説明

鶏糞の発酵方法

【課題】本発明は悪臭を簡単に取り除きかつ短期間で完熟発酵鶏糞を得る方法を提供することである。
【解決手段】本発明の鶏糞の発酵方法は、鶏糞に硫酸、リン酸及びウオラストナイトを添加して発酵させることを特徴とする。
好ましくは、鶏糞の乾燥残量分に対して、硫酸4〜14重量%,リン酸5〜16重量%、ウオラストナイト8〜16重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機質肥料として有用な鶏糞の醗酵方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の養鶏は経営規模の拡大に伴って飼養数も数万羽単位以上となり、そこから排出される鶏糞の量は1日当たり数トン以上となり養鶏農家にとっては鶏糞の処理は環境問題など経済的、労力的に大きな負担となっている。
一般的な鶏糞の処理方法として鶏舎の中で送風を行うことによって鶏糞中の水分を出来るだけ少なくし、更に鶏舎から取り出した鶏糞を一定期間放置するか或いは予め乾燥しておいた乾燥鶏糞と混ぜる事によって水分を調整し、更には種菌を入れて予備発酵を行い次いで発酵槽に入れ発酵を行う方法が行われている。しかしながらこれらの方法では発酵中期までかなりの悪臭が漂い又、一般的には鶏舎からの鶏糞の取り出しから醗酵終了まで2〜3ヶ月の期間を要する。また、これらの方法で得られた発酵物は、発酵物中のエキスを水で抽出する場合、発酵が不十分なため粘着物質や高分子量のものが残存しこれが原因でろ過時に目詰まりを起こしろ過に多大の時間を要することおよび抽出エキスは黒色で商品価値は低くまた植物に葉面散布を行った場合効果としては不十分なことから液体肥料としては不適であった。
そこで鶏糞の悪臭を除去しアミノ酸、有機酸、珪酸など植物の生育に有用な成分が得られる発酵方法が特許文献1に開示されている。
この方法は鶏糞に濃硫酸とCaSiOの構造を有する珪酸塩鉱物である合成ウオラストナイトを添加、混合して硫酸カルシウムと珪酸ゾルを生成させ(式−1)、この粒状化物のpHを6.0〜7.85、水分率を65〜78.5%、温度を25〜35℃に調整し粒状化物中に潜在する微生物、酵素によって発酵を開始させ、続行・完了させる方法である。
CaSiO+HSO+HO→CaSO+Si(OH)‥‥‥式1
しかしながら、この方法によって悪臭を除去できアミノ酸、有機酸、珪酸など植物の生育に有用な成分を有する鶏糞の発酵物を得られ水によって薄茶色の抽出液が得られる点では満足できる方法であるが発酵期間が長く、経営規模の拡大によって1日当りの鶏糞処理量が数十トン以上にも達している現在においては短期間で迅速に発酵できる技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】特開昭60−255685公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は悪臭を簡単に取り除きかつ短期間で完熟発酵鶏糞を得る方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
鶏糞にCaSiOの構造を有する珪酸塩化合物であるウオラストナイト、硫酸及びリン酸を添加混合して発酵させることにより、従来技術より、悪臭を低減することができると共に、短期間で完熟発酵した鶏糞が得られる事を見出し本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0005】
以上説明したように本発明によれば、鶏糞に硫酸、リン酸、ウオラストナイトで処理することによって鶏糞の悪臭成分を従来技術より優れて除去することができると共に、この処理物をオガクズ,わら、バークなどの水分調整剤や種菌などを使用せずに、そのまま放置することによって従来技術では考えられない5〜15日という短期間で完熟した鶏糞発酵物を得ることができる。リン酸を入れない硫酸とウオラストナイトだけで発酵させる従来技術では完熟鶏糞発酵物を得るのに通常、1ヶ月程度必要とする。更に本発明においては天日乾燥前の発酵物に窒素源として尿素、硫酸アンモニウムなどを、また、カリウム源として塩化カリウム、硫酸カリウムなどを、更には亜鉛、マンガン、マグネシウム、銅、鉄などのミネラルを含有した無機または有機化合物を添加混合することによって作物の栽培に最適な有機肥料を製造することができる。
【本発明を実施するための形態】
【0006】
以下、本発明の鶏糞の発酵方法について詳しく述べる。
【0007】
鶏糞を攪拌しながら硫酸、リン酸次いで、ウオラストナイトを加え混合する。鶏糞としては鶏舎から搬出される生鶏糞が使用されるが乾燥鶏糞も使用することができる。硫酸は、鶏糞として鶏舎から搬出した生鶏糞の場合は濃硫酸を使用し、乾燥鶏糞の場合は濃硫酸の代わりに希硫酸も使用することができる。本発明においては鶏糞に硫酸次いでリン酸を或いは鶏糞にリン酸次いで硫酸を添加する何れの添加順序でも差し支えないが前者の場合は鶏糞中のアルカリ分との中和などによって発生する発煙量が多くなるので鶏糞の攪拌を十分行いながら硫酸を徐々に添加する必要がある。硫酸の使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して4〜14wt%である。好ましくは5〜11wt%である。4wt%以下では悪臭除去が弱まると共に発酵速度が緩慢になり、14wt%以上では発酵速度がほぼ一定になるとともに鶏糞中の石膏分が多くなり品質の面で好ましくない。リン酸の使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して5〜16wt%、好ましくは8〜13wt%である。5wt%以下では悪臭除去と発酵速度が緩慢になるという点で、16wt%以上では発酵速度がほぼ一定になると共にコストの点で好ましくない。また、硫酸とリン酸のトータル使用モル数は使用するウオラストナイト中の酸化カルシウム(CaO)モル数に対して1.3倍モル以上である。ウオラストナイトは天然系あるいは合成系何れのものも使用可能である。ウオラストナイトと硫酸およびリン酸の反応によって生成する珪酸ゾルが鶏糞の悪臭および発酵に大きく影響することからウオラストナイト使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して8〜16wt%である、望ましくは9〜13wt%である。
