説明

麹等カビによる前発酵工程を含む米粉パンの製法

【課題】本願発明の第1の課題は、身近で、食しても安全な材料で、且つ簡易に100%米粉のパンを製造する方法を提供することである。
更に、本願発明の第2の課題は、膨らみが十分であり、食味・食感が良い100%米粉のパンを製造する方法を提供することである。
【解決手段】本願発明は、食経験豊かな米麹を用いた米粉の前発酵によって、膨らみが格段に向上した100%米粉パンを製造する方法を提供する。さらに100%米粉パン用の米粉を調製するのに適した米品種を検討し、麹菌との組み合わせによる、最適なアミロース含量の範囲を決定し、欠損あるいは低含量とすべきタンパク質を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,米粉の用途および利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米は日本における唯一の自給可能な穀物資源であるが、その消費量は減少の一途をたどっており、需要増加に結びつく用途開発が強く求められている。40%にまで低下した食料自給率の向上には、米粉利用などの食の多様性を見出していかなければならない。特に、市場規模の大きい「パン」の原材料として米粉を利用することは、大きな需要効果が期待できる。従来からの米粉パンは粉体組成によって、1.小麦粉と米粉(〜20%)を混ぜる、2.グルテンと米粉(80%程度)を混ぜる、3.小麦・グルテンフリーの米粉100%パン、の3種に大別される。米粉パンは米粉の分量が多くなるほど、膨らみと食味を維持することが困難であり、特に米粉100%パンにおいては、両者を兼ね備えた効果的な製法は未だ見出されていない。米粉分量の多いパンは、米の需要拡大にとって大きなメリットであり、特に米粉100%パンは小麦アレルギーを持つ人にも対応できることから、その製法の開発は強く求められている。
【0003】
従来、米をパンの製造に利用するための技術としては、例えば、酵素処理することにより調製されたパン生地用米粉(特許文献1)、米粉にグルテンを添加し更にマルトースを加えたパン用のもち米パン粉(特許文献2)、玄米、精白米又は発芽米等の原料米にトレハロース又はマルチトールを浸透させ、部分乾燥により水分含量を調整して粉砕した平均粒径が特定された製パン用の米粉(特許文献3)、精白米を洗米及び水漬けなどの加水操作行なって調製した浸漬米をロール製粉機で粗粉砕した後、さらに気流粉砕機で微粉砕する米粉(特許文献4)などが知られている。
【0004】
また、これまでの100%米粉パンを膨らませる技術としては、主にグアガムやヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)といった増粘多糖を添加する方法がある(特許文献5)。また、ポテトスターチ(特許文献6)や大豆の脱脂かすを添加する例もあるが、100%米粉パンとは言えない。最近では、グルコースオキシダーゼやグルタチオン添加(非特許文献1)によって膨らみを向上させた報告もされている。これら添加剤を使わない方法として、プラスチックの発泡技術を応用した製法もある。しかしながら、いずれも膨らみが不十分で、食味が低下することから、十分な技術とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平7-59173号
【特許文献2】特開20009−22306号
【特許文献3】再表2004/047561号
【特許文献4】特開平04-063555号
【特許文献5】特開2005-245409号
【特許文献6】特開2005-253361号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J Agric Food Chem 2010 58巻、13号、7949-54頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術による粉体として米粉を100%用いて製造したパンは、膨らみが不十分であり、食味・食感が悪いという大きな問題がある。また、添加剤として用いられる化合物は化学試薬である場合が多く、コスト的に割高になり、安全性の面で消費者からは受け入れ難い。最近報告された、グルタチオン添加の100%米粉パンは、膨らみが向上し、きめの細かい柔らかいパンを作ることは可能だが、国内ではグルタチオンは添加剤として認められていない。また、精製された高純度のグルタチオンが必要とされることから、実用化の目処は立っていない。
【0008】
そこで、本願発明の第1の課題は、身近で食しても安全な材料で、且つ簡易に100%米粉のパンを製造する方法を提供することである。
