説明

麻酔器の流量調節弁

【課題】 麻酔器の流量調節弁において、フレッシュガスの流量が少ないとき酸素を追加するバイパスを設け、且つ該バイパスの構成を簡単なものとする。
【解決手段】 弁本体2にガス調節弁3と酸素調節弁4の弁座室7,17、停止縁8,18、弁室9,19を設け、弁座室7,17に移動弁座11,21を気密に摺動できるように設け、その弁孔111,211に弁体13,23を共同させる。酸素調節弁4には弁座室17の前部から流出路20に通じるバイパス25を設ける。弁体13,23を連動させて同時に後退させると、移動弁座11,21も同方向に停止縁8,18に向けて動いてバイパス25が開き、少量の酸素が流出する。弁体13,23を更に後退させると、移動弁座11,21は停止縁8,18で停止しているため弁孔111,211が開き、ここから所定の比率がガスと酸素が流出する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酸素と酸素以外のガス、すなわち麻酔ガス、酸素、空気等のガスを混合して、フレッシュガスとして患者の呼吸回路に供給する、麻酔器の流量調節弁に関する。
【0002】
【従来の技術】麻酔用のフレッシュガスは、酸素と酸素以外のガスを例えば1:3の比率で混合したもので、患者のマスクを通る呼吸回路に供給され、必要とする麻酔の程度に応じて供給量が調節される。ところで、患者の体内では生命維持のために毎分200〜300mlの酸素が消費されるから、低麻酔をかける場合に、フレッシュガス量を300ml近傍にすると酸素量が不足する。しかも、酸素の粘性は、他のガスの粘性より高いから、流量を絞ったとき絞りの影響を受け易く、この点からも酸素量が不足し易い。
【0003】図5は、フレッシュガスの全流量を横軸にとり、酸素O2,笑気ガスN2Oの流量を縦軸にとって混合比を示したものであり、線A′,B′は比率を略一定にした場合における酸素量及び笑気ガス量を示し、A,Bは本発明における酸素量及び笑気ガス量の供給量の一例を示すものである。
【0004】図5において、全流量を300mlにしたとき、線A′,B′のO2量は75ml,N2O量は225mlとなって、酸素が患者の必要とする200〜300mlに比べて著しく不足になるが、線A,BにおいてO2量は300ml,N2O量は0mlで酸素不足がなく、この状態から全流量を増加させることによってO2を漸増させながらN2Oを急速に増大させて所定の比率にする。したがって、麻酔器の流量調節装置においては、酸素調節弁とガス調節弁を連動させるが、酸素調節弁を連動状態から外して独立して調節できるようにし、低麻酔時の酸素の比率を大にしている。
【0005】本出願人が先に出願した実開昭7−1948号の考案は、酸素を独立して調節できるようにした機構を設けると共に、酸素調節弁の移動弁座にバイパスを設けて、フレッシュガスの供給量が小さいとき該バイパスが開いて酸素供給量が自動的に増加するようにしてある。
【0006】しかし、前記考案においては、バイパスを設ける場所が、極めて小さい移動弁座の内部であるため、バイパスの加工がむずかしく、また、バイパス量の調節ができないという不都合がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、フレッシュガスの低流量時に酸素を自動的に増加すべくした麻酔器の流量調節弁にあって、酸素量を増加するためのバイパスを容易に作ることができ、また、該バイパスを通る酸素の流量調節が容易にできる機構を得ることを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記課題のうち、バイパスの構成に関する手段は、請求項1に記載したとおり、弁本体に酸素調節弁と酸素以外のガスを調節するガス調節弁とを設け、両調節弁の弁体を進退させて酸素と酸素以外のガスを所要の比率で供給するようにした麻酔器の流量調節弁において、酸素調節弁とガス調節弁の各弁本体部分に、流入側から弁座室、停止縁、弁室を順次設け、酸素調節弁に、弁座室の流入側の内面に入口をもち、弁本体内を経て流出路側に連通する小流路のバイパスを設け、中心に弁孔を有する移動弁座を、各弁座室内に摺動自在に収容して前記停止縁に向けてバネで加圧し、各弁室内に、前記移動弁座の弁孔を閉鎖したのち該移動弁座を前記バネに抗して流入側に向けて移動させる弁体を設け、移動弁座の該移動により前記バイパスの入口を閉じ、反対方向への移動により該入口を開くべくしたことを特徴とするものであり、該手段により酸素用のバイパスを移動弁座に設けることなく弁本体に設けることができるため、バイパスの設計の自由度が高く、製造も極めて容易になった。
