説明

麦芽再製処理機能を備えた麦芽用湿式粉砕装置及びその方法

【課題】麦芽中のPYF因子の濃度を低減させ、また、LOXの活性を低減させることができ、更に、麦芽の幼芽の除去が可能な麦芽用湿式粉砕装置の提供。
【解決手段】麦芽を収容するための麦芽ホッパーと、この麦芽ホッパーに連設されたコンディショニングルームと、このコンディショニングルームに連設された粉砕機とを有する麦芽用湿式粉砕装置であって、麦芽ホッパー内の麦芽を浸漬するため、麦芽ホッパー内へ所定温度の水を供給するための給水手段と、麦芽を浸漬した麦芽ホッパー内の水温を所定温度に維持するための水温調整手段と、麦芽ホッパー内の水を廃水するための廃水管とを有する、ことを特徴とする麦芽再製機能を備えた麦芽用湿式粉砕装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽中の好ましくない成分を除去又は失活させる(以下、本明細書において、「麦芽再製」という。)ことにより、ビールの品質を向上させることができる麦芽再製処理装置及びその方法に関する。より詳細には、本発明は、早期凝集沈降現象(Premature Yeast Flocculation)(以下、「PYF」という。)を誘引することから麦芽の好ましくない成分と考えられている因子(以下、「PYF因子」という。)を除去し、また、酸化原因物質生成酵素であるリポキシゲナーゼ(以下、「LOX」という。)を失活させたり、更には、LOXを多く含まれているとされる麦芽の幼芽の部分を除去して麦芽再製処理することにできる装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麦芽を原料として、酵母を用いて発酵により製造される酒類には、ビール、発泡酒やウィスキー等がある。日本やドイツをはじめ世界各国でラガータイプのビールが醸造されているが、最近はアメリカを中心にライトタイプのビールの生産が、また日本では麦芽配合比率の低い発泡酒の生産量が増えてきている。これらのビールあるいは発泡酒の醸造には、発酵終了後に酵母が発酵タンクの底に沈降する下面酵母を用いることが多い。
【0003】
このように原料として麦芽を使用する酒類を製造する場合に、発酵中に「酵母の早期凝集沈降現象」と呼ばれる現象(PYF)が認められることがある。これは発酵終了前に酵母の資化可能な糖分がまだ麦汁中に残っているにもかかわらず、酵母が凝集・沈降してしまい、その結果発酵の進行が停止してしまう現象である。この事象が発生すると、発酵液中に糖やアミノ態窒素が残り、さらに、いわゆる若臭と呼ばれるようなVDK(vicinal diketone)や発酵不順臭といわれる麦汁臭アルデヒドが残り、ビールや発泡酒、あるいはウィスキー品質の著しい低下をもたらす。品質の高いビール等を製造する上で、麦芽に含有される、酵母のPYFを誘引するPYF因子を低減させることが望ましい。
【0004】
また、ビールを一定期間保存すると、ブランドによって程度の差はあるものの、劣化した特有の香味が感じられる場合がある。劣化ビールの香味の一つにカードボード臭があり、この劣化香味は、トランス−2−ノネナール(以下、「T2N」という。)が主成分であり、このT2Nは麦芽の脂質成分からその多くが由来していることが知られている。近年、麦芽品質がビール香味安定性に及ぼす影響が注目され、このビール香味安定性を評価する為の指標として麦芽ノネナールポテンシャル(以下、「麦芽T2N-P」という。)分析法が開発され、この分析値の低い麦芽を使用すれば香味安定性の優れたビールが製造可能となることが明らかとなった(特許文献1)。また、麦芽T2N-Pに影響を及ぼす一因として麦芽中の脂質酸化酵素であるLOXがあり、この活性の低減により麦芽T2N-Pが低減することが明らかとなっている(特許文献2)。このLOXは、特に、麦芽の幼芽に局在していると考えられている。従って、このカードボード臭を低減させるためには、麦芽T2N-P及び/又はLOXの活性を低減又は失活させるか、できれば、幼芽を除去することが望ましい。
【0005】