【0009】
更に、本願発明の第2の課題は、膨らみが十分であり、食味・食感が良い100%米粉のパンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、食経験豊かな米麹を用いて米粉を前発酵することによって、膨らみが格段に向上した100%米粉パンを製造できることを見出した。さらに麹菌による前発酵との組み合わせで、100%米粉からパンを製造するための、100%米粉パン用米粉を調製するのに適した米品種を検討し、米の最適なアミロース含量の範囲を決定した。更に、米のタンパク質のうち、グロブリンが欠損し、及び/又はグルテリンが低含量であることが望ましいことを見出した。これにより、麹菌による前発酵との組み合わせで、100%米粉からパンを製造するための、100%米粉パン用米粉を調製するのに適した米が備える条件を明らかにした。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、食経験豊かで身近に入手できる米麹を使うことで、100%米粉を用いても十分なパンの膨らみを実現した。本発明は、更に、米粉を製造する米品種を検討することにより、パンが十分膨らみ且つ食感も優れた100%米粉パンを提供するという優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】麹発酵による膨らみへの効果 なお、図中、左側の写真はパンを切っていないもの、右の写真は断面を見せるためにパンを切ったものである。
【図2】アミロース含有量と麹発酵による膨らみへの影響
【図3】タンパク質変異米と麹発酵による膨らみへの効果
【図4】麹及びイーストによる前発酵、並びにグルタチオン添加との比較実験結果
【図5】パンのふくらみの比較(1)
【図6】パンのふくらみの比較(2)
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.はじめに
小麦粉から作るパンは、小麦粉に含まれるグルテンにより、パンドウを捏ねる粘り気がで、パンドウ中に網状構造を形成できる。これを酵母による発酵で膨らませることにより、発酵ガスをこの網状構造に閉じ込めることができ、焼成した時に、ふっくらとしたパンができる。
【0014】
他方、米粉には、小麦粉のようにグルテンが含まれていないので、米粉の分量が多くなり、グルテンが少なくなるほど、そのまま酵母で発酵させても膨らみを維持することが困難となり、特に米粉100%パンにおいては、ふくらみと食味の両者を兼ね備えた効果的な製法は未だ見出されていない。
【0015】
2.本願発明の白米粉100%でのパン製造方法
本発明者等は、酵母による発酵前に、カビ、例えば、米麹で白米粉を加水したバッターを前発酵することにより、米粉パンを良く膨らませることができ、これにより、100%米粉を用いてパン製造ができることを見出した。
【0016】
本願発明の米粉パンの製造方法には、米粉パン製造において、酵母による発酵前に、米麹などの麹、或いは飲料又は食品製造用のカビで米粉を前発酵させることを包含する。
【0017】
本願発明は、例えば、パン製造用の穀粉などの粉体原料において米粉の使用割合を非常に高く実質的に米粉のみでパンを製造する方法であり、好適には、100%白米粉を用いてパンを製造する方法であるが、他の穀粉が微量含まれることは妨げられず、粉体中95%以上を白米、98%以上を白米粉、あるいは、99%以上が白米粉とすることもできる。本願発明は、中種生地法において、前発酵を、酵母の代わりに米麹などの麹、或いは飲料又は食品製造用のカビで、米粉を非常に高い割合で含む粉体原料を前発酵させるパン製造方法を包含する。
【0018】
米粉以外の澱粉質原料としては、米粉を用いたパン製造に用いられる、種々の穀粉、小麦粉、コーンスターチ、大豆粉などを用いることもできる。
【0019】
2−1.前発酵のための材料
2−1−1.麹菌を含む食品製造用カビ
本発明にもちいることができる飲料又は食品製造用のカビとしては、Aspergillus属に属する微生物、及びRhizopus属に属する微生物を挙げることができ、より具体的には、例えば、米麹のAspergillus oryzae、味噌・醤油用の麹Aspergillus sojae、焼酎や泡盛では黒麹Aspergillus niger、及びRhizopus Oryzospurusを挙げることができる。
【0020】
2−1−2.白米粉
