説明

麻調織物およびその製造方法

【課題】麻織物の欠点である形態安定性が悪い、皺が生じ易い、発色性や染色堅牢度に劣る等の問題点を改善し、ナチュラルな杢調や高級感に優れ、さらには爽やかな清涼感、快適な着用感、高級感を有する麻調織物を提供する。
【解決手段】異色或いは濃色、淡色にそれぞれ着色された3本以上のフィラメント糸から構成され、淡色に着色されたフィラメント糸の周囲に異色或いは濃色に着色されたフィラメント糸と淡色に着色されたフィラメント糸とが捲回された仮撚スラブ加工糸からなる織物であって、織物を構成する仮撚スラブ加工糸は、1〜15cmの道中部、1〜10cmの異色或いは濃色スラブ部、1.5〜12cmの淡色スラブ部、5mm以下の異色或いは濃色点状ネップ部、5mm以下の淡色点状ネップ部をランダムに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小な点状ネップのある仮撚スラブ加工糸よりなる清涼感、快適な着用感を与える麻調織物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麻織物は、麻繊維が有する繊度斑による独特な杢調やドライで清涼感のある風合いと、中空構造による軽量感、適度なハリコシ感、優れた吸・放湿性等から快適な高級夏物衣料素材として広く認識されている。しかしながら、一方では、皺になり易く、洗濯堅牢度や湿摩擦堅牢度が低い等取り扱い性が難しく、発色性にも劣り、高価である等の問題もある。
【0003】
これに対し、麻繊維の優れた特長を備えながら、その欠点或いは問題点を改善するべく、多くの提案がなされており、例えば従来の異色や濃淡効果を狙った仮撚スラブ加工糸による麻調織物(特許文献1)では、仮撚スラブ加工糸の道中部とスラブ部が交互に出現し麻調の杢を表現しているが、人工的な画一の形態のためナチュラル感に欠けるものであり、また、仮撚スラブ加工糸のスラブ形態をネップ状にしたり出現頻度を工夫したものもあるが、ネップが大きく出現頻度が多すぎて高級感に欠けるものであった。
【0004】
また、織物の構成糸に太細部を形成した糸やSZ交互仮撚加工糸を用い、杢調を表現させる提案もあるが、その織物はナチュラルな表現に欠け、また高級感の点で十分満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−119035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、麻織物の有する欠点である形態安定性が悪い、皺が生じ易い、発色性や染色堅牢度に劣る等の問題点を改善し、従来の麻調織物では表現できなかったナチュラルな杢調や高級感に優れ、さらには爽やかな清涼感、快適な着用感、高級感を有する麻調織物を提供し、また麻調織物を生産性よく安定に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の発明の要旨は、異色或いは濃色、淡色にそれぞれ着色された3本以上のフィラメント糸から構成され、淡色に着色されたフィラメント糸の周囲に異色或いは濃色に着色されたフィラメント糸と淡色に着色されたフィラメント糸とが捲回された仮撚スラブ加工糸からなる織物であって、織物を構成する仮撚スラブ加工糸は、下記の長さの道中部、異色或いは濃色スラブ部、淡色スラブ部、異色或いは濃色点状ネップ部、淡色点状ネップ部をランダムに有し、かつ道中部、各スラブ部および各点状ネップ部が下記の割合で存在することを特徴とする麻調織物、にある。
道中部:長さ1.0〜15cm、割合40〜60%
異色或いは濃色スラブ部:長さ1.0〜10cm、割合10〜20%
淡色スラブ部:長さ1.5〜12cm、割合20〜40%
異色或いは濃色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合1〜2%
淡色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合3〜5%
【0008】
本発明の第2の発明の要旨は、異色或いは濃色、淡色にそれぞれ染め分け可能な染色性の異なる3本以上のフィラメント糸から構成され、淡色に染色可能なフィラメント糸の周囲に異色或いは濃色に染色可能なフィラメント糸と淡色に染色可能なフィラメント糸とを捲回させる複合仮撚加工によって形成された、下記の道中部、スラブ部および点状ネップ部をランダムに有する仮撚スラブ加工糸にて、織物を構成し、該織物を染色して、織物における仮撚スラブ加工糸を構成する異色或いは濃色に染色可能なフィラメント糸を異色或いは濃色に、淡色に染色可能なフィラメント糸を淡色にそれぞれ染め分けることを特徴とする麻調織物の製造方法、にある。
道中部:長さ1.0〜15cm、割合40〜60%
スラブ部:長さ1.0〜12cm、割合30〜60%
