説明

鳥類卵の孵化抑止方法及びその装置

【課題】 簡便な方法でありながら高い繁殖抑止効果を持ち、且つ周囲の環境にも悪影響を及ぼさないような鳥類卵の孵化抑止方法及びその装置を提供することにある。
【解決手段】 粒状のドライアイス6と、このドライアイス6を封じ込めるゴム風船5と、ゴム風船5をカワウの巣2の上まで移動するロッド4と、膨張したゴム風船5に刺してゴム風船5を破裂させる金属針9とを備えている。金属針9の作動はプッシュスイッチ8で操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鳥類の卵を巣の中にある状態で孵化を抑止する鳥類卵の孵化抑止方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カワウは繁殖期に河川敷や中洲にコロニーを作って営巣することが知られており、カワウの繁殖期と鮎の稚魚を放流する時期とが重なることから、内水面漁業に甚大な被害が発生している。
【0003】
従来、カワウの繁殖を抑える手段として、例えば特許文献1に開示の方法が知られている。この抑止方法は、カワウの卵に似せて作った擬似卵を営巣の時期に本物の卵と入れ替え、この擬似卵を親鳥に抱かせることで繁殖を抑えるものである。
【0004】
また、他の抑止方法として、例えば特許文献2に開示の方法も知られている。この方法は、無線操縦のヘリコプターに界面活性剤の希釈液を積み、ヘリコプターをカワウの巣の上まで誘導したのち界面活性液を空中散布し、卵の表面に液体を付着させることで繁殖を抑えるものである。具体的には卵の表面に付着した界面活性液によって卵殻の気孔を閉塞し、卵を窒息させて死滅させるか、又は卵の表面に付着した界面活性液を卵の内部に侵入させて卵を死滅させる方法である。
【0005】
しかしながら、上記従来の繁殖抑止方法には以下のような問題点が有る。前者の場合には作業者が本物の卵と擬似卵とを直接手に持って交換する必要があるが、一般にカワウの巣は樹木の高いところに作られるために、その交換作業が非常に困難である。一方、後者の場合にはヘリコプターから空中散布される界面活性液によって周囲の環境を汚染するおそれがある。
【特許文献1】特開2003−61553号公報
【特許文献2】特開2006−141220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、簡便な方法でありながら高い繁殖抑止効果を持ち、且つ周囲の環境にも悪影響を及ぼさないような鳥類卵の孵化抑止方法及びその装置を提供することにある。なお、本発明はカワウ以外の野鳥の卵に対しても繁殖抑止効果を持つものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鳥類卵の孵化抑止方法は、巣の中にある鳥類の卵を冷却することで孵化を抑止するものである。冷却手段の一例としては粒状のドライアイスで鳥類の卵を覆うことである。また、ドライアイスで鳥類の卵を覆う手段としては、例えば粒状のドライアイスをゴム風船の中に封じ込め、鳥類の卵がある巣の上方でゴム風船を破裂させ、巣の中に粒状のドライアイスを放出することで卵を覆うことができる。
【0008】
また、本発明の鳥類卵の孵化抑止装置は、粒状のドライアイスと、このドライアイスを封じ込めるゴム風船と、ゴム風船を鳥類の巣の上まで移動する移動手段と、膨張したゴム風船に刺激を加えてゴム風船を破裂させる破裂開始手段とを備えている。前記移動手段としては例えば伸縮自在なロッドである。また、前記破裂開始手段は、ゴム風船を刺す鋭利部材を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鳥類卵の孵化抑止方法によれば、周囲の環境に悪影響を及ぼさない簡易な方法でありながら、鳥類卵の孵化を効果的に抑止することができる。
【0010】
本発明の鳥類卵の孵化抑止装置によれば、簡易な構造で操作も容易でありながら巣の中にドライアイスを確実に放出して卵を覆うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る以下、添付図面に基づいて本発明に係る鳥類卵の孵化抑止方法及びその装置を実施するための最良の形態を詳細に説明する。図1は本発明の孵化抑止方法を実施する場合の一例を示したものであり、樹木1の高い所の枝別れ部分などに作られたカワウの巣2の上方にロッド4の先端に取り付けられたゴム風船5を配置した状態が示されている。この方法ではゴム風船5の中には粒状のドライアイス6が封じ込められ、ドライアイス6の昇華に伴って発生した二酸化炭素が充満することでゴム風船5が膨張する。作業者7が手元のプッシュスイッチ8を押すと、ロッド4の先端に設けた金属針9が作動してゴム風船5を刺し、ゴム風船5が破裂して中の粒状のドライアイス6が巣2の中に勢いよく放出され、巣2の中にあるカワウの卵10を覆うことができる。