本発明で使用する米粉としては、白米由来の米粉であれば、どのようなものも用いることができる。例えば、比較的米粉の粒度の粗いロール式粉砕やピン式粉砕、米粉の粒度の細かい気流式粉砕や胴搗き式粉砕により製造された米粉を挙げることができる。また精白米の状態としては、乾燥したままの乾式、水浸責による湿式、ペクチナーゼなどによる酵素処理法のいずれでもよい。例えば、白米粉は、水浸責による湿式気流粉砕法で行い、具体的には、2時間水に浸漬して吸水させた後、遠心による脱水機で表面の水分を取り除き、気流粉砕処理は、株式会社西村機械製作所SPM-R290製粉機スーパーパウダーミル(渦流式微粉粉砕機)を用い、ブレードの回転速度は、40Hzないし50Hz、サンプル供給速度(フィーダ)は、レベル1ないし2で行うことができる。
【0021】
2−2.前発酵材料の調製
本願発明における前発酵には、まず、例えば、白米粉に水とカビを加えた後に、良く混ぜ合わせる。これにより、カビの繁殖を促進し、全体を満遍なく発酵させることができる。白米粉・水・カビが存在する状態でよく混ぜられるのであれば、加える順番等はいずれでもよく、白米粉を加水、混合してから、カビを加え、再度混合してもよい。好適には、白米粉に水とカビを同時に加えた後に、良く混ぜ合わせる。
【0022】
なお、麹を満遍なく混ぜるために良く混ぜ合わせるが、例えば、ハンドミキサーで5〜10分とすることができる。なお、通常の中種生地法とは異なり、この前発酵では、酵母は加えない。
【0023】
2−3.前発酵の条件
本願発明の前発酵は、上記2−2.で調製された前発酵用材料を、25℃〜60℃、より好適には45℃〜60℃で、5時間〜24時間、より好適には5時間〜12時間発酵させることで、なしえる。発酵時間は、用いる温度と最初に加える麹種の量によって変えることができる。低温で長時間の前発酵では、他の雑菌の汚染を招く可能性が高くなり、長時間の前発酵では、過発酵による雑味が強くなるなども問題が生じやすい。
【0024】
2−4.前発酵後の工程
前発酵後に、ドライイースト等の酵母及び残りの副材料を加えて混ぜる。副材料としては、食塩、砂糖、乳化剤、イーストフード、着色料、小麦粉、油脂、砂糖を含む糖類、ベーキングパウダー、香料、ビタミン類(栄養強化剤)、及び/又は保存料を挙げることができ、更に、必要に応じ、増粘剤及び/又はアミラーゼ等を加えても良い。このとき加える酵母、例えば、ドライイースト菌をしっかりと分散させるためによく混ぜることが望ましく、例えば、攪拌は、家庭用ミキサー(KitchenAid 社製)を用いた場合、4-6速で5-15分程度、より好適には6速で10分程度とすることができる。特にこの2回目の混ぜが不十分だとパンのふくらみが不十分となり、潰れたパンになる。
【0025】
上記方法で調製された生地は、目的の形状に合わせた型に流し込み、ホイロ(38℃、40−60分間)を行う。過度のホイロは生地中の気泡(発酵ガス)を外に逃がし、パンが潰れる原因になるため、生地が2倍程度に膨らんだところでホイロを終了するのが適当である。焼成は、家庭用オーブン等を用いて140-160℃で、30-40分間で行う。通常の小麦粉パンに比べ、焼成によりパン表面が堅くなり易いことから、極端に高い温度は避け、スチーム(加湿)を行うこと良い。
【0026】
3.麹等カビで前発酵する工程を含む白米パン製造方法で用いる白米粉を調製するための米が備えるべき条件の検討
本願発明で使用する白米粉を調製するための米の備えるべき条件について検討した。
3−1.アミロース含量
本発明の麹菌等による前発酵を用いた場合に、どのような米粉が適しているか、アミロース含量の異なる品種を用いて検討した。その結果、低アミロース米は発酵ガスを生地の中に保持できず潰れてしまうことが分かった。コシヒカリのような15%程度の以上のアミロース含量であれば膨らませることは出来るが、より好適には20%〜25%程度アミロース含量が、膨らみと食感の両面で良いことが明らかとなった。用いることができる品種としては、ミズホチカラやモミロマンがあり、好適には、ミズホチカラを用いることができる。なお、米のアミロース含量については、栽培条件で変動し、特に米の登熟時期の気温が関与し、低温になることでアミロース含量が増える。そこで、温度条件などを調整することにより、15%以上のアミロース含量、好適には20%〜25%程度アミロース含量とした米であれば、他の品種であっても、本願発明の方法に用いることができる。
【0027】
3−2.グロブリン欠損、グルテリン含量
