説明

麦汁煮沸装置の熱回収方法及び装置

【課題】麦汁の煮沸釜から排出される排蒸気をエジェクタのみで回収して煮沸釜に再供給する場合に、エジェクタの吐出圧を低圧に維持して、エジェクタの排蒸気吸入能力の低下を防止し、エジェクタの運転制御性を改善する。
【解決手段】煮沸釜12の排蒸気eがエジェクタ24に吸引され、エジェクタ24から駆動蒸気sと共に吐出される。吐出された蒸気(e+s)が熱交換器14に供給される。蒸気(e+s)は熱交換器14で煮沸釜12内の麦汁bと熱交換される。蒸気(e+s)が熱交換されて凝縮した凝縮水cはドレンタンク44に送られる。ドレンタンク入口側で凝縮水cの飽和温度を検出すると共に、ドレンタンク気相部44aの圧力を検出し、該圧力検出値に対応した飽和温度と凝縮水cの飽和温度との差分を求める。該差分が閾値を越えたら、パージ弁54をPID制御して気相部44aに含まれる不凝縮ガスを放出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールや発泡酒の製造工程において、麦汁煮沸工程に使用する蒸気の効率的熱回収方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒の製造工程は、先ず、粉砕された麦芽その他の副原料は糖化工程で温水とともに糖化されて麦汁となる。該麦汁は、麦汁煮沸工程で、ホップと共に煮沸釜に仕込まれて、これらを加熱煮沸することにより、たんぱく質の凝固、ホップ香味の抽出が行われる。煮沸後、麦汁は冷却され、その後、発酵工程でアルコール発酵の酵母を添加して、発酵温度に維持されながら発酵される。
【0003】
その後冷却を経て、ろ過工程でろ過されて製品となる。このように、ビール製造工程では加熱冷却が繰り返され、多量の熱及び冷熱のエネルギが費やされるので、該エネルギの効率的利用は、環境負荷の軽減及びエネルギコストの低減のための課題となっている。特に、麦汁煮沸工程で使用する蒸気エネルギは、全ビール製造工程中の40%前後程も占めるので、該工程での蒸気エネルギの効率的利用については、従来より各種の提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、回分式の麦汁煮沸工程で、煮沸釜から排出される排蒸気の再利用システムが開示されている。この技術は、煮沸釜にホップと共に仕込んだ麦汁から発生する排蒸気のうちの一部を温水として回収して貯留し、新たに仕込む原料麦汁の温度を麦汁の沸騰する温度付近まで加熱する熱源として利用する。残余の排蒸気を、所定圧の高圧蒸気を駆動源とするエジェクタにより該排蒸気を吸引して加圧する圧縮工程と、該エジェクタにより圧縮された排蒸気をさらに圧縮機により圧縮する圧縮工程と、からなる二段の圧縮工程により再圧縮して加圧蒸気とする。この加圧蒸気を煮沸釜に供給して、麦汁を沸騰する熱源として利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-87175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術は、排蒸気を加圧して煮沸釜に再供給するための手段として、圧縮機とエジェクタとを用いている。圧縮機を用いているので、圧縮機の吸引力により、エジェクタの運転条件の制約を受けずに排蒸気の吸引量が可能になる。従って、排蒸気の全量回収が可能になるという長所がある。しかし、圧縮機とエジェクタとの両方を用いているので、設備コストが増大するという問題がある。
【0007】
そこで、設備コストを節減するため、圧縮機を無くし、エジェクタのみを用いて排蒸気を回収するという方策が考えられる。この方策では、設備コストを削減できるが、エジェクタの運転条件、即ち、吸入圧、吐出圧及び駆動流体圧の関係による制約があり、運転条件によっては、エジェクタの吸入性能が著しく低下する事がある。これらの関係を図5により説明する。
【0008】
図5は、麦汁煮沸工程に用いられたエジェクタの吸入圧、吐出圧及び駆動流体圧と、駆動蒸気量、排蒸気吸入量との関係を示す線図である。煮沸釜に供給される高圧蒸気の温度は、通常113℃程度である。図5に示すように、エジェクタの吐出圧が高くなるほど、吸入排蒸気量は低減していく。また、前記3圧力値と駆動蒸気量の関係で吸入排蒸気量が決定されるので、前記3圧力値に対して、適正な駆動蒸気量を流さないと、エジェクタの吸入性能が著しく低下するという問題がある。
