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鮑の貝殻の真珠層分離方法、鮑の貝殻の真珠層分離物の製造方法、及び真珠層分離物の製造方法
説明

鮑の貝殻の真珠層分離方法、鮑の貝殻の真珠層分離物の製造方法、及び真珠層分離物の製造方法

【課題】 鮑の貝殻から、高純度の真珠層分離物を手作業によることなく生産可能にする。
【解決手段】 鮑の貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去させ、鮑の貝殻から真珠層を分離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮑の貝殻からその真珠層を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鮑の貝殻は、中国の伝統医学において眼科の薬として用いられている。この鮑の貝殻は、肝臓の機能に作用して、眼部の代謝を促進し、各種眼底疾患等に対して著しい治療効果が認められている。
鮑の貝殻は、他の貝類の貝殻と同様に、外層、中層、内層の三層からなっており、外層を殻皮(又は角質層、periostracum)、中間層を稜柱層(又は角柱層、prismatic layer)、内層を真珠層(nacreous layer)という。
このうち、真珠層は貝殻全体の50〜60%を占め、白銀色で真珠光沢のある部分であり、鮑の貝殻の薬理効果は、この真珠層に由来している。
【0003】
このため、鮑の貝殻から真珠層のみを分離して利用することが古くから行われている。伝統的な鮑の貝殻の真珠層分離方法では、研磨機を用いて手作業により鮑の貝殻から殻皮と稜柱層を削り取り、これによって真珠層を分離する物理摩擦による方法が採られている。
しかしながら、このような従来の分離方法では、殻皮と稜柱層を完全に除去することが困難であり、生産された真珠層分離物に不純物(特に鮑の貝殻稜柱層)が含まれてしまうという問題があった。
【0004】
一方で、現代社会の仕事や生活における人々の目への依存の度合いは次第に大きくなってきており、過度の眼の疲労をまねいている。例えば、多くの人々に、目の乾燥(ドライアイ)、目がぐりぐりする(滑らかでない)、目が赤くなる(充血)、眼の疲労、目の腫れ痛み、視力のぼやけ(低下)、長時間読書ができない、といった眼部症状や疾病などが起こっている。
しかし、上記の通り、伝統的な鮑の貝殻の真珠層の分離方法は、一つずつ手作業で行うものであるため、大規模な生産や品質のコントロールを行うことが困難であった。
【0005】
ここで、貝殻から真珠層を分離する先行技術文献として、特許文献1を挙げることができる。特許文献1に記載の貝殻粉末の製造方法によれば、真珠層を有する貝殻または貝殻細片を破砕用液体中に混合し、この混合物に撹拌体を接触させて連動させることにより粉砕して貝殻粉体を得、これを粒径により分級して、真珠層から生成した薄片状粒体のみを得ることが可能とされている。
【0006】
【特許文献1】特許3260166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この方法は、粉体の粒径にもとづき真珠層を分級するものであるため、殻皮、稜柱層、真珠層の粉体の粒径が重複しないように粉砕することが必要であり、純度の高い真珠層を得ることは、困難であった。
一方、本発明者は、鮑の貝殻を加熱し、その後、冷却を速やかに行うためにこれを水に浸して急冷したところ、真珠層と稜柱層の間に亀裂が入ることを知見した。この知見から、亀裂部分で繋がっている真珠層と稜柱層を分離する方法として、両者が炭酸カルシウムで構成されていることから、酸で処理して繋がっている部分の炭酸カルシウムを分解除去することで、真珠層の品質を損なうことなく、貝殻から真珠層を高い純度で分離することに成功し、本発明を完成させた。この方法によれば、手作業によることなく、より品質に優れた真珠層分離物を生産することが可能である。
【0008】
すなわち、本発明は、貝殻を加熱した後に水に浸して急冷して、真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、真珠層を貝殻から高純度で分離することが可能な鮑の貝殻の真珠層分離方法、真珠層分離方法、鮑の貝殻の真珠層分離物、真珠層分離物、及び鮑の貝殻の真珠層分離物を含有する健康飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の鮑の貝殻の真珠層分離方法は、真珠層及び稜柱層を含む鮑の貝殻から真珠層を分離する鮑の貝殻の真珠層分離方法であって、鮑の貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、鮑の貝殻から真珠層を分離する方法としてある。
