説明

黄斑変性症関連障害を処置するためのscyllo−イノシトールの使用

本発明は、1つまたは複数のヒドロキシル基が、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、ハロゲン、アミノ、−PO、チオ、およびサルフェートからなる群から選択される置換基で置き換えられた、式IaまたはIbのscyllo−イノシトールを含む医薬組成物に関する。黄斑変性症関連障害を予防または処置する際のこれらの組成物の使用も開示される。また、黄斑変性症関連障害の症状の発症後に、有効量の医薬組成物を投与して、対象における眼機能を向上させるおよび/または眼組織の変性を遅延させるための方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄斑変性症関連障害のための組成物、方法、および処置に関する。
【背景技術】
【0002】
黄斑変性症は、工業化社会において高齢者が見舞われる失明の主因である。この疾患は、高齢者の身体的および精神的健康に重大な影響を及ぼし、大きな公衆衛生的負担となっている。この疾患は、黄斑、すなわち、鋭敏な視力の原因となる網膜内の特殊化領域、の変性型および血管新生型変化に起因する中心視力の進行性喪失によって特徴付けられる。より一般的な非滲出型(乾燥型)と、それほど一般的ではない後期滲出型すなわち「湿潤型」という、2種の疾患型が存在する。湿潤型の疾患のための対症療法の選択肢としては、抗血管新生剤(例えば、Macugen(登録商標)、ペガプタニブナトリウム、およびLucentis(登録商標)、ラニビズマブ(ranibizubmab))、光線力学的療法、およびレーザー手術が挙げられる。乾燥型の黄斑変性症の処置法は、現在は存在しないが、抗酸化剤が、中間段階的疾患から進行性疾患への移行を遅延させる、または場合によっては予防することが報告されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は概して、対象における黄斑変性症関連障害を処置する方法であって、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を投与することを含む方法に関する。本発明の方法は、黄斑変性症関連障害に罹りやすい対象または黄斑変性症関連障害を罹患する対象において、治療的または予防的に使用することができる。
【0004】
本発明の実施形態では、有効量のscyllo−イノシトール化合物または医薬として許容されるその塩を、あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む、処置後に治療的または予防的効果が得られる医薬品を、対象に投与することを含む方法が、対象における黄斑変性症関連障害を処置するために提供される。ある実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害を罹患する対象の処置のための方法であって、対象を処置するのに有効な量で、scyllo−イノシトール化合物または医薬として許容されるその塩を対象に投与することを含む方法に関する。ある実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害を罹患するまたは黄斑変性症関連障害を発症するリスクがある対象において、黄斑変性症関連障害の発症を処置または予防するための方法であって、有効量のscyllo−イノシトール化合物を対象に投与することを含む方法に関する。
【0005】
一実施形態では、有効量のscyllo−イノシトール化合物を投与し、かつ、フィチン酸、もしくはフィチン酸塩、またはフィチン酸の加水分解物、あるいはmyo−イノシトールヘキサキスリン酸、scyllo−イノシトールヘキサキスリン酸、D−chiro−イノシトールヘキサキスリン酸、L−chiro−イノシトールヘキサキスリン酸、neo−イノシトールヘキサキスリン酸、およびmuco−イノシトールヘキサキスリン酸を投与しないことを含む方法を、黄斑変性症関連障害を処置するために提供する。
【0006】
一実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害の症状を患う対象に投与すると治療効果をもたらすような、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む処置の方法に関する。本発明の特定の実施形態では、視力の向上によって治療効果を証明することができる。本発明の一実施形態では、投与後の対象の基準からの視力喪失が15文字未満に過ぎないことによって、治療効果が証明される。
【0007】
一実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害の症状または兆候を改善させるための方法であって、黄斑変性症関連障害の症状または兆候を改善させるのに有効な量のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む方法を提供する。
【0008】
一実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害の進行を改善させるための方法であって、この障害の進行を改善させるのに有効な量(例えば治療有効量)のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む方法を提供する。
【0009】
一実施形態では、本発明は、加齢性黄斑変性症(AMD)の進行、または乾燥型AMDから湿潤型AMDへの進行を改善させる方法であって、有効量(例えば治療有効量)のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、または、ビヒクルとを含む医薬品または医薬組成物;を投与することを含む方法を提供する。
【0010】
一実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害の発症または進行を遅延させる方法であって、この障害の発症または進行を遅延させるのに有効な量(例えば治療有効量)のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む方法に関する。
【0011】
一実施形態では、本発明は、AMDの発症または進行、あるいは、乾燥型AMDから湿潤型AMDへの発症または進行を遅延させる方法であって、有効量のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む方法に関する。
【0012】
一実施形態では、本発明は、対象における黄斑変性症関連障害を予防する方法であって、予防有効量のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいは予防有効量のscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む方法に関する。
【0013】
本発明は、黄斑変性症関連障害を発症するリスクのある対象を処置する方法であって、a)黄斑変性症関連障害を発症するリスクのある対象を特定するステップと、b)この障害の発症を阻害または遅延させるのに有効な、ある量のscyllo−イノシトール化合物を対象に投与するステップとを含む方法を提供する。
【0014】
一実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害を患う対象における眼組織(例えば黄斑細胞)を保護するための方法であって、予防有効量のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいは予防有効量のscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む方法を提供する。
【0015】
一実施形態では、本発明は、有害作用または副作用の発生を最小限にしながら、黄斑変性症関連障害の処置を必要とする患者に、有効量(例えば治療有効量)で、scyllo−イノシトール化合物;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与するための方法を提供する。
【0016】
一実施形態では、本発明は、黄斑変性症の予防および/または処置のための医薬品または医薬組成物を提供する。したがって、本発明はさらに、scyllo−イノシトール化合物、特に、黄斑変性症関連障害を処置するための治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品を企図する。より詳細には、本発明は、実施形態では、黄斑変性症関連障害を処置する治療効果を提供するために、対象への投与のために適合された形の医薬品を企図する。一実施形態では、医薬品は、黄斑変性症関連障害を罹患する対象への投与により、視力の向上、および/または黄斑変性症関連障害の進行の遅延または阻止をもたらすような形である。
【0017】
実施形態では、本発明はまた、scyllo−イノシトール化合物、特に、視力を向上させるための治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品または医薬組成物を取り上げる。本発明の医薬品または医薬組成物は、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクル中に存在することができる。一実施形態では、対象への安全な投与を可能にする、適切なpH、モル浸透圧濃度、張性、純度、および無菌度のscyllo−イノシトール化合物を含む、医薬品または医薬組成物が提供される。
【0018】
scyllo−イノシトール化合物またはscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品は、黄斑変性症関連障害を処置するのに有効な任意の経路、特に眼の系統的経路によって、患者に投与することができる。
【0019】
実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害を処置するのに有効な量の1種または複数のscyllo−イノシトール化合物を含む安定な医薬品を調製する方法を追加的に提供する。医薬品を調製した後、これを適切な容器内に保管し、黄斑変性症関連障害の処置についてラベル表示することができる。本発明の医薬品の投与については、こうしたラベル表示には、投与の量、頻度、および方法が含まれるはずである。