【0009】また、バイパスにおける流量調節に関する手段は、請求項2に記載したとおり、請求項1において、前記バイパスにバイパス調節弁を設け、該バイパス調節弁の調節部を弁本体外に設けたことを特徴とするものであり、酸素のバイパス調節弁を弁本体外から容易に調節することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1において、1は酸素と笑気ガスを混合するための流量調節弁、2は弁本体で、該弁本体2に笑気ガス調節弁3と酸素調節弁4が設けれ、両弁3,4は、摘み31,41で操作される。弁本体2は、一体のブロックとして図示されているが、内部に中空部、通路等を設けるために、適宜の面で分割した部材を組合わせて形成される。
【0011】ガス調節弁3は、前方から流入口5、バネ室6、弁座室7、停止縁8、弁室9が順次連設され、弁室9は、流出路10で弁本体2外に連通している。弁座室7内には移動弁座11が摺動自在に挿入されており、該移動弁座11は、中心に弁孔111が貫通され、また外周溝に嵌着したOリング112によって弁座室7の内面との間を気密に保つようにされ、バネ12によって停止縁8に圧接されるようになっている。
【0012】弁体13は、弁室9を通って弁孔111に対向して設けられ、流量を調節するニードル部131とねじ部132、連動用のギヤ133を有し、ねじ部132が弁本体2の雌ねじに螺合しており、一体の摘み31の回転によって進退する。また、ギヤ133は長い中間ギヤ14にかみ合っている。
【0013】酸素調節弁4も、前方から流入口15、バネ室16、弁座室17、停止縁18、弁室19が連設され、弁室19が流出路20で弁本体2外に連通している。弁座室17内には移動弁座21が摺動自在に挿入され、バネ22で加圧されており、該移動弁座21は、中心に弁孔211が貫設され、外周溝に嵌着したOリング212によって弁座室17の内面との間を気密に保つようにされ、前端面のリング溝に嵌着したOリング213によって前進時に弁座室27の前面に密着するようになっている。
【0014】弁体23は、流量を調節するためのニードル部231とねじ部232を有し、ねじ部232が弁本体2の雌ねじに螺合している。また、筒ねじ24が該弁体23に遊嵌した状態でねじ部241により弁本体2に螺合され、これと一体のギヤ242が中間ギア14にかみ合っている。ギヤ132,242は同径で各部のねじ部132,232,241は同ピッチとされている。
【0015】また筒ねじ24の後面には突起243が突設され、摘み41の前面には突起42が突設されて、ねじの1ピッチ分の高さで前記突起243に係合できるようになっている。
【0016】このギヤ及びねじによる弁作動機構は、前記従来技術に示されるものと同じで、ガス調節弁3の摘み31を開弁方向に回すと、突起243,42が係合して酸素調節弁4の摘み41も同一角度回転し、弁体13,23は同距離後退して開弁する。また摘み31を閉弁方向に回すと筒ねじ24は前進して突起243,42の係合が外れ弁体23が動かない。
【0017】更に、酸素調節弁4の摘み41を閉弁方向に回転すると、突起243,42が係合してガス調節弁3の弁体13も閉弁方向に回転され、共に前進する。また、摘み41を開弁方向に回すと、図3に示すように突起243,42が外れて弁体23のみが後退する。したがって、酸素調節弁4は、開弁方向にはガス調節弁3と無関係に動くことができ、酸素比率を任意に上げることができる。
【0018】酸素調節弁4の弁座室17の前部側の側面には、該弁座室17と流出路20を連通するバイパス25の入口251が開口しており、移動弁座21を停止縁18側に後退させることにより、該入口251は開いてバイパス25は流入口15に連通する。そして、バイパス25の途中に、ニードル型のバイパス調節弁26がねじ込まれ、尾端に調節部としての溝261が設けられ、該溝261にねじ回しを係合して回動することによりバイパス量が加減できる。
【0019】図中、27,28は笑気ガス及び酸素の流入管、29,30は笑気ガス及び酸素の流出管であり、291,301は浮動型の流量計、31は混合部、32は呼吸回路への放出管である。
【0020】以上の構成であるから、図1の閉弁状態からフレッシュガスを送出したいときは、ガス調節弁3の摘み31を開弁方向に回転する。該回転によって、弁体13は、図2に示すように後退し、同時にギヤ133,14,242の連動により筒ねじ24も回転しながら後退し、突起243,42を介して弁体23も回転され、同時に後退する。これにより移動弁座11,21は、バネ12,22に押されて弁体13,23に追従して後退し、停止縁8,18に当接する。
【0021】この状態で酸素調節弁4の移動弁座21が弁座室17の前面から離れて流入口15を弁座室17に開放し、バイパス25の入口251が弁座室17に開口するから、少量の酸素がバイパス25、流出路20を通って流出し、放出管32から患者の呼吸回路に放出される。
