説明

鶏糞灰粒状肥料およびその製造方法

【課題】 従来は困難であった水中で崩壊する鶏糞灰の粒状化を効率よく達成する。
【解決手段】 鶏糞灰に塩酸を添加し、中和処理することにより処理後の鶏糞灰のpHを10.5未満にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料分野において要求される水中での崩壊性を有し、鶏糞灰を原料とする粒状肥料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料分野では、燐鉱石、カリ鉱石など輸入原料の入手が困難になりつつあることから、国内未利用資源を有効活用する試みが盛んになっている。家畜の排泄物である牛糞、豚糞、鶏糞等は畜産廃棄物であるが、従来から堆肥など様々な形で肥料として利用する検討が続けられてきた。中でも鶏糞をストーカー炉や流動炉などで焼却した鶏糞灰はリン酸とカリウムの含有率が高いことから、肥料あるいは肥料原料として積極的に利用されようとしている。
【0003】
鶏糞灰は炭酸カリウム等の塩基性塩を含み、その水スラリーのpHは11を超えるため、そのままの状態で田や畑に散布すると風などで広範囲に飛散し、環境面で悪影響を及ぼす場合がある。また、他の粒状肥料と混合使用するため、粒状化の要求が大きかった。しかし、鶏糞灰にそのまま水を加えて造粒し粒状化しても、肥料として散布した後、雨や雪や土壌中の水分によって粒が崩壊することがなく、土壌との十分な混和は期待できず、肥料効果が十分に発現されなかった。
【0004】
従来技術において、鶏糞灰の肥料効果を高める観点から、硫酸やリン酸の添加が検討されている。例えば、リン酸との反応では、取扱上安全で、なおかつ土壌微生物の活性を促し、堆肥的効果を発現させる方法(例えば、特許文献1参照)、また、硫酸の添加では、リン酸の溶解性を増大させる方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。しかし、これらの方法は、粒状化した鶏糞灰に水中での崩壊性を付与するものではなかった。
【0005】
従来技術では、酸処理による肥料成分の水溶性比率を増すことで、肥料としての速効性を向上させることに重点が置かれている。しかし、鶏糞灰に多く含まれているク熔性肥料成分は、流亡することもなく、利用価値が高いものにもかかわらず、十分利用されていないのが現状である。粒状化した鶏糞灰が土中で崩壊し、表面積が大きくなると作物の根酸に触れる頻度も増し、根酸による溶解が進み、肥料として吸収されやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−126252公報
【特許文献2】特開2005−145785公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術では困難であった水中で崩壊する鶏糞灰の粒状化を効率よく達成することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行い研究を積み重ねた結果、鶏糞灰に塩酸を添加して中和することで、水中で崩壊する鶏糞灰粒状肥料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、水中での崩壊性が60%以上(後述の“水中崩壊性”評価より)である鶏糞灰粒状肥料、その鶏糞灰粒状肥料と、りん酸質肥料、加里質肥料、石灰質肥料、けい酸質肥料、および苦土肥料から選ばれる1種以上の肥料とからなる複合粒状肥料、また、鶏糞灰に塩酸を添加し、中和処理することを特徴とする鶏糞灰粒状肥料の製造方法に関するものである。
【0010】
以下、詳細に説明する。
【0011】
本発明で使用する鶏糞灰は、養鶏業などから排出される鶏の糞を焼却処分して得られる灰であり、その種類は産卵鶏、ブロイラー等のいずれからのものであっても使用することができる。
【0012】
本発明において、この鶏糞灰の中和には塩酸を使用する。塩酸を用いることによって初めて水中での崩壊を可能にすることができたものである。硫酸やリン酸では本発明の目的である鶏糞灰の崩壊性は達成されない。ただし、肥料成分を高める目的で塩酸にリン酸を混合したり、塩酸での処理後にその他の酸で処理することは問題なく行うことができる。ここで使用する塩酸は水溶性であって、HClを含有するものであればどの様なものでもよく、鶏糞灰1,000gに対し、36重量%塩酸であれば300〜800gの添加が好ましい。
