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鳥類の種判定方法
説明

鳥類の種判定方法

【課題】鳥類だけでなく他の生物のDNAも混在している試料を利用して鳥類の種判定を行う。
【解決手段】ミトコンドリアプロリンtRNAに対して相補的な塩基配列からなる第一プライマーとミトコンドリアグルタミン酸tRNAに対して相補的な塩基配列からなる第二プライマーとの組み合わせで構成される鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子増幅用プライマーセットを用いて、鳥類の細胞と共に鳥類以外の1以上の細胞を含む試料から鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子を特異的に増幅させた後、この遺伝子の配列から鳥類の種を判定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥類の種判定方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子増幅用プライマーセットと、このプライマーセットを利用した鳥類の種判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線や鉄塔等の送配電設備では、飛来した鳥類の接触や、巣作りのために持ち込まれた鉄線等の材料によって、短絡事故が発生することが問題となっている。また、鳥類が排泄する糞による汚染(糞害)が生じることも問題となっている。そこで、送配電設備においては、各種の鳥害防止対策が実施されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4236188号
【0004】
【非特許文献1】Folmer O, Black M, Hoeh W, Lutz R, Vrigenhoek R. 1994. DNA primers for amplification of mitochondrial cytochrome c oxidase subunit I from diverse metazoan invertebrates. Molecular Marine Biology and Biotechnology 3: 294-299.
【非特許文献2】Hebert PDN, Cywinska A, Ball SL, deWaard JR. 2003. Biological identifications through DNA barcodes. Proceedings of the Royal Society London B 270: 313-321.
【非特許文献3】Hebert PDN, Ratnasingham S, deWaard JR. 2003. Barcoding animal life: cytochrome c oxidase subunit 1 divergences among closely related species. Proceedings of the Royal Society London B 270 (Supplement): S96-S99.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鳥類は、種によって大きさや習性が異なる。したがって、送配電設備に飛来する鳥類の種を把握して、その大きさや習性に適した鳥害防止対策を実施することができれば、より効果的に鳥害を防止できるものと考えられる。
【0006】
ここで、送配電設備において糞害が問題となっていることからも明らかなように、送配電設備に飛来した鳥類は、飛来した痕跡として糞を残す。そこで、本願発明者は、この糞を利用して飛来した鳥類の種判定ができると考え、ミトコンドリアDNAのチトクロムC酸化酵素サブユニットI(COI)遺伝子の一部を増幅する公知のプライマーセット(非特許文献1〜3を参照)を用いて検討を行った。その結果、鳥類の糞を利用してCOI遺伝子の増幅を行うと、鳥類のCOI遺伝子だけでなく、鳥類が餌として食した生物のCOI遺伝子も増幅して遺伝子の混在が生じてしまい、鳥類の種判定ができないことが明らかとなった。したがって、鳥類の糞等のように、鳥類の遺伝子だけでなく他の生物の遺伝子も混在している試料を利用して鳥類の種判定を行う場合には、鳥類以外の他の生物の遺伝子の影響を受けることなく、鳥類の遺伝子のみを特異的に増幅することが必要であると考えられた。
【0007】