点状ネップ部:長さ5mm以下、割合4〜7%
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、麻織物の有する形態安定性が悪い、皺が生じ易い、発色性や染色堅牢度に劣る等の問題点を改善し、従来の麻調織物では表現できなかったナチュラルな杢調や高級感に優れ、さらには爽やかな清涼感、快適な着用感、高級感を有する麻調織物を、麻調織物を生産性よく安定に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明における仮撚スラブ加工糸の製造方法の一例の製造工程図である。
【図2】本発明の織物の織組織の一例のマット組織の織組織図である。
【図3】本発明の織物の織組織の他の例の綾組織の織組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
〈仮撚スラブ加工糸〉
本発明の麻調織物は、異色或いは濃色と淡色に染め分けられた仮撚スラブ加工糸にて構成されており、織物を構成する仮撚スラブ加工糸は、異色或いは濃色、淡色にそれぞれ着色された3本以上のフィラメント糸からなり、淡色に着色されたフィラメント糸の周囲に異色或いは濃色に着色されたフィラメント糸と淡色に着色されたフィラメント糸とが捲回された仮撚スラブ加工糸である。
【0012】
そして、本発明の織物を構成する仮撚スラブ加工糸は、下記の長さの道中部、異色或いは濃色スラブ部、淡色スラブ部、異色或いは濃色点状ネップ部、淡色点状ネップ部をランダムに有し、かつ道中部、各スラブ部および各点状ネップ部が下記の割合で糸の長手方向に存在するものである。
道中部:長さ1.0〜15cm、割合40〜60%
異色或いは濃色スラブ部:長さ1.0〜10cm、割合10〜20%
淡色スラブ部:長さ1.5〜12cm、割合20〜40%
異色或いは濃色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合1〜2%
淡色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合3〜5%
【0013】
仮撚スラブ加工糸の道中部は、その長さが1.0cm未満では、隣接のスラブ部やネップ部との間隔が狭すぎ道中部として見え難く、10cmを超えると、スラブ部やネップ部との間隔が広すぎてフラットな表面感となり杢調表現が得られない。仮撚スラブ加工糸での道中部の割合が、40%未満では、スラブ部やネップ部の頻度が多くなりすぎナチュラルな麻調の表現が得られず、60%を超えると、フラットな表面感となり杢調表現が得られない。この道中部は、糸の構成フィラメント糸比にもよるが、異色或いは濃色と淡色との中間色を呈する。
【0014】
仮撚スラブ加工糸の異色或いは濃色スラブ部は、その長さが1.0cm未満では大きなネップとして見え高級感が損なわれ、10cmを超えると、異色或いは濃色スラブ部が目立ちすぎナチュラルな麻調の表現が得られない、仮撚スラブ加工糸での異色或いは濃色スラブ部の割合が、10%未満では、異色或いは濃色スラブ部の頻度が少なすぎフラットな表面感となりナチュラルな杢調表現が得られず、20%を超えると、異色或いは濃色スラブ部の頻度が多すぎて目立ちすぎナチュラルな麻調表現が得られない。
【0015】
仮撚スラブ加工糸の淡色スラブ部は、その長さが1.0cm未満では大きなネップとして見え高級感が損なわれ、12cmを超えると、淡色スラブ部が目立ちすぎナチュラルな麻調の表現が得られない、仮撚スラブ加工糸での淡色スラブ部の割合が、20%未満では、淡色スラブ部の頻度が少なすぎフラットな表面感となりナチュラルな杢調表現が得られず、20%を超えると、淡色スラブ部の頻度が多すぎて目立ちすぎナチュラルな麻調表現が得られない。なお、淡色スラブ部は、異色或いは濃色スラブ部に比べ目立たないため異色或いは濃色スラブ部より多く存在させることにより、ナチュラルな麻調表現を得ることができる。
【0016】
仮撚スラブ加工糸の異色或いは濃色点状ネップ部は、その長さが5mmを超えると、ネップが大きすぎ高級感に欠けたものとなり、また異色或いは濃色点状ネップ部の割合が、1%未満では、異色或いは濃色点状ネップ部の頻度が少なすぎて麻かすのようなナチュラルな杢調表現が得られず、2%を超えると、異色或いは濃色点状ネップ部の頻度が多すぎて目立ちすぎ高級感が得られずナチュラルな麻調表現を得ることができない。また、仮撚スラブ加工糸の淡色点状ネップ部は、その長さが5mmを超えると、ネップが大きすぎ高級感に欠けたものとなり、また淡色点状ネップ部の割合が、3%未満では、淡色点状ネップ部の頻度が少なすぎてフラットな表面感となり、ナチュラルな杢調表現が得られず、5%を超えると、淡色点状ネップ部の頻度が多すぎてナチュラルな麻調表現が得られない。なお、淡色点状ネップ部は、異色或いは濃色点状ネップ部に比べ目立たないため異色或いは濃色点状ネップ部より多く存在させることにより、ナチュラルな麻調表現を得ることができる。