【0012】
本発明の孵化抑止方法では、卵10を覆っている粒状のドライアイス6によって卵を冷却し、この冷却効果によって卵10の発育を停止させ孵化を抑止することができる。本発明では発育の停止によって孵化しない卵を再びカワウが抱くことを目的としているので、ドライアイス6の冷却時間が重要となる。ドライアイス6の冷却時間が長すぎると卵10が割れるおそれがあり、カワウが再び産卵する可能性が高くなる。一方、ドライアイス6の冷却時間が短すぎると冷却効果が不十分となって孵化するおそれがある。しかしながら、ドライアイス6の昇華時間は気象条件や巣2の中の卵数などによっても左右されることから、ゴム風船5の中に封じ込めるドライアイス6の量はその時の気象条件や卵の数などを考慮して決める必要がある。実験の結果、巣の中に粒状のドライアイス6が放出された時に、木の枝などで密に作られている巣2の底にドライアイス6が適量溜まると同時に、卵10の上部が少し露出する程度、例えばドライアイスが卵の2/3程度を覆っている量が好ましい。この程度の量であれば、ドライアイス6は約30〜90分程度で昇華すると思われ、効果的な冷却が得られる。なお、ドライアイスが卵全体をすっぽり厚く覆ってしまう量になると、卵の中には割れるものが出るおそれがある。
【0013】
ドライアイス6は昇華するので、昇華後にはカワウの卵10が再び現われる。その卵10は見た目には産卵した状態と全く変わらないので、カワウがその卵10を再び温める確率が高い。即ち、カワウは孵化しない卵を何時までも温めることになり、孵化を諦めるまでは再び産卵することもないので、結果的にカワウの繁殖を抑えることができる。また、ドライアイスは昇華する際に二酸化炭素を発生するだけなので、周囲に環境汚染を引き起こすこともない。
【0014】
また、この実施形態ではドライアイス6を粒状に形成することで卵10との接触面積を増やし、効率的な冷却効果を得られるようにしている。粒状にすることで結果的にはドライアイスの放出量も少なめに調整することができる。粒状のドライアイスは、例えばドライアイスの塊を細かく破砕することで容易に得られる。粒の大きさは特に限定されない。
【0015】
この実施形態では粒状のドライアイス6をゴム風船5の中に封じ込め、ドライアイス6から発生する二酸化炭素を充満させることでゴム風船5を膨張させている。このように膨張したゴム風船5を巣の真上に保持し、その状態でゴム風船5を割って中のドライアイスを放出させているが、ゴム風船5を割った時の内部の破裂圧によってドライアイス6が勢いよく放出されるために、ドライアイス6が巣2の中の一点に偏ることなく、巣2全体に広がって放出されることから、巣2の中に卵10が複数あってもこれらを均一に覆うことができる。
【0016】
次に、上記で説明した鳥類卵の孵化抑止方法を実施するための装置について説明する。
図2乃至図6にはこの実施形態に係る孵化抑止装置の一実施例が示されている。孵化抑止装置3は、粒状のドライアイス6と、このドライアイス6を封じ込めるゴム風船5と、ゴム風船5を先端に固定したロッド4と、膨張したゴム風船5に刺激を加えてゴム風船5を破裂させる破裂開始手段とを備える。
【0017】
ロッド4としては、例えば伸縮自在な釣り竿を利用することができる。カワウの巣2の高さに応じてロッド4を伸縮させることで、ロッド4の先端に固定したゴム風船5を巣2の真上に容易に保持することができる。
【0018】
粒状のドライアイス6は、図3に示したように、三角フラスコ12など目盛の付いている容器に一旦投入したのち、ゴム風船5に移し替えることが好ましい。しぼんだ状態のゴム風船5の口を三角フラスコ12の首部13に嵌め込んだのち、図2に示したように、三角フラスコ12を逆さにすると、粒状のドライアイス6が三角フラスコ12からゴム風船5の方に順次落下して移り替わる。三角フラスコ12の首部13をロッド4の先端から延びる剛性アーム14に固定することでゴム風船5が安定した姿勢を取ることができる。また、ゴム風船5は三角フラスコ12と結合されたままなので、内部の気密性が保たれ、ドライアイス6から発生する二酸化炭素がゴム風船5内に次第に溜まることでゴム風船5が膨張する。