そこで、本発明は、鳥類の糞等のように、鳥類だけでなく他の生物の遺伝子も混在している試料を利用して鳥類の種判定を行う場合に用いて好適な、鳥類の遺伝子のみを特異的に増幅することができるプライマーセットを提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、鳥類の糞等のように、鳥類だけでなく他の生物の遺伝子も混在している試料を利用して鳥類の種判定を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため、本願発明者は、遺伝子解析技術からのアプローチにより種々検討を行った。まず、変異が多いことで知られているミトコンドリアDNAのD−loop遺伝子にて鳥類のみに見られる特徴的な配列を見出すことを試みたが、そのような配列を見出すことは困難であった。そこで、本願発明者は、さらなる検討を進めた結果、鳥類のミトコンドリアDNAの遺伝子配列の特殊性を見出すに至った。即ち、本願発明者は、図1に示すように、哺乳類と鳥類とでは、ミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット5(ND5)遺伝子とD−loop遺伝子との間に挟まれているNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6(ND6)遺伝子及びシトクロムb(cyt−b)遺伝子の位置が逆転(転座)していることを見出した。そして、この位置の逆転により、鳥類のND6遺伝子が、ミトコンドリアプロリン(Pro)tRNAとミトコンドリアグルタミン酸(Glu)tRNAとに挟まれて存在しているという鳥類の遺伝子配列の特殊性を見出すに至った。
【0010】
そこで、本願発明者は、ミトコンドリアプロリン(Pro)tRNAとミトコンドリアグルタミン酸(Glu)tRNAの塩基配列に基づいてプライマーセットを設計し、このプライマーセットを用いて鳥類の糞をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)に供したところ、糞に鳥類以外の他の生物の遺伝子(鳥類の餌となる哺乳類(小動物)、昆虫、魚類等)が含まれている場合でも、鳥類のND6遺伝子のみを特異的に増幅できることを知見するに至った。本願発明者はこの知見に基づいてさらに種々検討を行い、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子増幅用プライマーセットは、ミトコンドリアプロリンtRNAに対して相補的な塩基配列からなる第一プライマーとミトコンドリアグルタミン酸tRNAに対して相補的な塩基配列からなる第二プライマーとの組み合わせで構成される。
【0012】
ここで、第一プライマーは、以下の(1)〜(5)のいずれか1つであることが好ましく、以下の(2)〜(5)のプライマーは第二プライマーと組み合わせて用いて鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子を増幅し得るプライマーであることが好ましい。
(1)配列番号1に示す塩基配列からなるプライマー
(2)配列番号1に示す塩基配列において、1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマー
(3)配列番号1に示す塩基配列のうち連続した25〜27塩基からなるプライマー
(4)配列番号1に示す塩基配列の3’末端又は5’末端に1〜5塩基が付加されたプライマー
(5)配列番号1に示す塩基配列の3’末端及び5’末端に合計で1〜5塩基が付加されたプライマー
【0013】
また、第二プライマーは、以下の(6)〜(10)のいずれか1つであることが好ましく、以下の(7)〜(10)のプライマーは第一プライマーと組み合わせて用いて鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子を増幅し得るプライマーであることが好ましい。
(6)配列番号2に示す塩基配列からなるプライマー
(7)配列番号2に示す塩基配列において、1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマー
(8)配列番号2に示す塩基配列のうち連続した23〜25塩基からなるプライマー
(9)配列番号2に示す塩基配列の3’末端又は5’末端に1〜5塩基が付加されたプライマー
(10)配列番号2に示す塩基配列の3’末端及び5’末端に合計で1〜5塩基が付加されたプライマー
【0014】