【0017】
本発明の織物においてナチュラルな杢調表現によってよりナチュラルな麻調の表現を得るためには、織物を構成する仮撚スラブ加工糸において、異色或いは濃色に着色されたフィラメント糸の占める割合が、10〜20重量%であることが好ましい。本発明においては、異色或いは濃色、淡色とは、染着濃度によるのではなく、視覚的な色差によるものであり、単に暗色の異色或いは濃色ではない色という意味である。
【0018】
異色或いは濃色、淡色にそれぞれ着色されたフィラメント糸は、仮撚スラブ加工糸を構成していることから、仮撚加工が適用されるフィラメント糸であり、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸等の未改質のポリエステルフィラメント糸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびアジピン酸共重合ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸等のカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸、イソフタル酸、アジピン酸等共重合ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸等の分散染料易染性ポリエステルフィラメント糸、ポリエステル系コンジュゲートフィラメント糸、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドフィラメント糸等の合成繊維フィラメント糸、セルロースジアセテートフィラメント糸、セルローストリアセテートフィラメント糸、カチオン染料可染性セルロースアセテートフィラメント糸等のセルロースアセテートフィラメント糸やレーヨンフィラメント糸等のセルロース系フィラメント糸が挙げられる。
【0019】
本発明においては、好ましいフィラメント糸の組み合わせとして、異色或いは濃色に着色されたフィラメント糸が、カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸であり、淡色に染色されたフィラメント糸が、未改質のポリエステルフィラメント糸或いはR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸が挙げられる。R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸としては、R率が6.5%のセルロースジアセテートフィラメント糸、R率が3.5%のセルローストリアセテートフィラメント糸等のセルロースアセテートフィラメント糸が好ましいものとして挙げられる、なお、R率は、次式により求められる。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
(mは試料の標準状態の質量(g)、m’は試料の絶乾状態の質量(g)、ここで標準状態の質量とは、予備乾燥(相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にする)後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し恒量になった状態の質量である。)
【0020】
R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸として好ましく用いられるセルロースジアセテートフィラメント糸およびセルローストリアセテートフィラメント糸は、分散染料可染性、鮮明性、発色性、高級感のある光沢、適度なヤング率、適度な吸湿性、速乾性を有する。これらのセルロースアセテートフィラメント糸の製法は、特に限定はされず、繊維の表面形状、艶、断面形状、繊度等も特に限定はない。セルロース系フィラメント糸のR率が8%を超えると、水膨潤性による収縮が問題となり、洗濯収縮、形態安定性、湿潤堅牢度の問題や、保水性が高く速乾性に劣る等の問題が生じ、例えば、公定水分率の低いポリエステル系フィラメント糸(公定水分率0.4%)を混用してこれらの問題を解決するためには、ポリエステル系フィラメント糸の混率を高める必要があり、ポリエステル系フィラメント糸の欠点である金属光沢、ワキシィな硬い風合い、帯電性、蒸れ感が強調され、セルロース系フィラメント糸の有する清涼感、着用感が失われる。
【0021】
〈織物〉
本発明の織物は、前記仮撚スラブ加工糸からなる織物であればよく、麻調の表現を損なわない範囲であれば、織組織、密度、目付は特に限定はなく、また他の繊維糸、フィラメント糸等が交織等により混在してもよい。