【0020】
実施形態では、本発明はまた、黄斑変性症関連障害を処置するための、または黄斑変性症関連障害を処置するための医薬品の調製のための、少なくとも1種のscyllo−イノシトール化合物の使用を企図する。実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害の予防のための、または、黄斑変性症関連障害の予防のための医薬品の調製における、scyllo−イノシトール化合物の使用を追加的に提供する。
【0021】
実施形態では、本発明は、従来の処置に応答しない、特に、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、および/または光線力学的療法に応答しない対象における黄斑変性症関連障害を処置する方法であって、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を患者に投与することを含む方法を提供する。
【0022】
一実施形態では、本発明は、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、および/または光線力学的療法による処置に対して最適以下で応答した対象における黄斑変性症関連障害を処置する方法であって、応答の向上または最適応答を提供するために、有効量のscyllo−イノシトール化合物と、任意選択で抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法とを患者に施すことを含む方法を提供する。
【0023】
実施形態では、本発明は、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法による治療法に応答しない、またはこうした治療法の中止後に再発を被る、または治療法の継続中に再発が起こるような黄斑変性症関連障害を罹患する対象のための、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を使用する再処置の方法を企図する。本発明の一実施形態では、処置を受けることとなる対象は、処置の開始までの間に、少なくとも1回の再発を経験した。本発明の他の実施形態では、処置を受ける難治性の対象は、少なくとも1回の再発を経験し、この障害が原因で、さらなる能力障害を発症した。
【0024】
実施形態では、本発明はまた、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法に伴う1つまたは複数の有害作用を患う、黄斑変性症関連障害を罹患する対象のための、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を使用する再処置の方法を企図する。有害作用としては、限定はされないが、眼内炎、網膜剥離、医原性外傷性白内障、結膜出血、眼痛、および/または硝子体障害が挙げられる。
【0025】
実施形態では、本発明には、scyllo−イノシトール化合物を含む第1の薬剤と、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、および/または光線力学的療法を含む第2の薬剤とを投与することを含む併用療法が含まれる。実施形態では、第1の薬剤と第2の薬剤に対する応答、または第1の薬剤と第2の薬剤の効果は、相加的である(すなわち、応答または効果は、2つの個々の薬剤の応答または効果の合計に等しい)。他の実施形態では、第1の薬剤と第2の薬剤に対する応答、または第1の薬剤と第2の薬剤の効果は、各薬剤が個々に示すものよりも大きい。
【0026】
実施形態では、本発明には、scyllo−イノシトール化合物と、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、および/または光線力学的療法などの第2の薬剤との相乗活性を提供する、または相乗的に有効な量を送達する併用療法が含まれる。本発明の使用に適する可能性のある併用療法は、治療薬が、相乗的に有効な投薬量で投与される、あるいは、活性成分の場合には、治療薬が、相乗的に有効な量の活性成分を含む組成物中にあるようなものを含む。こうした併用療法または組成物は、所望の結果を達成するのに十分な量の各成分を含む。実施形態では、所望の結果は、各成分それ自体で達成される結果よりも優れている。
【0027】
実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害の処置において、またはこうした障害を処置するための医薬品の調製において使用するための、相乗的に有効な量の、scyllo−イノシトール化合物と抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法または抗酸化剤に関する。
【0028】
実施形態では、本発明はまた、黄斑変性症関連障害を罹患する対象、および治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を患者に投与することを含む従来の処置を受ける対象を処置する方法(ここでは、従来の治療薬の投薬量は、減少または低減される)を提供する。本発明の実施形態では、従来の処置として、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、および/または光線力学的療法が挙げられる。
【0029】
実施形態では、本発明はまた、scyllo−イノシトール化合物を含むキット、またはscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品を提供する。一実施形態では、本発明は、scyllo−イノシトール化合物を含む医薬品、容器、および使用に関する指示書を含む、黄斑変性症関連障害を予防および/または処置するためのキットを提供する。キットの構成物は、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクル、および/または第2の薬剤を、さらに含むことができる。一実施形態では、本発明は、その医薬品またはキットの投与が黄斑変性症関連障害の処置または予防に関するものであるという情報を大衆に広めることを含む、本発明の医薬品またはキットの販売を促進する方法を提供する。
【0030】
本発明のこれらの態様、特徴、および利点、ならびに他の態様、特徴、および利点は、以下の図面および詳細な説明から、当業者に明らかであるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、普通食群(ND 青色群)、高コレステロール食+飲料水にcyllo−イノシトール(AZD−103/ELN005)を入れたものを与えられる群(HFC 赤色/緑色群)、および高コレステロール食+通常の飲料水を与えられる群(HFC 黄色群)の暗順応b波振幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書で使用する技術および科学用語はすべて、本発明が属する分野の当業者によって普通に理解されるのと同じ意味である。本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲で使用するある種の用語を、便宜のために、ここにまとめる。本明細書では、端点による数値範囲の記述には、その範囲内のすべての数と、包含される端数が含まれる(例えば、「1から5」には、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4、および5が含まれる)。そのすべての数と端数が、用語「約」によって修飾されるとみなされることも理解されたい。用語「約」は、言及されている数の、プラスマイナス0.1から50%、5〜50%、または10〜40%、好ましくは10〜20%、より好ましくは10%または15%を意味する。さらに、「a」、「an」、および「the」は、その内容によってそうでないと明確に指示されない限り、複数の指示対象を含むことを理解されたい。したがって、例えば、1つの(「a」)化合物に対する言及には、2種以上の化合物の混合物が含まれる。
【0033】
用語「投与すること」および「投与」は、本明細書に企図する有効量のscyllo−イノシトール化合物または医薬品が、予防および/または処置目的で任意の期間で対象に送達されるプロセスを指す。scyllo−イノシトール化合物および医薬品は、対象の臨床状態、投与の部位および方法、投薬量、患者の年齢、性別、体重、ならびに医師が知る他の要素を考慮して、優れた医療行為に従って投与される。
【0034】
用語「処置すること」とは、疾患、あるいはこうした疾患の1つまたは複数の症状、あるいはこうした疾患に関連する身体障害の、進行を逆転させる、緩和する、阻害する、または遅延させることを指す。本発明の実施形態では、「処置すること」には、診断時またはその後の対象の管理およびケアが含まれる。処置は、急性または慢性方式で実施することができる。対象の状態に応じて、この用語は、ある実施形態では、疾患を「予防すること」を指すことができ、疾患の発症を予防すること、または疾患に伴われる症状を予防することが含まれる。この用語はまた、ある実施形態では、疾患に伴う苦痛が生じる前に、疾患、またはこうした疾患に伴われる症状の重症度を低下させることを指す。苦痛が生じる前の、疾患のこうした予防または疾患の重症度の低下は、scyllo−イノシトール化合物、またはscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品の、投与時に疾患に悩んでいない対象への投与を指す。ある実施形態では、「予防すること」はまた、疾患の、またはこうした疾患に伴われる1つまたは複数の症状の再発を予防することを指す。ある実施形態では、処置は、疾患と闘うために使用され、これには、症状または合併症の発症を予防または遅延させる;あるいは症状または合併症を緩和させる;あるいは疾患を排除または部分的に排除するための、活性な化合物の投与が含まれる。用語「処置」、「治療的な」、「治療的に」は、処置(「処置」は上で定義された通りである)の行為を指す。用語「予防」、「予防的な」、「予防的に」は、予防(「予防」は上で定義された通りである)の行為を指す。
【0035】