更に、麦芽を上記のように再製させる工程は、ビールや発泡酒の従来の製造工程の流れを変えず、既存の設備をなるべく利用して行えることが理想的である。麦芽は、必ず粉砕機によって粉砕してから使用し、製造工程中、粉砕機を経由することから、例えば、既存の粉砕装置を利用して上記成分の除去等を行うことが考えられる。
【0006】
麦芽用粉砕機として湿式粉砕装置が知られている。湿式粉砕装置の構造は、例えば、非特許文献1に記載されている。非特許文献1に記載されているように、麦芽用湿式粉砕装置は、乾燥した麦芽を収容する麦芽ホッパーと、その下方に連設された、麦芽に水分を与えるコンディション筒と、更に、コンディション筒の下方に連設された粉砕機とを有する。麦芽ホッパーとコンディション筒との間、またコンディション筒と粉砕機との間はそれぞれ、ゲートバルブで仕切られており、ゲートバルブが閉じられている間は、これらの空間は水密に区切られる。また、麦芽ホッパーは、頂壁に麦芽を供給するための麦芽入口が設けられている。また、粉砕機は、次工程の仕込槽への出口が設けられている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−253196
【特許文献2】特開2005−102690
【非特許文献1】醸協(2000年)第95巻第9号629頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の第1の目的は、麦芽中のPYF因子の濃度を低減させ、また、ビール香味安定性の低下を招く、LOX及びT2Nの活性を低減させることができる装置及び方法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、麦芽表面の穀皮を残したまま、麦芽の幼芽のみを除去することができる装置及びその方法を提供することにある。
更に、本発明の第3の目的は、上記目的を、ビール等の従来の製造工程の流れを変えず、また、既存の設備をなるべく利用して行うことができる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、麦芽を収容するための麦芽ホッパーと、この麦芽ホッパーに連設されたコンディショニングルームと、このコンディショニングルームに連設された粉砕機とを有する麦芽用湿式粉砕装置であって、麦芽ホッパー内の麦芽を浸漬するため、麦芽ホッパー内へ所定温度の水を供給するための給水手段と、麦芽を浸漬した麦芽ホッパー内の水温を所定温度に維持するための水温調整手段と、麦芽ホッパー内の水を廃水するための廃水管とを有する、ことを特徴とする麦芽再製機能を備えた麦芽用湿式粉砕装置によって達成することができる。
【0010】
本発明に係る麦芽用湿式粉砕装置においては、麦芽ホッパーに所定量の麦芽を供給し、給水手段によって、麦芽ホッパー内に水を供給して麦芽ホッパー内で麦芽を水に浸漬する。この際、麦芽ホッパー内の水を水温調整手段によって維持する。麦芽を所定時間、所定温度の水に浸漬した後、廃水管を通して、麦芽ホッパー内の水を廃水する。これによって、麦芽に含まれるPYF因子が水に溶け出し、麦芽に含まれるPYF因子の濃度を低減することができる。
【0011】
また、水温を、麦芽を浸漬する水の温度を比較的高温に設定すれば、LOXやT2N-Pを低活性化、又は、失活させることができる。
【0012】
更に、麦芽は外側が穀皮によって覆われているが、麦芽の幼芽は胚乳部分より、また、幼芽は穀皮よりも、水による膨張率が高い。従って、麦芽を水に浸漬することによって、穀皮内で幼芽部分が胚乳部分より大きく膨張し、幼芽が穀皮の外に放出されやすくなり、穀皮を除去することなく、幼芽だけを麦芽から除去しやすくなる。
尚、麦芽を麦芽ホッパー内で水に浸漬させてから、水を、一旦、廃水し、再度、麦芽ホッパー内を水又は温水(湯)で満たして、再度、浸漬すれば、更に、PYF因子の除去や、LOXやT2N-Pの失活を良好に行うことができる。
【0013】
また、本発明の実施の形態においては、更に、麦芽ホッパー内の水と麦芽を攪拌するため、麦芽ホッパー内に、窒素ガスや炭酸ガス等の気体を吹き込むための気体供給手段を有する。気体供給手段によって、麦芽ホッパー内に気体を吹き込んで、麦芽ホッパー内で水を攪拌することによって、PYF因子がより多く水に溶け出し、麦芽のより高い洗浄効果を得られる。また、攪拌により、水に浸漬された麦芽が麦芽ホッパー内の内壁に衝突し、また、麦芽同士が衝突して、麦芽に物理的衝撃が与えられ、水への浸漬によって胚乳より大きく膨張した幼芽が穀皮の外に放出される。これによって、LOXを多く含むと考えられる幼芽を麦芽から排除することができる。
