説明

鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイド含有水性製剤

【課題】
本発明はBSEの原因物質を含まず安全で、製剤学的安定性に優れ、しかも高カロリー静脈栄養輸液等の輸液への配合においても安定な鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイド含有水性製剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液に、塩化第二鉄水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイドを得、加熱後、pH緩衝剤を添加し、次いで微量元素であるセレン、亜鉛、銅、ヨウ素及びマンガンのうち1種または2種以上を添加した後に、水酸化ナトリウムを添加したことを特徴とする水性製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必須微量元素が不足することに由来する各種欠乏症状を予防・治療する高カロリー静脈栄養輸液用必須微量元素含有製剤に関する。詳しくは輸液療法に用いられる、例えば鉄イオン、セレンイオン、亜鉛イオン、銅イオン、ヨウ素イオンまたは/及びマンガンイオン等の必須微量元素を含有する、薬剤安全性と製剤学的安定性に優れた高カロリー静脈栄養輸液用水性製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、経口、経腸管栄養補給が不能又は不十分な患者には、通常、高カロリー静脈栄養輸液療法が施行され、広く普及している。高カロリー静脈栄養輸液療法では、一般的に熱源として糖質等、蛋白源としてアミノ酸、その他電解質及びビタミン類等が経静脈から投与される。しかしながら、長期間、これらの成分を含む高カロリー静脈栄養輸液療法を施行すると、ヒトに必須な微量元素、すなわち鉄、セレン、亜鉛、銅、ヨウ素、マンガン、モリブデン及びクロムの不足に伴う欠乏症状が発現する。
【0003】
鉄を非経口的に補給する場合、イオン性鉄化合物はトランスフェリンとの飽和結合から、更に、血漿タンパクとの結合によるショックを引き起こすなど毒性の面で問題があり、副作用の少ないコロイド性の鉄で補給するなど工夫を必要とする。ヒトへ非経口的に補給される鉄イオンは、一般に塩化第二鉄が使用されるが、この塩化第二鉄は水溶液中では水酸化第二鉄コロイド粒子として存在する。このコロイド粒子は酸化第二鉄(Fe2O3)と水のほか、オキシ塩化物(FeOCl)を含み、これがFeOとClとの解離により正に帯電した疎水コロイドであり、凝集しやすく、そのpH値が約3以上になると凝集により沈殿を生じる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
日本では副作用が少なく鉄利用率が高いコンドロイチン硫酸塩を保護コロイドとする鉄コロイド溶液が用いられている。例えば、コンドロイチン硫酸鉄コロイドが静注用鉄欠乏性貧血製剤 ブルタール(商品名、大日本製薬株式会社)として市販され、また高カロリー静脈栄養の必須微量元素補給としてコンドロイチン硫酸鉄コロイドを含む製剤が、エレメンミック注、エレメイト注(商品名、味の素ファルマ株式会社)及びミネラリン注、パルミリン注(商品名、日本製薬株式会社/武田薬品工業株式会社)等として市販されている。
【0005】
従来から市販されているこれらのコンドロイチン硫酸鉄コロイド含有製剤はいずれも牛由来のコンドロイチン硫酸ナトリウムを保護コロイドとして使用し製剤化されたものである。1996年に英国では、バリアント・クロイツフェルト・ヤコブ病(v CJD)の患者の発症と狂牛病すなわち伝染性海綿状脳症(BSE)とに因果関係があると発表された。BSEの原因とされる異常プリオンタンパクは、熱に安定であり、高温高圧処理並びにアルカリ処理が完全な不活化にはならないと考えられている。
【0006】
日本では、欧州におけるウシBSEの発生動向を踏まえ、ウシ等に由来する原料を用いて製造される医薬品等については、製造業者等における品質及び安全性確保対策を講ずる必要性から、平成12年12月12日付厚生省医薬安全局長通知「ウシ等由来物を原料として製造される医薬品等の品質及び安全性確保について」医薬発第1226号が通知され、医薬品製造業者等による自主点検及び承認書の整備等が指導されてきた。
【0007】
ウシ由来のコンドロイチン硫酸塩は牛気管から単離精製されるが、ウシ由来物に代わる安全性の高いコンドロイチン硫酸塩を使用することが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】B. Jirgensonsら著、玉虫文一監訳 「コロイド化学」培風館出版 東京 1967年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はBSEの原因物質を含まず安全で、製剤学的安定性に優れ、しかも高カロリー静脈栄養輸液等の輸液への配合においても安定な鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイド含有水性製剤を提供することにある。
