説明

鮮度保持シート

【課題】安価に製造でき、抗菌および酸化防止機能を備える鮮度保持シートを提供する。
【解決手段】鮮度保持シート10は、古紙等からなるパルプをシート化した第1パルプ層11および第2パルプ層13と、これらパルプ層の間に挟まれた、破砕茶葉で構成される茶葉層12を備える。第2パルプ層13の片側表面は、プラスチックフィルムで構成されるフィルム層14とし、食肉等の乾燥および空気中の酸素との接触を防止する。鮮度保持シート10は、第1パルプ層11が露出する吸液面が食肉等と接するようにして食肉等を包装または戴置する。吸液面から吸収されたドリップは、茶葉層12に移行して破砕茶葉に含まれるカテキン等の作用により酸化等が防止され、食肉等の鮮度が保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉等の生鮮食品の鮮度を保持するために使用される鮮度保持シートに関し、特に、パルプを原料として構成される鮮度保持シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食肉や魚介類等を包装または戴置し、食肉等の酸化等の品質劣化を防止する鮮度保持シートとして、不織布等からなる吸液シートやプラスチックフィルム等が用いられている。こうした鮮度保持シートの中で、吸液シートは食肉等から滲出する血液を含む液体(以下「ドリップ」)を吸収する吸液性に優れ、また、ドリップが酸化されることに伴う食肉等の変色防止効果にも優れる。吸液シートとしては、熱可塑性樹脂製の合成繊維を主原料として構成した不織布や、天然パルプを主原料とするパルプシート等がある。パルプシートは吸液性および保水性に優れ、天然素材を原料とすることから好適に使用される。
【0003】
上述した鮮度保持シートは、食肉等における雑菌の繁殖や脂肪等の酸化を防止する機能を備えることが好ましく、例えば特許文献1には、パルプシートにカテキンを添加して抗菌性を付与した鮮度保持シートが開示されている。特許文献1に開示された鮮度保持シートは、パルプ懸濁液を抄紙してシート化した湿潤状態の紙状物に、液状のカテキンをスプレーで吹き付けたものを乾燥させて得られる。カテキン類は、抗菌作用、消臭作用、および抗酸化作用等を備えることから、カテキンが吹き付けられた上記の鮮度保持シートは、抗菌および抗酸化作用を奏する。
【0004】
しかし、抄紙したパルプに液状のカテキンをスプレーする方法では、霧状で散布されるカテキンが周辺環境に飛び散ることにより無駄に使用される恐れがある。また、カテキンはシート表面に吹き付けられるため、表面に露出するカテキンが空気と接触して短期間のうちに酸化されてしまう恐れもある。特に、液状のカテキンは、複雑な工程を経て抽出および精製されるため、パルプシートに所定の抗菌性を付与するために多量の液状カテキンを使用すれば、鮮度保持シートの製造コストを増大させることになる。
【0005】
一方、パルプ懸濁液にカテキンを添加して抄紙すれば、パルプとカテキンとを均一な状態で混合し、パルプシートの内部にカテキンを保持させることができると考えられる。しかし、パルプ懸濁液にカテキンを添加して抄紙する方法では、抄紙工程においてパルプにカテキンが付着されずに脱落してしまい、抗菌作用等を奏するために必要な量のカテキンをパルプシートに保持させることは困難である。
【特許文献1】特開2002−345397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、安価に製造され、カテキンがパルプシートに保持された鮮度保持シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、パルプをシート化したパルプ層に、茶滓を破砕した破砕茶葉を積層することを特徴とする。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1)パルプをシート化してなるパルプ層と、茶葉を破砕した破砕茶葉で構成される茶葉層と、を備える鮮度保持シート。
【0009】
