説明

鱗片状微粉末含有溶液製造方法並びに鱗片状微粉末含有溶液又は鱗片状微粉末

【課題】
ナノサイズと呼べる厚みを有し、かつ高アスペクト比を有した鱗片状微粉末を特定の溶媒に含有した状態で即座に利用できるようにした鱗片状微粉末含有溶液の製造方法、鱗片状微粉末含有溶液、鱗片状微粉末そのもの、を提供する。
【解決手段】
基材フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離層を形成し、次いで金属単体、合金、又は金属化合物の何れか若しくは複数による薄膜を積層して積層体を得る積層工程と、前記剥離剤が可溶である溶媒を用いて前記積層体から前記薄膜を前記溶媒中に剥離することにより、溶媒と薄膜とよりなる粗粉含有溶液を得る剥離工程と、粗粉含有溶液における前記薄膜の濃度を調整する濃度調整工程と、その後薄膜を粉砕して鱗片状微粉末とする粉砕工程と、を経て鱗片状微粉末を含有してなる鱗片状微粉末含有溶液を得る製造方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鱗片状微粉末を含有してなる溶液の製造方法及びこの製法により得られる鱗片状微粉末含有溶液又は鱗片状微粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
家庭用電気製品や自動車等の塗装として、重厚感や高級感を呈するために塗料の中に金属光沢を備えた微粉末(以下、単に「金属微粉末」とも言う。)を混合したものが用いられることがある。また、他方では、その使用時にきらびやかな印象を呈するために口紅やアイシャドウ等の化粧料に金属光沢を備えた微粉末を配合したものが提供されている。さらに、例えば同様に化粧料であっても紫外線を遮蔽する効果を狙う場合には、酸化チタンや酸化亜鉛などのような金属酸化物の微粉末を含有させたものが提供されている。その他にも、例えばインクジェット方式でプラスチック基板状に導電性の微粉末を回路状に印刷することで電子回路とすること等のように、金属、金属酸化物等の機能性を有した微粒子が多用な場面で数多く利用されるようになってきている。
【0003】
上述したような場面であって、例えば金属微粉末を用いることで美麗な金属光沢による効果を得るためには、金属微粉末そのものの表面がな滑らかであることが必須である。さらにこれを塗料に含有して用いる場合、塗布した結果、金属微粉末同士が接触したり重なり合う部分の表面が滑らかでなければ、金属微粉末を用いることにより得られる効果、即ち鏡面性を発揮することはできない。つまり、表面の凹凸があればあるほど入射した光線が乱反射を起してしまい、そのために美麗な鏡面状とすることにより得られる金属光沢を発揮することができず、その結果、所望する効果が得られないのである。
【0004】
また、金属微粉末を化粧料に含有させて用いる場合、塗料の場合ほどには金属微粉末を含有させる必要はなく、金属微粉末を含有した化粧料を用いることで、例えばこれを頬に塗ることで頬に小さなスパンコールをちりばめて貼り付けたかのような、いわゆるラメ感を呈することによりきらびやかな表情を与える効果を期待するのであるが、やはり金属微粉末それ自体の表面が滑らかでなければ高級感を呈することができない。
【0005】
さらに金属光沢を得る目的ではなく、例えば化粧料に用いて紫外線を遮蔽する効果を狙う場合であっても、人体の肌に直接塗布するものであるから、含有される酸化チタンや酸化亜鉛などの微粉末が滑らかでなければ、その使用時にざらざらとした違和感が生じてしまい、その結果使用感が非常に不快なものとなってしまうため、上述したような滑らかさが必要とされるのである。そして電子回路とする場合であれば、金属微粒子同士が滑らかに広範囲、広面積において接している方が導電性を良好なものとしやすくなることがわかっている。
【0006】
その他、金属、金属化合物などの機能性を有した微粒子が多用な場面で利用されているが、その形状や大きさが機能性へ大きく影響を与えることがわかってきた。
【0007】
しかし従来の金属微粉末は基本的に粒形状であったために、これを例えば塗料に含有させて塗装に用いても、その表面に金属微粉末の粒が存在するために表面がざらついた感じとなり、つまり表面が鏡面状にならず、所望の効果を得られなかった。また化粧料に用いた場合も同様に肌の表面に粒が存在するように見えてしまい、またそのような化粧料を用いようとしてもざらついた感じが不快感を与えてしまい、結局化粧料としての役目を充分に果たさせなかった。さらに電子回路としようとするならば、粒形状のものを並べることによっては粒同士が点でしか接していないため粒子間に隙間が多く存在し、印刷後に加熱処理を行っても、即ち粒形状のものであればフレキシブルでかつ導電性を向上させることに限界があった。その他、滑らかさが必要とされる場面に用いようとしても、粒形状であるが故に滑らかさが充分に実現できずに問題であった。
【0008】
そこでこのような問題を解消するために、微細ではあるものの、その形状が平たく薄い、いわゆる鱗片状の微粉末を用いると所望する効果が得られやすいことがわかった。さらにこの鱗片状微粉末において、その面における最も長い端から端の長さの平均値である平均長径と、その厚みとの比、即ち平均長径/厚みで示されるアスペクト比が高いものが好適であることもわかってきた。
【0009】
そこでまず簡単に従来の鱗片状微粉末及び鱗片状微粉末の製造方法について説明する。尚、上述の通り、以下金属光沢を備えた微粉末を念頭に説明を行うが、必ずしもこれに限らず、金属光沢を備えない金属又は金属化合物による微粉末も全て同様に捉えられることを予め断っておく。
【0010】
従来の金属光沢を備えた鱗片状微粉末としては、展伸性に優れた金属を用いることが大変好適であることより主にアルミニウムが原料として用いられている。一般的に用いられているアルミニウムの鱗片状微粉末(以下、単に「アルミフレーク」等とも言う。また、鱗片状微粉末自体を「フレーク」とも言う。)は、例えば平均の厚さは0.1μm〜5.0μm、平均長径は5μm〜150μm、アスペクト比は5以上、というものである。