【0010】
すなわち、本発明はウシ由来コンドロイチン硫酸ナトリウムに変えて、BSEの原因物質を含まず安全な鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムを用いて調製される鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイド含有水性製剤の滅菌後のpH低下を抑制し、熱に対する安定性を向上させる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、BSEの原因物質を含まず、製剤学的安定性に優れ、しかも高カロリー静脈栄養輸液等の輸液への配合においても安定な水性製剤を得るために種々検討を重ねた。その結果、鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムを保護コロイドとする鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイドを含み、pH緩衝剤を含有する水性製剤が、滅菌後のpH低下を抑制し、安定性が良好であることを見出し、これらの知見に基づき鋭意研究を続け、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は
(1) 鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液に、塩化第二鉄水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイドを得、加熱後、pH緩衝剤を添加し、次いで微量元素であるセレン、亜鉛、銅、ヨウ素及びマンガンのうち1種または2種以上を添加した後に、水酸化ナトリウムを添加したことを特徴とする水性製剤、
(2) 鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムが、平均分子量10,000〜25,000、極限粘度0.27〜0.65dl/g及びイオウ含量6.4〜7.0 重量/重量%である(1)に記載の水性製剤、
(3) pH緩衝剤がグリシン、L-バリン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、酢酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウム及びフマル酸二ナトリウムから選択される(1)に記載の水性製剤、
(4) pH緩衝剤がグリシン、リンゴ酸、クエン酸、またはL−グルタミン酸ナトリウムを含む、(1)に記載の水性製剤、
(5) 鉄:鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムの重量比が1:4乃至1:6である(1)に記載の水性製剤、
(6) 鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液に、塩化第二鉄水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを添加し、加熱後、pH緩衝剤を添加し、次いで微量元素であるセレン、亜鉛、銅、ヨウ素及びマンガンのうち1種または2種以上を添加し、水酸化ナトリウムを添加することを特徴とする水性製剤の製造方法。
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性製剤は、BSE感染の心配のない安全な臨床使用が可能であり、製剤学的安定性に優れ、かつ高カロリー静脈栄養輸液等の輸液中においても安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイド、微量元素及びpH緩衝剤を含有する水性製剤(以下本発明水性製剤と略記することがある)は、鮫由来コンドロイチン硫酸塩水溶液に、第二鉄塩水溶液と水酸化アルカリ金属水溶液とを、混合液のpH値が約5.5〜7.5の範囲の任意のpH値になるように制御下添加し、加熱した後、pH緩衝剤及び微量元素を添加することにより製造することができる。
【0015】
鮫由来コンドロイチン硫酸塩は、たとえば、鮫由来コンドロイチン硫酸のナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、好ましくは、鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムが挙げられる。鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムは例えば、鮫軟骨に由来する平均分子量約10,000〜25,000、極限粘度約0.27〜0.65 dl/g(毛細管粘度計法による測定)、イオウ含量約6.4〜7.0 重量/重量%の物性を有するものが挙げられる。また鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムは好ましくは、コンドロイチン4−硫酸(コンドロイチン硫酸A):コンドロイチン6−硫酸(コンドロイチン硫酸C)が約1:3の組成比を有するものである。
