説明

麦芽豆乳及び麦芽豆乳の製造方法

【課題】香味が改善された新規な豆乳の製造方法を提供すること。
【解決手段】豆乳又は豆乳を含む飲料に麦芽を添加して加熱する加熱工程Aを備える、麦芽豆乳の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽豆乳及び麦芽豆乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆を加工して製造される豆乳には、大豆に含まれる栄養成分が豊富に含まれており、健康食品として知られている。これまでに豆乳を利用した種々の飲料が提供されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、大豆の蛋白質を主成分とし、米糠と麦芽とブドウ糖と食品添加物用クエン酸とを含有することを特徴とする植物性蛋白質を基とする活性因子含有清涼飲料水が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−243973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、豆乳には大豆特有の不快臭や不快味(豆臭さ、青臭さ等)があるため、敬遠する人がいるなど、香味については改善の余地がある。そこで、本発明は、香味が改善された新規な豆乳、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、豆乳又は豆乳を含む飲料に麦芽を添加して加熱する加熱工程Aを備える、麦芽豆乳の製造方法を提供する。本発明の麦芽豆乳の製造方法によれば、豆乳又は豆乳を含む飲料に麦芽を添加したものを加熱処理することにより、大豆特有の不快臭や不快味(豆臭さ、青臭さ等)が低減され、かつ麦芽に由来する良好な香味(甘み等)を付与することができるため、香味が改善された新規な豆乳を製造することができる。
【0007】
上記加熱工程Aにおける加熱温度は35〜65℃であることが好ましい。加熱温度がこの範囲内にあることにより、香味が改善される効果がより顕著になる。
【0008】
上記製造方法は、加熱後の上記豆乳又は豆乳を含む飲料を、上記加熱工程Aにおける加熱温度よりも高い温度で加熱する加熱工程Bを更に備えていてもよい。加熱工程Bを備えることにより、香味が改善される効果がより一層顕著になる。
【0009】
上記麦芽の添加量は、上記豆乳又は豆乳を含む飲料の全量に対して、1〜40質量%とすることができる。
【0010】
本発明はまた、上記製造方法で得ることのできる麦芽豆乳を提供する。本発明の麦芽豆乳は、大豆特有の不快臭や不快味(豆臭さ、青臭さ等)が低減され、かつ麦芽に由来する良好な香味を呈する。
【0011】
本発明はさらに、豆乳又は豆乳を含む飲料に麦芽を添加して加熱する、豆乳又は豆乳を含む飲料の香味改善方法を提供する。本発明の香味改善方法によれば、大豆特有の不快臭や不快味(豆臭さ、青臭さ等)を低減することができ、かつ麦芽に由来する良好な香味を付与することができるため、豆乳又は豆乳を含む飲料の香味を改善することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、香味が改善された豆乳又は豆乳を含む飲料(麦芽豆乳)の製造方法が提供される。本発明の麦芽豆乳は、大豆特有の不快臭や不快味(豆臭さ、青臭さ等)が低減され、かつ麦芽に由来する良好な香味を呈する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態についてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
本明細書において、「豆乳」とは、大豆から熱水等により蛋白質その他の成分を溶出させ、繊維質を除去して得られる乳状の飲料を意味する。「豆乳」には、例えば、原豆乳、無調整豆乳等が含まれる。
【0015】