【0019】
ゴム風船5の破裂開始手段は、作動杆15の先端に取り付けられた鋭利部材としての金属針9と、この金属針9を作動させる駆動部11と、この駆動部11を操作する操作部16とを備える。作動杆15は、剛性アーム14に基端18が回転可能に支持され、基端18を支点として自由に揺動する。また、作動杆15の先端には係止溝17が設けられている(図6参照)。
【0020】
一方、図2及び図6に示したように、駆動部11は、例えばロッド4の先端に取り付けられたモータ20と、このモータ20の減速ギヤ部21とからなる。減速ギヤ部21には鉤型の出力軸22が設けられ、この出力軸22に前記作動杆15の先端の係止溝17を係合させている。他方、操作部16はロッド4の基端に設けられ、前記モータ20の駆動源となるバッテリ23と、モータ20を作動させるためのプッシュスイッチ8とからなる。
【0021】
プッシュスイッチ8を押すとモータ20に電気が供給されてモータ20が回転すると共に減速ギヤ部21の出力軸22が回転する。この出力軸22の回転によって作動杆15の係止溝17の係合が外れると、作動杆15は基端18を支点として自由に揺動し、図4及び図5に示したように、作動杆15が矢印方向に回動したときに、先端の金属針9がゴム風船5に刺さってゴム風船5が割れる。図4に示したように、ゴム風船5は膨張した状態にあるので内部のガス圧によって破裂し、図5に示したように、粒状のドライアイス6が勢いよく且つ巣2の全体に広く放出される。そのため、図5に示したように、巣2の中にある複数の卵10全体を均一に覆うことができる。なお、ゴム風船5が割れたのを確認してからプッシュスイッチ8を離してモータ20の駆動を停止する。
【0022】
次に、上記構成からなる孵化抑止装置を用いて実施する場合の操作手順を図2乃至図7に基づいて説明する。
先ず三角フラスコ12に粒状のドライアイス6を適量入れる。ドライアイス6の量は巣の中にある卵の数や気象条件などを考慮して決定する。
【0023】
次いで、三角フラスコ12の首部13にゴム風船5の口を嵌め込んだのち、三角フラスコ12が上に、ゴム風船5が下になるようにロッド4の先端、詳細にはロッド4の先端から延びる剛性アーム14の先端にホルダ19で固定する。
【0024】
作動杆15の先端の係止溝17が減速ギヤ部21の出力軸22に係合しているのを確認してから、ロッド4を操作してゴム風船5を巣2の真上に保持する。
【0025】
ゴム風船5が十分に膨張したのを確認してからプッシュスイッチ8を押す。モータ20及び減速ギヤ部21が作動することで係合溝17が外れる。作動杆15が自由に揺動することでゴム風船5に金属針9が刺さる。
【0026】
膨張した状態にあるゴム風船5は金属針9が刺さることで破裂する。ゴム風船5の破裂圧によって粒状のドライアイス6は勢いよく放出され、一箇所に偏ることなく巣2全体に広がり、複数の卵10をほぼ均等に覆うことができる。ドライアイス6は次第に昇華しながら卵10を冷却し、卵10の発育を停止させることで孵化を抑止する。
【0027】
なお、ドライアイスの放出処理が済んだら、ロッド4を操作して割れたゴム風船を回収し、次の処理のため再び同様の準備をする。
【0028】
上記実施形態で使用したドライアイス及びゴム風船は取扱いが容易であり、安価で入手し易い。また、鳥卵の孵化抑止効果も大きい上に周囲の環境にも悪影響を及ぼさないなど、実用上極めて有益な手段である。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
巣から採取したカワウの卵に対して室内でドライアイス処理を行ない、その時の孵化抑止効果を調べた。直径約30cm、深さ約10cmのプラスチック容器に桜の木の枝を薄く敷き詰め、その上にカワウの巣から採取した卵を複数個並べ、その上から粒状のドライアイスを振り掛けて卵を覆うようにした。室温約14℃の室内でドライアイスを自然消滅させた。消滅時間はドライアイスの量によって約30−90分の範囲であった。ドライアイスの消滅後すぐに卵を孵化器に入れ、卵割日まで孵化器内を約40℃に保った。
【0030】
