説明

鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤

【課題】鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤を提供する。
【解決手段】ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含む鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤に関するものであり、詳細には、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含む鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥インフルエンザウイルスは、鳥に対する殺傷能力が大きく、感染力も強い。しかしこの鳥インフルエンザウイルスに対抗し得る薬剤は少なく、特に環境に対する影響が少ないと考えられる薬剤は皆無といえる。農薬に順ずるものでポジテイブリストに載っている薬剤はあるものの、鳥インフルエンザウイルスの感染予防には有効ではない。鳥インフルエンザウイルスの最大の予防策は罹患した鶏のみならず、同じ飼育環境の鶏を全数殺傷することであり、またこれが被害の拡大を抑える方法ではあるが、この方法は対処療法に過ぎないものであり、解決策にはなり得ない。また、被害は鳥インフルエンザウイルスへの感染が確認された鶏舎のみならず、未だ鳥インフルエンザウイルスへの感染が確認されていない周辺の鶏舎にも及ぶことになり甚大なものとなる。
【0003】
特開2006−158361号公報には、鳥インフルエンザウイルスの予防のための、ヒバ油あるいはヒノキチオールを添加或いは含浸させた鶏舎内の家畜敷料が開示されている。ヒノキチオールは、幾つかのウイルスに対する抗ウイルス効果を有し、且つ安全性の高い化合物として知られている。しかし、上記公報には、上記家畜敷料が鳥インフルエンザウイルスに対して抗ウイルス効果を有することを裏付ける試験データは何ら示されておらず、また、ヒバ油あるいはヒノキチオールを家畜敷料に添加或いは含浸させる具体的な態様も家畜敷料の具体的な製造例及び使用例も示されていない。
また、鳥インフルエンザウイルスは空中を浮遊することが知られており、従って、上記のように家畜敷料で鳥インフルエンザを予防するためには、相当量のヒバ油あるいはヒノキチオールが該家畜敷料から揮発して空気中に存在する必要があることになるが、そうすると、大量のヒバ油あるいはヒノキチオールの使用が必要となり、実用的ではない。
【特許文献1】特開2006−158361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鳥インフルエンザウイルスの感染を予防する効果が高く、安全性に優れ且つ実用性の高い鳥インフルエンザウイルス感染の予防剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、安全性に優れる天然素材であるヒノキチオール、若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール溶液を、鳥インフルエンザウイルスの感染が想定される場所に散布することにより、効果的に鳥インフルエンザウイルスの感染を予防し得ることを見い出し、本発明を完成させた。また、本発明の散布剤は経済性にも優れ、実用性の高い薬剤となり得る。
【0006】
即ち、本発明は、
(1)ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含む鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤、
(2)前記ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩において2種以上の金属
が使用される前記(1)記載の散布剤、
(3)前記金属が銅、亜鉛、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である前記(2)記載の散布剤、
(4)アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含む前記(1)ないし(3)の何れか1つに記載の散布剤、
(5)グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む前記(1)ないし(4)の何れか1つに記載の散布剤、
(6)鳥インフルエンザウイルス感染を予防する方法であって、前記(1)ないし(5)の何れか1つに記載の散布剤を鳥インフルエンザウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法、
(7)散布方法が、空気中への噴霧である前記(6)記載の方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤は、少量のヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩の使用においても、鳥インフルエンザの感染を有効に予防することができるため、安全性が高く、また、実用性の高い薬剤となり得る。
