説明

鶏卵卵殻膜を原料とするタンパク質分解酵素による卵殻膜加水分解物とその製法、並びにこれらを添加した機能物

【課題】鶏卵卵殻の有効活用を図り、卵殻から生成されたことによる無害な有効物質を生成、すなわち卵殻膜から抗酸化物質、血圧低下物質、肌の美白物質、卵殻膜から食品、化粧品あるいは医薬品を生成する。
【解決手段】卵殻膜をタンパク質分解酵素の添加によって、加水分解処理を行うことによって生成した卵殻膜を原料とする卵殻膜加水分解物、および例えば、卵殻膜加水分解物を素材として含む抗酸化活性、血圧低下作用、あるいは美白作用を有する食品、化粧品あるいは医薬品を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鶏卵卵殻膜を原料とするタンパク質分解酵素による卵殻膜加水分解物とその製法、並びにこれらを添加した各種の機能物、すなわち食品、医薬品あるいは化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
卵殻膜を用いて各種の機能物(機能剤を含む。)が作られている。特許文献1には卵殻膜微細粉末の吸油能を利用した各種機能剤が記載され、特許文献2には卵殻膜を使用したコラーゲン人工膜が記載され、特許文献3には皮膚外用剤が記載され、特許文献4には繊維処理剤が記載され、特許文献5には肌改善用食品組成物および肌改善方法が記載されている。
【0003】
また、特許文献6には、廃卵殻の構成要素の回収法が特許文献7には卵殻と卵殻膜との分離方法およびその装置が記載されている。
【0004】
また、特許文献8には、抗酸化剤と卵殻膜とを含有する酸化防止剤組成物、該酸化防止剤組成物を含有する食品が記載されている。
【0005】
また、特許文献9および10には、チロシナーゼ阻害活性を求める方法が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−143275号公報
【特許文献2】特開平5−253285号公報
【特許文献3】特開2002−212069号公報
【特許文献4】特開2004−84154号公報
【特許文献5】特開2003−246741号公報
【特許文献6】特開2001−519712号公報
【特許文献7】特開平8−1738号公報
【特許文献8】特開平10−158646号公報
【特許文献9】特開平6−153976号公報
【特許文献10】特開平4−45791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(1)鶏卵の卵殻および卵殻膜は産業廃棄物として廃棄されており、その利用開発は環境問題などを含めて極めて大きな課題である。卵殻についてはカルシウム強化剤として利用されているが、卵殻膜の利用については化粧品原料としてEMプロテインや調味料原料(キューピー製)が販売されているのみで、現在その有効活用は進んでいないのが現状である。
【0008】
卵殻膜は、鶏卵において本来ヒヨコとなる卵細胞(卵黄)や卵白を包み、卵殻とともに物理的に外界から隔離し、有害な紫外線や酸素および乾燥から鶏卵を守っている。また病原菌やウイルスなどの外来生物の感染から防御する重要な働きを持っている。その成分の90%以上がコラーゲンに類似したタンパク質といわれているが、そのほとんどが不溶性タンパク質であり、その実体は明らかにはなっていない。また卵殻膜には抗菌物質およびリゾチームやβ-N-アセチルグルコサミニダーゼなどの抗菌酵素が含まれている。このように卵殻膜には、他に例のない成分とくに特殊なタンパク質が含まれており、その機能性には注目できるものがありうるが、不溶性であるがために利用の道が閉ざされているといえる。そこで、卵殻膜を分解することにより可溶化をはかり、機能性成分を抽出する必要がある。また考えられる機能性は、酸素からの防御としての抗酸化作用が第一にあげられるが、他の食品タンパク質由来のペプチドで明らかになっているような血圧低下作用やミネラル吸収促進作用などの種々の機能も考えられる。
【0009】
