説明

麺類の水分分布測定装置及び方法

【課題】安価で、容易に、麺類内部の水分分布を測定でき、また、麺類内部の含水率が少ない領域でも適正に測定することができる装置を提供することを目的とする。
【解決手段】麺類からなる試料Sの横断面を撮影する撮像部1と、撮影した試料の断面画像をRGB分解する画像処理部2と、RGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する試料Sの横断面の輝度プロファイルを作成する輝度プロファイル作成部3と、試料Sと同一の試料に対して予め作成された輝度と含水率との関係を示す検量線データを格納する検量線メモリ5と、検量線を用いて試料Sの横断面の輝度プロファイルにおける各輝度を含水率に変換することにより試料Sの水分分布を測定する水分分布算出部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、麺類内部の水分分布を測定するための装置に関する。また、このような麺類内部の水分分布を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゆで麺及び冷凍麺等の様々な形態の麺類が、スーパーマーケットやコンビニエンスストアにおいて販売されている。このように市場で販売される麺類は、消費者の好みに合う食感を有するとともに、その劣化を抑え、好ましい食感を保持する物性を有することが必要とされる。従って、その製品や技術開発のためには、麺の固さや粘りなどの物性に大きな影響をもたらす麺類内部の水分含量や水分分布を把握する必要がある。
このような麺類の水分分布の測定方法としては、例えば、非特許文献1に挙げられるようなMRI(核磁気共鳴イメージング装置)を用いる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】化学と生物 VOL,49, No.3, p158-160 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1のMRIによる測定は、手間やコストがかかり、また、その測定装置が大型化してしまうという課題があった。また、MRI装置を用いた測定では、水分含量を求めることができない低水分領域が存在する。例えば、パスタに要求される「中心に芯の残る良好な食感(アルデンテ)」のパスタの中心部の含水率は正確に測定することができない。
【0005】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたものであって、安価で、容易に測定できるとともに、麺類内部の含水率が少ない領域でも適正に測定することができる装置を提供することを目的とする。
また、この発明は、このような水分分布を測定する方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願研究者らが注意深く検討を重ねたところ、麺類の色が含水率に応じて変化することを発見した。そこで、その知見に基づき、本研究者らは更に鋭意に検討を重ね、画像解析手法を取り入れた新しい水分分布測定装置を創案した。
すなわち、この発明に係る麺類の水分分布測定装置は、麺類からなる試料の横断面を撮影する撮像部と、撮影した試料の断面画像をRGB分解する画像処理部と、RGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する試料の横断面の輝度プロファイルを作成する輝度プロファイル作成部と、試料と同一の麺類に対して予め作成された輝度と含水率との関係を示す検量線データを格納する検量線メモリと、検量線データを用いて試料の横断面の輝度プロファイルにおける各輝度を含水率に変換することにより試料の水分分布を測定する水分分布算出部とを有する装置である。
【0007】
試料の横断面の輝度プロファイルは、横断面の中心を通る直線上の輝度プロファイルであることが好ましい。
輝度プロファイル作成部は、それぞれ試料の横断面の中心を通る複数の直線上の複数の輝度プロファイルを作成し、作成された複数の輝度プロファイルの平均を試料の横断面の輝度プロファイルとすることができる。
1つの成分は、青色であることが好ましい。
検量線データは、それぞれ異なる含水率で且つ内部の含水率を均一にした試料と同一の複数の麺類に対してそれぞれ横断面を撮影し、撮影された複数の横断面の画像をそれぞれRGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する輝度プロファイルを作成し、作成された複数の輝度プロファイルにおける輝度の平均値をそれぞれ算出し、算出された複数の輝度の平均値に対してそれぞれ対応する含水率をプロットすることにより作成されることが好ましい。