用語「対象」、「個体」、および「患者」は、本明細書では互換的に使用され、哺乳動物などの温血動物を含めた動物のことをいう。哺乳動物には、限定はされないが、哺乳綱のいかなるメンバーも含まれる。本発明の開示における対象または患者としての哺乳動物は、霊長目、食肉目、長鼻目、奇蹄目、偶蹄目、齧歯目および兎目の科からのものであり得る。他の特定の実施形態の中では、本発明の哺乳動物は、Canis Familiaris(イヌ)、Felis catus(ネコ)、Elephas maximus(ゾウ)、Equus caballus(ウマ)、Sus domesticus(ブタ)、Camelus dromedarious(ラクダ)、Cervus axis(シカ)、Giraffa camelopardalis(キリン)、Bos taurus(畜牛/乳牛)、Capra hircus(ヤギ)、Ovis aries(ヒツジ)、Mus musculus(マウス)、Lepus brachyurus(ウサギ)、Mesocricetus auratus(ハムスター)、Cavia porcellus(モルモット)、Meriones unguiculatus(スナネズミ)、または、Homo sapiens(ヒト)であり得る。特定の実施形態では、哺乳動物は、ヒトである。処置のための典型的な対象には、黄斑変性症関連障害に悩む、または黄斑変性症関連障害を患う疑いがある、または黄斑変性症関連障害に罹患しやすい人、あるいは黄斑変性症関連障害に罹患しやすい、黄斑変性症関連障害を罹患している、または黄斑変性症関連障害に罹患していた人が含まれる。対象は、黄斑変性症関連障害の遺伝的素因を有する可能性も有さない可能性もある。特定の態様では、対象は、黄斑変性症関連障害の症状を示す。本発明の実施形態では、対象は、黄斑変性症関連障害に罹患しやすいまたは罹患している。
【0036】
本発明の一態様では、対象は、片眼または両眼に黄斑変性症関連障害を患うヒト対象である。
【0037】
本発明の態様では、対象は、従来の治療法、特に抗VEGF療法、より具体的にはMacugenまたはLucentisを与えられるヒト対象である。
【0038】
本発明の態様では、対象は、加齢性黄斑変性症に続発する脈絡膜血管新生を患う。
【0039】
本発明の態様では、対象は、乾燥型加齢性黄斑変性症を患う。
【0040】
本発明の態様では、対象は、加齢性黄斑変性症と診断された患者である。加齢性黄斑変性症の診断の方法は、本明細書に開示する。(a)視力の測定、例えば、Snellen視力表、Bailey−Lovie視力表、デシマルプログレッション表(decimal progression chart)、Freiburg視力試験、分解能の角度測定などを使用するもの;(b)Amslerチャートを使用する変形視(視覚の歪み)の測定;(c)Pelli−Robsonチャートを使用するコントラスト感度の測定;(d)眼底の標準的な眼科検診、黄斑のステレオ生体顕微鏡検査、静脈内の蛍光眼底血管造影、眼底撮影、インドシアニングリーンビデオ血管造影、および光干渉断層撮影;を含めた、当分野で知られた診断法を使用することもできる。
【0041】
実施形態では、加齢性黄斑変性症の診断は、視覚障害の存在、および散瞳検査での特徴的所見に基づくことができる。乾燥型の加齢性黄斑変性症は、散瞳検査でのドルーゼンの存在、色素脱失の領域の証拠としての明らかな網膜の地図状萎縮の円形または卵形斑、およびRPE色素性斑点形成による色素沈着の増大によって特徴付けることができる。湿潤型の加齢性黄斑変性症は、散瞳検査での網膜下液、出血、および/または脂質滲出液、ならびに、黄斑領域における灰色の変色として現れる血管新生によって特徴付けることができる。(例えば、加齢性黄斑変性症の情報に関しては、「Age−Related Macular Degeneration」、Jennifer Lim編、第2版、Informa Healthcare USA、2008、および「Age−Related Macular Degeneration」、Holz、Pauliekoff、SpaideおよびBird、Editors、Springer−Verlag、Heidelberg、2004、を参照されたい。)
本発明の態様では、対象は、新規に診断される患者または片眼の患者である。
【0042】
特定の態様では、対象は、以下の病態の1つまたは複数を患う:軟性の明瞭なドルーゼン(≧63μM);軟性の不明瞭なドルーゼン(≧125μM)または網状ドルーゼンのみ、軟性の不明瞭なドルーゼン(≧125μM)または色素沈着異常を伴う網状ドルーゼン;および、萎縮型または血管新生型AMD。[van Leeuwenら、「Arch Ophthalmol.」2003、121(4):519〜26を参照のこと。]
特定の態様では、対象は、以下の病態の1つまたは複数を患う:硬性のドルーゼン(<63μM)のみ、色素沈着異常のみ、軟性のドルーゼン(>63μM)無し、および、色素沈着異常を伴う軟性の明瞭なドルーゼン(≧63μM)。
【0043】
本発明の態様では、対象は、最大12ディスク面積までの古典的、潜在性、および混合型の病変部と、20/40と20/320の間の眼の基準視力とを含めた、血管新生型の加齢性黄斑変性症の特性を有する。
【0044】
本発明の態様では、対象は、以下の1つまたは複数を患う:5文字超の視力喪失、光干渉断層法(OCT)による黄斑内の液体の証拠、100mMを超えるOCT中心網膜厚の上昇、既存または新規の黄斑出血、既存または新規領域の古典的脈絡膜血管新生、および残存流体(OCTによる)、特に(従来の治療法を用いる)処置後1か月を超える残存流体。
【0045】
用語「医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクル」は、活性成分の有効性または活性を妨げない、かつ投与される受容者に対して毒性でない媒質を指す。担体、賦形剤、またはビヒクルとしては、希釈剤、結合剤、接着剤、滑沢剤、崩壊剤、充填剤、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、および特定の医薬品を調製するために必要とされ得る吸収材などの種々の材料が挙げられる。担体などの例としては、それだけには限らないが、食塩水、緩衝食塩水、ブドウ糖、水、グリセリン、エタノール、およびそれらの組み合わせが挙げられる。活性物質のためのこうした媒質および薬剤の使用は、当分野で周知である。許容される担体、賦形剤、またはビヒクルは、当分野で市販品として使用されるいずれのものからも選択することができる。
【0046】
「医薬として許容される塩(1種または複数)」は、医薬として許容され、かつ所望の薬理学的特性を有する塩を意味する。医薬として許容される塩は、過度の毒性、刺激、アレルギー応答などを与えずに、対象または患者の組織と接触して使用するのに適し、適正な利益/リスク比と釣り合う塩を意味する。医薬として許容される塩は、例えば、S.M.Bergeら、「J.Parmaceutical Sciences」、1977年、66:1に記載されている。適切な塩としては、化合物中の酸のプロトンが無機塩基または有機塩基と反応可能な場合に形成され得る塩が挙げられる。適切な無機塩としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウムおよびカリウム、マグネシウム、カルシウム、ならびにアルミニウム)を用いて形成されるものが挙げられる。適切な有機塩としては、アミン塩基(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N−メチルグルカミンなど)などの有機塩基を用いて形成されるものが挙げられる。適切な塩としては、無機酸(例えば、塩酸および臭化水素酸)、および有機酸(例えば、酢酸、クエン酸、マレイン酸、ならびに、メタンスルホン酸およびベンゼンスルホン酸などのアルカン−およびアレーン−スルホン酸)を用いて形成される酸付加塩も挙げられる。酸の2つの基が存在する場合、医薬として許容される塩は、モノ−酸−モノ塩、またはジ塩であり得、同様に、酸の基が3つ以上存在する場合、こうした基のいくつかまたはすべてを塩化させることができる。
【0047】
「有効量」は、1つまたは複数の所望の効果、特に、1つまたは複数の治療的または予防的効果を引き起こすであろう、scyllo−イノシトール化合物またはその医薬品の量または用量、あるいは、黄斑変性関連障害を処置するのに有効な量に関する。物質の有効量は、対象の疾患の状態、年齢、性別、および体重、ならびに、対象における所望の応答を誘発するためのその物質の能力によって変動し得る。投薬計画は、最適応答(例えば治療的または予防的効果)を提供するように調整することができる。例えば、いくつかの分割用量を、1日1回投与することもできるし、治療状況の緊急性によって指示される通りに、用量を比例的に減少させることもできる。本発明の態様では、有効量が、視力喪失を軽減または予防させる。
【0048】
実施形態では、有効量は、「治療的有効量」である。「治療的有効量」には、障害の進行、こうした障害の1つまたは複数の症状、または、こうした障害に関連する身体障害を、逆転、緩和、阻害、または遅延させるのに十分な活性成分の量が含まれる。ある種の実施形態では、この用語は、処置が行われる障害の1つまたは複数の症状を、処置を行わなかった場合に起こる症状と比較して改善する活性成分の量を指す。改善は、永続的または一時的であり得る。
【0049】
実施形態では、有効量は、「予防的有効量」である。用語「予防的有効量」には、必要とされる投薬量および期間で、所望の予防的結果(すなわち、障害あるいは障害の1つまたは複数の症状の開始または再発の予防をもたらすのに十分な量)を達成させるのに有効な量が含まれる。予防的用量は、疾患の初期段階より前または疾患の初期段階に対象に使用されるので、予防的有効量は、治療的有効量よりも少ない可能性がある。
【0050】
用語「純粋な」は一般に、90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%純粋を意味し、「実質的には純粋な」は、本発明の方法または医薬品への利用を考慮して、従来の精製プロセスでは容易にはかつ合理的には除去することができない不純物しか含まないように合成された化合物を意味する。
【0051】