特に、抗ウイルス効果の高いヒノキチオールの金属錯体を用いれば、使用するヒノキチオールの量を削減でき、また、散布方法を噴霧により行うことで更に使用量を削減することができる。この際、金属錯体に含まれる金属も微量となる為に環境だけでなく、鶏肉や鶏卵にも影響を与える事はなく、また、鶏舎内の鶏や卵に直接噴霧することも問題とはならない。
従って、本発明により鶏肉業界でだけでなく、消費者に安全安心を提供することが可能である。
更に、鳥インフルエンザウイルスは、新型人インフルエンザウイルスに変換する可能性が研究者から指摘されているが、その際、本発明の鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤は、人にも安全な予防散布剤としての使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の、鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤は、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含む。
【0009】
本発明に使用するヒノキチオールは、タイワンヒノキ、ヒバ、アスナロ等の原料植物に由来する精油から抽出された天然物でもよく、化学合成品でもよい。また、市販品のヒノキチオールをそのまま用いてもよい。原料植物としては、入手容易性の観点から、ヒバが好ましい。原料植物からのヒノキチオールの抽出・精製は公知の方法により行うことができる。前記精油としてはヒバ油が好ましい。化学合成品も公知の方法により得ることができる。市販のものとしては、たとえば、高砂香料(株)や大阪有機化学工業(株)から販売されているものを挙げることができる。
【0010】
ヒノキチオールの金属錯体としては、ヒノキチオールと、亜鉛、銅、鉄、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、バリウム、スズ、コバルト、チタン、バナジウム、ビスマスなどとの金属錯体が挙げられる。ヒノキチオールと金属との割合は、特に限定されるものではないが、通常、ヒノキチオール:金属のモル比が2:1のもの、あるいは3:1のものが好ましく用いられる。
【0011】
ヒノキチオール若しくはヒノキチオールの金属錯体の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;銅
塩、亜鉛塩等の遷移金属塩;ジエタノールアミン塩、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール塩、トリエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;モルホリン塩、ピペラジン塩、ピペリジン塩等のヘテロ環アミン塩、アンモニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、ヒスチジン塩等の塩基性アミン塩等の有機塩類等を挙げることができる。
【0012】
これらのヒノキチオール若しくはその金属錯体又はこれらの塩は、1種類だけ単独で含有されていてもよいし、2種類以上併用してもよく、2種以上の金属が使用されるのが好ましい。
【0013】
また、好ましくは、前記金属は銅、亜鉛、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である。
また、ヒノキチオール銅錯体、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物等が好ましい。
【0014】
また、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩は、耐光性がヒノキチオールよりも優れているので、耐候性が要求される場合には、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩を用いることが好ましい。
更に、ヒノキチオールの金属錯体又は金属錯体の塩は、ヒノキチオールよりも低い濃度(例えば、1/10程度の濃度)で同等の効果を示すことから経済的な面からも好ましい。
【0015】
ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩は、媒体1000gに対して、50μgないし100g、好ましくは、0.1gないし80g、より好ましくは、0.5ないし50gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、水であるか又はアルコール含有率10ないし60%となるアルコール(水溶液)である。
【0016】
水溶液に使用する水は、水道水でも脱イオン水や蒸留水等の精製水でも使用できるが、脱イオン水等の精製水を使用するのが好ましい。
アルコール溶液に使用するアルコールは、たとえば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらは単独であるいは複数を組み合わせて使用してもよい。好ましいアルコールはエタノールである。
【0017】
本発明の鳥インフルエンザ感染を予防するための散布剤は、アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含むこともできる。