【0014】
更に、発明の実施の形態においては、更に、給水管から麦芽ホッパー内に水を補給している間に、麦芽ホッパー内の水の液面近傍の水が排出されるように、麦芽ホッパーの上部に接続されたオーバーブロー配管を有する。給水管から麦芽ホッパー内に水を補給しつつ、麦芽ホッパー内の水をオーバーブロー配管を通して排出して、麦芽の浸漬中の洗浄効果を高めることにより、PYF因子の除去を良好に行うことができる。また、穀皮の外に放出された幼芽は、水より比重が低く、麦芽ホッパー内の水の液面近傍に浮遊するので、オーバーブロー配管から廃水することによって、水内に浮遊している幼芽を排除することができる。
【0015】
更に、本発明の実施の形態においては、更に、麦芽ホッパーに接続された循環用管と、麦芽ホッパー内の水及び麦芽を循環用管内を通過させて麦芽ホッパーに戻すための圧送手段を有する。水及び麦芽を循環用管内を通過させる間、浸漬された麦芽が循環用管の内壁に衝突し、また、狭い通路を通過する間、麦芽同士が衝突し、幼芽が穀皮の外に放出され易くなる。
【0016】
更に、本発明の実施の形態においては、更に、浸漬により水を含んだ麦芽を加熱するための蒸気供給手段を有する。麦芽ホッパー内の水を廃水管を通して廃水した状態において、浸漬して水を含んだ麦芽を、上記供給手段から放出される蒸気によって加熱することによって、麦芽に含まれるLOXの活性を更に低減させることができ、又は、より良好に失活させることができる。尚、蒸気供給手段がコンディション筒に設けられている場合には、麦芽用湿式粉砕装置のコンディション筒は、一般的に、麦芽ホッパーより狭く、麦芽ホッパーと粉砕機との間がゲードバルブによって密閉されているので、蒸気によって収容された麦芽全体を高温にすることができる。また、蒸気供給手段をコンディション筒に設けることにより、麦芽がコンディション筒を通過する短時間の間に蒸気を吹き付けることが可能になる。
【0017】
更に、本発明の上記目的は、麦芽を収容するための麦芽ホッパーと、この麦芽ホッパーに連設されたコンディショニングルームと、このコンディショニングルームに連設された粉砕機とを有する麦芽用湿式粉砕装置であって、コンディション筒に、麦芽を加熱するための蒸気供給手段が設けられている、ことを特徴とする麦芽再製機能を有する麦芽用湿式粉砕装置によって達成することもできる。麦芽をコンディション筒にて高温処理することによって、麦芽に含有されたLOXの活性をより低くすることができ、又は、失活させることができ、T2N-P(T2Nポテンシャル)の生成を抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、麦芽中のPYF因子の濃度を低減させ、また、ビール香味安定性の低下を招く、LOXの活性及びT2N-P(T2Nポテンシャル)の濃度を低減させることができる装置及び方法を提供することができる。
また、本発明によれば、麦芽表面の穀皮を残したまま、麦芽の幼芽のみを除去することができる装置及びその方法を提供することができる。
更に、本発明によれば、ビール等の従来の製造工程の流れを変えず、また、既存の設備をなるべく利用して行うことができる装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる、麦芽再製機能を備えた麦芽用湿式粉砕装置の構造を示す。
【0020】
図1に示すように、麦芽用湿式粉砕装置2は、乾燥した麦芽を収容する麦芽ホッパー4と、その下方に連設された、麦芽に水分を与えるコンディション筒6と、更に、コンディション筒6の下方に連設された粉砕機8とを有する。麦芽ホッパー4とコンディション筒6との間、またコンディション筒6と粉砕機8との間はそれぞれ、第1のゲートバルブ10と粉砕機供給シートとなる第2のゲートバルブ12とで仕切られている。これらのゲートバルブ10,12が閉じられている間は、これらの空間は水密に区切られる。