「任意選択の」または「任意選択で」は、その後に記述する事象または状況が起こる可能性があるが起こらなくてもよいこと、および、その記述が、事象または状況が起こる場合と起こらない場合とを含むことを意味する。例えば、「任意選択により置換された」とは、遊離基が、置換される可能性があるが置換されなくてもよいこと、および、その記述が、遊離基が置換される状況と遊離基が置換されない状況とを含むことを意味する。
【0052】
「相乗的な」は、scyllo−イノシトール化合物と、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)治療剤、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法などの従来の治療法すなわち第2の薬剤との多成分系組成物または併用療法を使用する場合の、こうした処置のうちのいずれかの個々または単独での使用よりも大きい薬理学的または治療的効果を意味する。この相乗効果は、同じまたは異なる機構または作用経路を介して作用することができる。相乗効果を有する併用療法のある潜在的利点は、標準の投与量を、単独で投与される1種または2種の治療薬の効果の追加から期待されるよりも大きな治療効果のために使用することができること;あるいは、減らした投薬量または頻度を下げた治療薬を使用して、より優れた治療効果を達成することができることである。
【0053】
「抗体」には、免疫グロブリンまたは結合能力を保持する任意のその誘導体、あるいは免疫グロブリン結合領域と相同なまたは大いに相同な結合領域を有する任意のタンパク質が含まれる。抗体は、天然原料に由来してもよいし、(例えば、組換えDNA技術、化学合成などを使用して)部分的または完全に、合成的に産生することもできる。抗体は、任意の種(例えば、ヒト、齧歯類、ウサギ、ヤギ、ニワトリなど)のものであり得、ヒトクラス:IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEのいずれかを含めた任意の免疫グロブリンクラスのメンバーであってもよい。抗体には、Fab’、F(ab’)、scFv(単鎖可変)などの抗体のフラグメントまたは抗原結合部位を保持する他のフラグメント、組換えにより産生された断片(組換えにより産生されたscFv断片を含めて)、および一価、二価、または多価抗体が含まれる。抗体は、キメラ抗体、または、部分的もしくは完全に「ヒト化された」抗体(例えば、マウス起源の可変ドメインがヒト起源の定常ドメインに融合され、それによってマウス抗体の特異性を保持する)であり得る。ヒト起源のドメインは、ヒトにおいて最初に合成することもできるし、そのゲノムがヒト免疫グロブリン遺伝子を組み込むような齧歯類において産生させることもできる。(例えば、Vaughanら、(1998)、「Nature Biotechnology」16:535〜539を参照されたい。)抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルであり得る。当該の分子に特異的に結合する抗体を産生する方法は、当分野で知られている。
【0054】
「眼組織」は、眼内に含まれる組織を指す。眼組織には、それだけには限らないが、水晶体、角膜(内皮細胞、実質細胞、および/または角膜上皮細胞)、虹彩、網膜、脈絡膜、強膜、毛様体、硝子体、眼脈管構造、シュレム管、眼筋細胞、視神経、ならびに他の眼の感覚神経、運動神経、および自律神経、の細胞を含む組織が含まれる。
【0055】
「scyllo−イノシトール化合物」としては、式IaまたはIbの構造を有する化合物が挙げられる:
【0056】
【化1】

scyllo−イノシトール化合物としてはまた、1つまたは複数の、好ましくは2つまたは3つの、最も好ましくは1つまたは2つのヒドロキシル基が、立体配置を維持しながら、置換基、特に一価の置換基によって置き換えられた、式IaまたはIbの化合物も挙げられる。本発明の態様では、scyllo−イノシトール化合物は、1つまたは2つの、最も好ましくは1つのヒドロキシル基が、立体配置を維持しながら、一価の置換基によって置き換えられた、式IaまたはIbの化合物を含む。適切な置換基としては、限定はされないが、水素;アルキル;置換アルキル;アシル;アルケニル;置換アルケニル;アルキニル;置換アルキニル;アルコキシ;置換アルコキシ;ハロゲン;−NHR(式中、Rは、水素、アシル、アルキルである)または−R(式中、RとRは、同じまたは異なり、かつアシルまたはアルキルを表す);−PO;−SR(式中、Rは、水素、アルキル、または−OHである);あるいは、−OR(式中、Rは、−SOHである)が挙げられる。
【0057】
「アルキル」、「アルコキシ」、「アルケニル」、「アルキニル」、「ヒドロキシル」などを含めて、遊離基に関して本明細書で使用される用語は、任意選択により置換された遊離基、すなわち、置換されていない遊離基と置換された遊離基の両方を指す。本明細書では、用語「置換された」は、指定された原子の通常の原子価は超えない、かつ、置換によって安定な化合物がもたらされるという条件で、指定された原子(例えばヒドロキシル)上の1つまたは複数のいずれの部分も、選択された基で置き換えられることを意味する。置換基および/または遊離基の組み合わせは、こうした組み合わせが、安定な化合物をもたらす場合にのみ許容される。「安定な化合物」は、反応混合物からの有用な程度の純度までの単離と、効果のある治療剤への製剤化とに耐えるのに十分に頑強な化合物を指す。
【0058】
「アルキル」は、まっすぐな鎖(すなわち直鎖)、または分岐鎖であり得る一価の飽和炭化水素遊離基を意味する。本発明のある種の態様では、アルキル遊離基は、約1から10個、約1から8個、約3から8個、約1から6個、または約1から3個の炭素原子を含む。本発明のある種の実施形態では、アルキル遊離基は、その分岐した変化形と共に、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、イソプロピル、イソブチル、イソペンチル、アミル、トリブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、tert−ペンチル、n−ヘキシルなどを含む、またはこれらからなる群から選択される、C〜C低級アルキルである。ある実施形態では、「置換アルキル」としては、例えば、アルキル、アルコキシ、オキソ、アルカノイル、アルカノイルオキシ、アシル、アミノ、ヒドロキシアミノ、アルキルアミノ、アルコキシアミノ、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボキシル、カルバミル、カルボキシルアルキル、ケト、チオケト、チオール、アルキルチオール、スルホンアミド、チオアルコキシ、およびニトロなどの1から5個の置換基、また、ある種の実施形態では1から3個の置換基によって置換されるアルキル基が挙げられる。
【0059】
用語「アルケニル」は、少なくとも1個の二重結合を含む、分岐鎖または直鎖の、不飽和非環式炭化水素遊離基を指す。アルケニル遊離基は、約2から10個の炭素原子、また、ある実施形態では、約3から8個の炭素原子、約3から6個の炭素原子、または約2から6個の炭素原子を含むことができる。適切なアルケニル遊離基の例としては、エテニル;プロペニル(プロパ−1−エン−1−イル、プロパ−1−エン−2−イル、プロパ−2−エン−1−イル(アリル)、プロパ−2−エン−2−イル、ブテン−1−イル、ブタ−1−エン−2−イル、2−メチル−プロパ−1−エン−1−イル、ブタ−2−エン−1−イル、ブタ−2−エン−2−イル、ブタ−1,3−ジエン−1−イル、ブタ−1,3−ジエン−2−イル、ヘキセン−1−イル、3−ヒドロキシヘキセン−1−イル、ヘプテン−1−イル、およびオクテン−1−イルなど);が挙げられる。ある実施形態では、アルケニル基としては、エテニル(−CH=CH)、n−プロペニル(−CHCH=CH)、イソ−プロペニル(−C(CH)=CH)などが挙げられる。アルケニル遊離基は、アルキルと同様に任意選択により置換することができる。ある実施形態では、「置換アルケニル」としては、例えば、アルキル、アルコキシ、ハロアルコキシ、アルキルアルコキシ、ハロアルコキシアルキル、アルカノイル、アルカノイルオキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アミノ、アルキルアミノ、アルカノイルアミノ、アミノアシル、アミノアシルオキシ、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボキシル、カルボキシルアルキル、カルボアミル、ケト、チオケト、チオール、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、チオアルコキシ、ニトロなどの1から3個の置換基または1から2個の置換基によって置換されたアルケニル基を含む。
【0060】
用語「アルキニル」は、1つまたは複数の三重結合を含む、分岐鎖または直鎖の、不飽和炭化水素遊離基を指す。アルキニル遊離基は、約2〜10個の炭素原子または約3から8個の炭素原子、また、ある実施形態では、約3から6個の炭素原子を含むことができる。本発明の実施形態では、「アルキニル」は、1から4個の三重結合を有する2から6個の炭素原子の直鎖または分岐鎖の炭化水素を指す。適切なアルキニル遊離基の例としては、エチニル;プロパ−1−イン−1−イル、プロパ−2−イン−1−イルなどのプロピニル;ブタ−1−イン−1−イル、ブタ−1−イン−3−イル、およびブタ−3−イン−1−イルなどのブチニル;ペンチン−1−イル、ペンチン−2−イル、および4−メトキシペンチン−2−イル、および3−メチルブチン−1−イルなどのペンチニル;ヘキシン−1−イル、ヘキシン−2−イル、およびヘキシン−3−イルなどのヘキシニル;などが挙げられる。置換された「アルキニル」としては、例えば、アルキル、アルコキシ、アルカノイル、アルカノイルオキシ、アシル、アシルアミノ、アシルオキシ、アミノ、アルキルアミノ、アルカノイルアミノ、アミノアシル、アミノアシルオキシ、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボキシル、カルボキシルアルキル、カルバミル、ケト、チオケト、チオール、アルキルチオ、スルホニル、スルホンアミド、チオアルコキシ、ニトロなどの置換基によって置換されたアルキニル基が挙げられる。
【0061】