【0011】
このようなアルミフレークの製法としては、例えばアルミニウムを圧延ロールで圧延加工して得られたアルミニウムの薄膜(=アルミ箔)を微細に粉砕して製造するものがあり、これが最も簡単な製法と言えるが、このような方法により得られるアルミフレークは、圧延ロールでいくら圧力をかけて薄くしようとしても、その薄くすることに限度があるので、昨今求められるナノサイズのアルミフレークとすることはほぼ不可能であること、また圧延ロールを用いる方法ではアルミニウム以外の金属では同様に極薄に圧延することが必ずしも容易ではないこと、即ち圧延ロールを用いる方法ではアルミニウム以外の金属を原料とした鱗片状微粉末を得にくいこと、さらには得られるアルミニウムフレークを均一なものとするのが容易ではないこと、圧延されたアルミ箔を裁断する場合、ある程度の小ささまでしか裁断できないため、やはりナノサイズのアルミフレークを得にくい、等の問題がある。
【0012】
そこで、このような問題を解消するために、例えば特許文献1に記載の発明ではメタリック感を呈出するための顔料の原料としてのアルミフレークを、まずアルミニウムを溶かし、その溶けたアルミニウムをガス若しくは遠心力で吹き飛ばして粉々にする、いわゆるアトマイズ法により製造することが記載されている。
【0013】
またアルミニウム以外の金属をフレークにすることに関しては、例えば特許文献2に記載の発明では、チタンフレーク用の原料チタン粉末をチタンの水素化物を利用して粉砕し、チタン表面の酸素含有量を低く保ってチタンの展伸性を維持しつつ湿式粉砕することが記載されている。
【0014】
さらに、電子回路の回路パターンをインクジェット方式でプラスチック基板状に印刷することに関して生じる問題に対処するためには、例えば特許文献3に見られるように、回路パターンをインクジェット方式により印刷をすること、そしてそのインクジェット方式による印刷に際し用いるインクに、導電性を有する物質として金属箔を微細なまでに粉砕した金属微粉末を混入させた樹脂をインクとして用いること、が提案されている。
【0015】
【特許文献1】特開2003−82258号公報
【特許文献2】特開平4−131309号公報
【特許文献3】特開昭64−005095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、この特許文献1に記載の発明に記載されたアルミフレークであれば、これを製造するためにまずアルミニウムの粉末をわざわざ用意しなければならず、必ずしも効率的とは言えない。また特許文献2に記載の発明であれば、やはりまず最初に原料としてのチタン粉末を用意しなければならず、やはり効率的とは言えない。また原料チタンを水素化しなければならず、チタン単体でのフレークとすることが困難であり、必ずしも好ましいものとは言えなかった。
【0017】
このように、従来提案されている鱗片状メタルフレーク及び鱗片状メタルフレークの製造方法であれば、ナノサイズまでの微細化が困難である、利用できるメタルの種類に限度がある、等の点で昨今の市場要望に充分に答えることができていなかった。
【0018】
さらに上述したような手法であれば確かに鱗片状のメタルフレークを得ることができるが、その状態は鱗片状メタルフレークがそのままであり、即ち何らかの溶媒等に含まれた状態などではなく剥き出しのままであるため、例えば鱗片状メタルフレークが大気と常時接触した状態であるためにその劣化が急速に進み良好な保存ができない、また大気中に散乱された状態となると粉塵爆発を生じる可能性もあり危険性が高くなる、さらに運搬しようにも上記のような問題を含んでいるため運搬が容易ではない、という問題も数多く生じていた。
【0019】
また電子回路の製作に関して考察すると、この特許文献3に記載された導電パターン形成方法では、確かにインクジェットに用いられるインクには、Pd、Pt、Au、Ag、Rh、Ni、Cu、Al等の一種又は二種以上の金属粉と、ビヒクルとを含有する、その混合比は適宜選択する、と明記はされているものの、実際の金属粉がどの程度の大きさなのか、さらにはどの程度の割合で混合されているのか、については全く記載がなされていない。
【0020】
その一方で、昨今のインクジェット印刷では、大変微細なところまで描き分けるだけの高性能なものとなっているが、そのためには当然インクジェット印刷を行うことができる印刷機器においてインクジェットを噴出するノズル部分は微細な描き分けが可能なレベルにまで精細化している。
【0021】
つまり、最低限でもこの噴出口の大きさより小さな金属粉とする必要があることは容易にわかるが、であればどの程度の大きさの金属粉をどのようにして得るのか、という最も重要な点に関して、この特許文献3には全く記載も明記もなされておらず、即ち実用不可能と言わざるを得ないものであった。
【0022】
さらに付言するならば、単純にインクに金属粉を含有させたとしても、その比重により金属粉がインク中に均等に分散しておらず、かようなインクをインクジェット印刷に用いる場合、印刷機器におけるインク収納部分におけるインクの中で金属粉は沈殿してしまい、いざ印刷をしようとしても最初は金属粉の混合比率が低い上澄み部分が印刷に用いられ、後に金属粉が混合した部分が用いられ、といったような現象が生じてしまい、即ちかような状態で回路を印刷しようとしても印刷し始めの部分では金属粉が存在していないインクが印刷されてしまい、結局回路として成立しなくなってしまい、問題であった。
【0023】
さらに普通に金属箔を単純に粉砕しただけであれば、通常その形態は粒状であるため、粒状の金属粉同士が静電気などの力によってインク中においてすぐに凝集して大きな粒となってしまい、その結果、大きな粒と化した金属粉が混合されているインクをインクジェット印刷機器に用いると即座に印刷ノズルが詰まってしまい、結局のところ特許文献3に開示された程度ではとても実用に供することができないものであった。
【0024】
