説明

鱗片状ガラスおよびその製造方法

本発明は、十分な可視光吸収能を有する鱗片状ガラスを提供する。本発明の鱗片状ガラスは、酸化鉄のような遷移金属酸化物を含有し、かつ厚さ15μmに成形したときにA光源を用いて測定した可視光透過率が85%以下となるガラス組成物を含む。このガラス組成物では、全Feから換算したFe(T−Fe)について、質量%で表して、10<T−Fe≦50が成立することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、可視光吸収能に優れた鱗片状ガラスおよびその製造方法に関する。さらには、鱗片状ガラスを含有する樹脂組成物、塗料および化粧料に関する。
【背景技術】
鱗片状ガラスは、樹脂マトリックス中に配合されると、樹脂成型体の強度や寸法精度を向上させる。鱗片状ガラスは、ライニング材として金属やコンクリートなど基材の表面に塗布するための塗料に配合され、あるいは顔料として利用され、あるいは化粧料に配合される。
表面を金属で被覆すると、鱗片状ガラスは金属色を呈する。表面を金属酸化物で被覆すると、鱗片状ガラスは反射光の干渉による干渉色を呈する。塗料や化粧料など色調や光沢が重視される用途では、金属または金属酸化物の被膜を有する鱗片状ガラスが好んで使用されている。
鱗片状ガラスに好適な組成として、特開昭63−201041号公報には、Cガラス,Eガラスおよび板ガラス組成が開示されている。特開平9−110453号公報には、耐アルカリ性の鱗片状ガラスが開示されている。特開2001−213639号公報には、優れた化学的耐久性と強度とを備えた鱗片状ガラスが開示されている。特開昭63−307142号公報および特開平3−40938号公報には、紫外線吸収性能の高い鱗片状ガラスが記載されている。
表面が金属または金属酸化物で被覆され、着色性,光反射性および隠蔽性が向上した鱗片状ガラスが上市されている。例えば、特開2001−31421号公報には、ルチル型二酸化チタンの析出方法、ならびにそれが定着した鱗片状ガラスが開示されている。
なお、鱗片状ガラスではないが、可視光透過率の低いガラスとしては、ガラス中に遷移金属酸化物を多量に含むものが知られている。例えば、特開平9−71436号公報には、紫外領域から近赤外領域に渡る広い吸収帯を有する吸収体ガラスまたはファイバオプティックプレートガラスが記載されている。この吸収体ガラスまたはファイバオプティックプレートガラスは、LaとBaOとを含有する組成を有する。特表2003−526187号公報には、ガラススペーサーが記載されている。このガラススペーサーは、BaOまたは/およびLaを含有するガラスである。
上記従来の鱗片状ガラスでは、鱗片状ガラス自体の可視光吸収能が考慮されていなかった。これら鱗片状ガラスでは、可視光を吸収する成分の量が少ない。特開昭63−307142号公報および特開平3−40938号公報に開示された鱗片状ガラスは、紫外領域から近紫外領域において優れた吸収特性を示すものの、やはり可視光を吸収する成分の量は少ない。
このため、従来の鱗片状ガラスの表面に透光性の材料から被膜を形成すると、発色が基材の色の影響を受けることがあった。これは、鱗片状ガラスがほとんど可視光を吸収しないためである。
この現象を、図7を参照して説明する。鱗片状ガラス31は、その表面に透光性の金属酸化物膜32を有し、顔料として塗料6に配合されている。鱗片状ガラス31自体には、可視光吸収能がほとんどなく、金属酸化物膜32も透光性である。このため、鱗片状ガラスに入射した光21は、一部が反射光22となるものの、その大部分は透過光23となる。透過光23は基材5の表面で反射し、この表面の色の影響を受けた反射光となる。
【発明の開示】
本発明の目的とするところは、十分な可視光吸収能を有する鱗片状ガラスを提供することにある。
本発明の鱗片状ガラスは、遷移金属酸化物を含有し、かつ厚さ15μmに成形したときにA光源を用いて測定した可視光透過率が85%以下、好ましくは50%以下、特に好ましくは5%以下、となるガラス組成物を含むことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
図1Aは、本発明の鱗片状ガラスの一形態を示す斜視図であり、図1Bは、同形態の平面図である。