【0009】
また、煮沸釜内に不凝縮ガス(主として空気)が混入すると、エジェクタでも排蒸気と共に不凝縮ガスを吸入し、不凝縮ガスの分圧分だけエジェクタの吐出圧が高くなる。エジェクタの吐出圧が高くなると、前述のように、エジェクタの吸引能力が低下する。ホップを煮沸釜に供給する場合、ホップを空気搬送装置を用いて供給すると、ホップと共に空気も煮沸釜に入ることになる。これによって、エジェクタの吐出圧が高くなり、エジェクタの排蒸気吸入能力が低下する。
【0010】
本発明は、前記従来の技術の問題点に鑑み、麦汁の煮沸釜から排出される排蒸気を圧縮機を用いず、エジェクタのみで回収して煮沸釜に再供給する場合に、エジェクタの吐出圧を低圧に維持することにより、エジェクタの排蒸気吸入能力の低下を防止し、これによって、エジェクタの運転制御性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明の麦汁煮沸装置の熱回収方法は、
麦汁をホップを加えて煮沸する煮沸釜で発生する排蒸気を高圧蒸気を駆動源とするエジェクタで吸引し、該高圧蒸気と共に煮沸釜に戻して熱源として再利用するようにした麦汁煮沸装置の熱回収方法において、
煮沸釜で前記エジェクタから吐出された蒸気が麦汁と熱交換して凝縮した凝縮水の飽和温度と該飽和凝縮水を貯留したドレンタンク内の気相部の圧力を検出するステップと、
該凝縮水の飽和温度とドレンタンク気相部の圧力に対応した飽和温度との差分を求めるステップと、
求めた差分が閾値を超えた時に、該気相部を外部に開放するパージ弁の開度を制御して、該差分を該閾値以下にするステップと、からなるものである。
【0012】
本発明方法では、前記凝縮水の飽和温度とドレンタンク気相部の圧力に対応した飽和温度との差分が、該気相部に混入している不凝縮ガス量と一義的に対応することから、該差分が閾値を越えた時に、前記パージ弁の開度制御をすることにより、ドレンタンクの気相部に含まれる不凝縮ガスを外部に逃がすようにする。前記差分を閾値以下に保持することにより、該気相部に連通したエジェクタの吐出管路の吐出圧を常に設定値以下に低下できるため、エジェクタの排蒸気吸入能力を常に目標値以上に保持できる。これによって、エジェクタの運転条件の自由度が増すので、エジェクタの制御性を向上できる。
【0013】
本発明方法において、前記差分は、凝縮水の温度に対応した飽和圧力と前記ドレンタンクの気相部の圧力との差分であってもよい。この差分に基づいてパージ弁の開度制御を行なってもよい。
従って、本発明方法によれば、ホップを空気搬送装置を用いて煮沸釜に供給する場合であっても、ホップと共に煮沸釜内に入った空気をドレンタンクの気相部で排除できるので、エジェクタの排蒸気吸入能力を低下させることはない。
【0014】
本発明方法において、ドレンタンク内気相部の圧力を検出する代わりに、エジェクタから吐出された蒸気の吐出圧を検出し、該吐出圧に基づいて前記差分を求めるようにしてもよい。エジェクタの吐出側管路とドレンタンクの気相部とは連通しており、エジェクタの吐出圧とドレンタンク気相部の圧力とは、圧力損失分の差を除けば、略同一である。従って、ドレンタンクの気相部の圧力の代わりに、エジェクタの吐出圧検出値を用いることができる。これによって、圧力検出を比較的簡便に行なうことができる。また、エジェクタの吐出管路は、ドレンタンクより上流側にあるので、前記差分の演算を速く行なうことができ、応答性が向上するという利点がある。
【0015】
本発明方法において、パージ弁の開度を予め麦汁煮沸装置の運転に必要な最低開度に設定しておくとよい。これによって、不凝縮ガス排出のためのパージ弁の開度制御時に、パージ弁の開放動作を速めることができる。
【0016】
前記本発明方法の実施に直接使用可能な本発明の麦汁煮沸装置の熱回収装置は、
麦汁をホップを加えて煮沸する煮沸釜と、煮沸釜で発生する排蒸気を高圧蒸気を駆動源として吸引し、該排蒸気を高圧蒸気により吸入し、煮沸釜に戻すエジェクタとを備えた麦汁煮沸装置の熱回収装置において、
煮沸釜で前記エジェクタから吐出された蒸気が麦汁と熱交換して凝縮した凝縮水を貯留するドレンタンクと、