【0008】
この発明に係る麺類の水分分布測定方法は、麺類からなる試料の横断面を撮影し、撮影した試料の断面画像をRGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する試料の横断面の輝度プロファイルを作成し、試料と同一の麺類に対して予め作成された輝度と含水率との関係を示す検量線データを用いて試料の横断面の輝度プロファイルにおける各輝度を含水率に変換することにより試料の水分分布を測定する方法である。
【0009】
また、試料の横断面の輝度プロファイルは、試料の横断面の中心を通る直線上の輝度プロファイルであることができる。
それぞれ試料の横断面の中心を通る複数の直線上の複数の輝度プロファイルを作成し、作成された複数の輝度プロファイルの平均を試料の横断面の輝度プロファイルとすることが好ましい。
1つの成分は、青色であることが好ましい。
検量線データは、それぞれ異なる含水率で且つ内部の含水率を均一にした試料と同一の複数の麺類に対してそれぞれ横断面を撮影し、撮影された複数の横断面の画像をそれぞれRGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する輝度プロファイルを作成し、作成された複数の輝度プロファイルにおける輝度の平均値をそれぞれ算出し、算出された複数の輝度の平均値に対してそれぞれ対応する含水率をプロットすることにより作成することができる。
麺類は、パスタ、うどん、ひやむぎ、素麺、冷麺、中華麺、そば等を適用できるが、パスタであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、安価で手間をかけることなく麺類内部の含水率及び水分分布を測定することができる。また、麺類の中心部における低水分領域の含水率も測定することができるため、より詳細な水分分布情報を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の一実施の形態に係る麺類の水分分布測定装置の構成を示す図である。
【図2】検量線用試料の吸水装置の構成を示す図である。
【図3】試料の横断面を示す図である。
【図4】試料の横断面における輝度プロファイルを示す図である。
【図5】輝度と含水率との関係を示す検量線を表わす図である。
【図6】試料の横断面における水分分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0013】
図1に、この発明の実施の形態1に係る麺類の水分分布測定装置の構成を示す。
この水分分布測定装置は、試料Sの横断面を撮影する撮像部1を備え、この撮像部1には、画像処理部2、輝度プロファイル作成部3および水分分布算出部4が順次接続されている。また、水分分布算出部4には、検量線メモリ5が接続されている。
【0014】
撮像部1は、サンプル設置器6、ハロゲンランプ7、デジタルカメラ8及びそれら部材を覆う箱体9からなる。
試料Sは、その横断面がデジタルカメラ8に対向するとともに、その外周面が覆われるようにサンプル設置器6で挟まれ固定される。
サンプル設置器6は、黒体塗料がその外表面に塗布された木材からなる。
ハロゲンランプ7は、試料Sの横断面に対して45度の仰角方向に2つ配置され、撮影時に2方向から試料Sの横断面に光を照射する。
デジタルカメラ8は、サンプル設置器6に固定された試料Sの横断面のフルカラー画像を撮影し、その断面画像データを作成する。
なお、サンプル設置器6の外表面だけでなく、箱体9の内面及びハロゲンランプ7の側面にも黒色の塗料が塗布されている。これにより、ハロゲンランプ7の発光による光の透過や反射による画像の輝度むらを防止することができる。
【0015】
画像処理部2は、デジタルカメラ8により撮影されたカラー画像データを赤、緑、青に分解して青色成分を抽出する画像処理を施し、青色成分の画像処理データを作成する。
輝度プロファイル作成部3は、画像処理部2で作成された青色成分の画像処理データに基づいて、試料Sの横断面の輝度プロファイルを作成する。
水分分布算出部4は、検量線メモリ5に格納された検量線データに基づいて、輝度プロファイル作成部3から伝送された試料Sの横断面の輝度プロファイルにおける各輝度を含水率にそれぞれ変換し、試料S内部の水分分布を算出する。
検量線メモリ5は、試料Sと同一の麺類を用いて予め作成された輝度と含水率との関係を示す検量線データを格納している。
【0016】
試料Sは、図2に参照される吸水装置を用いて、以下に示すように調整される。
