説明

鶏舎又は畜舎の消毒方法

【課題】一度の消毒作業でコクシジウムオーシストとその他の一般細菌およびウイルスを同時に死滅させることのできる鶏舎又は畜舎の消毒方法を提供する。
【解決手段】消毒剤としてオルトジクロロベンゼン製剤とグルタルアルデヒド製剤の混合製剤を使用することで、オルトジクロロベンゼン単独製剤よりも殺オーシスト効果を向上させると共に、グルタルアルデヒドの強力な殺菌効果により大腸菌などの一般細菌やウイルスも死滅さることが可能となる。これにより、一度の消毒作業でコクシジウムオーシストと一般細菌およびウイルスを同時に死滅させることができるので、従来よりも効率的な消毒作業が行えるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一度の消毒作業でコクシジウム症の原因であるコクシジウムオーシストを効果的に死滅させると同時に、大腸菌やクロストリジウム(芽胞形成する菌)などの一般細菌ならびにウイルスも効果的に死滅させることのできる鶏舎又は畜舎の消毒方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コクシジウム症とは、家禽や家畜の消化器官にコクシジウムという原虫が寄生することで、家禽等が下痢や血便などを起こして衰弱してしまう病気であり、一時的な衰弱で回復する場合が多いが、病状が悪化した場合には大量に斃死してしまう例もある。
コクシジウムは原虫のままで感染するものではなく、オーシストと呼ばれる胞子の状態で糞便と共に排出され、その糞便を家禽等が経口摂取してしまうことで感染する。
コクシジウムには様々な種類があり、例えば、Eimeria属の原虫は、主に鶏に寄生して腸炎を主病症とする鶏コクシジウム症を引き起こす。
【0003】
鶏コクシジウム症は、腸粘膜内でコクシジウム原虫が多量に増殖することにより腸粘膜が破壊され、栄養や水分の吸収阻害により宿主の健康状態を悪化させる。鶏コクシジウム症の発生率は、鶏が直接糞便に接触し易い平飼い飼育での場合が高いが、ケージ飼育でも多く発生している。また、クロストリジウム感染による壊死性腸炎が併発することが多い。
鶏コクシジウム症は、育成率、飼料要求率および産卵率などの生産成績を著しく悪化させるため、養鶏産業界では非常に問題視されている。
【0004】
コクシジウム症への対策としては、飼料に抗生物質を添加する方法やワクチンを投与する方法がある。しかしながら、飼料に抗生物質を添加する方法は副作用や薬剤耐性が懸念されているし、ワクチンを投与する方法は全てのコクシジウムに一律に有効ではない。
【0005】
また、鶏舎や畜舎に消毒剤を散布する方法もあるが、糞便と共に排泄されたオーシストの状態では一般の消毒剤に対して抵抗性が強く、そのためオルトジクロロベンゼン製剤が広く使用されている。使用されるオルトジクロロベンゼン製剤は、オルトジクロロベンゼンを約70%、クレゾール類を約10%含有するものが多い。しかし、その効果は限定的であり十分ではない。
【0006】
また、オルトジクロロベンゼン製剤は、主にコクシジウム症対策が目的であるため、大腸菌などの一般細菌およびウイルスを死滅させるためには他の消毒剤を使用して別途に消毒作業を行う必要がある。
【0007】
関連する先行技術文献を掲げると、特開平6−1719号公報(特許文献1)が存する。この先行技術文献では、コクシジウム症対策としてオルトジクロロベンゼンに塩化ジアルキルジメチルアンモニウムを含有した製剤が提案されている。この発明は、従来のオルソ剤よりも殺オーシスト効果を向上し、更に一般細菌をも死滅できる殺菌消毒剤を提供しようとするものであり、必須成分としてオルトジクロロベンゼンに加えて塩化ジアルキルジメチルアンモニウムを含有させたことを特徴とするものである。
【0008】
しかしながら、塩化ジアルキルジメチルアンモニウムは大腸菌などの一般細菌に対しては殺菌力が弱い消毒剤であり、コクシジウム症と併発することが多いクロストリジウム・パープリンゲンス(芽胞形成菌)にはほとんど殺菌力がなく、エンベロープがない伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス(IBDV:Birnaviridae Avibirnavirus)には無効である。