(2)抗酸化物質は食品の酸化防止剤としても有用であるが、ビタミンCやEで知られるように生体内では活性酸素などによる酸化ストレスを防止する機能が最近注目されている。すなわち、生活習慣病などの種々の疾病において、活性酸素、フリーラジカル、過酸化脂質などによる酸化ストレスが発病の大きな要因となることが明らかにされてきたからである。生体はこのような酸化ストレスに対する防御システム(抗酸化物質や酵素など)を備えているが、すべての酸化ストレスを完全に防止しえない場合もある。その際、注目できるのが食品由来の抗酸化物質であり、前記のビタミンをはじめ、ポリフェノール類などの物質が現在使用されているが、食品タンパク質由来のペプチド性抗酸化物質もその安全性の点からも有望な候補の1つである。
そこで、鶏卵卵殻膜を分解し、ペプチドを含む卵殻膜加水分解物について、リノール酸の自動酸化に対する抗酸化活性ならびに動物培養細胞における抗酸化ストレス作用を調べ、抗酸化活性を有する食品、医薬品、化粧品の素材としての可能性を探ることが求められる。
【0010】
(3)ヒトにおいて血圧は複数の調節機構により調整されており、その中でもアンジオテンシン変換酵素(ACE)による調節系は極めて重要な役割を持っている。まず腎臓から放出されたプロテアーゼであるレニンは、血液中の糖タンパク質であるアンジオテンシノーゲンに作用してアンジオテンシンIを生成する。ACEは、このアンジオテンシンIに作用し、昇圧ホルモンであるアンジオテンシンIIを生成する酵素である。アンジオテンシンIIは、直接作用として末梢毛細血管を収縮させ、交感神経や副腎を刺激しカテコールアミンの放出を促進するため血圧を上昇させる。また副腎皮質ホルモンのアルドステロンの分泌を高め、Naの再吸収促進、水の貯留、循環血液量の増大をもたらし、血圧を上昇させる。さらに、ACEは血管拡張作用を持つブラジキニンを分解するので、相乗的な血圧上昇作用を示す。したがって、ACEの活性を阻害することによって血圧上昇を抑制すること、すなわち血圧降下が可能である。
【0011】
カプトプリルなどの合成ACE阻害剤は経口の高血圧治療薬として使用されているが、食品成分でもACE阻害作用を有するものは抗血圧上昇作用を示す食品(ラクトトリペプチドを含むアミールSやバリルチロシンを含むサーデンペプチドなど)として利用されている。
そこで、卵殻膜を分解し、ペプチドを含む卵殻膜加水分解物について、ACE阻害活性を調べ、血圧低下作用を有する医薬品または食品の素材としての可能性を探ることが求められる。
【0012】
(4)チロシナーゼは皮膚中でメラニン色素をつくるのに深く関わっている酵素で、しみやそばかす、色黒などの原因になっており、チロシナーゼを阻害する物質は美白化粧品の原料として実用化されている。アルブチンやコウジ酸がその代表例である。
そこで、卵殻膜を分解し、ペプチドを含む卵殻膜加水分解物について、チロシナーゼ阻害活性を調べ、化粧品、例えば美白剤または食品などの原料としての可能性を探ることが求められる。
本発明は、かかる点に鑑み、卵殻の有効活用を図り、卵殻から生成されたことによる無害な有効物質を生成、すなわち卵殻膜から抗酸化物質を生成し、卵殻膜から食品、医薬品、例えば血圧調節剤 (血圧低下物質)あるいは化粧品、例えば肌の美白化粧剤(チロシナーゼ阻害物質)を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、鶏卵卵殻膜にタンパク質分解酵素を添加して、加水分解処理を行うことによって生成した卵殻膜を原料とする卵殻膜加水分解物を提供する。
本発明は、前記載の卵殻膜加水分解物を素材として含む抗酸化活性を有する食品,化粧品あるいは医薬品を提供する。
本発明は、前記載の卵殻膜加水分解物を素材として含む血圧低下作用を機能とする食品あるいは医薬品を提供する。