本明細書において、「豆乳を含む飲料」とは、上述の「豆乳」を含む飲料を意味し、例えば、豆乳に添加物を加えた飲料、豆乳を添加した飲料等が含まれる。豆乳は、希釈又は濃縮されていてもよい。添加物としては、例えば、大豆油等の植物油脂、砂糖類及び食塩等の調味料、粉末大豆蛋白、果実の搾汁、果実のピューレ、野菜の搾汁、野菜のピューレ、乳、乳製品、殻類粉末等の風味原料が挙げられる。これら添加物は1種単独で、又は2種以上を使用してもよい。「豆乳を含む飲料」には、例えば、調整豆乳、豆乳飲料等が含まれる。
【0016】
〔麦芽豆乳の製造方法〕
本発明の麦芽豆乳の製造方法は、豆乳又は豆乳を含む飲料に麦芽を添加して加熱する加熱工程Aを備える。加熱工程Aは、豆乳又は豆乳を含む飲料と、麦芽とが接触した状態で加熱するものである。
【0017】
従来行われている豆乳の製造方法は、例えば、大豆を水に浸漬する工程と、浸漬後の大豆を磨砕し生呉を得る工程と、生呉を固形分と豆乳とに分離する工程とを含む。また、分離する工程の前に生呉を加熱して煮呉を得る工程を更に備える場合もある。
【0018】
加熱工程Aには、豆乳として、上記豆乳の製造方法において大豆が磨砕された後のもの、すなわち、固形分と分離される前の豆乳を用いてもよく、固形分と分離された後の豆乳を用いてもよい。
【0019】
加熱工程Aにおける加熱温度は、35〜65℃であることが好ましく、45〜65℃であることがより好ましい。加熱温度が上記範囲内にあることにより、香味が改善される効果がより顕著になる。
【0020】
加熱工程Aにおける加熱時間は、特に制限されるものではなく、例えば、15〜120分とすることができる。スループットを向上させ製造コストを低減する観点からは、120分以下とすることが好ましく、90分以下とすることがより好ましい。また、大豆特有の不快臭や不快味(豆臭さ、青臭さ等)を充分に低減し、かつ麦芽に由来する良好な香味を充分に付与する観点からは、15分以上とすることが好ましく、30分以上とすることがより好ましい。
【0021】
加熱工程Aにおける麦芽の添加量は、例えば、豆乳又は豆乳を含む飲料の全量に対して、1〜40質量%とすることができる。また、大豆特有の不快臭や不快味(豆臭さ、青臭さ等)の低減と、麦芽に由来する良好な香味の付与とのバランスが良好であることから、3〜25質量%とすることが好ましく、3〜15質量%とすることがより好ましい。
【0022】
〔加熱工程B〕
上記麦芽豆乳の製造方法は、加熱工程Aで加熱した後の豆乳又は豆乳を含む飲料を、加熱工程Aにおける加熱温度よりも高い温度で加熱する加熱工程Bを更に備えることが好ましい。
【0023】
加熱工程Bにおける加熱温度は、加熱工程Aにおける加熱温度よりも高い温度であればよいが、具体的には、例えば、麦芽中に含まれるアミラーゼ(α−アミラーゼ、β−アミラーゼ)の至適温度である、60〜80℃とすることが好ましい。また、加熱工程Bを実行する場合には、上述した加熱工程Aにおける加熱温度は、麦芽中に含まれるプロテアーゼの至適温度である、35〜55℃とすることが好ましい。加熱温度をこのような範囲内にすることにより、豆乳又は豆乳を含む飲料に、麦芽に由来する良好な香味をより一層充分に付与することができる。
【0024】
加熱工程Bにおける加熱時間は、特に制限されるものではなく、例えば、15〜240分とすることができる。スループットを向上させ製造コストを低減する観点からは、240分以下とすることが好ましく、120分以下とすることがより好ましい。また、麦芽に由来する良好な香味を充分に付与する観点からは、15分以上とすることが好ましく、30分以上とすることがより好ましい。
【0025】
なお、加熱工程Aの後、加熱工程Bの加熱温度まで温度を上昇させる際の温度上昇速度は、例えば、0.5〜4℃/1分の範囲内で任意に設定することができる。温度上昇速度を速くして、一気に温度を上昇させてもよいが、例えば、温度上昇速度が0.5〜2℃/1分の範囲内となるようゆっくりと温度を上昇させてもよい。ゆっくりと温度を上昇させる場合、加熱工程Bの加熱温度に到達した後、その温度で加熱を続けてもよいし、加熱工程Bの加熱温度に到達した時点で直ちに加熱工程Bを終了させてもよい(加熱時間を数秒〜数分程度とすることに相当する)。