該ドレンタンクに流入する凝縮水の飽和温度を検出する温度センサと、
該ドレンタンクの気相部の圧力を検出する圧力センサと、
該ドレンタンクの気相部を外部に開放して不凝縮ガスを放出するパージ弁と、
該凝縮水の飽和温度とドレンタンク気相部の圧力に対応した飽和温度との差分を求め,該差分が閾値を越えた時に、前記パージ弁の開度を制御して該差分を該閾値以下に制御するコントローラと、を備えたものである。
【0017】
本発明装置では、前記コントローラにより、麦汁と熱交換後の凝縮水の飽和温度とドレンタンク気相部の圧力に対応した飽和温度との差分を求め,該差分が閾値を越えた時に、前記パージ弁の開度を制御して該差分を該閾値以下に制御するようにする。前記差分を閾値以下に保持することにより、該気相部に連通したエジェクタの吐出管路の吐出圧を常に設定値以下に低下できるため、エジェクタの排蒸気吸入能力を常に目標値以上に保持できる。これによって、エジェクタの運転条件の自由度が増すので、エジェクタの制御性を向上できる。
【0018】
なお、前記差分は、前記凝縮水の温度に対応した飽和圧力とドレンタンクの気相部の圧力との差分であってもよい。
【0019】
本発明装置において、エジェクタから吐出された蒸気の吐出圧を検出する圧力センサを設け、前記コントローラにより該吐出圧に基づいて前記差分を求めるように構成するとよい。ドレンタンクの気相部の圧力とエジェクタの高圧蒸気の吐出圧は、圧力損失分を除き、同等である。そのため、ドレンタンクの気相部の圧力の代わりに、エジェクタの吐出圧検出値を用いることができる。これによって、圧力検出が比較的簡便になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明方法によれば、麦汁をホップを加えて煮沸する煮沸釜で発生する排蒸気を高圧蒸気を駆動源とするエジェクタで吸引し、該高圧蒸気と共に煮沸釜に戻して熱源として再利用するようにした麦汁煮沸装置の熱回収方法において、煮沸釜でエジェクタから吐出された蒸気が麦汁と熱交換して凝縮した凝縮水の飽和温度と該飽和凝縮水を貯留したドレンタンク内の気相部の圧力を検出するステップと、該凝縮水の飽和温度とドレンタンク気相部の圧力に対応した飽和温度との差分を求めるステップと、求めた差分が閾値を超えた時に、該気相部を外部に開放するパージ弁の開度を制御して、該差分を該閾値以下にするステップと、からなるので、ドレンタンク気相部の不凝縮ガス量を常に設定値以下に保持でき、これによって、エジェクタの吐出圧を常に設定値以下に保持できるので、エジェクタの排蒸気吸入能力を常に目標値以上に保持できる。これによって、エジェクタの制御性を向上できる。
【0021】
また、本発明装置によれば、麦汁をホップを加えて煮沸する煮沸釜と、煮沸釜で発生する排蒸気を高圧蒸気を駆動源として吸引し、該排蒸気を高圧蒸気と共に煮沸釜に戻すエジェクタとを備えた麦汁煮沸装置の熱回収装置において、煮沸釜でエジェクタから吐出された蒸気が麦汁と熱交換して凝縮した凝縮水を貯留するドレンタンクと、該ドレンタンクに流入する凝縮水の飽和温度を検出する温度センサと、該ドレンタンクの気相部の圧力を検出する圧力センサと、該ドレンタンクの気相部を外部に開放して不凝縮ガスを放出するパージ弁と、該凝縮水の飽和温度とドレンタンク気相部の圧力に対応した飽和温度との差分を求め、該差分が閾値を越えた時に、前記パージ弁の開度を制御して該差分を該閾値以下に制御するコントローラと、を備えているので、前記本発明方法と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明方法及び装置の第1実施形態に係るプロセス・フローシートである。
【図2】本発明方法及び装置の第2実施形態に係るプロセス・フローシートである。
【図3】本発明方法及び装置の第1実施例に係る線図である。
【図4】本発明方法及び装置の第2実施例に係る線図である。
【図5】エジェクタの駆動流体圧、吸入圧及び吐出圧と駆動蒸気量、吸入排蒸気量との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれに限定する趣旨ではない。
(実施形態1)
【0024】