ここで「パルプ」には、木材チップなどを機械または化学的に処理して解繊した「バージンパルプ」のほか、新聞、雑誌等の古紙や不織布を解繊した「再生パルプ」およびそれらの混合パルプが含まれる。パルプ層は、パルプを水に懸濁させたパルプ懸濁液を抄紙または加圧成形するなどして構成され、パルプの繊維同士が結合してシート状となったもので、厚さは5μm程度である。
【0010】
茶葉層は、破砕茶葉をパルプ層の一表面に均一に分散させて構成される。破砕茶葉は、鮮度保持シートを構成するパルプに対し、0.05〜5.0重量%(乾燥重量)程度含まれるよう、パルプ層表面に積層されればよい。破砕茶葉の粒子同士は、互いに結合してシート化されている必要はなく、パルプ層を構成するパルプに物理的または/および化学的に結合されることによりパルプ層と一体化されていればよい。
【0011】
なお「破砕茶葉」とは、茶葉をカッタミルやボールミル等で破砕して粒径5mm以下にしたものを意味する。しかし、粒径が1mmを超えるとパルプ層との結合が弱く、鮮度保持シートの強度や吸液性等を低下させる恐れがある。
【0012】
破砕する茶葉としては、飲用に供される飲料用茶葉、茶樹の剪定等の際に生じる未利用茶葉、および飲料用茶葉から茶飲料を抽出した残渣である茶滓のいずれを使用することもできる。飲料用茶葉や未利用茶葉は、抗菌作用等を有するカテキン類の含有量は茶滓に比して多い。しかし、茶滓は茶飲料の製造過程で湯洗された状態となっているため、カテキン類などが溶出し易く破砕が容易であり、また、安価に入手できることから好適に使用できる。
【0013】
茶滓の破砕は、水分を含んだ状態で行なってもよく、乾燥させた後に行なってもよい。水分を含んだ状態で茶滓を破砕する場合、組織が軟化され破砕が容易で、浸漬液中にカテキン類などが溶出されやすく、また粉末の飛散が防止され、好ましい。水分を含んだ状態の茶滓を破砕したペースト状破砕茶滓は乾燥させて用いてもよく、ペースト状のままノズルから噴出させてパルプ層に積層してもよい。
【0014】
ペースト状破砕茶滓を調製する場合、茶飲料を抽出した後の水分を含んだ状態の茶滓をそのまま破砕してペースト状としてもよいが、茶滓の含水比が90〜95%となるように加水した後、破砕することが好ましい。茶滓に添加する加水液としては、pHが5.5以下、好ましくは3.5〜4.5程度のものを用いると、カテキン類の保存性が向上するため、好ましい。また、菌の増殖を防止するため、加水液の酸素濃度は低いことが好ましい。加水液の好適な例として、炭酸水や、窒素を吹き込んで脱酸素した脱酸素水が挙げられる。
【0015】
本発明によれば、シート状のパルプ層に茶葉層を積層することにより、容易かつ確実に破砕茶葉をパルプシートに担持させることができる。カテキン類等の抗菌作用等を有する物質は、破砕茶葉に保持されているため、空気により酸化されにくい。一方、カテキン等の茶葉含有成分はパルプ層から移行するドリップ中に溶出し、ドリップの酸化等を効果的に防止できる。
【0016】
(2)前記パルプ層は、第1パルプ層および第2パルプ層を含み、前記茶葉層は、前記第1パルプ層と前記第2パルプ層との間に配置されていることを特徴とする(1)に記載の鮮度保持シート。
【0017】
本発明ではパルプ層を2層とし、これらのパルプ層の間に茶葉層を配置する。パルプの繊維同士が交絡した状態で結合されたパルプ層は強度が高いため、茶葉層の両表面をパルプ層で覆うことにより、鮮度保持シートの強度を高めることができる。また、茶葉層の両表面をパルプ層で覆うことにより、茶葉層を保護して破砕茶葉の脱落や酸化等による鮮度保持シートの性能劣化を防止できる。
【0018】
第1パルプ層および第2パルプ層の厚さは、それぞれ5〜100μmとし、茶葉層の厚さは5〜50μmとすることが好ましい。湿潤状態のパルプ層と茶葉層とを圧縮した後、乾燥させることでパルプ層と茶葉層とを一体化することができる。
【0019】
(3)前記パルプ層の一表面であって、前記茶葉層に接する面と反対側の表面にプラスチックフィルムが貼着されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の鮮度保持シート。
【0020】
