説明

麻酔剤を含有するヒアルロン酸系ゲル

本明細書は、ヒアルロン酸およびその医薬上許容される塩をベースとする、軟部組織充填剤、例えば、皮膚および皮下充填剤を記載する。一の態様では、本明細書記載のヒアルロン酸系組成物は、少なくとも1種類の麻酔剤、例えば、リドカインの治療上有効量を含む。リドカインを含有する当該ヒアルロン酸系組成物は、例えば滅菌技術を施した場合または長期間貯蔵した場合に、リドカインを含有する慣用の組成物と比べて高い安定性を有する。このようなヒアルロン酸系組成物の製造方法およびプロセスもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、以下の出願の各々の利益を主張し、これらの出願を出典明示によりその全体として本明細書の一部に取込む:2008年8月4日出願の米国仮特許出願番号第61/085,956号、2008年8月11日出願の米国仮特許出願番号第61/087,934号、2008年9月11日出願の米国仮特許出願番号第61/096,278号、2009年2月26日出願の米国本特許出願番号第12/393,768号および2009年2月26日出願の米国本特許出願番号第12/393,884号。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して、注射可能な軟部組織充填剤に関しており、より詳しくは、麻酔剤を含むヒアルロン酸系の皮膚および皮下充填剤に関する。
【背景技術】
【0003】
人の顔は、年齢を重ねるにしたがって、重力、日光暴露、ならびに微笑む、しかめる、咀嚼するおよび目を細めるなどの長年にわたる顔面筋運動の影響を示し始めると一般的に認められている。皮膚の外観を若々しく維持する下層組織が破壊し始め、しばしば、笑いじわ、微笑みじわ、「カラスの足跡」および顔面のしわ(しばしば、「老化の影響」と称される)を生じさせる。
【0004】
老化の影響を処置または是正する目的で、顔面のしわおよびくぼみの充填を助けるために、そして、脂肪喪失に伴う組織容量減少を回復させるために、軟部組織充填剤が開発されてきた。それにより、該軟部組織充填剤は、一時的に、より滑らかでより若々しい外観を回復させる。
【0005】
理想的には、軟部組織充填剤は、皮膚の中または下に移植されると、柔らかくて滑らかで自然の外観を長持ちさせる。また、軟部組織充填剤は、微細なゲージの針を使用して患者に移植するのが容易であり、注入のために低い押出力を必要とする。理想的な充填剤は、また、副作用を全く生じず、最小の不快感を伴うかまたは不快感を全く伴わずに患者に注入できる。
【0006】
コラーゲン系の軟部組織充填剤は、20年以上も前に開発され、しばらくの間、ウシのコラゲーン系充填剤が唯一の米国食品医薬品局(FDA)承認皮膚充填剤であった。これらの皮膚充填剤は、ウシをベースとしているため、主な欠点の1つに、患者におけるアレルギー反応の可能性があった。ヒト対象体の約3〜5%がウシのコラーゲンに対して重篤なアレルギー反応を示すと考えられ、かくして、特定の患者においてこれらの充填剤の使用の前に注意深い試験が必要である。アレルギー反応に加え、コラーゲン系充填剤は、注入後に急速に分解し、より滑らかでより若々しい外観を保持するためには頻繁な処置を必要とする。
【0007】
2003年2月には、ヒト由来のコラーゲン充填剤組成物がFDA承認を受けた。これらのコラーゲンは、アレルギー反応のリスクが有意に減少するという長所をもたらす。しかしながら、アレルギー反応の発生率の低下にもかかわらず、ヒト由来のコラーゲン充填剤は、依然として、注入物の急速な分解に悩んでいた。
【0008】
アレルギー反応を誘発せずに、より滑らかでより若々しい外観を保持する充填剤についての研究は、ヒアルロン酸(HA)系の製品の開発をもたらした。2003年12月には、最初のHA系充填剤がFDAによって承認された。これに続いて、他のHA系充填剤の開発が急速に行われた。
【0009】
ヒアルロナンとしても知られているHAは、細胞外マトリックスの主要成分であって動物の組織に広範に分布している天然の水溶性多糖、詳しくは、グリコサミノグリカンである。HAは、すぐれた生体適合性を有しており、患者へ移植した場合にアレルギー反応を引き起こさない。加えて、HAは、多量の水と結合する能力を有しており、軟部組織のすぐれたボリューマイザーとなる。
【0010】
理想的なインビボ特性および理想的な外科的利用性を示すHA系充填剤の開発は、困難であることが分かった。例えば、インビボで所望の安定性特性を示すHA系充填剤は、非常に粘性があるので、微細なゲージの針を通して注入することが困難である。反対に、微細なゲージの針を通して比較的に容易に注入されるHA系充填剤は、インビボでの比較的低い安定性特性を有する。
【0011】
この問題を克服するための方法は、架橋HA系充填剤を使用することである。架橋HAは、好適な反応条件下で遊離HAを架橋剤と反応させることにより形成される。架橋HAおよび遊離HAの両方を含むHA系軟部組織充填剤の製造方法は周知である。
【0012】
注射用HA系組成物に、ある種の治療剤、例えば、リドカインのような麻酔剤を配合することが提案された。残念ながら、製造プロセスの間にリドカインを配合する注射用HA系組成物は、注入前に、特に、高温滅菌工程の間に、および/または有意な時間倉庫に保管された場合に、一部またはほとんど完全に分解する傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
患者においてアレルギー反応を引き起こさず、生体適合性を有しており、インビボで安定かつ利用可能であり、1種類以上の麻酔剤を含む軟部組織充填剤を提供することが、本発明のHA系軟部組織充填剤組成物ならびにそれらの製造および使用方法の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ヒアルロン酸(HA)およびHAの医薬上許容される塩、例えばヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)系の軟部組織充填剤、例えば、皮膚および皮下充填剤に関する。本発明のHA系組成物は、少なくとも1種類の麻酔剤の治療上有効量を含む。一の実施態様では、例えば、麻酔剤は、リドカインである。少なくとも1種類の麻酔剤を含む当該HA系組成物は、オートクレーブのような滅菌技術を施された場合、および/または周囲温度で長期間貯蔵された場合、例えばリドカインを含む慣用のHA系組成物と比べて高い安定性を有する。このようなHA系組成物の製造方法およびこのような方法で製造された生成物もまた提供される。
【0015】