【0010】
また、本発明の真珠層分離方法は、真珠層及び稜柱層を含む貝殻から真珠層を分離する真珠層分離方法であって、貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの貝殻を酸性溶液に浸して亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、貝殻から真珠層を分離することを特徴とする真珠層分離方法としてある。
【0011】
また、本発明の鮑の貝殻の真珠層分離物は、真珠層及び稜柱層を含む鮑の貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、鮑の貝殻から真珠層を分離して得られたものとしてある。
【0012】
また、本発明の真珠層分離物は、真珠層及び稜柱層を含む貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの貝殻を酸性溶液に浸して亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、貝殻から真珠層を分離して得られたものとしてある。
【0013】
また、本発明の鮑の貝殻の真珠層分離物を含有する健康飲食品は、真珠層及び稜柱層を含む鮑の貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、鮑の貝殻から真珠層を分離して得られた鮑の貝殻の真珠層分離物を含有してなるものとしてある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、真珠層と稜柱層を含む貝殻から、真珠層を高純度で分離することができる。また、大規模生産や品質管理を行い易い貝殻からの真珠層分離方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】鮑の貝殻を粉末化したものの熱分析結果を示す図である。
【図2】実施例及び参考例の真珠層分離条件と分離結果を示す図である。
【図3】本発明の真珠層分離物及び従来の手作業により分離された真珠層分離物の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図4】本発明の真珠層分離物の粉末X線回析結果を示す図である。
【図5】従来の手作業により分離された真珠層分離物の粉末X線回析結果を示す図である。
【図6】稜柱層分離物の粉末X線回析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、真珠層を貝殻から高純度で分離することを特徴とする。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
(鮑の貝殻)
まず、本実施形態の鮑の貝殻の真珠層分離方法において、原料として用いる鮑の貝殻について説明する。
鮑の貝殻は、中国の伝統医学において眼科の薬として用いられ、平肝潜陽(平肝し、肝の陽を潜ませ)、明目することで、主に頭痛や眩暈、緑内障、高血圧眼底出血、白内障、角膜炎、視神経炎等の症状の治療に用いられている。平肝潜陽、明目とは、肝臓の陰陽を均衡させて、視界を明るく感じさせることであり、滋肝補腎を通じて、肝臓の疏泄機能(肝臓の生理機能のひとつであり、精神機能や臓腑の活動をのびやかに円滑に保つこと。自律神経系の働きに似ており、新陳代謝と同様な意味がある。)を増強することをいう。
【0018】
また、鮑の貝殻は、微循環(毛細血管中の血液循環)を改善し、アクチビン(activin)を補充して眼部の代謝を促進し、目の活力を呼び起こし、毛様体筋(ciliary muscle)及び角膜屈折力の弱まりを防止するとともに、各種眼底疾患に対する著しい治療効果があることで知られている。
【0019】
さらに、鮑の貝殻は、他の漢方素材と組み合わせることにより、肺結核による微熱に対する治療や、肝虚目暗(中国の伝統医学でいう肝虚が原因で起こる視界が暗く感じられる症状)や夜盲症等の症状の治療に用いられる。
その他、降圧排痙、眼圧の低下、目の感覚を心地よく快適にして痛みをなくす作用、目の乾き,腫れの痛み,目のかすみちらつき、涙目等の症状を改善する作用、目ヤニの排出の増加、視力の上昇、飛蚊症状(muscae volitantes)の改善作用を得るためなどに使用される。なお、降圧排痙とは、中国の伝統医学において、眼内圧力を低下させ、眼圧を正常状態に調整することを意味する。これにより、緑内障症状を取り除き、眼部組織に栄養をつけ、毛様体(ciliary body)痙攣を取り除き、肝胆湿熱(肝の湿熱であるイライラ、怒りやすい、不眠、のぼせ、肝経にそった痒み、陰部の痒み、湿疹、目の痒み、ただれ、赤目、胆経の湿熱で口が苦い、吐き気、胸焼け、黄疸など)の毒素を取り除き、眼部環境改善して、視力を向上させる。