本発明は、前記載の卵殻膜加水分解物を肌の美白素材として含む食品あるいは化粧品を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鶏卵卵殻膜をタンパク質分解酵素によって分解することができ、これによって鶏卵殻膜加水分解物を生成することができ、鶏卵卵殻の有効活用が図られて鶏卵の加工工場での産業廃棄物が減少し、持続的な産業創成や地球環境の保全にも貢献することができる。また卵殻から生成されたことによる無害な有効物質が生成、すなわち卵殻膜から抗酸化物質を生成し、卵殻膜から食品、医薬品例えば血圧調節剤(血圧低下物質)あるいは化粧品例えば肌の美白効果のある化粧品(チロシナーゼ阻害物質)を生成することができる。これらの物質は、高齢社会において高血圧症を始めとする生活習慣病の予防やアンチエイジングを目指した食品、化粧品、医薬品などに利用でき、医療費の抑制や健康寿命の延長などの効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本実施例である鶏卵卵殻膜を原料とする卵殻膜加水分解物、およびその製法は、卵殻膜懸濁液中の卵殻膜1に対してタンパク質分解酵素を1〜10%(重量%)の割合で加えてpHを6〜12に調整し、温度を30〜60℃にして酵素処理を6〜24時間行い、乾燥させることによるもので、卵殻膜を原料として構成される。
【0016】
ここで「食品」については、特許文献8に詳細に記載されている。
それによれば、「食品」とは、例えば、おかき、煎餅、おこし、饅頭、飴等の和菓子、クッキー、ビスケット、クラッカー、パイ、カステラ、ドーナッツ、プリン、スポンジケーキ、ワッフル、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、チョコレート、チョコレート菓子、キャラメル、キャンデー、チューインガム、ゼリー、ホットケーキ、パン、菓子パン等の各種洋菓子、ポテトチップ等のスナック菓子、アイスクリーム,アイスキャンデー、シャーベット等の氷菓、乳酸飲料、乳酸菌飲料、濃厚乳性飲料、果汁飲料、果肉飲料、機能性飲料、炭酸飲料等の清涼飲料水、緑茶、紅茶、コーヒー、ココア等の嗜好品およびこれらの飲料、発酵乳、加工乳、チーズ等の乳製品、豆乳、豆腐等の大豆加工食品、ジャム、果実のシロップ漬、フラワーペースト、ピーナツペースト、フルーツペースト等のペースト類、漬物類、ハム、ソーセージ、ベーコン、ドライソーセージ、ビーフジャーキー等の畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん等の魚貝類製品、魚、貝等の干物、鰹、鯖、鰺等の各種節、ウニ、イカ等の塩辛、スルメ、魚等のみりん干、鮭等の燻製品、のり、小魚、貝、山菜、椎茸、昆布等の佃煮、カレー、シチュー等のレトルト食品、みそ、醤油、ソース、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、ブイヨン、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素等の各種調味料、米飯類、油脂を含有する各種レンジおよび冷凍食品等、酸化安定性を必要とする食品をいう。
【0017】
本実施例によれば、食品の内で機能性食品について特に効果がある。機能性食品とは人の健康に直接関係する生体の諸系統の調節に有効に作用する機能性成分を含む食品であり、健康増進や生活習慣病などの病気の予防に有効である。具体的には、「特定保健用食品」、「栄養機能食品」、「健康食品(サプリメントなどを含む)」と呼ばれている食品である。
【0018】
ここで「タンパク質分解酵素」とは、標準化学用語辞典によれば「タンパク質のペプチド結合の加水分解を触媒する酵素の一般名。プロテアーゼともいう。同じくペプチド結合を加水分解する酵素でも、ペプチダーゼという用語は、比較的低分子量のペプチド基質に作用する酵素を指す。生理的に重要なのはタンパタ質の加水分解で、ペプシン、トリプシンなどのエンドペプチダーゼである。ただし、プロテアーゼはタンパク質だけでなく、合成ペプチドでも分解する活性をもつ。」と説明される。
【0019】
ここで「プロテアーゼN」とは、天野エンザイム(株)が製造販売している食品用タンパク質分解酵素剤の商品名であり、枯草菌(Bacillus subtilis)が産生するタンパク質分解酵素から成り、最適pH7、最適温度55℃で、タンパク質消化力は天野法で150,000ユニット/g以上の酵素活性をもつ。また「プロレザーFG-F」とは、天野エンザイム(株)が製造販売している食品用タンパク質分解酵素剤の商品名であり、前記とは別種の枯草菌(Bacillus sp.)が産生するタンパク質分解酵素から成り、最適pH10、最適温度60℃で、タンパク質消化力は天野法で10,000ユニット/g以上の酵素活性をもつ。