【0022】摘み31を更に回動して図3のように弁体13,23を後退されると、ニードル部131,231は、移動弁座11,21の弁孔111,211の後面から離れて開弁し、笑気ガスと酸素は流出路10,20を経て流出し、混合部31で混合されてフレッシュガスとなって放出管32から患者に供給される。各ニードル部131,231は、開度に応じ所定比率を維持しながら流量を調節するようになっているが、弁体13,23の開弁に先立って前記のようにバイパス25が開き、開弁前から開弁中にわたって少量の酸素が供給されるので、フレッシュガスの供給量が少ないときほど酸素の比率が高くなり、軽い麻酔をかけるときも酸素不足が生じるのを防止できる。
【0023】バイパス25を通す酸素の量の調節は、図2R>2の閉弁状態で流量計291を見ながらバイパス調節弁26を操作して行う。
【0024】図3の状態から摘み31を回してガス調節弁3の弁体13を閉方向に前進させると、筒ねじ24が回動して突起243は突起42から外れて酸素調節弁4の弁体23は回動しない。また、摘み41により弁体23を閉方向に回動すると、突起42,243によってガス調節弁3の弁体13も閉方向に前進するが、摘み41を開方向に回すと突起42,243は外れて弁体23のみが後退する。このような構成は、笑気ガスが過濃になるのを防止するためのものであるが、両弁体13,23が相互に微調節できるものであれば、常時は一体的に動くようになっていてもよい。
【0025】前記の実施形態で、弁体13,23が前進した閉弁時にバイパス25を閉じる手段として、移動弁座21の前面にOリング213を設けて弁座室17の前面に密着させているが、図4に示すように、移動弁座21の前部側の周面にOリング214を設けておき、移動弁座21が後退したときOリング214が開口251の後方に来るようにしてもよい。また、前記の各Oリングに代えて適宜のシール手段を用いることができる。
【0026】
【発明の効果】請求項1の手段によれば、ガス調節弁と酸素調節弁の各弁座を、開弁前にそれぞれの弁体と共に一定距離だけ移動可能とし、少量の酸素が通過できるバイパスを、酸素調節弁の弁座室から流出路にわたって設け、弁座の移動中に酸素のバイパスを開くようにしたから、開弁初期から該バイパスが開いて酸素が余分に供給され、低麻酔時にあっても酸素不足が生じない効果があり、しかもバイパスが弁本体内に設けられるから、移動弁座内に設けるものに比べて構成の設計の自由度が高く、製造も簡単になる利点がある。
【0027】また、請求項2の手段によれば、請求項1のものにあって、バイパスに調節弁を有し該調節弁を弁本体外から調節することができるから、酸素量を微細に調節できる利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の一態様の閉弁時の断面図
【図2】 同じくバイパス流通開始時の断面図
【図3】 同じく開弁時の断面図
【図4】 他の実施態様の要部の断面図
【図5】 作用説明図
【符号の説明】
2 弁本体 3 ガス調節弁
1,41 摘み 4 酸素調節弁
5,15 流入口 7,17 弁座室
8,18 停止縁 9,19 弁室
10,20 流出路 11,21 移動弁座
111,211 弁孔 112,212,213,214 Oリング
13,23 弁体 25 バイパス
251 入口 26 バイパス調節弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】 弁本体に酸素調節弁と酸素以外のガスを調節するガス調節弁とを設け、両調節弁の弁体を進退させて酸素と酸素以外のガスを所要の比率で供給するようにした麻酔器の流量調節弁において、酸素調節弁とガス調節弁の各弁本体部分に、流入側から弁座室、停止縁、弁室を順次設け、酸素調節弁に、弁座室の流入側の内面に入口をもち、弁本体内を経て流出路側に連通する小流路のバイパスを設け、中心に弁孔を有する移動弁座を、各弁座室内に摺動自在に収容して前記停止縁に向けてバネで加圧し、各弁室内に、前記移動弁座の弁孔を閉鎖したのち該移動弁座を前記バネに抗して流入側に向けて移動させる弁体を設け、移動弁座の該移動により前記バイパスの入口を閉じ、反対方向への移動により該入口を開くべくしたことを特徴とする、麻酔器の流量調節弁。
【請求項2】 請求項1において、前記バイパスにバイパス調節弁を設け、該バイパス調節弁の調節部を弁本体外に設けたことを特徴とする、麻酔器の流量調節弁。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平9−215750
【公開日】平成9年(1997)8月19日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−23998
【出願日】平成8年(1996)2月9日
【出願人】(593084719)