【0020】
また、鮑の貝殻は、カルシウムを37重量%程度含有しており、人体にとって優良なカルシウム補給源である。さらに、鮑の貝殻中に含まれる微量元素(trace element)には、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉄(Fe)、タングステン(W)、亜鉛(Zn)、バリウム(Ba)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銀(Ag)、金(Au)、チタン(Ti)、ケイ素(Si)、リチウム(Li)、ヨウ素(I)、臭素(Br)、セレン(Se)などがあり、人体に必要不可欠で、しかも体外から補給しなければならない物質も含まれている。
さらに、鮑の貝殻の真珠層には、これらの微量元素の他、ケラチン(keratin)や、アミノ酸などの有効成分が含まれている。
【0021】
鮑の貝殻は、他の貝類の貝殻と同様に、その形成方法と組織構造にもとづいて、外層、中層、内層の三層に分類される。
最も外側の層を殻皮といい、硬タンパク質(Scleroprotein)の一種からなっており、酸腐食耐性がある。
中間の層は、稜柱層とよばれ、角柱状の方解石(calcite、カルサイト)で構成されている。これらの殻皮と稜柱層は、外套膜背面のへりからの分泌でしか形成されない。
一方、内層は、真珠層とよばれ、球状の霰石(Aragonite、アラゴナイト)で構成されている。この真珠層は、外套膜の全表面から分泌によって形成され、貝類の成長に伴って厚みを増す。貝殻全体の50〜60%を占めており、色は白銀色で、真珠光沢がある。
【0022】
(鮑の貝殻の真珠層分離方法)
次に、本実施形態の鮑の貝殻の真珠層分離方法について説明する。
(1)前処理工程
まず、鮑の貝殻のうち、成体の殻頂(Umbo)の磨損部に真珠光沢が現れ、殻の内面が白銀色を呈し、真珠の様な彩色光沢の強い鮑の貝殻を選別して、加工原料とする。
次に、鮑の貝殻を水で洗浄して内外表面の泥や砂を取り除き、次いで水に浸して表面付着物を軟化させる。次いで、この鮑の貝殻を回転ドラムに入れ、互いにぶつけ合わせて、摩擦作用により鮑の貝殻の表面付着物を除去する。
(2)吸水工程
次に、鮑の貝殻を水に浸し、水を十分に吸収させる。
このとき、鮑の貝殻を水に2〜3時間浸すことが好ましい。これにより、鮑の貝殻に飽和するまで水分を吸収させることができる。
【0023】
(3)焼き入れ工程
次いで、吸水させた鮑の貝殻を加熱した後、水に浸して急冷して、鮑の貝殻の稜柱層と真珠層間に亀裂を入れる(分層しているが、分離はまだしていない状態である)。
このとき、加熱は、240℃〜260℃で行うことが好ましい。240℃未満の温度では、稜柱層と真珠層の間に十分な亀裂を入れることができず、260℃を超える温度で加熱すると、真珠層の光沢が失われるとともに、鮑の貝殻における有効成分が消失し、品質が劣化するためである。
【0024】
また、加熱時間は、150分〜200分間とすることが好ましい。150分未満であれば、稜柱層と真珠層の間に十分な亀裂を入れることができず、200分間を超えて加熱すると、加熱温度によっては、真珠層の光沢が失われ、品質が劣化するためである。
なお、加熱時間は、鮑の貝殻の温度上昇の経過を確認して、目的の温度(例えば260℃)に達した時点からカウントする。
そして、加熱により焼成した鮑の貝殻を迅速に水に入れることにより、方解石からなる稜柱層と霰石からなる真珠層と間に亀裂を入れる。
【0025】
また、上記の加熱温度及び加熱時間において、加熱温度が低ければ、加熱時間は長時間必要であり、加熱温度が高ければ、加熱時間は短くて済む。
具体的には、加熱温度が240℃の場合、稜柱層と真珠層の間に十分に亀裂を入れるためには、180分〜200分間の加熱が必要である。一方、260℃であれば、加熱時間は、150分〜175分間で十分であり、200分間では真珠層の光沢に変化が生じる。
【0026】
しかしながら、上記の加熱温度と加熱時間において、加熱温度が低く(240℃)かつ加熱時間が短い(150分)場合でも、貝殻からの真珠層の分離率は、90%以上となる。また、加熱温度が高く(260℃)かつ加熱時間が長い(200分)場合でも、真珠層の光沢は変化するものの消失はしない。
したがって、焼き入れ工程において、加熱温度を240℃〜260℃とし、加熱時間を150分〜200分間とすれば、稜柱層から高い純度で真珠層を分離することは可能である。
上記加熱した鮑の貝殻を浸すのに用いる水の温度は18℃前後、量は鮑の貝殻の5倍以上が好ましい。
【0027】
(4)酸処理工程
次に、稜柱層と真珠層間に亀裂の入った鮑の貝殻を、酸性溶液に浸す。これにより、亀裂部分の稜柱層を構成する方解石(炭酸カルシウム)を分解除去して、真珠層を稜柱層から分離することができる。