図2は、本発明の鱗片状ガラスの一形態を示す断面図であり、鱗片状ガラスに入射する可視光の透過、反射および吸収を説明するための図である。
図3は、本発明の鱗片状ガラスの一形態であって金属酸化物結晶を含有する鱗片状ガラスを示す断面図である。
図4は、本発明の鱗片状ガラスの一形態であって被膜を有する鱗片状ガラスを示す断面図である。
図5は、本発明の樹脂組成物を基材に塗布した状態を示す断面図である。
図6は、鱗片状ガラスの製造装置の一例を示す断面図である。
図7は、従来の鱗片状ガラスを含む塗料を基材に塗布した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本明細書において、鱗片状ガラス1とは、平均厚さtが0.1μm以上100μm未満、アスペクト比(平均粒子径a/平均厚さt)が2〜1000の薄片状粒子をいう(図1A参照)。ここで、平均粒子径aは、当該鱗片状ガラス1を平面視したときの面積Sの平方根として定義される(図1B参照)。
本発明の鱗片状ガラスでは、ガラス組成物が、遷移金属酸化物として、Fe,Co,Ti,Ni,CrおよびMnから選ばれる少なくとも1種、特にFeの酸化物を含むことが好ましい。
本発明の好ましい形態では、ガラス組成物が、SiOとアルカリ金属酸化物とをさらに含有し、遷移金属酸化物を10質量%を超えて含有する。
このガラス組成物は、質量%で表して、
20≦SiO≦70、
10<T−Fe≦50、
5≦(LiO+NaO+KO)≦50
の成分を含有することが好ましい。
本明細書において、T−Feは、ガラス組成物における全Feから換算したFeである。
本発明の別の好ましい形態では、ガラス組成物が、SiOとアルカリ土類金属酸化物とをさらに含有し、遷移金属酸化物を10質量%を超えて含有する。
このガラス組成物は、質量%で表して、
20≦SiO≦70、
10<T−Fe≦50、
5≦(MgO+CaO+SrO)≦50
の成分を含有することが好ましい。
本発明のまた別の好ましい形態では、ガラス組成物が、SiOとアルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物とをさらに含有し、遷移金属酸化物を少なくとも10質量%を超えて含有する。
このガラス組成物は、質量%で表して、
20≦SiO≦70、
10<T−Fe≦50、
0<(LiO+NaO+KO)<50、
0<(MgO+CaO+SrO)<50、
5≦(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO)≦50
の成分を含有することが好ましい。
上記各形態において、ガラス組成物は、さらに別の成分を含んでいてもよい。これら別の成分としては、例えばAl、B、TiO、CoO、ZrOが挙げられる。
例えば、ガラス組成物は、質量%で表して、さらに、
0≦Al≦10、
0≦B≦10、
0≦TiO≦10、
0≦CoO≦20、
0≦ZrO≦10
から選ばれる少なくとも1つの成分を含有していてもよい。
Al、B、TiO、CoO、ZrO各成分は、例えば1質量%以上含有させてもよい。
本発明の鱗片状ガラスは、金属酸化物結晶をさらに含むことが好ましい。この金属酸化物結晶は、Feを構成原子として含有することが好ましい。金属酸化物結晶により、鱗片状ガラスの可視光吸収能をさらに引き上げることができる。この金属酸化物結晶は、Fe(三酸化二鉄)およびFe(四酸化三鉄)から選ばれる少なくとも一方であってもよい。
ガラス組成物が遷移金属酸化物としてFeの酸化物を含む場合、このFeは、0.05≦Fe2+/(Fe2++Fe3+)<1.00を満たすことが好ましく、0.10≦Fe2+/(Fe2++Fe3+)≦0.80を満たすことがさらに好ましい。Fe2+/(Fe2++Fe3+)は、原子比としても質量比としても実質的な差異は生じないが、厳密には質量比により定める。
鱗片状ガラスの表面には被膜を形成してもよい。本発明の鱗片状ガラスは、鱗片状ガラス表面に形成した、金属および金属酸化物から選ばれる少なくとも一方を含む被膜をさらに含んでいることが好ましい。金属は、ニッケル,金,銀,白金およびパラジウムから選ばれる少なくとも1種が好適である。金属酸化物は、チタン,アルミニウム,鉄,コバルト,クロム,ジルコニウム,亜鉛およびスズから選ばれる少なくとも1種の酸化物が好適である。