【0016】
コンドロイチン硫酸塩は、[→4 グルクロン酸β1→3 N-アセチル-D-ガラクトサミンβ1→]の二糖単位の繰り返し構造からなる直鎖状の高分子多糖で、この二糖単位に結合した硫酸基の数とその結合位置により異性体が存在する高い負電荷をもつポリアニオンである。表1に鮫軟骨由来と牛気管由来のコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量20,000〜25,000)の各異性体組成比を対比して示す。
【0017】
【表1】

注)Chs:コンドロイチン硫酸ナトリウム
ΔDi−0S:硫酸基の結合なし
ΔDi−4S:N−アセチル−D−ガラクトサミンのC−4位に硫酸基が結合
ΔDi−6S:N−アセチル−D−ガラクトサミンのC−6位に硫酸基が結合
ΔDi−diSD :N−アセチル−D−ガラクトサミンのC−6位及びD−グルクロン酸のC−2位に硫酸基が結合
ΔDi−diSE :N−アセチル−D−ガラクトサミンのC−4位及びC−6位に硫酸基が結合
【0018】
第二鉄塩は、体内で利用可能な第二鉄を含有する化合物、例えば、塩化第二鉄六水和物(FeCl3・6H2O)の他、クエン酸鉄(FeC6H5O7)、酸化水酸化鉄(FeO(OH))、硝酸鉄(Fe(NO3)3・9H2O)、酸化鉄(Fe2O3)、硫酸鉄(Fe2(SO4)3・nH2O)及びリン酸鉄(FePO4・nH2O)などが例示される。第二鉄塩は、水溶液中で水酸化第二鉄となり、鮫由来のコンドロイチン硫酸塩を、この水酸化第二鉄の疎水コロイド液の保護コロイドとして用いる。このうち好ましくは、塩化第二鉄六水和物(FeCl3・6H2O)などの塩化第二鉄が挙げられる。鉄:鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムの重量比は約1:4乃至約1:6、好ましくは約1:5が用いられる。
水酸化アルカリ金属は、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど、好ましくは水酸化ナトリウムが挙げられる。
【0019】
pH緩衝剤は、pH値を緩衝する作用を有する化合物であれば、いずれも用いることができる。このうち、好ましくは、グリシン、L-バリン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、酢酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウムまたはフマル酸二ナトリウムであり、これらの化合物から1種または2種以上を選択し用いることができる。
【0020】
人体に必須の微量元素は 例えばセレン、亜鉛、銅、ヨウ素、マンガンなどが挙げられ、通常これらの金属元素はイオンの形で製剤中に存在する。本発明において微量元素は、亜鉛、銅およびヨウ素の3元素、亜鉛、銅、マンガンおよびヨウ素の4元素、あるいは、亜鉛、銅、マンガン、セレンおよびヨウ素の5元素からなることが好ましい。
【0021】
セレンは、例えば亜セレン酸、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウムなどの化合物が用いられる。亜鉛は、硫酸塩、塩酸塩などの塩が用いられ、例えば、硫酸亜鉛・7水和物、塩化亜鉛などが例示される。銅は、硫酸塩、塩酸塩等の塩が用いられ、例えば、硫酸銅・5水和物、塩化第一銅、塩化第二銅などが例示される。ヨウ素は、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどの化合物が例示される。マンガンは、硫酸塩、塩酸塩等の塩が用いられ、例えば、硫酸マンガン5水和物、塩化マンガン・4水和物などが例示される。
【0022】
さらに具体的には、本発明水性製剤は、鮫由来コンドロイチン硫酸塩水溶液に、第二鉄塩水溶液と水酸化アルカリ金属水溶液とを、混合液のpH値が約5.5〜7.5の範囲の任意のpH値になるように制御下添加し、加熱後、pH緩衝剤を加え、ついで、セレン化合物、亜鉛塩、銅塩、ヨウ化物及びマンガン塩のうち1種又は2種以上を添加し、pH値を約5.8に調整して高圧蒸気滅菌することにより製造することができる。加熱温度は、好ましくは、約100〜121℃である。加熱時間は好ましくは、約10〜30分である。
【0023】
本製造工程においてpH緩衝剤を加えずに、微量元素化合物を添加した後、水酸化アルカリ(好ましくは水酸化ナトリウム)などの塩基をそのまま、または水溶液として加えることにより最終水性製剤のpH値を約5.8に調整して得られる、鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイド及び微量元素を含有する水性製剤も、本発明水性製剤と同様に用いることができる。