本発明は、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタン、1,4−ビスグリシジルオキシブタン、1,2−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)エチレンおよび1−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサンおよび1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルからなる群から選択される架橋剤により架橋されたヒアルロン酸(HA)成分;および該架橋HA成分と合わせた少なくとも1種類の麻酔剤を概して含む軟部組織充填剤組成物を提供する。
【0016】
別の実施態様では、少なくとも1種類の麻酔剤はリドカインである。さらなる実施態様では、麻酔剤は、組成物の約0.1重量%〜約5.0重量%の濃度で存在する。さらに別の実施態様では、麻酔剤は、組成物の約0.2重量%〜約1.0重量%の濃度で存在する。一の実施態様では、麻酔剤は、リドカインであり、組成物の約0.3重量%の濃度で存在する。
【0017】
さらに別の実施態様では、軟部組織充填剤組成物は、例えば約12.5mm/分の速度で、約10N〜約13Nの押出力を有する。さらに別の実施態様では、該組成物は、例えば約5Hzで測定した場合、約5Pa・s〜約450Pa・sの粘度を有する。
【0018】
一の実施態様では、HA成分は、ゲル、例えば粘着性の水和ゲルである。一の実施態様では、HA成分は、約1%以下〜約10%の遊離HAを有する架橋HAゲルである。この記載の目的で、遊離HAは、実際に、水溶性型の架橋していないHAおよび僅かに架橋したHAの鎖およびフラグメントを含む。
【0019】
さらに別の実施態様では、HA成分は、約10%を超える、例えば約15%を超える、例えば約20%までまたはそれを超える遊離HAを含む。
【0020】
さらに別の実施態様では、HA成分は、遊離HAの相対的に流動性の媒体中に架橋HAの粒子を含むゲルである。いくつかの実施態様では、HA成分は、約200μmを超える、例えば約250μmを超える平均粒径を有する。
【0021】
さらに、本発明は、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)により架橋されたHA成分および軟部組織充填剤組成物の約0.1重量%〜約5.0重量%の濃度を有する麻酔成分を含む軟部組織充填剤組成物であって、該HA成分が約5%未満、例えば約2%の架橋度を有することおよび麻酔成分がリドカインであることを特徴とする組成物を提供する。
【0022】
さらに、本発明は、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタン、1,4−ビスグリシジルオキシブタン、1,2−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)エチレンおよび1−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサン、および1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の架橋剤により架橋されたHA成分を準備する工程;該HA成分のpHを約7.2以上に調節する工程;および調節したpHを有するHA成分に少なくとも1種類の麻酔剤を含有する溶液を添加してHA系充填剤組成物を得る工程を含む、軟部組織充填剤組成物の製造方法を提供する。
【0023】
別の実施態様では、該組成物は、例えばオートクレーブにより、滅菌されて、滅菌組成物を形成し、ここで、該滅菌組成物は、周囲温度で少なくとも約6か月間、例えば少なくとも9か月間、少なくとも約12か月、またはそれ以上の間、安定である。
【0024】
さらに別の実施態様では、調節されたpHは、約7.5以上である。別の実施態様では、該方法は、さらに、少なくとも1種類の麻酔剤を含有する溶液を添加する工程の間またはその後に、HA成分をホモジナイズする工程を含む。さらなる実施態様では、ホモジナイズ工程は、制御された剪断を用いて該組成物を混練させることを含む。
【0025】
別の実施態様では、HA成分を準備する工程は、乾燥遊離NaHA物質を準備すること、該乾燥遊離NaHA物質をアルカリ性溶液中にて水和してアルカリ性の遊離NaHAゲルを得ることを含む。さらに別の実施態様では、アルカリ性の遊離NaHAゲルは、約8.0を超えるpHを有する。さらに別の実施態様では、このpHは、約10を超える。
【0026】
さらなる実施態様では、HA成分は、約20%を超える遊離HAを含んでおり、該HA成分の架橋部分は、約6%未満または約5%未満の架橋度を有する。
【0027】
さらなる実施態様では、軟部組織充填剤組成物は、流動性可溶性HA媒体に分散された架橋HAの粒子を含むという点において微粒子特性を有する。いくつかの実施態様では、このような粒子の平均粒径は、少なくとも約200μmであり、他の実施態様では、このような粒子の平均粒径は、少なくとも約250μmである。
【0028】
さらに、本発明は、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)により架橋されたヒアルロン酸(HA)成分および軟部組織充填剤組成物の約0.1重量%〜約5.0重量%の濃度を有する麻酔成分を含む軟部組織充填剤組成物であって、該HA成分が約5%未満の架橋度を有することおよび麻酔成分がリドカインであることを特徴とする組成物を提供する。
【0029】
本発明の特定の実施態様では、乾燥遊離NaHA物質を準備する工程および該乾燥遊離NaHA物質をアルカリ性溶液中にて水和してアルカリ性の遊離NaHAゲルを得る工程;該遊離NaHAゲルをBDDEにより架橋させて、約5%未満の架橋度で架橋されたpH約7.2以上のアルカリ性のHA組成物を形成する工程;調節したpHを有する該HA成分に0.3%リドカインHCl含有溶液を添加してHA系充填剤組成物を得る工程;該HA系充填剤組成物をホモジナイズしてホモジナイズHA系充填剤組成物を得る工程;ならびに該ホモジナイズHA系充填剤組成物を滅菌して滅菌HA系充填剤組成物を得る工程を含む、約200μmを超える粒径、例えば約250μmを超える粒径を有する軟部組織充填剤組成物の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、試験2の手順によって製造された実施例4における試料5からのゲル中のリドカイン濃度対時間をグラフで示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
本明細書中で使用される用語は、以下に詳述するように、以下の定義を表すことを意図される。用語の定義がその用語の一般的に使用される意味と違う場合、特に指定されない限り、出願人は、以下の定義を使用することを意図する。
【0032】
本明細書で使用される場合、オートクレーブ安定なまたはオートクレーブに対して安定なとは、分解に対して抵抗性があるために、有効なオートクレーブ滅菌後に以下の点の少なくとも1つ、好ましくは全てを維持している生成物または組成物をいう:透明な外観、pH、押出力および/またはレオロジー特性、ヒアルロン酸(HA)濃度、無菌性、モル浸透圧濃度およびリドカイン濃度。