従って、塩化ジアルキルジメチルアンモニウムによりオルソ剤の殺オーシスト効果を向上したとしても、一般細菌およびウイルスに対する殺滅効果はそれほど高くはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−1719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来の鶏舎又は畜舎の消毒方法にあっては、コクシジウム症対策としてオルトジクロロベンゼン製剤による消毒作業と、一般細菌およびウイルス対策として他の消毒剤による消毒作業との二度の消毒作業が必要であったため、消毒作業が繁雑である上に時間も掛かっていた。
【0011】
このため、一度の消毒作業で効果的にコクシジウムオーシストを死滅させ、且つ、一般細菌およびウイルスも同時に死滅させることのできる新たな消毒方法の開発が切望されていたのである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記実情に鑑み、オルトジクロロベンゼンの殺オーシスト効果を向上すると共に、大腸菌などの一般細菌およびウイルスに対しても十分な殺滅効果があり、一度の消毒作業でコクシジウム対策と一般細菌およびウイルス対策が同時に行える消毒方法の提供を目的として開発されたものであって、請求項1記載の消毒方法では、消毒剤としてオルトジクロロベンゼン製剤とグルタルアルデヒド製剤の混合製剤を使用する構成を採用した。
【0013】
また、請求項2記載の消毒方法では、請求項1を前提として、混合製剤のオルトジクロロベンゼンの濃度を0.75重量%から1.5重量%の範囲とし、グルタルアルデヒドの濃度を0.125重量%から0.5重量%の範囲とする構成を採用した。
【発明の効果】
【0014】
これにより、請求項1及び請求項2記載の消毒方法にあっては、消毒剤として、オルトジクロロベンゼン製剤とグルタルアルデヒド製剤の混合製剤を使用する構成を採用したことにより、オルトジクロロベンゼン製剤の殺オーシスト効果を向上させると同時に、グルタルアルデヒド製剤の強力な殺菌効果および殺ウイルス効果により大腸菌などの一般細菌およびウイルスも同時に死滅させることが可能となる。
【0015】
従って、一度の消毒作業によりコクシジウムオーシストと大腸菌などの一般細菌およびウイルスの双方を同時に死滅させることができるようになり、消毒作業の簡素化と時間短縮が可能となるのである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施例として本発明の効果を検証した試験とその結果を説明する。
【実施例1】
【0017】
〔混合製剤の効果試験(コクシジウムオーシストに対する24時間感作試験)〕
(試験用オーシストの調整)
急性盲腸コクシジウム症に感染している鶏から排泄された糞を採取し、これよりコクシジウムオーシストを回収して胞子形成させた。これを10日齢ヒナに投与し、排泄オーシストの形態学的特徴および寄生部位等からコクシジウム種の同定を行った。同定の結果、この試験用オーシストはEimeria tenellaと認められた。
この試験用オーシストを5×10個/gの菌液として調整した。
【0018】
次に、下記表1のように第1区〜第5区の5種類の試験区を設定した。
第1区は、陽性対照の試験区であり、試験結果を判断する指標である。
第2区は、グルタルアルデヒドを単独で0.125重量%含有する消毒剤(検体)を使用した試験区である。
第3区は、オルトジクロロベンゼンとグルタルアルデヒドを夫々0.75重量%と0.125重量%含有する消毒剤(検体)を使用した試験区である。
第4区は、オルトジクロロベンゼンを単独で0.75重量%含有する消毒剤(検体)を使用した試験区である。
第5区は、陰性対照の試験区である。
そして、前記試験用オーシストを第2区〜第4区の夫々の消毒剤(検体)に24時間感作させて試験用オーシストの調整を完了した。
【0019】
【表1】