【0018】
アロエの抽出物とは、主にアロエが葉に持つゼリー状の身(葉肉)を厚搾抽出法で抽出し、熱を加えて濃縮安定化したエキスをいう。このようなアロエエキスに代えて、主成分であるアントラキノン誘導体のアロインやバーバーロインを用いてもよい。アロエ抽出物には、アロインやバーバーロインの他、アロエ‐エモジン、アロエシン、アロエニンなども含まれる。
【0019】
緑茶の抽出物としては、粉砕した緑茶を熱湯で抽出し、精製し濃縮した液を使用する。緑茶の抽出物の主成分は茶ポリフェノールである。茶ポリフェノールは、分子内にフェノール性水酸基を複数もつ化合物の総称で、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピガテキンガレート、エピガロカテキンガレートなどを主要成分とする。
【0020】
熊笹の抽出物は、低温高圧圧搾抽出法で、熊笹を抽出することにより得られる。低温高圧圧搾抽出法は、熊笹を高圧に設定した機械装置によって温度を上げずに抽出する方法で
、その時にしぼり出された液を濃縮した液が熊笹抽出物となる。熊笹は、日本や中国に広く分布しているイネ科のササの1種である。熊笹の抽出物には、主成分であるトリテルペノール(β−アミリン・フリーデン)の他、リグニン残渣、還元糖、グルコースなどの糖類も含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合成品の混合物を用いることもできる。
【0021】
ドクダミは、日本、タイワン、中国、ヒマラヤ、ジャワに分布し、山野や庭などに見られる多年草である。ドクダミの抽出物は、熊笹と同様に、低温高圧圧搾抽出法という方法で抽出する。ドクダミ抽出物には、クエルシトリン(quercitrin)、アフゼニン(afzenin)、ハイぺリン(hyperin)、ルチン、クロロゲン酸、β−シトステロール、cisおよびtrans-N-(4-ヒドロキシスチリル)が含まれている。熊笹の抽出物に代えて、これらの合
成品の混合物を用いることもできる。
【0022】
前記抽出物としては、アロエ、緑茶、熊笹及びドクダミの抽出物から選択される1種類だけを用いてもよいが、2種類以上を併用することが好ましく、より好ましくは上記4種の抽出物を全て含む。
【0023】
前記抽出物を添加する際の配合量は、ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩1質量部に対して、1ないし4質量部使用するのが好ましく、より好ましくは、1.2ないし3.5質量部の範囲である。
また、添加する際の各抽出物の配合量は以下の通りである。
例えば、アロエの抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし10g、より好ましくは、0.5ないし2.5gの割合で添加される。
例えば、緑茶の抽出物は、媒体1000gに対して、20μgないし100g、好ましくは、0.1gないし5g、より好ましくは、0.2ないし2gの割合で添加される。
例えば、熊笹の抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
例えば、ドクダミの抽出物は、媒体1000gに対して、10μgないし50g、好ましくは、0.05gないし3g、より好ましくは、0.1ないし1gの割合で添加される。
尚、上記媒体は、水又はアルコール含有率10ないし60%となるアルコール(水溶液)である。
【0024】
本発明の鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤は、グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むこともできる。
【0025】
グリセリンとしては、グリセリンおよびグリセリンの各種誘導体が挙げられる。
界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル類、キラヤサポニン等が挙げられる。これらを含有することにより、ヒノキチオール濃度を10質量%にまで高めた水溶液とすることができる。
アルコール溶液を使用する場合は、上記のような添加物を使用することなく高濃度のヒノキチオール溶液とすることができる。
【0026】
前記水溶液又はアルコール溶液中には更に、柿の葉、松、杉、あま茶づる、シソ、ワサビ、アカネ、ウメ、ニンニク、ペパーミント、ヨモギ、サンショウ、ダイオウ、アザミ、ハッカ、ビワ、ムラサキ、ラベンダー、レモングラス、及びレンギョウの抽出成分、ハチミツより抽出されるプロポリス等を含有してもよい。これらは、ヒノキチオールの殺菌力を損なうことなく、水に対するヒノキチオールの溶解度を高めることができる。
【0027】
上記に加え、さらに必要に応じて、従来使用されている添加剤、例えば金属石鹸、動物抽出物、ビタミン剤、ホルモン剤、アミノ酸等の薬効剤、色素、香料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、金属イオン封鎖剤、pH調整剤等を適宜配合することもできる。
【0028】
本発明の鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤の好ましい態様としては、以下が挙げられる。