【0033】
本明細書で使用される場合、高分子量HAとは、少なくとも約1.0百万ダルトン(mw≧106Daまたは1MDa)〜約4.0MDaの分子量を有するHA物質をいう。例えば、当該組成物中の高分子量HAは、約2.0MDaの分子量を有することができる。別の例では、高分子量HAは、約2.8MDaの分子量を有することができる。
【0034】
本願明細書で使用される場合、低分子量HAとは、約1.0MDa未満の分子量を有するHA物質をいう。低分子量HAは、約200,000Da(0.2MDa)〜約1.0MDa未満、例えば、約300,000Da(0.3MDa)〜約750,000Da(0.75MDa)の分子量を有することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、架橋度とは、個々のHAポリマー分子またはモノマー鎖を組み合わせて永久構造または本明細書に記載される軟部組織充填剤組成物をつくる分子間結合をいう。さらにまた、本発明目的の架橋度は、また、HA系組成物の架橋部分内のHAモノマー単位に対する架橋剤のパーセント重量比であると定義される。架橋に対するHAモノマーの重量比(HAモノマー:架橋)によって測定される。
【0036】
本明細書で使用される場合、遊離HAとは、軟部組織充填剤組成物を製造している高度に架橋している(高い架橋度)巨大分子構造と架橋していないかまたは非常に僅かしか架橋していない(非常に低い架橋度)個々のHAポリマー分子をいう。遊離HAは、一般に、水溶性のままである。遊離HAは、別に、本明細書に記載の軟部組織充填剤組成物を製造している巨大分子構造の「架橋していない」または僅かしか架橋していない成分であると定義され得る。
【0037】
本明細書で使用される場合、粘着性とは、HA系組成物の、その形状を保持し、変形に抵抗する能力である。粘着性は、いくつかある因子の中で特に、初期遊離HAの分子量割合、架橋度、架橋後に残る遊離HAの量、およびHA系組成物のpHによって影響を受ける。粘着性HA系組成物は、本明細書の実施例1に記載の方法に従って試験した場合、相分離に抵抗する。
【0038】
詳細な説明
本発明は、概して、ヒアルロン酸(HA)およびHAの医薬上許容される塩、例えばヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)系の軟部組織充填剤、例えば、皮膚および皮下充填剤に関する。一の態様では、本明細書に記載のHA系組成物は、少なくとも1種類の麻酔剤、例えば、リドカインの治療上有効量を含む。少なくとも1種類の麻酔剤を含む当該HA系組成物は、高い温度および圧力、例えば、加熱および/または加圧滅菌技術、例えば、オートクレーブの間に経験する高い温度および圧力を施した場合、および/または、例えば、周囲温度で長時間貯蔵した場合、例えばリドカインを含む慣用のHA系組成物と比べて高い安定性を有する。
【0039】
安定な組成物は、有効なオートクレーブ滅菌および/または長期貯蔵後に以下の点の少なくとも1つまたは全てを維持する:透明な外観、患者において使用するためのpH、押出力および/またはレオロジー特性、HA濃度、無菌性、モル浸透圧濃度、およびリドカイン濃度。このようなHA系組成物の製造方法およびかかる方法によって製造された生成物もまた提供される。
【0040】
本明細書で使用される場合、ヒアルロン酸(HA)とは、そのヒアルロン酸塩のいずれかをいうことができ、ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸マグネシウム、ヒアルロン酸カルシウム、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
一般に、本明細書に記載の組成物中のHAの濃度は、好ましくは、少なくとも10mg/mLで約40mg/mLまでである。例えば、いくつかの当該組成物中のHAの濃度は、約20mg/mL〜約30mg/mLの範囲内である。また、例えば、いくつかの実施態様では、該組成物は、約22mg/mL、約24mg/mL、約26mg/mL、または約28mg/mLのHA濃度を有する。
【0042】
加えて、1種類以上の麻酔剤の濃度は、当該組成物の注入後に経験する痛みを軽減するのに有効な量である。少なくとも1種類の局所麻酔剤は、アンブカイン、アモラノン、アミロカイン、ベノキシネート、ベンゾカイン、ベトキシカイン、ビフェナミン、ブピバカイン、ブタカイン、ブタンベン、ブタニリカイン、ブテタミン、ブトキシカイン、カルチカイン、クロロプロカイン、コカエチレン、コカイン、シクロメチカイン、ジブカイン、ジメチソキン、ジメトカイン、ジペロドン、ジシクロニン、エクゴニジン、エクゴニン、塩化エチル、エチドカイン、ベータ−ユーカイン、ユープロシン、フェナルコミン、フォルモカイン、ヘキシルカイン、ヒドロキシテトラカイン、p−アミノ安息香酸イソブチル、メシル酸ロイシノカイン、レボキサドロール、リドカイン、メピバカイン、メプリルカイン、メタブトキシカイン、塩化メチル、ミルテカイン、ナエパイン、オクタカイン、オルソカイン、オキセサゼイン、パルエトキシカイン、フェナカイン、フェノール、ピペロカイン、ピリドカイン、ポリドカノール、プラモキシン、プリロカイン、プロカイン、プロパノカイン、プロパラカイン、プロピポカイン、プロポキシカイン、シュードコカイン、ピロカイン、ロピバカイン、サリチルアルコール、テトラカイン、トリカイン、トリメカイン、ゾラミンおよびそれらの塩からなる群から選択され得る。一の実施態様では、少なくとも1種類の麻酔剤は、例えばリドカインHClの形態の、リドカインである。本明細書に記載の組成物は、組成物の約0.1%〜約5重量%、例えば、組成物の約0.2%〜約1.0重量%のリドカイン濃度を有することができる。一の実施態様では、当該組成物は、組成物の約0.3重量%(w/w%)のリドカイン濃度を有する。本明細書に記載の組成物中のリドカインの濃度は、治療上有効であり得、該濃度が患者に危害を与えることなく治療効果を与えるのに適していることを意味する。
【0043】
本発明の一の態様では、さらに粘着性架橋HA系ゲルを含む前駆組成物を準備すること、例えばリドカインHClの形態の、リドカインを含有する溶液をそれに添加すること、および該混合物をホモジナイズして、オートクレーブに対して安定である、粘着性の少なくとも一部が架橋したリドカイン含有HA系組成物を得ることを含む、リドカインの有効量を含むHA系組成物の製造方法が提供される。該粘着性架橋HA系ゲルは、約1容量%〜約10容量%(w/v%)以下の遊離しているかまたは僅かに架橋したHA物質を含む。
【0044】
実施可能性の特定の理論によって束縛されることなく、本発明のいくつかの実施態様における前駆組成物の高い粘着性は、リドカインの添加を伴う組成物における架橋HAの分解を実質的にまたは完全に予防するかまたは妨げるように作用すると考えられる。
【0045】