本発明はこのような問題点に鑑みて為されたものであり、その目的は、従来品に比べてより一層、ナノサイズと呼べる厚みを有し、かつ高アスペクト比を有した金属又は金属化合物による鱗片状微粉末、又は導電性を有した鱗片状微粉末、であって、これを特定の溶媒に含有した状態で即座に利用できるようにした鱗片状微粉末含有溶液の製造方法、またそれにより得られる鱗片状微粉末含有溶液、さらにはこの含有溶液から溶媒を除去して得られる鱗片状微粉末そのもの、等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
以上の課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の発明は、高分子樹脂フィルムを基材フィルムとし、前記基材フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離層を形成し、次いで前記剥離層の表面に金属単体、合金、又は金属化合物の何れか若しくは複数による薄膜を積層して積層体を得る積層工程と、前記剥離層を形成する剥離剤が可溶である溶媒を用いて前記積層体から前記薄膜を前記溶媒中に剥離することにより、少なくとも前記溶媒と前記剥離した薄膜とよりなる粗粉含有溶液を得る剥離工程と、前記粗粉含有溶液における前記薄膜の濃度を調整した濃度調整液を得る濃度調整工程と、前記濃度調整液に含有される前記薄膜を粉砕してこれを鱗片状微粉末とする粉砕工程と、を経て鱗片状微粉末を含有してなる鱗片状微粉末含有溶液を得ること、を特徴とする。
【0026】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、前記濃度調整工程を終了した後に前記粉砕工程を行う前に、前記濃度調整液に第2溶媒を加えて第2粗粉含有溶液を得る溶媒置換工程と、前記第2粗粉含有溶液における前記薄膜の濃度を調整した第2濃度調整液を得る第2濃度調整工程と、をこの順に行うこと、を特徴とする。
【0027】
本願発明の請求項3に記載の発明は、高分子樹脂フィルムを基材フィルムとし、前記基材フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離層を形成し、次いで前記剥離層の表面に金属単体、合金、又は金属化合物の何れか若しくは複数による薄膜を積層して積層体を得る積層工程と、前記剥離層を形成する剥離剤が可溶である溶媒を用いて前記積層体から前記薄膜を前記溶媒中に剥離することにより、少なくとも前記溶媒と前記剥離した薄膜とよりなる粗粉含有溶液を得る剥離工程と、前記粗粉含有溶液に含有される前記薄膜を粉砕してこれを鱗片状微粉末とする粉砕工程と、前記破砕工程を経た前記粗粉含有溶液における前記薄膜の濃度を調整した濃度調整液を得る濃度調整工程と、を経て鱗片状微粉末を含有してなる鱗片状微粉末含有溶液を得ること、を特徴とする。
【0028】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、前記濃度調整工程を終了した後に、前記濃度調整液に第2溶媒を加えて第2濃度調整液を得る溶媒置換工程を行うこと、を特徴とする。
【0029】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1又は請求項4の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、前記薄膜の積層方法が真空蒸着法、又はスパッタリング法を用いてなること、を特徴とする。
【0030】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、前記溶媒若しくは前記第2溶媒が水系溶媒又は有機系溶媒であること、を特徴とする。
【0031】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、前記鱗片状微粉末の面における最も長い端から端の長さの平均値である平均長径が0.1μm以上50μm以下であり、前記鱗片状微粉末の厚みの平均的な値が2nm以上500nm以下であり、前記平均長径と前記厚みとの比、即ち平均長径/厚みで示されるアスペクト比が20以上であること、を特徴とする。
【0032】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法により得られてなる鱗片状微粉末溶液であること、を特徴とする。
【0033】
本願発明の請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の鱗片状微粉末含有溶液に含有される前記溶媒、若しくは前記溶媒と前記第2溶媒と、を前記鱗片状微粉末含有溶液から除去して得られてなる鱗片状微粉末であること、を特徴とする。
【0034】
本願発明の請求項10に記載の発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法における鱗片状微粉末が導電性を備えてなる導電性鱗片状微粉末含有溶液製造方法であること、を特徴とする。
【0035】
本願発明の請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、前記鱗片状微粉末の面における最も長い端から端の長さの平均値である平均長径が0.1μm以上5μm以下であり、前記鱗片状微粉末の厚みの平均的な値が2nm以上100nm以下であり、前記平均長径と前記厚みとの比、即ち平均長径/厚みで示されるアスペクト比が20以上である導電性鱗片状微粉末含有溶液製造方法であること、を特徴とする。
【0036】
本願発明の請求項12に記載の発明は、請求項10又は請求項11に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液製造方法により得られてなる導電性鱗片状微粉末含有溶液であること、を特徴とする。
【0037】
本願発明の請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液に含有される前記溶媒、若しくは前記溶媒と前記第2溶媒と、を前記導電性鱗片上部粉末含有溶液から除去して得られる導電性鱗片状微粉末であること、を特徴とする。