酸性溶液としては、4w/v%〜5w/v%の酢酸水溶液を用いることが好ましい。このような酢酸水溶液を用いれば、真珠層の品質を損なうことなく、真珠層を分離することができる。なお、酢酸水溶液の温度は18℃〜24℃とし、酢酸水溶液の量は鮑の貝殻の3倍前後とすることが好ましい。
【0028】
すなわち、真珠層を構成する霰石と、稜柱層を構成する方解石とは、共に炭酸カルシウムからなり、いずれも酢酸と反応するが、その反応性は霰石の方が方解石より低い。
本発明では、この酸処理工程に先だって、鮑の貝殻における方解石からなる稜柱層と霰石からなる真珠層との間に亀裂を入れ、その後酸処理工程で酢酸と反応させることで、この亀裂部分の方解石を分解除去して、真珠層を高い純度で稜柱層から分離することを可能としている。
【0029】
また、この酸処理工程では、上記の酢酸水溶液に、鮑の貝殻を5分〜15分間浸すことが好ましい。5分よりも短ければ分離が十分に行われない場合があり、また15分間以上行うと真珠層の品質が損なわれる場合があるためである。
また、溶液を絶えず攪拌して、酸処理の条件を均一にすることが好ましい。
【0030】
さらに、この酸処理工程を行うに先立って、その反応条件を一定にするために前処理を行っておくことが好ましい。すなわち、焼き入れ後の鮑の貝殻を水に約3時間浸し、稜柱層と真珠層の境界面に水を充分に接触させるとともに、その水の温度を、酸処理を行う際の温度に調整しておくことが好ましい。なお、前処理を行った後は、鮑の貝殻から水分を取り除いてから、鮑の貝殻の全体をすべて酢酸溶液中に浸すように注意する。これにより、酸処理工程において亀裂部分で真珠層と結合している稜柱層の方解石のみを迅速に分解除去させ、真珠層を効率的に分離することが可能となる。
【0031】
(5)後処理工程
次に、分離した真珠層を水で洗浄した後、低温で乾燥させる。
そして、この真珠層を粉末化して食品や飲料に含有させることで、鮑の貝殻の真珠層の有効成分を有する健康飲食品を製造する。
【0032】
(鮑の貝殻の真珠層分離原理)
次に、上記のような方法により、鮑の貝殻の真珠層を稜柱層から分離する原理等について、詳細に説明する。
[1.鮑の貝殻への水の飽和]
上記実施形態の鮑の貝殻の真珠層分離方法における吸水工程では、鮑の貝殻を2〜3時間水に浸し、その稜柱層を構成する方解石に、飽和に達するまで水を充分に吸収させている。
この鮑の貝殻に水分を飽和させるまでの時間は、次のように決定した。
【0033】
すなわち、鮑の貝殻の水分含有量を測定したところ、2.6重量%であった。これを水の中に1時間、2時間、3時間、4時間、20時間浸した後、それぞれの水分含有量を測定したところ、2.7重量%、2.86重量%、2.91重量%、2.91重量%、2.91重量%であった。
この結果から、鮑の貝殻の含水の飽和点は2.91%であり、合理的な吸水時間は約2〜3時間と判定できる。
【0034】
[2.加熱温度について]
鮑の貝殻の稜柱層を構成する方解石に亀裂を入れるための加熱温度条件は、熱分析法(Thermal Analysis)を用いて次のように検討し、候補となる温度範囲を決定した。そして、このように決定して得られた範囲内で、真珠層の分離に適する上記加熱温度条件(240℃〜260℃)を実験により見いだした。
熱分析は、TGS−2熱天秤(thermo-balance:パーキン・エルマー社製)と、TADS−3600熱分析DATA STATION(パーキン・エルマー社製)を用い、熱重量測定(TG:Thermogravimetry)と、微分熱重量測定(DTG:Derivative TG)により行った。
【0035】
まず、鮑の貝殻を粉末化したもの約10mgのサンプルを取り、熱天秤内で、乾燥空気気流(流速:80ml/min)下、20分間、110℃に加熱した後、高窒素気流に切り替えて800℃(10℃/min)まで昇温し、TG曲線とDTG曲線を記録した。
【0036】
その結果、これらの曲線には、図1に示すように、以下のような2つの特徴的な変化が認められた。
第一段階:TG曲線において、240℃〜320℃に1つの小さな重量減少が認められ、その減少率は約3%であった。この重量減少は、鮑の貝殻中の有効物質の減少によると考えられる。また、DTG曲線における温度ピークは280℃付近であった。
第二段階:TG曲線における600℃〜780℃の重量減少率は約40%であった。この重量減少は、炭酸カルシウムの分解によると考えられる。
この結果から、加熱温度として有効成分が失われないと考えられる240〜320℃以下の温度で、かつ真珠層の光沢に変化が認められない温度を設定することが必要であることがわかった。
【0037】
[3.稜柱層と真珠層の境界面に亀裂を入れる原理]