多くの、おそらくほとんどの架橋HA系ゲルはリドカインが添加された場合にこのような分解を予防するのに十分には粘着性ではないゲルを生成する方法で慣用的に製造されるので、このような分解が主として生じ得ると考えられる。このたび、長期間、例えば、少なくとも6か月から1年以上貯蔵した場合でさえ、そして、滅菌手順、例えば、オートクレーブ処理を施した後でさえ、リドカインの十分に粘着性の架橋HA系組成物への添加が該組成物の実質的なまたは有意な分解を引き起こさず、該組成物がレジオロジー、粘度、外観および他の特性に関してそれらの強度を維持するという知見が得られた。
【0046】
リドカインを含む架橋HA系組成物の製剤が、滅菌安定で注射可能なHA/リドカイン組成物を生成することができるような本発明に従った方法で製造されるということは驚くべき発見である。
【0047】
また、本発明は、粘着性のある架橋HA系前駆組成物を製造し、該前駆組成物にリドカイン塩酸塩を添加してHA/リドカインゲル混合物を形成し、該混合物をホモジナイズして、オートクレーブに安定な架橋HA系組成物を形成することによる、リドカインの有効量を含有する安定なHA系組成物の製造方法を提供する。
【0048】
ある実施態様では、該前駆組成物は、約1%未満の可溶性液体形態または遊離HAを含むゲルである。他の実施態様では、該前駆組成物は、約1容量%以下〜約10容量%の遊離HAを含む。
【0049】
該前駆組成物は、実質的に固体の相に比較的僅かに架橋したHA粒子を含む第1成分、および比較的高度に架橋している粒子が分散している実質的に流動性の相に遊離しているかまたは架橋が比較的少ないHAを含む第2成分を含むことができる。該組成物は、約10容量%〜約20容量%以上の遊離HAを含むことができる。
【0050】
いくつかの実施態様では、該遊離HAは、組成物の20重量%未満である。例えば、該遊離HAは、HA成分の10重量%未満である。さらなる例として、第2部分は、HA成分の約1重量%〜約10重量%である。
【0051】
例えば、前駆組成物は、粘着性のHA系ゲルを含む。
【0052】
他の実施態様では、遊離HAは、HA成分の約20重量%を超える。
【0053】
いくつかの実施態様では、本発明の組成物は、微粒子特性を有しており、架橋が比較的少ないHAの媒体中に分散している比較的高度に架橋しているHAの粒子を含む。いくつかの実施態様では、架橋HAのこのような粒子の平均粒径は、少なくとも約200μmまたは少なくとも約250μmである。このような粒子組成物は、概して、識別できる粒子を有していないか、または、200μm未満の平均粒径を有する粒子を有する他の類似組成物よりも粘着性が低い。
【0054】
例えば、いくつかの実施態様では、前駆組成物は、比較的高度に架橋しているHA系ゲルの塊をシーブまたはメッシュに押しつけて通して、概して均一なサイズおよび形状の比較的高度に架橋しているHA粒子を生じさせることによって製造され得る。次いで、これらの粒子を担体物質、例えばゲルを生成することができる量の遊離HAと混合する。
【0055】
さらに、実質的にpH中性の少なくとも一部が架橋しているHA系ゲルを含む前駆組成物を準備し、ゲルのpHを、約7.2を超えるpH、例えば、約7.5〜約8.0に調節することを含む、リドカインの有効量を含むHA系組成物の製造方法が提供される。該方法は、さらに、リドカインを例えばリドカインHClの形態で含有する溶液を、上記のようにpHを調節した後の僅かにアルカリ性のゲルと合わせ、オートクレーブに安定なリドカイン含有HA系組成物を得る工程を含む。
【0056】
本明細書に記載のリドカインの有効量を含有する安定なHA系組成物のもう1つの製造方法は、概して、例えば繊維の形態の、精製NaHA物質を準備する工程;該物質を水和する工程;および、該水和物質を好適な架橋剤により架橋させて架橋HA系ゲルを形成する工程を含む。該方法は、さらに、該ゲルを中和し、膨潤させる工程、および、該ゲルに、リドカイン、好ましくは、リドカイン塩酸塩の酸性塩を含有する溶液を添加して、HA/リドカインゲルを形成する工程を含む。さらにまた、該方法は、さらに、該HA/リドカインゲルをホモジナイズし、このホモジナイズしたHA/リドカインゲルを、例えば調剤用注射器中に、パッケージングすることを含む。次いで、該注射器を有効な温度および圧力下でオートクレーブすることによって滅菌する。本発明に従ってパッケージングし滅菌した粘着性NaHA/リドカインゲルは、慣用方法を使用して調製したリドカイン含有HA系組成物と比べて高い安定性を示す。
【0057】
本発明の生成物および組成物は、少なくとも約1分〜約15分間のオートクレーブ処理の間、少なくとも約120℃〜約130℃の温度および/または少なくとも約12ポンド・平方インチ(PSI)〜約20PSIの圧力に暴露した場合に無菌であると考えられる。
【0058】
本発明の生成物および組成物は、また、室温で長期間貯蔵した場合、安定なままである。好ましくは、本発明の組成物は、少なくとも約25℃の温度で、少なくとも約2か月、または少なくとも約6か月、または少なくとも約9か月、または少なくとも約12か月、または少なくとも約36か月の期間、安定なままである。特定の実施態様では、当該組成物は、約45℃までの温度で少なくとも2か月の期間安定である。
【0059】
一の実施態様では、製造プロセスは、乾燥HA繊維または粉末の形態の原料HA物質を準備する第一の工程を含む。原料HA物質は、HA、その塩および/またはその混合物であり得る。好ましい実施態様では、該HA物質は、NaHAの繊維または粉末を含み、さらに好ましくは、細菌起源NaHAのものを含む。本発明のいくつかの態様では、HA物質は、動物由来のものであり得る。HA物質は、HAを含む原料物質および少なくとも1種類の他の多糖、例えば、グリコサミノグリカン(GAG)を含む原料物質の組み合わせであり得る。
【0060】
いくつかの実施態様では、組成物中のHA物質は、ほぼ完全に高分子量HAを含むか、または高分子量HAからなる。すなわち、当該組成物中のHA物質のほぼ100%が、上記で定義した高分子量HAであり得る。他の実施態様では、組成物中のHA物質は、上記で定義した比較的高分子量のHAおよび比較的低分子量のHAの組み合わせを含む。
【0061】
組成物のHA物質は、高分子量HAを約5%〜約95%含み、HA物質の残りは、低分子量HAを含む。本発明の典型的な実施態様では、低分子量HAに対する高分子量HAの割合は、少なくとも約2、好ましくは2を超え(w/w≧2)、高分子量HAは、1.0MDa以上の分子量を有する。
【0062】
当業者には当然のことであるが、高分子量および低分子量HA物質の選択ならびにそれらの相対的なパーセンテージまたは割合の選択は、最終HA系生成物の所望の特性、例えば、押出力、弾性係数、粘性係数および弾性係数に対する粘性係数の割合として表される位相角、粘着性などに依存する。本発明のこの態様および他の態様を理解するのに役立ち得るさらなる情報については、Lebreton、米国特許出願公開第2006/0194758号(出典明示によりその全体として本明細書の一部を構成する)を参照。