【0026】
また、温度上昇速度は常に一定である必要はない。さらに、加熱工程Aの加熱温度と加熱工程Bの加熱温度の間の任意の温度に到達した時点で、所定時間、温度上昇速度を0として、当該任意の温度でインキュベートしてもよい。
【0027】
加熱工程Bを備えるときの加熱温度及び加熱時間の具体例として、例えば、以下のものが挙げられる。まず、加熱工程Aを45℃で1時間実行し、その後1℃/1分の温度上昇速度で70℃まで温度を上昇させ、加熱工程Bを70℃で1時間実行する。
【0028】
〔麦芽〕
上記麦芽豆乳の製造方法に用いられる「麦芽」は、大麦を発芽させたものであればよい。麦芽として、例えば、麦芽発酵飲料の製造に用いられる麦芽を使用することができる。
【0029】
麦芽は、例えば、大麦を水に浸し発芽を促す浸麦工程、大麦を発芽させ緑麦芽を得る発芽工程、乾燥と焙煎を行う焙燥工程を経て製造される。上記麦芽豆乳の製造方法には、このようにして得られた麦芽を使用することができる。また、乾燥と焙煎を行う前の緑麦芽を使用してもよい。
【0030】
〔麦芽豆乳〕
本発明の麦芽豆乳は、上記麦芽豆乳の製造方法により得ることのできる、香味が改善された豆乳又は豆乳を含む飲料である。麦芽豆乳としては、例えば、豆乳を原料として上記麦芽豆乳の製造方法により得られるもの(香味が改善された豆乳)そのもの、香味が改善された豆乳に上述した添加物を加えた飲料、香味が改善された豆乳を添加した飲料、豆乳を含む飲料を原料として上記麦芽豆乳の製造方法により得られるものそのもの等が含まれる。
【0031】
〔豆乳又は豆乳を含む飲料の香味改善方法〕
本発明の豆乳又は豆乳を含む飲料の香味改善方法は、豆乳又は豆乳を含む飲料に麦芽を添加して加熱することを含む。麦芽、麦芽の添加量、加熱温度、及び加熱時間等の条件は、上記麦芽豆乳の製造方法で説明した加熱工程Aの条件と同じ条件にすることができる。
【0032】
上記香味改善方法は、加熱後の麦芽を添加した豆乳又は豆乳を含む飲料を、より高い加熱温度で更に加熱することを含むのが好ましい。これにより、より一層香味が改善される。更に加熱する場合の、加熱温度、加熱時間、及び温度上昇速度等の条件は、上記麦芽豆乳の製造方法で説明した加熱工程Bの条件と同じ条件にすることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
〔麦芽豆乳の製造及び評価(1)〕
豆乳(無調整豆乳)に麦芽を添加して、45℃30分加熱した後(加熱工程A)、1℃/1分の温度上昇速度で70℃まで温度を上昇させ、その後70℃で1時間加熱を行って(加熱工程B)、麦芽豆乳を製造した。麦芽の添加濃度は、豆乳全量に対して、3.13質量%、6.25質量%、12.5質量%、25質量%とした。また、比較対照として、麦芽を添加していない(0質量%)未処理の豆乳を用意した。
【0035】
得られた麦芽豆乳について、5名のパネルにより官能評価を行った。結果を表1に示す。官能評価は、麦芽豆乳の香味(香り、風味)について、比較対照の豆乳の評点を3.0とし、比較対照の豆乳よりも香味がよい場合に高い評点(最大5.0)を付け、比較対照の豆乳よりも香味が悪い場合に低い評点(最小1.0)を付け、5名のパネルが付けた評点の平均値を求めた。また、各パネルには、それぞれの麦芽豆乳(及び比較対照の豆乳)の香味等について、自由にコメントしてもらった。その結果をフリーコメントとして、併せて表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
官能評価の評点の平均値(5名のパネルの評点の平均値)から明らかなように、比較対照の豆乳に対し、いずれの麦芽豆乳も高い評点を得た(表1)。すなわち、これらの麦芽豆乳は、香味が改善されていることが明らかとなった。
【0038】
フリーコメントから明らかなように、比較対照の豆乳で感じられた豆臭さや青臭さは、麦芽添加量3.13質量%の麦芽豆乳で低減されていた(表1)。また、麦芽添加量がより増えるにしたがって、甘みが感じられるようになり、より好ましい香味を呈していることがわかった(表1)。ただし、麦芽添加量25質量%の麦芽豆乳では、甘みが強くなり過ぎてかえって香味に悪影響を及ぼしていることがわかった(表1)。