【0020】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0021】
図1の卵殻膜加水分解物の製法フローチャートに、卵殻膜からの熱水抽出物および卵殻膜加水分解物の調製を示す。図1において、乾燥卵殻膜は、イフジ産業(株)で液卵製造の過程で副生した卵殻をチェーン式打撃破砕乾燥装置「クダケラ」(新日本海重工業(株)製)により、卵殻を破砕するとともに卵殻膜を分離した後、乾燥し調製した。次に乾燥卵殻膜を市販コーヒーミルで粉砕し、粉末卵殻膜を得た。粉末卵殻膜30gに脱イオン水200 mlを加え、超音波処理を10分間行った後に10分間沸騰させ、次に脱イオン水100 mlを追加し、超音波処理を10分間行った。次に、50℃で24時間抽出を行った後、10分間沸騰させ、冷却後、遠心分離(22,000×g、10℃、20分間)により、上清を得、これを凍結乾燥し、「卵殻膜加水分解物」,「熱水抽出物」とした。また、卵殻膜のタンパク質分解酵素処理は、上記と同様にして卵殻膜懸濁液を50℃で24時間処理する前に酵素として、プロテアーゼN(天野エンザイム製、150,000ユニット/g)1gまたはプロレザーFG-F(同製、10,000ユニット/g)2gを加え、それぞれpHを7または10に調整した。
【0022】
また、比較のための酵素無添加の例を実施した。それぞれ上清を凍結乾燥したものを、「プロテアーゼN分解物」および「プロレザーFG-F分解物」および「熱水抽出物」とした。これらの収量は表1に示すように、熱水抽出物が0.77g(回収率2.6%)、プロテアーゼN分解物が6.58g(同21.9%)およびプロレザーFG-F分解物が7.19g(同24.0%)であった。よって、卵殻膜からの成分の抽出にはタンパク質分解酵素処理が有効であることが明らかになった。以上のように、鶏卵卵殻膜にタンパク質分解酵素を添加し加水分解処理を行うようにすることによって卵殻膜加水分解物を生成することができる。

【0023】
卵殻膜熱水抽出物および加水分解物の抗酸化活性(脂質過酸化抑制率)について説明する。
卵殻膜抽出物の抗酸化活性の測定は、Furutaらの方法に準じてジエチルチオバルビツール酸(DETBA)法により行った。すなわち、リノール酸の自動酸化で生じるマロンジアルデヒドとDETBAが形成する複合体の相対蛍光強度(励起波長515 nm、蛍光波長555 nm)を測定することによって、次式により脂質過酸化抑制率(%)を計算し、これを抗酸化活性とした。なお、生体内抗酸化性ペプチドとして知られているカルノシン(β-アラニル-L-ヒスチジン)との抗酸化活性の比較を行った。
【0024】
脂質過酸化抑制率(%)=100×(試料無添加のときの相対蛍光強度−試料添加のと
きの相対蛍光強度)/試料無添加のときの相対蛍光強度
リノール酸の自動酸化に対する卵殻膜加水分解物の添加の影響を調べた結果を表2に示すが、プロテアーゼN分解物およびプロレザーFG-F分解物の添加により、脂質過酸化抑制率(抗酸化活性)が、添加濃度50μg/mlではそれぞれ74.2%および67.0%となり、カルノシンの値(90.0%)に近い抗酸化活性を示した。添加量12.5μg/mlでは、それぞれ53.1%および38.8%であった。他方、比較例としての熱水抽出物では50および12.5μg/mlの添加濃度で、脂質過酸化抑制率はそれぞれ38.3%及び26.2%であった。よって、卵殻膜加水分解物には、比較的強い抗酸化活性があることが明らかとなり、卵殻膜加水分解物を食品、医薬品、化粧品、食品などの抗酸化剤として使用できる見通しが得られた。

【0025】
培養ヒト細胞を用いた卵殻膜加水分解物の抗酸化ストレス作用について説明する。
培養細胞株としてヒト単球様リンパ腫細胞(U937)を用い、10%ウシ胎児血清を添加したRPMI1640培地で、37℃、5%CO、95%空気の条件で培養した。
【0026】