試料の吸水は、乾燥パスタからなる試料Sを入れ蒸留水11で満たしたコニカルチューブ10内で行われる。このコニカルチューブ10はホットスターラ14で約98℃に調節されたステンレス缶12内の水13に浸漬され、試料Sの吸水時の温度が一定になるように保持される。試料Sは、吸水が開始されてから所定時間経過した後、コニカルチューブ10内から取り出され、表面に付着した水分が拭き取られたものを測定に使用する。
測定用の試料Sとしては、吸水時間が6分の試料S1、アルデンテ状態が得られる吸水時間の試料S2、吸水時間が20分の試料S3をそれぞれ用意した。
【0017】
次に、図3〜6を参照して、実施の形態1の動作を説明する。
まず、試料Sをサンプル設置器6に固定し、その横断面をハロゲンランプ7で光を照射しながら、デジタルカメラ8を用いて撮影し、フルカラー画像を取得する。フルカラー画像は、画像処理部2へ送られて、RGB分解処理がなされ青色成分が抽出される。青色成分は、輝度プロファイル作成部3へ送られ、例えば、図3に示すように、まず、試料Sの断面中心を通り、その断面(外周)を等分割する直線が10本(L1〜10)選択される。ついで、選択された直線上の輝度が試料Sの断面中心からの距離に対応するようにプロットされ、輝度プロファイルがそれぞれ作成される。そして、10個の輝度プロファイルの平均値が試料Sの横断面の輝度プロファイルとされる。このようにして作成された試料S1〜S3の輝度プロファイルを図4に示す。この輝度プロファイルは、水分分布算出部4へ送られる。
水分分布算出部4では、図5に示されるような、検量線メモリ5に格納されている検量線データが呼び出され、その検量線データに基づいて試料Sの横断面の輝度プロファイルにおける各輝度が含水率に変換される。このようにして試料S1〜S3の輝度プロファイルから算出された各試料S1〜S3の水分分布を図6に示す。
【0018】
ここで、検量線データの作成方法を示す。
検量線データ作製のための試料Srは、試料Sと同一の麺類を用いる。
まず、試料Srを蒸留水11で満たしたコニカルチューブ10に入れ、ついで、このコニカルチューブ10をホットスターラ14で約98℃に調節されたステンレス缶12内の水13に浸漬し、試料Srの吸水時の温度が一定になるように保持する。吸水が開始されてから所定時間経過後、試料Srをコニカルチューブ10内から取り出し、表面に残る水分を拭き取った後、真空パックし、送風定温恒温槽を用いて70℃、3日間保持する。これにより、内部の含水率が均一な試料Srが作製される。
ついで、先述した試料Sの横断面の輝度プロファイルを作成する方法と同様の方法で、試料Srの横断面の輝度プロファイルを作成し、その輝度プロファイルにおける各輝度の平均値を算出する。また、試料Srの横断面の画像撮影の後、135℃、5時間という条件の乾燥減量法により試料Srの含水率を算出する。
同様にして、吸水時間を異ならせることにより、試料内部の含水率が均一であり、含水率が異なる試料Srを複数作成し、それら試料Srのそれぞれの輝度と含水率を求め、含水率に対する輝度をそれぞれプロットすることにより図5に示すような含水率と輝度の相関に基づく検量線データを作成することができる。
【0019】
以上説明したように、このような実施の形態における水分分布測定装置を用いれば、手間をかけず、容易に測定を行うことができる。
また、このような装置を用いれば、MRI装置のような大掛かりな装置を用いることもないため、コストをかけることなく測定を行うことができる。
また、このような装置を用いれば、図6の吸水時間が6分の試料S1の水分分布及びアルデンテ状態の試料S2の水分分布に示されるように、試料の中心部における含水率が0.6〜0.7以下の低水分領域も測定することができるため、試料S内部の水分分布情報を詳細に取得することができる。
また、麺類内部の含水率と輝度との関係について高い相関関係を示す青色の断面画像を用いるため、高精度に試料の含水率や水分分布を測定することができる。
【0020】
なお、上記実施の形態1で試料Sとしてパスタを用いたが、麺類であれば特にこれに限定されず、うどん、ひやむぎ、素麺、冷麺、中華麺、そば等を試料として用いてもよい。
上記実施の形態1で試料Sの横断面の中心を通る直線上の輝度プロファイルを作成したが、これに限定されず、試料Sの横断面の中心を通らない直線上の輝度プロファイルであってもよい。
上記実施の形態1で例示された試料Sの横断面の中心を通る直線の数は、単に一例にすぎず、適宜選択することができる。