【0021】
麦芽ホッパー4は、上部に麦芽ホッパー本体の上面部14を有し、蓋部14に麦芽を供給するための麦芽入口16が設けられ、麦芽供給装置(図示せず)との間は麦芽供給管18で連結されている。また、粉砕機8は、次工程の仕込槽(図示せず)への出口58が設けられている。また、コンディション筒6には、麦芽を粉砕する前に麦芽に水分を与えるための給水設備20が設けられている。更に、粉砕機8内には、麦芽を粉砕するためのミル22が設けられている。粉砕機8は、次工程の仕込槽との間が管24で連結され、粉砕機8側の管24の入り口には、麦芽を仕込槽へと圧送するための第1のポンプ26が設けられている。
【0022】
本実施の形態に係る麦芽用湿式粉砕装置2は、麦芽ホッパー4内の麦芽を浸漬するため、麦芽ホッパー4内へ所定温度の水を供給するための給水手段28と、麦芽を浸漬した麦芽ホッパー内の水温を所定温度に維持するための水温調整手段30と、麦芽ホッパー4の底部に連結された、麦芽ホッパー4内の水を廃水するための廃水管32とを有する。給水手段28は、麦芽ホッパー4とボイラー(図示せず)とに連結された給水管34と、給水管34に設けられた給水量を調整するためのバルブ36とを有する。給水管34を通して、水または湯が麦芽ホッパー内に供給される。温度調整手段30は、麦芽ホッパー内に温度計(図示せず)を設け、水温が所定温度より低下したら、バルブ36を開けて加熱すると共に、蒸気によって麦芽が攪拌される。麦芽ホッパー内へ供給する水の温度は、バルブ36によって水と湯の混合量を調節して所定温度にされる。また、蒸気配管54は一部が分岐し、その分岐した蒸気供給用配管30は麦芽ホッパー4に連結され、麦芽ホッパー4に蒸気を供給するようになっている。麦芽ホッパー4内の温度が低下した場合には、蒸気供給用配管30を介しても蒸気を供給して温度を所定温度に上昇させると共に、蒸気によって麦芽が攪拌される。
【0023】
また、麦芽用湿式粉砕装置2は、麦芽ホッパー内の水と麦芽を攪拌するため、麦芽ホッパー内に気体を吹き込むための気体供給手段38を有する。気体供給手段38は、麦芽ホッパー内に差し向けられた複数のノズル40を有し、これらノズル40に連結された気体配管42が気体源(図示せず)まで延びている。ノズル40は、麦芽ホッパー4の互いに対向する側壁に配置されている。また、ノズル40は、麦芽ホッパー4の高さ方向において、下半分において、高さ方向に互いに離間して配置されている。
【0024】
更に、麦芽用湿式粉砕装置2は、麦芽ホッパー4の側壁の上部に接続されたオーバーブロー配管44を有する。オーバーブロー配管44は、麦芽の浸漬中、給水手段によって水を麦芽ホッパー4に補給し続ける場合に、麦芽ホッパー内の液面近傍の水を排水するためのものである。
【0025】
更に、麦芽用湿式粉砕装置2は、水循環手段46を有する。水循環手段46は、両端が麦芽ホッパー4に接続された循環用管48と、この循環用管48に麦芽ホッパー内の水及び麦芽を循環させるための圧送手段としての第2のポンプ50とを有する。より詳細には、循環用管48は、一端が麦芽ホッパー4の上部に接続され、他端がその下部に接続されており、また、第2のポンプ50は、循環用管48の下部接続部近傍に設けられ、麦芽ホッパー内の水及び麦芽を循環用管48を通して下から上へと循環させることができる。
【0026】
一方、コンディション筒6には、浸漬により水を含んだ麦芽を加熱するための蒸気供給手段52が設けられている。上記供給手段は、一端がボイラー(図示せず)に連結され、他端がコンディション筒6まで延びる蒸気配管54と、コンディション筒6内に開口する蒸気噴出口56とを有する。
【0027】
本実施形態に係る麦芽用湿式粉砕装置2は、以下のように作動する。
1.水浸漬
まず、コンディション筒6との間の第1のゲートバルブ10は閉じられている。麦芽供給装置の麦芽供給管18を通して、麦芽ホッパー内に麦芽入口16から所定量の麦芽を供給する。