細胞に対する酸化ストレス誘導は、tert−ブチルヒドロパーオキシド(t-BOOH)を用いたNardiniらの方法に準じて行った。すなわち、96穴マイクロプレートに5×10個/mlの細胞懸濁液100μlを播種し、卵殻膜加水分解物(終濃度1mg/ml)を添加した後、37℃で24時間培養した。次にt-BOOHを300μMとなるように添加し、4時間培養した後、トリパンブルーを用いる色素排除法により血球計算盤を用いて生細胞数を計測した。t-BOOHおよび卵殻膜加水分解物を添加しない場合の生細胞数を100%として、各処理における細胞の生存率(%)を表した。この細胞生存率の増加により試料の抗酸化ストレス作用を調べた。
【0027】
卵殻膜加水分解物について、U937細胞におけるt-BOOHによる酸化ストレスの防御作用を、細胞の生存率で調べた結果、表3に示すようにt-BOOH添加による細胞生存率が36.3%であったのに対して、プロテアーゼN分解物およびプロレザーFG-F分解物の添加(添加濃度1mg/ml)により、細胞生存率がそれぞれ88.7%および82.7%となり、卵殻膜加水分解物がt-BOOHによる細胞死を防ぐ作用を示した。この例ではプロテアーゼN分解物およびプロレザーFG-F分解物を添加したが、添加はいずれかであってもよい。(以下同じ)
以上の結果から、卵殻膜加水分解物には抗酸化活性が認められ、卵殻膜のプロテアーゼ分解によって抗酸化活性が上昇することから、抗酸化性成分として卵殻膜タンパク質由来のペプチドなどが考えられるが、その同定や抗酸化機構の解明などは今後の検討課題である。よって、卵殻膜加水分解物を抗酸化作用を有する食品、医薬品あるいは化粧品の素材などとして活用できる見通しが得られた。

【0028】
卵殻膜加水分解物のACE阻害活性について説明する。
アンジオテンシン変換酵素(ACE)はウサギ肺由来ACE(Sigma 製)を、また基質はBz-Gly-His-Leu(ベンゾイルグリシル-L-ヒスチジル-L-ロイシン、ペプチド研究所製)を用い、Cushman and Cheungの方法に準じてACE阻害活性を測定した。すなわち、Bz-Gly-His-Leuを基質とし、ACEにより生成された馬尿酸を酢酸エチルで抽出し、乾固後水に再溶解した後、228 nmにおける吸光度を測定した。ACE阻害活性は、披検試料の添加によりもたらされた吸光度の低下割合(%)で表した。
【0029】
ACE活性に対する卵殻膜加水分解物の添加の影響を調べた結果を表4に示すが、プロテアーゼN分解物およびプロレザーFG-F分解物の添加(添加濃度1mg/ml)によりACE活性が、それぞれ55.7%および71.6%阻害された。他方熱水抽出物では同量の添加でACE阻害活性はまったく認められなかった。よって、卵殻膜加水分解物には、ACE阻害活性があることが明らかとなった。
【0030】
以上の結果から、卵殻膜加水分解物にはACE阻害活性が認められ、阻害成分については、卵殻膜のタンパク質分解酵素処理によってACE阻害活性が出現することから卵殻膜タンパク質由来のペプチドなどが考えられる。よって、卵殻膜加水分解物を血圧低下作用を有する血圧調節剤あるいは食品の素材として活用できる見通しが得られた。

【0031】
卵殻膜加水分解物のチロシナーゼ阻害活性について説明する。
チロシナーゼはマッシュルームチロシナーゼ(Sigma 製)を1400ユニット/mlとなるように50 mM酢酸緩衝液(pH6.8)に溶解して用いた。チロシナーゼ阻害活性は、北尾ら(特許文献9)および松永(特許文献10)の方法に準じて測定した。50 mM酢酸緩衝液(pH6.8)0.9 mlに0.05%L-DOPA(L-β-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)水溶液、1.0 mlおよび被検試料溶液1.0 mlを加え、37℃で5分間プレインキュベーションした後、チロシナーゼ溶液50μlを加え、37℃で1分間反応させ、475 nmにおける吸光度を測定することにより求めた。すなわち、被検試料溶液を添加しない場合の吸光度から被検試料溶液を加えた場合の吸光度を差し引いた差を被検試料溶液を添加しない場合の吸光度で除して阻害活性(%)とした。また、L-DOPAの代わりに0.03%L-チロシンを基質として用いる場合には、同様にして酵素反応を行い、37℃で30分間後の吸光度を測定することにより阻害活性(%)を求めた。
