説明

鳥類において生産能を促進する新規インヒビン関連複数抗原ペプチド組成物

本発明は、骨格に連結されたインヒビン関連ペプチドを少なくとも2つ含むMAP組成物を含む物質の新規組成物を提供する。この組成物は、免疫原性があり、許容される担体と一緒に動物、特に鳥類に投与すると、生産能を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、許容される担体とともに、動物、特に鳥類に投与したときに生産能を促進するインヒビン関連複数抗原ペプチド組成物を含む物質の新規組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥類種は、肉および卵として、食物のかなりの供給源を提供する。鳥類の生産能を促進することは、製品需要がこれまで高まっているために高成長を現在享受している産業にとってかなりの経済的価値がある。消費者需要を満足させ、肉の価格における競争力を維持するため、ブロイラーおよび七面鳥の繁殖用鳥は、できるだけ多くの孵化卵を産み続けるであろう。したがって、たとえ少しでも産卵を増加させることができる方法があれば、かなりの経済的利益が生じるはずである。
【0003】
一例として、1羽の繁殖用ブロイラー雌鶏が(ヘンハウス(hen housed)ベースで)1回の産卵周期の間(長さ約1年)にさらに15個卵を産む場合の筋書きは、以下の通りである。このような場合、孵化したばかりのさらなる鳥を売ることから、現在市場の雛の価格(雛1羽当たり0.16ドル)で2.00ドルの余剰収入が得られ、この雛が成長することから得られる鶏肉をさらに売ることから(飼料費および固定費に対して適当な控除額を勘案した後)、10〜12.00ドルが生じるはずである。繁殖用ブロイラー雌鶏の推定羽数は米国内で6000万羽を超えると思われるので、経済的な利益は、約7億5000万ドル+となるはずである。繁殖用七面鳥の(ならびに上記で論じたニワトリを含めて、特殊な家禽業のアヒル、ガチョウ、およびウズラを含む雌鳥の)生産能を促進することによって得られるはずである高い収入を含めて、肉を消費するために飼育される家禽をすべて含む家禽産業の食肉部門から得られる可能性がある全体的な経済的利益は、10〜20億ドルと推定される。
【0004】
「生産能を促進する」という語句は、雌鳥において以下の項目のうち1つまたは複数の増大を示すと当業者によって理解されている:繁殖力、すなわち産卵の早い開始、最大産卵の早い開始、産卵の長い持続、産卵量の増大、または生涯産卵数の増大。この語句はまた、飼料要求率の改善、卵殻の品質の向上、あるいは、熱ショック、過密状態、栄養不良、騒音など有害な産卵条件に対する耐性の向上をも含む。この語句は、雄において以下の項目のうち1つまたは複数の増大を意味する:繁殖力、すなわち春期発動期または精子産生の早い開始、最大精子産生の早い開始、精子産生の長い持続、精子産生量(精子数)の増大、射精量の増加、精子の生存率の向上、テストステロン産生の増大、または性欲の亢進。
【0005】
さらに、家禽すべての生産能の向上は、消費のために産生される家禽の数を増加させ、そのような産生の効率、または飼料要求率を改善するのに必要である。したがって、特に、ニワトリ、七面鳥、アヒル、ウズラ、およびガチョウを含む、家禽すべての生産能を改良するまたは促進する、組成物または方法の必要性が依然として存在する。
【0006】
ダチョウ、エミューなどの走禽類、およびオウム目などの珍しい鳥類の生産能を促進する組成物または方法の必要性も存在する。オウム目は、オウムを含み、対指足を示し鉤状の強いくちばしを有する鳥類の単一の目である。オウムは、鳥類のオウム科(オウム目のただ1つの科)のいずれかの一員であると定義され、短く太い、強い鉤状のくちばしで弁別される。
【0007】
生産能を促進する組成物または方法の必要性は、鳥類だけに限らない。多くの動物において、生産能を促進する有効な組成物または方法の必要性が依然として存在する。例えば、ブタ、ウシ、ヒツジなど、農畜産業で飼育されるほとんどの動物において、生産能を促進する必要性が引き続き存在する。ミンク、キツネ、カワウソ、フェレット、アライグマなどの毛皮動物、ならびに、ペットおよび実験研究対象として使用されるラット、マウス、スナネズミ、ハムスターなどのげっ歯類においても生産能を促進する必要性が引き続き存在し、その皮が装飾の目的で使用される他の動物についてもその必要性が高まっている。
【0008】
生産能を促進する組成物または方法は、絶滅を防ぐために、珍しい種または絶滅危惧種などの多くの動物の数を増加させるのにも必要である。さらに、ウマ、イヌ、ネコ、動物園の動物、サーカスの動物など、競走、エンターテインメント、またはショー(コンクール)に用いられる動物においても、生産能を促進する必要性が引き続き存在する。ヒトの不妊治療に対する強い要求によって示されるように、ヒトにおいても生産能を促進する必要性が存在する。したがって、多くの動物において、生産能を促進する組成物または方法の必要性が依然として存在する。
【0009】
発明の概要
本発明は一般に、アミノ酸骨格に連結された免疫原性ペプチドからなる複数抗原ペプチド(MAP)組成物を含む組成物を、許容される担体と一緒に動物に投与することにより、動物の生産能を促進する方法に関する。動物体内でMAP組成物に対する免疫応答が生じるように、有効量のMAP組成物を動物に投与する。本発明の方法が、インヒビンを産生する動物の生産能を促進することを理解されたい。ペプチドは、インヒビン関連ペプチドであることが好ましい。動物は、鳥であることが好ましい。鳥は、家禽であることが好ましい。鳥は、ニワトリ、七面鳥、アヒル、ガチョウ、またはウズラであることがより好ましい。他の好ましい鳥は、エミュー、ダチョウ、レア、ヒクイドリなどの走禽類である。
【0010】
本発明はさらに、許容される担体とともに、動物、特に鳥類に投与したとき、生産能を促進することができる、アミノ酸骨格に連結されたインヒビン関連免疫原性ペプチドを少なくとも2つ含むMAP組成物を含む新規組成物に関する。より詳細には、本発明は、アミノ酸骨格に連結された、インヒビンタンパク質の成熟型αサブユニットの免疫原性ペプチド断片を含むMAP組成物を含む組成物を対象とする。本発明のMAP組成物はまた、アミノ酸骨格に連結された、インヒビンタンパク質の1つまたは複数の成熟型αサブユニットを含む。インヒビンタンパク質は、あらゆる種由来のものでよいが、好ましくは、鳥類インヒビン、哺乳動物インヒビン、魚類インヒビン、または爬虫類インヒビンである。本発明はまた、個々のアミノ酸が天然型または非天然型の他のアミノ酸で保存的に置換されるように変換されたインヒビンペプチドをも含む。
【0011】
本発明はまた、アミノ酸を含む骨格に連結された、インヒビンの免疫原性ペプチド断片、またはその保存的置換体を少なくとも2つ含む本発明のMAP組成物の投与により、動物において生産能を促進する方法をも対象とする。1つの実施形態では、本方法は、有効量のMAP組成物を雌動物に投与するステップを含む。他の実施形態では、本方法は、有効量のMAP組成物を雄動物に投与するステップを含む。好ましくは、動物体内で生じる免疫応答はMAP組成物に対するものである。より好ましくは、動物体内で生じる免疫応答はまた、動物によって産生された内在性インヒビンタンパク質、またはその断片に対するものである。
【0012】
本発明の方法は、哺乳動物、爬虫類、魚類、鳥類など、インヒビンを産生する雌動物における生産能を促進する。好ましくは、本方法は、雌鳥における生産能を促進する。より好ましくは、本方法は、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、ガチョウ、アヒル、ダチョウ、エミュー、およびレアにおける生産能を促進する。意外にも、本発明の方法は、動物における春期発動期または産卵の開始を早める。また、本発明の方法は意外にも、動物における最大産卵の開始を早める。さらに、本発明の方法は、動物の産卵量を増大させる。さらにまた、本発明の方法は驚くべきことに、動物における最大産卵の持続期間を延長する。さらにまた、本発明は意外にも、動物の生涯産卵数を増大させる。本発明の方法はまた、鳥の飼料要求率を改善する。本発明の方法は特に、その業界基準より低体重の鳥類に有効である。したがって、本発明は、生産能を著しく促進し、特に、給餌に関して最適に管理されているわけではない鳥類の産卵を促進する。また、本発明の方法は意外にも、有害な条件にさらされた動物の産卵率に対するそのような有害な産卵条件の影響を低下させまたは排除する。そのような有害な条件には、高温、過密状態、栄養不良、低体重、および騒音がある。本発明の方法はまた、雌鳥の性欲を、したがって生殖能を亢進させる。
【0013】
本発明の方法はまた、哺乳動物、爬虫類、鳥類などの、インヒビンを産生する雄動物における生産能を改善する。好ましい実施形態では、本発明の方法は、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、アヒル、ガチョウ、ダチョウ、エミュー、およびレアを含むがそれらに限定されない雄鳥類における生産能を改善する。より詳細には、本発明の方法は、雄動物におけるテストステロンレベルを増大させる。同様に、本発明の方法は、雄動物における春期発動期または精子産生の開始を早める。また、本発明の方法は、雄動物における最大精子産生の開始を早める。さらに、本発明の方法は意外にも、雄動物による精子産生量(精子数)を増大させる。さらにまた、本発明の方法は、動物における最大精子産生の持続期間を延長する。また、本方法は、動物における精子の生存率を向上させる。本発明の方法はまた、動物の飼料要求率を改善する。本発明の方法は特に、その業界基準より低体重の動物に有効である。したがって、本発明は、給餌に関して最適に管理されているわけではない動物における生産能を著しく促進する。さらにまた、本方法は意外にも、有害な条件にさらされた動物の精子産生に対するそのような有害な条件の影響を低下させまたは排除する。そのような有害な条件には、高温、過密状態、栄養不良、および騒音がある。また、本発明の方法は驚くべきことに、雄動物の、特に雄鳥類の性欲を亢進させ、したがって生殖能を亢進させる。
【0014】
雌雄動物の、特に鳥類の発育を促進することにより、本発明はまた、消費されうるその肉を含む、何らかの製品としての動物のより早い収穫を促進する。本発明はまた、飼料要求率を低下させることにより、肉、卵、または他の製品用の動物、特に鳥類の生産コストを低下させる。
【0015】
したがって、本発明の方法は、有害な産卵条件にさらされた家禽の産卵率に対する負の影響を改善する。家禽は開放された制御されていない環境において飼育されることが多いため、本発明のこの態様は重要である。家禽は、給餌不足、高温、家禽が順応できない他の極端な天候条件など、有害な条件にさらされることが多く、それによって、家禽産業における産卵率が低下する。
【0016】
上記で述べたように、本発明の方法を使用して、以下のものに限定されないが、ブタ、ウシ、ヒツジ、七面鳥、ウズラ、アヒル、ガチョウ、ニワトリ、魚などの農畜産業で飼育されるほとんどの動物;ミンク、キツネ、カワウソ、フェレット、ウサギ、アライグマなどの毛皮動物;ラット、マウス、スナネズミ、モルモットなどの実験動物;ワニ、ヘビなどの、その皮が装飾の目的で使用される動物;珍しい種または絶滅危惧種;ウマ、イヌ、ネコ、動物園の動物、サーカスの動物などの、競走、エンターテインメントまたはショー(コンクール)に用いられる動物;ならびにヒトを含む、インヒビンを産生するあらゆる動物の生産能を促進する。
【0017】
本発明の方法は、走禽類、オウム目、ワシタカ目、キツツキ目、フクロウ目、スズメ目、ブッポウソウ目、クイナ目、ホトトギス目、ハト目、キジ目、ガンカモ目、およびサギ目(herodiones)を含む、他の鳥類における生産能を促進する。より詳細には、本発明の方法を用いて、ダチョウ、エミュー、レア、ニワトリ、七面鳥、アヒル、ガチョウ、ウズラ、ヤマウズラ、キジ、キーウィ、ヒクイドリ、オウム、インコ、コンゴウインコ、ハヤブサ、ワシ、タカ、ハト、バタンインコ、鳴禽、カケス、クロウタドリ、フィンチ、ムシクイ、カナリア、オオハシ、九官鳥、またはスズメの生産能を促進することができる。
【0018】
したがって、本発明の1つの目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合した、インヒビン関連ペプチド、その断片、またはその保存的置換体を少なくとも2つ含む新規MAP組成物を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合した、インヒビンの成熟型αサブユニット、またはその保存的置換体を含む新規MAP組成物を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合した、インヒビンの成熟型αサブユニット、その断片、またはその保存的置換体を含む新規MAP組成物を提供することである。
【0021】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合した、保存的に置換されたインヒビン断片を含む新規MAP組成物を提供することである。
【0022】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、許容される担体とともに動物に投与した際にその動物の体内で免疫応答を誘導する新規MAP組成物を提供することである。
【0023】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、許容される担体とともに鳥に投与した際にその鳥の体内で免疫応答を誘導する新規MAP組成物を提供することである。
【0024】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、許容される担体とともに雌鳥に投与した際にその雌鳥の体内で免疫応答を誘導する新規MAP組成物を提供することである。
【0025】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、許容される担体とともに雄鳥に投与した際にその雄鳥の体内で免疫応答を誘導する新規MAP組成物を提供することである。
【0026】
本発明の1つの目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、許容される担体とともに鳥に投与した際にその鳥の体内で生産能を増大させる新規MAP組成物を提供することである。
【0027】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、許容される担体とともに雌鳥に投与した際にその雌鳥の体内で生産能を増大させる新規MAP組成物を提供することである。
【0028】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、許容される担体とともに雄鳥に投与した際にその雄鳥の体内で生産能を増大させる新規MAP組成物を提供することである。
【0029】
本発明の他の目的は、アミノ酸を含む骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、生産能を増大させ、ここで、生産能が、許容される担体とともに雌鳥に投与した後の、繁殖力の促進、春期発動期の開始の促進、産卵開始の促進、産卵の持続期間の延長、雌鳥における産卵量の増大、飼料要求率の低下、または注射した鳥の雛を食肉として収穫するまでの時間の短縮によって示される、新規MAP組成物を提供することである。
【0030】
本発明の他の目的は、アミノ酸骨格に共有結合したインヒビンのペプチド断片を含み、許容される担体とともに雄鳥に投与した後に雄鳥の生産能を増大させ、ここで、生産能が、繁殖力の促進、すなわち、春期発動期または精子産生の開始の促進;最大精子産生開始の促進;精子産生の持続期間の延長;精子産生量(精子数)の増大;射精量の増大;精子の運動性および生存率の向上;テストステロン産生の増大;繁殖力の促進、すなわち、性欲の亢進、または注射した雄と交配した雌の雛を食肉として収穫するまでの時間の短縮によって示される、新規MAP組成物を提供することである。
【0031】
本発明の利点は、最適な繁殖力を維持するために老齢の繁殖用鳥の集団に若齢の雄を補充するこの業界の慣例を減らすこと、またはなくすことである。
【0032】
本発明の1つの目的は、家禽における生産能を促進する方法を提供することである。
【0033】
本発明の他の目的は、ニワトリにおける生産能を促進する方法を提供することである。
【0034】
本発明の他の目的は、七面鳥における生産能を促進する方法を提供することである。
【0035】
本発明の1つの目的は、ウズラにおける生産能を促進する方法を提供することである。
【0036】
本発明の他の目的は、アヒルにおける生産能を促進する方法を提供することである。
【0037】
本発明の他の目的は、ガチョウにおける生産能を促進する方法を提供することである。
【0038】
本発明の他の目的は、爬虫類における生産能を促進する方法を提供することである。
【0039】
本発明の他の目的は、哺乳動物における生産能を促進する方法を提供することである。
【0040】
本発明の他の目的は、魚における生産能を促進する方法を提供することである。
【0041】
本発明の他の目的は、ヒトにおける生産能を促進する方法を提供することである。
【0042】
本発明の、これらのおよび他の目的、特徴、ならびに利点は、開示した実施形態および添付の特許請求の範囲についての以下の詳細な説明を検討した後に明らかとなるであろう。
【0043】
詳細な説明
本発明は、一般に、アミノ酸を含む骨格に連結された、インヒビンタンパク質の少なくとも2つの免疫原性断片からなる、許容される担体中のMAP組成物を動物に投与することにより、動物の生産能を促進する方法に関する。動物体内でMAP組成物に対する免疫応答が生じるように、有効量のMAP組成物を動物に投与する。本発明の方法が、インヒビンを産生する動物の生産能を促進することを理解されたい。動物は、鳥であることが好ましい。鳥は、ニワトリ、七面鳥、ウズラ、ガチョウ、またはアヒルであることがより好ましい。さらに他の好ましい鳥は、キジおよびヤマウズラである。さらに他の好ましい鳥は、エミュー、ダチョウ、レア、ヒクイドリなどの走禽類である。本発明はさらに、本明細書において記載した新規MAP組成物に関する。
【0044】
以下の定義の後に、本発明の組成物について詳細に説明し、その後に本発明の方法について詳細に説明する。
【0045】
定義
本明細書において、「鳥」または「家禽」という用語は、飛ぶことに主に適合した温血産卵脊椎動物として特徴付けられる、動物の鳥綱(Aves class)の一員であると定義される。鳥類には、これらに限定されないが、走禽類、オウム目、ワシタカ目、キツツキ目、フクロウ目、スズメ目、ブッポウソウ目、クイナ目、ホトトギス目、ハト目、キジ目、ガンカモ目、およびサギ目がある。本明細書において、「走禽類」という用語は、多くは大型の、飛ばずに走る鳥の群であると定義され、これはいくつかの目を含み、これには、エミュー、ダチョウ、キーウィ、およびヒクイドリが含まれる。本明細書において、「オウム目」という用語は、オウムを含み、対指足を示し鉤状の強いくちばしを有する鳥類の単一の目である。「オウム」は、鳥類のオウム科(オウム目のただ1つの科)のいずれかの一員であると定義され、短く太い、強い鉤状のくちばしで区別される。本明細書において、「ニワトリ」という用語は、卵用鶏などの食用卵を産ませるのに使用されるニワトリ、食肉用に飼育されるニワトリまたはブロイラー、ならびに産卵用にも食肉用にも飼育されるニワトリ(「二重目的のために飼育された」ニワトリ)を意味する。「ニワトリ」という用語はまた、最初の飼育業者によって生産されたニワトリ、あるいは食用卵の産卵用に、食肉用に、または食用卵産卵用兼食肉用に飼育されるニワトリの親、その親、そのまた親などであるニワトリをも意味する。
【0046】
本明細書において、「卵」という用語は、鳥類および爬虫類によって産生される、多孔性の、石灰質の、または頑丈な殻に包まれた、雌の大型性細胞であると定義される。本明細書において、「鳥類または爬虫類による卵の産生」とは、鳥類または爬虫類の卵を産む行動、あるいは「産卵」である。「卵子」という用語は、雌の配偶子であると定義され、卵としても知られる。したがって、本明細書において、鳥類および爬虫類以外のすべての動物における卵の産生は、卵子の産生および卵巣からのその放出、または「排卵」であると定義される。したがって、本明細書において、「卵」という用語は、鳥類または爬虫類が産生するときは、多孔性の、石灰質の、または頑丈な殻に包まれた、雌の大型性細胞であると定義され、他のすべての動物が産生するときは、卵子であることを理解されたい。
【0047】
鳥類に関する「産卵の開始」、「初回産卵」および「春期発動期」という用語は、本明細書において相互に交換可能な用語として使用され、鳥がその最初の卵を産む時期を意味する。したがって、本明細書において、鳥類の産卵または春期発動期の「開始を促進する」ことは、鳥に通常生じるより早い日数で初回産卵を誘発することを意味する。同様に、雄における「春期発動期」および「精子産生の開始」も、相互に交換可能な用語として使用される。恥骨の拡張(pubic spread)の測定(例えば、指3本分以上)は、「春期発動期(初回卵)の開始(日)」が起ころうとしている、またはすでに起こっている可能性があると予告する、性的な発達のマーカーであるとみなされている。それと同様に、T−FIVEは、春期発動期の任意のマーカーまたは予測因子であり、群れが所与の日に平均して産卵率25%に達したことを示す。FIRST(初回産卵齢)を測定すると、「春期発動期」の正確な日がはっきりと定義される。
【0048】
「生産能を促進する」、「生産能を向上させる」、および「生産能を増大させる」という語句は、以下の範囲のうち1つまたは複数の向上を意味するのに相互に交換可能に用いられる:繁殖力の促進;春期発動期(雌における産卵または排卵;雄における精子産生)の開始の促進;雌における最大産卵または最大排卵の開始の促進、あるいは雄における最大精子産生の開始の促進;雌における産卵量の増大、または雄における精子産生量の増大;雌における産卵の持続期間の延長、または雄における精子産生の持続期間の延長;雌における生涯産卵数または生涯排卵数の増大;飼料要求率の改善;卵殻の品質の向上;周囲温度の上昇、過密状態、不良なまたは最適状態に及ばない栄養状態、騒音など有害な条件に対する耐性の向上;雄における精子の生存率の向上;雄におけるテストステロン産生の増大;射精量の増大;雄および雌における性欲の亢進;動物またはその子孫が、肉または他の動物製品用に収穫し得る齢数の低下。
【0049】
「産卵量(intensity)」という語句は、産卵の頻度を意味することが当業者に知られている。
【0050】
鳥の「生涯産卵数」という語句は、鳥がその生存期間全体の間に産む卵の合計数であると定義される。本明細書において、「ヘンデイ(hen day)産卵数」または「HDEP」は、特定の雌鳥群が1日当たりに産む卵の平均数であると定義される。
【0051】
本明細書において、「最大産卵の開始の促進」または「最大の卵産生の開始の促進」という語句は、孵化から、その動物の産卵または排卵が、最大産卵率または最大排卵率の25%、50%、75%、または任意に選択されたその他の最大産卵率もしくは最大排卵率より少ない段階に達するときまでの期間が、孵化から最大産卵までの通常の期間より短いことを意味する。
【0052】
本発明のMAP組成物
本発明の1つの実施形態は、生産能に影響を及ぼす生物学的活性を有する多価リガンドであり、構造式Iによって表される。
【化1】

