説明

鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料およびその製造方法

【課題】廃棄物として排出される酸性硫安から、取り扱い上安全で、製造工程及び保管中にアンモニアが系外に散逸せず窒素成分が安定し、植物の生育に害作用を及ぼさない肥料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鶏糞燃焼灰に酸性硫安を反応させて顕著な肥効を有する鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を得る。また、鶏糞燃焼灰に酸性硫安と硫酸、リン酸及び硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸を添加し、非肥料成分の含量増加を抑制することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性硫安は硫酸水素アンモニウムあるいは重硫酸アンモニウムともよばれ、主に有機化学工業において廃棄される硫酸の回収過程や合成有機酸等の製造工程で副生される。酸性硫安は強酸性の物質であり、有毒な蒸気、強い腐食性の硫酸および二酸化硫黄を生ずる恐れがあるため、その取り扱いには特に注意を必要とする。当然、そのまま廃棄することも禁止され廃棄に当たっては処理を必要とするため、有効となる再利用の方法が種々検討されてきた。特に酸性硫安は、アンモニア態窒素を10%程度含むので、肥料として利用することもできる。しかしながら、酸性硫安は上述した性質を具備するため、そのまま利活用することはできなかった。かかる問題点に対処する方法として、従来、水溶液にした酸性硫安に、アルカリ資材として水酸化マグネシウムを加えて硫酸苦土アンモニア肥料を製造する方法が知られている。またアルカリ資材である炭酸カルシウムと混合し中和反応させ、アンモニア態窒素とカルシウムを含む肥料として利用されてきた。ところがこれらの副産窒素質肥料は、製造過程でアルカリ資材と酸性硫安の混合時に激しい中和反応が生じるため、毒性の強いアンモニアガスの発生が避けられない。また製品においてアンモニア臭を伴うので取り扱いが容易でないばかりか、作業環境への影響に関する問題点が多い。さらに窒素成分の不均一性や保管時の安定性の欠如等からそのままの姿では流通出来ず、再加工を余儀なくされるため消費量が伸びていない。加えて圃場に施用される際には、播種あるいは移植された植物体の生育を抑制することが多い。すなわち施肥された肥料から揮散したアンモニアガスが、作物根圏に含まれる土壌空気の酸素分圧を低下し作物根の生育を抑制するためと考えられ植物生育に害作用を及ぼす。
【0003】
【非特許文献1】肥料用語事典編集委員会編、改定五版肥料用語事典「副産窒素肥料」、平成13年7月18日、第256頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、廃棄物として排出される酸性硫安を肥料として有効活用することに関し、単体では取扱が危険な上、肥料として農地に施用された際に耕地土壌のpHを著しく酸性に傾ける結果、農業生産が持続できなくなるという点である。さらなる問題点は、アルカリ資材で中和処理し肥料化する場合にも、中和時にアンモニアガスが発生し環境衛生面および成分安定性において問題のある点、さらにはこれを施用するとき植物生育に害作用を及ぼす点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、鶏糞燃焼灰に酸性硫安を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物からなる肥料組成物が取扱上安全で、製造工程および保管中にアンモニアが系外に散逸せず窒素成分が安定し、また、顕著な肥効を発揮することを、見出し本発明を完成するに至った。
【0006】
さらに本発明は、鶏糞燃焼灰100重量部に、10〜200重量部の酸性硫安を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料に関する。
【0007】
さらに本発明は、鶏糞燃焼灰に、酸性硫安と、硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料に関する。
【0008】
さらに本発明は、鶏糞燃焼灰100重量部に、酸性硫安50〜150重量部と、硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸10〜100重量部を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料に関する。
【0009】
さらに本発明は、酸性硫安が、乳酸合成工程で排出される副産物である鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料に関する。
【0010】
さらに本発明は、鶏糞燃焼灰に、酸性硫安を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法に関する。
【0011】
さらに本発明は、鶏糞燃焼灰100重量部に、10〜200重量部の酸性硫安を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法に関する。
【0012】