本発明の鱗片状ガラスは遮光性が高いため、ガラスの表面に透光性の被膜を形成したとしても、塗膜などの色が基材の表面の色に大きな影響を受けることはない。代表的な透光性の被膜としては、二酸化チタンを挙げることができる。ただし、本発明の鱗片状ガラスは、これ以外の被膜を形成して用いてもよく、被膜を形成せずに用いてもよい。
本発明は、別の側面から、上記鱗片状ガラスを含有する各種製品、例えば、樹脂組成物、塗料、化粧料、を提供する。
本発明は、さらに、Feを含有する鱗片状ガラスを熱処理してこのFeの少なくとも一部の価数を変化させることにより、換言すれば[Fe2+/(Fe2++Fe3+)]の値を変化させることにより、鱗片状ガラスの色調を変化させる工程を含む鱗片状ガラスの製造方法を提供する。
本発明は、さらに、Feを含有する鱗片状ガラスを熱処理してこの鱗片状ガラスに上記Feの酸化物結晶を析出させる工程を含む鱗片状ガラスの製造方法を提供する。
上記各工程における熱処理は、Feが酸化または還元される雰囲気で行うことが好ましい。
また、上記熱処理としては、Feが酸化される雰囲気中で行う第1熱処理と、Feが還元される雰囲気中で行う第2熱処理とを順次行うことが好ましい。
以下、ガラス組成物の各成分について説明する。
(SiO
二酸化ケイ素(SiO)は、ガラス骨格の主成分である。SiOの含有量が20質量%未満の場合は、ガラス骨格が形成され難くなる。一方、SiOの含有量が70質量%を超えるとガラスの融点が高くなり過ぎて、原料を均一に熔解することが困難になる。SiOの含有量は、質量%で表示して、20≦SiO≦70、特に40<SiO≦70が好ましい。
(Fe)
ガラス中に存在する鉄分(Fe)は、通常、酸化鉄(FeまたはFeO)の状態で存在する。Feはガラスの紫外線吸収特性を高める効果があり、FeOはガラスの熱線吸収特性を高める効果があるが、いずれの状態でも酸化鉄は可視光吸収に寄与する。
他の着色成分を含まない場合、T−Feの含有量が10質量%以下であれば、鱗片状ガラス(厚み0.1〜15μm)の可視光透過率は85%を超える。一方、この含有量が50質量%を超えると、他の成分の含有量が相対的に減少するため、ガラスが形成され難くなる。特に着色成分として実質的に鉄分のみを含む場合、T−Feの含有量は、質量%で表して、10<T−Fe≦50、さらには15≦T−Fe≦50、特に18≦T−Fe≦50、が好ましい。
(アルカリ金属酸化物)
アルカリ金属酸化物(LiO,NaO,KO)は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。
アルカリ土類金属酸化物を含有しない場合、アルカリ金属酸化物の含有量が50質量%を超えると、失透温度が上昇して、ガラスが形成され難くなる。一方、アルカリ金属酸化物の含有量が5質量%未満の場合は、他の成分の含有量が相対的に高くなりすぎるため、ガラスが形成され難くなる。アルカリ金属酸化物の含有量は、質量%で表して、5≦(LiO+NaO+KO)≦50が好ましい。
(アルカリ土類金属酸化物)
アルカリ土類金属酸化物(MgO,CaO,SrO)もまた、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。
アルカリ金属酸化物を含有しない場合、アルカリ金属酸化物と同様の理由により、アルカリ土類金属酸化物の含有量が5質量%未満または50質量を超えると、ガラスが形成され難くなる。アルカリ土類金属酸化物の含有量は、質量%で表して、5≦(MgO+CaO+SrO)≦50が好ましい。
なお、BaOはアルカリ土類金属酸化物の一つではあるが、ガラス組成物はBaOを実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、実質的に含まないとは、含有量が0.5質量%未満であることをいう。
(Al
酸化アルミニウム(Al)は、必須成分ではないが、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。Alの含有量が10質量%を超える場合は、失透温度が上昇して、ガラスが形成され難くなる。Alは、質量%で表して、0≦Al≦10が好ましい。