【0022】
〈仮撚スラブ加工糸の製造および織物の製造〉
本発明の織物は、次のようにして製造された仮撚スラブ加工糸から製造することができる。本発明の織物の製造に用いる仮撚スラブ加工糸は、その製造方法を特に限定するものではないが、道中部、異色或いは濃色スラブ部、淡色スラブ部、濃色点状ネップ部、淡色点状ネップ部がランダムに出現させる必要があり、そのためには、スピンドル回転数を低速〜高速の2段階以上に変化させることが可能な仮
撚加工機を用い、例えば、淡色に染色可能な芯糸のフィラメント糸の複合仮撚加工における加撚域に、前記フィラメント糸とは異色或いは濃色に染色可能なフィラメント糸と淡色に染色可能なフィラメント糸とをそれぞれ効果糸として用い、二つの効果糸をオーバーフィード率を多段に変化させた状態で一つの糸ガイドから同時に供給して加撚状態下の芯糸に捲き付かせ、芯糸に効果糸が多重捲回したスラブ部と一重捲回した点状ネップ部をランダムに形成させ、仮撚スラブ加工糸を製造することができる。
【0023】
図1に本発明における仮撚スラブ加工糸の製造方法の一例の製造工程を示す。
図1において、1はマグネットテンサー、2は第1ヒーター、3はスピンドル、4は第1引取りローラー、5は第2ヒーター、6は第2引取りローラー、7は巻取機、8、10はフィードローラー、9、11は糸ガイド、Aは芯糸、Bは効果糸1、Cは効果糸2、Dは押え糸であり、芯糸Aの仮撚加工における芯糸Aの加撚域に、効果糸Bと効果糸Cとを、多段に変化させたオーバーフィード率で糸ガイド9から同時に供給して複合仮撚し、さらに必要に応じ捲回部の形態を安定させる押え糸Dを糸ガイド11から供給する複合仮撚加工により本発明における仮撚スラブ加工糸を得ることができる。
【0024】
芯糸、効果糸に用いるフィラメント糸として、異色或いは濃色、淡色に染め分け可能な3本以上のフィラメント糸を用いるが、効果糸には染色性の異なるフィラメン糸を組み合わせて用いることが好ましく、さらに好ましくは芯糸に未改質のポリエステルフィラメント糸、効果糸のうちの一方にカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸或いはR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸を用いるか、効果糸にカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸とR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸の両方を用いる。
【0025】
効果糸の一方にR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸を用いるときは、このセルロース系フィラメント糸の染色での染料とは異種の染料で染色し得るフィラメント糸やセルロース系フィラメント糸の染色での染料と同種の染料で染色して明瞭な濃淡差を生ずるフィラメント糸と組み合わせる。したがい、高級感のある光沢、麻調のドライ感、爽やかな清涼感、適度な吸・放湿性等を織物に付与する上では、R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸を、仮撚スラブ加工糸の50〜90重量%を占めるよう複合仮撚加工の際に供給することが好ましい。
【0026】
また、効果糸の一方にカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸を用いるときは、このカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸の染色での染料とは異種の染料で染色し得るフィラメント糸やカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸の染色での染料と同種の染料で染色して明瞭な濃淡差を生ずるフィラメント糸と組み合わせる。したがい、明瞭な異色或いは濃色のスラブや点状ネップを強調した杢調を織物に付与する上で、また強度補強の観点から、カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸を、仮撚スラブ加工糸の10〜50重量%を占めるよう複合仮撚加工の際に供給することが好ましい。
【0027】
〈染め分け〉