次に、本発明の鳥類の種判定方法は、本発明のプライマーセットを用いて、鳥類の遺伝子と共に鳥類以外の1以上の生物の遺伝子を含む試料から鳥類のミトコンドリア上のNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子を特異的に増幅させた後、この遺伝子の配列から鳥類の種を判定するようにしている。鳥類の遺伝子と共に鳥類以外の1以上の生物の遺伝子を含む試料としては、例えば、鳥類の糞が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプライマーセットによれば、鳥類の糞等のように、鳥類だけでなく他の生物の遺伝子も混在している試料から、鳥類の遺伝子(ND6遺伝子)のみを特異的に増幅することが可能となる。
【0016】
また、本発明の鳥類の種判定方法によれば、鳥類の糞等のように、鳥類だけでなく他の生物の遺伝子も混在しているような試料を利用して鳥類の種判定を行うことが可能となる。したがって、送配電設備に残されている糞を利用して、送配電設備に飛来している鳥類の種を判定することができ、鳥類の種に応じた鳥害防止対策を実施することが可能となる。また、住宅等において糞害の原因となっている鳥類を特定し、その種に適した対策を施すことが可能となる。さらには、近年問題となっている、鳥類を媒介とする鳥インフルエンザ等のウィルスの蔓延に対し、媒介となった鳥類の種を、鶏舎等の周辺に存在している鳥類の糞を利用して特定することが可能となる。したがって、媒介となる鳥類の種の鶏舎等への接近を防いだり、隔離したりすることにより、鳥インフルエンザ等のウィルスの蔓延を防止することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】哺乳類と鳥類のミトコンドリアDNAの遺伝子配列を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明の鳥類の種判定方法は、ミトコンドリアプロリンtRNAに対して相補的な塩基配列からなる第一プライマーとミトコンドリアグルタミン酸tRNAに対して相補的な塩基配列からなる第二プライマーとの組み合わせで構成される鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子増幅用プライマーセットを用いて、鳥類の遺伝子と共に鳥類以外の1以上の生物の遺伝子を含む試料から鳥類のミトコンドリア上のNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子(以降の説明ではND6遺伝子と呼ぶ)を特異的に増幅させた後、この遺伝子の配列から鳥類の種を判定する。以下、鳥類の遺伝子と共に鳥類以外の1以上の生物の遺伝子を含む試料として、鳥類の遺伝子だけでなく、鳥類が餌として食した1以上の生物(小動物や昆虫、魚類等)の遺伝子が含まれ得る、鳥類の糞を用いた場合を例に挙げて説明する。
【0020】
<第一プライマー>
本発明において用いることのできる第一プライマーは、ミトコンドリアプロリン(Pro)tRNAに対して相補的な塩基配列からなるプライマーであれば特に限定されるものではないが、配列番号1に示す塩基配列からなるプライマーを用いることが好適である。
【0021】
但し、配列番号1に示す塩基配列からなるプライマーは、、第二プライマーと組み合わせて用いて鳥類のミトコンドリアDNAのND6遺伝子を増幅させ得る限りにおいて、1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるものとしても構わない。特に、配列番号1に示す塩基配列のうち連続した25〜27塩基からなるプライマーや、配列番号1に示す塩基配列の3’末端又は5’末端に1〜5塩基が付加されたプライマー、さらには配列番号1に示す塩基配列の3’末端及び5’末端に合計で1〜5塩基が付加されたプライマーは、第二プライマーと組み合わせて用いて鳥類のミトコンドリアDNAのND6遺伝子を増幅させ易いものである。
【0022】
尚、第一プライマーは、例えば汎用のオリゴヌクレオチド合成装置を用いて化学的に合成することができるがこれに限定されるものではなく、当該技術分野において公知又は新規の他の方法を用いて合成することもできる。
【0023】
<第二プライマー>
本発明において用いることのできる第二プライマーは、ミトコンドリアグルタミン酸(Glu)tRNAに対して相補的な塩基配列からなるプライマーであれば特に限定されるものではないが、配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーを用いることが好適である。
【0024】
