説明

鶏肉加工食品の製造方法

【課題】鶏肉からなる肉片を結合させてなる鶏肉加工食品の結着性を向上させることが可能な、鶏肉加工食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】鶏肉からなる肉片集合体に対しアルギニンを添加し、混合した後、得られた混合物をケーシングに充填して加熱処理又は乾燥処理を行うことにより、鶏肉加工食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏肉からなる肉片を結合させてなる鶏肉加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉加工製品としては数多くの種類が知られているが、なかでも、挽き肉程度の大きさの肉小塊(肉片)同士を結着させてなるソーセージや、さらに大きな肉塊をつなぎにより結合させたプレスハム類製品では、結着性なる性質が要求される。
【0003】
結着性とは、肉に含まれる塩溶性タンパク質同士を結着させることで、細切された肉小塊同士が互いに結着したり、あるいは、比較的大きな肉塊がつなぎを介して結着したり、また、ソーセージ等では肉以外に添加する脂肪や水のように互いに混ざり合わない成分も含んで結着することで、みかけ上均一の連続した組織を形成させ、当該食肉加工製品が適度の弾力性を示すことを意味する物性である。
【0004】
従来、食肉加工食品において結着性を向上させるために食品添加物(いわゆる結着剤)が使用されており、現在ではポリリン酸塩が最も広く使用されている(以上、非特許文献1を参照)。
【0005】
ところが、ポリリン酸塩を使用することにより結着性が向上するのは、牛肉や豚肉に限られており、鶏肉に対してはポリリン酸塩の結着性向上効果が十分には発揮されなかった。
【0006】
ポリリン酸塩の代替添加物としてカルボキシル基を一基含むアミノ酸からなる結着剤が数々提案されており、その中に塩基性アミノ酸からなる結着剤が示されている(特許文献1を参照)。しかし、鶏肉における結着性の改善効果は記載も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭57−21969号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】沖谷明紘編、「シリーズ<<食品の科学>> 肉の科学」、株式会社朝倉書店、1996年5月、p.149、152、153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のとおり、鶏肉からなる挽き肉等の肉片を結合させてできるソーセージ、及びつなぎが添加されたプレスハム等の鶏肉加工食品を製造するにあたって、それら鶏肉加工食品の結着性を大幅に向上させ、それら鶏肉加工食品の食感を改良することができる食品添加物は知られていなかった。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、鶏肉からなる挽き肉等の肉片を結合させてなるソーセージ、及びつなぎが添加されたプレスハム等の鶏肉加工食品の結着性を向上させることが可能で、より弾力があり食感が改良された鶏肉加工食品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、鶏肉において塩基性アミノ酸の中でも特にアルギニンを添加した場合に高い結着性の向上がもたらされたことを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明は、鶏肉加工食品の製造方法であって、鶏肉からなる肉片集合体に対しアルギニンを添加し、混合した後、得られた混合物をケーシングに充填して加熱処理又は乾燥処理を行うことを特徴とする、鶏肉加工食品の製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、鶏肉からなる肉片集合体を結合させて製造される加工食品に対して用いられる結着剤であって、アルギニンからなることを特徴とする結着剤にも関する。
【0014】
さらに本発明は、遊離アルギニンを合計0.3重量%以上の濃度で含有することを特徴とする鶏肉加工食品にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、鶏肉からなる挽き肉等の肉片を結合させてなるソーセージ、及びつなぎが添加されたプレスハム等の鶏肉加工食品の結着性を向上させることが可能となり、結着性が向上することで、より弾力があり、食感が優れた鶏肉加工食品を提供することが可能となる。しかも、添加物がアミノ酸であるので、人体に対する安全性の点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で製造されたチキンソーセージの破断荷重値を示すグラフ
【図2】実施例2で製造されたチキンソーセージの破断荷重値を示すグラフ
【図3】実施例3で製造されたチキンソーセージの破断荷重値を示すグラフ
【図4】実施例3で製造されたチキンソーセージの破断歪率を示すグラフ
【図5】比較例1で製造されたチキンソーセージの破断荷重値を示すグラフ
【図6】比較例1で製造されたチキンソーセージの破断歪率を示すグラフ
【図7】比較例2で製造されたポークソーセージの破断荷重値を示すグラフ
【図8】比較例3で製造されたビーフソーセージの破断荷重値を示すグラフ
【図9】実施例4で製造されたチキンプレスハムの破断荷重値を示すグラフ
【図10】実施例5で製造されたチキンプレスハムの破断荷重値を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、鶏肉加工食品の製造方法に関する。本発明において鶏肉加工食品とは、鶏肉を挽き肉等の小肉塊あるいはさらに大きな肉塊とし、当該肉塊を、必要に応じて他の構成素材と混合し、これらを結合させることで製造される加工食品であり、例えば、チキンソーセージ、さらにはつなぎが添加されたチキンプレスハム、チキンチョップドハム等の食肉加工食品が挙げられる。
【0018】
本発明の製造方法によると、鶏肉からなる肉片集合体に対しアルギニンを添加し、混合した後、得られた混合物をケーシングに充填して加熱処理又は乾燥処理を行うことにより、鶏肉加工食品が製造される。
【0019】