本明細書では、「ハロゲン」または「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードを指す。実施形態では、「ハロゲン」または「ハロ」は、フルオロまたはクロロを指す。
【0062】
用語「ヒドロキシル」または「ヒドロキシ」は、単一の−OH基のことを指す。
【0063】
用語「アルコキシ」は、1から約10個の炭素原子のアルキル部分を有する、置換可能な直鎖または分岐鎖のオキシ含有遊離基を指す。特定のアルコキシ遊離基は、約1から6個、約1から4個、または約1から3個の炭素原子を有する「低級アルコキシ」遊離基である。約1から6個の炭素原子を有するアルコキシとしては、C〜Cアルキルが本明細書で述べた意味であるC〜Cアルキル−O−遊離基が挙げられる。アルコキシ遊離基の実例としては、限定はされないが、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、イソプロポキシおよびtert−ブトキシが挙げられる。「アルコキシ」遊離基は、「アルキルアルコキシ」遊離基を提供するためのアルキル原子(特に低級アルキル);「ハロアルコキシ」遊離基(例えば、フルオロメトキシ、クロロメトキシ、トリフルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロエトキシ、フルオロエトキシ、テトラフルオロエトキシ、ペンタフルオロエトキシ、およびフルオロプロポキシ)を提供するための、フルオロ、クロロ、またはブロモなどのハロ原子;および、「ハロアルコキシアルキル」遊離基(例えば、フルオロメトキシメチル、クロロメトキシエチル、トリフルオロメトキシメチル、ジフルオロメトキシエチル、およびトリフルオロエトキシメチル);を含めた、本明細書に開示する1つまたは複数の置換基で、任意選択でさらに置換することができる。
【0064】
用語「アシル」は、単独でまたは組み合わせて、例えば、水素、任意選択で置換されたアルキル(例えばハロアルキル)、アルケニル、アルキニル、アルコキシ(アセチルオキシ、ブチルオキシ、イソ−バレリルオキシ、フェニルアセチルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシベンゾイルオキシ、ならびにアルコキシアルキルおよびハロアルコキシなどの置換されたアシルオキシ、を含めた「アシルオキシ」)、ハロ、スルフィニル(例えばアルキルスルフィニルアルキル)、スルホニル(例えばアルキルスルホニルアルキル)、チオアルキル、アミノ(例えばアルキルアミノまたはジアルキルアミノ)、およびアラルコキシから選択される遊離基に結合したカルボニル基またはチオカルボニル基を意味する。「アシル」遊離基の実例は、ホルミル、アセチル、2−クロロアセチル、2−ブロムアセチルなどである。
【0065】
本発明の態様では、「アシル」は、−C(O)R基(式中、Rは、水素またはアルキルである)を指す。例としては、限定はされないが、ホルミル、アセチルなどが挙げられる。
【0066】
本発明の態様では、scyllo−イノシトール化合物は、純粋なまたは実質的に純粋なscyllo−イノシトールである。
【0067】
本発明の態様では、scyllo−イノシトール化合物には、1つまたは複数のリン酸基で置換されたscyllo−イノシトール化合物は含まれない。
【0068】
本発明の特定の実施形態は、1つまたは複数のヒドロキシル基が、アルキル、特に、C〜Cアルキル、より詳細には、メチルまたはエチル;アシル;クロロまたはフルオロ;アルケニル;−NHR(式中、Rは、水素、アシル、アルキルである)または−R(式中、RとRは、同じまたは異なり、かつアシルまたはアルキルを表す);−SR(式中、Rは、水素、アルキル、または−OHである);あるいは−OR(式中、Rは、水素、アルキル、またはSOHである)、−SR(式中、Rは、水素、アルキル、またはOHである);アルコキシ、または−OR(式中、Rは、−SOHである)で置き換えられた、式IaまたはIbのscyllo−イノシトール化合物を利用する。
【0069】
本発明の特定の実施形態は、1つまたは複数のヒドロキシル基が、アルキル;置換アルキル;アシル;アルケニル;置換アルケニル;−NHR(式中、Rは、水素、アシル、アルキルである)または−R(式中、RとRは、同じまたは異なり、かつアシルまたはアルキルを表す);−SR(式中、Rは、水素、アルキル、または−OHである);アルコキシ、または−OR(式中、Rは、−SOHである)で置き換えられた、式IaまたはIbのscyllo−イノシトール化合物を利用する。
【0070】
本発明の特定の実施形態は、1つまたは複数のヒドロキシル基が、アルキル;置換アルキル;アシル;アルケニル;置換アルケニル;アルキニル;置換アルキニル;アルコキシ;置換アルコキシ;ハロゲン;チオール;−NHR(式中、Rは、水素、アシル、アルキルである)または−R(式中、RとRは、同じまたは異なり、かつアシルまたはアルキルを表す);−PO;−SR(式中、Rは、水素、アルキル、または−OHである);あるいは−OR(式中、Rは、−SOHである)で置き換えられた、式IaまたはIbのscyllo−イノシトール化合物を利用する。
【0071】
本発明の特定の実施形態は、1つまたは複数のヒドロキシル基が、アルキル;置換アルキル;アシル;アルケニル;置換アルケニル;アルキニル;置換アルキニル;アルコキシ;置換アルコキシ;ハロゲン;またはチオールで置き換えられた、式IaまたはIbのscyllo−イノシトール化合物を利用する。
【0072】
本発明の特定の実施形態は、ヒドロキシル基のうちの1つが、アルキル、特にC〜Cアルキル、より詳細にはメチルで置き換えられた、式IaまたはIbのscyllo−イノシトール化合物を利用する。
【0073】
本発明の特定の実施形態は、ヒドロキシル基のうちの1つが、アルコキシ、特にC〜Cアルコキシ、より詳細にはメトキシまたはエトキシ、最も詳細にはメトキシで置き換えられた、式IaまたはIbのscyllo−イノシトール化合物を利用する。
【0074】
本発明の特定の実施形態は、ヒドロキシル基のうちの1つが、ハロゲン、特にクロロまたはフルオロ、より詳細にはフルオロで置き換えられた、IaまたはIbのscyllo−イノシトール化合物を利用する。
【0075】
本発明の特定の実施形態は、ヒドロキシル基のうちの1つがチオールで置き換えられた、式IaまたはIbのscyllo−イノシトール化合物を利用する。
【0076】
本発明の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物は、O−メチル−scyllo−イノシトールである。
【0077】
【化2】

本発明の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物は、1−クロロ−1−デオキシ−scyllo−イノシトールである。
【0078】
【化3】

本発明の実施形態では、AZD−103/ELND005(Elan Corporation)と呼ばれるscyllo−イノシトール化合物が、本明細書に開示する医薬品、組成物、剤形、方法、および使用において使用される。
【0079】
scyllo−イノシトール化合物には、機能的誘導体、化学的誘導体、または変異体が含まれる。「機能的誘導体」は、本明細書に開示するscyllo−イノシトール化合物の活性と実質的に類似である(機能的または構造的な)活性を有する化合物を指す。用語「化学的誘導体」は、通常は基体分子の一部ではない追加的な化学的部分を含有する分子をいう。用語「変異体」は、scyllo−イノシトール化合物またはその一部と、構造および機能が実質的に類似の分子を指すことを意図する。どちらの分子も実質的に類似の構造を有する場合、またはどちらの分子も類似の生体活性を有する場合に、分子は、scyllo−イノシトール化合物と「実質的に類似」である。用語「類似体」には、scyllo−イノシトールと機能が実質的に類似の分子が含まれる。「類似体」には、別の化合物と構造的に類似するが、組成がわずかに違うような化合物を含めることができる。この違いは、限定はされないが、ある原子または官能基の、異なる要素の原子または官能基での置き換えが挙げられる。類似体および誘導体は、市販品として利用できるコンピューター・モデリング・プログラムを用いる計算法を使用して同定することができる。
【0080】
scyllo−イノシトール化合物には、医薬として機能する誘導体が含まれる。「医薬として機能する誘導体」には、例えば、対象への投与時に、scyllo−イノシトールまたはその活性な代謝産物もしくは残基を(直接的にまたは間接的に)提供することが可能なエステルまたはアミドなどの、scyllo−イノシトール化合物の医薬として許容される任意の誘導体が含まれる。こうした誘導体は、過度な実験をしなくても、当業者に認識可能である(例えば、医薬として機能する誘導体の実例が示されている、「Burger’s Medicinal Chemistry and Drug Discovery」、第5版、第1巻:Principles and Practiceを参照されたい)。
【0081】
本発明で使用されるscyllo−イノシトール化合物は、非結晶性であっても、溶媒和または水和状態といった様々な状態で存在可能な様々な結晶多形を有するものであってもよい。薬の形を変えることによって、その物理的特性を変えることができる。例えば、結晶性多形体は、典型的には、溶解度が互いに異なっており、熱力学的に安定度が高い多形体ほど、熱力学的に安定度が低い多形体よりも溶解度が低い。医薬用多形体は、保存寿命、生物学的利用率、形態、蒸気圧、密度、色、および圧縮率などの特性も、様々であり得る。本発明で使用することができるscyllo−イノシトール多形体の例としては、Day,GMら、「Crystal Growth&Design」6(10)、2006に記載されている多形体が挙げられる。
【0082】
水または通常の有機溶媒を用いて形成されるscyllo−イノシトール化合物の溶媒和化合物も、本発明中に包含することが意図される。加えて、化合物およびその塩の水和形も、本発明内に包含される。
【0083】