但し、配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーは、第一プライマーと組み合わせて用いて鳥類のミトコンドリアDNAのND6遺伝子を増幅させ得る限りにおいて、1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるものとしても構わない。特に、配列番号2に示す塩基配列のうち連続した23〜25塩基からなるプライマーや、配列番号2に示す塩基配列の3’末端又は5’末端に1〜5塩基が付加されたプライマー、さらには配列番号2に示す塩基配列の3’末端及び5’末端に合計で1〜5塩基が付加されたプライマーは、第一プライマーと組み合わせて用いて鳥類のミトコンドリアDNAのND6遺伝子を増幅させ易いものである。
【0025】
尚、第二プライマーは、第一プライマーと同様、例えば汎用のオリゴヌクレオチド合成装置を用いて化学的に合成することができるがこれに限定されるものではなく、当該技術分野において公知又は新規の他の方法を用いて合成することもできる。
【0026】
<DNA抽出>
鳥類の糞を採取し、DNA抽出に供する。尚、鳥類は糞と尿(尿酸を含む白色の排出物)を同時に排出するので、糞を採取する際には、尿以外の部分(褐色の部分)を主体として採取する。DNA抽出処理は、鳥類の糞試料からのDNA抽出処理が可能な公知又は新規の方法を適宜採用して実施することができる。具体的には、例えば、QIAamp DNA Stool Mini Kit(QIAGEN社)を用いたDNA抽出処理が挙げられるが、DNA抽出処理法はこれに限定されるものではない。
【0027】
<PCR>
DNA抽出処理により得られた鋳型DNAに対し、上記第一プライマーと上記第二プライマーとの組み合わせにより構成される本発明のプライマーセットを用いて、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行う。PCRは、当該技術分野において公知又は新規の方法を適宜採用して実施することができる。具体的には、例えば、ExTaq Hot Start version(TaKaRa)を利用し、サーマルサイクラーとしてTaKaRa PCR Thermal cycler GP(TP500)を利用して、以下の条件((a)→(b)→(c)→(d)→(e))によりホットスタートPCRを行うことで、鳥類のND6遺伝子を良好に増幅させることができるが、PCR条件はこれに限定されるものではない。
(a)98℃、1分
(b)[98℃、10秒→60℃、90秒→72℃、30秒]15サイクル
(c)[90℃、10秒→60℃、90秒→72℃、30秒]30サイクル
(d)60℃ 30分
(e)4℃
【0028】
<塩基配列解析>
PCR産物を塩基配列解析に供し、増幅されたND6遺伝子の塩基配列を決定する。塩基配列の解析は、当該技術分野における公知又は新規の方法を適宜採用して実施することができる。具体的には、例えば、PCR後の反応液をBigDye Terminator version 3.0 cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社)を用いたシークエンス反応に供した後、精製を行い、アナライザーによるシークエンスを行う塩基配列解析方法が挙げられるが、これに限定されるものではなく、別のキットによるシークエンス反応を利用した塩基配列解析方法や、ゲル電気泳動による精製工程を含む塩基配列解析方法等により塩基配列決定を行うようにしてもよい。
【0029】
<鳥類の種判定>
決定されたND6遺伝子の塩基配列に基づいて、公知のデータベース及び/又は種が明らかとなっている鳥類の組織等から決定されたND6遺伝子の塩基配列についての新規データベース(例えば自作データベース)に対してホモロジーサーチを行い、鳥類の種を決定する。本発明によれば、PCRにより鳥類以外の生物(例えば、鳥類の餌となる小動物、昆虫、魚類等)のND6遺伝子(さらには他の領域の遺伝子)が増幅することなく、糞の排泄主たる鳥類のみのND6遺伝子を増幅させて、塩基配列を確実に決定することができる。したがって、鳥類の種を、糞試料から確実に判定することができる。
【0030】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、鳥類の糞試料からの鳥類の種判定を例に挙げて説明したが、鳥類の糞試料以外の試料から鳥類の種判定を行うようにしてもよい。例えば、複数の動物の肉が混在しうる加工食品やミンチ状食肉等からの鳥類の検出さらには種判定に利用するようにしてもよい。具体的には、加工食品やミンチ状食肉等をDNA抽出に供して鋳型DNAを得て、この鋳型DNAに対し本発明のプライマーセットを用いてPCRを行い、ND6遺伝子の増幅の有無を電気泳動等により検出することで、加工食品やミンチ状食肉等に鳥類が含まれているか否かを容易に検出することが可能である。さらには検出されたND6遺伝子の塩基配列解析を行うことで鳥類の種を判定することも可能となる。これにより、例えば、原材料として牛肉のみを使用したことを謳っているにもかかわらず、鶏肉を混入してコストダウン等を図っている偽装食品等を簡便な検査で見抜くことが可能となる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0032】