0.5ないし5%のヒノキチオール銅錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオール塩化亜鉛混合物を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオールアルミニウム錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
0.5ないし5%のヒノキチオールビスマス錯体を含むアルコール含有率10ないし60%のエタノール溶液(水溶液)。
【0029】
本発明はまた、鳥インフルエンザウイルス感染を予防する方法であって、前記散布剤を鳥インフルエンザウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法に関する。
鳥インフルエンザウイルスの感染が想定される場所としては、主に鶏舎が挙げられるが、これに留まらず、鳥インフルエンザウイルスを運ぶと考えられる野鳥が集まる場所や、鶏舎の近くで野鳥が休息するような場所等が考えられる。
また、鶏舎に存在する全ての空間、鶏や卵を含む全ての物質が散布する対象として挙げられる。
【0030】
また、散布方法としては、薬剤を均一に散布し得る方法であれば特に限定されないが、噴霧器による噴霧で、特に、マイクロミストができる噴霧器による噴霧する方法が挙げられる。
本発明の散布方法に使用される噴霧器としては、アルコール溶液を安全に噴霧し得る噴霧器であれば、特に限定されないが、例えば、液化炭酸ガスボンベから送出される気化ガスの圧力を利用して噴霧する噴霧器が好ましい。
本発明の散布方法に使用可能な、具体的な噴霧器の1態様を図1に示した。
即ち、液化炭酸ガスが充填されかつサイホン式送出機構を備えた炭酸ガスボンベ10からの送出経路11に、温度調整可能な加温器12と圧力調整器13を設けて、この送出経路11と薬液タンク(容器)14とを噴霧手段であるスプレーガン15に接続してなり、液化炭酸ガスを加温気化して送出するとともに、薬液タンク14内の薬液を前記気化ガス圧力を利用して噴霧できるようにした噴霧器である。
図1に示した噴霧器では、薬液タンク14内の薬液がなくなった場合には、新たに薬液タンクを取換補給すれば、継続的に使用できる。
【0031】
上記で記載したような噴霧器を用い、インフルエンザウイルスがいそうな空中や付着しそうな場所に本発明の散布剤を噴霧することにより、抗ウィルス効果を得ることができる。ヒノキチオール(若しくはその金属錯体又はそれらの塩)は分子量が小さいためにマイクロミスト液とともに長時間空中にただようことが解っており、これにより、ヒノキチオールは超微粒子になって煙霧化し、散布空間内の全体に渡って隅々まで万遍に侵入でき、また散布状態も均一化し、長期に亘って抗ウイルス効果を示すことが期待でき、また、これにより、使用する薬量を削減することも可能となる。
特に、図1で示した噴霧器を使用した場合は、液化炭酸ガスの気化ガスを利用して噴霧するため、散布剤との化学反応を生じることがなく、薬液の性質変化のおそれがない。更に、特に薬液の容器とは別の液化炭酸ガスボンベから送出される気化ガスを利用して噴霧するものであるため、噴霧のためのガス容量が大きく、薬液容器を取換え補給することに
より、長時間の継続的な噴霧が可能になり、噴霧能力が最後まで低下することもない。
【実施例】
【0032】
以下の実施例により本発明をより詳しく説明する。但し、実施例は本発明を説明するためのものであり、いかなる方法においても本発明を限定することを意図しない。
製造例1:ヒノキチオール銅錯体の製造
ヒノキチオール131.8g(0.8mol)をメタノール160gに溶解した。この溶液に、水86gに水酸化ナトリウム29.1g(0.72mol)を溶解させた水溶液を、40℃ないし50℃で30分かけて滴下し、そのままの温度で1時間反応させた。更に、水210gに硫酸第二銅(CuSO4)5水和物94.2g(0.377mol)を
溶解させた水溶液を、40℃ないし50℃で1.6時間かけて滴下し、そのままの温度で1時間反応させた。冷却後、析出物を濾取し、濾物を水300gで2回洗浄した。減圧下(133.3Pa)40℃で乾燥することにより、ヒノキチオール銅錯体147.5gを緑色塊として得た。
【0033】
製造例2:ヒノキチオール塩化亜鉛混合物の製造
ヒノキチオール32.8g(0.2mol)に40℃ないし50℃でメタノール150gを滴下して溶解し、そのままの温度で1時間攪拌した。この溶液に、メタノール100gに塩化亜鉛(ZnCl2)13.6g(0.1mol)を溶解させた溶液を、30℃な
いし40℃で1.6時間かけて滴下し、40℃ないし45℃で5時間反応させた。冷却後、析出物を濾取し、濾物をメタノール30gで2回洗浄した。減圧下(133.3Pa)19ないし48℃で乾燥することにより、ヒノキチオール塩化亜鉛混合物37.1gを淡黄色塊として得た。
【0034】
実施例1:鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果
1)鳥インフルエンザウイルス
1983年大槻等が島根県に飛来したコハクチョウの糞から分離した弱毒のH5亜型ウイルスであるA/whistling swan/Shimane/499/83(H5N3)株を、ヒナで継代することにより、強毒化させることに成功した。該強毒化させたウイルスを以下の実験に使用した。