所定量の麦芽を麦芽ホッパー4に供給したら、給水手段の給水バルブ36を開け、湯と水を混合して所定温度に調節した水を麦芽ホッパー内に給水する。尚、本明細書で「水」というときは「温水」も含むものとする。水は、麦芽ホッパー内の麦芽が浸漬する程度供給する。麦芽ホッパー内の水は水温調整手段30によって、所定の浸水時間(例えば、2時間から12時間)中、所定の温度(摂氏0度〜100度の範囲)に維持される。麦芽を所定温度の水に所定時間浸水することによって、麦芽に含まれるPYF因子が水に溶け出す。これによって、麦芽に含まれるPYF因子の含有量を低減させることができる。
【0028】
また、水の温度を、LOXの活性を低減させ、あるいは、失活させることができる温度(比較的高温の、例えば、摂氏60度から90度)に設定すれば、麦芽にT2N及びLOXが含まれていても、浸漬によってそれらが失活するので、ビール等の品質に悪影響を及ぼしにくい。
【0029】
更に、麦芽の穀皮内の幼芽の方が胚乳より水による膨張率が高く、また、幼芽の方が穀皮より膨張率が高いので、浸漬することによって幼芽が膨張して、胚乳から外れやすくなり、また、幼芽だけが穀皮の外に出る。これによって、穀皮を除去せずに、麦芽から幼芽だけを取り出すことができる。尚、内部の幼芽を取り外すために穀皮を除去することが考えられるが、穀皮は、後の製造工程でロイターにおける麦汁濾過に必要であるので、この段階で麦芽から穀皮と分離することは望ましくない。上記のやり方によれば、穀皮をそのままにして、幼芽だけを麦芽から除去することができる。
【0030】
麦芽を所定時間、水に浸漬させたら、廃水管32を通して水を廃水する。これによって、PYF因子と外れた幼芽を含む水が廃水される。具体的には、配水管32には麦芽よりも細かく幼芽よりは大きいメッシュ60が設けられており、水と幼芽のみを排出することができる。
【0031】
2.水攪拌
上記1の水浸漬において、麦芽ホッパー内で麦芽を水に浸漬している間、必要に応じて、気体供給手段38によって、気体をノズル40から水中に噴出させて、麦芽ホッパー内の水と麦芽を攪拌してもよい。気体は、ノズル40から麦芽ホッパー4の互いに対向する側壁の部分から、麦芽ホッパー4の内部空間の中央に向かって噴射し、また、水中を下方から上方に向けて流れる。これによって、水と麦芽が均一に攪拌される。これによって、麦芽に含まれるPYF因子がより多く水に溶け出し、また、より多くの麦芽の幼芽が穀皮外に放出される。
【0032】
3.水のオーバーブロー
更に、上記1の水浸漬において、麦芽ホッパー内で麦芽を水に浸漬している間、選択的に、麦芽の浸漬中、給水手段28によって水を麦芽ホッパー4に補給し続け、オーバーブロー配管44から、PYF因子や幼芽を含有する水を排水してもよい。これによって、麦芽ホッパー4内の水に溶け出たPYF因子の濃度を常に低くしておくことができ、より高い麦芽の洗浄効果を得ることができる。これにより、多くのPYF因子を麦芽から除去することができる。また、幼芽は比重が低いので、穀皮の外に放出されると、水に浮く傾向にある。従って、水に浮いた液面近傍のオーバーブロー配管44から幼芽が排出され易い。
【0033】
4.水の循環
更に、上記1の水浸漬において、麦芽ホッパー内で麦芽を水に浸漬している間、第2のポンプ50を作動させ、循環用管48内に麦芽ホッパー内の水及び麦芽を循環させてもよい。循環は、麦芽ホッパー内の水及び麦芽が、循環用管48を通して下から上へと循環される。これによって、麦芽が循環用管48の内壁に衝突し、また、狭い管内を通過する際に、麦芽同士が衝突して、水で膨張した幼芽が穀皮の外に放出され易くなる。
【0034】
5.蒸気加熱
上記、1の浸漬工程が終了したら(選択的に上記2〜4のいずれかの工程を付加してもよい)、水を廃水管を通して排水する。引き続き、麦芽ホッパー4とコンディション筒6との間の第1のゲートバルブ10を開け、麦芽をコンディション筒6に投入する。尚、コンディション筒6と粉砕機8との間の第2のゲートバルブ12は閉じている。コンディション筒6と粉砕機8との間の第2のゲートバルブ12は麦芽が通過する際に加熱できるため、閉じていても、開放状態でもどちらでもよい。
【0035】
第1のゲートバルブ10を閉じ、蒸気供給手段52によって、コンディション筒6を蒸気で満たし、浸漬により水を含んだ麦芽を、麦芽ホッパー内での水(湯)での浸漬温度より高い温度で加熱する。これによって、LOXの活性をより低くすることができ、又は、失活させることができ、T2N-Pの生成を抑制することができる。この工程も、上記工程1に加えて、また、更には、必要に応じて、上記2〜4に加えて行うことができる。