(B
三酸化二ホウ素(B)は、必須成分ではないが、ガラスの融点を下げる成分であり、ガラスの結晶化を抑制する成分でもある。これらの特性を利用すれば、ガラスの形成が容易になる。Bの含有量は、他の成分の含有量を大きく制限しない範囲、すなわち10質量%以下とするとよい。Bは、質量%で表して、0≦B≦10が好ましい。
(TiO,ZrO
酸化チタン(TiO)および酸化ジルコニウム(ZrO)は、必須成分ではないが、ガラス中に結晶を均質に析出させるための核形成剤として使用できる。このため、ガラス中に金属酸化物結晶を析出させる場合には、TiOおよびZrOから選ばれる少なくとも一方を含ませるとよい。TiOは、ガラスの紫外線吸収特性を高める成分でもある。
TiOおよびZrOのそれぞれの含有量が10質量%を超えると、ガラスの失透温度が上昇して成形が困難になる。TiOおよびZrOの含有量は、質量%で表して、0≦TiO≦10,0≦ZrO≦10が好ましい。
(CoO)
酸化コバルト(CoO)は、必須成分ではないが、ガラスの可視光吸収能を高める成分である。ただし、その含有量が20質量%を超えると、ガラスの失透温度が上昇して成形が困難になる。したがって、CoOは質量%で表して、0≦CoO≦20が好ましい。
なお、本発明の鱗片状ガラスは、Laを実質的に含まなくてもよい。
上述したような組成を有する鱗片状ガラスは、その平均厚さが0.1μm〜100μmとなるように成形しても割れ難い。このため、その粒径の調整は基本的に任意である。
本発明の鱗片状ガラスは、金属または金属酸化物でその表面を被覆しない無垢の状態でも、A光源を用いて測定した可視光透過率を、厚さ15μm換算で85%以下にまで下げることができる。このため、従来の鱗片状ガラスとは比較にならないほど、高い可視光吸収能、即ち高い遮光特性、を発揮できる。
図2に示すように、本発明による鱗片状ガラス1に入射する光21は、その大部分は鱗片状ガラス1によって吸収され、その一部が透過光23として透過し、別の一部が鱗片状ガラス1の表面で反射光22として反射する。
図3に示すように、鱗片状ガラス1のガラスマトリックス10には、金属酸化物結晶3を析出させてもよい。鱗片状ガラスのガラスマトリックス10中に、Feを構成原子として含む金属酸化物結晶3を析出させると、可視光透過率が低下する。金属酸化物結晶3の析出量および結晶粒径を制御すれば、鱗片状ガラスの可視光透過率は容易に調整できる。この場合、主たる析出結晶は、FeまたはFeが好ましい。ガラスマトリックス10には、金属Feおよび/またはFeOの結晶がさらに含まれていてもよい。鱗片状ガラスに析出した金属および/または金属酸化物結晶は、電子顕微鏡で観察できることがある。また、鱗片状ガラスに生じた分相構造も、電子顕微鏡で観察できることがある。
上記金属酸化物結晶3を内包するガラス組成物の可視光透過率は、厚さ15μm換算で50%以下にまで確実に低下する。ガラスマトリックス10の組成を調整すれば、可視光透過率を10%以下、さらに5%以下にまで低下させることもできる。
製造した鱗片状ガラス1をガラス転移温度付近からガラス軟化点付近まで加熱し、そのまま保持するような熱処理を行えば、金属酸化物結晶3を析出させることができ、金属酸化物結晶3を大きくし、また増やすことができる。金属酸化物結晶3は、鱗片状ガラス1を製造する際の熔融ガラスの保持温度などの熱処理条件を適宜調整することにより、析出させることもできる。
本発明の製造方法における熱処理は、鱗片状ガラス中のFeが酸化される雰囲気および/またはFeが還元される雰囲気で行うことにより、鱗片状ガラスの可視光透過率や色調を調整することができる。また、これによりFeの酸化物結晶を析出させることができる。
鱗片状ガラス中のFeが酸化される雰囲気は、酸化性雰囲気であり、空気、酸素ガスなどの酸化性ガスを使用するとよい。
鱗片状ガラス中のFeが還元される雰囲気としては、還元性雰囲気または不活性雰囲気であればよい。還元性雰囲気としては、水素を含む混合ガスなどの還元性ガスを使用するとよい。不活性雰囲気としては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを使用するとよい。