【0038】
本願発明の請求項14に記載の発明は、請求項12に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液、又は請求項13に記載の導電性鱗片状微粉末を用いてなる導電性塗料であること、を特徴とする。
【0039】
本願発明の請求項15に記載の発明は、請求項12に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液、又は請求項13に記載の導電性鱗片状微粉末を用いてなる導電性インクであること、を特徴とする。
【0040】
本願発明の請求項16に記載の発明は、請求項15に記載の導電性インクをインクジェット印刷方式の印刷用インクとして用い、該インクジェット印刷方式で印刷することにより得られてなる電子回路であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
以上のように、本願発明に係る鱗片状微粉末含有溶液製造方法であれば、単なる略粒形状の微粉末ではなく、1つ1つが鱗片状である微粉末を得ることができ、さらにこの鱗片状微粉末を含有した溶液として製造することができるので、この溶液を様々な用途に即座に利用することが可能となり、好適である。また溶液状としているのでこの鱗片状微粉末を運搬するのにも好適であると言える。さらに利用する目的に応じて溶媒を置換することも簡単にできるので、ますます用途の広い溶液とすることができる。そして本願発明により得られる鱗片状微粉末の平均長径が0.1μm以上50μm以下であり、厚みの平均的な値が2nm以上500nm以下であり、平均長径/厚みで示されるアスペクト比が20以上である、としたので、例えばこれをインクや塗料、化粧料等に含有させて用いるならば、従来の略粒形状であれば塗布後の表面に粒が浮き出てしまい表面がざらついた印象となる、即ち滑らかさを得られず、その表面も緻密なものとできなかったところ、本願発明によれば、塗布後であっても表面に微粉末が浮き出てしまうこともなく、滑らかなままで、その表面は、塗料であれば滑らかな鏡面状の金属光沢等を付与でき、また化粧料では高級ラメ感等を呈することができるようになる。
【0042】
また、本願発明のように鱗片状微粉末に導電性を付与し、平均長径を0.1μm以上5μm以下、厚みを2nm以上100nm以下、平均長径/厚みで示されるアスペクト比が20以上とすることで、これをインクジェット印刷用のインクに含有させ、そのインクを用いてインクジェット印刷によって、例えばフィルム基板へ回路パターンを形成することで導電性を有したフレキシブルな回路基盤を得ることができ、また印刷後に加熱処理を施すことでより一層優れた回路基盤を得ることができる。さらに、従来では粒状の導電性微粉末を用いていたために導電性微粉末同士を大量に用いることで導電性微粉末を大量に連続して接する状況としなければ充分な導電性を確保できなかったところ、本願発明においては導電性鱗片状微粉末としたので、単にこれらが重なり合うだけで導電性を現出できるので、従来に比べて必要な導電性物質の量を減らすことができるようになり好適であると言える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0044】
(実施の形態1)
本願発明に係る鱗片状微粉末含有溶液製造方法(以下単に「本溶液製造方法」とも言う。)につき、第1の実施の形態として説明する。尚、以下の説明においては金属光沢を呈する鱗片状微粉末を念頭に置くこととするが、本願発明に係る本溶液製造方法により得られる鱗片状微粉末は必ず金属光沢を呈する必要があるものではなく、例えば金属酸化物等のような金属光沢を呈さない物質による鱗片状微粉末であっても同様であり、これらは全て如何に説明する第1の実施の形態と同様にして得られるものであることを予め断っておく。
【0045】
本実施の形態に係る本溶液製造方法は、高分子樹脂フィルムを基材フィルムとし、この基材フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離層を形成し、次いでこの剥離層の表面に金属単体、合金、又は金属化合物の何れか若しくは複数による薄膜を積層して積層体を得る積層工程と、剥離層を形成する剥離剤が可溶である溶媒を用いて積層体から薄膜を溶媒中に剥離することにより、少なくとも溶媒と剥離した薄膜とよりなる粗粉含有溶液を得る剥離工程と、粗粉含有溶液における薄膜の濃度を調整した濃度調整液を得る濃度調整工程と、濃度調整液に含有される薄膜を粉砕してこれを鱗片状微粉末とする粉砕工程と、を備えた方法である。尚、本実施の形態においては基材フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離層を形成し、そのさらに表面に積層を行うこととしているが、これは基材フィルムの何れか一方の面だけに積層してなるものとしてもよく、又は両面に同様に積層していても構わないものとするが、以下の説明では片面のみに積層した場合につき説明をする。しかし両面に積層した場合であっても、以下に説明する片面への積層を反対面へも同様に行うこととすればよいので、その詳細な説明は省略する。
【0046】
以下、順番に説明をしていく。
まず最初に積層工程につき説明する。
この工程は、要するに鱗片状微粉末を得るための積層体を作る工程であり、即ちいったん基材フィルム上に薄膜を積層して形成した後に薄膜を基材フィルムから剥離しこれを粉砕するという作業に用いるための、いわば原材料とも言うべき積層体を作るための工程であると言うことができる。
【0047】
