説明

麦汁煮沸装置

【課題】麦汁煮沸装置における煮沸の制御を安定的かつ正確に行う。
【解決手段】熱交換器20が内部に配置された煮沸釜10と、熱交換器20に蒸気を供給する供給ライン90と、熱交換器90から蒸気又はそれが凝縮した水を排出する排出ライン100と、供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の温度を測定する第1温度計30と、排出ライン100を通して熱交換器20から排出される蒸気又は水の温度を測定する第2温度計40と、第1温度計30で測定される温度及び第2温度計40で測定される温度に基づいて、供給ライン90を通る蒸気によって熱交換器20に供給される時間あたりの熱量を制御する制御器110とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール製品や発泡酒製品の製造に好適な麦汁煮沸装置関する。
【背景技術】
【0002】
ビール製品や発泡酒製品は、一般的に、湯に麦芽の一部及び必要に応じて副原料(例えば、米、コーン・スターチ)を加えて仕込釜で煮た後に、仕込槽において残りの麦芽にお湯を加え、更に仕込釜で得られたものを加えてもろみを生成し、これをろ過した麦汁にホップを加えて煮沸釜で煮沸し、それを発酵・熟成させた後にろ過して製造されうる。
【0003】
煮沸釜では、麦汁中の水分を規定量だけ蒸発させる煮沸工程が実施される。煮沸釜の一例として、多管式熱交換器(ローレンコッファー)を用いたものがある。多管式熱交換器は、典型的には、麦汁を通す多数の伝熱管と、該多数の伝熱管を取り囲む外管とを備え、外管内に加熱された蒸気を通すことにより蒸気と麦汁との間で熱交換を行うように構成されている。
【0004】
従来、多管式熱交換器を有する煮沸釜では、煮沸釜内の麦汁の液面をレベル計で計測しながら予め定められた煮沸強度(時間あたりの水分蒸発量(%/h))が維持されるように、熱交換器に供給する蒸気の流量を制御弁によって制御していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3490460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
麦汁の液面レベルに基づいて熱交換器に供給する蒸気流量を制御する方式では、蒸気流量の変化に対する液面レベルの追随が非常に遅いために、実際の煮沸強度を目標煮沸強度に正確に一致させることは極めて困難である。従来の典型例では、煮沸工程において、麦汁の実際の液面レベルは、目標煮沸強度によって規定される目標液面レベル曲線の上下に大きく数回にわたって振動するために、煮沸工程の終了時に実際の液面レベルを目標液面レベルに収束させることが困難であった。これは、実際の蒸発量を目標蒸発量に一致させることの難しさを示す。
【0007】
本発明は、上記の課題認識を基礎としてなされたものであり、例えば、煮沸の制御を安定的かつ正確に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の麦汁煮沸装置は、熱交換器が内部に配置された煮沸釜と、
前記熱交換器に蒸気を供給する供給ラインと、前記熱交換器から蒸気又はそれが凝縮した水を排出する排出ラインと、前記供給ラインを通して前記熱交換器に供給される蒸気の温度を測定する第1温度計と、前記排出ラインを通して前記熱交換器から排出される蒸気又は水の温度を測定する第2温度計と、前記第1温度計で測定される温度及び前記第2温度計で測定される温度に基づいて、前記供給ラインを通る蒸気によって前記熱交換器に供給される時間あたりの熱量を制御する制御器とを備える。
【0009】
本発明の好適な実施形態によれば、前記制御器は、前記供給ラインを通る蒸気の流量を制御する制御弁を備えうる。この場合において、前記制御器は、前記第1温度計で測定される温度及び前記第2温度計で測定される温度に基づいて前記供給ラインを通して前記熱交換器に供給すべき蒸気の流量を演算し、その演算結果に前記供給ラインを通して前記熱交換器に供給される蒸気の流量が一致するように前記制御弁を制御することができる。
【0010】
或いは、前記制御器は、前記供給ラインを通る蒸気の流量を制御する制御弁と、前記供給ラインを通る蒸気の流量を測定する流量計とを備えることが好ましい。この場合において、前記制御器は、前記第1温度計で測定される温度及び前記第2温度計で測定される温度に基づいて前記供給ラインを通して前記熱交換器に供給すべき蒸気の流量を演算し、その演算結果に前記流量計によって測定される流量が一致するように前記制御弁を制御することができる。