【0036】
また、上記工程1〜4のいずれも行わず、コンディション筒6で麦芽を粉砕する前に麦芽を従来通り湿らせる工程の後に上記によって加熱し、又は、蒸気で麦芽を湿らせると同時に加熱するようにしてもよい。これによって、麦芽に含有されたT2N-P及びLOXを低活性化させ、T2N-Pを抑制できる。この場合、麦芽に幼芽が含まれていても、幼芽に多く含まれるとされているLOXを低活性化させることいよって、品質の高いビール等を製造することができる。
【0037】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0038】
例えば、上記実施の形態においては、麦芽用湿式粉砕装置2に上記1〜5の工程を行う種々の手段を設けているが、これらの手段をすべて備えている必要はなく、麦芽用湿式粉砕装置2にこれらの手段を必要に応じて設ければよいことは言うまでもない。
【0039】
更に、上記実施の形態においては、麦芽用湿式粉砕装置2に上記種々の手段を設け、麦芽の再製処理を行うようにしたが、麦芽の粉砕装置とは別個に麦芽再製処理機能をもつ専用機としてもよい。以下、上記麦芽用湿式粉砕装置2と同様な機能を有する部分については、同じ符号で示し、詳細な説明は省略する。図2は、このような第2の実施形態に係る麦芽再製処理装置100を示す。第2の実施形態に係る麦芽再製処理装置100には、麦芽を収容するタンク4と、タンク4に麦芽を供給する麦芽供給手段18と、タンク内の麦芽を浸漬するため、タンク内へ所定温度の水を供給するための給水手段28と、麦芽を浸漬したタンク内の水温を所定温度に維持するための水温調整手段30と、タンク内の水を廃水するための廃水管32とを設ける。また、図2に示すように、この装置に、上記2〜5に記載の機能をもたせるよう、同様の手段を設けてもよい。
【0040】
更に、上記実施の形態においては、蒸気供給手段52をコンディション筒6に設けたが、蒸気供給手段52は、麦芽ホッパー4に設けてもよい。麦芽ホッパー4に蒸気供給手段を設けることにより、麦芽ホッパー4内の温度維持に用いることができる。
【0041】
更に、上記装置においては、気体配管42のノズル40が麦芽ホッパー40の対向する側壁部分且つその下部に設けられているので、麦芽及び水を良好に攪拌することができるが、ノズル40は他の位置に配置されていてもよい。
上記装置においては、循環用管48の上端が麦芽ホッパー4の上部に、また、下端が、その下部に接続されており、麦芽ホッパー4内で沈んだ麦芽を上下に混ぜることができる点で好ましいが、循環用管48は麦芽ホッパー4の他の位置に接続されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
ビール等の製造に使用する麦芽の再製に使用する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態にかかる、麦芽再製機能を備えた麦芽用湿式粉砕装置の構造を示す。
【図2】本発明の別の実施形態にかかる麦芽再製処理装置の構造を示す。
【符号の説明】
【0044】
2 麦芽用湿式粉砕装置
4 麦芽ホッパー
6 コンディション筒
8 粉砕機
20 給水設備
26 第1のポンプ
28 給水手段
30 水温調整手段
38 気体供給手段
44 オーバーブロー配管
46 水循環手段
48 循環用管
50 第2のポンプ
52 蒸気供給手段
54 蒸気配管
56 蒸気噴出口
100 麦芽再製処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麦芽を収容するための麦芽ホッパーと、この麦芽ホッパーに連設されたコンディショニングルームと、このコンディショニングルームに連設された粉砕機とを有する麦芽用湿式粉砕装置であって、
麦芽ホッパー内の麦芽を浸漬するため、麦芽ホッパー内へ所定温度の水を供給するための給水手段と、
麦芽を浸漬した麦芽ホッパー内の水温を所定温度に維持するための水温調整手段と、