まず基材フィルムとして高分子樹脂フィルムを用いるが、これは上述したような目的に利用可能な高分子樹脂フィルムであればよく、例えばポリエチレンテレフタレート等の高分子樹脂フィルムを用いることが好適である。さらに後述のように、得られた積層体を溶媒を用いて剥離する際に、用いられる溶媒によって損傷しない高分子樹脂フィルムを用いておけば、これを再利用することが考えられるので好ましいと言える。尚、この高分子樹脂フィルムの厚みとしては特段の制限はないが、6μm以上100μm以下であれば、その厚みのものであれば入手しやすく、また後述の工程を実施する際に取扱がやりやすい、換言すれば、薄すぎれば搬送する際に薄膜が容易に離脱してしまい生産性を阻害することが考えられ、また厚すぎれば重量が不用意に増してしまう、後述の剥離工程がやりにくくなってしまう、等の状況が生じてしまう可能性が考えられるが、上述の厚みであればかような心配は無用なものとなる。
【0048】
次にこの基材フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離層を形成するのであるが、本実施の形態においてこの剥離剤は特に制限されるものではなく、従来公知のものを用いればよいのであるが、何を選定するかという観点で説明をすれば、前述した高分子樹脂フィルムの表面にも容易に積層可能であり、また後述する薄膜を積層するのも容易である物質でなければならない、ということが重要である。つまり剥離工程を実施するまでは基材フィルムと後述の積層物とが剥離してはならず、しかし剥離工程を実施することにより容易に剥離しなければならない、という矛盾した目的を達する必要があり、そのためには高分子樹脂フィルムと薄膜との両方に対してこの目的を達するものを選択しなければならないのである。故に、公知な剥離剤であれば無条件に何であってもよい、というものではなく、前述の条件を満たす必要があると言える。
【0049】
この剥離層は、本実施の形態においてはいわゆるウェットコーティングと呼ばれる手法によって基材フィルム表面に塗布、積層されることにより形成される。そして剥離層の厚みとしては0.01μm以上0.50μm以下であることが好ましいが、これは剥離層が薄すぎればそもそも剥離層としての機能を発揮しない、厚すぎれば、特定の工程を施されることにより必要な時に初めて剥離する、という機能を発揮しないおそれがあるからである。
【0050】
このようにして剥離層を形成したら次にその表面に薄膜を積層する。そしてこの薄膜こそが本実施の形態に係る本溶液製造方法における鱗片状微粉末となるのである。
【0051】
この薄膜を形成する物質としては、金属単体であってもよいし、合金であってもよく、又は金属化合物であってもよく、さらにこれらが単体(単層)であってもよいし、要すればこの薄膜を形成する物質が金属光沢を呈するものであれば従来公知のものであってよく、さらに目的に応じて積層状態(複数の層)となっていてもよいが、何れにせよどのような鱗片状微粉末を得ようとするのか、どのような光沢が求められるのか、といった目的に応じて必要な物質を選択すればよい。
【0052】
ちなみに、本実施の形態では金属光沢を呈する鱗片状微粉末を念頭に置いているためこのような説明としているが、求めるものが金属光沢ではなく、例えば紫外線遮断などの特定の機能を所望する場合は、その求める機能に応じて薄膜を形成する物質を選択すればよい。例えば紫外線遮蔽に用いるのであれば、酸化チタンや酸化亜鉛、抗菌効果を期待するのであれば銀、亜鉛、銅、そして導電性を有したいのであれば銀、金、銅、酸化インジウムスズ(ITO)、といったようにであるが、予め断った通り、基本的な考え方は金属光沢を呈する金属微粉末と同様であるので、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0053】
これらの物質を前記剥離層の表面に積層するには、真空蒸着法やスパッタリング法等の従来公知の手法を用いることが考えられるが、本実施の形態では真空蒸着法又はスパッタリング法の何れかを用いることとする。これらの手法はかような積層に広く用いられている方法であり、また所望の薄さにかつ平滑に積層しやすい、という利点があるからである。
【0054】
これらの物質による薄膜の厚みは、2nm以上500nm以下であることが好ましい。これは、2nm以下であると後述の粉砕工程を経た結果、得られる微粉末が鱗片状とはならず略粒状となってしまい、即ち所望する鱗片状の微粉末を形成することができないからであり、500nmを超えてしまうと、その厚みでは微粉末と言うべきサイズを超えてしまい、また後述の薄いことにより得られる種々の効果を得られなくなるからである。
【0055】
以上の作業を経て積層工程が終わると、次に得られた積層体から薄膜を剥離する剥離工程を行う。この剥離工程では、得られた積層体を特定の溶媒に浸漬させることにより、積層体の表面層である薄膜を剥離することを特徴としている。故に特定の溶媒とは、先の積層工程で積層した剥離層を構成する材料が容易に溶解するものでなければならず、かような選定をすることは本実施の形態において重要な点である。尚、前述した通り、基材フィルムとしてこの溶媒によって損傷しない、又は溶解しないもの、例えば水系溶媒や有機系溶媒を選択すれば、この基材フィルムを再利用することが可能となるので、剥離層は容易に溶解するが基材フィルムは何ら損傷を受けない、という溶媒とすればより一層好適なものとなせるのである。
【0056】
この剥離工程を終えた後、溶液中には薄膜などの他に薄膜が剥離された基材フィルムも存在しているので、これを溶液中から除外する。よってこの剥離工程を終えた後の液体には、剥離層を溶解した溶媒と基材フィルムから剥離した薄膜とが存在していることとなる。この時点において薄膜は自然とある程度細かな破片となって割れた状態、即ち粗粉状で存在している。つまりこの溶剤は粗粉含有溶液として存在していると言える。そこで次に粗粉含有溶液において粗粉が存在する割合を調整する、即ち粗粉の濃度を調整する濃度調整工程を行う。
【0057】
具体的には、粗粉分散溶液を遠心分離法により処理することで、粗分含有溶液にある程度分散して存在している粗粉を液中において偏在させ、不要な量の溶媒を溶液から除去することにより、粗粉分散溶液の濃度を調整するのである。
【0058】