【0063】
HA系ゲルは、本発明に従って、所望の高分子量/低分子量比を有する乾燥または原料HA物質を清浄および精製することによって製造され得る。これらの工程は、概して、所望の高分子量/低分子量比の乾燥HA繊維または粉末を、例えば純水を用いて、水和し、該物質を濾過して、大きな異物および/または他の不純物を除去することを含む。次いで、この濾過した水和物質を乾燥し精製する。高分子量および低分子量HAは、別々に清浄および精製され得るか、または、架橋の直前に、一緒に、例えば所望の比率で、混合することができる。
【0064】
本発明の一の態様では、純粋な乾燥NaHA繊維をアルカリ性溶液中で水和して遊離NaHAアルカリ性ゲルを生成する。この工程でNaHAを水和するために、いずれかの好適なアルカリ性溶液を使用することができ、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、重炭酸ナトリウム(NaHCO3)および水酸化リチウム(LiOH)などを含有する水性溶液が挙げられるが、これらに限定されるものではない。別の実施態様では、好適なアルカリ性溶液は、NaOHを含有する水性溶液である。得られたアルカリ性ゲルは、7.5以上のpHを有する。得られたアルカリ性ゲルのpHは、9を超えるpH、または10を超えるpH、または12を超えるpH、または13を超えるpHを有することができる。
【0065】
当該製造方法における次工程は、水和したアルカリ性NaHAゲルを好適な架橋剤により架橋させる工程を含む。架橋剤は、多糖類およびそれらの誘導体をそれらのヒドロキシル機を介して架橋するのに適しているいずれかの薬剤であり得る。好適な架橋剤としては、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(または1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタンまたは1,4−ビスグリシジルオキシブタン、これらは全て一般的にBDDEとして知られている)、1,2−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)エチレンおよび1−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。2種類以上の架橋剤または別の架橋剤の使用は、本発明の範囲から排除されない。本発明の一の態様では、本明細書に記載のHAゲルは、BDDEを使用して架橋される。
【0066】
架橋の工程は、当業者に知られているいずれかの手段を使用して行われ得る。HAの性質に応じて架橋条件を最適化する方法および最適な程度に架橋を行う方法は当業者には明らかである。
【0067】
本発明の目的のための架橋度は、HA系組成物の架橋部分内のHAモノマー単位に対する架橋剤の重量比であると定義される。それは、架橋剤に対するHAモノマーの重量比(HAモノマー:架橋剤)によって測定される。
【0068】
本発明の組成物のHA成分中の架橋度は、少なくとも約2%であり、約20%までである。
【0069】
いくつかの実施態様では、架橋度は、約4%〜約12%である。いくつかの実施態様では、架橋度は、約6%未満であり、例えば、約5%未満である。
【0070】
他の実施態様では、架橋度は、5%よりも大きく、例えば、約6%〜約8%である。
【0071】
いくつかの実施態様では、HA成分は、水中でその重量の少なくとも約1倍を吸収する能力を有する。中和し、膨潤させた場合、架橋HA成分および該架橋HA成分によって吸収された水の重量比は、約1:1である。得られた水和HA系ゲルは、高粘着性であるという特性を有する。
【0072】
本発明のいくつかの実施態様によるHA系ゲルは十分な粘着性を有しているため、該ゲルは2000rd/分で5分間遠心分離した後に実質的な相分離を受けない。別の実施態様では、該ゲルは、それらの重量の少なくとも1倍の水を吸収する能力を有するという特性を有しており、十分な粘着性を有しているため、約1:1のゲル/水の重量比にて水で膨潤させた場合、例えば遠心分離を施した場合に、該ゲルはそれらの強度を維持している。
【0073】
水和した架橋HAゲルは、膨潤して所望の粘着性を得ることができる。この工程は、水和した架橋HAゲルを、例えばHClのような酸を含有する水性溶液で、中和することによって行われ得る。次いで、低温で十分な時間、該ゲルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中にて膨潤させる。
【0074】
一の実施態様では、得られた膨潤ゲルは、高粘着性であり、可視の明確な粒子を含まない、例えば、裸眼で見た場合に可視的に明確な粒子を含まない。好ましい実施態様では、該ゲルは、35倍未満の倍率で可視的に明確な粒子を有しない。
【0075】
該ゲルを、ここで、透析またはアルコール沈殿法のような慣用手段によって精製して、架橋物質を回収し、該物質のpHを安定化させ、未反応架橋剤を除去する。さらなる水または僅かにアルカリ性の水性溶液を添加して、組成物中のNaHAの濃度を所望の濃度にすることができる。
【0076】
好ましくは、精製した実質的にpH中性の架橋HAゲルが僅かにアルカリ性になるように該ゲルのpHを調節し、該ゲルが約7.2を超えるpH、例えば、約7.5〜約8.0のpHを有するようにする。この工程は、いずれかの好適な手段によって、例えば該ゲルまたは当業者に知られているいずれかの他のアルカリ性の分子、溶液および/または緩衝組成物に好適な量の希NaOH、KOH、NaHCO3またはLiOHを添加することによって、行われ得る。
【0077】
次いで、この精製した粘着性NaHAゲルにリドカインHClのようなリドカインの有効量を添加する。例えば、いくつかの実施態様では、リドカインHClは、注射用蒸留水(WFI)を使用して可溶化される粉末形態で提供される。該ゲルは、最終HA/リドカイン組成物が所望の実質的に中性のpHを有するように、緩衝液で、または、希NaOHによる調節によって、中性に維持される。好ましくは、リドカインを含有する最終HA系充填剤組成物は、組成物の少なくとも約0.1重量%〜約5重量%、例えば、約2重量%、他の例では約0.3重量%のリドカイン濃度を有する。
【0078】
リドカインHClの添加後、または、別法として、リドカインHClの添加の間、HA/リドカインゲルまたは組成物はホモジナイズされて、所望のコンシステンシーおよび安定性を有する非常に均質な粘着性のHA/リドカインゲルを生じる。好ましくは、ホモジナイゼーション工程は、制御された剪断力によってゲルを混練、撹拌または叩解して、実質的に均質な混合物を得ることを含む。
【0079】
本発明のHA/リドカイン組成物は、該組成物の特性および少なくとも1種類の麻酔剤の存在に依存する粘度を示す。HA/リドカイン組成物の粘度は、約50Pa・s〜約450Pa・sであり得る。他の実施態様では、この粘度は、約50Pa・s〜約300Pa・s、約100Pa・s〜約400Pa・s、または約250Pa・s〜約400Pa・s、または約50Pa・s〜約250Pa・sであり得る。