本発明において、肉片集合体とは、肉塊をミンチしたものでもよいし、肉塊を高速でカッティングしつなぎにしたものでもよいし、比較的大きな肉塊とつなぎを混合したものであってもよい。肉片集合体が、つなぎの場合は、アルギニンを添加しつなぎと混合した後、その混合物と肉塊をさらに混合し、ケーシングに充填し、加熱処理又は乾燥処理することで鶏肉加工食品を製造することができる。
【0020】
一般的に、つなぎは、肉塊をミンチしたものに、食塩、澱粉、植物性蛋白質、調味料等の添加物を添加し、高速でカッティングすることにより製造されるが、本発明ではアルギニンを添加することにより、澱粉や植物性蛋白質を使用しなくとも製造することができる。
【0021】
本発明においてアルギニンは、どのような光学的異性体も使用できるが、L−体のアルギニンが好ましい。また、魚類プロタミン等、アルギニンを多く含む食品から適宜抽出したアルギニン濃縮物、あるいは食品タンパク質を分解後、アルギニン画分を分取した分画物等も使用できる。
【0022】
アルギニンの添加量は、製造される鶏肉加工食品の結着性を評価することで適宜設定することができるが、一般には、製造される最終的な鶏肉加工食品の重量のうち遊離アルギニン換算で0.3重量%以上であることが好ましい。より好ましくは0.5重量%以上である。この範囲でアルギニンが添加されると、優れた結着性改善効果が達成され、硬さと弾力に優れた鶏肉加工食品を製造することができる。上限は特に限定されないが、多く配合しても結着性改善効果が向上し続けるわけではないので、およそ3.0重量%以下程度が好ましく、2.0重量%以下がより好ましく、1.5重量%以下がさらに好ましい。
【0023】
アルギニンを肉片集合体に対して添加する際には、水に溶解したものを添加してもよいし、固体の状態で添加し、肉片集合体に含まれる水分に溶解させる手法を採用してもよい。アルギニンと肉片集合体との接触方法は特に限定されないが、単純に添加したあと両者を十分に混合する方法の他、食肉をアルギニン水溶液に浸漬させる浸漬法、添加後に真空タンブラー等により振とうさせるタンブラー法、アルギニン水溶液を肉に注入するインジェクション法等が挙げられる。接触条件は、処理される食肉の裁断による物理的な形態、接触方法等により異なり、例えば食肉をスモーク処理する場合には50℃近くになることもあるので一律に決められないが、代表的には−10〜20℃、より代表的には−5〜10℃で10分〜72時間である。20℃以上になると、食肉タンパク質に熱変質を伴うことがある。接触時間が72時間にわたる場合でも、温度が10℃以下にコントロールされていれば品質上特に大きな障害とはならない。
【0024】
アルギニン以外に、鶏肉加工食品に一般に添加され得る添加剤、例えばpH調整剤、発色剤、香辛料、調味料等であったり、ゼラチン等の構成素材を適宜添加することができる。アルギニンとゼラチンを併用して添加することで、よりジューシー感があり、かつ、カロリーを減らしたソーセージを製造することができる。因みに、アルギニンとゼラチンの配合割合としては、アルギニン1重量部に対して0.25重量部から15.0重量部の範囲が好ましい。0.25重量部未満ではジューシー感に欠け、また、15.0重量部を超えるとゼラチン特有の臭いが発生し、粉っぽく、パサついた食感となる。
【0025】
本発明では、鶏肉からなる肉片集合体に対し、必要により脂肪分を追加し、さらにアルギニンを含む添加物を添加し、混合したあと、得られた混合物をケーシングに充填して加熱処理又は乾燥処理を行うことにより、ソーセージ、つなぎが添加されたプレスハム等の、肉片集合体が結合してなる加工食品を製造することができる。ケーシングとしては、羊腸、豚腸、牛腸等の天然ケーシング、あるいは、コラーゲン、セルロース、塩化ビニリデン等の人工ケーシングを使用することができる。加熱処理や乾燥処理の条件としては、通常の食肉製品の製造で適用され得る、乾燥、燻煙、蒸煮、湯煮、加圧・加熱等の条件を適用することができる。
【0026】
本発明は、鶏肉からなる肉片集合体を結合させて製造される加工食品に対して用いられる結着剤にも関するものであり、当該結着剤がアルギニンからなることを特徴とする。当該結着剤は上述した鶏肉加工食品の製造において使用可能な添加物である。
【0027】
結着性とは、肉に含まれる塩溶性タンパク質同士を結着させることで、細切された肉小塊同士が互いに結着したり、あるいは、比較的大きな肉塊がつなぎを介して結着したり、また、ソーセージ等では肉以外に添加する脂肪や水のように互いに混ざり合わない成分も含んで結着することで、みかけ上均一の連続した組織を形成させ、当該食肉加工製品が適度の弾力性を示すことを意味する物性である。結着性が優れると、加工食品の保水性が向上し、形状がよく保持されるとともに、加工食品に適度な硬さ及び弾力が生まれ、食感が良好となる。
【0028】
結着剤としてのアルギニンの添加量は上述のとおりである。
【0029】
本発明はさらに、遊離アルギニンを合計0.3重量%以上の濃度で含有することを特徴とする鶏肉加工食品にも関する。この鶏肉加工食品は上述した製造方法により製造することができる。アルギニンを添加していない従来の鶏肉加工食品では、遊離アルギニンの含有量は通常0.00〜0.01%程度であるため、アルギニンを添加しない限り、0.3重量%以上といった高濃度で遊離アルギニンが検出されることはない。従って、遊離アルギニンを合計0.3重量%以上の濃度で含有する鶏肉加工食品は、本発明により初めて提供されるものである。なお、鶏肉加工食品における遊離アルギニン濃度は、高速液体クロマトグラフィーを用いたアミノ酸分離分析法により測定することができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)チキンソーセージの製造
以下の手順に従いチキンソーセージを製造し、アルギニン添加により達成される結着性を評価した。
【0032】
皮付き鶏ムネ肉1300gと豚背脂肪400gを混合し5mm目のチョッパーにて挽肉とし、表1に示す配合で副原料を加えた。さらに、サイレントカッターで生地の温度が10℃になるまでカッティングを行い、直径4cmの塩化ビニリデンケーシングに充填した。78℃の湯浴で45分間加熱し、氷水で冷却後、チキンソーセージを得た。得られたチキンソーセージについて物性を評価した。表1中、単位はgである。
【0033】
リン酸塩としてはオルガノフードテック(株)社製リン酸塩製剤を使用し、アルギニンとしてはL−アルギニンを使用した。
【0034】
【表1】