上記実施の形態1では、1つの成分として青色を用いて画像を作成したが、これに限定されず、赤色または緑色成分を用いてもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 撮像部、2 画像処理部、3 輝度プロファイル作成部、4 水分分布算出部、5 検量線メモリ、6 サンプル設置器、7 ハロゲンランプ、8 デジタルカメラ、9 箱体 10 コニカルチューブ、11 蒸留水、12 ステンレス缶、13 水、14 ホットスターラ、L1〜L10 直線、S 試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺類からなる試料の横断面を撮影する撮像部と、
撮影した前記試料の断面画像をRGB分解する画像処理部と、
前記RGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する前記試料の横断面の輝度プロファイルを作成する輝度プロファイル作成部と、
前記試料と同一の麺類に対して予め作成された輝度と含水率との関係を示す検量線データを格納する検量線メモリと、
前記検量線データを用いて前記試料の横断面の輝度プロファイルにおける各輝度を含水率に変換することにより前記試料の水分分布を測定する水分分布算出部と
を有する麺類の水分分布測定装置。
【請求項2】
前記試料の横断面の輝度プロファイルは、前記横断面の中心を通る直線上の輝度プロファイルである請求項1に記載の麺類の水分分布測定装置。
【請求項3】
前記輝度プロファイル作成部は、それぞれ前記試料の横断面の中心を通る複数の直線上の複数の輝度プロファイルを作成し、作成された複数の輝度プロファイルの平均を前記試料の横断面の輝度プロファイルとする請求項2に記載の麺類の水分分布測定装置。
【請求項4】
前記1つの成分は、青色である請求項1〜3のいずれかに記載の麺類の水分分布測定装置。
【請求項5】
前記検量線データは、
それぞれ異なる含水率で且つ内部の含水率を均一にした前記試料と同一の複数の麺類に対してそれぞれ横断面を撮影し、
撮影された複数の横断面の画像をそれぞれRGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する輝度プロファイルを作成し、
作成された複数の輝度プロファイルにおける輝度の平均値をそれぞれ算出し、
算出された複数の輝度の平均値に対してそれぞれ対応する含水率をプロットすることにより作成される請求項1〜4のいずれかに記載の麺類の水分分布測定装置。
【請求項6】
麺類からなる試料の横断面を撮影し、
撮影した前記試料の断面画像をRGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する前記試料の横断面の輝度プロファイルを作成し、
前記試料と同一の麺類に対して予め作成された輝度と含水率との関係を示す検量線データを用いて前記試料の横断面の輝度プロファイルにおける各輝度を含水率に変換することにより前記試料の水分分布を測定する
ことを特徴とする麺類の水分分布測定方法。
【請求項7】
前記試料の横断面の輝度プロファイルは、前記試料の横断面の中心を通る直線上の輝度プロファイルである請求項6に記載の麺類の水分分布測定方法。
【請求項8】
それぞれ前記試料の横断面の中心を通る複数の直線上の複数の輝度プロファイルを作成し、作成された複数の輝度プロファイルの平均を前記試料の横断面の輝度プロファイルとする請求項7に記載の麺類の水分分布測定方法。
【請求項9】
前記1つの成分は、青色である請求項6〜8のいずれかに記載の麺類の水分分布測定方法。
【請求項10】
前記検量線データは、
それぞれ異なる含水率で且つ内部の含水率を均一にした前記試料と同一の複数の麺類に対してそれぞれ横断面を撮影し、
撮影された複数の横断面の画像をそれぞれRGB分解して得られた色成分のうちの1つの成分に対する輝度プロファイルを作成し、
作成された複数の輝度プロファイルにおける輝度の平均値をそれぞれ算出し、
算出された複数の輝度の平均値に対してそれぞれ対応する含水率をプロットする
ことにより作成される請求項6〜9のいずれかに記載の麺類の水分分布測定方法。
【請求項11】
前記麺類は、パスタである請求項6〜10のいずれかに記載の麺類の水分分布測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−24642(P2013−24642A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157878(P2011−157878)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000226998)株式会社日清製粉グループ本社 (125)
【Fターム(参考)】