【0053】
上式で、Bは多重リンカー骨格であり、nは2〜約20の整数であり、各Lは、共有結合または連結基であって、存在しても存在しなくてもよく、各Pは約4〜約115アミノ酸残基を有するペプチドである。少なくとも2つのペプチドは、インヒビンの生産能相同性領域(PPR)のペプチド断片、ハイブリッドペプチド、ハイブリッドペプチドのペプチド誘導体、または保存的置換ペプチドを含む。PPRとは、本発明のMAP組成物のペプチド成分として投与したときに免疫応答を引き起こすことができる、任意のインヒビンのペプチド領域である。PPR、あるいはその断片または保存的置換体に対するこの免疫応答によって、PPR、その断片、またはその保存的置換体を含むMAP組成物を受容した動物の生産能を増大させることができる。各Pおよび各リンカーまたは共有結合は、それぞれ独立に選択され、同じものでもよく、異なるものでもよい。
【0054】
本発明の他の実施形態は、生産能に影響を及ぼす生物学的活性を有するポリペプチド多価リガンドである。「ポリペプチド多価リガンド」とは、Pで示された2以上のペプチドが、Bで示された多重リンカー骨格またはペプチドスペーサーでそれぞれ分離されている、反復ポリペプチド鎖である。ポリペプチド多価リガンドは、構造式(IIおよびIII)によって表される。
【化2】

【0055】
上式で、mは0〜約20の整数である。
【化3】

【0056】
上式で、nは1〜20の整数であり、好ましくは2〜10であり、より好ましくは3〜7であり、さらに、aは1または2である。好ましい実施形態では、aは2であり、nは3である。この実施形態において、2つのPは、この組成物内で、第1のBと第3のBのそれぞれと連結している。
【0057】
本発明のMAP組成物は、これらに限定されないが、直鎖状、環状および分岐鎖状の構造を含む、様々な構造で存在してもよい。このような構造の非限定的な例には、以下のものがある。
【化4】

【化5】

【化6】

【0058】
MAP組成物の例示的実施形態の上記構造式において、各Pは、約4〜約115アミノ酸残基を有するインヒビン関連ペプチドであり、yは1または2であり、xは1〜3の整数であり、nは1〜20の整数であり、好ましくは2〜10であり、より好ましくは3〜7である。少なくとも2つのペプチドは、インヒビンのPPRのペプチド断片または誘導体、ハイブリッドペプチド、あるいはハイブリッドペプチドのペプチド誘導体を含む。好ましくは、ペプチドは、成熟型インヒビンαサブユニット、成熟型インヒビンαサブユニットのPPRのペプチド断片または誘導体、ハイブリッドペプチド、あるいはハイブリッドペプチドのペプチド誘導体を含む。このようなハイブリッドペプチドまたはその誘導体は、成熟型インヒビンαサブユニットと実質的に相同性であることが好ましい。
【0059】
各Bは、少なくとも2つのアミノ酸からなり、任意に、約2〜約30個の炭素を有する、1または複数の炭化水素からなる骨格構造である。Bは、Pと結合することができる少なくとも2つのアミノ酸からなることが好ましい。任意に、Bは、Pと結合することができない他のアミノ酸、または炭化水素鎖(CH(nは1〜20)を含んでもよい。このような炭化水素鎖は、好ましくは飽和している。各ペプチドPおよび各Bは、それぞれ独立に選択され、同じものでもよく、異なるものでもよい。
【0060】
各アミノ酸配列の対応する位置で、十分な数のアミノ酸残基が、互いに同一であるとき、または第1のアミノ酸配列を有するペプチドと第2のアミノ酸配列を有するペプチドが類似した生物学的活性を示すように構造上関連しているとき、ペプチドまたはタンパク質中のその2つのアミノ酸配列間に「実質的相同性」が存在する。タンパク質のアミノ酸配列が、インヒビンのPPRのアミノ酸配列と実質的相同性がある部分配列を有し、前記部分配列が、動物に投与した際に前記部分配列(または前記共通配列)に対応するアミノ酸配列を有するペプチドが生産能を調節するようなものであるとき、前記タンパク質はPPRを有している。一般に、一方のPPR中の少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%のアミノ酸が他方のPPR中のアミノ酸残基と同一であるかまたは構造上関連しているとき、2つのPPRのアミノ酸配列間には実質的相同性がある。ペプチドPおよびPPRのアミノ酸配列(または共通配列)中の対応する位置で、十分な数のアミノ酸が、互いに同一であるか、またはそのペプチドが生産能に影響を及ぼすことができるような構造上の関連を有しているとき、ペプチドPのアミノ酸配列とPPRのアミノ酸配列の間には実質的相同性が存在する。一般に、ペプチド中の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%のアミノ酸が、PPR中の対応する位置でのアミノ酸残基、または生産能に影響を及ぼすことができるその部分配列と同一であるかまたは構造上関連しているとき、そのペプチドとPPRの間には実質的相同性がある。本明細書において、「構造上関連している」は、下記で定義する。
【0061】
本発明の1つの実施形態は、任意のインヒビンタンパク質のPPRのペプチド誘導体である。そのペプチド誘導体は、動物に投与したときに生産能に影響を及ぼす生物学的活性を有する。例として、配列番号:1〜30で表されるペプチドのペプチド誘導体がある。
【0062】
「PPRのペプチド誘導体」には、PPRのペプチド断片が含まれ、そのペプチドは、PPRのアミノ酸配列を有する。また、「PPRのペプチド誘導体」には、PPR断片に対応する配列を有するペプチドも含まれる。「PPR断片」は、そのアミノ酸配列がPPRの部分配列に対応するペプチドであると定義され、「部分配列」と呼ばれる。部分配列とは、より大きな配列内で見られる連続したアミノ酸残基である。
【0063】
また、「ペプチド誘導体」には、元の配列または部分配列中の1または複数のアミノ酸残基を、天然に存在するアミノ酸残基またはアミノ酸残基アナログ(「修飾アミノ酸残基」とも呼ばれる)または非天然型アミノ酸残基、およびアミノ酸アナログで置換した「修飾配列」を有するペプチドが含まれる。適切なペプチド誘導体は、PPRのアミノ酸配列またはPPRの部分配列と実質的相同性がある修飾配列である。また、適切なペプチド誘導体には、インヒビンタンパク質のPPRの共通配列と実質的相同性があるペプチドも含まれる。
【0064】
本発明の1つの実施形態では、ペプチド誘導体は、約4〜約15アミノ酸残基のPPRの部分配列に対応するアミノ酸配列を有する。ペプチド誘導体中の0、1、2または3つのアミノ酸残基が、PPRの部分配列の対応する位置中のアミノ酸残基と異なっていてもよい。例えば、部分配列が、
【化7】

【0065】
であり、そのペプチド誘導体の配列中の1つのアミノ酸残基が、その部分配列の対応する位置中のアミノ酸残基と異なっている場合、そのペプチド誘導体は、
【化8】

【0066】
である可能性があり、上式で、[AA’]は、[AA]と異なる、天然に存在するアミノ酸残基または天然に存在しないアミノ酸残基または修飾アミノ酸残基である。
【0067】
本発明の他の態様では、ペプチド誘導体は、約4〜約28アミノ酸残基のPPRのアミノ酸配列または部分配列に対応するアミノ酸配列を有する。他の実施形態では、ペプチド誘導体は、約4〜約115アミノ酸残基のPPRのアミノ酸配列または部分配列に対応するアミノ酸配列を有する。ペプチド誘導体中の0、1、2、3または4つのアミノ酸残基が、PPRの配列または部分配列の対応する位置中のアミノ酸残基と異なっていてもよい。
【0068】
「アミノ酸残基」とは、ペプチド内でみられる部分であり、−NH−CHR−CO−で表され、式中、Rは、天然に存在するアミノ酸の側鎖である。ペプチド内でみられる部分を指すとき、本願において、「アミノ酸残基」および「アミノ酸」という用語は、相互に交換可能なものとして使用される。「アミノ酸残基アナログ」は、次式−NH−CHR−CO−を有するD体またはL体を含み、式中、Rは、脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、芳香族基または置換芳香族基であり、Rは、天然に存在するアミノ酸の側鎖に対応していない。
【0069】
PPRの配列またはPPRの部分配列中でのアミノ酸残基の適切な置換には、動物、好ましくは鳥類に投与したときに生産能を刺激することができるペプチド誘導体が生じる保存的置換が含まれる。保存的置換とは、置換するアミノ酸(天然に存在するものまたは修飾されたもの)が、置換されるアミノ酸と構造上関連している、すなわち、置換されるアミノ酸とほぼ同じサイズおよび化学的特性を有している置換である。したがって、置換するアミノ酸は、側鎖中に元のアミノ酸と同じまたは類似した官能基を有するはずである。
【0070】
「保存的な置換」はまた、側鎖中の官能基が適切な保護基で保護されている以外は置換されるアミノ酸と同一である、置換するアミノ酸を利用することも指す。適切な保護基は、Green and Wuts、「Protecting Groups in Organic Synthesis」、John Wiley and Sons、Chapters 5 and 7、1991に記載されており、その教示を、参照により本明細書に組み込む。好ましい保護基は、例えば、ペプチドの親水性を低下させ、親油性を増大させることによって、ペプチドの膜輸送を促進し、加水分解によりまたは酵素的に切断することができるものである(Ditterら、J.Pharm.Sci.57:783(1968)、Ditterら、J.Pharm.Sci.57:828(1968)、Ditterら、J.Pharm.Sci.58:557(1969)、Kingら、Biochemistry 26:2294(1987)、Lindbergら、Drug Metabolism and Disposition 17:311(1989)、Tunekら、Biochem.Pharm.37:3867(1988)、Andersonら、Arch.Biochem.Biophys.239:538(1985)およびSinghalら、FASEB J.1:220(1987))。適切な水酸保護基には、エステル保護基、炭酸エステル保護基、およびカルバミン酸エステル保護基が含まれる。N末端保護基について上記に記載したように、適切なアミン保護基には、アシル基、およびアルコキシもしくはアリーロキシカルボニル基が含まれる。C末端保護基について下記に記載するように、適切なカルボン酸保護基には、脂肪族、ベンジルおよびアリールエステルが含まれる。1つの実施形態では、本発明のペプチドにおける1つまたは複数のグルタミン酸またはアスパラギン酸残基の側鎖中のカルボン酸基は、好ましくはメチル、エチル、ベンジルまたは置換ベンジルエステルとして、より好ましくはベンジルエステルとして保護される。
【0071】
各群に含まれる各アミノ酸の化学的および立体的特性が類似している、天然に存在するまたは修飾アミノ酸の群を以下に提供する。したがって、アミノ酸を、同じ群に由来する他のアミノ酸で置換することによって、保存的置換を行うことができる。これらの群は非限定的なものであり、すなわち、各群に含まれうる修飾アミノ酸がさらに存在することを理解されたい。
【0072】
第I群には、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、および以下の側鎖を有する修飾アミノ酸が含まれる:エチル、n−プロピル、n−ブチル。好ましくは、第I群には、ロイシン、イソロイシン、バリンおよびメチオニンが含まれる。
【0073】
第II群には、グリシン、アラニン、バリン、およびエチルの側鎖を有する修飾アミノ酸が含まれる。好ましくは、第II群には、グリシンおよびアラニンが含まれる。
【0074】
第III群には、フェニルアラニン、フェニルグリシン、チロシン、トリプトファン、シクロヘキシルメチルグリシン、ならびに置換ベンジルまたは置換フェニル側鎖を有する修飾アミノ酸が含まれる。好ましい置換基には、以下の1つまたは複数のものが含まれる:ハロゲン、メチル、エチル、ニトロ、−NH、メトキシ、エトキシおよび−CN。好ましくは、第III群には、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンが含まれる。
【0075】
第IV群には、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸またはアスパラギン酸の置換もしくは非置換の脂肪族、芳香族またはベンジルエステル(例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、シクロヘキシル、ベンジル、または置換ベンジル)、グルタミン、アスパラギン、−CO−NH−アルキル化グルタミンまたはアスパラギン(例えば、メチル、エチル、n−プロピルおよびイソプロピル)、−(CH−COOHの側鎖を有する修飾アミノ酸、そのエステル(置換もしくは非置換の脂肪族、芳香族またはベンジルエステル)、そのアミド、ならびに置換または非置換のそのN−アルキル化アミドが含まれる。好ましくは、第IV群には、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチルアスパラギン酸、エチルアスパラギン酸、ベンジルアスパラギン酸、メチルグルタミン酸、エチルグルタミン酸、ベンジルグルタミン酸、グルタミン、およびアスパラギンが含まれる。
【0076】
第V群には、ヒスチジン、リジン、オルニチン、アルギニン、N−ニトロアルギニン、β−シクロアルギニン、γ−ヒドロキシアルギニン、N−アミジノシトルリン、2−アミノ−4−グアニジノブタン酸、リジンホモログ、アルギニンホモログ、およびオルニチンホモログが含まれる。好ましくは、第V群には、ヒスチジン、リジン、アルギニンおよびオルニチンが含まれる。アミノ酸ホモログには、その側鎖内で1〜約3個のメチレン単位が付加されたまたは取り去られたものが含まれる。
【0077】
第VI群には、セリン、トレオニン、システイン、ならびに−OHまたは−SHで置換されたC〜Cの直鎖状または分岐鎖状のアルキル側鎖、例えば、−CHCHOH、−CHCHCHOHまたは−CHCHOHCHを有する修飾アミノ酸が含まれる。好ましくは、第VI群には、セリン、システインまたはトレオニンが含まれる。
【0078】
他の態様では、PPRの配列またはPPRの部分配列中でのアミノ酸残基の適切な置換には、生産能に影響を及ぼすペプチド誘導体が生じる「重大な(severe)」置換が含まれる。生産能に影響を及ぼすペプチド誘導体が生じる重大な置換は、インヒビンタンパク質のPPRにおいて、高度に保存されている位置より、高度には保存されていない位置で行うことができる可能性がはるかに高い。
【0079】
「重大な置換」とは、置換するアミノ酸(天然に存在するものまたは修飾されたもの)が、置換されるアミノ酸と比べてかなり異なるサイズおよび/または化学的特性を有している置換である。したがって、置換するアミノ酸の側鎖は、置換されるアミノ酸の側鎖よりかなり大きい(または小さい)ものであってよく、および/または置換されるアミノ酸と化学的特性がかなり異なる官能基を有するものであり得る。このタイプの重大な置換の例には、アラニンのフェニルアラニンまたはシクロヘキシルメチルグリシンによる置換、グリシンのイソロイシンによる置換、Lアミノ酸の、対応するDアミノ酸による置換、またはアスパラギン酸の−NH−CH[(−CH−COOH]−CO−による置換がある。あるいは、官能基を、側鎖に付加することもでき、側鎖から除去することもでき、他の官能基と交換することもできる。このタイプの重大な置換の例には、バリン、ロイシンまたはイソロイシンの付加、アスパラギン酸またはグルタミン酸の側鎖中のカルボン酸の、アミンとの交換、あるいはリジンまたはオルニチンの側鎖中のアミン基の除去がある。さらに他の代替方法では、置換するアミノ酸の側鎖は、置換されるアミノ酸の官能基とはかなり異なる立体的および化学的特性を有するものでもよい。そのような修飾の例には、グリシンのトリプトファンによる置換、アスパラギン酸のリジンによる置換、セリンの側鎖の、−(CHCOOHによる置換がある。これらの例は、必ずしも限定的であることを意味するものではない。
【0080】
本明細書において、「ハイブリッドペプチド」とは、約4〜約115アミノ酸残基を有するインヒビン断片ペプチドである。ハイブリッドペプチドのアミノ酸配列中の各アミノ酸残基(天然に存在するものまたは修飾されたもの)は、(1)元のインヒビンタンパク質のPPR中の対応する位置にあるアミノ酸残基と同一である、(2)それと構造上関連しているアミノ酸残基である、(3)第2のインヒビンタンパク質のPPR中の対応する位置にあるアミノ酸残基と同一である、または(4)それと構造上関連しているアミノ酸残基である。上記のように、アミノ酸残基を構造上関連しているアミノ酸残基で置換することを、「保存的置換」と呼ぶ。
【0081】
ペプチドPが任意の種由来のインヒビン分子中の任意の位置に由来する抗原ペプチドであってよいことを理解されたい。好ましい1つの実施形態では、このペプチドは、インヒビンαサブユニットに由来し、好ましくは成熟型インヒビンαサブユニットに由来する。他の好ましい実施形態では、インヒビンまたはインヒビンαサブユニットは、鳥類インヒビンまたは鳥類インヒビンαサブユニットである。本発明の好ましい実施形態は、配列番号:1で示されるAA〜AA26のアミノ酸配列を有するペプチド(P)である。この配列は、成熟型ニワトリインヒビンαサブユニットのN末端の26アミノ酸である。
【化9】