麦芽ホッパー内の水を廃水するための廃水管とを有する、ことを特徴とする麦芽再製機能を備えた麦芽用湿式粉砕装置。
【請求項2】
更に、麦芽ホッパー内の水と麦芽を攪拌するため、麦芽ホッパー内に気体を吹き込むための気体供給手段を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の麦芽用湿式粉砕装置。
【請求項3】
更に、給水管から麦芽ホッパー内に水を補給している間に、麦芽ホッパー内の水の液面近傍の水が排出されるように、麦芽ホッパーの上部に接続されたオーバーブロー配管を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の麦芽用湿式粉砕装置。
【請求項4】
更に、麦芽ホッパーに接続された循環用管と、麦芽ホッパー内の水及び麦芽を循環用管内を通過させて麦芽ホッパーに戻すための圧送手段を有する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の麦芽用湿式粉砕装置。
【請求項5】
更に、浸漬により水を含んだ麦芽を加熱するための蒸気供給手段を有する、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の麦芽再製処理装置。
【請求項6】
前記蒸気供給手段はコンディション筒に設けられている、ことを特徴とする請求項5に記載の麦芽用湿式粉砕装置。
【請求項7】
麦芽ホッパーに麦芽を供給する工程と、麦芽ホッパー内に所定温度の水を供給する工程と、麦芽ホッパー内の水を所定温度に維持しつつ、麦芽を所定時間、水中に浸漬する工程と、を有する再製麦芽再製処理方法。
【請求項8】
更に、麦芽ホッパー内に気体を吹き込んで、麦芽ホッパー内の水と麦芽を攪拌する工程を有する、ことを特徴とする請求項7に記載の麦芽再製処理方法。
【請求項9】
更に、給水管から麦芽ホッパー内に水を補給しつつ、麦芽ホッパー内の水の液面近傍の水を排出する工程を有する、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の麦芽再製処理方法。
【請求項10】
更に、水及び麦芽を、麦芽ホッパーに接続された循環用管内を通過させた後、麦芽ホッパーに戻して循環させる工程を有する、ことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の麦芽再製処理方法。
【請求項11】
更に、麦芽ホッパー内の水を廃水する工程と、浸漬して水を含んだ麦芽を蒸気で加熱する工程とを有する、ことを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の麦芽再製処理方法。
【請求項12】
乾燥した麦芽を再製処理するための麦芽再製処理装置であって、
麦芽を収容するタンクと、
タンクに麦芽を供給する麦芽供給手段と、
タンク内の麦芽を浸漬するため、タンク内へ所定温度の水を供給するための給水手段と、
麦芽を浸漬したタンク内の水温を所定温度に維持するための水温調整手段と、
タンク内の水を廃水するための廃水管とを有する、ことを特徴とする麦芽再製処理装置。
【請求項13】
タンクに麦芽を供給する工程と、タンク内に所定温度の水を供給する工程と、タンク内の水を所定温度に維持しつつ、麦芽を所定時間、水中に浸漬する工程と、を有する再製麦芽再製処理方法。
【請求項14】
麦芽を収容するための麦芽ホッパーと、この麦芽ホッパーに連設されたコンディショニングルームと、このコンディショニングルームに連設された粉砕機とを有する麦芽用湿式粉砕装置であって、
コンディション筒に、麦芽を加熱するための蒸気供給手段が設けられている、ことを特徴とする麦芽再製機能を有する麦芽用湿式粉砕装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−38974(P2009−38974A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204030(P2007−204030)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(597104396)アサヒビールモルト株式会社 (8)