用語「溶媒和化合物」は、ある化合物と1種または複数の溶媒分子との物理的結合体、あるいは、溶質と溶媒(例えば、水、エタノール、または酢酸)によって形成される、化学量論が変動する複合体を意味する。この物理的結合は、イオン結合および共有結合(水素結合を含めて)の度合いの変動を伴う可能性がある。ある種の例では、例えば、1種または複数の溶媒分子が、結晶性固体の結晶格子に組み込まれる場合には、溶媒和化合物は単離可能となる。一般に、選択される溶媒は、溶質の生体活性とは干渉しない。溶媒和化合物は、液相と単離可能な溶媒和化合物との両方を包含する。代表的な溶媒和化合物としては、水和物、エタノール和物(ethanolate)、メタノール和物(methanolate)などが挙げられる。用語「水和物」は、その一水和物、二水和物、および様々な多水和物を含めて、溶媒分子(1つまたは複数)がHOである溶媒和化合物を意味する。溶媒和化合物は、当技術分野で知られている様々な方法を使用して形成することができる。
【0084】
結晶性のscyllo−イノシトールは、遊離の塩基、塩、または共結晶の形であり得る。遊離の塩基化合物は、溶媒和化合物を形成するために、適切な溶媒の存在下で結晶化させることができる。酸塩化合物(例えば、HCl、HBr、安息香酸)も溶媒和化合物の調製に使用できる。例えば、溶媒和化合物は、酢酸または酢酸エチルを使用することによって形成することができる。溶媒和化合物分子は、水素結合、ファンデルワールス力、もしくは分散力、または、任意の2つもしくは3つすべての力の組み合わせによって結晶構造を形成することができる。溶媒和化合物を作製するために使用する溶媒の量は、慣例的試験によって決定することができる。例えば、scyllo−イノシトールの一水和物は、scyllo−イノシトール1当量につき約1当量の溶媒(HO)を有するであろう。しかし、所望される溶媒和化合物の選択に応じて、それより多いまたは少ない溶媒が使用される可能性もある。
【0085】
scyllo−イノシトール化合物のプロドラッグは、その用語の範囲内に包含される。用語「プロドラッグ」は、少なくともある程度の生体内変換を受けた後にその薬理的効果(1種または複数)を示すような親化合物または活性薬剤物質の共有結合型誘導体または担体を意味する。一般に、こうしたプロドラッグは、代謝的に切断可能な基を有し、例えば血液中での加水分解などによってin vivoで速やかに変換されて親化合物をもたらし、こうしたプロドラッグとしては一般に、親化合物のエステルおよびアミド類似体が挙げられる。プロドラッグは、化学的安定性の向上、患者の許容性および服薬遵守の向上、生物学的利用率の向上、作用持続時間の延長、臓器選択性の向上、製剤形態の向上(例えば水溶解性(hydrosolubility)の増大)、および/または副作用(例えば毒性)の低下を目的として製剤化することができる。一般に、プロドラッグ自体は、生物活性が弱いまたは生物活性が無く、通常の条件下で安定している。プロドラッグは、例えば、「A Textbook of Drug Design and Development」、Krogsgaard−LarsenおよびH.Bundgaard(編)、Gordon&Breach、1991年、特にChapter 5:「Design and Applications of Prodrugs」;Design of Prodrugs、H.Bundgaard(編)、Elsevier、1985年;「Prodrugs:Topical and Ocular Drug Delivery」、K.B.Sloan(編)、Marcel Dekker、1998年;「Methods in Enzymology」、K.Widderら(編)、第42巻、Academic Press、1985年、特に309 396ページ;「Burger’s Medicinal Chemistry and Drug Discovery」、第5版、M.Wolff(編)、John Wiley&Sons、1995年、特に第1巻および172 178ページおよび949 982ページ;「Pro−Drugs as Novel Delivery Systems」、T.HiguchiおよびV.Stella(編)、Am.Chem.Soc.、1975年;および「Bioreversible Carriers in Drug Design」、E.B.Roche(編)、Elsevier、1987年、に記載されている方法などの当技術分野で知られた方法を使用して、親化合物から容易に調製することができる。プロドラッグの例としては、それだけには限らないが、scyllo−イノシトール化合物上のヒドロキシ官能基のエステル(例えば、酢酸、ギ酸、および安息香酸誘導体)およびカルバミン酸エステル(例えばN,N−ジメチルアミノカルボニル)などが挙げられる。
【0086】
本発明で利用されるscyllo−イノシトール化合物は、本出願の知識および開示を考慮して、当業者に一般的に知られている反応および方法を使用して調製することができる。反応は、使用される試薬および材料に適し、かつ実施される反応に適した溶媒中で実施される。有機合成の当業者は、化合物上に存在する官能基が、提示される反応段階と矛盾があるべきではないことを理解するであろう。このことにより、所望のscyllo−イノシトール化合物を得るために、合成段階の順序を変更することや、ある特定のプロセススキームを別のスキームに優先して選択することが、時として必要となることとなる。合成経路の開発におけるもう1つの考慮すべき重要事項は、scyllo−イノシトール化合物に存在する反応性官能基の保護に使用する保護基の選択であることも認識されよう。多くの代替案を当業者に説明するような必携書は、GreeneおよびWuts(「Protective Groups In Organic Synthesis」、Wiley and Sons、1991年)である。
【0087】
scyllo−イノシトール化合物の調製に使用する出発物質および試薬は、Aldrich Chemical Company(Milwaukee、Wis.)、Bachem(Torrance、Calif.)、Sigma(St.Louis、Mo.)、またはLancaster Synthesis Inc.(Windham、N.H.)などの市販業者から入手可能である、あるいは、「Fieser and Fieser’s Reagents for Organic Synthesis」、第1〜17巻、John Wiley and Sons、New York、N.Y.、1991年;「Rodd’s Chemistry of Carbon Compound」、第1〜5巻および別冊、Elsevier Science Publishers、1989年;「Organic Reactions」、第1〜40巻、John Wiley and Sons、New York、N.Y.、1991年;March J.:「Advanced Organic Chemistry」、第4版、John Wiley and Sons、New York、N.Y.;およびLarock:「Comprehensive Organic Transformations」、VCH Publishers、New York、1989年、などの参考文献に記載される手順に従って、当業者に周知の方法によって調製される。
【0088】
出発材料、中間体、およびscyllo−イノシトール化合物は、沈殿、濾過、蒸留、結晶化、クロマトグラフィーなどの従来の技術を使用して単離および精製することができる。scyllo−イノシトール化合物は、物理定数および分光法(特にHPLC)を含めた従来の方法を使用して特徴付けることができる。
【0089】
性質が塩基性であるScyllo−イノシトール化合物は、様々な無機酸および有機酸と共に、幅広い種類の様々な塩を形成することができる。実際には、反応混合物からscyllo−イノシトール化合物を、医薬として許容されない塩として最初に単離し、次いで、その医薬として許容されない塩をアルカリ試薬で処理することによって遊離の塩基化合物に変換し、その後、遊離塩基を医薬として許容される酸付加塩に変換することが望ましい。塩基化合物の酸付加塩は、塩基化合物を、実質的に等しい量の選択された鉱酸または有機酸と、水性溶媒媒体中、あるいはメタノールまたはエタノールなどの適切な有機溶媒中で処理することにより、容易に調製される。溶媒を慎重に蒸発させると、所望の固体塩が得られる。
【0090】
性質が酸性であるScyllo−イノシトール化合物は、様々な薬理学的に許容されるカチオンと共に、塩基塩を形成することができる。こうした塩は、相当する酸性化合物を、薬理学的に許容される所望のカチオンを含有する水溶液で処理し、その後、好ましくは減圧下で、得られた溶液を蒸発乾固させることによって、従来の技術によって調製することができる。あるいは、こうした塩は、酸性化合物の低級アルカノール溶液と所望のアルカリ金属アルコキシドをともに混合し、次いで、得られた溶液を前述と同じ方式で蒸発乾固することによって調製することができる。どちらの場合でも、反応の完全性および生成物の最大収率を確実にするために、典型的には、化学量論量の試薬が採用される。
【0091】
Scyllo−イノシトール化合物は、従来のプロセスを使用して調製することもできるし、商業的供給元から入手することもできる。例えば、scyllo−イノシトール化合物は、化学的および/または微生物的プロセスを使用して調製することができる。本発明の態様では、scyllo−イノシトール化合物は、M.SarmahおよびShashidhar,M.、「Carbohydrate Research」、2003年、338、999〜1001;Husson,C.ら、「Carbohyrate Research」307(1998)163〜165;Anderson R.およびE.S.Wallis、「J.American Chemical Society」(US)、1948年、70:2931〜2935;Weissbach,A.、「J Org Chem」(US)、1958年、23:329〜330;Chung,S.K.ら、「Bioorg Med Chem.」1999年、7(11):2577〜89;またはKiely D.E.、およびFletcher,H.G.、「J.American Chemical Society」(US)1968年、90:3289〜3290;により記載されている;JP09−140388、DE3,405,663(Merck Patent GMBH)、JP04−126075、JP05−192163、またはWO06109479に記載されている、またはWO05035774、US20060240534、EP1674578、およびJP03−102492(Hokko Chemical Industries)に記載されているプロセスステップを使用して生成される。本発明の組成物および方法の特定の態様では、scyllo−イノシトール化合物は、Husson,C.ら、「Carbohydrate Research」307(1998年)163〜165に記載されている化学的プロセスステップを使用して調製される。本発明の組成物および方法の他の態様では、scyllo−イノシトール化合物は、WO05035774(EP1674578およびUS20060240534)JP2003102492、またはJP09140388(Hokko Chemical Industries)に記載されているものと類似の微生物的プロセスステップを使用して調製される。誘導体は、当業者に周知の方法を使用して、scyllo−イノシトール化合物に置換基を導入することによって製造することができる。