鶏糞に硫酸、リン酸及びウオラストナイトを添加、混合して得られる混合物の水分(乾燥減量分)は50〜70wt%、pHは4〜6であり、この混合物を水分、pHの調整なく発酵培地として1日に1回程度天地返しを行いながら、夏では5〜10日、通常1週間程度、冬では7〜15日、平均的に10日放置し次いで乾燥することによって茶褐色の完熟発酵鶏糞が得られる。
また、本発明の発酵方法においては尿素、硫酸アンモニウムなどの窒素源、塩化カリウム、硫酸カリウムなどのカリウム源、亜鉛、マンガン、マグネシウム、銅、鉄などのミネラル等無機または有機化合物を添加混合することもできる。これらの成分は発酵後添加してもよい。
【実施例】
【0008】
以下、本発明の実施例を例示するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない
実施例1
鶏舎から取り出し1日放置された鶏糞(水分66.4%)6kgに98%硫酸151gを添加混合した。次に85%リン酸260gを添加混合した後天然系ウオラスストナイト(清水工業株式会社製、CaO42.3%、SiO47.8%)232gを添加混合した。硫酸使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して 7.3wt%、リン酸使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して10.9wt%、ウオラストナイト使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して11.5wt%であった。鶏糞内温度は硫酸添加によって30℃から37℃に上昇し、85%リン酸およびオウラストナイト添加後は40℃であった。ウオラストナイトの添加、攪拌後には悪臭は殆ど感じられなかった。ウオラストナイト添加後の混合物の水分は59%、pH(混合物10gに純水40gを添加攪拌後測定)は5.0であった。この混合物を1日に1回攪拌しながら屋内で8日間放置し天日乾燥した。放置中の混合物温度は26〜33℃で外気温度と殆ど変わらなかった。乾燥後の発酵物(水分35%)530gを65℃の温水3.4kgに加え30分攪拌した後、直径60cmの定性ろ紙(ADVANTEC,No2)を使用してろ過した。ろ過開始から3時間でろ過を終了することができ、抽出液は薄茶色の透明液体で発酵が完熟している事が分かる。
【0009】
実施例2
乾燥鶏糞(水分43%)3kgに14%の希硫酸921gを添加混合した。次に85%リン酸221gを添加混合した後、実施例1同様の天然系ウオラスストナイト197gを添加混合した。硫酸使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して 7.5wt%、リン酸使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して 11.0wt%、ウオラストナイト使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して11.5wt%であった。ウオウラストナイト添加後の混合物の温度は42℃、水分は55.4%、pH(混合物10gに純水40gを添加攪拌後測定)は4.5であった。この混合物を1日に1回攪拌しながら7日間放置し次いで天日乾燥した。放置中の混合物温度は28〜32℃で外気温度と殆ど変わらなかった。乾燥後の発酵物(水分30%)530gを65℃の温水3.4kgに加え30分攪拌した後、直径60cmの定性ろ紙(ADVANTEC,No2)を使用してろ過した。ろ過開始から7時間でろ過を終了することができ、抽出液は薄茶色の透明液体で発酵が完熟している事が分かる。
【0010】
比較例1
実施例1と同様の鶏糞3kg(水分66.4%)に98%硫酸165を添加混合した。次に実施例1同様のウオラストナイト114gを添加混合した。硫酸使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して16.0wt%、ウオラストナイト使用量は鶏糞中の乾燥残量分に対して11.5wt%であった。ウオウラストナイト添加後の混合物の温度は52℃、水分は60.1%、pH(混合物10gに純水40gを添加攪拌後測定)は3.9であった。この混合物を1日に1回攪拌しながら15日間放置し次いで天日乾燥した。放置中の混合物温度は27〜33℃で外気温度と殆ど変わらなかった。乾燥後の発酵物(水分29%)530gを65℃の温水3.4kgに加え30分攪拌した後、直径60cmの定性ろ紙(ADVANTEC,No2)を使用してろ過した。ろ過開始から24時間経ってもろ過を終了することができず、また、抽出液は黒褐色液体で発酵が完熟していない事が分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏糞に硫酸、リン酸及びウオラストナイトを添加して発酵させることを特徴とする鶏糞の発酵方法。
【請求項2】
鶏糞に対する硫酸、リン酸、ウオラストナイトの使用割合が鶏糞の乾燥残量分に対して、硫酸4〜14重量%、リン酸5〜16重量%、ウオラストナイト8〜16重量%である請求項1に記載の鶏糞の発酵方法

【公開番号】特開2013−63886(P2013−63886A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221346(P2011−221346)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(503106432)有限会社グリーン化学 (1)
【Fターム(参考)】