熱処理は複数回行ってもよく、それぞれの熱処理で酸化・還元の雰囲気を変えることが好ましい。また、1回の熱処理で酸化・還元の雰囲気を変化させてもよい。さらに、少なくとも鱗片状ガラス中のFeが還元される雰囲気で、熱処理することが好ましい。酸化性雰囲気中で熱処理した後に、還元性または不活性雰囲気中で熱処理することがより好ましい。
本発明の鱗片状ガラスに含まれるFe2+およびFe3+の比率は、0.05≦Fe2+/(Fe2++Fe3+)<1.00であることが好ましく、0.10≦Fe2+/(Fe2++Fe3+)≦0.80であることがより好ましい。この比率が上記範囲にある鱗片状ガラスは、より黒い色調を呈し、高い可視光吸収性能を発揮する。また、この比率が上記範囲にあると、Feの酸化物結晶、特にFe結晶、を析出させやすくなる。
図4に示すように、鱗片状ガラス1を基材として、その表面に金属または金属酸化物の被膜2を形成してもよい。金属としては、銀,金,白金,パラジウム,ニッケルなどの金属を、単層または混合層や複層として被覆してもよい。金属としては、下地の隠蔽機能が高いニッケルが好ましい。二酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化鉄,酸化クロム,酸化コバルト,酸化ジルコニウム,酸化亜鉛,酸化スズなどの金属酸化物を、単層または混合層や複層として被覆してもよい。
金属酸化物としては、屈折率および透明性が高く、干渉色の発色がよい二酸化チタンが好ましい。さらに、これら金属薄膜と金属酸化物薄膜とを順次積層してもよい。
この鱗片状ガラスは、公知の手段により、顔料として、または補強用充填材として、樹脂組成物、塗料、化粧料などに配合され、それらの色調や光沢性を高めると共に、寸法精度および強度なども改善する。図5に示したように、例えば鱗片状ガラス1は塗料に配合され、基材5の表面に塗布される。鱗片状ガラス1は、塗膜6の樹脂マトリックス4中に分散されている。
【実施例】
表1〜表3の組成となるように、珪砂など通常のガラス原料を調合し、実施例および比較例ごとにバッチを作製した。このバッチを電気炉内で1400〜1500℃まで加熱し、熔融させ、組成が均一になるまでそのまま維持した。その後、熔融したガラスを冷却しつつペレットに成形した。
図6に示す装置を用い、このペレットから鱗片状ガラスを得た。この製造装置では、耐火窯槽12の底部開口にフィーダーブロック13が設けられており、フィーダーブロック13は、ライナー14にて支持されている。ブローノズル15は、その先端がフィーダーブロック13の中央付近に設けられた開口近傍に位置するように配置されている。
熔融されたガラス素地11は、ブローノズルに送り込まれたガスによって、風船状に膨らみ、中空状ガラス膜16として開口から排出される。この中空状ガラス膜16は、押圧ロール17によって粉砕され、鱗片状ガラス1となる。ここでは、鱗片状ガラス1の平均厚みが1μmおよび15μmとなるように製造条件を適宜調整した。以降では、平均厚みが15μmとなるように製造した鱗片状ガラス1を使用した。
鱗片状ガラスの製造装置の詳細は、例えば本出願人による特開平5−826号公報に記載されている。
実施例10〜12については、さらに、鱗片状ガラスを、Feが酸化される酸化性雰囲気である空気雰囲気に保った800℃の加熱炉中に、2時間保持する工程を実施し、Feの酸化物結晶を析出させた。
実施例13については、鱗片状ガラスを、Feが還元される不活性雰囲気である100%窒素雰囲気に保った600℃の加熱炉中に、2時間保持する工程を実施し、Feの酸化物結晶を析出させた。
実施例14〜15については、鱗片状ガラスを、Feが還元される還元性雰囲気である、3%水素と97%窒素の混合ガス雰囲気に保ち、550℃および600℃の加熱炉中に2時間保持する工程を実施し、Feの酸化物結晶を析出させた。
実施例16〜18については、鱗片状ガラスを、空気雰囲気に保った700℃の加熱炉中に2時間保持し、その後、3%水素と97%窒素の混合ガス雰囲気に保った600℃の加熱炉中に2時間保持する工程を実施し、Feの酸化物結晶を析出させた。