本発明では、茶葉層と隣接するパルプ層の一表面のうち、茶葉層と接していない側にプラスチックフィルムを貼着することにより、片側表面がラミネート加工された鮮度保持シートとする。ラミネート加工された鮮度保持シートは、パルプ層が露出する面(以下「吸液面」という)を食肉等に接触させてドリップを吸収させることができる。一方、鮮度保持シートの吸液面と反対側表面(以下、「フィルム面」という)はプラスチックフィルムで覆われていることから、酸素を遮断して食肉等の酸化および乾燥を防ぎ、食肉中の血液の変化を抑制するとともに食肉中のアミノ酸を適度に熟成させることができる。
【0021】
さらに、吸液面から吸収されたドリップは、パルプ層から茶葉層へ移行して茶葉層に含まれたカテキン類等の茶葉含有成分と接触する。すなわち、鮮度保持シートに吸収されたドリップは、酸素との接触が阻害されることに加え、茶葉含有成分の生理作用を受けるため、より効果的にドリップの酸化および菌の増殖が防止できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、安価に製造され、カテキン類のみならずビタミンE等の茶葉含有成分に由来する抗菌活性および抗酸化活性を備える鮮度保持シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る鮮度保持シート10を拡大した模式図である。図1に示すように、鮮度保持シート10は、第1パルプ層11、茶葉層12、第2パルプ層13、およびプラスチックフィルムが貼着されてなるフィルム層14が積層された構成となっている。
【0024】
第1パルプ層11および第2パルプ層13は同一の構成であり、乾燥重量で5〜100g/mのパルプを含み、厚さはいずれも5〜100μmである。第1パルプ層11および第2パルプ層13は、パルプの繊維同士が圧着されたシート状物で構成されている。
【0025】
茶葉層12は、第1パルプ層11の一表面に破砕茶葉を積層したもので、乾燥重量で0.05〜5g/mの破砕茶葉を含み、厚さは5〜50μmである。破砕茶葉としては、緑茶を60〜90℃程度の熱水で3〜5分間熱水抽出処理した後、固液分離して緑茶飲料を製造した残渣である緑茶の茶滓を用いている。緑茶飲料を分離した後の茶滓は、ミキサおよび湿式ミル等で破砕されており、平均粒径は50μmである。
【0026】
フィルム層14は、ポリエチレンテレフタレートで構成され、酸素の透過性がパルプシートに比して低く、また、実質的に液体を透過させない遮水性を備え、厚さは5〜100μmである。
【0027】
鮮度保持シート10は、上記の各層間が剥離しないように圧着加工により一体化されたシートである。鮮度保持シート10の厚さは10〜1000μmとすることが好ましく、パルプ層11、13と茶葉層12とは任意の数を積層してもよい。鮮度保持シート10の一表面であって第1パルプ層11が露出する面は吸液面とされ、フィルム層14側の表面はフィルム面とされる。以下、この鮮度保持シート10の使用例について説明する。
【0028】
鮮度保持シート10は、吸液面が食肉等と接触するようにして食肉等を包装または戴置して用いられる。食肉等から滲出するドリップは、吸液面から鮮度保持シート10に吸収され、第1パルプ層11から茶葉層12および第2パルプ層13側に浸透する。茶葉層12には、茶滓に由来するカテキン類等の抗菌および抗酸化作用を有する物質が含まれていることから、鮮度保持シート10に吸収されたドリップの酸化や腐敗が防止される。
【0029】
一方、フィルム層14は液体および酸素の透過性が低いプラスチックフィルムで構成されているため、鮮度保持シート10で食肉等を被覆することにより、食肉等の乾燥を防止するとともに食肉等が空気中の酸素により酸化されることを防止する。
【0030】
次に、上述した鮮度保持シート10の製造法について説明する。まず、パルプ懸濁液を抄紙し、厚さ5〜100μm程度の湿潤状態の2枚のシート状物を得る。このシート状物の一方の表面片側に、粒径50μm程度に破砕したスラリ状の茶滓スラリをノズルから散布して茶葉層12を形成する。
【0031】