【0080】
ホモジナイゼーション後、HA/リドカイン組成物を注射器に導入し、滅菌する。本発明に有用な注射器としては、粘着性のある皮膚充填剤組成物を送達する能力を有する当該技術分野で知られているいずれかの注射器が挙げられる。該注射器は、一般に、約0.4mL〜約3mL、より好ましくは、約0.5mL〜約1.5mL、または約0.8mL〜約2.5mLの内部容積を有する。この内部容積は、高粘度の皮膚充填剤組成物を注入するのに必要な押出力において重要な役割を果たす注射器の内径と関係付けられる。この内径は、一般に、約4mm〜約9mm、より好ましくは、約4.5mm〜約6.5mm、または約4.5mm〜約8.8mmである。また、注射器からA/リドカイン組成物を送達するのに必要な押出力は、ハリのゲージに依存する。一般に使用される針のゲージとしては、約18G〜約40G、より好ましくは、約25G〜約33G、または約16G〜約25Gのゲージが挙げられる。当業者は、特定の押出力要件に達するために必要な、正確な注射器の寸法および針のゲージを決定することができる。
【0081】
上記した針の寸法を使用して本発明のHA/リドカイン組成物によって示される押出力は、患者にとって快適な注入速度である。患者にとって快適とは、軟部組織への注入後に患者に損傷を与えたり過度の痛みを生じさせたりしない注入速度を定義するために使用される。本明細書で使用される場合の快適さとは、患者の快適さのみならずHA/リドカイン組成物を注入する医師または医療技師の快適さおよび能力も含むことは、当業者には理解できることである。ある押出力は本発明のHA/リドカイン組成物を用いて達成できるが、当業者は、高い押出力が注入の間に制御の欠落を引き起こす可能性があること、そして、このような制御の欠落により患者にさらなる痛みをもたらす可能性があることを理解している。当該HA/リドカイン組成物の押出力は、約8N〜約15N、または、より好ましくは、約10N〜約13N、または約11N〜約12Nであり得る。
【0082】
本明細書で使用される場合、滅菌化は、HA/リドカイン組成物を分解する実質的な変化を伴わずに感染性因子を効果的に死滅させるかまたは排除することが当該技術分野で知られている方法を含む。
【0083】
充填した注射器の滅菌化の好ましい方法は、オートクレーブによるものである。オートクレーブは、熱、圧力および湿度を合わせたものを、滅菌を必要とする試料に適用することによって行われ得る。多くの異なる滅菌温度、圧力およびサイクル時間をこの工程で使用することができる。例えば、充填した注射器は、少なくとも約120℃〜約130℃以上の温度で滅菌され得る。湿度は、使用しても使用しなくてもよい。加えられる圧力は、いくつかの実施態様では、滅菌工程に使用される温度に依存する。滅菌サイクルは、少なくとも約1分〜約20分以上であり得る。
【0084】
滅菌の別法は、感染性因子を死滅させるかまたは排除することが知られているガス種の使用を取り入れる。好ましくは、エチレンオキシドは、滅菌ガスとして使用され、医薬装置および医薬を滅菌かるのに有用であることが当該技術分野で知られている。
【0085】
滅菌のさらなる方法は、感染性因子を死滅させるかまたは排除することが当該技術分野において知られている照射源の使用を取り入れる。照射線は、HA/リドカイン溶液が入っている注射器を標的とし、そのエネルギーの波長は、望ましくない感染性因子を死滅させるかまたは排除する。好ましい有用なエネルギーとしては、紫外線(UV)、ガンマ線照射、可視光線、マイクロ波、または好ましくはHA/リドカイン組成物を分解する実質的な変化を伴わずに望ましくない感染性因子を死滅させるかまたは排除するいずれかの他の波長または波長帯域が挙げられるが、これらに限定されるものではない、
【0086】
さらに、概して、麻酔剤を含まない架橋HA系ゲル(以下、しばしば、前駆ゲルと記す)を準備する工程、前駆ゲルのpHを調節して約7.2〜8.0のpHを有するゲルを得る工程、およびこのpH調節ゲルに好適な量のリドカインまたは他の麻酔剤を添加して麻酔剤を含むHA系組成物を得る工程を含むHA系組成物の製造方法が記載される。一の実施態様では、該前駆ゲルは、約10容量%以下の遊離HAを含む高粘着性のゲルである。別の実施態様では、該前駆ゲルは、少なくとも10容量%〜約20容量%の遊離HAを含む比較的低粘着性のゲルである。
【実施例】
【0087】
実施例1
ゲルの粘着性について試験する方法
本発明の目的のためのHA系ゲル組成物の粘着性を立証するために、以下の試験を行うことができる。
【0088】
まず、試験しようとするゲル組成物0.2gまたは0.4gをガラス製注射器に入れる。次いで、この注射器にリン酸緩衝液0.2g以上を加え、該混合物を約1時間完全に混合して均質混合物を得る。次いで、この均質混合物を2000tr/分で5分間遠心分離して、気泡を除去し、粒子のデカンテーションを行う。次いで、この注射器を垂直位置に保持し、注射器および18G針によってゲルの表面にエオシン染料1滴を落とす。10分後、該染料は、ゲルを通してゆっくりと拡散した。
【0089】
ゲルの希釈、均質化およびデカンテーションの後、比較的低粘着性のゲルは相分離を示す(粒子を含まない希釈された低粘度の上部相および裸眼または顕微鏡で見ることができるデカントされた粒子からなる下部相)。同一条件下で、高粘着性のゲルは実質的に相分離を示さず、該染料は粘着性製剤中に拡散することができない。他方、比較的低粘着性のゲルは明らかな相分離を示す。
【0090】
実施例2
リドカイン含有軟部組織充填剤の合成
アルカリ性溶液、例えばNaOHを含有する水性溶液中にてNaHA繊維または粉末を水和させる。該混合物を約23℃の周囲温度で混練して、実質的に均質なアルカリ性HAゲルを形成する。
【0091】
架橋剤BDDEを水性溶液で希釈し、該アルカリ性HAゲルに加える。該混合物を数分間ホモジナイズする。
【0092】
別法として、水和化前に、該プロセスの始めに、BDDEをHA繊維(乾燥状態)に直接加えることができる。次いで、周囲温度で比較的ゆっくりと架橋反応が始まり、より良好な均質性および架橋の効率を確実にする。例えば、Pironらの米国特許第6,921,819号を参照(出典明示によりその全体として本明細書の一部を構成する)。
【0093】
次いで、得られた架橋HAゲル混合物を約50℃で約2.5時間加熱する。ここで、該物質は、高架橋HA/BDDEゲル(外観=固体ゲル)である。次いで、この架橋ゲルを好適な酸性溶液で中和する。次いで、この中和したHAゲルを、低温にて、例えば約5℃にて、リン酸緩衝液で膨潤させて、高粘着性のHAゲルを得る。この特定の例においてリン酸緩衝生理食塩水は、注射用蒸留水(WFI)、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムを含有する。中和され、膨潤された時の架橋HA成分とこの架橋HA成分に吸収された水との重量比は約1:1である。