この濃度とは、後述するように、本実施の形態に係る本溶液製造方法により得られた溶液を何らかの製品、例えばインクや塗料、化粧料に用いる場合、必要とされる濃度のことである。例えばインクに本実施の形態に係る本溶液製造方法により得られた溶液を混合する場合、予め設計された濃度のものを含有させなければインクとして作用しない可能性があるが、ここで言う濃度とはこのことを指しているのである。
【0059】
そして粗粉含有溶液を予め設定しておいた濃度とすると、次にこの一定濃度とされた粗粉含有溶液に含まれる粗粉状になっている薄膜をさらに粉砕し、これを鱗片状微粉末とする粉砕工程を行う。
【0060】
この粉砕工程として、本実施の形態では特に何らかの手法に限定するものではなく、従来より微粉末を得るために用いられてきた公知なる技術を用いればそれでよいものとするが、重要な事柄は、この粉砕工程を終えることにより得られた鱗片状微粉末の、面における最も長い端から端の長さの平均値である平均長径が0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。一方、先に述べた通り鱗片状微粉末の厚みは2nm以上500nm以下であるものとしており、そして平均長径及び厚みがこれらの範囲であって、かつ得られる鱗片状微粉末のアスペクト比が20以上であるものとすると、使い勝手のよい、即ちインクや塗料、化粧料等に含有させた場合に効果を発揮しやすいものとすることができる。
【0061】
尚、詳細な説明は省略するが、粉砕工程を行うに際して前述の粗粉分散溶液から粗粉状となった薄膜のみを従来公知の手法により取り出しこれを粉砕することも考えられるが、本実施の形態のように粗粉分散溶液そのままの状態で粉砕工程を行うようにすれば、実際に必要となる鱗片状微粉末を管理、運搬、保存等がしやすくなる、等の点で好適なものとすることができる。この際には、鱗片状微粉末は実際に必要とする場面の直前に濾過などにより取り出せばよい。
【0062】
以上の工程により本実施の形態に係る鱗片状微粉末含有溶液製造方法が構成され、またこの方法により鱗片状微粉末含有溶液が得られる。
【0063】
そして得られた鱗片状微粉末含有溶液に含まれる鱗片状微粉末そのものが必要であるならば、これを構成する溶媒を何らかの手法、例えば蒸発、濾過、等の手法で除去すればよく、また得られた鱗片状微粉末含有溶液を、例えばインクや塗料、化粧品などの製品に含有させることで、鱗片状微粉末の有する効果を付与することができる。つまり、例えば鱗片状微粉末が金属光沢を備えたものであれば、これを化粧料に含有させることで、得られる化粧料にはラメ状の金属光沢が付与されることとなり、しかも鱗片状微粉末であるため、略粒状のものに比べ、一見すると表面がぶつぶつに見えない、滑らかな状態で、なおかつスパンコールのように金属光沢を放つ化粧品とすることができるのであり、従来の略粒状の微粉末を含有させた場合に比べ、はるかに印象的な意匠性を周囲に与えることができるようになるのである。
【0064】
尚、以上説明した本実施の形態においては先に濃度調整を行い、その後に粉砕を行う順番となっているが、これを逆にすることも考えられる。即ち、濃度を調整することにより濃度調整液の粘度が高いものとなってしまった場合、これをそのまま前述した粉砕工程にかけようとしても粘度が高すぎるために効果的な粉砕を実行できないことが考えられる。そのような場合には、先に粉砕工程を行ってしまい、しかる後に濃度調整工程を実行した方が好適な鱗片状微粉末を得やすいこととなる。但し順番を入替える場合であっても、濃度調整工程及び粉砕工程そのものについては前述の通りであるので、これ以上詳細な説明についてはこれを省略する。
【0065】
(実施の形態2)
次に第1の実施の形態とは異なる鱗片状微粉末含有溶液製造方法(以下、単に「第2の製造方法」とも言う。)につき、第2の実施の形態として説明する。尚、本実施の形態においても第1の実施の形態で断った通り、また第1の実施の形態における場合と同様に、必ずしも金属光沢を呈するものに限定するものではなく、むしろあらゆる微粉末に対して同様の手法が用いられることを予め断っておく。
【0066】
この第2の製造方法は、基本的に第1の実施の形態に係る製造方法と同様であるが、濃度調整工程を終了した後、粉砕工程を行う前に、溶媒を変更する溶媒置換工程を行うことに特徴を有するものである。
【0067】
先に説明した第1の製造方法で述べたように、本願発明に係る鱗片状微粉末含有溶液製造方法により得られた溶液は、そのままの状態でインクや塗料、化粧料等に適用されるのであるが、場合によってはインクや塗料などに望ましい溶媒と、基材フィルムと薄膜との間に存在する剥離剤を溶解させる溶媒とが相違するケースが考えられる。つまり、基材フィルムと薄膜との間に用いることができる剥離剤は、基材フィルムと薄膜の素材によりある程度の制限が加えられるが、その制限により選択された剥離剤を溶解できる溶媒が、インクや塗料の面から望ましくない溶媒である場合、これを置換する必要が生じる。
【0068】
そこでこの第2の製造方法では、前述したように溶媒置換工程を実行することにより、かような要望に応えることを可能としているのである。
【0069】
この溶媒置換工程とは、具体的に以下のように行われる。
まず最初に第1の実施の形態で説明した濃度調整工程を実施する。そして得られた、濃度調整工程を施された濃度調整液を構成する溶媒をそこから可能な限り除去する。そして次に除去した溶媒の代わりに所望の第2溶媒をこれに加え、これを第2粗粉含有溶液とする。次にこの第2粗粉含有溶液に対し、先の濃度調整工程と同様の工程を第2濃度調整工程として実施する。この第2濃度調整工程を経て、第2溶媒と粗粉とを主成分とする第2濃度調整液を得るのである。
【0070】
尚、この手法であれば、最初に用いた溶媒は完全には除去できない。即ち、最初の濃度調整工程から最初に用いた溶媒を可能な限り除去する、と説明したが、粗粉が偏在している周囲に存在する溶媒は、これを除去しようとすると最終的に必要な粗粉までも一緒に除去してしまう可能性があるので、結局最初に用いた溶媒は完全に除去することは困難であると言わざるを得ないのである。
【0071】