[実施例1]
(1)鳥類の糞試料の採取及びDNA抽出
鳥類の糞を、野外にて10サンプル採取し、糞試料とした。糞試料は、DNA抽出に供するまで冷凍保存した。DNA抽出は、QIAamp DNA Stool Mini Kit(QIAGEN社)を使用し、チャック付きポリ袋に糞試料(0.03−1g)とバッファー(2mL)を収容して抽出作業を開始する以外は、該キットに添付されているマニュアル通りに実施した。
【0033】
(2)PCR
ExTaq Hot Start version(TaKaRa)に添付されたマニュアルに従ってPCR反応液を調製し、PCRを実施した。
【0034】
PCR反応液の組成は以下の通りとした。
・TaKaRa Ex Taq HS(5 units / μL): 0.1μL
・10×ExTaq buffer: 1.0μL
・dNTP Mixture(2.5mM each): 0.8μL
・テンプレート: 1.0μL(抽出したDNA溶液)
・第一プライマー: 0.1μM
・第二プライマー: 0.1μM
・BSA(Bovine Serum Albumin, 1μg/mL): 1.0μL
・DMSO: 0.4μL
・滅菌蒸留水: 最終液量が10μLとなるように添加
【0035】
サーマルサイクラーとして、TaKaRa PCR Thermal cycler GP(TP500)を用いた。
【0036】
<ND6遺伝子の増幅>
ミトコンドリアプロリン(Pro)tRNAの塩基配列に基づいて設計した配列番号1に示す塩基配列からなるプライマー(bPro)を第一プライマーとし、ミトコンドリアグルタミン酸(Glu)tRNAの塩基配列に基づいて設計した配列番号2に示す塩基配列からなるプライマー(bGlu)を第二プライマーとして、以下の条件((a)→(b)→(c)→(d)→(e))でPCRを行い、鳥類のND6遺伝子の増幅を試みた。
(a)98℃、1分
(b)[98℃、10秒→60℃、90秒→72℃、30秒]15サイクル
(c)[90℃、10秒→60℃、90秒→72℃、30秒]30サイクル
(d)60℃ 30分
(e)4℃
【0037】
<cyt−b遺伝子の増幅>
Kocherの文献(Kocher(1989)Proc. Natl. Acad. Sci USA 86: 6196-6200)に基づき、ミトコンドリアDNAのシトクロムb(cyt−b)遺伝子を増幅するためのプライマーであるL14841(配列番号3)を第一プライマーとし、H15149(配列番号4)を第二プライマーとして、上記と同様の条件((a)→(b)→(c)→(d)→(e))でPCRを行った。
【0038】
<12S−rRNA遺伝子の増幅>
Meyerの文献(A. Meyer, Evolution of Mitochondrial DNA in fishes, Elsevier Science Publishers, Amsterdam (1993), 1-38 pp..)に基づき、ミトコンドリアDNAの12S−rRNA遺伝子を増幅するためのプライマーであるL1091(配列番号5)を第一プライマーとし、H1478(配列番号6)を第二プライマーとして、以下の条件((f)→(g)→(h)→(i)→(j))でPCRを行った。
(f)98℃、1分
(g)[98℃、10秒→55℃、90秒→72℃、30秒]15サイクル
(h)[90℃、10秒→55℃、90秒→72℃、30秒]30サイクル
(i)60℃ 30分
(j)4℃
【0039】
<COI遺伝子の増幅>
非特許文献1〜3に基づき、ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子を増幅するためのプライマーであるLCO1490(配列番号7)を第一プライマーとし、HCO2198(配列番号8)を第二プライマーとして、以下の条件((k)→(l)→(m)→(n)→(o))でPCRを行った。
(k)98℃、1分
(l)[98℃、10秒→45℃、30秒→72℃、60秒]15サイクル
(m)[98℃、10秒→51℃、30秒→72℃、60秒]30サイクル
(n)72℃ 5分
(o)4℃
【0040】
(3)PCR産物の塩基配列解析