次に、本発明方法及び装置の第1実施形態を図1に基づいて説明する。
<装置構成>
図1に示す本実施形態に係る麦汁煮沸装置10Aにおいて、煮沸釜12は、麦汁bを煮沸するために使用される。煮沸対象の麦汁bは、糖化工程を経てもろみ(マッシュ)を出し、それをろ過したものにホップhを加えたものである。煮沸釜12の内部には、麦汁bを煮沸するために熱交換器14が配置されている。熱交換器14は、例えば、ローレンコッファーと称される多管式熱交換器が使用される。煮沸釜12に上部には、煮沸釜12の内部を外部に開放可能なダンパ15が設けられている。
【0025】
煮沸釜12の排蒸気eの出口16には、管路18を介してスクラバ20が接続されている。スクラバ20では、固形不純物を除去するフィルタが設けられ、排蒸気eを該フィルタに通し、かつ洗浄水の液滴や液膜に通して、排蒸気eに含まれる固形不純物を除去する。スクラバ20を出た排蒸気eは、管路22を介してエジェクタ24に吸入される。エジェクタ24には、駆動蒸気として、例えば、0.70MPaG(ゲージ圧)程度の圧力と、171℃程度の温度を有する高圧蒸気sが管路26を介して供給される。管路22及び26には、夫々流量調整弁28、30及び流量計32,34が設けられている。
【0026】
排蒸気eは、高圧蒸気sを駆動流体としてエジェクタ24に吸入され、吐出管路36に吐出される。吐出管路36に吐出される蒸気流量は、排蒸気eと高圧蒸気sの流量の合計値となる。吐出管路36には、流量調整弁38及び流量計40が設けられている。吐出管路36に吐出された低圧蒸気(e+s)は、熱交換器14に供給される。熱交換器14で、低圧蒸気(e+s)の熱量により、煮沸釜12内の麦汁bを煮沸する。
【0027】
熱交換器14で、低圧蒸気(e+s)は麦汁bと熱交換して凝縮する。その凝縮水cは、管路42を介してドレンタンク44に送られる。管路42には温度センサ46が設けられ、該温度センサ46で管路42を流れる飽和圧力下の凝縮水cの温度(飽和温度)を検出する。温度センサ46で検出した検出値をコントローラ48に送信する。ドレンタンク44の上部には、ドレンタンク44の上部に形成される気相部44aの圧力を検出する圧力センサ50が設けられている。また、気相部44aには、パージ管52が接続され、該パージ管52にはパージ弁54が介装されている。
【0028】
ドレンタンク44の下部には、凝縮水cの排出管路56が接続されている。排出管路56には、凝縮水cの保有熱を回収し再利用するための熱交換器58が設けられている。熱交換器58の下流側に、凝縮水cを排出するためのポンプ60、及び流量計62、流量調整弁64が介装されている。
【0029】
煮沸釜12に、ホップhを供給するための空気搬送装置66が設けられている。該空気搬送装置66により、ホップhは、搬送空気と共に、煮沸釜12内に供給される。また、熱交換器14にエアパージ管67が設けられている。エアパージ管67にはパージ弁68が介装されている。パージ弁68の開閉はコントローラ48によって制御され、麦汁煮沸装置10Aの運転停止時等にパージ弁68を開放して、不凝縮ガスを放出できる。
【0030】
<運転操作>
かかる構成において、エジェクタ24に高圧蒸気sを供給することにより、煮沸釜12内から排蒸気eが管路18に吸引される。エジェクタ24から吐出された低圧蒸気(e+s)は、熱交換器14で麦汁bと熱交換して凝縮した後、管路42を経てドレンタンク44に送られる。温度センサ46で管路42を流れる飽和状態の凝縮水の温度(飽和温度)を検出し、この検出値をコントローラ48に送信する。また、ドレンタンク44の気相部44aの圧力を圧力センサ50で検出して、この検出値をコントローラ48に送信する。
【0031】
コントローラ48で、圧力センサ50の圧力検出値に対応した飽和温度を求め、該飽和温度と、温度センサ46で検出した凝縮水cの飽和温度との差分を求める。該差分が予め設定されている閾値を越えた時に、パージ弁54の開度を制御して空気等の不凝縮ガスを放出する。なお、パージ弁54は、麦汁煮沸装置10Aの運転に必要な最低開度としておく。このように、パージ弁54を予め開いておくことにより、パージ弁54の開放動作を速めることができる。
【0032】