鮑の貝殻に吸水させて加熱した後に、水に入れて急冷することにより、稜柱層と真珠層の間に亀裂を入れる原理について、稜柱層と真珠層の結晶構造に基づき以下に説明する。
【0038】
鮑の貝殻において、稜柱層は方解石から成り、真珠層は霰石から成っている。この方解石と霰石の熱変化に対する安定性の差から、稜柱層と真珠層の境界面に亀裂を入れることができたものと考えられる。
すなわち、方解石は霰石よりも熱変化に対して、その結晶構造が大きく変化するため、安定な結晶構造を保っている霰石によって、方解石と霰石との境界面において、方解石の結晶構造が破壊され、境界面で亀裂が起こると考えられる。また、方解石は水を吸収しやすいことから、加熱前の吸水工程及び加熱後の焼入れ工程により、その結晶構造の破壊はさらに促進されているものと考えられる。
【0039】
[4.酸処理により真珠層を分離する原理]
稜柱層及び真珠層とも、その主成分は炭酸カルシウムであり、酸と反応するが、方解石からなる稜柱層の方が、霰石からなる真珠層よりも、その結晶構造から反応性が高くなっている。
また、前工程の加熱、水に浸しての急冷によって稜柱層の結晶構造は破壊され、その表面積は大きくなっており、その反応性はさらに高まっていると考えられる。
この酸との反応性の差を利用して、真珠層との反応を極力避けるため、酸として弱酸の酢酸を用い、濃度も4〜5w/v%と低い濃度としている。また、反応を均一な条件で行うため、鮑の貝殻が全て酢酸溶液に浸るようにし、また混合物を攪拌している。
なお、本実施形態では酸として酢酸を用いているが、これに限定されるものではなく、同様の効果が得られれば、その他の弱酸を使用してもよい。
【0040】
以上説明したように、本実施形態によれば、鮑の貝殻から真珠層を高い純度で分離することができる。これによって、真珠層分離物に作用メカニズムの不明確な稜柱層と殻皮が混入することを避けることができ、高品質の真珠層分離物を効率的に、簡便な工程で得ることが可能となる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
上記実施形態の鮑の貝殻の真珠層分離方法における前処理工程に従って、野生の鮑の貝殻のうち、成体の殻頂の磨損部に真珠光沢が現れ、殻の内面が白銀色を呈しかつ彩色光沢の強い鮑の貝殻を選別し、その外表層の付着物を除去して2.7時間水に浸し、鮑の貝殻に水を十分に吸収させた。
次に、鮑の貝殻を水から引き上げて滴る水分を拭き取ってオーブンに入れ、240℃で200分間加熱した後、水に浸して急冷し、稜柱層と真珠層の間に亀裂を入れた。そして、そのまま水に3時間浸して、水を十分に吸収させた。
【0042】
次に、鮑の貝殻を水から引き上げて滴る水分を拭き取り、この鮑の貝殻を4w/v%の酢酸に15分間浸し、真珠層から稜柱層を剥離させた。
このようにして得られた真珠層の分離率を測定するとともに、その光沢を肉眼により確認した。なお、真珠層の分離率は、(稜柱層と真珠層が分離した鮑の貝殻数÷全鮑の貝殻数)×100の計算式にもとづき算出した。
【0043】
(実施例2)
酸処理工程において、鮑の貝殻を5w/v%の酢酸に5分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
(実施例3)
鮑の貝殻の加熱温度を260℃とし、加熱時間を150分にした点以外は、実施例2と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
(実施例4)
鮑の貝殻の加熱温度を260℃とし、加熱時間を175分にした点以外は、実施例2と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
【0044】
(参考例1)
吸水させた鮑の貝殻を200℃で240分間加熱した点、及び、酸処理工程において、鮑の貝殻を3w/v%の酢酸に20分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
(参考例2)
吸水させた鮑の貝殻を220℃で240分間加熱した点以外は、参考例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
【0045】
(参考例3)
吸水させた鮑の貝殻を240℃で150分間加熱した点、及び、酸処理工程において、鮑の貝殻を5w/v%の酢酸に5分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
(参考例4)
参考例3と同じ条件で、再度実験を行い、その結果を確認した。
【0046】
(参考例5)
吸水させた鮑の貝殻を260℃で150分間加熱した点、及び、酸処理工程において、鮑の貝殻を8w/v%の酢酸に3分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
(参考例6)