【0013】
使用する塩酸水溶液の塩酸濃度は、鶏糞灰1,000gに対し、3〜10モル相当の塩酸を含有しているものであれば、いずれの濃度であっても使用可能であるが、後の乾燥工程の負荷を軽減するためには、18〜36重量%の塩酸水溶液を用いることが好ましい。
【0014】
鶏糞灰に塩酸を添加して、鶏糞灰と塩酸を反応させる際に、混合器で撹拌することも可能であり、またベルトコンベアによって搬送される鶏糞灰に上から塩酸を噴霧して均一に添加することも可能である。塩酸以外の酸を添加する必要のある場合は、塩酸処理後に添加する方が水中でのより大きな崩壊性を与えるためには効果的である。
【0015】
添加後に、鶏糞灰の塩酸処理物の熟成を行う。熟成している間、当該処理物のpHは徐々に上昇する。そして、このpH上昇の停止を確認して熟成終了とする。この熟成終了までの時間は、鶏糞灰と塩酸の量により変動するが、中和反応を完全に終了させるためには、7日以上熟成することが好ましい。
【0016】
熟成が終了した鶏糞灰の塩酸処理物は、通常乾燥後ボールミルなどで粉砕し、そして転動法や押し出し法などで造粒する。この時、鶏糞灰の塩酸処理物は単一でも造粒できるが、他の肥料成分(熔成りん肥、熔成けい酸りん肥、熔成ほう素マンガンりん肥などのりん酸質肥料、鉱さいけい酸肥料などのけい酸質肥料、塩化カリウムなどの加里質肥料、消石灰などの石灰質肥料、水酸化苦土肥料などの苦土肥料)と必要な比率で混合した後、造粒することも可能である。また、造粒の際にバインダー材として、加工デンプンやリグニン等を加えることもできる。この造粒物の粒径は、特に制限はないが1〜4mm、特に2〜4mmが好ましい。このようにしてできた粒状肥料は、水中での崩壊性を有すると同時に、硬度が1kg/粒以上であることが好ましい。そのためには、鶏糞灰に混合する他の肥料の特性に合わせて鶏糞灰への塩酸添加量を調整し、造粒前混合物のpHを10.5未満に制御しておくことが好ましい。
【0017】
鶏糞灰の水中での崩壊性は60%以上が好ましく、さらに80%以上であると肥料としての利用価値がより高まるためより好ましい。本発明によれば、この様な高い崩壊性を有する鶏糞灰肥料を効率的に供給できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、そのまま散布すれば高pHにより環境に悪影響を及ぼす可能性があり、造粒しても水中で崩壊することが期待できなかった鶏糞灰を崩壊可能なものとすることができる。その方法としては、塩酸で中和した鶏糞灰を造粒して散布することであり、粒状物は自然界から供給される水分で崩壊するため、田や畑の土壌との混和が良好なものとなり、肥料としての効果が一層発現される。
【実施例】
【0019】
粒状肥料の評価は、以下の方法に従って行った。
【0020】
pH測定:ビーカーに計量した試料10gに対しイオン交換水100gを加え、撹拌した後、上澄液のpHをガラス電極を使用して測定した。
【0021】
水中崩壊性:粒状肥料を目開き2mmの網篩で篩分け、篩上に残ったものを試料とした。試料50粒を篩上に並べて、適当な大きさの容器中に置き、試料が十分水に浸るまで静かに水を注いだ。一夜静置後、篩を静かに取り出し、篩上に残存する未崩壊粒を数え、その割合を崩壊割合(%)として求めた。
【0022】
硬度:木屋式硬度計を使用して粒状肥料に荷重をかけ、粒が圧壊したときの荷重を硬度とした。
【0023】
合成例1
岩手県のブロイラー業者の鶏糞をストーカー炉で焼却して得た鶏糞灰を入手し、試験に用いた。この鶏糞灰の主な成分は、く溶性リン酸(P2O5):23.1%、く溶性加里(K2O):17.6%で、pHは11.7であった。
【0024】
実施例1
鶏糞灰1,000gに36重量%塩酸800gを添加してpH8.1になるまで7日間熟成した。この鶏糞灰の塩酸処理物を乾燥し、粉砕した後、少量の水と加工デンプンを固形分で20g添加し、傾斜回転皿形造粒機により造粒した。次に乾燥し、篩分けして2〜4mmΦ粒状肥料を得、この粒状品を評価した結果、崩壊性は80%、硬度は1.1kg/粒であった。