PCR後の反応液をBigDye Terminator version 3.0 cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ社)を使用してシークエンス反応に供した。シークエンス反応液(計20μL)の組成は以下の通りとした。シークエンス用プライマーは、PCRの際に使用した第一プライマーまたは第二プライマーとし、第一プライマーを用いた場合における塩基配列解析結果と第二プライマーを用いた場合における塩基配列解析結果とを比較して第一プライマーと第二プライマーの間の塩基配列を決定した。
・PCR後の反応液: 0.3μL
・シークエンス用プライマー: 3.2μL(プライマー濃度:1μM)
・5×Buffer: 3.5μL
・Pre Mix: 1.0μL
・超純水:12.0μL
【0041】
シークエンス反応条件は、以下の(p)→(q)とした。
(p)96℃、1分
(q)[96℃、10秒→50℃、5秒→60℃、4分]25サイクル
【0042】
シークエンス反応後、Clean SEQ(日本ジェネティックス社)を使用して、添付のマニュアルにしたがって精製を行い、ジェネティックアナライザーGA3130xl(アプライドバイオシステムズ社)を使用してPCR産物の塩基配列解析を実施した。
【0043】
塩基配列解析の結果、決定された塩基配列の配列番号、増幅された遺伝子領域、糞試料番号を以下に示す。
・配列番号9 :cyt−b、試料1
・配列番号10:cyt−b、試料2
・配列番号11:cyt−b、試料3
・配列番号12:cyt−b、試料4
・配列番号13:COI、試料4
・配列番号14:COI、試料5
・配列番号15:12S−rRNA、試料1
・配列番号16:12S−rRNA、試料2
・配列番号17:12S−rRNA、試料3
・配列番号18:12S−rRNA、試料4
・配列番号19:12S−rRNA、試料6
・配列番号20:12S−rRNA、試料8
・配列番号21:12S−rRNA、試料10
・配列番号22:ND6、試料1
・配列番号23:ND6、試料2
・配列番号24:ND6、試料3
・配列番号25:ND6、試料4
・配列番号26:ND6、試料5
・配列番号27:ND6、試料6
・配列番号28:ND6、試料7
・配列番号29:ND6、試料8
・配列番号30:ND6、試料9
・配列番号31:ND6、試料10
【0044】
cyt−b遺伝子の塩基配列解析は、試料1〜5について実施し、試料1〜4について塩基配列を決定することができた。試料5については、複数の塩基配列が検出され、塩基配列の決定ができなかった。
【0045】
COI遺伝子の塩基配列解析は、試料1〜5について実施し、試料4及び5について塩基配列を決定することができた。試料1及び2については、複数の塩基配列が検出され、塩基配列の決定ができなかった。また、試料3については、塩基配列解析ができなかった。
【0046】
12S−rRNA遺伝子の塩基配列解析は、全試料について実施し、試料1,2,3,4,6,8及び10について塩基配列を決定することができた。試料7については、複数の塩基配列が検出され、塩基配列の決定ができなかった。また、試料5及び9については、塩基配列解析ができなかった。
【0047】
ND6遺伝子の塩基配列解析は、全試料について実施し、全試料について塩基配列を決定することができた。
【0048】
(4)In-house databaseの作成
以下の鳥類について、ND6遺伝子の塩基配列を決定し、In-house databaseを作成した。決定された塩基配列の配列番号と鳥類の種を以下に示す。
・配列番号32:アオサギ(Ardea cinerea コウノトリ目サギ科アオサギ属)
・配列番号33:イヌワシ(Aquila chrysaetos タカ目タカ科イヌワシ属)
・配列番号34:オオタカ(Accipiter gentilis タカ目タカ科オオタカ属)
・配列番号35:オオワシ(Haliaeetus pelagicus タカ目タカ科オジロワシ属)
・配列番号36:オジロワシ(Haliaeetus albicilla タカ目タカ科オジロワシ属)
・配列番号37:トビ(Milvus migrans タカ目タカ科トビ属)
・配列番号38:ノスリ(Buteo japonicus タカ目タカ科ノスリ属)
・配列番号39:ハイタカ(Accipiter nisus タカ目タカ科オオタカ属)
・配列番号40:ハシブトガラス(Corvus macrorhynchos スズメ目カラス科カラス属)
・配列番号41:ハシボソガラス(Corvus corone スズメ目カラス科カラス属)
・配列番号42:ミヤマガラス(Corvus frugilegus スズメ目カラス科カラス属)
【0049】
塩基配列は、鳥類の組織(羽、筋肉片)から、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN社)を使用して添付のマニュアルに従ってDNA抽出した後、第一プライマーとしてbPro(配列番号1)を、第二プライマーとしてbGlu(配列番号2)を用い、上記(2)及び上記(3)と同様の条件でPCRと塩基配列解析を実施して決定した。