製造された仮撚スラブ加工糸にて任意の織組織に製織した後、織物を染色加工して、異色或いは濃色に染色可能なフィラメント糸を異色或いは濃色に、淡色に染色可能なフィラメント糸を淡色にそれぞれ染め分ける。例えば、芯糸に未改質のポリエステルフィラメント糸、効果糸にカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸とセルローストリアセテートフィラメント糸とを用いてなる仮撚スラブ加工糸で構成した織物であれば、この織物をカチオン染料と分散染料で常圧染色によって仮撚スラブ加工糸の構成フィラメントを染色し染め分けることができる。すなわち、効果糸の一方のカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸のフィラメントはカチオン染料で異色或いは濃色に染色され、芯糸の未改質のポリエステルフィラメント糸と効果糸の他方のセルローストリアセテートフィラメント糸のフィラメントは分散染料で淡色にされ、しかも常圧染色であればセルローストリアセテートフィラメントは未改質のポリエステルフィラメントより濃く染色される。淡色に染色するとは、単に異色或いは濃色ではない色に染色するの意味である。染色加工後は、必要に応じ、染色織物に皺加工等を施し、仕上加工する。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例における風合い、杢調感等はハンドリングにて、発色性等は目視にて評価した。
【0029】
(実施例1)
芯糸としてポリエステルフィラメント糸56dtex/36f(三菱レイヨン社製、ポリエチレンテレフタレート、ブライト、単糸三角断面)1本を用い、効果糸1としてポリエステルフィラメント糸84dtex/36f(三菱レイヨン社製、ポリエチレンテレフタレート、ブライト、単糸三角断面)1本と、効果糸2としてカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸33dtex/12f(三菱レイヨン社製、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびアジピン酸共重合ポリエチレンテレフタレート、ブライト、単糸円断面)1本を用い、さらに押え糸としてポリエステルフィラメント糸40dtex/12f(三菱レイヨン社製、ポリエチレンテレフタレート、ブライト、単糸円断面)1本を用い、仮撚加工機(三菱重工業社製、スピンドル回転数可変型)にて、図1に示す工程により下記の条件で、芯糸(A)の仮撚加工における芯糸(A)の加撚域に効果糸1(B)と効果糸2(C)を糸ガイド(9)を介し多段のオーバーフィード(OF)率で供給して複合仮撚し、さらに押え糸(D)を効果糸の供給位置より下流で糸ガイド(11)から供給して仮撚スラブ加工糸を作製した。なお、実施例中、ガイド距離とは芯糸と糸ガイドとの間の最短の距離をいう。
糸加工速度:50m/分
効果糸1、効果糸2OF率:25、55、40、70%
効果糸1、効果糸2ガイド距離:150mm
押え糸OF率:65%
押え糸ガイド距離:180mm
第1ヒーター温度:180℃
スピンドル回転数:95,000〜135,000rpm
第2ヒーター温度:180℃
【0030】
得られた仮撚スラブ加工糸は、糸繊度283dtexで、カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸を混率16質量%で含むものであった。
【0031】
得られた仮撚スラブ加工糸を、経糸と緯糸に用い、平組織の織物を製織した。この織物を常法の染色加工により、効果糸2のフィラメントをカチオン染料にて濃色のこげ茶色に染色し、芯糸および効果糸1のフィラメントを分散染料にて淡色のベージュ色に染色し、仕上げ巾143cm、経糸密度55本/インチ、緯糸密度45本/インチの染色織物を作製した。この染色織物における仮撚スラブ加工糸は、下記の形状を有するものであった。
道中部:長さ1.5〜10cm、割合50%
濃色スラブ部:長さ1.5〜5cm、割合15%
淡色スラブ部:長さ2.5〜7cm、割合30%
濃色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合1.5%
淡色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合3.5%
得られた染色織物は、濃色のこげ茶色と淡色のベージュ色の小さな点状ネップが適度な頻度でランダムに配置され、ナチュラルでランダムな適度の長さの濃色のこげ茶色と淡色のベージュ色のスラブが適度な頻度でランダムに配置されており、麻調のナチュラルな高級感のある杢調表現された麻調織物であった。
【0032】
(実施例2)