【0082】
本発明の1つの実施形態では、それぞれが配列番号:1からなる4つのこのようなPが、式VIIに示すようなパターンでアミノ酸骨格と連結している。
【化10】

【0083】
好ましい実施形態では、アミノ酸骨格はBであり、式中、nは3であり、各BはLysである。この実施形態では、2つのPがLysおよびLysと連結し、それによって構造式XIVに示す構造となる。この構造は、本願において下記で1−26INH−MAPとも称される。この構造では、連結構造(L)は含まれず、Pはすべて同一であり、それぞれ配列番号:1で表される。
【化11】

【0084】
他の好ましい実施形態(式XV)では、B−Ala−OHは、アミノ酸骨格中の中央のリジンに存在しない。この構造は、本願において1−26INH−MAPとも称される。
【化12】

【0085】
本発明の他の実施形態では、ある構造、例えば構造VII中で表される、異なるPは、互いに異なるものでもよく、また、配列番号:1〜30(下記)のうち任意の番号のものの組合せでよい。例えば、構造I〜XIII中の各Pは、配列番号:1〜30のうちいずれか1つでもよく、その組合せでもよい。
【0086】
他の実施形態では、Pが配列番号:1であるとき、以下のように、個々のアミノ酸を置換することができる。
【0087】
AAは、セリン、グリシン、アラニン、システインまたはトレオニンであり、
AAは、アラニン、トレオニン、グリシン、システインまたはセリンであり、
AAは、バリン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、オルニチン、リジン、N−ニトロアルギニン、β−シクロアルギニン、γ−ヒドロキシアルギニン、N−アミジノシトルリンまたは2−アミノ−4−グアニジノブタン酸であり、
AAは、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシンまたはメチオニンであり、
AAは、トリプトファン、アラニン、フェニルアラニン、チロシンまたはグリシンであり、
AAは、セリン、グリシン、アラニン、システインまたはトレオニンであり、
AAは、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシンまたはメチオニンであり、
AAは、アラニン、トレオニン、グリシン、システインまたはセリンであり、
AAは、アラニン、トレオニン、グリシン、システインまたはセリンであり、
AA10は、ロイシン、イソロイシン、メチオニンまたはバリンであり、
AA11は、セリン、グリシン、アラニン、システインまたはトレオニンであり、
AA12は、ロイシン、イソロイシン、メチオニンまたはバリンであり、
AA13は、ロイシン、イソロイシン、メチオニンまたはバリンであり、
AA14は、グルタミン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、あるいはグルタミン酸またはアスパラギン酸の置換または非置換の脂肪族またはアリールエステルであり、
AA15は、アルギニン、N−ニトロアルギニン、β−シクロアルギニン、γ−ヒドロキシアルギニン、N−アミジノシトルリンまたは2−アミノ−4−グアニジノブタン酸であり、
AA16は、プロリン、ロイシン、バリン、イソロイシンまたはメチオニンであり、
AA17は、セリン、グリシン、アラニン、システインまたはトレオニンであり、
AA18は、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン、あるいはグルタミン酸またはアスパラギン酸の置換または非置換の脂肪族またはアリールエステルであり、
AA19は、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、ロイシン、バリン、イソロイシン、メチオニン、あるいはグルタミン酸またはアスパラギン酸の置換または非置換の脂肪族またはアリールエステルであり、
AA20は、バリン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、オルニチン、リジン、N−ニトロアルギニン、β−シクロアルギニン、γ−ヒドロキシアルギニン、N−アミジノシトルリンまたは2−アミノ−4−グアニジノブタン酸であり、
AA21は、アラニン、トレオニン、グリシン、システインまたはセリンであり、
AA22は、アラニン、トレオニン、グリシン、システインまたはセリンであり、
AA23は、ヒスチジン、セリン、トレオニン、システイン、リジンまたはオルニチンであり、
AA24は、トレオニン、アスパラギン酸、セリン、グルタミン酸、あるいはグルタミン酸またはアスパラギン酸の置換または非置換の脂肪族またはアリールエステルであり、
AA25は、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、ロイシン、バリン、イソロイシン、メチオニン、あるいはグルタミン酸またはアスパラギン酸の置換または非置換の脂肪族またはアリールエステルであり、
AA26は、システイン、ヒスチジン、セリン、トレオニン、リジンまたはオルニチンである。
【0088】
アミノ酸の置換の前記26例が、配列番号:1のみに限定されず、動物に投与したときに本発明のMAP組成物が生産能を促進するのに有効である限り、これらのアミノ酸のいずれかが存在するときはいつでも、そのMAP組成物中のPを使用した、任意のインヒビン断片、好ましくはそのαサブユニット、またはそのαサブユニット断片にこれらの例が適用できることを理解されたい。
【0089】
本発明のMAP組成物中のPとして使用することができる他のペプチドには、これらに限定されないが、下記の配列番号:1〜30がある。所与のMAP組成物中のPは、同じものでも異なるものでもよいことを理解されたい。
【0090】
他の実施形態では、構造VII中の4つのP、または任意の構造(式I〜XIII)中の2つ以上のPは、同じものでも異なるものでもよく、以下のものから選択することができる。
【化13】

【0091】
他の実施形態では、構造VII中の4つのP、または任意の構造(式I〜XIII)中の2つ以上のPは、同じものでも異なるものでもよく、以下のものから選択することができる。
【化14】

【0092】
他の実施形態では、構造VII中の4つのP、または任意の構造(式I〜XIII)中の2つ以上のPは、同じものでも異なるものでもよく、以下のものから選択することができる。
【化15】

【化16】

【化17】

【0093】
他の実施形態には、そのハイブリッドペプチドの各アミノ酸残基が、インヒビンのPPRまたはその断片の対応する位置にあるアミノ酸残基と同一であるか、またはこの残基の保存的置換体である、ハイブリッドペプチドが含まれる。
【0094】
好ましくは、ハイブリッドペプチドのアミノ酸配列は、第1のPPRに由来する部分配列と、第2のPPRに由来する部分配列を含む。各部分配列は、約4〜約115アミノ酸残基であり、好ましくは約4〜約75アミノ酸残基であり、より好ましくは約4〜約30アミノ酸残基である。この2つの部分配列は、長さが等しくてもよく、例えば、両方の部分配列が9−merでもよく12−merでもよい。あるいは、この2つの部分配列は、長さが異なるものでもよく、例えば、12−merと13−merでもよい。一例は、配列番号:29で表されるハイブリッドペプチドであり、これは22−merであり、その中で、第1の11アミノ酸が、配列番号:1の部分配列に対応し、第2の11アミノ酸が、配列番号:1の異なる部分配列に対応している。
【化18】

【0095】
他の例は、配列番号:30で表されるペプチドであり、これは22−merであり、その中で、第1の11アミノ酸が、配列番号:1の異なる部分配列に対応し、第2の11アミノ酸が、配列番号:1の他の部分配列に対応している。
【化19】

【0096】
本発明の他の実施形態は、ハイブリッドペプチドのペプチド誘導体、例えば、配列番号:29または配列番号:30で表されるペプチドのペプチド誘導体である。一般に、少なくとも約10アミノ酸残基を有し、生産能に影響を及ぼしうるハイブリッドペプチドの断片は、「ハイブリッドペプチドのペプチド誘導体」の定義中に含まれる。「ハイブリッドペプチドのペプチド誘導体」には、ハイブリッドペプチド中の1つまたは複数のアミノ酸が、天然に存在するアミノ酸またはアミノ酸アナログ(「修飾アミノ酸」とも呼ばれる)で置換された「修飾配列」を有するペプチドも含まれる。適切な修飾配列は、生産能に影響を及ぼしうる、ハイブリッドペプチドのアミノ酸配列またはその部分配列と実質的相同性があるものである。一般に、ペプチド誘導体は、約10〜約30アミノ酸残基である。
【0097】
本発明の一態様では、ハイブリッドペプチドのペプチド誘導体、例えば、配列番号:29または配列番号:30は、生産能に影響を及ぼしうる、約10〜約15アミノ酸残基のハイブリッドペプチドの部分配列に対応するアミノ酸配列を有する。ペプチド誘導体中の0、1、2または3つのアミノ酸残基は、ハイブリッドペプチドの部分配列の対応する位置にあるアミノ酸残基と異なっていてもよい。
【0098】
本発明の他の態様では、ペプチド誘導体は、約4〜約115アミノ酸残基の、好ましくは約4〜約75アミノ酸残基の、より好ましくは約4〜約30アミノ酸残基の、生産能に影響を及ぼしうる、ハイブリッドペプチドのアミノ酸配列またはその部分配列に対応するアミノ酸配列を有する。ペプチド誘導体中の0、1、2、3または4つのアミノ酸残基は、ハイブリッドペプチドの配列または部分配列の対応する位置にあるアミノ酸残基と異なっていてもよい。
【0099】
本明細書において、脂肪族基には、直鎖状、分岐鎖状、または環状のC〜Cの炭化水素が含まれ、これは、完全に飽和され、窒素、酸素、硫黄などのヘテロ原子を1個または2個含み、かつ/あるいは1または複数の不飽和結合を含む。芳香族基には、フェニル、ナフチルなどの芳香族カルボン酸基、およびイミダゾール、インドリル、チエニル、フラニル、ピリジル、ピラニル、オキサゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾフラニル、キノリニル、イソキノリニル、アクリジニルなどの複素環芳香族基が含まれる。
【0100】
脂肪族基、芳香族基またはベンジル基上での適切な置換基には、例えば、−OH、ハロゲン(−Br、−Cl、−I、および−F)、−O(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基または置換アリール基)、−CN、−NO、−COOH、−NH、−NH(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基または置換アリール基)、−N(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基または置換アリール基)、−COO(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基または置換アリール基)、−CONH、−CONH(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基または置換アリール基)、−SH、−S(脂肪族基、置換脂肪族基、ベンジル基、置換ベンジル基、芳香族基または置換芳香族基)および−NH−C(=NH)−NHがある。置換ベンジルまたは芳香族基はまた、置換基として、脂肪族基または置換脂肪族基をも有することができる。置換脂肪族基はまた、置換基として、ベンジル基、置換ベンジル基、アリール基または置換アリール基をも有することができる。置換脂肪族基、置換芳香族基または置換ベンジル基は、複数の置換基を有することができる。
【0101】
「多価リガンド」とは、上記に示した構造式中で、また本願全体にわたって、「P」として表される一連のペプチドを有する分子である。本願において、多価リガンドという用語は、複数抗原ペプチド(MAP)組成物という用語と等しいとみなされる。好ましくは、多価リガンドまたはMAPは、2〜約30のペプチドを含む。各ペプチドは、共有結合によって、または連結基によって、多重リンカー骨格に連結する。各ペプチド誘導体および各リンカーまたは各共有結合は、それぞれ独立に選択される。多価リガンドの非限定的な例は、構造式I〜XVで表される。
【0102】
「ポリペプチド多価リガンド」とは、2つ以上のペプチドPがペプチド連結基によってそれぞれ隔てられている、複数の反復ポリペプチド鎖である。ポリペプチド多価リガンドは、構造式IIおよびIIIで表される。
【0103】
本発明の多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンド中の、Pとして表される少なくとも2つのペプチドは、ハイブリッドペプチド、ハイブリッドペプチドのペプチド誘導体、PPRのペプチド誘導体、またはその組合せでもよい。多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンドはまた、生産能に影響を及ぼす能力をほとんど低下させない、1つまたは複数の他のペプチドをも有することができる。しかし、多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンド中のペプチドはすべて、ハイブリッドペプチド、ハイブリッドペプチドのペプチド誘導体、および/またはPPRのペプチド誘導体であることが好ましい。任意に、ポリペプチド多価リガンドのC末端またはN末端は、血球凝集素抗原、またはポリヒスチジン配列など、その分離または単離の助けとなることができるアミノ酸配列を含むことができる。多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンドは、異なるPPRの誘導体であるペプチド、および/または同じPPRの誘導体であるが異なるアミノ酸配列を有するペプチドを有することができる。多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンドは、異なるPPRの1組からなるハイブリッドであるペプチド、および/または2つの同じPPRのハイブリッドであるが異なるアミノ酸配列を有するペプチドを有することができる。同様に、多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンドは、異なるハイブリッドペプチドの誘導体であるペプチド、および/または同じハイブリッドペプチドの誘導体であるが異なるアミノ酸配列を有するペプチドを有することができる。多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンドのペプチドは、すべて同じでもよい。
【0104】
多重リンカー骨格
本明細書に含まれる構造中で「B」として表される多重リンカー骨格は、適当に間隔が空いた反応性基を多数有する直鎖状または分岐鎖状の分子であり、その各基は、ペプチドまたはリンカー中の官能基と反応することができる。適切な多重リンカー骨格は、生体適合性であり、ペプチド誘導体の付着後、非経口または経口投与などの投与に適している。一般に、多重リンカー骨格は、分子量が約20,000原子質量単位(amu)より小さく、通常、2〜約100個の付着部位を含む。すべての付着部位が占有されている必要はない。
【0105】
多重リンカー骨格中の反応性官能基は、ペプチドまたはリンカーの付着部位として使用される。ある種の反応性官能基とペプチドの間の共有結合形成が、立体障害によって実質的には阻害されないとき、付着部位同士は「適当に間隔が空いている」。
【0106】
多重リンカー骨格中の適切な反応性基には、アミン、カルボン酸、アルコール、アルデヒド、チオールがある。多重リンカー骨格中のアミン基は、ペプチド誘導体のC末端、または連結基中のカルボン酸官能基と共有結合を形成することができる。多重リンカー骨格中のカルボン酸基またはアルデヒドは、ペプチド誘導体のN末端、または連結基中のアミン基と共有結合を形成することができる。多重リンカー骨格中のアルコール基は、ペプチド誘導体のC末端、または連結基中のカルボン酸官能基と共有結合を形成することができる。多重リンカー骨格中のチオール基は、ペプチド誘導体中のシステイン、または連結基中のチオール基とジスルフィド結合を形成することができる。上記に記載のように、多重リンカー骨格中の反応性官能基と、付着したペプチドのアミノ酸側鎖中の適切な官能基との間で結合を形成することもできる。各ペプチドを多重リンカー骨格に連結させる官能基は、すべてのペプチドで異なるものでもよいが、同じであることが好ましい。
【0107】
適切なポリペプチド多価骨格の例は、Tam、Journal of Immunological Methods 196:17(1996)で開示されており、その教示全体を参照により本明細書に組み込む。一般に、適切なポリペプチド多重リンカー骨格は、約1〜約20アミノ酸残基であり、好ましくは2〜10アミノ酸残基であり、より好ましくは3〜7アミノ酸残基である。他の多重リンカー骨格の場合と同様に、これは通常、約2〜約20個の付着部位を有し、この部位は、アミノ酸残基の側鎖中に位置する官能基であることが多い。しかし、αアミノ基およびαカルボン酸もまた、付着部位として使用される。
【0108】
上記に示した構造において「B」で表される好ましいポリペプチド多重リンカー骨格には、ポリリジン、ポリオルニチン、ポリシステイン、ポリグルタミン酸およびポリアスパラギン酸、またはその混合物がある。任意に、不活性側鎖を有するアミノ酸残基、例えば、グリシン、アラニン、およびバリンもこのアミノ酸配列中に含まれる可能性がある。このポリペプチドは、ペナント型(pennant)でもよく、カスケード型(cascading)でもよい。「ペナント型ポリペプチド」は、直鎖状である。天然に通常見られるポリペプチドの場合と同様に、ペナント型ポリペプチドのアミド結合は、1つのアミノ酸残基のαアミンと、その次のアミノ酸残基のαカルボン酸との間に形成される。nが5より小さいとき、通常、付着部位間に0〜6アミノ酸が存在し、nが5より大きいとき、通常、付着部位間に1〜6アミノ酸が存在する。「カスケード型ポリペプチド」は、分岐鎖状であり、1つのアミノ酸残基の側鎖官能基と、その次のアミノ酸残基のαアミノ基またはαカルボン酸基との間に、少なくともいくつかのアミド結合が形成されている。例えば、カスケード型ポリリジンの少なくともいくつかのアミド結合が、リジン残基のεアミン基と、その次のリジン残基のカルボン酸残基との間に形成されている。
【0109】
1つの実施形態では、骨格「B」は、3アミノ酸からなり、そのアミノ酸は、Lys、Asp、Glu、Cys、Orn、Gly、AlaおよびValでもよく、その混合物でもよい。したがって、Bの実施形態には、これらに限定されないが、以下のものが含まれる。
【化20】