本発明による麹等による前発酵では、発酵臭が雑味となることが問題である。そこで、麹発酵後の生地のタンパク質を調べたところ、可溶性タンパク質であるグロブリンが分解されて消失していることが分かった。発酵臭の原因は、このタンパク質分解による代謝産物によるものと考え、易分解性貯蔵タンパク質の少ない品種を検討した。用いた品種は、26kDa α―グロブリン欠損品種である「89WPKG30-433」、低グルテリン米の(ただし、グロブリンは増加している)「LGC1」、および両者を掛け合わせたグロブリン欠損・低グルテリン米の「LGC 潤」である。なお、米には26kDa α―グロブリン遺伝子以外の「グロブリン遺伝子」もあるため、グロブリンとしてはまだ少し残っている。ただ、「26kDa α―グロブリン」が米中のグロブリンのほとんどを占めるために、26kDa α―グロブリン遺伝子欠損したものはほとんどグロブリンを含まない。グロブリン欠損品種は、具体的には、26kDa α―グロブリンは全く含まず、且つ米全体のグロブリンタンパク質の90%以上が減少している。また、低グルテリン米(LGC1およびLGC潤)は、「通常品種に比べ1/2以下に可消化性タンパク質のグルテリンが減少している」とイネ品種特性データベース(http://ineweb.narcc.affrc.go.jp/)に登録されている。なお、各たんぱく質量はSDS-PAGE(タンパク質の電気泳動)による見かけの量(バンドの濃さ)で判断することができる。
【0028】
結果、膨らみはLGC1、LGC潤が良かったことから、低グルテリンの効果によるものと考えられる(図3、図5及び6)。一方、食味については、89WPKG30-433およびLGC潤において発酵臭が少なく、良い評価が得られたことから(表1及び2)、グロブリン欠損の性質が良い効果を出していた。つまり、グロブリンが実質上欠損し、グルテリン量が通常品種に比べ1/2以下に減少している米は米粉パンに適している。なお、グロブリンが実質上欠損し、グルテリン量が通常品種に比べ1/2以下に減少している米品種を選択するだけではなく、米中のグロブリン量、グルテリン量についても、施肥条件で米のタンパク質全体量を多少変動させることができる。更に、米粉処理の際に、塩水溶液やアルカリ水などでタンパク質を可溶化して洗い流す方法で除タンパクすることもできる。
【実施例】
【0029】
[実施例1]麹発酵を用いた100%米粉パンの作製
(1)白米の製粉
白米の製粉は、各種白米を水道水で2時間吸水させ、脱水機で10分程度の遠心によって表面水分を取り除いた後に、スーパーパウダーミル(渦流式微粉粉砕機)(株式会社西村機械製作所SPM-R290製粉機)を用いて行った。コントロールとして用いた市販の米粉は、株式会社波里「スーパーミラクルパウダー」を用いた。
【0030】
(2)パンの調製
市販米粉200g に同量(200g)の水を添加し、市販の米麹(株式会社伊勢惣「みやここうじ」)を10g添加した。家庭用ミキサー(KitchenAid社製)を用いて、23〜26℃の室温下で、6速5分程度撹拌し、ラップで覆い55℃のインキュベーターに6時間放置した(前発酵)。前発酵終了後の生地に副材料として、塩3g、砂糖15g、ドライイースト3gを加えた。更に同ミキサーを用いて、23〜26℃の室温下で、6速で10分間良く撹拌しパン生地を作製した。生地を山型食パン用の型に流し込み、38℃、湿度80%のホイロで生地上端が型の上端に到達するまで(約40〜60分間)発酵を行った。その後は家庭用オーブンにて、150℃、35分間スチームしながら焼成し、パンを調製した。結果を図1に示す。
【0031】
(3)上記(1)記載の方法を用いて、アミロース含量の異なる品種である、ミルキークイーン、コシヒカリ、ミズホチカラ、モミロマン、及び越のかおりから白米粉を製造した。そして、それぞれから、上記(2)の方法に準じて、100%米粉パンを調製した。結果を図2に示す。なお、アミロース含量の測定は、ブラン・ルーベ株式会社「オートアナライザーII型」を用い、添付の指示書に従い、アミロースのヨウ素染色による比色法によって測定した。標準試料として、糯米の粉にポテトアミロースを添加したものか、糯米のデンプンにポテトアミロースを添加したものを用いた。0,5,1015,20,25%のアミロース濃度になるように調製し検量線を作製した。
【0032】
結果を図2に示す。低アミロース米は発酵ガスを生地の中に保持できず潰れてしまうことが分かった。これまでの増粘多糖を加えた100%米粉パンや、小麦粉・小麦グルテンとのミックスでは、低アミロースの方が良いと考えられていたが、本発明においては適したアミロース含量は異なることが分かった。コシヒカリのような15%程度以上のアミロース含量であれば膨らませることは出来るが、より好適には20%〜25%程度アミロース含量が、膨らみと食感の両面で良いことが明らかとなった。今回用いた品種の中では「ミズホチカラ」が最も良かった。
【0033】