(結着性の評価方法)
結着性の評価には破断荷重値を使用した。その測定には山電社製クリープメーターRE2−33005Bを使用し、破断に必要な荷重の測定を行った。測定時のサンプルのサイズは幅1cm、高さ1cm、長さ2cmとし、中央部を垂直に破断した。プランジャーはクサビ型で破断面は1mm幅とし、圧縮速度は1cm/minで等速とした。破断荷重値が高いほど、硬く弾力があり、結着性が良好で食感が好ましいことを意味する。結果を図1に示す。図1中、Nは無添加区、Pはリン酸塩区、Aはアルギニン区を示す。aとbの間には5%水準で有意差があった。
【0035】
(結果)
図1より、アルギニン区とリン酸塩区は、無添加区に比べ、破断荷重値が大きかったが、アルギニン区とリン酸塩区とで比較すると、アルギニン区の方において、さらに破断荷重値が大きかったことから、アルギニン区の方がより結着性が高く、硬さと弾力があることが示された。
【0036】
(官能評価)
8名のパネルにこれらのチキンソーセージを試食してもらったところ、8名全員が、無添加区に比べ、アルギニン区は弾力があり、好ましいと回答した。また、リン酸塩区でも弾力は感じられるがやや硬く、壊れやすく感じられるが、アルギニン区はしなやかで、より弾力があるように感じられたとの回答を得た。
【0037】
(まとめ)
以上から、チキンにアルギニンを添加してソーセージを作ることで、従来のリン酸塩添加の場合に勝る弾力が得られることが判明した。
【0038】
(実施例2)脂肪無添加のチキンソーセージの製造
皮付き鶏ムネ肉1400gを5mm目のチョッパーにて挽肉とし、表2に示す配合で副原料を加え、サイレントカッターで生地の温度が10℃になるまでカッティングを行い、直径4cmの塩化ビニリデンケーシングに充填した。78℃の湯浴で45分間加熱し、氷水で冷却後、チキンソーセージを得た。得られたチキンソーセージについて物性を評価した。表2中の単位はgである。
【0039】
【表2】