【0110】
リンカー(L)
適切なリンカー(L)は、ペプチド誘導体を多重リンカー骨格と結合させることができる基である。1つの実施形態では、リンカーは、約1〜約10アミノ酸のオリゴペプチドであり、不活性側鎖を有するアミノ酸からなる。適切なオリゴペプチドには、ポリグリシン、ポリセリン、ポリプロリン、ポリアラニン、ならびにアラニンおよび/またはセリンおよび/またはプロリンおよび/またはグリシンのアミノ酸残基からなるオリゴペプチドが含まれる。他の実施形態では、リンカーは、X−(CH−XまたはX−ポリエチレングリコール−Xである。XおよびXは、官能基の残基であり、それぞれ、多重リンカー骨格中またはペプチド誘導体中の適切な官能基残基と、共有結合によって結合する。XおよびXの例には、1)多重リンカー骨格中またはペプチド誘導体中のカルボン酸基の残基とエステルを形成するアルコール基の残基、2)多重リンカー骨格中またはペプチド誘導体中のカルボン酸基の残基とアミドを形成するアミン基の残基、3)多重リンカー骨格中またはペプチド誘導体中のアミン残基とアミドを形成するカルボン酸またはアルデヒド基の残基、あるいは、4)多重リンカー骨格中またはペプチド誘導体中のチオール基の残基とジスルフィドを形成するチオール基の残基がある。mは、2〜約20の整数である。
【0111】
多価リガンド中のペプチドは、共有結合、リンカー基、またはその組合せによって、多重リンカー骨格と結合することができる。リンカー基は、同じものでもよく、異なるものでもよい。好ましくは、多価リガンド中のどのペプチドも、共有結合によって多重リンカー骨格と結合する。あるいは、多価リガンド中のどのペプチドも、同じ連結基、例えば、グリシン残基、またはグリシン−グリシンのジペプチドによって、多重リンカー骨格と結合する。
【0112】
多価リガンドには、4分岐鎖のペナント型ポリリジン三量体があり、4つのペプチドが、3リジン残基(Lys Lys Lys)からなる直鎖状の三量体ポリペプチド骨格に付着することが示唆される。この付着は、各ペプチドまたは連結用オリゴペプチドのC末端と、3つのリジン側鎖のうち1つにあるアミノ基またはポリリジンのN末端との間のペプチド結合を用いて行われる。所与の多価リガンド中のすべてのペプチドおよびすべてのリンカーは、同じものでもよく、異なるものでもよい。
【0113】
構造式(II)中に示されている多重リンカー骨格B内のポリペプチドスペーサーは、約5〜約40アミノ酸残基を有するペプチドである。ポリペプチド多価リガンド中のスペーサーは、それぞれ独立に選択されるが、好ましくは、すべて同じものである。スペーサーは、隣接するペプチドPの空間内で柔軟に動くことが可能であるべきであり、したがって、通常、小さなアミノ酸、例えば、グリシン、セリン、プロリンまたはアラニンに富む。ペプチドスペーサーは、グリシンまたはアラニンを、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも80%含む。さらに、ペプチドスペーサーは、一般に、生物学的活性および抗原活性がほとんどまたはまったくない。好ましいスペーサーは、(Gly−Pro−Gly−Gly)、および(Gly−Ser)であり、式中、xは、約3〜約9の整数であり、yは、約1〜約8の整数である。適切なスペーサーの特定の例には、(Gly−Ser)がある。
【化21】