また、コントローラ48でパージ弁54の動作をPID制御することにより、パージ弁54の動作を目標値に迅速に到達できると共に、外乱に対する応答性を向上できる。
【0033】
本実施形態によれば、凝縮水cの飽和温度とドレンタンク気相部44aの圧力に対応した飽和温度との差分が、該気相部に混入している不凝縮ガス量と一義的に対応することから、該差分を閾値以下に保持することにより、該気相部44aに連通した吐出管路36の吐出圧を常に設定値以下に低下できる。そのため、エジェクタ24の排蒸気吸入能力を常に目標値以上に保持できる。これによって、エジェクタ24の制御性を向上できる。
【0034】
従って、ホップhを空気搬送装置66を用いて煮沸釜12に供給する場合であっても、ホップhと共に煮沸釜内に入った空気をドレンタンク気相部44aで排除できるので、エジェクタ24の排蒸気吸入能力を低下させることはない。
また、パージ弁54の開度を予め麦汁煮沸装置10Aの運転に必要な最低開度に設定しておくことにより、不凝縮ガス排出のためのパージ弁54の開度制御時に、パージ弁54の開放動作を速めることができる。
【0035】
なお、本実施形態では、凝縮水cの飽和温度とドレンタンク気相部44aの圧力に対応した飽和温度との差分を求めたが、代わりに、凝縮水cの飽和温度に対応する飽和圧力とドレンタンク気相部44aの圧力との差分を求め、この差分によってパージ弁54の開度制御を行なってもよい。
【0036】
(実施形態2)
次に、本発明方法及び装置の第2実施形態を図2に基づいて説明する。図2において、本実施形態の麦汁煮沸装置10Bは、ドレンタンク44に設けられた圧力センサ50の代わりに、エジェクタ24の吐出管路36に圧力センサ70を設けたものである。即ち、吐出管路36の蒸気圧力を検出し、この圧力検出値に対応した飽和温度と凝縮水cの飽和温度との差分を求めるようにしている。その他の構成は、前記第1実施形態と同一である。
【0037】
吐出管路36とドレンタンク気相部44aとは連通しており、両者の圧力は、圧力損失分の差を除けば、略同一である。従って、ドレンタンク気相部44aの圧力を検出した場合と略同一の差分値を得ることができる。
本実施形態によれば、吐出管路36の圧力を検出するので、圧力検出が第1実施形態と比べて比較的容易になる利点がある。また、吐出管路36は、ドレンタンク44より上流側にあるので、コントローラ48による差分値の演算を速く行なうことができ、応答性が向上するという利点がある。
【実施例1】
【0038】
第1実施形態の麦汁煮沸装置10Aを実際に運転して得られた実験データを図3に示す。図3において、本実施例では、凝縮水cの飽和温度とドレンタンク気相部44aの圧力に対応した飽和温度との差分の閾値をΔ5℃に設定している。また、麦汁煮沸装置10Aの運転始動時に、予めパージ弁54の開度を13%に設定し、該気相部44aから不凝縮ガスを排出させる時のパージ弁54の開度をPID制御させている。
【0039】
図3から、煮沸釜12にホップを供給した後、ドレンタンク44の気相部44aの圧力が増大して、エジェクタ24の排蒸気吸入量が低下したことがわかる。また、エジェクタ24の排蒸気吸入量の低下に対して、差分が一義的に増大して、閾値を越えたことが分かる。さらに、該閾値の増大に対して、パージ弁54が迅速に対応し、パージ弁54の開度がPID制御されたことにより、エジェクタ24の吸入排蒸気量の低下が速やかに回復したことがわかる。
【実施例2】
【0040】
次に、第1実施形態の麦汁煮沸装置10Aを運転した場合の第2の実施例を図4に説明する。図4において、本実施例では、前記差分の閾値をΔ1℃に設定し、麦汁煮沸装置10Aの運転始動時に、予めパージ弁54の開度を17%に設定し、該気相部44aから不凝縮ガスを排出させる時のパージ弁54の開度をPID制御させている。
【0041】
図4から、本実施例では、前記差分がΔ1℃と小さく設定されているため、煮沸釜12にホップを供給した後のエジェクタ24の吸入排蒸気量の低下が前記第1実施例より微小になっており、速やかに回復したことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、ビールや発泡酒の製造工程中の麦汁煮沸工程において、煮沸釜の排蒸気を吸引して煮沸釜に再供給するエジェクタの制御性を改善して、エジェクタのみによる排蒸気の再利用運転を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0043】