芯糸としてポリエステルフィラメント糸56dtex/36f(三菱レイヨン社製、ポリエチレンテレフタレート、ブライト、単糸三角断面)1本を用い、効果糸1としてセルローストリアセテートフィラメント糸84dtex/36f(三菱レイヨン社製、ブライト、単糸菊型断面、R率3.5%)1本と、効果糸2としてカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸33dtex/12f(三菱レイヨン社製、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびアジピン酸共重合ポリエチレンテレフタレート、ブライト、単糸円断面)1本を用い、さらに押さえ糸としてセルローストリアセテートフィラメント糸40dtex/9f(三菱レイヨン社製、ブライト、単糸菊型断面、R率3.5%)1本を用い、実施例1で用いたと同じ仮撚加工機にて、図1に示す工程により下記の条件で、芯糸(A)の仮撚加工における芯糸(A)の加撚域に効果糸1(B)と効果糸2(C)を糸ガイド(9)を介し多段のOF率で供給して複合仮撚し、さらに押え糸(D)を下記の条件で糸ガイド(11)から供給して仮撚スラブ加工糸を作製した。
糸加工速度:50m/分
効果糸1、効果糸2OF率:25、55、40、70%
効果糸1、効果糸2ガイド距離:150mm
押え糸OF率:65%
押え糸ガイド距離:170mm
第1ヒーター温度:180℃
スピンドル回転数:95,000〜135,000rpm
第2ヒーター温度:180℃
【0033】
得られた仮撚スラブ加工糸は、糸繊度283dtexで、カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸を混率16重量%、セルローストリアセテートフィラメント糸を混率63重量%で含むものであった。
【0034】
得られた仮撚スラブ加工糸を、経糸と緯糸に用い、平組織の織物を製織した。この織物を常法の染色仕上加工により、効果糸2のフィラメントをカチオン染料にて濃色のこげ茶色に染色し、芯糸および効果糸1のフィラメントを分散染料にて効果糸1の方が芯糸よりは濃い淡色のベージュ色に染色し、仕上げ巾143cm、経糸密度55本/インチ、緯糸密度45本/インチの染色織物を作製した。この染色織物における仮撚スラブ加工糸は、下記の形状を有するものであった。
道中部:長さ1.5〜10cm、割合50%
濃色スラブ部:長さ1.5〜5cm、割合15%
淡色スラブ部:長さ2.5〜7cm、割合30%
濃色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合1.5%
淡色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合3.5%
【0035】
得られた染色織物は、濃色のこげ茶色と淡色のベージュ色の小さな点状ネップが適度な頻度でランダムに配置され、ナチュラルでランダムな適度の長さの濃色のこげ茶色と淡色のベージュ色のスラブが適度な頻度でランダムに配置されており、麻調のナチュラルな高級感のある杢調表現されたものであり、さらにセルローストリアセテートフィラメント糸による爽やかな清涼感、適度な吸・放湿性、速乾性に優れ、ベタツキ感がなく快適な着用感を有する織物であった。
【0036】
(実施例3)
実施例2で作製した仮撚スラブ加工糸を、経糸と緯糸に用い、図2に示すマット組織の織物を製織した。この織物を常法の染色加工および皺加工により、カチオン染料にて効果糸2のフィラメントを濃色のこげ茶色に染色し、分散染料にて芯糸および効果糸1のフィラメントを淡色のベージュ色に染色し、仕上げ巾143cm、経糸密度79本/インチ、緯糸密度62本/インチの染色織物を作製した。得られた染色織物は、濃色のこげ茶色と淡色のベージュ色の小さな点状ネップが適度な頻度でランダムに配置され、ナチュラルでランダムな適度の長さの濃色のこげ茶色と淡色のベージュ色のスラブが適度な頻度でランダムに配置されており、麻調のナチュラルな高級感のある杢調表現されたものであり、またマット組織によりスラブやネップの見え方がマイルドでより上品でナチュラルな杢調を呈し、皺加工によりナチュラル凹凸表面となり、さらにセルローストリアセテートフィラメント糸による快適な着用感を有する高級麻調織物であった。
【0037】
(実施例4)
芯糸としてポリエステルコンジュゲートフィラメント糸56dtex/12f(三菱レイヨン社製、シックアンドシン型、ブライト、単糸円断面)1本を用い、効果糸1としてセルローストリアセテートフィラメント糸84dtex/20f(三菱レイヨン社製、ブライト、単糸菊型断面、R率3.5%)1本と、効果糸2としてカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸33dtex/12f(三菱レイヨン社製、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびアジピン酸共重合ポリエチレンテレフタレート、ブライト、単糸円断面)1本を用い、さらに押さえ糸としてセルローストリアセテートフィラメント糸40dtex/9f(三菱レイヨン社製、ブライト、単糸菊型断面、R率3.5%)1本を用い、実施例1で用いたと同じ仮撚加工機、同じ工程、同じ条件で、芯糸(A)の仮撚加工における芯糸(A)の加撚域に効果糸1(B)と効果糸2(C)を糸ガイド(9)を介し多段のOF率で供給して複合仮撚し、さらに押え糸(D)を供給して仮撚スラブ加工糸を作製した。