卵割日に孵化器から卵を取出し、卵を割って中の状態を観察した。その結果、サンプル1では4個の卵が割れた状態にあり卵白がゼリー状に変質して腐敗していた。残りの1個の卵も孵化する様子は認められなかった。サンプル2では1個の卵が割れた状態にあったが、残り3個の卵には外観状の変化は見られなかった。また、この3個の卵に孵化する様子は認められなかった。サンプル3,4では7個全ての卵に外観状の変化は見られず、また孵化する様子も認められなかった。サンプル5では2つの卵とも心臓の鼓動が認められ、あと5日くらいで孵化しそうであった。以上の結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
(実施例2)
野外において、カワウの巣の中にある卵に対してドライアイス処理を行ない、その時の孵化抑止効果を調べた。4月中旬から5月上旬までの3日間で、22箇所のカワウの巣に対して実施した。予め巣の中に卵があることを確かめた後、上記の孵化抑止装置を用いてドライアイスを巣の中に放出した。
【0033】
処理日から1週間後に河川の土手の上から双眼鏡で巣の中を観察し、さらに処理日から3週間後にロッドの先端に取り付けた鏡で直接巣の中を確認したが、全てのサンプルについて雛の孵化は認められなかった。以上の結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る鳥類卵の孵化抑止方法の一実施例を示す説明図である。
【図2】本発明に係る鳥類卵の孵化抑止装置の一実施形態を示す説明図である。
【図3】ゴム風船の中にドライアイスを封じ込める手段の一例を示す説明図である。
【図4】本発明の孵化抑止装置において、ゴム風船が膨張した状態を示す説明図である。
【図5】本発明の孵化抑止装置において、ゴム風船が破裂した状態を示す説明図である。
【図6】本発明の孵化抑止装置において、ゴム風船の破裂開始手段の一例を示す説明図である。
【図7】本発明の孵化抑止装置の操作手順を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 樹木
2 巣
3 孵化抑止装置
4 ロッド
5 ゴム風船
6 粒状のドライアイス
7 作業者
8 プッシュスイッチ
9 金属針
10 卵
11 駆動部
12 三角フラスコ
14 剛性アーム
15 作動杆
16 操作部
17 係止溝
20 モータ
21 減速ギヤ部
22 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巣の中にある鳥類の卵を冷却することで孵化を抑止する鳥類卵の孵化抑止方法。
【請求項2】
前記卵を粒状のドライアイスによって覆う請求項1に記載の鳥類卵の孵化抑止方法。
【請求項3】
前記粒状のドライアイスによって巣の中の卵を一部が露出する程度に覆う請求項2に記載の鳥類卵の孵化抑止方法。
【請求項4】
前記ドライアイスをゴム風船の中に封じ込め、鳥類の卵がある巣の上方でゴム風船を割り、巣の中に粒状のドライアイスを放出する請求項2又は3に記載の鳥類卵の孵化抑止方法。
【請求項5】
前記ゴム風船がドライアイスから発生する二酸化炭素によって膨張し、膨張したゴム風船に刺激を加えて破砕させ、その破裂圧によって粒状のドライアイスを勢いよく巣の中に放出する請求項4に記載の鳥類卵の孵化抑止方法。
【請求項6】
粒状のドライアイスと、
このドライアイスを封じ込めるゴム風船と、
ゴム風船を鳥類の巣の上方まで移動する移動手段と、
膨張したゴム風船に刺激を加えてゴム風船を破裂させる破裂開始手段と、
を備えたことを特徴とする鳥類卵の孵化抑止装置。
【請求項7】
前記移動手段は伸縮自在なロッドからなり、ロッドの先端部に前記ゴム風船が固定される請求項6に記載の鳥類卵の孵化抑止装置。
【請求項8】
前記破裂開始手段は、ゴム風船を刺す鋭利部材と、この鋭利部材を作動させる駆動部と、この駆動部を操作する操作部とを備える請求項6に記載の鳥類卵の孵化抑止装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−289431(P2008−289431A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139405(P2007−139405)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名:山梨日日新聞社 刊行物名:山梨日日新聞 号 数:第45542号 発行年月日:平成19年5月17日
【出願人】(391017849)山梨県 (19)
【Fターム(参考)】