【0024】
また、微量元素の添加工程においては、セレン化合物、亜鉛塩、銅塩及びマンガン塩のうち1種または2種以上を添加した後、混合液のpH値を約5.3〜6.3、好ましくは約5.6〜6.0、さらに好ましくは約5.8に調整してから、ヨウ化物を添加することが望ましい。
【0025】
本製造方法において、第二鉄塩(例えば、塩化第二鉄六水和物)を注射用水に溶解した溶液と水酸化アルカリ金属(例えば、水酸化ナトリウム)の水溶液の適量とを、鉄に対する上記重量比に相当する量の鮫由来コンドロイチン硫酸塩(例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウム)を注射用水に溶解した溶液に、攪拌しながら加え、反応混合液のpH値が約5.5〜7.5の範囲の任意の一定のpH値になるように制御するのが好ましい。
【0026】
添加する第二鉄塩(例えば、塩化第二鉄六水和物)水溶液の濃度は、通常、約3〜62重量/容量%、好ましくは約13〜32 重量/容量%が用いられる。
添加する水酸化アルカリ金属(例えば、水酸化ナトリウム)水溶液は、通常、約1〜28重量/容量%、好ましくは約2〜 7 重量/容量%が用いられる。
コンドロイチン硫酸塩水溶液は、通常、約3〜30 重量/容量%、好ましくは約4 〜20重量/容量%が用いられる。
【0027】
pH緩衝剤は、通常、約1重量/容量%以下、好ましくは約0.01〜1 重量/容量%が用いられる。
【0028】
第二鉄塩、水酸化アルカリ金属及びコンドロイチン硫酸塩の反応混合液は混合液のpH値が一定の値に維持されるよう十分に攪拌する。
反応時間は、当業者により適宜設定できるが、通常、1時間から6時間程度である。反応温度は、当業者において適宜選ぶことができ、好ましくは5℃から25℃程度である。
【0029】
このようにして得られる本発明水性製剤は、必要に応じて滅菌後、注射剤として用いてもよく、また、少量ずつ(例えば1、2または4mLずつ等)容器に充填し、密閉し、滅菌(例えば、高圧蒸気滅菌等)を施して用いてもよい。本発明水性製剤では、pH値が4.5〜6.0であることが望ましい。
【0030】
本発明水性製剤を封入する容器としては、例えば、ガラス容器(アンプル等)やプレフィルドタイプシリンジを含むポリプロピレンなどのプラスチック製容器などを用いることができる。
【0031】
本発明の注射剤は、副作用もほとんどなく、安全であり、自体公知の方法に従って、人に投与することができる。投与される本発明水性製剤に含まれる量は、成人一人あたりの一日量として鉄約0.9〜720μmol、セレン約0.025〜5.0μmol 、亜鉛約3.85〜210μmol、銅約0.9〜55μmol 、ヨウ素約0〜11μmol及びマンガン約0〜51μmolであり、好ましくは鉄約9〜720μmol、セレン約0.25〜2.5μmol、亜鉛約38.5〜61.5μmol、銅約9.1〜27.3μmol、ヨウ素約0.6〜1.1μmol及びマンガン約0〜14.5μmolを含んでいることが望ましく、これらの元素が2〜20mLの水溶液に含有することが望ましい。本発明水性製剤は、必要により、その他、クロム、モリブデン、コバルト及びフッ素を含むことも可能である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0033】
実施例1
鉄(Fe)に対する重量比5倍量の鮫軟骨由来コンドロイチン硫酸ナトリウム(分子量約10,000)97.74gを精製水1480mLに溶解した溶液に、pH値を約6.5に保つように水酸化ナトリウム溶液(4.3 重量/容量%)を加えながら、塩化第二鉄94.6gを精製水390mLに溶解した溶液を送液・攪拌後、精製水を加えて5000mLとし、110℃20分間の加熱処理を行い、鉄濃度4mg/mLのコンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液を製造した。この操作を2回繰り返して計10Lのコンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液を得た。
硫酸亜鉛172.50gを精製水500mLに溶かし、硫酸亜鉛溶液とした。また硫酸銅12.48g及びヨウ化カリウム1.66gをそれぞれ精製水250mLに溶かし、硫酸銅溶液及びヨウ化カリウム溶液とした。
コンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液100mLに精製水を適量加え、下記の各濃度に対応するpH緩衝剤を加え、必要ならばpH値を約5.8に調節後、硫酸亜鉛溶液10mL及び硫酸銅溶液5mLを順に添加し、水酸化ナトリウム水溶液(1 重量/容量%)を加えて、pH値5.8とした。更にヨウ化カリウム溶液5mLを添加し、精製水を適量加えてそれぞれ全量400mLとした。