しかし、ここで説明した第2濃度調整工程を行うことで、最初に用いた溶媒による影響を無視できるレベルにまで薄めることが可能であり、また1回限りではその影響を無視できるレベルにまで薄められないのであれば、ここで説明した第2濃度調整工程を数次にわたり繰り返し実施することで、最初に用いた溶媒が第2濃度調整液中に存在する割合を限りなく0%に近づけることができるようになる。尚、この際に用いる溶媒としては、先の場合と同様、水系溶媒又は有機系溶媒であることが好ましい。
【0072】
このように、本実施の形態における第2濃度調整工程は、必要に応じ何度でも繰り返し実施すればよいのである。そして本実施の形態の第2の製造方法により得られた鱗片状微粉末含有溶液であれば、インクや塗料などの面から要望される溶媒に所望の鱗片状微粉末が含有されているので、これをそのままインクや塗料等に含有させて利用すればよいので、即ち簡便に利用できるようになり、好適なものとなせるのである。
【0073】
尚、この第2の実施の形態においても、先に説明した第1の実施の形態と同様、先に粉砕工程を行い、次いで濃度調整工程を行い、さらに第2濃度調整工程を行う、という順番とすることも考えられるし、状況によっては入替える方が好適な結果を得られることが充分あり得るが、その個々の工程に関する詳細な説明についてはやはり前述した内容と同様であるのでここではそれを省略する。
【0074】
(実施の形態3)
さらに、本願発明に係る鱗片状微粉末含有溶液製造方法において鱗片状微粉末に導電性を付与させた場合につき、第3の実施の形態として説明する。
【0075】
この第3の実施の形態においては、基本的に先に述べた第1又は第2の実施の形態と同様であるが、要すれば鱗片状微粉末に導電性を付与するために、結果として薄膜として用いる金属単体、合金、又は金属化合物の何れかが導電性を有していることが重要である。
【0076】
そこでこの薄膜に導電性を付与することに関して説明すると、要すれば薄膜を形成する原材料が導電性を発揮するものであればよく、即ちこの導電性薄膜を形成する物質としては、導電性を発揮できることが従来公知である金属単体であってもよいし、合金であってもよく、又は金属化合物であってもよく、さらにこれらが単体(単層)であってもよく、さらに目的に応じて、例えば最外面に位置する層のみが導電性を有している、複数層からなる積層体となっていてもよいが、何れにせよどのような導電性鱗片状微粉末を得ようとするのか、という目的に応じて必要な物質を選択すればよい。
【0077】
具体的には、金属単体であればAu、Ag又はCu、合金であればAgとCuとの合金、AuとAgとの合金、又はNiとCrとの合金、金属化合物であればITO等の物質を用いることが考えられるが、これ以外の物質であっても同様に用いることが考えられる。
【0078】
これらの物質を前記剥離層の表面に積層するには、真空蒸着法やスパッタリング法等の従来公知の手法を用いることが考えられるが、本実施の形態では真空蒸着法又はスパッタリング法の何れかを用いることとする。これらの手法はかような積層に広く用いられている方法であり、また所望の薄さにかつ平滑に積層しやすい、という利点があるからである。また積層する物質によってはいわゆるウェットコーティング法と呼ばれる手法で積層することも考えられるが、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0079】
これらの物質による導電性薄膜の厚みは、2nm以上100nm以下であることが好ましい。これは、2nm以下であると後述の粉砕工程を経た結果、得られる微粉末が鱗片状とはならず略粒状となってしまい、即ち所望する鱗片状の微粉末を形成することができないからであり、100nmを超えてしまうと、その厚みではナノサイズ特有の量子効果等、後述の薄いことにより得られる種々の効果を得られなくなるからである。
【0080】
以上、第1の実施の形態において説明した鱗片状微粉末の性質に加え、さらに導電性をも備えた導電性鱗片状微粉末含有溶液の製造方法により得られた導電性鱗片状微粉末含有溶液に含まれる導電性鱗片状微粉末そのものが必要であるならば、先述同様に、これを構成する溶媒を何らかの手法、例えば蒸発、濾過、等の手法で除去すればよく、また得られた導電性鱗片状微粉末含有溶液を塗料に含有させることで導電性塗料が得られ、また同様にインクに含有させれば導電性インクとすることができる。
【0081】
そしてこの導電性インクを用いてインクジェット方式でプラスチック基板上に導電パターンを印刷すると、又は印刷をした後に、例えば導電性をより良好なものとするために、加熱処理する、といったような公知な処理方法を施すことにより、良好な電子回路とすることができるようになる。このようにして得られる電子回路は導電性鱗片状微粉末を用いるので、略粒状の場合に比べ、加熱処理時における金属融着効率が向上し、かつ粒子間の隙間の少ない、滑らかな状態とすることができるようになるのである。
【0082】
この点につきもう少し説明を加えると、金属をナノサイズまで微粒化すると、量子効果により金属そのものの融点が下がるので、インクジェット方式で印刷した後に加熱処理(焼成)すれば、本来の融点まで加熱することなくナノ粒子同士が融着し、バルクに近い導電性が得られるようになる。つまり、本実施の形態においては低温焼成が可能となるので、耐熱性のないフィルムなどを基板にしたフレキシブルな電子回路も作成できるようになる。ちなみに銀をナノ粒子化した場合は150〜200℃で焼成できるとされている。そしてこのように印刷後導電性鱗片粉同士が面接触している状態であるため、加熱処理することで金属融着効率が向上し、粒子間に隙間の少ない回路が形成できるようになり、またフレキシブルな回路パターンの形成にも有利であると言える。
【0083】
尚、この第3の実施の形態においても、先に述べた第2の実施の形態と同様な処理を実行することが可能であることを付言しておく。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子樹脂フィルムを基材フィルムとし、
