説明

鶏のカンピロバクター感染を制御するための飼料

【課題】鶏肉のカンピロバクターによる食中毒が頻発しているのもかかわらず、生産者の意識は低い。原因は鶏が発症しないことおよび鶏のカンピロバクター汚染を制御する有効な手法が確立されていないことにある。生産者の意識を変えるような簡便で効果的な防除方法が求められている。
【解決手段】カンピロバクター感染鶏群に対し、桑葉または桑葉とオリゴ糖を含む餌を給餌することによりカンピロバクターの排菌は抑制される。通常の鶏飼料に桑葉または桑葉とオリゴ糖を添加混合して給飼することで、鶏のカンピロバクター汚染を容易に防除できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養鶏場にける鶏のカンピロバクター汚染を防除する飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
カンピロバクター属菌は、グラム陰性、両端又は一端に長い鞭毛を持つ微好気性の螺旋形桿菌で、家畜、家禽、伴侶動物および野生動物の消化管や生殖器などに広く分布している。
近年、カンピロバクターは先進国では小児と青年層を中心に主に食中毒による散発性下痢症から最も高率に分離され、ヨーロッパではカンピロバクターが原因である食中毒が年間約20万件発生している(非特許文献1)。日本では平成21年の食中毒発生状況によるとカンピロバクター食中毒の発生件数は345件で原因物質別で第1位となっている(厚生労働省食中毒統計)。食中毒統計に報告される事件数は実際の被害実数の氷山の一角にすぎないことも指摘されている(非特許文献2)。またカンピロバクター感染症は食中毒としてだけではなく人獣共通感染症として公衆衛生上重要なテーマの一つとなっている。また、臨床症状としては、重症度に違いはあるものの、通常は単純な急性胃腸炎として経過し、多くは数日以内に軽快するが、合併症として、ギランバレー症候群などを併発することがある。
【0003】
カンピロバクター食中毒の感染源としては食品、保菌動物の糞便、井戸水、未殺菌乳などが知られている。特に、先進諸国で感染源として最も重要視されているのが鶏肉で、鶏肉の汚染率は他の畜肉に比べ非常に高く、検査した鶏肉の100%が汚染されていた例も報告されている(非特許文献3)。これは、養鶏場において、鶏が高率にカンピロバクターを保菌していることに由来する(非特許文献4、5、6)。鶏肉のカンピロバクター汚染の直接の原因としては、食鳥処理場における交差汚染が非常に重要である。カンピロバクター汚染鶏群の処理後にカンピロバクター非汚染鶏群を処理した場合に鶏肉がカンピロバクターに汚染される。また、まな板の上での鶏肉の解体時に汚染してしまうという二次的な汚染によることが大きいという現状がある。
【0004】
養鶏場におけるカンピロバクター汚染が制御出来れば、カンピロバクター食中毒の減少に多大な貢献ができるため、ワクチン(特許文献1参照)や生薬(特許文献2、3参照)やβ−1,4−マンノビオース(特許文献4参照)などが検討されている。目的は異なるが桑葉を用いた例に,桑葉を発酵させた飼料サイレージ(特許文献5)、桑葉と桑枝を自然な割合で混合した家畜飼料(特許文献6、7)、桑葉と海藻、ヨモギを撹拌形成した家畜飼料(特許文献8)があげられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−351735号公報
【特許文献2】特開2004−65226号公報
【特許文献3】特開2005−120003号公報
【特許文献4】特開2006−325587号公報
【特許文献5】特開2007−306887号公報
【特許文献6】特開2008−283957号公報
【特許文献7】特開2008−283958号公報
【特許文献8】特開2008−307018号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Rinyら、Clin.Microbiol.Rev.2008,21;505−518
【非特許文献2】日本カンピロバクター研究会誌,2008,1;43
【非特許文献3】Suzukiら、J.Vet.Med.Sci.2008,71;255−261
【非特許文献4】N□therら、Poult.Sci.2009,88;1299−1305
【非特許文献5】Newellら、Appl.Environ.Microbiol.2003,69;4343−4351
【非特許文献6】Onoら、Int.J.Food Microbiol.1999,47;211−219
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
養鶏家は、これまで鶏のカンピロバクター汚染にあまり関心を示してこなかった。その原因の一つは、カンピロバクターが鶏を発病させないためであるが、より大きな原因は、鶏のカンピロバクター汚染を制御する有効な手法が提供されていないことである。とりわけ養鶏場における大規模なカンピロバクター汚染に対する有効な手法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鶏のカンピロバクター汚染は、桑葉または桑葉+オリゴ糖を含む飼料を給餌することによって効果的に防除できる。本発明の飼料を与えたカンピロバクター感染鶏群は、カンピロバクターの排菌をほぼ停止する。また本発明は、本発明の飼料の給飼によって鶏のカンピロバクター汚染を制御する方法も提供する。本発明の飼料および制御方法は、カンピロバクターによる食中毒の発生防止に貢献する。
【0009】