【0050】
(5)糞試料からのDNA解析結果
糞試料について、塩基配列解析により決定された配列番号9〜31の生物種を同定した結果を表1に示す。cyt−b遺伝子、12S−rRNA遺伝子及びCOI遺伝子の塩基配列からの生物種の同定は、DNA Data Bank of Japan(DDBJ)のデータベースにホモロジーサーチをかけ、最も相同性が高いものをピックアップすることにより行った。ND6遺伝子の塩基配列からの鳥類の種の同定は、In-house database(In-house DB)の塩基配列と比較することにより行った。
【0051】
生物種の同定結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
次に、表1に示す同定結果に基づいて、塩基配列解析結果を糞試料毎に纏めた表を表2として示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2において、「−」は解析不実施であったことを意味し、「×」は塩基配列の解析ができなかったことを意味し、「△」は複数の塩基配列が検出されたために塩基配列の決定ができなかったことを意味している。
【0056】
表2に示される結果から、cyt−b遺伝子、COI遺伝子及び12S−rRNA遺伝子については、塩基配列解析が困難な場合(×)や、塩基配列の決定が困難な場合(△)、及び決定された塩基配列から鳥類以外の餌動物(小動物、昆虫、魚類等)が同定される場合があり、これらの遺伝子領域の塩基配列を利用して鳥類の種判定を行うことは困難であることが明らかとなった。これに対し、ND6遺伝子については、塩基配列を確実に決定することができると共に、決定された塩基配列から鳥類の種を確実に判定することができ、この遺伝子領域の塩基配列を利用することで鳥類の種判定を確実に行うことが可能であることが明らかとなった。
【0057】
(実施例2)
さらに、以下の鳥類について、ND6遺伝子の塩基配列解析を行った。
・アオジ(Emberiza spodocephala スズメ目ホオジロ科ホオジロ属)
・カケス(Garrulus glandarius スズメ目カラス科カケス属)
・カワラヒワ(Carduelis sinica スズメ目アトリ科ヒワ属)
・キジバト(Streptopelia orientalis ハト目ハト科キジバト属)
・コガモ(Anas crecca カモ目カモ科マガモ属)
・コゲラ(Dendrocopos kizuki キツツキ目キツツキ科アカゲラ属)
・シロハラ(Turdus pallidus スズメ目ツグミ科ツグミ属)
・ツグミ(Turdus naumanni スズメ目ツグミ科ツグミ属)
・ツバメ(Hirundo rustica スズメ目ツバメ科ツバメ属)
・トラツグミ(Zoothera dauma スズメ目ツグミ科トラツグミ属)
・ニワトリ(Gallus gallus domesticus キジ目キジ科ヤケイ属)
・ハクセキレイ(Motacilla alba スズメ目セキレイ科セキレイ属)
・ヒヨドリ(Hypsipetes amaurotis スズメ目ヒヨドリ科ヒヨドリ属)
・メジロ(Zosterops japonicus スズメ目メジロ科メジロ属)
【0058】
ND6遺伝子の塩基配列は、組織(羽、筋肉片)から、実施例1と同様の方法でDNA抽出(DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN社)使用)、PCR及び塩基配列解析を実施して決定した。
【0059】
その結果、解析を行った全ての鳥類について、ND6遺伝子の塩基配列を決定することができた。糞試料を用いた場合にも、他の塩基配列が混在することなく、一種の塩基配列のみが検出され、本発明のプライマーセットの有効性が示された。
・配列番号43:アオジ(Emberiza spodocephala スズメ目ホオジロ科ホオジロ属)
・配列番号44:カケス(Garrulus glandarius スズメ目カラス科カケス属)
・配列番号45:カワラヒワ(Carduelis sinica スズメ目アトリ科ヒワ属)
・配列番号46:キジバト(Streptopelia orientalis ハト目ハト科キジバト属)
・配列番号47:コガモ(Anas crecca カモ目カモ科マガモ属)
・配列番号48:コゲラ(Dendrocopos kizuki キツツキ目キツツキ科アカゲラ属)
・配列番号49:シロハラ(Turdus pallidus スズメ目ツグミ科ツグミ属)
・配列番号50:ツグミ(Turdus naumanni スズメ目ツグミ科ツグミ属)
