西化学工業(株)製(マジックインキ補充液)などの市販品を購入して使用することもできる。
【0022】
本発明の鮎釣り用下ハリスを構成する合成樹脂としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、低密度および高密度ポリエチレン、シンジオタクチックまたはアタクチックまたはイソタクチックポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリスチレン・ポリブタジエン・ポリスチレンブロックコポリマー、ポリスチレン・ポリイソプレン・ポリスチレンブロックコポリマーなどのスチレン系エラストマー、エチレン・プロピレン・ジエチレンコポリマーなどのオレフィン系ゴムとポリプロピレンまたはエチレンなどのポリオレフィンとのブレンドなどのポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、フッ素ゴム系エラストマー、ポリエーテルエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、エチレンテトラフロロエチレン、ポリビニリデンフロライド、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂などが挙げられ、中でもポリアミド系樹脂およびポリフッ化ビニリデンが好ましく使用される。
【0023】
そして本発明の鮎釣り用下ハリスは、上記の合成樹脂モノフィラメントを所望の長さにカットし、その片端または両端に速乾性インクによる着色部を形成するという容易な方法で低コストに得ることができ、着色部の存在により自動ハリス止めおよびイカリ針との接続性が良好でかつ号柄の識別が容易であると共に、視認性にも優れ野鮎の掛りが良いという優れた効果を発現する。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明に関わる鮎釣り用下ハリスの評価は下記の方法で実施した。
【0025】
[直径測定]
MITUTOYO社製「デジタルマイクロメータ」を使用し、釣り糸の直径をその長さ方向に沿って5箇所無作為に測定し、その平均値を求めた。
【0026】
[着色部作成の作業効率性]
着色部を作成する際の作業効率性について以下のとおり判定した。
○・・・・良好
×・・・・悪い
[着色部の色斑の有無]
○・・・・無
×・・・・有
[仕掛けつくりの容易度]
実際に釣りで使用する際の仕掛けつくりのしやすさを判定した。
○・・・・視認性が優れ、仕掛けつくりがしやすい。
×・・・・下ハリスの両端および号柄の判別がしづらく、仕掛けつくりがしにくい。
【0027】
[実施例1]
ポリフッ化ビニリデン樹脂(ソルベイソレクシス社製1012:融点176℃)をエクストルーダー型紡糸機に供給し、260℃で溶融混練した後、孔径2.0mmのノズルから押出紡出させ、短い気体ゾーンを通過した後、直ちに温度20℃のポリエチレングリコール液中で冷却固化させ未延伸モノフィラメントを得た。
【0028】
冷却した未延伸モノフィラメントを、水洗浴に通過させ、モノフィラメントの表面に付いた冷却媒体を除去し、さらに、圧空でモノフィラメント表面の水滴を除去した後、160℃のポリエチレングリコール液中で5.6倍に延伸し1段延伸糸を得た。
【0029】
引き続き、1段延伸糸を155℃に加熱した不活性気体中でリラックス率0.95倍の熱セット処理を行い、直径0.205mmのモノフィラメントを得た。
【0030】
得られたモノフィラメントを長さ150mmに切断し、これを複数本束ねて、一端から40mmの長さ部分に速乾性インク(イマージュ(株)製ケトン・インク)をエアーブラシによりモノフィラメント円周に塗布し、鮎釣り用下ハリス(以下、単に下ハリスと呼ぶ)を作成した。得られた下ハリスの評価結果を表1に示す。
【0031】
[実施例2]
モノフィラメントの直径を、0.09mmとした以外は、実施例1と同様の方法で下ハリスを作成した。得られた下ハリスの評価結果を表1に示す。
【0032】
[実施例3]
速乾性インクを筆によって下ハリスの片端円周に塗布したこと以外は、実施例1と同様の条件で下ハリスを作成した。得られた下ハリスの評価結果を表1に示す。
【0033】
[実施例4]
速乾性インクをローラーに付与して下ハリスと接触させることにより、下ハリスの片端円周に着色部を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で下ハリスを作成した。得られた下ハリスの評価結果を表1に示す。
[実施例5]
ディッピングにより着色部を形成した以外は、実施例1と同様の方法で下ハリスを作成した。得られた下ハリスの評価結果を表1に示す。
【0034】
[比較例1]
鮎ハリスの片端に着色部を形成しない以外は、実施例1と同様の方法で鮎ハリスを作成した。得られた鮎ハリスの評価結果を表1に示す。
【0035】
[比較例2]
下ハリスの着色を、水87.2重量%に赤色分散染料(三菱化成ヘキスト社製ダイアニックスACEレッド)10重量%と増粘剤(片山化学(株)製アルギン酸ナトリウム)2.8重量%を分散配合した60℃の染色液に、15分間浸積した後、余分な染液を洗い流すために常温水で水洗し、さらに風乾する方法に変更した以外は、実施例1と同様の方法で下ハリスを作成した。得られた下ハリスの評価結果を表1に示す。
【0036】
[比較例3]
モノフィラメントの直径を、0.60mmとした以外は、実施例1と同様の方法で下ハリスを作成した。得られた下ハリスの評価結果を表1に示す。
【0037】
[比較例4]
モノフィラメントの直径を、0.04mmとした以外は、実施例1と同様の方法で下ハリスを作成した。得られた下ハリスの評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果から明らかなように、本発明の条件を満たした下ハリス(実施例1〜5)は、速乾性インクで着色部を形成することにより、自動ハリス止めおよびイカリ針との接続性が良好でかつ号柄別に色分けする事により号柄の識別が容易で、かつ視認性に優れており、しかも効率よくかつ低コストで製造することができるものであった。
【0040】
一方、本発明の条件を満たさない下ハリス(比較例1〜4)は、仕掛け作りが困難であったり、製造時の作業効率が悪かったり、高コストなものばかりであった。
【0041】
例えば、片端に着色部を形成しない比較例1の下ハリスは、視認性が悪く仕掛け作りがしにくくなり、鮎ハリスの着色方法を通常の染色にした比較例2の下ハリスは、着色作業に手間が掛かるばかりか、染液の廃棄など高コストに成ってしまうものであった。
【0042】
また、直径が太すぎる比較例3の下ハリス、直径が細すぎる比較例4の下ハリスは、いずれも仕掛け作りがしにくいものばかりであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上、説明したとおり、本発明によれば、自動ハリス止めおよびイカリ針との接続性が良好でかつ号柄の識別が容易であると共に、視認性にも優れ野鮎の掛りが良い合成樹脂モノフィラメントからなる鮎釣り用下ハリスを、染液などの廃棄物の発生が少ない優れた作業効率の元で低コストに得ることができるため、その実用性が極めて高いといえる。
【符号の説明】
【0044】
1:鮎釣り用下ハリス
A:非着色部
B:着色部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径0.05〜0.5mmで長さが50〜800mmの合成樹脂モノフィラメントからなるハリスの長手方向中間部を除く少なくとも一端側に、速乾性インクによる着色部を形成してなることを特徴とする鮎釣り用下ハリス。
【請求項2】
前記着色部が速乾性インクの塗布またはディッピングにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鮎釣り用下ハリス。
【請求項3】
前記着色部の長さが5〜60mmの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の鮎釣り用下ハリス。
【請求項4】
前記着色部が、ハリスの号柄別に異なる色で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鮎釣り用下ハリス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−259330(P2010−259330A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110261(P2009−110261)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)