(結着性の評価方法)
実施例1と同様に、破断荷重値を使用して結着性を評価した。結果を図2に示す。図2中、Nは無添加区、Pはリン酸塩区、Aはアルギニン区を示す。aとbの間には5%水準で有意差があった。
【0040】
(結果)
図2よりアルギニン区とリン酸塩区は無添加区に比べ、有意に破断荷重値が大きかったことから、結着性が高く、硬さと弾力があることが示された。
【0041】
(官能評価)
7名のパネルにこれらのソーセージを試食してもらったところ、7名全員が無添加区よりもリン酸塩区・アルギニン区の方で弾力があり、食感として好ましいと回答した。また、リン酸塩区に比べ、アルギニン区はしなやかで、より弾力があるように感じられた。
【0042】
(まとめ)
脂肪無添加のチキンソーセージにおいても、アルギニンを添加することでリン酸塩と同等の弾力が得られた。
【0043】
(実施例3)チキンソーセージの製造(最適なアルギニン濃度の検証)
実施例1と同様の手順により、表3に示す配合に従いアルギニンの添加濃度を変えて複数種類のチキンソーセージを製造した。表3中、単位はgである。
【0044】
【表3】


(結着性の評価方法)
実施例3では、結着性の評価に、破断荷重値の他、破断歪率を使用した。その測定には山電社製クリープメーターRE2−33005Bを使用し、破断に必要な荷重と歪の測定を行った。測定時のサンプルのサイズは幅1cm、高さ1cm、長さ2cmとし、中央部を垂直に破断した。プランジャーはクサビ型で破断面は1mm幅とし、圧縮速度は1cm/minで等速とした。破断荷重値が高いほど、硬く弾力があり、結着性が良好で食感が好ましいことを意味する。破断歪率は、ソーセージが破断するまでの歪の大きさを表しており、これが大きいほどソーセージが変形に耐え、弾力があることを意味する。結果を図3及び図4に示す。
【0045】
(結果)
図3及び図4より、アルギニン添加濃度が0%の場合よりも0.1%の場合のほうが、また、0.1%の場合よりも0.3%の場合のほうが硬く弾力があることが分かった。0.5%以上になると、0.3%の場合とほとんど変わらないか、やや硬く弾力があるという結果が得られた
(官能評価)
9名のパネルにこれらのソーセージを試食してもらったところ、アルギニン添加濃度0.3%以上のチキンソーセージに硬さと弾力が好ましく感じられたとの回答を得た。さらに0.5%以上の添加濃度ではより評価が高かった。
【0046】
(まとめ)
以上から、チキンソーセージで結着性改善の効果が見られ始めるのはアルギニン濃度が0.3%のときで、より良好な効果が見られるのは0.5%以上であることが分かった。
【0047】
(実施例4)アルギニンとゼラチンを添加したチキンソーセージの製造
鶏肉1400gを5mm目のチョッパーにて挽肉とし、表4に示す配合で副原料を加え、ミキサーで生地の温度が約7℃になるまで練り、直径10cmのセルロースケーシングおよび羊腸に充填した。なお、ゼラチンには新田ゼラチン株式会社のAP−100粗粒タイプを使用した。スモークハウスにて乾燥、燻煙、蒸煮を行い、中心温度が70℃になるまで加熱した。1℃の冷蔵庫で冷却後、得られたチキンソーセージについて官能評価を行った。
【0048】
【表4】