【0020】
(供試鶏の調整)
供試鶏は、白色レグホーン系雄初生ヒナを孵化場より導入し、導入後13日齢まで電熱バタリー式ブルーダーでコクシジウムの感染を予防して飼育した。なお、実際の試験は翌日に行ったので供試鶏は14日齢ヒナとなる。
【0021】
(試験の実施)
前記第2区〜第4区では、夫々の濃度の消毒剤に24時間感作させた試験用オーシストを生理食塩水に浮遊させ、遠心処理をした後、1羽あたり5×10個となるように供試鶏のそ嚢内に単回強制経口投与した。
【0022】
各供試鶏は試験用オーシストの経口投与後7日目で剖検し、盲腸よりコクシジウムオーシストの回収を行い、クロム硫酸法により糞便1gあたりのオーシスト数(OPG)を測定した。
その結果を下記表2に示す。
【0023】
【表2】


【0024】
(試験の結果)
まず、第1区(陽性対照)では、全ての供試鶏について糞便1gあたりのオーシスト数(OPG)が一様に上昇し、オーシストの増殖が正常に進行したことが認められた。
また、第5区(陰性対照)では、いずれの供試鶏からもオーシストは発見されなかったので、いずれの供試鶏も試験終了まで試験用オーシスト以外のコクシジウムオーシストには接触していないことが確認された。
【0025】
これを前提として、第3区(オルトジクロロベンゼン+グルタルアルデヒド混合)の結果を見ると、第3区は、第2区(グルタルアルデヒド単独)および第4区(オルトジクロロベンゼン単独)に比べて有意なオーシスト数(OPG)の低下を認めた。
従って、オルトジクロロベンゼン製剤単独やグルタルアルデヒド製剤単独の消毒剤よりも両製剤を混合した消毒剤の方が相乗的に殺オーシスト効果を向上することが実証された。
【実施例2】
【0026】
〔混合製剤の濃度変化よる効果試験(コクシジウムオーシストに対する3時間感作試験)〕
(試験用オーシストの調整)
急性盲腸コクシジウム症に感染している鶏から排泄された糞を採取し、これよりコクシジウムオーシストを回収して胞子形成させた。これを10日齢ヒナに投与し、排泄オーシストの形態学的特徴および寄生部位等からコクシジウム種の同定を行った。同定の結果、この試験用オーシストはEimeria tenellaと認められた。
この試験用オーシストを5×10個/gの菌液として調整した。この試験用オーシストの調整は前記実施例1と同様である。
【0027】
次に、下記表3のように第1区〜第5区の5種類の試験区を設定した。
第1区は、陽性対照の試験区であり、試験結果を判断する指標である。
第2区〜第4区は、オルトジクロロベンゼンを0.75重量%〜1.5重量%の範囲で、グルタルアルデヒドを0.125重量%〜0.5重量%の範囲で濃度を変化させた消毒剤(検体)を使用した試験区である。
第5区は、陰性対照の試験区である。
そして、前記試験用オーシストを第2区〜第4区の夫々の消毒剤(検体)に3時間感作させて試験用オーシストの調整を完了した。
【0028】
【表3】


【0029】
(供試鶏の調整)
供試鶏は、白色レグホーン系雄初生ヒナを孵化場より導入し、導入後13日齢まで電熱バタリー式ブルーダーでコクシジウムの感染を予防して飼育した。なお、実際の試験は翌日に行ったので供試鶏は14日齢ヒナとなる。この供試鶏の調整は実施例1の試験と同様である。
【0030】
(試験の実施)
前記の第2区〜第4区では夫々の濃度の消毒剤に3時間感作させた試験用オーシストを生理食塩水に浮遊させ、遠心処理をした後、1羽あたり5×10個となるように供試鶏のそ嚢内に単回強制経口投与した。
【0031】
オーシスト経口投与後7日目で剖検し、盲腸よりコクシジウムオーシストの回収を行い、クロム硫酸法により糞便1g当たりのオーシスト数(OPG)を測定した。
その結果を下記表4に示す。
【0032】
【表4】


【0033】
(試験の結果)
試験用オーシストをオルトジクロロベンゼンとグルタルアルデヒドの混合製剤に感作させた第2区,第3区,第4区は、第1区(陽性対照)に比べて有意なコクシジウムオーシストの低下を認めた。
【0034】
従って、僅か3時間の感作であっても、オルトジクロロベンゼンとグルタルアルデヒドの混合製剤を使用することは有効な殺オーシスト効果が発揮されることが認められた。
【0035】
さらに、第2区〜第4区のオーシスト数(OPG)の減少に大差がないことからして、オルトジクロロベンゼンとグルタルアルデヒドの夫々の濃度範囲が当該試験の濃度範囲にあれば一様に殺オーシスト効果を発揮することが認められた。
【0036】
以上のように、実施例1および実施例2によれば、オルトジクロロベンゼン製剤とグルタルアルデヒド製剤を混合した消毒剤を使用することにより、従来のオルソ剤よりも殺オーシスト効果を向上できると共に、グルタルアルデヒドの強力な殺菌効果および殺ウイルス効果により、大腸菌などの一般細菌およびウイルスも同時に死滅させることができるようになる。
これにより、一度の消毒作業でコクシジウムオーシストと大腸菌などの一般細菌およびウイルスを同時に死滅させることができるので、従来のようにコクシジウム対策の消毒作業と一般細菌およびウイルス対策の消毒作業とを別々に実施する必要がなくなり、頗る効率的な消毒作業が行えることとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消毒剤としてオルトジクロロベンゼン製剤とグルタルアルデヒド製剤の混合製剤を使用することを特徴とする鶏舎又は畜舎の消毒方法。
【請求項2】
混合製剤のオルトジクロロベンゼンの濃度を0.75重量%から1.5重量%の範囲とし、グルタルアルデヒドの濃度を0.125重量%から0.5重量%の範囲としたことを特徴とする請求項1記載の鶏舎又は畜舎の消毒方法。

【公開番号】特開2011−84492(P2011−84492A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237088(P2009−237088)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(591024638)川崎製薬株式会社 (5)
【出願人】(394012441)サンケミファ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】