【0114】
スペーサーはまた、タンパク質分解性切断シグナルを作り出す1〜約4アミノ酸を含むことができる。
【0115】
本発明の多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンドは、医薬上活性がある他の薬剤と同時に投与することができる。一例では、多価リガンドまたはポリペプチド多価リガンドを、鳥類に通常投与される他の薬剤と同時に投与する。
【0116】
本発明のペプチド誘導体、多価リガンドおよびまたはポリペプチド多価リガンドは、生産能を増大させる以外に多くの使用法を有する。この使用法のいくつかを、以下の段落で論じる。
【0117】
開示された多価リガンドを使用して、これに付着したペプチド誘導体に対するポリクローナル抗体とモノクローナル抗体のどちらの抗体も産生することができる。多重リンカー骨格に付着したペプチド抗原に対する抗体産生の方法は、Tam、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5409(1988)、Tam and Lu、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9084(1989)およびTam、Journal of Immunological Methods 196:17(1996)に記載されている。
【0118】
本発明のペプチド誘導体およびハイブリッドペプチドに対して、スカシ貝ヘモシアニンまたは血清アルブミンなどの適切な担体と任意に結合させることによって、適切な抗体を産生することもできる。ポリクローナルおよびモノクローナル抗体産生は、適切ないずれの技術を用いても行うことができる。本発明のペプチド、ペプチド誘導体およびハイブリッドペプチドのいくつかは、十分に抗原性があり、抗体産生に担体を必要としない。モノクローナル抗体産生の様々な方法が記載されている(例えば、Kohlerら、Nature、256:495−497(1975)およびEur.J.Immunol.6:511−519(1976);Milsteinら、Nature 266:550−552(1977);Koprowskiら、米国特許第4,172,124号;Harlow,E.およびD.Lane、1988、Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,N.Y.);Current Protocols In Molecular Biology、Vol.2(Supplement 27、Summer 1994)、Ausubel,F.M.ら、Eds.、(John Wiley & Sons:New York,N.Y.)、Chapter 11、(1991)を参照のこと)。一般に、適切な不死化細胞系統(例えば、SP2/0などのミエローマ細胞系統)を抗体産生細胞と融合させることによって、ハイブリドーマを産生することができる。抗体産生細胞、好ましくは、脾臓またはリンパ節の抗体産生細胞は、対象となる抗原で免疫化した動物から得ることができる。その細胞(ハイブリドーマ)は、選択的培養条件を用いて単離することができ、限界希釈によってクローン化することができる。所望の特異性を有する抗体を産生する細胞は、適切なアッセイ(例えば、ELISA)によって選択することができる。
【0119】
モノクローナル抗体を含む、インヒビンタンパク質のPPRおよびその断片に対する抗体には、様々な使用法がある。例えば、インヒビンタンパク質に対するまたは反応性の抗体、好ましくは前記タンパク質のPPRに特異的に結合する抗体を使用して、被験動物から得られた液体試料中にインヒビンタンパク質が存在するかどうかを判定することができる。インヒビンタンパク質またはその断片に特異的な抗PPR抗体で、その試料を処理する。次いで、例えば、ウェスタンブロッティングまたは免疫沈降によって、インヒビンタンパク質と抗体との間で複合体が生じたかどうか、その試料を分析する。試料は、例えば、細胞の透明な溶解液でもよく、これは、例えば、デオキシコール酸ナトリウム(0.5%〜1%)またはドデシル硫酸ナトリウム(1%)などの界面活性剤で細胞を処理し、遠心し、ペレットから上清を分離することによって得られる。
【0120】
本発明のペプチド誘導体またはハイブリッドペプチドを含む多価リガンドが、生産能などの生物学的プロセスに対するこのような劇的な効果を有することによって立証されるように、PPRは、インヒビンタンパク質の生物学的活性において重要な役割を果たす。また、本発明のポリペプチド多価リガンド、ペプチド誘導体およびハイブリッドペプチドを使用して、特定のインヒビンタンパク質のPPRと相互作用し、このPPRによってその活性が調節される分子を同定することができる。例えば、特定のポリペプチド多価リガンド、ペプチド誘導体またはハイブリッドペプチドが、直接にまたはリンカーを介して共有結合するアフィニティーカラムを調製することができる。このカラムは、次に、インヒビンタンパク質のPPRと結合し、ペプチド誘導体またはハイブリッドペプチドが由来するインヒビンタンパク質とも結合する可能性が高い、特定の分子の単離および同定に使用することができる。次いでその分子を、カラムから溶出させ、特徴付けし、インヒビンタンパク質またはその断片と相互作用する能力について試験することができる。このようなペプチドは、本発明において教示されるMAP組成物のペプチド成分として有用でありうる。
【0121】
ペプチド配列およびMAPの合成
本発明の化合物中のペプチド配列は、固相ペプチド合成(例えば、BOCまたはFMOC)法、液相合成法、または前記の方法の組合せを含む、当業者に知られている他の適切な技術によって合成することができる。確立されており広く用いられているBOC法またはFMOC法は、Merrifield、J.Am.Chem.Soc.88:2149(1963);Meienhofer、Hormonal Proteins and Peptides、C.H.Li、Ed.、Academic Press、1983、pp.48−267;および、BaranyおよびMerrifield、in The Peptides、E.GrossおよびJ.Meienhofer、Eds.、Academic Press、New York、1980、pp.3−285に記載されている。固相ペプチド合成法は、Merrifield,R.B.、Science、232:341(1986);Carpino,L.A.およびHan,G.Y.、J.Org.Chem.、37:3404(1972);および、Gauspohl,H.ら、Synthesis、5:315(1992)に記載されている。
【0122】
多価リガンドは、Tam,J.、Immunological Methods 196:17(1996)、Kimら、Cancer Research 54:5005(1994)、Nomizuら、Cancer Research 53:3459(1993)およびTam,J.、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA 85:5409(1989)に開示された方法を含む、当業者に知られている方法によって調製することができる。
【0123】
単一操作で多価リガンドを調製する簡便な方法は、所望の分岐鎖に達するために、例えば、Boc化学合成での二官能基保護型Boc−Lys(Boc)、またはFmoc化学合成での二官能基保護型Fmoc−Lys(Fmoc)を用いた、C末端コアマトリックスから出発する段階的な固相合成によるものである。次いで、選択されたペプチド誘導体、ハイブリッドペプチドまたはハイブリッドペプチド誘導体を、樹脂上のリジンコアマトリックスへと順次伸長させて、所望の多価リガンドを形成する。この段階的方法は、C→Nの向きに多価リガンドを生成する。2つ以上の異なるペプチドが付加されたキメラ多価リガンドもまた、連続した形で、どちらの配列も直列に合成することにより、この方法で生成することができる。あるいは、2つの異なるアミン保護基を含むコアマトリックスを用いて、コアマトリックスの異なる腕上で異なるペプチドを合成することもできる。異なるペプチドおよび官能性部分を導入することができるように、リジンのαアミンとεアミンを区別する方法が開発されている。これらの方法における一般的なテーマは、脱保護の方法の直交性(orthogonality)または示差的な傾向(differential liability)を操作することである。適切な組合せには、(i)Boc−Fmoc(TamおよびLu、Proc.Natl.Acad.Sci.、USA 25 86:9084(1989))、(ii)Fmoc−Dde(Bycroftら、J.Chem.Soc.Chem.Commun.1993:773(1993)、および(iii)Npys−Fmoc(Ahlborg、J.Immunol.Methods 179:269(1995))がある。ポリペプチド多価リガンドを調製する他の手法は、Rotzschleeら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1462(1997)に開示されている。
【0124】
ペプチドおよびタンパク質を作成するための発現系を使用した当業者に既知の組換え技術および精製技術を用いて、本発明のMAP組成物中で使用されるペプチドを作成し、続いて精製することもできる。
【0125】
MAPタンパク質の調製
PPRペプチドが付加された4分岐鎖型多重リンカー骨格(B)の合成は、樹脂0.5g中に0.05mmolのβAlaが存在するt−ブトキシカルボニル(Boc)βAla−OCH−Pam樹脂(Mitchell,A.R.ら、J.Org.Chem.43:2845−2852(1978))上での段階的な固相手法(Merrifield,R.B.、J.Am.Chem.Soc.、85:2149−2154(1963))によって、手動操作で実現された。担体コアレベルでの最初のおよびそれ以降のすべての合成は、4Mを超える、ジメチルホルムアミド(樹脂1g当たりHCONMe 12ml)中のNα,Nε−Boc−Lys(Boc)の予め形成された対称的な無水物(連続して、0.2、0.4、0.8および1.6mmol)を用いて実現され、その後、CHCl中のジシクロヘキシルカルボジイミドのみによる第2のカップリングを行って、脱保護後、4つの官能アミノ基を含む4分岐鎖型コアマトリックスが得られた。ペプチド抗原合成のための保護基は、αアミノ末端に対してはBoc基であり、ほとんどの側鎖アミノ酸に対してはベンジルアルコール誘導体である。アルギニン、アスパラギン、グルタミン、およびグリシン以外のすべての残基では、定量ニンヒドリン試験(Sarin,V.K.ら、Anal.Biochem.、117:147−157(1981))でモニターしながら、CHCl中で、予め形成された対称的な無水物を用いて、第1のカップリングを1時間行い、HCONMe中で第2のカップリングを行い、(必要な場合は)50℃にてN−メチルピロリドン中で第3のカップリングを行った(Tam,J.P.、in Proceedings of the Ninth American Peptide Symposium、eds.Deber,C.M.、Kopple,K.D.およびHruby,V.J.(Pierce Chem.、Rockford、III)pp.305−308(1985))。Boc−AsnおよびBoc−Glnのカップリングは、HCONMe中で、予め形成された1−ヒドロキシベンゾトリアゾールエステルによって媒介された。Boc−GlyおよびBoc−Argは、それぞれジペプチドおよびラクタムが形成される危険を回避するために、水溶性ジシクロヘキシルカルボジイミドのみを用いてカップリングを行った。高度に帯電した高分子を生じるポリカチオン性アミノ基を除去するために、多価リガンドの完成時に0.3mmolのN,N−ジメチルアミノピリジンを含むHCONMe中の3mM無水酢酸中でアセチル化することにより、ペプチド鎖のαアミノ基にキャップを形成させた。脱保護プロセスは、8時間かけて、HCONMe中の1MのチオフェノールでHis(Dnp)のジニトロフェニル保護基を除去する(反応完了に必要な場合、50℃で3回行う)ことによって開始した。切断して未精製の多価リガンドを生じさせる(切断収率85%〜93%)低−高−HF法または低−高−トリフルオロメタン−スルホン酸法(Tam,J.P.ら、J.Am.Chem.Soc.、108:5242−5251(1986))を用いて、分岐鎖ペプチドのオリゴリジンを架橋ポリスチレン樹脂支持体から切り離した。その後、未精製のペプチドおよび樹脂を冷エーテル/メルカプトエタノール(99:1、体積/体積、30ml)で洗浄して、p−チオクレゾールおよびp−クレゾールを除去し、8M 尿素/0.2M ジチオスレイトール/0.1M Tris−HCl緩衝液、pH 8.0を100ml用いてペプチドを抽出した。切断ステップで生じた、残存している芳香族副産物をすべて除去するために、カットオフ分子量1000MWのSpectrum Por 6チューブ中で、8M 尿素、0.1M NHHCO(NHCO緩衝液、pH 8.0、0.1M メルカプトエタノールを含む、脱気しNパージした溶液を用いて、0℃で24時間平衡化することによって、ペプチドを透析した。次いで、すべてpH8.0、0.1MのNHHCO/(NHCO緩衝液中において、8Mの尿素中、次いで2Mの尿素中で12時間透析を継続し、次いで、尿素をすべて除去するためにHO中および1M HOAc中で順次透析を行った。多価リガンドを凍結乾燥させ、高速ゲル浸透クロマトグラフィーまたは高速イオン交換クロマトグラフィーによって、バッチ式に精製した。精製物質をすべて分析し、それが予測アミノ酸配列を含んでいることが判明した。
【0126】
抗原担体としての多重リンカー骨格(B)の他の重要な特徴は、その正確な構造が知られている;それ自体抗原性があり、組織刺激または他の望ましくない反応を生じさせる可能性がある不純物が存在しない;インヒビンペプチド(群)(P)の正確な濃度が知られている;Pが骨格上で対称的または非対称的に分布している;および、多価ワクチンを生成することができるような複数の抗原のベースとして利用できることである。インヒビンワクチンの基礎としての本発明のMAP組成物の主要な利点の1つは、スカシ貝ヘモシアニン、マルトース結合タンパク質、破傷風トキソイド、およびウシ血清アルブミンなどの天然の担体を用いる以前のシステムとは異なり、本発明の多重リンカー骨格(B)が、インヒビンペプチド抗原が既知の濃度で結合する、完全に規定された化学成分であることである。さらに、このインヒビンペプチド抗原は、マルトース結合タンパク質などの天然の大きな担体の場合と同様に、この分子の比較的小さな規定されていない部分ではなく、この分子の大きな部分を占めている。
【0127】
MAP分子をワクチン生成に使用する場合、多重リンカー骨格は、体内で通常の代謝経路をたどって処理できるように、リジンなどの天然に存在するアミノ酸であることが好ましい。しかし、下記でさらに完全に説明するように、天然に存在しないアミノ酸も、さらにはαアミノ酸でないものさえも使用することができる。骨格を構築する際に使用するアミノ酸またはその他の非対称分子は、D体またはL体のどちらでもよい。
【0128】
樹状ポリマーを、ポリアミドポリマーとして上記で主に説明してきたが、本発明の多重リンカー骨格(B)が樹状ポリアミドに限らないことが容易に明らかとなるだろう。少なくとも2つの利用可能な官能基を有する多種多様な分子のいずれも、多重リンカー骨格として使用することができる。例えば、プロピレングリコールをポリエステル樹状ポリマーの基礎として使用することができる。選択されたグリコールまたはアミンを有するコハク酸を、ポリエステルまたはポリアミドを生成するためのコア分子として使用することができる。ジイソシアネートを使用して、ポリウレタンを生成することができる。重要な点は、多重リンカー骨格が少なくとも2つの利用可能な官能基を有し、その官能基から、各分岐鎖上にやはり少なくとも2つの利用可能な官能基または固定用の基(anchoring group)を有する付加分子との連続的な足場形成タイプの反応により、同一の分岐鎖が生じうるということである。多重リンカー骨格が2つの利用可能な官能基を有し、続いて生じる各世代も2つの利用可能な官能基を有する単純な場合、ペプチド(P)またはリンカー(L)を固定することができる固定部位の数は、(2)(nは世代数)で表される。
【0129】
樹状ポリマーの化学反応についてのより完全な議論については、Tomaliaら、Polymer Journal 17(1)、117(1985)、Aharoniら、Macromolecules 15、1093(1982)、ならびに米国特許第4,289,872号、第4,376,861号、第4,507,466号、第4,515,920号、第4,517,122号、第4,558,120号、第4,568,737号、第4,587,329号、第4,599,400号、および第4,600,535号に注目されたい。
【0130】
現在好ましい実施形態では、本発明は、同じものでもよく異なるものでもよいペプチド(P)と共有結合する複数の固定部位を有する多重リンカー骨格(B)と、任意にペプチドと骨格との間のリンカー(L)とを含む、複数の抗原ペプチドシステムを提供する。多重リンカー骨格は、末端の官能基を有する分子分岐鎖が共有結合する、少なくとも2つの官能基を有する。分岐鎖上にある末端の官能基は、ペプチド(P)と共有結合する。本明細書において、抗原分子Pをペプチド抗原として主に説明したが、これはペプチド抗原に限らず、さらには抗原にさえも限らない。
【0131】
選択されたペプチド(P)は、別に合成またはその他の方法で入手し、骨格(B)と結合させることができる。あるいは、Pは骨格上で合成することもできる。例えば、Pがオリゴペプチドまたは比較的低分子量のポリペプチドであり、B上の利用可能な官能基がアミノ基またはカルボキシル基である場合、既知のペプチド合成技術を利用してBの各分岐鎖を伸長させることによって、Pを合成することができる。
【0132】
本発明の具体的な利点は、2つ以上の異なるPの担体としてBを使用することができることである。Pは、すべてインヒビンに関連するものでもよく、インヒビン関連ペプチドと他のペプチドとの混合物でもよい。これは、MAPワクチンの生成、あるいは、鳥類の疾患から保護するのに有用な、1つまたは複数のPと1つまたは複数の抗原とを含むMAPワクチンの生成に特に有用である。同じ疾患に関係するT細胞抗原およびB細胞抗原が任意の様々な構造で骨格ポリマーに結合している、本発明の抗原産物から生成されたワクチンは、高い抗体価を生じさせることができるので有用である。
【0133】
この手法を利用する本発明の1つの実施形態は、一方が酸による加水分解に安定であり、他方がアルカリによる加水分解に安定である、異なるアミノブロック基を使用する、ポリリジンまたは他の構造上類似する分子をBとして使用することに基づいている。このことにより、直交保護法(orthogonal protection method)によって、リジンのアミノ基のどちらかを保護することが可能となる。
【0134】
フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)は、塩基に不安定な保護基であり、酸による脱保護に完全に安定である。t−ブトキシカルボニルブロック基(Boc)は、塩基性条件下で安定であるが、50%トリフルオロ酢酸などの弱酸性条件下で安定でない。Boc−lys(Boc)−OH、Boc−lys(Fmoc)−OH、Fmoc−lys(Boc)−OHまたはFmoc−lys(Fmoc)−OHを選択することによって、リジンのαアミノ基上に1組の抗原を、ωアミノ基上に他の1組の抗原を配置することができる。ペプチド合成の分野の当業者であれば、多様なブロック基および他の樹状ポリマーを用いて、同じタイプの産物を実現する方法を容易に考案することができる。
【0135】
実施例中では以下の略語を使用する。
Boc−13 − t−ブトキシカルボニル
TFA − トリフルオロ酢酸
DMF − ジメチルホルムアミド
DCC − ジシクロヘキシルカルボジイミド
Tos − トシル
Bzl − ベンジル
Dnp − ジニトロフェニル
2CIZ − 2−クロロカルボベンゾキシ
DIEA − ジイソプロピルエチルアミン
TFMSA − トリフルオロメチルスルホン酸
BSA − ウシ血清アルブミン
HPLC − 高速液体クロマトグラフィー
TBR − 担癌ウサギ
ATP − アデノシン三リン酸
Dnp − ジニトロフェニル
CIZ − クロロベンジルオキシカルボニル
BrZ − ブロモベンジルオキシカルボニル
ELISA − 酵素結合免疫吸着検定法
【0136】
生産能を促進する方法
意外にも、本発明の組成物が、動物の生産能、特に鳥類の生産能を促進することが発見された。したがって、本発明はまた、本発明のMAP組成物を許容される担体とともに投与することにより、動物における生産能を促進する方法をも対象とする。1つの実施形態では、本方法は、動物の生産能が増大するように、許容される担体とともに有効量のMAP組成物を雌動物に投与するステップを含む。他の実施形態では、本方法は、動物の生産能が増大するように、許容される担体とともに有効量のMAP組成物を雄動物に投与するステップを含む。好ましくは、MAP組成物に対する免疫応答は動物体内において生じる。より好ましくは、動物体内において生じる免疫応答はまた、その動物によって産生されるインヒビンタンパク質(内因性インヒビン)に対するものである。
【0137】
より具体的には、本発明の方法は、動物の生産能が促進するように、本発明の有効量のMAP組成物を動物に投与することを含む。好ましくは、その動物は鳥である。好ましい鳥は、家禽である。特に好ましい鳥は、ニワトリ、ウズラ、七面鳥、ガチョウ、アヒルである。「処置した」鳥とは、本発明のMAP組成物を投与した鳥であることを理解されたい。
【0138】
本発明の方法を用いて、インヒビンを産生するあらゆる種の雌鳥の生産能を促進することができる。雌鳥には、これらに限定されないが、走禽類、オウム目、ワシタカ目、キツツキ目、フクロウ目、スズメ目、ブッポウソウ目、クイナ目、ホトトギス目、ハト目、キジ目(家禽)、ガンカモ目(ガチョウ、アヒル、他の水鳥)、およびサギ目がある。より具体的には、雌鳥には、これらに限定されないが、ダチョウ、エミュー、レア、キーウィ、ヒクイドリ、七面鳥、ウズラ、ニワトリ、ハヤブサ、ワシ、タカ、ハト、インコ、バタンインコ、コンゴウインコ、オウム、スズメ目の鳥(鳴禽、カケス、クロウタドリ、フィンチ、ムシクイ、スズメなど)、およびオウム目に属する任意の鳥がある。好ましい鳥は家禽である。特に好ましい家禽は、ニワトリ、ウズラ、七面鳥、アヒルまたはガチョウである。本発明の方法を用いて、絶滅危惧種の鳥における産卵開始を促進することもできる。そのような絶滅危惧種の鳥には、これらに限定されないが、ライチョウ、ソウゲンライチョウ、ワシ、タカ、コンドル、およびフクロウがある。
【0139】
本発明のMAP組成物中のインヒビンのペプチド断片(P)は、インヒビンを産生するあらゆる動物種由来のインヒビンに由来するものでよい。所与のMAP組成物中のペプチド断片(P)は、様々な種由来のものでよい。インヒビンには、これらに限定されないが、特に、鳥類インヒビン、哺乳動物インヒビン、爬虫類インヒビン、両生類インヒビン、または魚類インヒビンがある。より具体的には、哺乳動物インヒビンには、これらに限定されないが、ウシインヒビン、ヒトインヒビン、ウマインヒビン、ネコインヒビン、イヌインヒビン、ウサギインヒビン、ヒツジインヒビン、ミンクインヒビン、キツネインヒビン、カワウソインヒビン、フェレットインヒビン、アライグマインヒビン、ロバインヒビン、ラットインヒビン、マウスインヒビン、ハムスターインヒビン、およびブタインヒビンがある。鳥類インヒビンには、これらに限定されないが、ダチョウインヒビン、エミューインヒビン、レアインヒビン、ヒクイドリインヒビン、キーウィインヒビン、七面鳥インヒビン、ウズラインヒビン、ニワトリインヒビン、アヒルインヒビン、ガチョウインヒビン、およびオウム目のメンバー由来のインヒビンがある。
【0140】
好ましいインヒビンは、鳥類または鳥インヒビンである。より好ましいインヒビンは、ニワトリインヒビンである。最も好ましくは、本発明の異種タンパク質は、インヒビンタンパク質αサブユニットまたはその断片、および担体タンパク質を含む。
【0141】
インヒビンペプチドP、その断片またはその置換体は、動物の体液から単離することもでき、発現系中で遺伝子改変細胞から発現させることもでき、あるいは、一連の化学反応から合成により生成することもできる。より具体的には、インヒビンの断片には、これらに限定されないが、以下の組成物が含まれる:インヒビンαサブユニット;インヒビンβサブユニット;インヒビンαサブユニットまたはインヒビンβサブユニットの組換えDNA由来断片;インヒビンαサブユニットまたはインヒビンβサブユニットの断片の合成ペプチド複製物;インヒビンαサブユニットまたはインヒビンβサブユニットのN末端配列の合成ペプチド複製物;卵胞液由来の部分精製インヒビンの断片;内因性のインヒビンαサブユニットまたはインヒビンβサブユニットの断片;および外因性のインヒビンαサブユニットまたはインヒビンβサブユニットの断片。上記で述べたように、インヒビンの断片は、成熟型インヒビンαサブユニットまたはその断片であることが最も好ましい。インヒビンには、より免疫原性にすることもでき、受容体でより活性を高くすることもできるアミノ酸の置換を有するインヒビンが含まれることが当業者には理解される。MAP組成物中のインヒビンがそのMAP組成物を投与する種と同じ種に由来する必要はないことを理解されたい。例えば、ダチョウに投与するMAP組成物が、ニワトリインヒビンからなるものでもよい。
【0142】
担体
本発明のMAP組成物がさらに、既知であり従来技術によるワクチンに用いられている、担体、賦形剤、アジュバント、保存剤、希釈剤、乳化剤、安定剤、および他の既知の成分を含むことを理解されたい。
【0143】
「許容される担体」または「許容される賦形剤」の用語は、本明細書において、有害な生理反応を起こさずに生きた動物またはヒトの組織と接触させて使用するのに適し、組成物の他の成分と有害な形で相互作用しない、水または生理食塩水、ゲル、軟膏、溶媒、希釈剤、液体軟膏基剤、リポソーム、ミセル、巨大ミセルなどを含むがこれらに限定されない、任意の液体を意味するものとして用いられる。本発明のMAP組成物は、好都合にも、単位投与形態で提示することができ、従来の製剤技術によって調製することができる。このような技術は、有効成分と担体(群)または賦形剤(群)を混合するステップを含む。一般に、製剤は、有効成分を液体担体と均一によく混合することによって調製される。非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤および溶質を含んでもよい水性または非水性滅菌注射液;懸濁化剤および増粘剤を含んでもよい水性または非水性滅菌懸濁液がある。製剤は、単回投与量または複数回投与量の容器、例えば、密封したアンプルおよびバイアルの形で提供することができ、使用直前に、滅菌液体担体、例えば注射用水を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で貯蔵することができる。即時調製の注射液および注射懸濁液は、当業者によって通常用いられる、滅菌した散剤、顆粒剤および錠剤から調製することができる。
【0144】
好ましい単回投与製剤は、投与成分の1回投与量または単位量、あるいはその適当な一部を含むものである。上記で具体的に述べた成分に加えて、本発明の製剤が、当業者によって通常用いられる他の薬剤を含むことができることを理解されたい。
【0145】
口腔内および舌下を含む経口、経直腸、非経口、経眼、噴霧、経鼻、筋内、皮下、皮内、局所などの様々な経路によって、本発明のMAP組成物を投与することができる。溶液、乳剤および懸濁液、細粒、粒子、微小粒子、ナノ粒子、ならびにリポソームが含まれるがこれらに限定されない様々な形で、本発明のMAP組成物を投与することができる。
【0146】
アジュバント
当業者に既知のあらゆるアジュバントシステムが、本発明の組成物と一緒に投与することができる。そのようなアジュバントには、これらに限定されないが、フロイント不完全アジュバント、フロイント完全アジュバント、多分散β−(1,4)結合アセチル化マンナン(「エースマンナン(Acemannan)」)、Titermax(登録商標)(CytRx Corporationのポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンのコポリマーアジュバント)、Chiron Corporationの改変脂質アジュバント、Cambridge Biotechのサポニン誘導体アジュバント、百日咳菌(Bordetella pertussis)死菌、グラム陰性細菌のリポ多糖体(LPS)、硫酸デキストランなどの大きなポリマー陰イオン、および、ミョウバン(alum)、水酸化アルミニウム、またはリン酸アルミニウムなどの無機ゲルがある。これらに限定されないが、油中水型乳剤および水中油中水型乳剤を含む乳剤もまた、本発明のMAP組成物の投与に使用することができる。他のアジュバントシステムは、フロイント不完全アジュバントである。さらに別のアジュバントシステムは、フロイント完全アジュバントである。
【0147】
投与方法
当技術分野で知られているあらゆる手段によって、本発明のMAP組成物を許容される担体とともに鳥に投与することができる。例えば、皮下に、腹腔内に、眼内に、皮内に、または筋内に、この組成物を投与することができる。好ましくは、皮下にこの組成物を注射する。1回または複数回、この組成物を鳥に投与することができる。好ましくは、複数回この組成物を鳥に投与し、初回免疫に続いて追加免疫を行う。
【0148】
疾患または加齢のために、動物が排卵しなくなるまたは精子を産生しなくなるまではいつでも、この組成物を動物に投与することができる。本発明の組成物を動物に投与する好ましい齢数は、使用する動物種、(もしあれば)動物の発情期、および組成物を投与する目的によって決まる。
【0149】
例えば、産卵または精子産生の開始を促進するためにこの組成物を投与する場合、鳥が産卵または春期発動期の通常の齢数に達する前に、本発明の組成物を鳥に投与すべきである。上記で述べたように、本発明の組成物を動物に最初に投与する好ましい齢数は、使用する動物種、(もしあれば)動物の発情期、鳥のサイズ、組成物中のインヒビンペプチド断片の同一性によって決まる。
【0150】
他の例として、繁殖期を有する農畜産業用の動物の生産能を促進するためにこの組成物を投与する場合、この組成物を投与する好ましい時期は、繁殖期の開始前である。それとは異なり、産卵率または精子産生率が減退している成熟期の動物にこの組成物を投与する場合、その産生減退が問題であると認識されるときにこの組成物を投与する。
【0151】
ニワトリに投与する好ましいタイミングは、鳥が免疫能を有するに至った後で、生殖面での成熟に達する前である。初回注射と追加注射の間の好ましい最短期間は、約3週間である。1つの実施形態では、初回注射と追加注射は、それぞれ15週と18週に行われる。ニワトリの産卵または精子産生の開始を促進するために組成物を投与する場合、この組成物を投与する好ましい時期は、食肉用ニワトリ(繁殖用ブロイラー雌鶏)では20週齢の前、産卵用ニワトリ(例えば、レグホン(Leghorn)種)では18週齢の前に、初回および1回または複数回の接種を行うことである。
【0152】
繁殖期を有する動物については、任意の齢数において本発明のMAP組成物を鳥に投与することができるが、その鳥の最初の繁殖期前の6カ月間に鳥を免疫化することが好ましい。平均的な雌鳥がその最初の繁殖期に産卵を開始することが当業者に理解されよう。鳥の最初の繁殖期の約2〜6カ月前に鳥を免疫化し、次いで、鳥の最初の繁殖期前に1カ月間隔で追加免疫注射を投与することがさらに好ましい。鳥の最初の繁殖期の約6カ月前に鳥を免疫化し、鳥の最初の繁殖期の1カ月前に追加免疫注射を投与することが最も好ましい。
【0153】
初回免疫注射は、本発明のMAP組成物を約0.005〜1.0mg含む。追加免疫注射は、本発明のMAP組成物を約0.0025〜1.0mg含む。好ましくは、初回免疫注射は、本発明のMAP組成物を約0.01〜0.75mg含む。より好ましくは、初回免疫注射は、本発明のMAP組成物を約0.02〜0.50mg含む。追加免疫注射は、好ましくは、本発明のMAP組成物を約0.005〜0.5mg含み、より好ましくは、本発明のMAP組成物を約0.01〜0.025mg含む。初回免疫注射において、油中水型(WO)または水中油中水型(WOW)乳剤中でMAP組成物を乳化し、追加免疫注射において、油中水型(WO)または水中油中水型(WOW)乳剤中でMAP組成物を乳化することもまた好ましい。MAP組成物を皮下注射することが好ましい。動物、好ましくは鳥の頚部領域の背側に沿った1箇所の皮下にMAP組成物を注射することが好ましい。
【0154】
鳥に投与する本発明のMAP組成物の量は、鳥の種、鳥の齢数および体重、(鳥に繁殖期がある場合には)繁殖期に関連して組成物を投与する時期、および組成物を投与すべき回数によって変わる。投与スケジュールまたは処置スケジュールの開始もまた、鳥の種、その種の鳥の春期発動期の平均齢数、鳥の家族暦(春期発動期の齢数の家族暦に関するもの)、鳥が孵化した時季、鳥の栄養状態(栄養を十分与えられた鳥は、栄養不良の鳥より前に春期発動期に入る)、鳥の体重、肉および脂肪の程度、周囲の照明条件(自然のおよび人工の飼育環境が、照度、および1日の明期の持続時間と相互作用するので、これらのファクターに関するもの)、開始時の鳥の一般的健康状態、鳥の免疫能、鳥の長期健康暦、極端な天候状態の存在(雨、高温、強風などの、鳥が慣れていない、長期におよぶ過度の荒れた天候)、飼育環境の状況(過密状態)、および運動不足によって変わる。
【0155】
当業者であれば、本発明の教示を考慮して、通常行われる試験法によって、鳥によるそのタンパク質に対する免疫応答を引き出すのに必要となるMAP組成物の量を決定することができるはずである。
【0156】
生産能を促進する方法の他の例は、以下の通りである。MAP組成物に対する免疫応答が哺乳動物体内において生じるように、免疫的に有効な量のMAP組成物を哺乳動物に投与する。好ましくは、MAP組成物は、アミノ酸骨格に連結された哺乳動物インヒビンペプチド断片からなるものである。他の好ましいMAP組成物は、鳥類または爬虫類インヒビンのペプチド断片からなるものである。
【0157】
例えば、実施例4で十分に論じる、ニホンウズラの生産能を促進する本発明の方法の簡潔な概要は以下の通りである。無処置ウズラの春期発動期の平均齢数は、約6〜8週齢である。以下は、およその体重が0.1〜0.25ポンドのニホンウズラの処置スケジュールである:25日齢で、約0.025〜0.1mgの本発明のMAP組成物を初回(最初の)注射、32〜35日齢で0.01〜0.05mgを追加注射。
【0158】
実施例2で論じる、ニワトリの生産能を促進する本発明の方法の簡潔な概要は以下の通りである。無処置の産卵用ニワトリ(例えばレグホン種)の春期発動期の平均齢数は、約20週齢である。およその体重が2.0〜3.0ポンドの産卵用ニワトリの処置スケジュールは以下の通りである:14週齢で、約0.05〜0.1mgの本発明のMAP組成物を初回(最初の)注射、17週齢で0.025〜約0.05mgを追加注射。無処置の食肉用ニワトリ(繁殖用ブロイラー)の春期発動期の平均齢数は、約23〜25週齢である。およその体重が3.0〜4.0ポンドの食肉用ニワトリの処置スケジュールは以下の通りである:15週齢で、約0.05〜0.1mgの本発明のMAP組成物を初回(最初の)注射、18週齢で約0.025〜約0.05mgを追加注射。
【0159】
実施例5で論じる、七面鳥の生産能を促進する本発明の方法の簡潔な概要は以下の通りである:無処置の七面鳥の春期発動期の平均齢数は、約30週齢である。およその体重が9.0〜12ポンドの七面鳥の処置スケジュールは以下の通りである:24週齢で、約0.1〜約0.5mgの本発明のMAP組成物を初回(最初の)注射、27週齢で約0.05〜約0.25mgを追加注射。
【0160】
上記で論じたように、本発明の方法は、本発明の組成物を投与した動物の春期発動期の開始を促進することによって、生産能を促進した。産卵の開始に関して「促進する」という用語は、無処置の鳥で産卵が通常始まるより、処置した鳥の産卵が少なくとも約3%早く始まることを示す。産卵は、好ましくは少なくとも約5%早く始まり、より好ましくは少なくとも7%早く始まる。産卵は、無処置の鳥で産卵が通常始まるより、さらに好ましくは少なくとも約10%早く始まり、最も好ましくは少なくとも約13%早く始まる。
【0161】
上記で論じたように、本発明の方法はまた、動物の卵または精子産生量を増大させることによっても、生産能を促進した。卵産生に関して「増大する」という用語は、処置した鳥の卵産生が、無処置の鳥の卵産生量よりも少なくとも約3%増大することを示す。卵産生は、好ましくは少なくとも約7%増大し、より好ましくは少なくとも約12%増大する。
【0162】
さらに、上記で論じたように、本発明の方法は、動物の最大卵産生の開始を促進することによって、生産能を促進する。最大産卵の開始に関して「促進する」という用語は、無処置の鳥で産卵が通常始まるより、処置した鳥の最大産卵が少なくとも約3%早く始まることを示す。最大産卵は、好ましくは少なくとも約5%早く始まり、より好ましくは少なくとも7%早く始まる。最大産卵は、無処置の鳥で最大産卵が通常始まるより、さらに好ましくは少なくとも約10%早く始まり、最も好ましくは少なくとも約13%早く始まる。
【0163】
驚くべきことに、本発明の組成物は、鳥類の生涯産卵数を増大させるのに有用である。生涯産卵数に関して「増大する」という用語は、処置した鳥の生涯産卵数が、無処置の鳥の生涯産卵数よりも少なくとも約3%増大することを示す。生涯産卵数は、好ましくは少なくとも約7%増大し、より好ましくは少なくとも約12%増大する。最も好ましくは、生涯産卵数は少なくとも約15%増大する。
【0164】
意外にも、本発明の組成物は、雌鳥を換羽させる必要性、例えば産卵の第2の周期をもたらすことによって産卵の持続性を延長する必要性を減らすかまたはなくすのに有用である。より具体的には、上記の方法で開示されたように、上記に記載の組成物を雌鳥に継続して投与した場合、鳥の産卵率は、鳥を本発明の組成物で処置しなかった場合と比べて、産卵率を高めるために換羽させる必要がないほど十分に高いままである。鳥を維持する経済的コストが産生した卵によって得られる経済的利益を上回るほど産卵量が低下したときに、雌鶏(単冠白色レグホン(Single Comb White Leghorn)、食用卵の産卵鶏)などの雌鳥を換羽させることは、当技術分野で通常実施されている。雌鶏を「換羽」させるために、通常、換羽し始める、例えば羽が抜け始めるまでの約4〜14日間、鳥に絶食期間を与える(例えば、1日の明暗周期のうち明るい部分を減らすなどの、換羽を誘導する代替方法も存在する)。換羽期間の間、鳥は産卵を停止する。鳥を通常の給餌レベルに戻した後、しばらくすると卵産生が始まる。換羽期間全体は、絶食期間の開始から次の産卵周期の開始までの約2カ月である。実際、鳥の卵産生率は回復する。しかし、ニワトリの換羽後、次の周期の産卵率は、最初の(換羽前の)産卵周期間の卵産生と同等ではない。M.NorthおよびD.Bell、Commercial Chicken Production Manual、第4版、第19章、Van Norstrand Reinhold発行、ニューヨーク。
【0165】
例えば、食用卵の産生に用いるニワトリは、約20週で産卵するようになり、約40〜50週間で経済的に意味のある数の卵を産生する。最大産卵時に、ニワトリは10日ごとに8〜9個の卵を産生する。しかし、産卵の約50週間の後、卵産生率は、最大産卵の約60%まで低下する。この時点で、ニワトリの給餌コストは、それが産生する卵の価格より高くなる。ニワトリが産卵を再開したときにその産卵率が増大するように、この時点でニワトリを換羽させることが通常実施されている。鳥の中でも、ニワトリおよびウズラについて「産卵の持続を延長する」ということは、産卵が約1〜4週間延長することを意味する。
【0166】
したがって、本発明の組成物は、この組成物が鳥を組成物で処置しなかった場合より高いレベルで産卵率を維持するので、鳥を換羽させる必要性を減らすかまたはなくす。鳥を換羽させる必要性が減るかまたはなくなると、相当の節減となる。より具体的には、鳥を換羽させる間およびその前は、鳥は、換羽する前の給餌コストより非生産的であり、次いで、給餌の再開後しばらくの間も非生産的である。したがって、高いレベルで産卵率を維持することにより、鳥のこの非生産的な時期が短くなるかまたはなくなり、それによって、生産者のコストが低下し、生産者の利益が増大する。上記で論じたように、換羽後の産卵率が最初の産卵周期の産卵率と等しくないので、産卵率を高レベルに維持することにより、卵の生産者の利益がさらに高まる。
【0167】
簡潔に述べると、本発明のMAP組成物を有効量投与して免疫応答を誘導し、その後、本発明のMAP組成物を有効量(追加)投与して、通常より高い産卵率を維持することにより、鳥の産卵率が高まり、それによって、鳥を換羽させる必要が回避される。
【0168】
本発明の方法は、哺乳動物、爬虫類、家禽などの鳥類などの、インヒビンを産生する雌動物の生産能を促進する。より具体的には、本方法は、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ、および七面鳥の生産能を促進する。意外にも、本発明の方法は、動物の春期発動期または初回産卵の開始を促進する。本発明の方法はまた、動物の最大産卵の開始をも促進する。さらに、本発明の方法は、動物の産卵数を増大させる。さらにまた、本発明の方法は、動物の最大産卵の持続期間を延長する。さらにまた、本方法は、動物の生涯産卵数をも増大させる。鳥類において、本発明の方法はまた、その鳥の飼料要求率をも改善する。意外にも、本発明の方法はまた、有害な条件にさらされた動物の産卵率に対するそのような有害な産卵条件の影響をも低下させまたは排除する。そのような有害な条件には、これらに限定されないが、高温、過密状態、栄養不良、および騒音がある。
【0169】
本発明のMAP組成物で動物を免疫化することにより、選択的に、MAP組成物中のインヒビン関連ペプチドに対する抗体産生が動物に誘導される。また、好ましくは、この免疫化により、選択的に、内因性インヒビンに対する抗体産生が動物に誘導される。以下の説明にこだわるものではないが、鳥によってこのような抗体が産生されることにより、春期発動期または産卵の開始までの期間が短縮されると考えられる。また、以下の説明にこだわるものではないが、動物によってこのような抗体が産生されることにより、抗体が動物の血流中でインヒビンの生物学的活性に影響を与えるかまたは中和するので、動物の卵産生能または精子産生能を増強すると考えられる。
【0170】
意外にも、本発明の方法はまた、哺乳動物、爬虫類、鳥類などの、インヒビンを産生する雄動物の生産能をも改善する。より具体的には、本発明の方法は、雄動物の体重および血中テストステロン濃度を増大させる。同様に、本発明の方法は、雄動物の春期発動期または精子産生の開始を促進する。また、本発明の方法は、雄動物の最大精子産生の開始をも促進する。さらに、本発明の方法は、雄動物による精子産生量(精子数)を増大させる。さらにまた、本発明の方法は、動物の最大精子産生の持続期間を延長する。また、本発明の方法は、雄動物の射精量をも増大させる。さらに、本方法は、動物における精子の生存率および性質(例えば、運動性)を向上させる。さらにまた、本方法は意外にも、有害な条件にさらされた動物の精子産生に対するそのような有害な条件の影響を低下させまたは排除する。そのような有害な条件には、これらに限定されないが、高温、過密状態、栄養不良、および騒音がある。本発明の方法はまた意外にも、雄鳥の性欲を亢進させ、したがって、雄鳥の潜在的生殖能を亢進させる。
【0171】
以下の実施例は、本発明をさらに説明する助けとなるが、それと同時に、いかなる形でもそれを限定するものではない。それとは逆に、本発明の趣旨および/または添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、本明細書の記述を読んだ後に本明細書が当業者に示唆しうる他の様々な実施形態、変更形態およびそれと同等なものも利用できることを明確に理解されたい。
【実施例1】
【0172】
ニワトリインヒビンの成熟型αサブユニットのN末端側26アミノ酸(配列番号:1)を用いた、式XIVに示すMAP組成物の生成
この抗原は、Midwest(St.Louis,MO)によって生成された。配列番号:1を化学合成し、リジン骨格(Lys Lys Lys)にこのような配列4つを共有結合により結合させて、式XIVに示す構造を作成した。ペプチド合成の分野の技術者に既知の固相法(Merrifield,R.B.、J.Am.Chem.Soc.86、1385(1963)Stewart,J.M.およびYoung,J.D.「Solid phase peptide synthesis」、Pierce Chemical Co.、Rockford Illinois、1983による方法)を用いて、式XIVで表される組成物を合成した。最初にリジン骨格(B)を合成し、次いで26−merのアミノ酸(P、配列番号:1)をB上に(C末端から)1つずつ付加した。式XIVに示すMAP複合体全体を固相から切断し、次いで貯蔵のために凍結乾燥した。
【実施例2】
【0173】
生産能を促進するための、繁殖用ブロイラー雌鶏への式XIVに示すMAP組成物の投与
抗インヒビン抗体を産生させ、生産能に影響を与えるために、式XIVに示すMAP組成物で繁殖用雌ブロイラーを免疫化した。
【0174】
手法の概要
13週齢の繁殖用雌ブロイラー(Cobb 500)を商業的供給源から130羽入手した。10個の檻に、雌鶏を均等に割り当てた。檻は、約50平方フィートの羽根板スペース(slat space)(被覆金網、Riverdale Mills)と、約50平方フィートの敷料(経木)の組合せである。15週齢時に、雌鶏40羽(檻1個当たり4羽)を無作為に選択し、体重を測定し、翼帯を付け、被験体に指定した。
【0175】
ドリップニップル給水システム(檻1個当たり6ニップル)を(羽根板の中心の近くで)羽根板の上にぶら下げ、檻の後部の壁と垂直の方向に羽根板を横切って延ばした。羽根板の上の、ドリップニップル給水器の両側に2本のチューブ型の給餌器をぶら下げた。各給餌器は、給水器と隣接する壁との間でおよそ等距離に置いた。上記に記載の給水システムによって、水を適宜供給した。
【0176】
鳥の配置の開始から、Cobb−Vantress推奨の4:3給餌制限法を使用した。13週齢の初めから、鳥の体重を毎週測定して、目標体重に達したかどうかを判断した。目標体重に達するように、給餌量を調整した。飼育場所内の配置に従って、繁殖用ブロイラーの標準的な成長期用マッシュ飼料(developer mash)(LSU BBD2)を与えた。給餌日においては、07:00頃に給餌を始めた。
【0177】
1日の明期を明期16時間:暗期8時間まで増加させることによって産卵を開始させる前に(下記を参照のこと)、(すなわち13〜20週齢の)雌鶏を1日の明期8時間で維持した。暗期の間、照度は、0.5ルクス未満であった。明期の間、白熱電球によって供給される補助照明は約18±0.5ルクス(夜間に鳥の頭の高さで測定)であった。20週齢で、1日にさらに5時間照明を与えることによって、鳥を「照明した」。その後、明期16時間:暗期8時間に達するまで、1日の明期を1週間に1時間ずつ増加させた(Cobb−Vantressの推奨による)。20週齢の初めから、繁殖用ブロイラーの標準的な産卵期用マッシュ飼料(LSU BBL)を鳥に与えた。
【0178】
鳥の通常観察および記録、ならびに飼育環境の条件設定は、AABL SOPs # AM3−0、Daily Observations;# FR5−1、House Operations;# AM7−0、Bird Removalおよび# AM8−0、Chicken Gross Necropsyに従って行った。
【0179】
式XIVに示すMAP複合体(1−26INH−MAP)の投与量3種のうち1種による投与誘発またはフロイント(対照)による投与誘発に対して、繁殖用ブロイラー雌鶏の免疫応答が生じるかどうかを試験した。下記の処置スケジュールに従って(下記のプロトコルの項を参照のこと)、各檻の中で試験用に選択した鳥に、初回接種として、対照の投与誘発、または異なる投与量3種のうち1種による、式XIVに示すMAP組成物の投与を行った。各檻の中に残った鳥(n=9、このMAP組成物で処置されない鳥、または対照として使用しない鳥)は、試験動物とみなさなかった。初回接種は、15週齢で行った。注射経路は皮下(sc)であり、注射賦形剤は、フロイント完全アジュバント(FCA)であった。18週齢で、単回追加注射を初回投与量の半分で行った。19、20および21週齢で血液試料を得、抗インヒビン抗体が存在するかどうか(抗体価)を評価した。生殖能の測定も以下の通りに行った。各雌鶏の平均恥骨拡張(PS)の定期的な測定により、ならびに初回産卵の平均齢数(FIRST)および産卵率25%の平均齢数(T−FIVE)の算出から、春期発動期の開始を推定した。平均の週間および累積ヘンデイ産卵数(HDEP)もまた、産卵19週間の間で決定した。体重増加(BWG、初回の投与誘発時と試験終了時の体重差として表す)および死亡率(MORT)も調べた。各処置群は、雌鶏10羽で構成されていた。したがって、フロイント対照群を含めて、以下のように鳥40羽を4処置群に分けた。
【表1】