【0032】
L-DOPAを基質として用いた場合、チロシナーゼ活性に対する卵殻膜加水分解物の添加の影響を調べた結果を表5に示すが、プロテアーゼN分解物およびプロレザーFG-F分解物の添加量が増加するにつれてチロシナーゼを阻害し、20 mgの添加量でチロシナーゼ活性はそれぞれ34.4%および41.5%阻害された。一方、熱水抽出物ではチロシナーゼ阻害活性はまったく認められず、逆に活性促進作用がみられた。よって、卵殻膜加水分解物には、チロシナーゼ阻害活性があることが明らかとなった。この場合、L-DOPAからDOPAキノンヘの酸化反応を阻害しているものと考えられる。
【0033】
また、L-チロシンを基質として用いた場合の結果を表6に示すが、同様にプロテアーゼN分解物およびプロレザーFG-F分解物の添加量が増加するにつれてチロシナーゼを阻害し、20 mgの添加量でチロシナーゼ活性はそれぞれ21.1%および33.5%阻害された。この場合、L-チロシンからL-DOPAへの反応も阻害しているものと考えられる。一方、熱水抽出物ではチロシナーゼ阻害活性はまったく認められず、添加濃度によっては活性促進作用がみられた。
【0034】
以上の結果から、卵殻膜加水分解物はL-チロシンからL-DOPAへの酸素添加反応並びにL-DOPAからDOPAキノンヘの酸化反応およびDOPAクロムの生成反応を阻害するが、後者の反応をより強く阻害することがわかった。阻害成分については、卵殻膜のタンパク質分解酵素処理によってチロシナーゼ阻害成分が生成することから、卵殻膜タンパク質由来のペプチドなどが考えられる。また、卵殻膜加水分解物を化粧品、例えば美白化粧品などの素材や食品の素材として活用できる見通しが得られた。

【0035】


【0036】
以上のように、本実施例によれば、鶏卵卵殻膜にタンパク質分解酵素を添加し加水分解処理を行うことによって生成した、卵殻膜加水分解物およびこの卵殻膜加水分解物を素材として含む抗酸化活性、血圧低下作用あるいは美白効果を有する健康食品を含む食品,化粧品あるいは医薬品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】卵殻膜加水分解物の製法フローチャート図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏卵卵殻膜にタンパク質分解酵素を添加し加水分解処理を行うことによって生成した、卵殻膜加水分解物。
【請求項2】
請求項1記載の卵殻膜加水分解物を素材として含む抗酸化活性を有する食品,化粧品あるいは医薬品。
【請求項3】
請求項1記載の卵殻膜加水分解物を素材として含む血圧低下作用の機能を有する食品及び医薬品。
【請求項4】
請求項1記載の卵殻膜加水分解物を素材として含む肌の美白機能を有する食品及び化粧品。
【請求項5】
請求項1において、前記タンパク質分解酵素がプロテアーゼNまたはプロレザーFG-Fであること、あるいは双方であることを特徴とする卵殻膜加水分解物。
【請求項6】
卵殻膜懸濁液中の卵殻膜1に対してタンパク質分解酵素を1〜10%(重量%)の割合で加えてpHを6〜12に調整し、温度30〜60℃にして酵素処理を6〜24時間行い、乾燥させて、卵殻膜を原料とするタンパク質分解酵素による卵殻膜加水分解物の製法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7419(P2008−7419A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176395(P2006−176395)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(595118582)イフジ産業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】