【0038】
得られた仮撚スラブ加工糸は、糸繊度283dtexで、カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸を混率16重量%、セルローストリアセテートフィラメント糸を混率63重量%で含むものであった。
【0039】
得られた仮撚スラブ加工糸を、経糸と緯糸に用い、図3に示す綾組織の織物を製織した。この織物を常法の染色加工により、効果糸2のフィラメントをカチオン染料にて濃色のこげ茶色に染色し、芯糸および効果糸1のフィラメントを分散染料にて効果糸1の方が芯糸よりは濃い淡色のベージュ色に染色し、仕上げ巾143cm、経糸密度86本/インチ、緯糸密度53本/インチの染色織物を作製した。この染色織物における仮撚スラブ加工糸は、下記の形状を有するものであった。
道中部:長さ1.5〜10cm、割合50%
濃色スラブ部:長さ1.5〜5cm、割合15%
淡色スラブ部:長さ2.5〜7cm、割合30%
濃色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合1.5%
淡色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合3.5%
【0040】
得られた染色織物は、濃色のこげ茶色と淡色のベージュ色の小さな点状ネップが適度な頻度でランダムに配置され、ナチュラルでランダムな適度の長さの濃色のこげ茶色と淡色のベージュ色のスラブが適度な頻度でランダムに配置されており、麻調のナチュラルな高級感のある杢調表現されたものであり、また綾組織によりスラブやネップの見え方がマイルドでより上品でナチュラルな杢調を呈し、皺加工によりナチュラル凹凸表面となり、さらにセルローストリアセテートフィラメント糸による快適な着用感を有する高級麻調織物であった。
【0041】
(比較例1)
芯糸としてポリエステルフィラメント糸110dtex/48f(三菱レイヨン社製、ポリエチレンテレフタレート、セミダル、単糸円断面)1本を用い、効果糸としてカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸56dtex/24f(三菱レイヨン社製、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびアジピン酸共重合ポリエチレンテレフタレート、セミダル、単糸円断面)1本を用い、実施例1で用いたと同じ仮撚加工機にて、下記の条件で、芯糸の仮撚加工における加撚域に効果糸を供給して仮撚スラブ加工糸を作製した。
糸加工速度:50m/分
効果糸OF率:95%
効果糸ガイド距離:150mm
第1ヒーター温度:170℃
スピンドル回転数:110,000rpm
第2ヒーター温度:180℃
得られた仮撚スラブ加工糸は、糸繊度220dtexで、カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸を混率51重量%で含むもので、道中部とスラブ部からなるものであった。得られた仮撚スラブ加工糸を、経糸と緯糸に用い、綾組織の織物を製織した。この織物を常法の染色加工により、効果糸をカチオン染料にて濃色のこげ茶色に染色し、芯糸を分散染料にて淡色のベージュ色に染色し、仕上げ巾143cm、経糸密度97本/インチ、緯糸密度60本/インチの染色織物を作製した。得られた染色織物は、スラブの形状や出現頻度が規則的で、点状ネップも見られずナチュラルな杢調表現に欠けるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の麻調織物は、天然の麻繊維からなる織物が有する形態安定性が悪い、皺が生じ易い、発色性や染色堅牢度に劣る等の問題点が改善され、しかも麻繊維に似せた従来の麻調織物では表現できなかったナチュラルな杢調や高級感に優れ、さらには爽やかな清涼感、快適な着用感、高級感を有するものであり、夏物衣料素材としてまた高級衣料素材として有用なるものであり、また本発明によればこの麻調織物を生産性よく安定に商業的に製造することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 マグネットテンサー
2 第1ヒーター
3 スピンドル
4 第1引取りローラー
5 第2ヒーター
6 第2引取りローラー
7 巻取機
8、10 フィードローラー
9、11 糸ガイド
A 芯糸
B 効果糸1