【0094】
次いで、この粘着性の膨潤HAゲルを機械的に撹拌し、透析膜に充填し、リン酸緩衝液に対して透析する。浴を定期的に交換しながら数日間、このHAゲルを透析膜に充填し、リン酸緩衝液に対して透析して、未反応の架橋剤を除去し、pHを中性付近(pH=7.2)で安定させ、HAゲルの適正なモル浸透圧濃度を確実にする。得られた粘着性HAゲルのモル浸透圧濃度は、約200mOsmol〜約400mOsmol、最も好ましくは約300mOsmolである。
【0095】
透析後、得られた粘着性HAゲルは、実質的に中性のpH、好ましくは約7.2を有し、約35倍未満の倍率で見た場合に流動性媒体中に可視的に明確な粒子を有しない。
【0096】
粉末形態のリドカイン塩酸塩(リドカインHCl)をまずWFIに可溶化し、0.2μmフィルターで濾過する。この粘着性HAゲルに希NaOH溶液を添加して、僅かに塩基性のpH(例えば、約7.5〜約8のpH)にする。次いで、この僅かに塩基性のゲルにリドカインHCl溶液を添加して、最終の所望の濃度、例えば、約0.3%(w/w)の濃度にする。得られたHA/リドカイン混合物のpHは、約7であり、HA濃度は約24mg/mLである。適当なブレンダー機を装着した標準的な反応器において機械的混練を行って、適正な均質性を得る。
【0097】
必要に応じて、HA/リドカインゲル混合物に遊離HAゲルの好適な量を添加することができ、リドカイン送達速度を増加させるという利点を与える。例えば、遊離HA繊維をリン酸緩衝液で膨潤させて、均質な粘弾性ゲルを得る。次いで、この遊離HAゲルを(例えば、約5%、w/wで)架橋HA/リドカインゲルに加える。次いで、得られたゲルを充填準備済滅菌注射器に充填し、滅菌に十分な温度および圧力で少なくとも約1分間オートクレーブする。
【0098】
オートクレーブ後、最終HA/リドカイン生成物をパッケージングし、医師に配布する。この方法に従って製造した生成物は、本明細書の他の個所で定義したような安定性の特徴を1つ以上示す。例えば、オートクレーブしたHA/リドカイン生成物は、許容される粘度、粘着性および押出力を有する。HA/リドカインゲル生成物を数ヶ月間貯蔵した後、該生成物の試験中にその分解は見られない。
【0099】
実施例3
軟部組織充填剤の特性
本明細書に記載した方法に従って製造したHA/リドカイン組成物の特性を下記表1に示す。押出力は、例えば、INSTRON(登録商標) Advanced Materials Testing System Model 5564(Instron、マサチューセッツ州ノーウッド)を用いて測定し、BLUEHILL(登録商標)ソフトウェア・バージョン2.11(Instron、マサチューセッツ州ノーウッド)を実行した。
【表1】

【0100】
複数の研究を行って、組成物の貯蔵期間の全体にわたって製品規格が維持されたことを確実にした。加えて、2,6−ジメチルアニリン含量を測定して、リドカインの分解がないことを確認した。
【0101】
表2は、本明細書の記載に従って製造した組成物の安定性試験結果の一覧である。
【表2】

【0102】
9か月目に(製造日から)、組成物が製品規格に適合し続けていることが判明した。
【0103】
実施例4
放出速度
以下の実施例は、本発明の粘着性HAゲルからのリドカインの放出の速度を示す。実施例の目的は、本発明のHAゲルが皮膚に入れられた場合に該ゲルに含まれるリドカインが該ゲルから自由に放出されることを示すことである。
【0104】
様々な時点で透析を行った(ゲル約10gを小さな透析バッグに入れ、次いで、水30g中に入れた)。各透析を所定の時間に停止した後、ゲルをスパチュラでホモジナイズし、UV法によってリドカインの量を測定した。透析浴の最終濃度は、ゲルからのリドカインの自由な放出を示すリドカインの理論的な濃度と適合した。
【0105】
表3は、リドカイン濃度%(w/w)、該値の補正および放出されたリドカインのこの%の決定を示す。さらに、図9は、下記表3に示された結果をグラフによって示す。図9では、リドカインがゲル中に保持されていた場合または自由に放出された場合に存在するリドカインの理論的な平衡濃度を示す。グラフにより示されるように、データは、リドカインがゲルから自由に放出されることを示唆する。
【表3】

【0106】
図1は、リドカインの濃度プロファイルが、経時的に、リドカインの自由な放出に相当する平衡に達することを示している。図1における組成物の製剤は、粘着性架橋HAゲルである。該組成物は、約24mg/mLのHA濃度、約6%架橋、約170のG’および約95%対5%の高分子量HA対低分子量HA比から約100%高分子量HAまでを有する。このインビトロ研究は、リドカインがゲルから自由に放出され、一旦移植されると該ゲル中に保持されないことを示している。
【0107】
本発明は、ある程度の詳細さをもって記載され例示されているが、本明細書は、ほんの一例をもって記載されているだけであり、部分の組み合わせおよびアレンジの多くの変更が、特許請求の範囲に記載されているような本発明の範囲から逸脱せずに当業者によって戻され得ることは理解される。
【0108】
他に指定されない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される成分の量、分子量のような特性、反応条件などを表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、反対のことを指定しない限り、本明細書および特許請求の範囲に記載される数値パラメーターは、本発明によって得られる所望の特性に応じて変わり得る概算である。最低限でも、かつ、特許請求の範囲の範囲との均等論の適用を制限するものとしてではなく、各数値パラメーターは、少なくとも、報告された有効桁の数を考慮して、そして、通常の四捨五入技術を適用することによって、解釈されるべきである。本発明の広い範囲を示している数値範囲およびパラメーターは概算であるにもかかわらず、特定の実施例に示されている数値は、できる限り正確に報告されている。しかしながら、いずれの数値も、本質的に、それらの個々の試験測定においてみられる標準偏差から必ず生じるある程度の誤差を含んでいる。
【0109】
本発明の説明(特に、特許請求の範囲)で使用されている用語は、本明細書において他に指示がないかまたは文脈から明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を含むものである。本明細書における数値の範囲の記載は、単に、その範囲内となるそれぞれ別個の値を個々に示す簡単な方法としての役割を果たすことを意図される。本明細書において他に指示がない限り、それぞれ別個の値は、本明細書において個々に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載されている全ての方法は、本明細書において他に指示がないかまたは文脈から明らかに矛盾しない限り好適な順序で行われ得る。全ての例の使用、または本明細書に記載される例を示す用語(例えば、「のような」)は、単に本発明をより明確にすることを意図されており、他に主張される本発明の範囲に制限を提起するものではない。本明細書における用語は、特許請求の範囲に記載されていない本発明の実施に必須の要素を示すものであると解釈されるべきではない。