(官能評価)
8名のパネルにこれらのソーセージを試食してもらったところ、8名全員が無添加区よりも、アルギニン添加区、あるいはアルギニンとゼラチン添加区の方が、弾力があり、食感として好ましいと回答した。また。アルギニンとゼラチン添加区の方が、アルギニン添加区に比べて、より弾力があって、かつ、ジューシーな食感と回答した。
【0049】
(まとめ)
アルギニンに加えて、ゼラチンを添加することで、ソーセージにより適度な弾力及びジューシー感が付与された。また、アルギニンとゼラチン添加区のソーセージは170kcal程度であり、五訂日本食品成分表示表のソーセージ(ウインナーソーセージは321kcal、ボロニアソーセージは251kcal)よりも、大幅にカロリーを抑えることができた。
【0050】
(実施例5)アルギニンとゼラチンの最適割合の検証
表5に示す通り、アルギニンとゼラチンの配合比を変えた試験例1〜6についてチキンソーセージの製造を行った。製造条件は実施例4と同様である。
【0051】
【表5】


(官能評価)
8名のパネルにこれらのソーセージを試食してもらい、食感について評価を行った。その結果を表6に示す。
【0052】
【表6】


(まとめ)
アルギニンとゼラチンの配合割合は、アルギニン1重量部に対して0.25重量部から15.0重量部の範囲が好ましい。0.25重量部未満ではジューシー感に欠け、また、15.0重量部を超えるとゼラチン特有の臭いが発生し、粉っぽく、パサついた食感となる。
【0053】
(比較例1)リシン添加に伴う結着性評価
アルギニンと同じく塩基性アミノ酸の1種であるリシンについて、リシン単体よりも安定で使用しやすい素材であるリシン塩酸塩を添加剤として使用した。アルギニンに代えてリシンを使用したこと以外は、実施例3と同様に、リシン塩酸塩(和光純薬工業(株)社製、L(+)−リシン塩酸塩)の添加濃度を変えて複数種類のチキンソーセージを製造した。製造したチキンソーセージについて、実施例3と同様の手法で破断荷重値と破断歪率を測定した。結果を図5及び図6に示す。
【0054】
(結果)
図5及び図6より、リシンの添加では破断荷重値と破断歪率の改善は認められなかった。なおこの結果では、実施例3よりも全体的に各数値が大きくなっているが、これは原料の状態が良かったためと考えられる。
【0055】
(官能評価)
9名のパネルにこれらのソーセージを試食してもらったところ、リシン添加濃度0.7〜1.1%以上で弾力が増すという評価が多かったが、その違いは大きくはないとの回答を得た。すなわち、リシンによる結着性の改良効果は、アルギニンの場合と比較して小さいものであった。
【0056】
(まとめ)
以上から、リシン添加では、アルギニン添加と異なり、チキンソーセージの結着性は十分には改良されなかった。すなわち、チキンソーセージに対する結着性改善効果は塩基性アミノ酸のなかでもアルギニンに特有の効果であることが分かった。
【0057】
(比較例2)ポークソーセージの製造
豚ウデ赤身1360gと豚背脂肪340gを混合し3mm目のチョッパーにて挽肉とし、表7に示す配合で副原料を加えた。さらに、サイレントカッターで生地の温度が10℃になるまでカッティングを行い、直径4cmの塩化ビニリデンケーシングに充填した。78℃の湯浴で45分間加熱し、氷水で冷却後、ポークソーセージを得た。得られたポークソーセージについて物性を評価した。表7中、単位はgである。リン酸塩及びアルギニンとしては実施例1と同様のものを使用した。
【0058】
【表7】


(結着性の評価)
実施例1と同様に、破断荷重値を使用して結着性を評価した。結果を図7に示す。図7中、Nは無添加区、Pはリン酸塩区、Aはアルギニン区を示す。aとbの間には5%水準で有意差があった。
【0059】
図7より、アルギニン添加、リン酸塩添加ともに破断荷重値の改善効果が得られたが、アルギニン添加は、リン酸塩添加と比較して破断荷重値の改善効果が少なく、結着性が低いことが示された。
【0060】
(官能評価)
8名のパネルにこれらのポークソーセージを試食してもらったところ、8名全員が無添加区に比べリン酸塩区とアルギニン区は弾力があり、好ましく感じると回答した。しかし、リン酸塩区とアルギニン区を比較すると、アルギニン区のほうが食感において劣っていると感じる人が多かった。
【0061】
(まとめ)
以上から、ポークソーセージではアルギニン添加よりもリン酸塩添加のほうが結着性改良効果は優れていた。
【0062】
(比較例3)ビーフソーセージの製造
比較例2のポークソーセージと同様に、表8に示す配合に従いビーフソーセージを製造し、物性を評価した。表8中、単位はgである。リン酸塩及びアルギニンとしては実施例1と同様のものを使用した。
【0063】
【表8】