【0025】
実施例2
鶏糞灰3,000gに36重量%塩酸900gを添加してpH9.9になるまで7日間熟成した。この鶏糞灰の塩酸処理物を乾燥し、粉砕した後、少量の水とリグニンを固形分で60g添加し、傾斜回転皿形造粒機により造粒した。次に乾燥し、篩分けして2〜4mmΦ粒状肥料を得、この粒状品を評価した結果、崩壊性は82%、硬度は1.2kg/粒であった。
【0026】
実施例3
鶏糞灰1,000gに36重量%塩酸300gを添加して処理した後、さらに85重量%リン酸100gを添加し、pH9.5になるまで7日間熟成した。この鶏糞灰の塩酸処理物を乾燥し、粉砕した後、少量の水と加工デンプンを固形分で20g添加し、傾斜回転皿形造粒機により造粒した。次に乾燥し、篩分けして2〜4mmΦ粒状肥料を得、この粒状品を評価した結果、崩壊性は82%、硬度は2.3kg/粒であった。
【0027】
実施例4
鶏糞灰1,000gに36重量%塩酸300gを添加して中和処理した。この処理物500gに対し、熔成りん肥150g、熔成けい酸りん肥330gを混合し、粉砕したところpHは10.3であった。この原料に少量の水と加工デンプンを固形分で20g添加し、傾斜回転皿形造粒機により造粒した。次に乾燥し、篩分けして2〜4mmΦ粒状肥料を得、この粒状品を評価した結果、崩壊性は100%、硬度は1.0kg/粒であった。
【0028】
実施例5
鶏糞灰1,000gに36重量%塩酸900gを添加して中和処理した。この処理物500gに対し、熔成ほう素マンガンりん肥480gを混合し、粉砕したところpHは8.7であった。この原料に少量の水と加工デンプンを固形分で20g添加し、傾斜回転皿形造粒機により造粒した。次に乾燥し、篩分けして2〜4mmΦ粒状肥料を得、この粒状品を評価した結果、崩壊性は100%、硬度は1.8kg/粒であった。
【0029】
比較例1
鶏糞灰1,000gを酸処理することなく、粉砕後、少量の水と加工デンプンを固形分で20g添加し、傾斜回転皿形造粒機により造粒した。pHは11.4であった。次に乾燥し、篩分けして2〜4mmΦ粒状肥料を得、この粒状品を評価した結果、硬度は1.1kg/粒であったが、崩壊性は0%であった。
【0030】
比較例2
鶏糞灰1,000gに98重量%硫酸600gを添加してpH7.2になるまで7日間熟成した。この鶏糞灰硫酸処理物を乾燥し、粉砕した後、少量の水と加工デンプンを固形分で20g添加し、傾斜回転皿形造粒機により造粒した。次に乾燥し、篩分けして2〜4mmΦ粒状肥料を得、この粒状品を評価した結果、硬度は0.9kg/粒であり、崩壊性は0%であった。
【0031】
比較例3
鶏糞灰1,000gに85重量%リン酸230gを添加して処理した後、さらに36重量%塩酸170gを添加してpH7.7になるまで7日間熟成した。この鶏糞灰処理物を乾燥し、粉砕した後、少量の水と加工デンプンを固形分で20g添加し、傾斜回転皿形造粒機により造粒した。次に乾燥し、篩分けして2〜4mmΦ粒状肥料を得、この粒状品を評価した結果、硬度は1.3kg/粒であり、崩壊性は8%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中での崩壊性が60%以上である鶏糞灰粒状肥料。
【請求項2】
請求項1に記載の鶏糞灰粒状肥料と、りん酸質肥料、加里質肥料、石灰質肥料、けい酸質肥料、および苦土肥料から選ばれる1種以上の肥料とからなる複合粒状肥料。
【請求項3】
鶏糞灰に塩酸を添加し、中和処理することを特徴とする請求項1に記載の鶏糞灰粒状肥料の製造方法。
【請求項4】
中和処理した後のpHが10.5未満であることを特徴とする請求項3に記載の鶏糞灰粒状肥料の製造方法。

【公開番号】特開2012−140251(P2012−140251A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291800(P2010−291800)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(596087982)東北東ソー化学株式会社 (2)
【Fターム(参考)】