【0110】
本明細書に記載の代替要素または実施態様の分類は、制限として解釈されるべきではない。各群のメンバーは、個々に、または、その群の他のメンバーまたは本明細書に記載の他の要素と組み合わせて、明細書および特許請求の範囲に記載される。当然のことながら、便宜および/または特許性の理由のために、一の群の1つ以上のメンバーが一の群に含まれても一の群から削除されてもよい。このような包含または削除が生じる場合、該明細書は、変更された群を含んでいて、特許請求の範囲で使用される全てのマーカッシュグループの記載を満たすものと見なされる。
【0111】
本明細書には、本発明を行うための本発明者が知っている最良のモードを含む本発明の特定の実施態様が記載されている。もちろん、これらの記載された実施態様のバリエーションは、上記説明を読んだ後の当業者には明らかになるであろう。本発明者は、必要に応じてこのようなバリエーションを使用することを当業者に期待しており、本発明者は、本明細書に詳細に記載したもの以外に実施される発明を意図している。したがって、本発明は、適用される法が許すような、特許請求の範囲に記載の主題の全ての変更および等価物を含む。さらにまた、全ての可能なバリエーションにおける上記要素の組み合わせは、本明細書において他に指示されないかまたは文脈から明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【0112】
さらにまた、本明細書の全体にわたって多数の特許および刊行物が引用されている。上記で引用された文献および刊行物の各々は、個々に、出典明示によりそれらの全体として本明細書の一部を構成する。
【0113】
本明細書に記載の特定の実施態様は、〜からなるおよび/または本質的に〜からなるという用語を使用して特許請求の範囲において制限され得る。特許請求の範囲で使用される場合、提出された場合であっても補正により加えられた場合であっても、「〜からなる」という用語は、特許請求の範囲に明記されていない要素、工程または成分を排除する。「本質的に〜からなる」という用語は、特許請求の範囲の範囲を、明記された物質または工程および基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。特許請求の範囲においてそのように記載された発明の実施態様は、本質的にまたは明白に本明細書に記載されており、本明細書において使用可能である。
【0114】
最後に、当然のことながら、本明細書に記載された本発明の実施態様は、本発明の原理を例示するものである。使用され得る他の変更は、本発明の範囲内である。かくして、限定されるものではない一例として、本発明の代替構造は、本明細書における教示に従って利用され得る。したがって、本発明は、明確に示され記載されたものに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタン、1,4−ビスグリシジルオキシブタン、1,2−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)エチレンおよび1−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサン、および1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルまたはそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1種類の架橋剤により架橋されたHA成分を準備する工程;
このHA成分のpHを約7.2以上の調節pHに調節する工程;および
この調節pHを有するHA成分に少なくとも1種類の麻酔剤を含有する溶液を添加して、HA系軟部組織充填剤組成物を得る工程
を含む、軟部組織充填剤組成物の製造方法。
【請求項2】
調節pHが約7.5以上である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1種類の麻酔剤がリドカインである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
HA成分を準備する工程が、乾燥した非架橋NaHA物質を準備する工程およびこの乾燥した非架橋NaHA物質をアルカリ性溶液で水和させてアルカリ性の非架橋NaHAゲルを得る工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
アルカリ性の非架橋NaHAゲルが約8.0を超えるpHを有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
アルカリ性の非架橋NaHAゲルが約10を超えるpHを有する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
HA成分が約10%を超える非架橋HAを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
HA成分が少なくとも約20%の非架橋HAを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
HA成分が約5%未満の架橋度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
HA成分が約200μmを超える平均粒径を有する架橋HAの粒子を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
HA成分が非粘着性組成物である、請求項1記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−529762(P2011−529762A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521649(P2011−521649)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【国際出願番号】PCT/IB2009/005046
【国際公開番号】WO2010/015900
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(511032040)アラーガン・アンデュストリー・ソシエテ・パール・アクシオン・サンプリフィエ (4)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN INDUSTRIE SAS
【Fターム(参考)】