【0092】
用語「黄斑変性症関連障害」には、黄斑の完全性を変化または損傷(例えば、網膜色素上皮またはブルッフ膜への損傷)を受ける状態、または網膜黄斑が変性するまたは機能障害になる状態が含まれる。網膜黄斑は、以下のうちの1つまたは複数の結果として変性するまたは機能障害になる恐れがある:黄斑の細胞の成長低下;網膜色素上皮細胞などの黄斑の細胞の死滅または再配置の増大;および正常な生体機能の喪失。こうした状態は、黄斑の細胞および/または細胞外基質の組織構造(histoarchitecture)の完全性の喪失、および/または黄斑細胞の機能喪失を伴う可能性がある。黄斑変性症関連障害の例としては、限定はされないが、加齢性黄斑変性症、ノースカロライナ(North Carolina)黄斑ジストロフィー、ソースビー眼底変性症、シュタルガルト病、模様ジストロフィー(pattern dystrophy)、ベスト病、優性遺伝性ドルーゼン、および蜂巣状網膜変性(malattia leventinese)(放射状ドルーゼン)が挙げられる。この障害には、機能障害の前または後に起こる黄斑外の変化、および/または黄斑の変性も含まれる。例としては、こうした障害として、網膜剥離、脈絡網膜変性、網膜変性、ムコ多糖症、視細胞変性、網膜色素上皮変性、桿体錐体ジストロフィー、錐体桿体ジストロフィー、および錐体変性が挙げられる。
【0093】
一実施形態では、黄斑変性症関連障害は、個人における、初期または後期段階の、湿潤型と乾燥型の加齢性黄斑変性症(AMD)である。特定の一実施形態では、この障害は、中心視力の低下、および進行した場合は法的盲をもたらすような、網膜の黄斑領域における視細胞の破壊および喪失に関連する。
【0094】
特定の実施形態では、黄斑変性症関連障害は、乾燥型の加齢性黄斑変性症である。この表現型は、鋭敏な視覚に必要とされる光感受性の黄斑内の細胞死(例えば視細胞の喪失)に関連する。ドルーゼン(すなわち、RPE基底膜とブルッフ膜の内膠原繊維層の間に蓄積する黄色沈着物)(van der Schaftら、「Opthalmol.」99:278〜86、1992年、Mullinsら、「Degenerative retinal Disesaes」中(1〜10ページ)、New York:Plenum Press、1997年)は、乾燥型AMDの共通の初期徴候である。対象は、片眼または両眼に、初期、中間、または進行した段階の乾燥型AMDを患っている可能性がある。本発明の態様では、対象は、初期の加齢性黄斑変性症または加齢性黄斑症に罹患している。本発明の態様では、対象は、加齢性黄斑症の前駆症状に罹患している。
【0095】
特定の実施形態では、黄斑変性症関連障害は、新生血管型、滲出型、または湿潤型の加齢性黄斑変性症であり、特に古典的または潜在的タイプ(すなわち、古典的な脈絡膜血管新生および潜在性の脈絡膜血管新生)である。この表現型は、黄斑下の異常血管の増殖(これにより、血液や液体が漏出し、網膜中心が破壊され、視力の低下がもたらされる)によって引き起こされる。
【0096】
本発明の特定の実施形態では、障害は、加齢性黄斑変性症に続発する脈絡膜血管新生である。
【0097】
医薬品
活性成分としてのscyllo−イノシトール化合物またはその塩は、患者に直接投与することもできるが、成分と、医薬として許容される担体、賦形剤、およびビヒクルとを含有する医薬品または医薬組成物の形の調製物として投与することが好ましい。したがって、本発明は、黄斑変性症関連障害または黄斑変性症関連障害によって引き起こされる症状を処置する、黄斑変性症関連障害の進行を抑制する、黄斑変性症関連障害に伴う身体障害を遅延させる、および/または治療的効果もしくは予防的効果を提供するための、単離された、特に純粋な、有効量のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品を企図する。
【0098】
医薬品は、眼組織、特に黄斑または黄斑細胞におけるアミロイドオリゴマー形成および/またはアミロイド凝集を調節するのに治療上有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含むことができる。本発明は、一態様では、眼組織におけるアミロイドオリゴマー形成および/またはアミロイド凝集を減少および/または阻害する、あるいは眼組織における既存のアミロイドオリゴマーまたはアミロイド凝集を溶解および/または破壊するのに治療上有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品を提供する。本発明は、一態様では、黄斑または黄斑細胞におけるアミロイドオリゴマー形成および/またはアミロイド凝集を減少および/または阻害する、あるいは黄斑もしくは黄斑細胞における既存のアミロイドオリゴマーまたはアミロイド凝集を溶解および/または破壊するのに治療上有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品を提供する。
【0099】
本発明の医薬品もしくは医薬組成物、またはその部分は、意図された投与形態に基づいて選択される、医薬として許容される適切な担体、賦形剤およびビヒクルを含み、従来の医薬的慣行と矛盾がない。適切な医薬担体、賦形剤、およびビヒクル、製剤ならびに技術は、標準的なテキスト、すなわち、Remington:「The Science and Practice of Pharmacy.」(第21版、Popovich,N(編)、Advanced Concepts Institute、University of the Sciences in Philadelphia、Philadelphia、PA、2005)に記載されている。scyllo−イノシトール化合物は、全身的および局所または局部的投与、特に眼投与を含めた様々な投与様式のために製剤化することができる。該医薬品は、米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration)などの適切な監督官庁の「Good Manufacturing Practice(GMP)」のすべての規則に完全に遵守し、滅菌した、実質的に等張なものとして製剤化することができる。本発明の医薬品または医薬組成物は、液剤(例えば点眼剤)、懸濁剤、エマルジョン、錠剤、丸剤、カプセル、持効性製剤、または散剤を含めて、患者への投与に適したいかなる形にもすることができる。
【0100】
経口投与に適した調製物の例としては、その活性成分を、乳糖、デンプン、ショ糖、セルロース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、グルコース、硫酸カルシウム、リン酸二カルシウム、サッカリンナトリウム、炭酸マグネシウム、マンニトール、ソルビトール(sorbital)などの医薬として許容される経口非毒性不活性担体と組み合わせることができるような、カプセル剤、錠剤、散剤、細粒剤、液剤、およびシロップを挙げることができる。液体形での経口投与については、活性成分を、エタノール、グリセロール、水などの、医薬として許容されるいかなる経口非毒性不活性担体とも組み合わせることができる。適切な結合剤(例えば、ゼラチン、デンプン、トウモロコシ甘味料、グルコースを含めた天然の糖、天然および合成ゴム、およびワックス)、滑沢剤(例えば、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム)、崩壊剤(例えば、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガム)、着香剤、および着色剤も、医薬品またはその成分内に合わせることができる。本明細書に記述する通りの医薬品は、湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も、さらに含むことができる。
【0101】
非経口投与に適した医薬品としては、水性液剤、シロップ、水性または油性懸濁剤、および、食用油(綿実油、ヤシ油、落花生油など)を含むエマルジョンを挙げることができる。本発明の態様では、非経口投与用の医薬品は、水、等張食塩水、等張グルコース溶液、緩衝液、または治療的に活性な薬剤の非経口投与に好都合に使用される他の溶媒などの、滅菌した水性または非水性溶媒を含む。水性懸濁剤に使用することができる分散剤または懸濁化剤としては、トラガント、アルギン酸塩、アラビアゴム、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、メチルセルロース、およびポリビニルピロリドンなどの合成または天然ゴムが挙げられる。非経口投与に意図される医薬品は、安定剤、緩衝液、または保存剤、例えば抗酸化剤(メチルヒドロキシベンゾエートまたは類似の添加剤など)などの従来の添加剤を含むこともできる。
【0102】
注射または点滴に使用することができる医薬品用の添加剤の例としては、水性注射剤または使用前に溶解されることになる注射剤を構成可能な溶解剤または可溶化剤(注射用蒸留水、生理食塩水、およびプロピレングリコールなど);グルコース、塩化ナトリウム、D−マンニトール、およびグリセリンなどの等張化剤;ならびに無機酸、有機酸、無機塩基、または有機塩基などのpH調整剤;が挙げられる。
【0103】
scyllo−イノシトール化合物は、この化合物の取り込み、分配、および/または吸収を容易にするために、分子と混合、カプセル化、共役、または結合させることができる。本発明の医薬品を投与するために、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルなどへのカプセル化など、様々な既知の送達系を使用することができる。本明細書に記述する通りの医薬として許容される塩として、医薬品を製剤化することもできる。