・配列番号51:ツバメ(Hirundo rustica スズメ目ツバメ科ツバメ属)
・配列番号52:トラツグミ(Zoothera dauma スズメ目ツグミ科トラツグミ属)
・配列番号53:ニワトリ(Gallus gallus domesticus キジ目キジ科ヤケイ属)
・配列番号54:ハクセキレイ(Motacilla alba スズメ目セキレイ科セキレイ属)
・配列番号55:ヒヨドリ(Hypsipetes amaurotis スズメ目ヒヨドリ科ヒヨドリ属)
・配列番号56:メジロ(Zosterops japonicus スズメ目メジロ科メジロ属)
【0060】
また、ハクセキレイ、オジロワシ、アオサギについて、その糞から、実施例1と同様の方法でDNA抽出(QIAamp DNA Stool Mini Kit(QIAGEN社)使用)、PCR及び塩基配列解析を実施してND6遺伝子の塩基配列を決定したところ、それぞれ、上記塩基配列(ハクセキレイ:配列番号54、オジロワシ:配列番号36、アオサギ:配列番号32)と一致することが確認できた。このことからも、本発明のプライマーセットの有効性及び本発明の鳥類の種判定方法の有効性を確認することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアプロリンtRNAに対して相補的な塩基配列からなる第一プライマーとミトコンドリアグルタミン酸tRNAに対して相補的な塩基配列からなる第二プライマーとの組み合わせで構成される鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子増幅用プライマーセット。
【請求項2】
前記第一プライマーは以下の(1)〜(5)のいずれか1つであり、以下の(2)〜(5)のプライマーは前記第二プライマーと組み合わせて用いて鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子を増幅し得るプライマーである請求項1に記載のプライマーセット。
(1)配列番号1に示す塩基配列からなるプライマー
(2)配列番号1に示す塩基配列において、1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマー
(3)配列番号1に示す塩基配列のうち連続した25〜27塩基からなるプライマー
(4)配列番号1に示す塩基配列の3’末端又は5’末端に1〜5塩基が付加されたプライマー
(5)配列番号1に示す塩基配列の3’末端及び5’末端に合計で1〜5塩基が付加されたプライマー
【請求項3】
前記第二プライマーは以下の(6)〜(10)のいずれか1つであり、以下の(7)〜(10)のプライマーは前記第一プライマーと組み合わせて用いて鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子を増幅し得るプライマーである請求項1又は2に記載のプライマーセット。
(6)配列番号2に示す塩基配列からなるプライマー
(7)配列番号2に示す塩基配列において、1〜5個の塩基を置換、欠失又は付加した塩基配列からなるプライマー
(8)配列番号2に示す塩基配列のうち連続した23〜25塩基からなるプライマー
(9)配列番号2に示す塩基配列の3’末端又は5’末端に1〜5塩基が付加されたプライマー
(10)配列番号2に示す塩基配列の3’末端及び5’末端に合計で1〜5塩基が付加されたプライマー
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプライマーセットを用いて、鳥類の遺伝子と共に鳥類以外の1以上の生物の遺伝子を含む試料から前記鳥類のミトコンドリアDNAのNADHデヒドロゲナーゼサブユニット6遺伝子を特異的に増幅させた後、この遺伝子の配列から前記鳥類の種を判定することを特徴とする鳥類の種判定方法。
【請求項5】
前記試料が鳥類の糞である請求項4に記載の鳥類の種判定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−106562(P2013−106562A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254125(P2011−254125)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年11月18日 日本DNA多型学会発行の「DNA POLYMORPHISM 第20回学術集会抄録集」に発行
【出願人】(000173809)一般財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】