【0180】
初回接種は、15週齢で行った。注射経路は皮下(sc)であり、注射賦形剤は、フロイント完全アジュバント(FCA)であった。18週齢で、追加注射を初回投与量の半分で行った。追加注射も皮下(sc)であり、注射賦形剤は、フロイント不完全アジュバント(FIA)であった。対照群の鳥には、15週齢で初回接種(sc)としてFCAを与え、18週齢で追加接種(sc)としてFIAを与えた。異なる投与量のMAP組成物(式XIV)で処置した3群および対照処置群は、現場作業員にわからないようにしておくために、投与量を示して識別するのではなく、翼帯番号で識別した。AABL SOP #FR2−0、Random Allotment of Leg/Wing Badge Codes to Treatment Groupsにより、試験管理者は、翼帯コードに投与量を割り当てた。(対照を含む)すべての処置は、すべての檻の中で処置群ごと檻ごとに1羽の鳥に代表して行い、全体では処置ごとに10羽であった。各檻の中に残った鳥(n=9、MAP組成物(式XIV)で処置されない鳥、または対照として使用しない鳥)は、試験動物とみなさなかった。AABL SOP # FR3−0、Allotment of Treatments to Broiler Breeders within Pensに記載のように、処置群を割り当てた。処置を適用するとき、AABL SOP # AM4−0、Animal Weighing − Broiler Breedersに従って、雌鶏の体重をすべて測定した。AABL SOP # FR4−0、Broiler Breeder Subcutaneous Injection Protocolに記載のように、各処置の投与を行った。
【0181】
19、20および21週齢で(追加接種から1、2および3週間後)、各試験雌鶏から血液試料を得た。血液採集は、AABL SOP # FR6−0、Blood Collectionに記載のようにして行い、AABL SOP # LE4−0、Blood Processingによって血液を処理した。試験終了時に、AABL SOP # AM4−0、Animal Weighing − Broiler Breedersに記載のように、雌鶏の体重をすべて測定した。
【0182】
約23〜28週齢で、すべての試験鳥に対してPS測定を合計8回行った。最初の6回のPS触診は、約4日ごとの頻度で行い、最後の2回は、約7日の間隔で行った。この測定値を1羽の鳥について平均し、各鳥のPS平均値を統計分析のための観察結果として使用した。毎日死亡率の記録を継続し、試験中に死亡したすべての鳥の異常、病変、考えられる死因について調べた(下記を参照のこと)。
【0183】
検討した処置を主プロット上に、血液採取時期(反復測定、19、20および21週齢、すなわち追加接種から1、2および3週間後)および検討した時期と処置の相互作用を分割プロット上にとる、分割法を組み込んだANOVAを用いて、注射処置間(0、対照および3種のMAP(式XIV)投与量)の抗体価の差を評価した。注射処置の主要効果を考慮した完全無作為化法を組み込んだANOVAを用いて、処置間のPS、FIRST、T−FIVE、累積HDEP、BWGおよびMORTの差を評価した。該当する場合に、かつこれらの変数における差を分割するために、Duncan新多範囲検定で処置群の平均値を事後検定した。
【0184】
PS,FIRST、およびT−FIVEを含む春期発動期開始の測定値を得た。産卵19週間における毎日の産卵観察から、週間HDEPおよび累積HDEPを算出することによって、卵産生を評価した。体重増加(BWG、初回の投与誘発時と試験終了時の体重差として表す)およびMORTも調べた。抗原の3種の投与量と対照との間で、比較を行った。
【0185】
抗インヒビン抗体価(抗体価)
抗体価に対する注射処置の効果をANOVAで検討すると、処置群間で顕著な差(P<0.0003)が示された。この差を分割する、ANOVA後のDuncan検定(下記を参照のこと)により、対照の平均TITER応答と比較したとき、1−26INH−MAP投与量が最も低い鳥(初回に鳥1羽当たり0.05mg)および最も高い鳥(初回に鳥1羽当たり0.20mg)で、平均TITER応答が高い(P<0.01)ことが示された。中間の1−26INH−MAP投与量を接種された鳥(初回に鳥1羽当たり0.10mg)もまた、強く安定した(robust)(対照よりほぼ30倍高い)平均TITER応答を示したが、その他2つの抗原投与量を投与された鳥でみられる高いTITERと統計的に類似しているにもかかわらず、これを対照から統計的に分割することができなかった。試料採取の規模が小さかったことから、この統計上の奇妙さの説明がつく可能性が高い。予想通り、主として抗原処置の影響に起因して、追加の投与誘発後にTITERは時間の経過につれて低下した(P<0.02)(データは示さず)。注射処置と追加接種後の時間との間に、平均TITERに対する有意な相互作用は認められなかった。
【0186】
春期発動期の測定
各雌鶏の平均恥骨拡張(PS)の定期的な測定、ならびに初回産卵の平均齢数(FIRST)および産卵率25%の平均齢数(T−FIVE)の算出から、春期発動期の開始を推定した。
【0187】
恥骨拡張(PS)
恥骨間隔、恥骨拡張またはPSは、産卵前の雌鶏における性的発達の状態を評価するために家禽産業で測定される標準的な項目である。通常、17週齢での指1本分の幅(約2cm)から、産卵の時点(23〜25週齢)での指3本分の幅(約5cm)に、PSは増大する、Ross Breeder Management Guide、2000、p.40。約23〜28週齢で、すべての試験鳥に対してPS測定を合計8回行った。最初の6回は、約4日ごとの頻度で行い、最後の2回は、約7日の間隔で行った。最初の4回のPS測定は、産卵開始前の2週間中に行い、最後の4回は、その後の2.5週間中に行った。したがって、PS測定は基本的に、任意の試験雌鶏による初回産卵の観察時期(低投与量の1−26INH−MAP鳥、25週3日齢)から産卵の最初の2.5週間にかけての、鳥集団齢数の範囲の間に行った。PS測定値を1羽の鳥について平均し、各鳥のPS平均値を統計分析用の観察結果として使用した。対照のPS応答と比較したとき、3種の投与量の1−26INH−MAP(式XIV)を投与された鳥すべてにおいて、平均PSは同様に増大した(範囲:17〜38%、P<0.01)。
【表2】