(結着性の評価)
実施例1と同様に、破断荷重値を使用して結着性を評価した。結果を図8に示す。図8中、Nは無添加区、Pはリン酸塩区、Aはアルギニン区を示す。a、b、cの間には5%水準で有意差があった。
【0064】
図8より、アルギニン添加、リン酸塩添加ともに破断荷重値の改善効果が得られたが、アルギニン添加は、リン酸塩添加と比較して破断荷重値の改善効果が少なく、結着性が低いことが示された。
【0065】
(まとめ)
ビーフソーセージでは、アルギニン添加よりもリン酸塩添加のほうが結着性改良効果は優れていた。実施例1、実施例2、比較例2及び比較例3の結果より、チキンソーセージの場合には、アルギニン添加によって従来のリン酸塩添加よりも優れた結着性改善効果を達成できるが、ポークソーセージやビーフソーセージの場合には従来のリン酸塩添加のほうがアルギニン添加よりも優れており、アルギニン添加による優れた結着性改善効果はチキンソーセージの場合に特有の結果であることが判明した。
【0066】
(実施例6)つなぎが添加されたチキンプレスハムの製造
鶏ムネ肉1000gのうち、200gを3mm目のプレートでミンチし、800gを10g前後の肉塊に整形した。それぞれに表9の配合のピックル液を原料に対して20重量%添加した。添加後の食塩濃度は1.5重量%とした。肉塊は3時間タンブリングし、ミンチは撹拌してピックルを吸わせた。2日間熟成した後ミンチをカッティングしてつなぎとし、肉塊とよく混ぜ合わせて、直径10cmのセルロースケーシングに充填した。スモークハウスで60〜65℃、90分間乾燥、70℃で220分間燻煙、中心温度が63℃以上で30分間維持するまで74℃蒸気加熱を行った。これにより、チキンプレスハムを得た。
【0067】
【表9】


(結着性の評価方法)
実施例1と同様に、破断荷重値を使用して結着性を評価した。
【0068】
(結果)
結果を図9に示す。図9中、Nは無添加区、Pはリン酸塩区、Aはアルギニン区を示す。a、b、cの間には5%水準で有意差があった。結果は、アルギニン区とリン酸塩区は、無添加区に比べ、破断荷重値が大きかったが、アルギニン区とリン酸塩区とで比較すると、アルギニン区の方において、さらに破断荷重値が大きかったことから、アルギニン区の方がより結着性が高く、硬さと弾力があることが示された。
【0069】
(官能評価)
7名のパネルにこれらのプレスハムを試食してもらい、つなぎの弾力を評価してもらったところ、表10に示す通り、7名全員が無添加区に比べ、アルギニン区は弾力があり好ましいと回答した。
【0070】
【表10】


(実施例7)つなぎが添加されたチキンプレスハムの製造(最適なアルギニン濃度の検証)
実施例4と同様の手順で、プレスハムを、表11に示す配合に従いアルギニンの添加濃度を変えて複数種類のチキンプレスハムを製造した。表11中、単位はgである。
【0071】
【表11】


(結着性の評価方法)
実施例1と同様に、破断荷重値を使用して結着性を評価した。
【0072】
(結果)
図10より、チキンプレスハムのつなぎはアルギニンを添加すると弾力が増し、1.0%までは添加するにつれて効果が高まる傾向が見られた。
【0073】
(官能評価)
7名のパネルにチキンプレスハムのつなぎの弾力性を評価してもらったところ、表12に示す通り0.5%以上で好ましい弾力が得られた。
【0074】
【表12】


(まとめ)
以上の結果から、チキンプレスハムのつなぎに良好な弾力性を付与するのはアルギニン濃度0.5%以上であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、結着性が向上することで、より弾力があり、食感が優れた鶏肉加工食品を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏肉加工食品の製造方法であって、
鶏肉からなる肉片集合体に対しアルギニンを添加し、混合した後、得られた混合物をケーシングに充填して加熱処理又は乾燥処理を行うことを特徴とする、鶏肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
鶏肉からなる肉片集合体を結合させて製造される加工食品に対して用いられる結着剤であって、
アルギニンからなることを特徴とする結着剤。
【請求項3】
遊離アルギニンを合計0.3重量%以上の濃度で含有することを特徴とする鶏肉加工食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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