(4)これまで報告された麹を用いた従来技術(特開平特開平11-225661)において、麹発酵の発酵臭による雑味が問題と考えられるが、その具体的な解決策はこれまでなかった。麹発酵後の生地のタンパク質を調べたところ、可溶性タンパク質であるグロブリンが分解されて消失していることが分かった。発酵臭の原因は、このタンパク質分解による代謝産物によるものと考え、易分解性貯蔵タンパク質の少ない品種を検討した。用いた品種は、26kDa α―グロブリン欠損品種である「89WPKG30-433」、低グルテリン米の「LGC1」、および両者を掛け合わせたグロブリン欠損・低グルテリン米の「LGC潤」である。なお、低グルテリン米(LGC1およびLGC潤)は、「通常品種に比べ1/2以下に可消化性タンパク質のグルテリンが減少している」と表示されている。また、グルテリン量は、SDS-PAGE (タンパク質の電気泳動)による見かけの量(バンドの濃さ)で判断できる。
【0034】
上記品種を用いて(2)と同様にパンを製造した。その結果を図3に示す。膨らみはLGC1、LGC潤が良かったことから、低グルテリンの効果によるものと考えられる。
【0035】
一方、食味については、結果を表1にまとめて示す。89WPKG30-433およびLGC潤において発酵臭が少なく、良い評価が得られたことからグロブリン欠損の性質が良い効果を出していた。今回用いた品種の中では「LGC潤」が最も良かった。
【0036】
【表1】

【0037】
(5)さらに、上記(3)及び(4)で調製したパンを、製パン1日後、パンの中央部を切断した面にノギスあて、底面から最も高い上端を測定し、パンの膨らみを高さで表した。さらにパンの硬さと食味について検討した。結果を図5に示す。
【0038】
(6)同様に(2)の方法でLGC潤とミズホチカラの米粉を用いて製造したパンと、(イ)麹のみによる前発酵に代えて、麹とイーストで米粉を前発酵した特開平11-225661の方法で製造したパン、及び(ロ)グルタチオンを用いて製造したパンと外見の比較及び上記(4)同様の食味試験を行った。結果を図4及び表2に示す。更に、(5)と同様に、パンのふくらみの高さを測定した結果を図6に示す。(イ)の方法ではイーストとの過発酵のせいか、むしろ麹本来の膨らみを阻害していると考えられる。最も問題なのは、発酵臭が強く食味が低下している点である。(ロ)グルタチオン添加による100%米粉パンにおいても、試薬特有のにおいがあり、塩気がなく、本発明によるパンの方が、膨らみ・食味において優れていることが分かった。
【0039】
以上のように、本発明のパン製造方法に適した米の備える条件を決定でき、本発明では麹による前発酵と、品種選定によって、膨らみと風味の良い100%米粉パンの製法技術を開発することができた。本実施例で用いた品種の中では、LGC潤の米粉を用いた場合が、いちばん膨らみと風味が良かった。
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本願発明は、米粉を用いたパン製造業、その他の食品産業の分野で利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉を用いたパンの製造において、酵母による発酵前に、Aspergillus属に属する微生物、及び/又はRhizopus属に属する微生物により前発酵をすることを特徴とする、米粉を用いたパン製造方法。
【請求項2】
米粉として、アミロース含量が20-25%である米から製造した米粉を用いる請求項1記載の方法。
【請求項3】
米粉として、通常品種と比較してグルテリン量が2分の1以下である米から製造した米粉を用いる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
米粉として、グロブリンが実質的に欠損した米から製造した米粉を用いる請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記前発酵を45℃〜60℃で、5時間〜12時間発酵させることにより行う、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記麹菌が、米麹である請求項1〜5いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−115197(P2012−115197A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266917(P2010−266917)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】