【0188】
PSの増大は、雌鶏の産卵開始の準備を示すものとみなされるので、本明細書で測定されたPS(8回の触診にわたる各鳥中での平均)は、産卵期の最初の4週間の累積HDEPと相関があった。PSは、各注射処置群における相関(対照群のみでの相関ではr=0.91、P<0.01、そして、最も低い、中間の、および最も高い投与量の1−26INH−MAP群では、それぞれ、r=0.91、P<0.01、r=0.65、P<0.08、r=0.85、P<0.002)、およびすべての試験鳥を考慮した相関(r=0.83、P<0.0001)について、早期の産卵と一貫して高い相関を示した。
【0189】
FIRSTおよびT−FIVE
対照の応答と比較したとき、FIRSTおよびT−FIVEの測定値は、3種の投与量の1−26INH−MAPをそれぞれ投与された鳥で数値が低下し、中間の投与量の群における平均FIRST応答は、対照の応答とP<0.10のレベルで統計的に差が認められた(図1)。試料採取の規模が小さいことにより、春期発動期のこれらの測定値におけるこれ以上の統計的な差を見出すことは明らかに不可能であった。それにもかかわらず、春期発動期開始の平均齢数を促進したことを示すこれらの測定値は、いずれの試験で本発明者らが行った中でも最も良いものである。さらに、このFIRSTおよびT−FIVEの知見は、1−26INH−MAPで処理した鳥における平均恥骨拡張の劇的な増大を実証するPSの知見を十分支持するものである(上記の論述を参照のこと)。
【0190】
産卵の測定
週間HDEP
産卵第8週の間、2種の高い投与量の1−26INH−MAP群は、対照群でみられるよりも高い(P<0.10)平均HDEPを示した。そして、最も低い投与量の1−26INH−MAP処置群は、中間のHDEP応答を示し、これは、対照の応答より約20%高かったが、対照群またはその他2種の1−26INH−MAP処置群との統計的な差は認められなかった。しかし、産卵第9週の開始およびその後(試験終了時まで)、1種または複数種の1−26INH−MAP投与群の週間HDEPにおける顕著なかつ統計的に有意な増大(P<0.05〜0.01)が、調べた11週のうち8週中で明らかであった。具体的には、その産卵週は、第9、10、12、13、14、15、16、および19週であった。
【0191】
累積HDEP
(産卵19週間での)平均累積HDEPの分析により、対照の応答と比較したとき、3つすべての1−26INH−MAP群で全体の産卵数が劇的に増大した(P<0.05)ことが示された(下記を参照のこと)。最も低い、中間の、および最も高い投与量の1−26INH−MAPで処理した鳥の、対照に対する累積HDEPの増大分はそれぞれ、約49%、約62%、および約64%であった。
【表3】

【0192】
体重増加および死亡率の測定
BWG
初回の投与誘発時(15週齢)から試験終了(産卵19週間)までの体重増加は、対照群と1−26INH−MAP群との間で差がなかった(データは示さず)。このことから、インヒビンベースのワクチンでの処置によって、完全な産卵周期(40週間)の中間時点(19週間)で測定した、雌鶏の残存価額(salvage value)は変化しないことが示唆された。
【0193】
MORT
死亡率にもまた、ワクチン処置による影響はなかった(データは示さず)。これらの知見は、インヒビンに対する積極的な免疫化が生存能力に影響を与えないという主張を支持するものである。
【実施例3】
【0194】
生産能を促進するための、繁殖用ブロイラー雌鶏への式XIVに示すMAP複合体の投与
実施例2に記載の試験と類似した、第2の主要な臨床試験をニワトリに行った。
【0195】
動物および管理
商業的飼育場で選択した、13週齢での推奨される目標体重の±10%以内である13週齢のCobb−500雌鶏400羽(試験動物350羽および余剰分50羽、下記を参照のこと)を、檻16個に無作為に分けた。15週齢で、この雌鶏350羽(檻14個)を被験体に指定し、別々の色および番号がついた翼用バッジを取り付けることにより、個々の鳥の永久的な識別表示をこれに割り当てた。13週齢で最初に飼育された残りの鳥50羽(25羽ずつの檻が2つ)を、試験用の雌鶏と同様に維持した。13〜15週齢の間(処置の適用前)に死亡した試験鳥または初回注射の時点(15週齢、下記を参照のこと)で間引きされた試験鳥の代わりに、少数の余剰分の鳥を使用した。初回接種を投与した後においては、試験動物のさらなる交換は行わなかった。
【0196】
檻および給水システムは、実施例2に記載の通りであった。各檻の後部の壁に沿った2列のシステムにおいて、合計18個の個々のトラップネストを配置した。試験全体にわたって、水を適宜供給した。鳥の配置の開始(13週齢)から、Cobb−Vantress推奨の給餌制限方法である毎日(ED)給餌制限法を使用した。13週齢から産卵開始(23週5日齢)まで、鳥の体重を毎週測定して、目標体重に達したかどうかを判定した。業者が推奨する目標体重に達するように、給餌量を調整した。
【0197】
商業的に配合、混合済みの繁殖用ブロイラー用の飼料(GMP公認、NAMCO、OH)を、実験全体にわたって与えた。13週齢での雌鶏の配置の開始から鳥集団によるヘンデイ産卵率が5%になった後の水曜日まで、発育期/成長期用飼料を与え、その水曜日に飼料を発育期/成長期用から繁殖期用に変えた。毎日の給餌は、点灯の約30分後から開始した(下記を参照のこと)。
【0198】
(13週齢で)商業施設で選択されたときに、雌鶏は1日の明期が8時間のダークアウト(dark−out)条件下で飼育されていたので、この条件(明期8時間:暗期16時間の周期)を20週5日齢まで継続した。暗期の間、照度は、0.5ルクス未満であった。明期の間、白熱電球によって供給される補助照明は約15±0.5ルクス(夜間に鳥の頭の高さで測定)であった。20週5日齢で、1日の明期を5時間増加させた(1日の明期を8時間から13時間にした、60ルクス)。次いで、21週5日齢で、1日の明期持続時間を1時間増加させ、その後、明期16時間:暗期8時間の周期に達する(すなわち、25週5日齢)まで毎週30分ずつ明期を増加させた。
【0199】
鳥の通常観察および記録、ならびに飼育環境の条件設定は、実施例2に記載の通りに行った。試験中、鳥の損傷、疾患などを含む予期せぬ出来事により、(単数または複数の)鳥を試験から除外しなければならないことがあることが確認された。したがって、すべての鳥の試験からの除外は、実施例2に記載の手法に従った。さらに、死亡した鳥すべてに対して、考えられる死因が記載されている、獣医による検死結果の報告を得た。
【0200】
注射処置投与量および投与スケジュール
使用した試験抗原は、4−merの複数抗原ペプチド(MAP)(1−26INH−MAP、式XIV)の形でのニワトリインヒビンαサブユニットの最初の26アミノ酸であった。賦形剤対照(下記を参照のこと)に加えて、以下の2種の試験物処置投与量で投与した。
【表4】