次いで、上記の2枚のシート状物のうちの他方を茶葉層12上に重ね、この積層物を80〜90℃で加熱するとともに押圧することにより、これらを一体化して乾燥させた積層体を得る。この積層体の一表面に圧着により、ポリエチレンテレフタレートの薄膜を形成させ、上記の鮮度保持シート10を得る。なお、積層体は、破砕茶葉をパルプ層表面に担持した状態のシートであり、このまま鮮度保持シートとして使用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。
【0033】
[比較例]
比較例として、パルプ50g(乾燥重量)をパルパに投入し、5Lの水道水を添加して10分攪拌混合してパルプ懸濁液5Lを得た。このパルプ懸濁液5Lを抄紙して5cm×20cmの5枚の湿潤状態のシート状物を得、これを乾燥させてシートとした。
【0034】
[実施例1]
比較例で作成した湿潤状態のシート状物のうちの1枚に、霧吹器を用いペースト状茶滓をノズルから噴射して積層した。次いで、シート状物の他の1枚を重ね、温度80℃でアイロンを用いてプレスして鮮度保持シートを得た。
【0035】
[実施例2]
実施例1で得た鮮度保持シートの片側表面に、ポリエチレンテレフタレートの薄膜を圧着してラミネート加工した鮮度保持シートを得た。
【0036】
得られた鮮度保持シートの構成された第1パルプ層および第2パルプ層はいずれも厚さ50μmであり、茶葉層は厚さが10μmで茶葉の含有量が0.5重量%(乾燥重量)であった。
【0037】
なお、実施例に用いたペースト状茶滓は、煎茶を80℃の熱水に3分間浸漬した後、固液分離して得られた茶滓(含水率85重量%)に、炭酸水100L(pH4.0)を添加し、湿式ミルで平均粒径50μmに破砕して得た。
【0038】
実施例および比較例の鮮度保持シートの抗菌性を評価するため、JIS L 1902定量試験(菌液吸収法)に従って静菌活性を測定した。試験菌株として、黄色ブドウ球菌(Staphlococcus aureus)ATCC 6538p菌株を植菌し、混釈平板培養法により、37℃で2日間培養を行い、比較例のシートの菌数(log値)と実施例1および実施例2のシートの菌数(log値)との差を静菌活性値とした。すなわち、静菌活性値=比較例のシートの菌数(log値)−実施例のシートの菌数(log値)である。表1に結果を示す。
【0039】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、食肉等の鮮度保持に使用される鮮度保持シートとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る鮮度保持シートを拡大した模式図である。
【符号の説明】
【0042】
10 鮮度保持シート
11 第1パルプ層
12 茶葉層
13 第2パルプ層
14 フィルム層(プラスチックフィルム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプをシート化してなるパルプ層と、茶葉を破砕した破砕茶葉で構成される茶葉層と、を備える鮮度保持シート。
【請求項2】
前記パルプ層は、第1パルプ層および第2パルプ層を含み、
前記茶葉層は、前記第1パルプ層と前記第2パルプ層との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の鮮度保持シート。
【請求項3】
前記パルプ層の一表面であって、前記茶葉層に接する面と反対側の表面にプラスチックフィルムが貼着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の鮮度保持シート。

【図1】
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【公開番号】特開2006−25681(P2006−25681A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208453(P2004−208453)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(591073898)常陸化工株式会社 (10)
【Fターム(参考)】