この各々の液を孔径0.22μmのメンブランフィルターでろ過した後、2mLをバリウムフリーの無色アンプル20本に充填熔閉し、高圧蒸気滅菌を行い、各種緩衝剤を含む各水性製剤を製造した。
pH緩衝剤は、試料中濃度が0、0.01、0.05、0.1、 0.2及び1.0重量/容量%となるグリシン、L-バリン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、酢酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルタミン酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウム並びにフマル酸二ナトリウムを添加した。
それぞれの試料につき、高圧蒸気滅菌前後のpHを測定し、次式により緩衝作用の指標として緩衝能(%)を算出し、評価を行った。この結果を表2に示す。

【0034】
【表2】

各種緩衝剤を添加した試料の滅菌前後のpHより算出した緩衝能(%)の試験結果
注)値は緩衝能(%)を示す
【0035】
表2に示したとおり、緩衝剤のL-バリン0.01 重量/容量%、L-ヒスチジン0.01 重量/容量%及びフマル酸二ナトリウム1.0重量/容量%の各濃度を除き、いずれの緩衝剤においても0.01 重量/容量%〜1 .0重量/容量%の範囲において、濃度に依存した緩衝能が認められた。
【0036】
鉄(Fe)に対する重量比5倍量の鮫軟骨由来コンドロイチン硫酸ナトリウム(分子量約10,000)97.74gを精製水1480mLに溶解した溶液に、pH値を約6.5に保つように水酸化ナトリウム溶液(4.3 重量/容量%)を加えながら、塩化第二鉄94.6gを精製水390mLに溶解した溶液を送液・攪拌後、精製水を加えて5000mLとし、110℃20分間の加熱処理を行い、鉄濃度4mg/mLのコンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液を製造した。
硫酸亜鉛8.625gを精製水100mLに溶かし、硫酸亜鉛溶液とした。また硫酸銅0.624g及びヨウ化カリウム0.083gをそれぞれ精製水25mLに溶かし、硫酸銅溶液及びヨウ化カリウム溶液とした。
コンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液250mLに精製水を適量加え、0.2 重量/容量%の濃度に対応するpH緩衝剤リンゴ酸又はクエン酸を加え、pH値を約5.8に調節後、硫酸亜鉛溶液及び硫酸銅溶液を順に添加し、水酸化ナトリウム水溶液(1 重量/容量%)を加えて、pH値5.8とした。更にヨウ化カリウム溶液を添加し、精製水を加えて、それぞれ全量1000mLとした。
この各々の液を孔径0.22μmのメンブランフィルターでろ過した後、2mLをバリウムフリーの無色アンプル215本に充填熔閉し、高圧蒸気滅菌を行い、緩衝化剤としてリンゴ酸又はクエン酸を含む水性製剤を製造した。
調製した試料につき、70℃保存における安定性評価を実施した。本結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
表3に示したとおり、pHの低下はいずれの試料も緩やかであった。一方、不溶性異物検査では不溶性異物を認めず、性状及び含量においては初期値に比し、ほとんど変化を認めなかった。
リンゴ酸又はクエン酸を緩衝剤として添加した各試料は、極度な温度に対しても安定であった。
【0039】
実施例3
鉄(Fe)に対する重量比5倍量の鮫軟骨由来コンドロイチン硫酸ナトリウム(分子量約10,000)97.74gを精製水1480mLに溶解した溶液に、pH値を約6.5に保つように水酸化ナトリウム溶液(4.3 重量/容量%)を加えながら、塩化第二鉄94.6gを精製水390mLに溶解した溶液を送液・攪拌後、精製水を加えて5000mLとし、110℃20分間の加熱処理を行い、鉄濃度4mg/mLのコンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液を製造した。
硫酸亜鉛3.450gを精製水40mLに溶かし、硫酸亜鉛溶液とした。また塩化マンガン0.0396g、硫酸銅0.2496g、亜セレン酸0.0129g及びヨウ化カリウム0.0332gをそれぞれ精製水10mLに溶かし、各溶液を調製した。
コンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液100mLに精製水を適量加え、pH緩衝剤を加え、pH値を約5.8に調節後、塩化マンガン溶液、硫酸亜鉛溶液、硫酸銅溶液及び亜セレン酸溶液を順に添加し、水酸化ナトリウム水溶液(1 重量/容量%)を加えて、pH値5.8とした。更にヨウ化カリウム溶液を添加し、精製水を加えて全量400mLとした。
この液を孔径0.22μmのメンブランフィルターでろ過した後、2mLをバリウムフリーの無色アンプル10本に充填熔閉し、高圧蒸気滅菌を行い、水性製剤を製造した。