その他実施例および比較例については、上記の熱処理は実施していない。
こうして作製した鱗片状ガラスについて、JIS R3106に基づき、A光源を用いて可視光透過率を測定した。鱗片状ガラス中のFe2+およびFe3+については、o−フェナントロリンを用いた吸光光度法により測定を行った。また、鱗片状ガラス内部にFeを構成原子とする金属酸化物結晶が存在するか否か、さらにはその結晶組成の同定を行うために、鱗片状ガラスおよび鱗片状ガラスと同じガラス組成を有するバルク状ガラスを粉砕し、粉末X線回折法により測定を行った。ここで、金属酸化物結晶の存否の判断は、得られたX線回折図形における結晶の回折ピークの有無を基準として行った。ただし、析出した金属酸化物結晶がごく微量の場合は、鱗片状ガラスと同じ組成を有するバルク状ガラスを粉砕し、粉末X線回折法により測定を行った。
測定結果を、表1〜表3に示す。なお、表中のガラス組成を示す数値はすべて質量%である。ガラス中の酸化鉄はすべてT−Feとして示す。
例えば、実施例1と実施例10とを対比すると、金属酸化物結晶の析出により、鱗片状ガラスの可視光透過率が大幅に低下することが確認できる。
比較例1および2は、従来から提供されているCガラスおよびEガラス組成からなる鱗片状ガラスである。比較例3は、特開平3−40938号公報の実施例に記載された組成からなる鱗片状ガラスである。これらの鱗片状ガラスでは、Feの含有量が低いため、可視光吸収能が不十分である。




以下、鱗片状ガラスの特性の測定方法について説明を補足する。
鱗片状ガラスの粒子径が十分に大きく、さらに厚みが15μmより大きいときには、研磨やエッチングなどにより鱗片状ガラスの厚みを15μmに調整して、A光源を用いて可視光透過率を測定するとよい。これに対し、鱗片状ガラスの粒子径が小さく、可視光透過率を直接測定することが困難なときには、以下のように鱗片状ガラスの可視光透過率を測定するとよい。
可視光透過率を直接測定することができない鱗片状ガラスと同じガラス組成を有し、平均厚みが15μmでかつ粒子径が十分大きい鱗片状ガラスを製造し、A光源を用いて可視光透過率を測定する。
鱗片状ガラスの粒子径が小さすぎて、可視光透過率を直接測定することが困難なときには、以下のようにして、鱗片状ガラスの厚さ15μm換算の可視光透過率を算出してもよい。
鱗片状ガラスの面に対してA光源を垂直に照射し、鱗片状ガラスを挟んで光源と反対側からの面から、光学顕微鏡などを用いて鱗片状ガラスを平面視する写真を撮影する。この写真から鱗片状ガラスの明度Lを写真から読み取る。例えば、この写真をパーソナルコンピューターの画像ファイルに変換し、画像編集用アプリケーションなどを用いて、鱗片状ガラスの明度を読み取ることができる。光源が存在しないときの写真の明度を0、鱗片状ガラスを置かず、光源のみ置いたときの写真の明度を100とする。鱗片状ガラスの明度Lは、JIS Z 8729に基づき、Y/Yに変換することができる。このY/Yを可視光透過率とする。YはXYZ系における三刺激値の値であり、Yは完全拡散反射面の標準の光によるYの値である。この操作を厚みの異なる2枚の鱗片状ガラスについて行い、厚みと可視光透過率の関係について、Lambert−Beerの法則に基づく近似式を作り、厚さ15μm換算の可視光透過率を算出する。
なお、鱗片状ガラスの厚みを直接測定することが困難なときは、電子顕微鏡などにより鱗片状ガラスの断面写真を撮影し、鱗片状ガラスの厚さを読み取ることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
以上説明したとおり、本発明の鱗片状ガラスは、従来になく高い可視光吸収能を発揮する。この鱗片状ガラスに被膜を形成した顔料は、塗布の対象とする基材の表面の色の影響を受けにくく、発色特性に優れたものとなる。この鱗片状ガラスを含む樹脂組成物、塗料、化粧料は、色調、光沢性に優れたものとなる。

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属酸化物を含有し、かつ厚さ15μmに成形したときにA光源を用いて測定した可視光透過率が85%以下となるガラス組成物を含む鱗片状ガラス。
【請求項2】