前記基材フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離層を形成し、次いで前記剥離層の表面に金属単体、合金、又は金属化合物の何れか若しくは複数による薄膜を積層して積層体を得る積層工程と、
前記剥離層を形成する剥離剤が可溶である溶媒を用いて前記積層体から前記薄膜を前記溶媒中に剥離することにより、少なくとも前記溶媒と前記剥離した薄膜とよりなる粗粉含有溶液を得る剥離工程と、
前記粗粉含有溶液における前記薄膜の濃度を調整した濃度調整液を得る濃度調整工程と、
前記濃度調整液に含有される前記薄膜を粉砕してこれを鱗片状微粉末とする粉砕工程と、
を経て鱗片状微粉末を含有してなる鱗片状微粉末含有溶液を得ること、
を特徴とする、鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、
前記濃度調整工程を終了した後に前記粉砕工程を行う前に、
前記濃度調整液に第2溶媒を加えて第2粗粉含有溶液を得る溶媒置換工程と、
前記第2粗粉含有溶液における前記薄膜の濃度を調整した第2濃度調整液を得る第2濃度調整工程と、
をこの順に行うこと、
を特徴とする、鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項3】
高分子樹脂フィルムを基材フィルムとし、
前記基材フィルムの表面に剥離剤を塗布して剥離層を形成し、次いで前記剥離層の表面に金属単体、合金、又は金属化合物の何れか若しくは複数による薄膜を積層して積層体を得る積層工程と、
前記剥離層を形成する剥離剤が可溶である溶媒を用いて前記積層体から前記薄膜を前記溶媒中に剥離することにより、少なくとも前記溶媒と前記剥離した薄膜とよりなる粗粉含有溶液を得る剥離工程と、
前記粗粉含有溶液に含有される前記薄膜を粉砕してこれを鱗片状微粉末とする粉砕工程と、
前記破砕工程を経た前記粗粉含有溶液における前記薄膜の濃度を調整した濃度調整液を得る濃度調整工程と、
を経て鱗片状微粉末を含有してなる鱗片状微粉末含有溶液を得ること、
を特徴とする、鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、
前記濃度調整工程を終了した後に、
前記濃度調整液に第2溶媒を加えて第2濃度調整液を得る溶媒置換工程を行うこと、
を特徴とする、鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項4の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、
前記薄膜の積層方法が真空蒸着法、又はスパッタリング法を用いてなること、
を特徴とする、鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、
前記溶媒若しくは前記第2溶媒が水系溶媒又は有機系溶媒であること、
を特徴とする、鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、
前記鱗片状微粉末の面における最も長い端から端の長さの平均値である平均長径が0.1μm以上50μm以下であり、
前記鱗片状微粉末の厚みの平均的な値が2nm以上500nm以下であり、
前記平均長径と前記厚みとの比、即ち平均長径/厚みで示されるアスペクト比が20以上であること、
を特徴とする、鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法により得られてなること、
を特徴とする、鱗片状微粉末含有溶液。
【請求項9】
請求項8に記載の鱗片状微粉末含有溶液に含有される前記溶媒、若しくは前記溶媒と前記第2溶媒と、を前記鱗片状微粉末含有溶液から除去して得られてなること、
を特徴とする、鱗片状微粉末。
【請求項10】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の鱗片状微粉末含有溶液製造方法における鱗片状微粉末が導電性を備えてなること、
を特徴とする、導電性鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液製造方法において、
前記鱗片状微粉末の面における最も長い端から端の長さの平均値である平均長径が0.1μm以上5μm以下であり、
前記鱗片状微粉末の厚みの平均的な値が2nm以上100nm以下であり、
前記平均長径と前記厚みとの比、即ち平均長径/厚みで示されるアスペクト比が20以上であること、
を特徴とする、導電性鱗片状微粉末含有溶液製造方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液製造方法により得られてなること、
を特徴とする、導電性鱗片状微粉末含有溶液。
【請求項13】
請求項12に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液に含有される前記溶媒、若しくは前記溶媒と前記第2溶媒と、を前記導電性鱗片上部粉末含有溶液から除去して得られること、
を特徴とする、導電性鱗片状微粉末。
【請求項14】
請求項12に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液、又は請求項13に記載の導電性鱗片状微粉末を用いてなること、
を特徴とする、導電性塗料。
【請求項15】
請求項12に記載の導電性鱗片状微粉末含有溶液、又は請求項13に記載の導電性鱗片状微粉末を用いてなること、
を特徴とする、導電性インク。
【請求項16】
請求項15に記載の導電性インクをインクジェット印刷方式の印刷用インクとして用い、該インクジェット印刷方式で印刷することにより得られてなること、
を特徴とする、電子回路。

【公開番号】特開2008−202076(P2008−202076A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37582(P2007−37582)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】