酸処理工程において、鮑の貝殻を10w/v%の酢酸に5分間浸した点以外は、参考例5と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
【0047】
(参考例7)
鮑の貝殻を260℃で200分間加熱した点、及び、酸処理工程において、鮑の貝殻を5w/v%の酢酸に3分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
(参考例8)
吸水させた鮑の貝殻を260℃で240分間加熱した点、及び、酸処理工程において、鮑の貝殻を3w/v%の酢酸に20分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
【0048】
(参考例9)
吸水させた鮑の貝殻を290℃で240分間加熱した点、及び、酸処理工程において、鮑の貝殻を3w/v%の酢酸に10分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
(参考例10)
吸水させた鮑の貝殻を290℃で200分間加熱した点、及び、酸処理工程において、鮑の貝殻を5w/v%の酢酸に3分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
【0049】
(参考例11)
吸水させた鮑の貝殻を290℃で150分間加熱した点、及び、酸処理工程において、鮑の貝殻を5w/v%の酢酸に5分間浸した点以外は、実施例1と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
(参考例12)
鮑の貝殻の加熱温度を290℃とし、加熱時間を120分にした点以外は、比較例9と同様の条件で、鮑の貝殻から真珠層を分離した。
以上の結果を図2に示す。
【0050】
(比較例1)
鮑貝殻60kgを研磨機で表面の殻皮と稜柱層を摩擦で削り取って、真珠層を得た。この真珠層を洗浄後、105℃で乾燥して、後述する走査型電子顕微鏡観察、及び粉末X線回折に供した。その結果をそれぞれ図3,図5に示す。
(参考例13)
実施例1で真珠層と分離した鮑の貝殻の内側を削り取り、稜柱層を得た。この稜柱層を粉末X線回折に供した。その結果を図6に示す。
【0051】
図2において、実施例1〜4に示されるように、焼入工程において、鮑の貝殻の加熱温度が240℃で加熱時間が200分、又は加熱温度が260℃で加熱時間が150〜175分であれば、稜柱層と真珠層の間に十分な亀裂が入り、かつ真珠層の光沢が失われなかった。また、酸処理工程において、酢酸濃度が4〜5w/v%で処理時間が5〜15分であれば、稜柱層と真珠層を完全に分離でき、かつ真珠層の光沢が失われなかった。
【0052】
一方、加熱温度が240℃の場合、参考例3,4に示されるように、加熱時間が150分であれば、稜柱層と真珠層の間における亀裂がやや不十分となり、真珠層から稜柱層を完全には除去できないものの、90%以上の分離率は得られた。
また、参考例7に示されるように、加熱温度が260℃であり、かつ加熱時間が200分の場合は、稜柱層と真珠層の間に十分な亀裂が入り、真珠層の光沢は変化するものの、消失はしなかった。
【0053】
(鮑の貝殻の真珠層分離物の品質評価)
(1)走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)による評価
実施例1により得られた真珠層分離物について、走査型電子顕微鏡(HITACHI S-5500電界放出走査電子顕微鏡(FE-SEM: Field Emission Scanning Electron Microscopy)で観察を行った。
また、比較例1の従来の手作業により分離して得られた真珠層分離物についても、同様にして走査型電子顕微鏡により観察した。図3にそれぞれの結果を示す。
【0054】
実施例1により得られた真珠層分離物には、球状の霰石の結晶構造が存在しているが、角柱状の方解石の結晶構造は見られなかった。
これに対し、従来の手作業により分離された真珠層分離物には、球状の霰石の結晶構造のみならず、方解石の結晶構造が存在しており、真珠層から稜柱層を完全には除去できていないことがわかる。
【0055】
(2)粉末X線回折法(X-ray diffraction;XRD)による評価
実施例1により得られた真珠層分離物を粉末化して、その粉末X線回折をX線回折分析計(日本理学Rigaku D/max-RC,CuKα線,グラファイトモノクロメータ-(graphite monochromator),50kV,80mA,走査速度8(°)・min-1)で測定した。その結果を図4に示す。
また、比較例1の従来の手作業により分離して得られた真珠層分離物、及び参考例13で得られた稜柱層分離物についても、同様に粉末X線回折を測定した。その結果をそれぞれ図5,図6に示す。