桑葉には、いろいろな効能が知られているが、鶏のカンピロバクター汚染防除に関する効果は知られていなかった。鶏の飼料に添加する桑葉は、扱いやすい市販の桑葉粉末を用いる。桑葉の添加量に比例して盲腸便のpHは低下し、カンピロバクターの排泄が減少する。ただし3%(重量%、以下同じ)以上加えても盲腸便のpHは5で頭打ちとなるため、添加量は3%が適当と思われる。桑葉と混合する飼料は、特に限定されないが、鶏用配合飼料が好ましい。
【0010】
オリゴ糖には腸内pH低下作用があるが、単独で用いてもカンピロバクターの除菌に対する効果は低い。オリゴ糖は、桑葉と用いることで相乗的効果が得られる。オリゴ糖の種類は特に限定されないが、フラクトオリゴ糖の使用が好ましい。桑葉粉末3%とともにオリゴ糖を飼料に加えると、オリゴ糖の添加量に比例して盲腸便のpHは桑葉単独添加よりも顕著に低下し、腸内のビフィズス菌と善玉細菌が繁殖しやすい環境が形成される。
【0011】
カンピロバクターによる食中毒を撲滅するためには、出荷予定の鶏に対し、出荷予定日の少なくとも2日前から、好ましくは5日前から本発明の飼料を鶏に給餌することが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
桑葉または桑葉とオリゴ糖を添加混合した鶏用飼料を出荷直前の鶏に給餌することにより、カンピロバクターの排泄が減少する。鶏肉へのカンピロバクター汚染が減少し、食中毒の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】桑葉配合率と桑葉給餌後の盲腸便のpHとの関係。
【図2】オリゴ糖配合率と桑葉+オリゴ糖給餌後の盲腸便のpHとの関係
【図3】カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)を強制感染させた鶏の桑葉給餌後の盲腸便のpH
【図4】カンピロバクター・ジェジュニを強制感染させた鶏の桑葉給餌後の盲腸便中の残存生菌数
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【実施例1】
【0014】
試験区として桑葉粉末5%、桑葉粉末3%、桑葉粉末1%投与区を設定し、対照区とともにそれぞれ鶏5羽ずつを用いた。42日齢時に桑葉粉末(山本漢方薬(株)製)それぞれ5%、3%、1%を鶏用配合飼料(自家製)に混合し、不断給餌を行った。給餌投与1、2、3、4日後に鶏から排出された盲腸便を採取し、盲腸便のpHの測定を行った。結果、桑葉粉末投与区で盲腸便のpH値の低下が認められた。また、桑葉粉末3%投与区と桑葉粉末5%投与区ではpH値の顕著な差は認められなかった(図1参照)。
【実施例2】
【0015】
試験区として桑葉3%オリゴ糖5%、桑葉3%オリゴ糖3%、桑葉3%オリゴ糖1%、桑葉3%、オリゴ糖5%投与区を設定し、対照区とともにそれぞれ鶏5羽ずつを用いた。42日齢時に桑葉粉末(山本漢方薬(株)製)及びフラクトオリゴ糖(明治製薬)を各濃度で餌に混合し、不断給餌を行った。給餌投与1、2、3、4日後に鶏から排出された盲腸便を採取し、盲腸便のpHの測定を行った。結果、投与2、3日後に桑葉3%オリゴ糖5%投与区で最も低いpH値4.46±0.61(標準誤差:SE)を示し、桑葉またはオリゴ糖単独投与よりもpH値の低下が認められた(図2参照)。
【実施例3】
【0016】
試験区として桑葉3%オリゴ糖5%、桑葉3%投与区を設定し、対照区とともにそれぞれ鶏10羽ずつを用いた。39日齢時に試験区及び対照区の鶏にカンピロバクター・ジェジュニを10CFU/羽ずつ経口投与チューブを用いてそ嚢内に接種し感染させた。43日齢時に桑葉粉末3%及びオリゴ糖5%または桑葉3%を餌に混合し、不断給餌を行った。給餌投与1、2、3日後に鶏から排出された盲腸便を採取し、盲腸便のpHの測定およびカンピロバクター・ジェジュニ生菌数の測定を行った。結果、試験区で給餌投与後に盲腸便のpH値の低下が認められ、かつpH値の低下とともに鶏から排出された盲腸便に存在するカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)生菌数の低下が認められた(図3,4参照)。特に、桑葉3%オリゴ糖5%投与区では投与1日後に10検体中1検体、投与2日後に10検体中3検体、投与3日後に10検体中5検体がカンピロバクター・ジェジュニ検出限界以下(200CFU/g)であった。また、桑葉3%投与区においても投与3日後に10検体中3検体がカンピロバクター・ジェジュニ検出限界以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏用飼料に桑葉または桑葉とオリゴ糖を混合することを特徴とする鶏のカンピロバクター感染を制御するための飼料。
【請求項2】
桑葉粉末1〜5%およびフラクトオリゴ糖1〜5%を鶏用飼料に混合することを特徴とする請求項1に記載の飼料。
【請求項3】
桑葉粉末3%とフラクトオリゴ糖5%を鶏用飼料に混合することを特徴とする請求項1〜2に記載の飼料。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の飼料を鶏に給飼することを特徴とする鶏のカンピロバクター汚染防除方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−125225(P2012−125225A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294705(P2010−294705)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(591193370)株式会社微生物化学研究所 (14)
【Fターム(参考)】