なお、試料は、グリシン0.1 重量/容量%、クエン酸及びグルタミン酸ナトリウム0.2 重量/容量%の濃度を含む3種の6元素(鉄、マンガン、亜鉛、銅、セレン及びヨウ素)含有水性製剤の試料を製造した。
これらの試料につき、下記の高カロリー静脈栄養輸液に該溶液2mLを混注し、配合変化試験を実施した。
配合変化試験は、室温、混注直後及び24時間後の性状、pH値並びに不溶性異物を観察した。本結果を表4に示す。使用した輸液は「アミノトリパ2号」(商品名、大塚製薬株式会社)及び「ピーエヌツイン−3号」(商品名、味の素ファルマ株式会社)である。
【0040】
【表4】

【0041】
表4に示したとおり、本発明の水性製剤(実施例3)のいずれも、市販輸液に混注後24時間まで、性状の変化は認められず、不溶性異物等の沈殿物も認められなかった。またpHにおいてもほとんど変化は認められなかった。
【0042】
実施例4
上記実施例と同様に、鉄(Fe)に対する重量比5倍量の鮫軟骨由来コンドロイチン硫酸ナトリウム(分子量約10,000)97.74gを精製水1480mLに溶解した溶液に、pH値を約6.5に保つように水酸化ナトリウム溶液(4.3 重量/容量%)を加えながら、塩化第二鉄94.6gを精製水390mLに溶解した溶液を送液・攪拌後、精製水を加えて5000mLとし、110℃20分間の加熱処理を行い、鉄濃度4mg/mLのコンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液を製造した。
硫酸亜鉛172.50gを精製水2000mLに溶かし、硫酸亜鉛溶液とした。また硫酸銅12.48g及びヨウ化カリウム1.66gをそれぞれ精製水500mLに溶かし、各溶液を調製した。
コンドロイチン硫酸鉄コロイド溶液5000mLに精製水を適量加え、pH値を約6に調節後、硫酸亜鉛溶液、硫酸銅溶液を順に添加し、水酸化ナトリウム水溶液(1 重量/容量%)を加えて、pH値約5.8とした。更にヨウ化カリウム水溶液を添加し、精製水を加えて全量20000mLとした。
この液を孔径0.22μmのメンブランフィルターでろ過した後、2mLをバリウムフリーの無色アンプル445本に充填熔閉し、高圧蒸気滅菌を行い、水性製剤を製造した。
製造した製剤は、40℃、6ヶ月間の安定性評価を実施した結果、性状、pH値、不溶性異物検査、不溶性微粒子試験及び含量において、安定であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液に、塩化第二鉄水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを添加して鮫由来コンドロイチン硫酸鉄コロイドを得、加熱後、pH緩衝剤を添加し、次いで微量元素であるセレン、亜鉛、銅、ヨウ素及びマンガンのうち1種または2種以上を添加した後に、水酸化ナトリウムを添加したことを特徴とする水性製剤。
【請求項2】
鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムが、平均分子量10,000〜25,000、極限粘度0.27〜0.65dl/g及びイオウ含量6.4〜7.0 重量/重量%である請求項1に記載の水性製剤。
【請求項3】
pH緩衝剤がグリシン、L-バリン、L-アルギニン、L-ヒスチジン、酢酸、マロン酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、L-グルタミン酸ナトリウム、フタル酸二ナトリウム及びフマル酸二ナトリウムから選択される請求項1に記載の水性製剤。
【請求項4】
pH緩衝剤がグリシン、リンゴ酸、クエン酸、またはL−グルタミン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の水性製剤。
【請求項5】
鉄:鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウムの重量比が1:4乃至1:6である請求項1に記載の水性製剤。
【請求項6】
鮫由来コンドロイチン硫酸ナトリウム水溶液に、塩化第二鉄水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを添加し、加熱後、pH緩衝剤を添加し、次いで微量元素であるセレン、亜鉛、銅、ヨウ素及びマンガンのうち1種または2種以上を添加し、水酸化ナトリウムを添加することを特徴とする水性製剤の製造方法。

【公開番号】特開2009−221229(P2009−221229A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160366(P2009−160366)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【分割の表示】特願2003−435236(P2003−435236)の分割
【原出願日】平成15年12月26日(2003.12.26)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】