【0039】
〔麦芽豆乳の製造及び評価(2)〕
麦芽の添加濃度が豆乳全量に対して6.25質量%となるように、豆乳に麦芽を添加し、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃及び80℃で1時間加熱して(加熱工程A)、麦芽豆乳を製造した。また、麦芽の添加濃度が、豆乳全量に対して、6.25質量%となるように、豆乳に麦芽を添加し、45℃30分加熱した後(加熱工程A)、1℃/1分の温度上昇速度で70℃まで温度を上昇させ、その後70℃で1時間加熱を行って(加熱工程B)、麦芽豆乳を製造した(コングレス処理)。比較対照として、未処理の豆乳を用意し、上記〔麦芽豆乳の製造及び評価(1)〕と同様にして官能評価を行った。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
30℃、70℃及び80℃で加熱した麦芽豆乳の評点の平均値は、未処理の豆乳の評点を下回った。一方、40℃、50℃及び60℃で加熱した麦芽豆乳の評点の平均値はいずれも未処理の豆乳を上回っており、これらの麦芽豆乳は、香味が改善されていることが明らかとなった(表2)。
【0042】
表1及び表2に記載した結果から(例えば、表2ではコングレス処理した麦芽豆乳が最も香味が改善されていた。)、本発明に係る麦芽豆乳の製造方法により、豆乳の香味が改善される理由のひとつとして、麦芽に由来するプロテアーゼ及びアミラーゼの働きにより各種アミノ酸やマルトース等の糖類が生成し甘みや旨みが増強されるためであると考えられる。この点、特開平1−243973号公報(特許文献1)に記載されているように麦芽抽出液(麦芽エキス)を添加しても、麦芽エキスでは麦芽中の酵素が失活しているため、このように香味が改善する効果は得られないと考えられる。
【0043】
一方、豆乳の豆臭さ、青臭さ等の原因物質として、ヘキサナール(アルデヒド類)、ヘキサノール(アルコール類)等が知られているが、麦芽に由来するプロテアーゼ及びアミラーゼはこれらの原因物質を分解することはできない。表1の麦芽添加量3.13質量%の麦芽豆乳では、甘さを感じる前に豆臭さ、青臭さが低減(フリーコメント参照)していることから、この豆臭さ、青臭さを低減する効果は、麦芽に由来するプロテアーゼ及びアミラーゼの働き以外のメカニズムによるものであると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳又は豆乳を含む飲料に麦芽を添加して加熱する加熱工程Aを備える、麦芽豆乳の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程Aにおける加熱温度が35〜65℃である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
加熱後の前記豆乳又は豆乳を含む飲料を、前記加熱工程Aにおける加熱温度よりも高い温度で加熱する加熱工程Bを更に備える、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記麦芽の添加量が、前記豆乳又は豆乳を含む飲料の全量に対して、1〜40質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法により得ることのできる麦芽豆乳。
【請求項6】
豆乳又は豆乳を含む飲料に麦芽を添加して加熱する、豆乳又は豆乳を含む飲料の香味改善方法。

【公開番号】特開2013−17418(P2013−17418A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153069(P2011−153069)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【Fターム(参考)】