前記ガラス組成物が、SiOとアルカリ金属酸化物とをさらに含有し、前記遷移金属酸化物を10質量%を超えて含有する請求項1に記載の鱗片状ガラス。
【請求項3】
前記ガラス組成物が、質量%で表して、
20≦SiO≦70、
10<T−Fe≦50、
5≦(LiO+NaO+KO)≦50
の成分を含有する請求項2に記載の鱗片状ガラス。
ただし、T−Feは前記ガラス組成物における全Feから換算したFeである。
【請求項4】
前記ガラス組成物が、SiOとアルカリ土類金属酸化物とをさらに含有し、前記遷移金属酸化物を少なくとも10質量%を超えて含有する請求項1に記載の鱗片状ガラス。
【請求項5】
前記ガラス組成物が、質量%で表して、
20≦SiO≦70、
10<T−Fe≦50、
5≦(MgO+CaO+SrO)≦50
の成分を含有する請求項4に記載の鱗片状ガラス。
ただし、T−Feは前記ガラス組成物における全Feから換算したFeである。
【請求項6】
前記ガラス組成物が、SiOとアルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物とをさらに含有し、前記遷移金履酸化物を少なくとも10質量%を超えて含有する請求項1に記載の鱗片状ガラス。
【請求項7】
前記ガラス組成物が、質量%で表して、
20≦SiO≦70、
10<T−Fe≦50、
0<(LiO+NaO+KO)<50、
0<(MgO+CaO+SrO)<50、
5≦(LiO+NaO+KO+MgO+CaO+SrO)≦50
の成分を含有する請求項6に記載の鱗片状ガラス。
ただし、T−Feは前記ガラス組成物における全Feから換算したFeである。
【請求項8】
Feを構成原子として含有する金属酸化物結晶をさらに含む請求項1に記載の鱗片状ガラス。
【請求項9】
前記金属酸化物結晶がFeおよびFeから選ばれる少なくとも一方を含む請求項8に記載の鱗片状ガラス。
【請求項10】
前記ガラス組成物が前記遷移金属酸化物としてFeの酸化物を含み、前記Feが、0.05≦Fe2+/(Fe2++Fe3+)<1.00を満たす請求項1に記載の鱗片状ガラス。
【請求項11】
前記Feが、0.10≦Fe2+/(Fe2++Fe3+)≦0.80を満たす請求項10に記載の鱗片状ガラス。
【請求項12】
前記鱗片状ガラスの表面に形成した、金属および金属酸化物から選ばれる少なくとも一方を含む被膜をさらに含む請求項1に記載の鱗片状ガラス。
【請求項13】
前記金属が、ニッケル,金,銀,白金およびパラジウムから選ばれる少なくとも1種である請求項12に記載の鱗片状ガラス。
【請求項14】
前記金属酸化物が、チタン,アルミニウム,鉄,コバルト,クロム,ジルコニウム,亜鉛およびスズから選ばれる少なくとも1種の酸化物である請求項12に記載の鱗片状ガラス。
【請求項15】
請求項1に記載の鱗片状ガラスを含有する樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1に記載の鱗片状ガラスを含有する塗料。
【請求項17】
請求項1に記載の鱗片状ガラスを含有する化粧料。
【請求項18】
Feを含有する鱗片状ガラスを熱処理して前記Feの少なくとも一部の価数を変化させることにより、前記鱗片状ガラスの色調を変化させる工程を含む鱗片状ガラスの製造方法。
【請求項19】
Feを含有する鱗片状ガラスを熱処理して前記鱗片状ガラスに前記Feの酸化物結晶を析出させる工程を含む鱗片状ガラスの製造方法。
【請求項20】
前記熱処理を、前記Feが酸化または還元される雰囲気で行う請求項18または19に記載の鱗片状ガラスの製造方法。
【請求項21】
前記熱処理として、前記Feが酸化される雰囲気中で行う第1熱処理と、前記Feが還元される雰囲気中で行う第2熱処理とを順次行う請求項18または19に記載の鱗片状ガラスの製造方法。

【国際公開番号】WO2004/076372
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502966(P2005−502966)
【国際出願番号】PCT/JP2004/002421
【国際出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】