【0056】
実施例1により得られた真珠層分離物と従来の手作業により分離された真珠層分離物の粉末X線回折図を比較すると、従来の手作業により分離された真珠層分離物には、実施例1により得られた真珠層分離物に存在しないピークが認められる。これらのピークのうち、3.040のピークは、参考例13で得られた稜柱層分離物に特徴的なピークであり、従来の手作業により分離された真珠層分離物には、稜柱層が混入していることがわかる。
これに対して、実施例1で得られた真珠層分離物には、この稜柱層分離物に特徴的なピークは見あたらなかった。
したがって、実施例1で得られた真珠層分離物は、稜柱層が含まれていない純度の高いものであることが確認された。
【0057】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、本実施形態等では、鮑の貝殻から真珠層を分離しているが、方解石からなる稜柱層と霰石からなる真珠層を有する貝殻であれば、同様の原理及び方法を適用して、その真珠層を分離することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、鮑の貝殻から高純度の真珠層分離物を簡易に量産し、これを含有する健康飲食品を製造する場合などに好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真珠層及び稜柱層を含む鮑の貝殻から真珠層を分離する鮑の貝殻の真珠層分離方法であって、
鮑の貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して前記亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、前記鮑の貝殻から真珠層を分離することを特徴とする鮑の貝殻の真珠層分離方法。
【請求項2】
鮑の貝殻を水に浸し、吸水した鮑の貝殻を所定の温度で加熱した後水に浸して急冷して、前記真珠層と前記稜柱層の間に亀裂を入れる
ことを特徴とする請求項1記載の鮑の貝殻の真珠層分離方法。
【請求項3】
前記加熱を240℃〜260℃の温度で行うことを特徴とする請求項1又は2記載の鮑の貝殻の真珠層分離方法。
【請求項4】
前記酸性溶液として、4w/v%〜5w/v%の酢酸水溶液を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鮑の貝殻の真珠層分離方法。
【請求項5】
真珠層及び稜柱層を含む貝殻から真珠層を分離する真珠層分離方法であって、
貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの貝殻を酸性溶液に浸して前記亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、前記貝殻から真珠層を分離することを特徴とする真珠層分離方法。
【請求項6】
真珠層及び稜柱層を含む鮑の貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して前記亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、前記鮑の貝殻から真珠層を分離して得られたことを特徴とする鮑の貝殻の真珠層分離物。
【請求項7】
真珠層及び稜柱層を含む貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの貝殻を酸性溶液に浸して前記亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、前記貝殻から真珠層を分離して得られたことを特徴とする真珠層分離物。
【請求項8】
真珠層及び稜柱層を含む鮑の貝殻を加熱した後に、水に浸して急冷して真珠層と稜柱層の間に亀裂を入れ、次いでこの鮑の貝殻を酸性溶液に浸して前記亀裂部分における稜柱層を構成する炭酸カルシウムを分解除去して、前記鮑の貝殻から真珠層を分離して得られた鮑の貝殻の真珠層分離物を含有してなることを特徴とする健康飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−72207(P2011−72207A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224538(P2009−224538)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【特許番号】特許第4458439号(P4458439)
【特許公報発行日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(399080490)株式会社シンギー (7)
【Fターム(参考)】