2)SPF10日齢発育鶏卵
栃木県青木種鶏場から有精卵を購入し、孵卵して実験に供した。
3)試験
製造例1で得たヒノキチオール銅錯体、製造例2で得たヒノキチオール塩化亜鉛混合物をそれぞれ、50%エタノール水溶液に溶解して、1%ヒノキチオール銅錯体溶液及び2%ヒノキチオール塩化亜鉛混合物溶液を調製し、被検溶液とした。
上記で調製した被検溶液にウイルス液を等量加えよく混合した。陰性対象として、50%エタノール水溶液を用い、同様にウイルス液を等量加えよく混合した。
それぞれの溶液を室温にて10分間静置した後、速やかに被検溶液−ウイルス混合液をPBSで10倍段階希釈し、希釈毎に3個の10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔内に0.2mLづつ接種した。
接種を受けた発育鶏卵は37℃で48時間培養した後、0.5%鶏赤血球凝集(HA)試験により、漿尿液中でのウイルスの増殖の有無を確認した。残存ウイルス価はReed
and Muenchの方法により算出した。
各被検溶液−ウイルス混合液における累積陰性数、累積陽性数及び累積陽性率を表1ないし3に示し、ウイルス力価を表4に纏めた。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0035】
上記の成績から、両被検体液と鳥インフルエンザウイルスとの室温での10分間の接触により、検査した限りウイルスの生残は認められず、少なくとも1000分の1以下にウイルスが不活化されたことが明らかとなった。本被検体は、鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果を有することが確認された。
【0036】
実施例2:散布剤の噴霧試験
噴霧器を用いて噴霧した際のヒノキチオール(金属錯体)の散布・残存状態を評価するために、以下の試験を行った。
実施例1にて調製した1%ヒノキチオール銅錯体溶液を、液化炭酸ガスボンベの圧力を利用して噴霧する噴霧器(シャットノクサス(登録商標)、新耕産業(株)社製)を用いて鶏舎内に噴霧し、鶏舎内で無作為に選ばれた4箇所における噴霧前と噴霧後の採菌による一般生菌、黄色ブドウ球菌及び真菌の菌数の減少度合いを、ヒノキチオール(金属錯体)の散布・残存状態の評価とした。噴霧は、おおよそ10m3当りに、1%ヒノキチオー
ル銅錯体溶液40mLを鶏舎内にまんべんなく噴霧し、20分後に採菌した。
結果を表5に纏めた。
【表5】

表5から、液化炭酸ガスボンベの圧力を利用する噴霧器による噴霧により、何れの採菌箇所においても細菌の繁殖が抑えられており、このことより、ヒノキチオール銅錯体が鶏舎内において、まんべんなく散布・残存していることが判った。
上記の噴霧試験結果は、実施例1において実証された鳥インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス効果が、噴霧により鶏舎内でまんべんなく発揮されるであろうことを明確に示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の散布方法に使用可能な噴霧器の1態様を示した概略図である。
【符号の説明】
【0038】
10:炭酸ガスボンベ
11:送出経路
12:温度調整可能な加温器
13:圧力調整器
14:薬液タンク(容器)
15:スプレーガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩を含む水溶液又はアルコール含有率10ないし60%のアルコール溶液を含む鳥インフルエンザウイルス感染を予防するための散布剤。
【請求項2】
前記ヒノキチオール若しくはその金属錯体又はそれらの塩において2種以上の金属が使用される請求項1記載の散布剤。
【請求項3】
前記金属が銅、亜鉛、アルミニウム、ビスマス又はこれらの混合物である請求項2記載の散布剤。
【請求項4】
アロエ、緑茶、熊笹、及びドクダミからなる群より選ばれる少なくとも1種の植物抽出物を含む請求項1ないし3の何れか1項に記載の散布剤。
【請求項5】
グリセリン及び界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項1ないし4の何れか1項に記載の散布剤。
【請求項6】
鳥インフルエンザウイルス感染を予防する方法であって、請求項1ないし5の何れか1項に記載の散布剤を鳥インフルエンザウイルスの感染が想定される場所に散布することからなる方法。
【請求項7】
散布方法が、空気中への噴霧である請求項6記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−167105(P2009−167105A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3476(P2008−3476)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(501382063)株式会社ジェイシーエス (14)
【出願人】(399084720)八尋産業株式会社 (8)
【出願人】(504322611)学校法人 京都産業大学 (27)
【Fターム(参考)】