さらに本発明は、鶏糞燃焼灰に、酸性硫安と、硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法に関する。
【0013】
さらに本発明は、鶏糞燃焼灰100重量部に、酸性硫安50〜150重量部と、硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸10〜100重量部を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物からなる肥料の製造方法に関する。
【0014】
さらに本発明は、酸性硫安が、乳酸合成工程で排出される副産物である鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法に関する。
【0015】
さらに本発明は、酸性硫安が、水溶液である鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により得られた鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物からなる肥料は、pHが中性領域(pH4〜8)にあるため取り扱い上安全である。また製造時および製造後にアンモニアの揮散が無いため、製造環境を汚損せずかつ製品の窒素含量を一定に保つことが出来る。
【0017】
さらに、本発明により得られた鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料は、播種もしくは移植時から植物体の生育に効果を与え、顕著な肥効が発揮され作物の良好な生育を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用される鶏糞燃焼灰は、養鶏業などから排出される鶏の糞を焼却処分して得られる燃焼灰であり、その種類は産卵鶏、育成鶏、ブロイラー等いずれのものであっても使用することができる。
【0019】
鶏糞燃焼灰に含まれる成分としては、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛等が挙げられる。このうち20〜35%含まれるカルシウムがアルカリ成分として反応に関与する。ここに用いるアルカリ成分を含む原料としては鶏糞燃焼灰が最も好適であり、炭カル(炭酸カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)、軽焼マグ(酸化マグネシウム)、水酸化苦土(水酸化マグネシウム)等のアルカリ性素材では、中和反応時あるいは製造後においてアンモニアの揮散が発生し、窒素源の損失と製品成分の不均一性が発生するためこれらの原料を使用することは適切でない。
【0020】
本発明に使用する酸性硫安は、硫酸水素アンモニウムを含むものであり、酸性を呈するものであれば、単体、他の成分を含む混合物のいずれであっても、また、固体、液体いずれのものであっても本発明に使用することができる。混合物としては、例えば、乳酸の合成工程において、乳酸ニトリルのニトリル分解時により副生される、酸性硫安の他に、硫酸アンモニウム、乳酸、水等を含むものを用いることが好ましい。特に、乳酸合成工程で排出される副産物である酸性硫安が好ましい。これらを用いる場合、酸性硫安が全て溶解しているもの、酸性硫安の一部または全部が固体として析出しているもののいずれのものであっても用いることができるが、固体として析出しているものを用いる場合は、水を加えて、固体を溶解し水溶液にするか、予め加水し40℃以上に加温し水溶液とすることが好ましく、これにより均一に反応を行うことが出来る。
【0021】
鶏糞燃焼灰に酸性硫安を添加後攪拌を行って、鶏糞燃焼灰と酸性硫安とを反応させる。その混合比としては、鶏糞燃焼灰100重量部に対し、酸性硫安を10〜200重量部とすることが望ましい。さらには、鶏糞燃焼灰100重量部に対し、酸性硫安を20〜100重量部とすることが特に好ましい。またこのとき、鶏糞燃焼灰に酸性硫安とさらに硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸を加えることが出来る。これらの酸を加えることにより非肥料成分の含量増加を抑え肥料成分の酸を用いる結果、農耕地作土の電気伝導度を低く維持できるため持続型農業が継続できる。これらの酸の添加量としては、鶏糞燃焼灰100重量部、酸性硫安50〜150重量部に対し、10〜100重量部とすることが好ましい。
【0022】
攪拌は、酸性硫安液が鶏糞燃焼灰に完全に混合されるまで行う。
攪拌終了後は鶏糞燃焼灰−酸性硫安処理物を熟成する。熟成している間、混合物のpHは徐々に上昇し、この上昇の停止をもって熟成を終了する。混合後、約3日でpHの上昇は鈍化するため、3日で熟成終了とすることもできるが、得られる鶏糞燃焼灰−酸性硫安処理物の、均一でより安定した化学的性質を得るには、5日以上熟成することが好ましい。
【0023】
こうして得られた鶏糞燃焼灰−酸性硫安処理物は、このまま肥料として使用することもできるが、必要に応じて乾燥を行い水分を除去した後、適宜他の肥料原料を選択し、これらを配合して化成肥料、配合肥料、液状肥料とすることができる。
【実施例1】
【0024】
乳酸合成工程において、乳酸ニトリルのニトリル分解による乳酸エチル製造時に副生された酸性硫安混合物の組成について、分析値を表1に示した。
【0025】
【表1】