C 効果糸2
D 押え糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
異色或いは濃色、淡色にそれぞれ着色された3本以上のフィラメント糸から構成され、淡色に着色されたフィラメント糸の周囲に異色或いは濃色に着色されたフィラメント糸と淡色に着色されたフィラメント糸とが捲回された仮撚スラブ加工糸からなる織物であって、織物を構成する仮撚スラブ加工糸は、下記の長さの道中部、異色或いは濃色スラブ部、淡色スラブ部、異色或いは濃色点状ネップ部、淡色点状ネップ部をランダムに有し、かつ道中部、各スラブ部および各ネップ部が下記の割合で存在することを特徴とする麻調織物。
道中部:長さ1.0〜15cm、割合40〜60%
異色或いは濃色スラブ部:長さ1.0〜10cm、割合10〜20%
淡色スラブ部:長さ1.5〜12cm、割合22〜40%
異色或いは濃色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合1〜2%
淡色点状ネップ部:長さ5mm以下、割合3〜5%
【請求項2】
仮撚スラブ加工糸における異色或いは濃色に着色されたフィラメント糸が、カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸であり、淡色に着色されたフィラメント糸が、ポリエステルフィラメント糸或いはR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸である請求項1に記載の麻調織物。
【請求項3】
仮撚スラブ加工糸におけるカチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸の混率が10〜50重量%、R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸がスラブ糸の混率が50〜90重量%である請求項2に記載の麻調織物。
【請求項4】
カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびアジピン酸共重合ポリエステルからなるフィラメント糸であり、R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸が、セルロースアセテートフィラメント糸である請求項2または請求項3に記載の麻調織物。
【請求項5】
異色或いは濃色、淡色にそれぞれ染め分け可能な染色性の異なる3本以上のフィラメント糸から構成され、淡色に染色可能なフィラメント糸の周囲に異色或いは濃色に染色可能なフィラメント糸と淡色に染色可能なフィラメント糸とを捲回させる複合仮撚加工によって形成された仮撚スラブ加工糸にて、織物を構成し、該織物を染色して、織物における仮撚スラブ加工糸を構成する異色或いは濃色に染色可能なフィラメント糸を異色或いは濃色に、淡色に染色可能なフィラメント糸を淡色にそれぞれ染め分けることを特徴とする麻調織物の製造方法。
【請求項6】
仮撚スラブ加工糸として、淡色に染色可能な芯糸のフィラメント糸の仮撚加工における加撚域に、前記フィラメント糸とは異色或いは濃色に染色可能なフィラメント糸と淡色に染色可能なフィラメント糸とを効果糸としてオーバーフィード状態で供給して芯糸に効果糸が多重捲回したスラブ部と一重捲回したネップ部を形成した仮撚スラブ加工糸を用いる請求項5に記載の麻調織物の製造方法。
【請求項7】
異色或いは濃色に染色可能なフィラメント糸として、カチオン染料可染性或いは分散染料易染性ポリエステルフィラメント糸を用い、淡色に染色可能なフィラメント糸として、未改質のポリエステルフィラメント糸或いはR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸を用いる請求項5または請求項6に記載の麻調織物の製造方法。
【請求項8】
カチオン染料可染性ポリエステルフィラメント糸として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびアジピン酸共重合ポリエステルからなるフィラメント糸を用い、R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸として、セルロースアセテートフィラメント糸を用いる請求項7に記載の麻調織物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−201991(P2012−201991A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65384(P2011−65384)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】