10A、10B 麦汁煮沸装置
12 煮沸釜
14,58 熱交換器
16 排蒸気出口
18,22,26,42 管路
20 スクラバ
24 エジェクタ
28,30,38,64 流量調整弁
32,34,40,62 流量計
36 吐出管路
44 ドレンタンク
44a ドレンタンク気相部
46 温度センサ
48 コントローラ
50,70 圧力センサ
52 パージ管
54,68 パージ弁
56 排出管路
60 ポンプ
66 空気搬送装置
67 エアパージ管
b 麦汁
c 凝縮水
e 排蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦汁にホップを加えて煮沸する煮沸釜で発生する排蒸気を高圧蒸気を駆動源とするエジェクタで吸引し、該高圧蒸気と共に煮沸釜に戻して熱源として再利用するようにした麦汁煮沸装置の熱回収方法において、
煮沸釜で前記エジェクタから吐出された蒸気が麦汁と熱交換して凝縮した凝縮水の飽和温度と該飽和凝縮水を貯留したドレンタンク内の気相部の圧力を検出するステップと、
該凝縮水の飽和温度とドレンタンク気相部の圧力に対応した飽和温度との差分を求めるステップと、
求めた差分が閾値を超えた時に、該気相部を外部に開放するパージ弁の開度を制御して、該差分を該閾値以下にするステップと、からなることを特徴とする麦汁煮沸装置の熱回収方法。
【請求項2】
前記差分が前記凝縮水の温度に対応した飽和圧力と前記ドレンタンクの気相部の圧力との差分であることを特徴とする請求項1に記載の麦汁煮沸装置の熱回収方法。
【請求項3】
前記エジェクタから吐出された蒸気の吐出圧を検出し、該吐出圧に基づいて前記差分を求めるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の麦汁煮沸装置の熱回収方法。
【請求項4】
前記パージ弁の開度を予め麦汁煮沸装置の運転に必要な最低開度に設定しておくことにより、パージ弁の前記開度制御時に、該パージ弁の開放動作を促進させるようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の麦汁煮沸装置の熱回収方法。
【請求項5】
麦汁をホップを加えて煮沸する煮沸釜と、煮沸釜で発生する排蒸気を高圧蒸気を駆動源として吸引し、該排蒸気を高圧蒸気により吸入し、煮沸釜に戻すエジェクタとを備えた麦汁煮沸装置の熱回収装置において、
煮沸釜で前記エジェクタから吐出された蒸気が麦汁と熱交換して凝縮した凝縮水を貯留するドレンタンクと、
該ドレンタンクに流入する凝縮水の飽和温度を検出する温度センサと、
該ドレンタンクの気相部の圧力を検出する圧力センサと、
該ドレンタンクの気相部を外部に開放して不凝縮ガスを放出するパージ弁と、
該凝縮水の飽和温度とドレンタンク気相部の圧力に対応した飽和温度との差分を求め,
該差分が閾値を越えた時に、前記パージ弁の開度を制御して該差分を該閾値以下に制御するコントローラと、を備えたことを特徴とする麦汁煮沸装置の熱回収装置。
【請求項6】
前記差分が前記凝縮水の温度に対応した飽和圧力と前記ドレンタンクの気相部の圧力との差分であることを特徴とする請求項5に記載の麦汁煮沸装置の熱回収装置。
【請求項7】
前記エジェクタから吐出された蒸気の吐出圧を検出する圧力センサを設け、前記コントローラにより該吐出圧に基づいて前記差分を求めるように構成したことを特徴とする請求項5又は6に記載の麦汁煮沸装置の熱回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−135783(P2011−135783A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296119(P2009−296119)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【出願人】(392032100)キリンエンジニアリング株式会社 (54)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)