【実施例2】
【0026】
それぞれ鶏糞燃焼灰(pH 12.65)100gを用意し、予め80℃に加温した表2に示す量の67%酸性硫安水溶液を添加し、充分混合するまで10分間攪拌を行った。
【0027】
【表2】

【0028】
混合停止直後、熟成2時間後、熟成1日後、熟成2日後、熟成3日後、熟成6日後、熟成7日後、熟成9日後の試験品pHを肥料分析法(ガラス電極法)で測定した。
結果を表3に示した。
【0029】
【表3】

【実施例3】
【0030】
炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、鶏糞燃焼灰をそれぞれ100g用意し、予め80℃に加温した表4に示す量の67%酸性硫安水溶液を添加し、充分混合するまで10分間攪拌を行った。その後、アンモニア臭の有無と混合物の状態を観察した。
【0031】
【表4】

【0032】
処理物が固形肥料として好ましいのは、保管あるいは取り扱い中にアンモニアガスの発生が無く、室温条件下で吸湿性が弱く、粉粒が互着しない乾燥した状態が維持されることである。従ってアンモニアの発生が無く、かつ乾燥状態となっているものであり、これを満たすものは鶏糞燃焼灰100gに酸性硫安水溶液30g(酸性硫安正味重量20.1g)から140g(同93.8g)を処理した範囲のみであった。また、アンモニア臭の発しない範囲は鶏糞燃焼灰を用いたときにはるかに広いという結果となった。
【実施例4】
【0033】
鶏糞燃焼灰に実施例1の酸性硫安混合物を添加し、さらに硫酸液(30%液)、リン酸液(58%)および硝酸液(60%)から酸を選び混合反応し鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物からなる肥料を得た。各原料の配合割合ならびに処理物の成分含有率(N−P−K(重量比))は表5に示した。
【0034】
【表5】

【実施例5】
【0035】
鶏糞燃焼灰(pH 12.65)100kgに実施例1の酸性硫安混合物120kgを添加し、10分間混合を行い鶏糞燃焼灰に酸性硫安を反応させた。その後、熟成を6日行った。熟成6日後の混合物のpHは5.41で、酸性硫安の鶏糞燃焼灰処理物199kgを得た。
得られた鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物からなる肥料は、肥料成分含有率がN−P−K=6−9−8(重量比)であった。
【実施例6】
【0036】
実施例5で得られた鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物55kg、なたね油かす40kg、水5kgを新東工業(株)製ミックスマラーMSG‐0Lで混合・攪拌を行った。得られた混合物をフジパウダル(株)製ディスクペレッターF5型により、押し出し成形し、直径3mm、長さ4.5mmの円柱状ペレット肥料95kgを得た。
【実施例7】
【0037】
ノイバウエルポットに関東ローム未耕地土壌を400mL充填し、実施例5で得られた鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物からなる肥料(水分 4%、アンモニア態窒素含量 6.3%、全カルシウム含量 16%、pH 5.7)1590mgを施肥した。コマツナ種子を20粒播種し、覆土後潅水し栽培試験を開始した。播種後5日目に発芽率を調査、17日目に最大葉長の測定を、24日目に最大葉長、地上部新鮮重の測定を行った。対照区として、炭酸カルシウムの酸性硫安処理物からなる肥料(水分 13%、アンモニア態窒素含量 8.6%、全カルシウム含量 16%、pH6.8)1160mgを用いて上記と同様に試験を行った。試験区、対照区とも適宜潅水しながら3連で試験を行った。
【0038】
結果を表6に示した。発芽率は対照区に比較し試験区でやや高い結果が得られた。17日目の最大葉長、24日目の最大葉長、生体重は、いずれも対照区に比較し試験区で顕著に高い結果が得られ、肥効は鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物の方がすこぶる優れていた。
【0039】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏糞燃焼灰に、酸性硫安を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料。
【請求項2】
鶏糞燃焼灰100重量部に、10〜200重量部の酸性硫安を反応させて得られる請求項1記載の鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料。
【請求項3】
鶏糞燃焼灰に、酸性硫安と、硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料。
【請求項4】
鶏糞燃焼灰100重量部に、酸性硫安50〜150重量部と、硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸10〜100重量部を反応させて得られる請求項3記載の鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料。
【請求項5】
酸性硫安が、乳酸合成工程で排出される副産物である請求項1〜4のいずれか一項に記載の鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物からなる肥料。
【請求項6】
鶏糞燃焼灰に、酸性硫安を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法。
【請求項7】
鶏糞燃焼灰100重量部に、10〜200重量部の酸性硫安を反応させて得られる請求項6記載の鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法。
【請求項8】
鶏糞燃焼灰に、酸性硫安と、硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸を反応させて得られる鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法。
【請求項9】
鶏糞燃焼灰100重量部に、酸性硫安50〜150重量部と、硫酸、リン酸および硝酸から選ばれる1種または2種以上の酸10〜100重量部を反応させて得られる請求項8記載の鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物からなる肥料の製造方法。
【請求項10】
酸性硫安が、乳酸合成工程で排出される副産物である請求項6〜9記載のいずれか一項に記載の鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法。
【請求項11】
酸性硫安が、水溶液である請求項6〜10のいずれか一項に記載の鶏糞燃焼灰の酸性硫安処理物を含む肥料の製造方法。

【公開番号】特開2006−89341(P2006−89341A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278126(P2004−278126)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000240950)片倉チッカリン株式会社 (24)
【Fターム(参考)】