【0011】
本発明の実施形態の麦汁煮沸方法は、熱交換器が内部に配置された煮沸釜と、前記熱交換器に蒸気を供給する供給ラインと、前記熱交換器から蒸気又はそれが凝縮した水を排出する排出ラインとを備える麦汁煮沸装置における麦汁煮沸方法に係り、前記供給ラインを通して前記熱交換器に供給される蒸気の温度と前記排出ラインを通して前記熱交換器から排出される蒸気又は水の温度とに基づいて前記第供給ラインを通る蒸気によって前記熱交換器に供給される時間あたりの熱量を制御しながら麦汁を煮沸する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、例えば、煮沸の制御を安定的かつ正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造設備の好適な実施形態としての麦汁煮沸装置の概略構成を示す図である。
【図2】多管式熱交換器の構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の製造設備の好適な実施形態としての麦汁煮沸装置の概略構成を示す図である。煮沸釜10は、ビール又は発泡酒の製造において、麦汁12を煮沸するために使用される。煮沸対象の麦汁は、もろみをろ過したものにホップを加えたものである。煮沸釜10の内部には、麦汁12を煮沸するための熱交換器20が配置されている。熱交換器20は、例えば、多管式熱交換器(ローレンコッファー)として構成されうる。
【0016】
多管式熱交換器は、典型的には、図2に示すように、外管22内に多数の伝熱管21を配置し、これらの伝熱管21と外管22の内壁との間に加熱された蒸気を供給することにより伝熱管21内を流れる麦汁を加熱するように構成されうる。
【0017】
麦汁煮沸装置は、煮沸釜10内の熱交換器20に加熱された蒸気を供給する供給ライン90と、熱交換器20から蒸気又はそれが凝縮した水を排出する排出ライン100とを有する。排出ライン100には、スチームトラップ80が設けられていて、これにより蒸気状態で存在する水が凝縮される。
【0018】
熱交換器20において、供給ライン90を通して供給される蒸気は、伝熱管21内の麦汁との熱交換によって冷却されて凝縮し液化しうる。伝熱管21内の麦汁は、蒸気から与えられる熱によって加熱されて沸騰し、水分が蒸発する。
【0019】
麦汁煮沸装置は、熱交換器20において蒸気が麦汁によって時間あたりに奪われた熱量に基づいて、蒸気によって熱交換器20に与えるべき時間あたりの熱量を逐次制御する。熱交換器20において蒸気が麦汁によって時間あたりに奪われた熱量は、熱交換器20に供給される蒸気の温度と、熱交換器20から排出される蒸気又は水の温度との差分に基づいて演算することができる。そこで、供給ライン90には、その中を通る蒸気の温度を測定する第1温度計30が設けられ、排出ライン100には、その中を通る蒸気又は水の温度を測定する第2温度計40が設けられている。
【0020】
制御器110は、第1温度計30によって測定される温度及び第2温度計40によって測定される温度に基づいて、供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の時間あたりの量(熱交換器20に供給される時間あたりの熱量)を制御する。
【0021】
制御器110は、例えば、供給ライン90を通る蒸気の流量(例えば、質量流量)を制御する制御弁60及び制御弁60の開度を制御する弁制御器50を含んで構成され、第1温度計30によって測定される温度及び第2温度計40によって測定される温度に基づいて供給ライン90を通して熱交換器20に供給すべき蒸気の流量を逐次演算し、その演算結果に供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の流量が一致するように制御弁60を制御する。
【0022】
制御器110は、更に、供給ライン90を通る蒸気の流量(例えば、質量流量)を測定する流量計70を含むことが好ましい。この場合において、制御器110は、第1温度計30によって測定される温度及び第2温度計40によって測定される温度に基づいて供給ライン90を通して熱交換器20に供給すべき蒸気の流量を逐次演算し、その演算結果に流量計70によって測定される流量が一致するように制御弁60を制御する。
【0023】
以下、弁制御器50による制御弁60の制御について説明する。熱交換器20に供給される蒸気によって麦汁に与えられる熱量をQ1、供給ライン90から供給される蒸気によって熱交換器20に流入する熱量をQ2、熱交換器20から排出ライン100に排出される蒸気又は水によって熱交換器20から流出する熱量をQ3とすると、次式が成り立つ。