【0201】
(初回および追加の)試験物接種を施す各鳥に、注射体積1.0mL(水溶液0.5mL中の適当な濃度の試験物+適当なアジュバント0.5mL、下記を参照のこと)で注射した。1−26INH−MAP水溶液は、5%デキストロースを用いて調製した。初回注射の試験物賦形剤および対照接種物は、フロイント完全アジュバント(FCA)であった。15週齢で、初回接種(皮下(sc))を行った。18週齢で、追加注射(試験物による初回の投与誘発に用いた濃度の半分、上記を参照のこと)を行った。追加注射経路もまた皮下(sc)であり、注射賦形剤は、フロイント不完全アジュバント(FIA)であった。対照として、15週齢ではFCA 0.5mL+蒸留水0.5mLの初回皮下注射、18週齢ではFIA 0.5mL+蒸留水0.5mLの追加皮下注射を行った。
【0202】
最初の処置の適用(15週齢での初回注射)時に、鳥の集団を間引いて雌鶏350羽にし、確立されているプロトコルに従って、檻14個に等しく分配(檻1個につき雌鶏25羽)した。注射処置群は、現場作業員にわからないようにしておくために、投与量を示して識別するのではなく、翼用バッジの色および番号によって識別した。すべての檻内の適当な鳥にすべての注射処置を適用した。すなわち処置群ごと檻ごとに5羽であり、全体では処置ごとに70羽であった。プロトコルは、実施例2に記載の通りであった。
【0203】
抗インヒビン抗体判定のための血液採集
18週4日齢および20週齢(すなわち、追加接種から4日後および2週間後)の各雌鶏から血液試料を得た。血液採集は、実施例2に記載の通り行った。
【0204】
巣への馴化および産卵期
床上で(檻の敷料の領域(scratch area)中または金網の羽根板の上で)産卵する雌鶏の行動を最小限にするために、産卵開始前にトラップネストを用いて雌鶏を馴化した。21週1日齢〜21週4日齢、そしてまた22週1日齢〜22週4日齢の毎日、馴化を行った。したがって、最初の産卵が観察される約1週間前に、雌鶏の巣への馴化を終了した。
【0205】
試験の産卵期は、任意の鳥による最初の産卵が観察された後に開始した。これは、鳥の集団が23週5日齢の時に起こった。産卵期の16週間の終了後に(約40週齢で)試験を終了した。
【0206】
測定した変数
春期発動期測定:
恥骨拡張
雌の性的発達の状態を判定するために、実施例2に記載の手順に従って、17〜26週齢の各雌鶏の骨盤(pelvic(「pin」)bones)の間隔を測定した。指1本分(性的発達なし)〜指5本分(性的発達最大)の範囲の指半分ごとの単位で、恥骨拡張(PS)を測定した。
【0207】
FIRSTおよびTFIVE
初回産卵の平均齢数(日)(FIRST)ならびに個々が産卵率25%に達した平均齢数(日)(TFIVE)を、各処置群の雌鶏について算出した。
【0208】
ヘンデイ産卵数
トラップネストで任意の鳥から卵が最初に採集されたことが観察されてから、定期的な採卵(1日に最低4回)を開始した。その開始から試験終了(産卵期の16週間)まで、毎日の産卵数を記録した。毎日の卵のデータを使用して、週間ならびに累積ヘンデイ産卵数(HDEP)を算出した。
【0209】
卵重量(EWT)
初期卵のサイズに対するワクチン処置の効果を評価するために、各注射処置群の各雌鶏が(トラップネストで)産生した最初の12個の卵重量を個別に測定した。個々の雌鶏由来の卵を採集し、最後の2つの卵の平均重量が47.3g(業界標準として「設定可能な」卵重量)に達しなかったか、または超えなかった場合には、12番目の卵より先まで重量測定を行った。ひとたび所与の雌鶏が最初の卵を産生した後は、4週間以下の間で卵重量を測定した。成熟した雌鶏の卵のサイズに対するワクチン処置の効果を評価するために、32週齢の始まりからの産卵期4日間中における各雌鶏の毎日の卵重量(g)をも記録した。雌鶏の処置群の色および翼用バッジ番号、ならびに雌鶏の檻番号を示すマークを卵の殻表面上につけた。これによって、盲検にした、翼用バッジの割り当てを参照することにより、所与の雌鶏の卵をその雌鶏の特定の注射処置と結び付けることが可能となった。
【0210】
体重
実施例2の手順に従って、13週齢から26週齢にかけて、体重(BWT)を毎週測定した。
【0211】
死亡率および検死
毎日死亡率MORTの記録を続け、試験中に死亡したすべての鳥の異常、病変、考えられる死因について調べた。死亡は、KT(寿命による屠殺、検死不要)、KM(疾患による屠殺、検死必要)、D(死亡、検死必要)またはRM(機械的に除外、検死不要)と記録した。
【0212】
抗インヒビン抗体価
18週4日齢および20週齢で採集した血液試料中でのELISA(Viro Dynamics)により、インヒビンαサブユニットに対する相対的な抗体価を測定した。この血液試料の採取は、それぞれ追加注射の4日後および2週間後に対応するものであった。
【0213】
統計分析
Satterleeら、(2002)Poultry Sci.81:519−528に記載の手順に類似する手順により、春期発動期の指標(PS、FIRST、およびTFIVE)、HDEP(週間および累積)、EWT、MORT、およびELISAの抗体価のデータを分析した。
【0214】
結果および考察
低投与量の1−26INH−MAP(0.05mg)により、PSの開始は、21週齢からと有意に早まり(大部分でP<0.05)、24週齢まで持続した。高投与量(1−26INH−MAP 0.1mg)によって、PSはこのときに増大したが、この増大から統計上有意な差は生じなかった。
【0215】
この鳥の集団は、20週5日齢で光刺激を受けているので、そのわずか2日後に(21週齢で)対照とインヒビン免疫化した雌鶏との間でPSにおける最初の統計上の差が生じたという知見から、インヒビンに対するワクチン接種は、照明の効果、および(FSH誘導による、産卵が予想される卵胞の補充および発達の促進によって)卵巣を成熟させるのに必要なFSHの上昇をもたらすその既知の作用とはある程度無関係に、春期発動期を促進する可能性があることが示唆される。
【0216】
対照応答と比較したとき、1−26INH−MAP免疫化した雌鶏群における特定の週のおよび特定の投与量のものについて、ピーク後のHDEP産卵率の有意な上昇が認められた。具体的には、この差はすべて試験の後半の間(すなわち、産卵期の第9〜16週の間)に生じており、このことから、1−26INH−MAPが産卵の持続期間を延長していたことが示唆される。本試験での対照の場合と同様に、繁殖用CobbブロイラーのHDEPのピークは、産卵期の第8週あたりで生じることが知られている。低投与量の1−26INH−MAPで処置した雌鶏と対照との間にみられるピーク後のHDEPの違いは、産卵第9週(P<0.10)、第13週(P<0.05)、第16週(P<0.05)にみられる劇的なHDEPの上昇(各場合で約10%)であった。
【0217】
以前に示した週間HDEPデータを支持するものとして、対照応答と比較したときに、どちらの投与量の1−26INH−MAPも、試験の最後の2週間で産卵しなかった雌鶏数の低下を示した(低投与量および高投与量で、それぞれ3.7倍および2倍)。対照と比較したとき、低投与量の1−26INH−MAP応答は、統計的に有意な低下(P<0.03)であった。これらのデータは、インヒビンに対するワクチン接種を行ったが産卵しない雌鶏の数が有意に低下することを実証するものであり、このことは、生産者にとって直接の経済的利益となる。
【0218】
また、目標体重(BWT)に達したかまたは超えた、より重くなった雌鶏と反対に、照明時に目標体重を下回る体重となった雌鶏において、インヒビンに対する積極的な免疫化の、繁殖用ブロイラーの産卵に対する効果をも調べた。具体的には、産卵16週間全部のデータ、および産卵の最後の8週間(産卵第9〜16週)のみのデータを用いて、「軽い」対「重い」雌鶏の部分集団において、「ヘンハウス(hen−housed)産卵数(HHEP)に対するワクチンの効果を試験した。簡単にするために、かつBWT分類による処置群中での意味のある統計試験を可能にするのに十分な数の観察対象(雌鶏)を保証するために、各試験物の低投与量と高投与量の雌鶏由来のデータを組み合わせた。
【0219】
21週齢(照明時)での繁殖用Cobb−500雌鶏の目標体重は、2320gである。このときの鳥集団の平均BWTは、2132gであり、つまり目標体重の約92%であった。したがって、各注射処置群内で、21週齢でのBWT≧2132gである雌鶏を「重い」雌鶏とし、BWT<2132gである残りの雌鶏を「軽い」雌鶏とみなした。この分類システムを用いると、軽い雌鶏および重い雌鶏の処置群の平均BWTはそれぞれ、1947gおよび2305g(つまり、目標BWTのそれぞれ約84%および約99%)となった。
【0220】
1−26INH−MAPを投与された軽いBWTの雌鶏は、軽いBWTの対照よりも統計上生産能が優れていた(一般にP<0.05)(すなわち、試験全体、産卵16週間全部のデータ(P<0.08)、または産卵期間の後半のみ、産卵第9〜16週のデータ(P<0.05)を考慮したとき、1−26INH−MAP免疫化した鳥のHHEPが高かった)。対照応答より大きいHHEPのこの増大は、2つの試験期間のそれぞれで顕著(約14%)であった。実際、軽い雌鶏にインヒビンに対する免疫化を行うと、高いHHEPとなり、これは、その注射処置にかかわらず、重い雌鶏で認められた高いHHEPと顕著に類似していた。それとは異なり、重い対照群とインヒビン免疫化した2つの重い雌鶏群のうちのどちらかとの間でもHHEPの差は検出されなかった(産卵16週間全部または産卵第9〜16週)。これらの知見から、光刺激時に、より軽いBWTとなるように意図的に鳥を給餌することにより、生産者がかなりの経済的利益を得ることができることが示唆される。
【0221】
商業的に開発されたELISAによって測定された、18週4日齢(追加注射から4日後)および20週齢(追加注射から2週間後)で採集された血液試料中におけるニワトリインヒビンαサブユニットに対する相対的な平均抗体価から、インヒビンベースの抗原が(投与量にかかわらず)、対照応答と比較したときに強く安定した抗体価ELISA応答を示す(P<0.01)ことが判明した。
【0222】
初期卵のサイズに対するワクチン処置の効果を評価するために、各注射処置群の各雌鶏が(トラップネストで)産生した最初の12個の卵重量を個別に測定した。ワクチン処置は、最初の12個の卵のEWTに影響を及ぼさず(データは示さず)、雌鶏の卵が業界標準として「設定可能な」卵重量である47.3gに達する鳥の齢数にも影響を及ぼさなかった(データは示さず)。この知見から、卵の孵化能力に大いに影響を及ぼしうる変数である、卵のサイズに対するワクチン投与の悪い影響が認められないことが示唆される。また、注射処置により、成熟期(ピークの卵産生、32週齢)での卵のサイズも変化せず、これは、処置群間でEWTの差が生じなかったことによって示された(データは示さず)。週間BWT(15〜26週齢)、および試験に関するMORT(初回の投与誘発から試験終了まで、産卵16週間)もまた、1−26INH−MAPワクチン処置による影響を受けなかった(データは示さず)。
【実施例4】
【0223】
ウズラの生産能の促進
本発明の1−26INH−MAP組成物を抗原として使用して、循環インヒビンレベルに対し、春期発動期前の雌ニホンウズラを免疫化し、それによって処置したウズラの産卵開始を促進する。以下の点を除いて、実施例2に記載の方法に従う。無処置のウズラの春期発動期の平均齢数は、約6〜8週齢である。およその体重が0.1〜0.25ポンドのニホンウズラの処置スケジュールは以下の通りである。25日齢では約0.025〜0.1mgの本発明の1−26INH−MAP組成物を初回(最初の)注射、32〜35日齢では0.01〜0.05mgを追加注射。
【実施例5】
【0224】
七面鳥の生産能の促進
本発明の1−26INH−MAP組成物を抗原として使用して、循環インヒビンレベルに対し、春期発動期前の雌七面鳥を免疫化し、それによって処置した七面鳥の産卵開始を促進する。以下の点を除いて、実施例2に記載の方法に従う。無処置の七面鳥の春期発動期の平均齢数は、約30週齢である。およその体重が9.0〜12ポンドの七面鳥の処置スケジュールは以下の通りである。24週齢では約0.1〜約0.5mgの本発明の1−26INH−MAP組成物を初回(最初の)注射、27週齢では約0.05〜約0.25mgを追加注射。
【0225】
引用したすべての特許、刊行物および抄録は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。当然のことながら、前記の記載が本発明の好ましい実施形態だけに関し、添付した特許請求の範囲に記載の本発明の趣旨および範囲から逸脱せずに、それに数多くの変更または修正を加えることができることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0226】
【図1】図1は、鳥1羽当たり0.05、0.1または0.2mgの投与量で1−26INH−MAPを注射した鳥における、初回産卵の平均齢数(FIRST)(輪郭のみの(open)ヒストグラムバー)および産卵率25%の平均齢数(T−FIVE)(影付きのヒストグラムバー)の概略図である。異なる文字(a、b)が付いているバーでは統計的に差が認められる(P<0.10)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重リンカー骨格に連結された、インヒビン関連ペプチドを少なくとも2つ含む複数抗原ペプチドを含む組成物。
【請求項2】
式Iで表される複数抗原ペプチドを含む、請求項1に記載の組成物。
【化1】

[上式で、Bは多重リンカー骨格であり、nは2〜約20の整数であり、各Lは、共有結合または連結基であって、存在しても存在しなくてもよく、各Pは約4〜約115アミノ酸残基を有するインヒビン関連ペプチドまたはその保存的置換体である]
【請求項3】
Bが3であり、Lが存在せず、nが4であり、前記組成物が式VIIで表される、請求項2に記載の組成物。
【化2】

【請求項4】
少なくとも1つのPが配列番号:1またはその保存的置換体である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が以下の式のいずれか1つで表される、請求項1に記載の組成物。
【化3】

[上式で、mは0〜約20の整数である];
【化4】

[上式で、nは1〜20の整数であり、aは1または2である];
【化5】

【化6】

[上式で、Pは、約4〜約115アミノ酸残基を有するインヒビン関連ペプチドまたはその保存的置換体であり、Bは多重リンカー骨格であり、nは1〜20の整数であり、各Lは、共有結合または連結基であって、存在しても存在しなくてもよく、yは1または2であり、xは1〜3の整数である]
【請求項6】
式XIVで表される、請求項4に記載の組成物。
【化7】

【請求項7】
式XVで表される、請求項4に記載の組成物。
【化8】

【請求項8】
骨格に連結された、インヒビン関連ペプチドを少なくとも2つ含む複数抗原ペプチド、および許容される担体を含む組成物の有効量を動物に投与するステップを含み、前記量が前記動物中で生産能を促進するのに有効である、生産能を促進する方法。
【請求項9】
前記組成物が式Iで表される複数抗原ペプチドを含む、請求項8に記載の方法。
【化9】

[上式で、Bは多重リンカー骨格であり、nは2〜約20の整数であり、各Lは、共有結合または連結基であって、存在しても存在しなくてもよく、各Pは約4〜約115アミノ酸残基を有するインヒビン関連ペプチドまたはその保存的置換体である]
【請求項10】
Bが3であり、Lが存在せず、nが4であり、前記組成物が式VIIで表される、請求項9に記載の方法。
【化10】

【請求項11】
前記組成物が以下の式のいずれか1つで表される、請求項8に記載の方法。
【化11】

[上式で、mは0〜約20の整数である];
【化12】

[上式で、nは1〜20の整数であり、aは1または2である];
【化13】

【化14】

【化15】

[上式で、Pは、約4〜約115アミノ酸残基を有するインヒビン関連ペプチドまたはその保存的置換体であり、Bは多重リンカー骨格であり、nは1〜20の整数であり、各Lは、共有結合または連結基であって、存在しても存在しなくてもよく、yは1または2であり、xは1〜3の整数である]
【請求項12】
前記組成物が式XIVで表される、請求項10に記載の方法。
【化16】

【請求項13】
前記組成物が式XVで表される、請求項10に記載の方法。
【化17】

【請求項14】
生産能の促進が、動物の産卵の増大を含む、請求項8から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記動物が鳥である、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記鳥がニワトリ、七面鳥、ウズラ、ガチョウまたはアヒルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
動物の生産能を促進するのに有用なワクチンの調製における、請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項18】
生産能の促進が、動物の産卵の増大を含む、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記動物が鳥である、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
前記鳥がニワトリ、七面鳥、ウズラ、ガチョウまたはアヒルである、請求項19に記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2006−523180(P2006−523180A)
【公表日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551917(P2004−551917)
【出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/035626
【国際公開番号】WO2004/043141
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505166292)アグリテック テクノロジー リミテッド (1)
【出願人】(505167509)ザ ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステート ユニバーシティ アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ (1)
【Fターム(参考)】