【0024】
Q1=Q2−Q3 ・・・(1)
ここで、水の蒸発熱(cal/g)をA(=540cal/g)、時間あたりの麦汁からの水の蒸発量である煮沸強度(%/h)をX、煮沸時間(h)をT、初期状態(煮沸前)の麦汁の量(HL=10リットル)をV1、係数をαとすると、Q1は、次式で示される。
【0025】
Q1=A・X・T・V1・α・10 ・・・(2)
また、蒸気の比熱(cal/g・℃)をB(=0.5cal/g・℃)、蒸気の質量流量(kg/h)をΓ、熱交換器20の入口における蒸気の温度(第1温度計30によって測定されるの蒸気の温度;℃)をt1、熱交換器20の出口における蒸気又は水の温度(第2温度計40によって測定される蒸気又は水の温度)をt2とすると、Q2、Q3は、次式で示される。
【0026】
Q2=B・Γ・(t1−t2)・T・10 ・・・(3)
Q3=A・Γ・T・10 ・・・(4)
したがって、(1)〜(4)式より、
Γ=(A・X・V1・α)/(B・(t1−t2)+A)・0.001
・・・(5)
ここで、(5)式にA、Bを代入すると、次式が得られる。
【0027】
Γ=(540・X・V1・α)/(0.5・(t1−t2)+540)・0.001
・・・(6)
(6)式において、煮沸強度X1及びαは、予め設定される値である。また、初期状態の麦汁の量V1は、煮沸すべき麦汁の量であるので煮沸前に設定される値である。したがって、制御器は、第1温度計30によって測定される温度t1及び第2温度計40によって測定される温度t2に基づいて、供給ライン90を通して熱交換器20に供給される蒸気の流量Γを逐次演算し、このΓに従って制御弁60を制御することができる。
【0028】
以上のように、第1温度計30で測定される温度t1及び第2温度計40で測定される温度t2に基づいて供給ライン90を通る蒸気によって熱交換器20に与えられる時間あたりの熱量を逐次制御することにより、従来の方法に比べて、実際の煮沸強度を目標煮沸強度Xに対して正確に一致させることができる。これは、従来のような麦汁の液面レベルに基づいて制御弁を制御する方法では、蒸気の流量変化に対する応答が得られるのが極めて遅いが、本方法によれば、熱交換器に対して供給する熱量の変化への追随が速い熱交換器の入口及び出口における蒸気又は水の温度に基づいて該熱量を制御するからである。
【符号の説明】
【0029】
10 煮沸釜
12 麦汁
20 熱交換器
30 第1温度計
40 第2温度計
50 弁制御器
60 制御弁
70 流量計
80 スチームトラップ
90 供給ライン
100 排出ライン
110 制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦汁煮沸装置であって、
熱交換器が内部に配置された煮沸釜と、
前記熱交換器に蒸気を供給する供給ラインと、
前記熱交換器から蒸気又はそれが凝縮した水を排出する排出ラインと、
前記供給ラインを通して前記熱交換器に供給される蒸気の温度を測定する第1温度計と、
前記排出ラインを通して前記熱交換器から排出される蒸気又は水の温度を測定する第2温度計と、
前記第1温度計で測定される温度及び前記第2温度計で測定される温度に基づいて、前記供給ラインを通る蒸気によって前記熱交換器に供給される時間あたりの熱量を制御する制御器と、
を備えることを特徴とする麦汁煮沸装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記供給ラインを通る蒸気の流量を制御する制御弁を備え、前記第1温度計で測定される温度及び前記第2温度計で測定される温度に基づいて前記供給ラインを通して前記熱交換器に供給すべき蒸気の流量を演算し、その演算結果に前記供給ラインを通して前記熱交換器に供給される蒸気の流量が一致するように前記制御弁を制御することを特徴とする請求項1に記載の麦汁煮沸装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−183919(P2010−183919A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127298(P2010−127298)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【分割の表示】特願2006−26147(P2006−26147)の分割
【原出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)