【0104】
態様では、本発明の医薬品は、適切な眼用処方の液剤、懸濁剤、またはエマルジョン(分散剤)であり、かつ、適切な緩衝系(例えば、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、またはホウ酸ナトリウム)を任意選択で含んでいる。眼内または眼周囲投与用の製剤は、侵襲的または非侵襲的医療処置中に組織の物理的な構造および機能を維持するように適合された生理的に平衡な灌流液を、追加的に含むことができる。生理的平衡灌流液は一般に、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、および/または塩化物);エネルギー源(例えば、ブドウ糖);および溶液のpHを生理的レベル、またはこれに近いレベルで維持する緩衝液;を含むことができる。生理的平衡灌流液は、周知であるかつ/または市販品として入手でき、乳酸リンゲル液(Lactated Ringers Solution)、BSS(登録商標)滅菌灌流液(Sterile Irrigating Solution)、およびBSS Plus(登録商標)眼内灌流液(Intraocular Irrigating Solution)(Alcon Laboratories社、Fort Worth、Tex)が挙げられる。
【0105】
態様では、本発明の医薬品は、局所的な眼用製剤を含めた眼用製剤である。特定の態様では、scyllo−イノシトール化合物と、眼科的に許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む眼用製剤が提供される。眼用製剤は、水性の滅菌した眼用液剤および懸濁剤を形成するために、眼科的に許容される保存剤、界面活性剤、増粘剤、緩衝液、塩化ナトリウム、および/または水を含むことができる。scyllo−イノシトール化合物と、親水性基剤(例えば、Carbopol(登録商標)(BF Goodrich Company)などのカルボキシビニルポリマー由来のもの)と、任意選択で保存剤および浸透圧剤(tonicity agent)とを含む眼用ゲル製剤も企図されている。
【0106】
本発明の態様では、局所投与に適した組成物が提供される。こうした医薬品は、溶液、懸濁液、またはその両方の、scyllo−イノシトール化合物を有する液体を含むことができる。液体組成物は、ゲルを含む、かつ/または水性である。組成物は、軟膏を含むこともできる。本発明の実施形態では、医薬品は、その場所でゲル化可能な水性組成物であり、より詳細には、その場所でゲル化可能な水性液剤である。組成物は、眼と、または眼の外側の涙液と接触するとゲル化できる有効量のゲル化剤を含むことができる。水性組成物は、眼と適合性のあるpHおよびモル浸透圧濃度であり得る。医薬品は、結膜下投与のための眼用デポー製剤の形とすることができる。該scyllo−イノシトール化合物は、医薬として許容される生体適合性のポリマーまたは脂質カプセル化剤に埋め込まれた微粒子の形とすることができる。デポー製剤は、活性なscyllo−イノシトール化合物を長期にわたって放出するように適合させることができる。ポリマーまたは脂質剤マトリックスを、scyllo−イノシトール化合物のすべてまたは実質的にすべてを放出した後に投与部位から移動可能な位に十分に分解するように適合させることができる。デポー製剤は、医薬として許容されるポリマーと、分散または溶解させたscyllo−イノシトール化合物とを含む液体製剤であり得る。このポリマーは、例えば、注入部位でゲル化または沈着することによって、デポーを形成することができる。組成物は、scyllo−イノシトール化合物を放出可能であり、かつ眼への埋め込みに適した固形物を含むことができる。固形物は、ポリマーを含むことができ、生体侵食性または非生体侵食性であり得る。固形物は、眼と眼瞼の間を含めた眼の、または結膜嚢の適切な位置に埋め込むことができる。
【0107】
実施形態では、本発明は、眼のある部位をscyllo−イノシトール化合物の標的にすることを容易にする様々な医薬品または医薬組成物を提供する。ある種の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物と、黄斑変性症関連障害のリスクがあるまたは黄斑変性症関連障害に罹患している対象の眼に存在する成分と結合する一部分とを含む組成物が提供される。実施形態では、この成分は、内皮細胞または網膜色素上皮細胞などの細胞上に、またはこうした細胞の表面に発現する細胞マーカーである。例えば、細胞マーカーは、組織因子(TF)、CD68、クローディン、RPE65遺伝子によってコードされたタンパク質、CD45、およびICAM−1である。本発明のある種の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物と一部分は結びつけられる。この結びつきは、共有結合または非共有結合であり得、また、直接的または間接的であり得る。一部分は、抗体またはリガンドであり得る。リガンドは、第VII因子、第VIIa因子、またはシリアルルイス(SLe)などの特定の受容体と結合する、ホルモン、成長因子、オリゴ糖または多糖、アプタマー、あるいは神経伝達物質であり得る。
【0108】
医薬品は、例えば、細菌保持フィルターを介する濾過、医薬品への滅菌剤の添加、医薬品の照射、または医薬品の加熱によって滅菌することができる。あるいは、医薬品は、滅菌した溶媒に使用直前に容易に溶解できる滅菌固体調製物、例えば凍結乾燥粉末として提供することができる。
【0109】
医薬品を調製した後、これを適切な容器に入れ、適応症(すなわち黄斑変性症関連障害)の処置についてラベル表示することができる。医薬品の投与については、こうしたラベル表示には、投与の量、回数、および方法が含まれるであろう。
【0110】
scyllo−イノシトール化合物は、栄養補助食品としての投与に適した形とすることができる。補助食品は、希釈剤もしくは充填剤、粘度調整剤、保存剤、着香料、着色料、または当分野の従来の他の添加剤などの、不活性成分を任意選択で含むことができる。例示目的に過ぎないが、蜜蝋、レシチン、ゼラチン、グリセリン、カラメル、およびカーミンなどの従来の成分を挙げることができる。栄養補助食品は、液体栄養補助食品(例えば、投与可能な液体)として提供することもできるし、この組成物を、顆粒剤、カプセル、または坐剤として製剤化することもできる。液体栄養補助食品は、水、グリコール、油、アルコール、着香剤、保存剤、着色剤などを含めた、いくつかの適切な担体および添加剤を含むことができる。この栄養組成物は、カプセル、顆粒剤、または坐剤形では、医薬として許容される担体と混合して製剤化される。補助食品は、従来の方法を使用して調製されたソフトゲルの形で存在することもできる。ソフトゲルは典型的には、少量の補助食品をカプセル封入するゼラチン層を含む。補助食品はまた、従来の方法を使用して作製可能な、液体で満たされた密封されたゼラチンカプセルの形とすることもできる。
【0111】
カプセル、顆粒剤、または坐剤形の栄養補助食品組成物を調製するために、従来の製剤技術に従って、scyllo−イノシトール化合物を含む1種または複数の組成物を、医薬として許容される担体と十分に混合することができる。カプセルおよび顆粒剤などの固体経口調製物については、デンプン、砂糖、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などの適切な担体および添加剤を含めることができる。
【0112】
本発明によれば、キットが提供される。一態様では、該キットは、本明細書に記述するscyllo−イノシトール化合物または医薬品を、キットの形で含む。本発明の態様では、キットは、限定はされないが黄斑変性症関連障害に罹患している対象を処置することを含めた、本明細書に開示する方法のいずれかに有用であり得る。本発明のキットには、本明細書に記述する方法のいずれかの実施に関する指示書を含めることができる。本発明のキット中の医薬品または製剤は、本明細書に開示する眼用製剤または組成物のいずれかを含むことができる。
【0113】
本発明の実施形態では、本発明のキットは、本明細書に記述する容器と、緩衝液を含む第2の容器とを含む。キットは、限定はされないが緩衝液、希釈剤、フィルター、針、注射器、および本明細書に記述する任意の方法の実施に関する指示を伴う添付文書を含めた、販売者および使用者の立場から望まれる他の材料も、追加的に含むことができる。
【0114】
キットは、本発明のscyllo−イノシトール化合物または医薬品を含有する容器を収納し、かつ、該scyllo−イノシトール化合物または医薬品を対象に投与することに関する指示書も収納するようなパッケージであり得る。さらに、本発明は、scyllo−イノシトール化合物または医薬品を、その使用に関する指示書と共に含むような市販用パッケージに関する。特に、ラベル表示には、投与の量、回数、および方法を含めることができる。
【0115】
本発明の態様では、本発明の医薬品の1種または複数の成分で満たされた1つまたは複数の容器を含む医薬パックまたはキットが提供される。こうした容器(1つまたは複数)は、使用のための指示書や、政府機関(医薬品もしくはバイオ製品のラベル表示、製造、使用、または販売を管理する)によって規定された形式の通知書(この通知書は、ヒト投与のための製造、使用、または販売の、政府機関による承認を反映している)などの様々な文書を伴うことができる。
【0116】
ある種の実施形態では、本明細書に記述する医薬品、組成物、または製剤は、医療提供者による直接分配についてラベル表示された、好都合な、処方サイズの、かつ、患者にすぐに利用できる単位であるような、使用単位パッケージとすることができる。使用単位パッケージは、所与の適応症についての典型的な処置間隔および継続期間に必要な量の、医薬品、組成物、または製剤を含有する。本発明の一実施形態では、例えば、平均的な大きさの成人男性または女性を1日1回、または週に1度か2度処置するのに十分な量のscyllo−イノシトール化合物を含む、使用単位パッケージが提供される。
【0117】
本発明はまた、黄斑変性症関連障害を処置するのに有用な材料を含む、製品用物品およびキットに関する。製品用物品は、ラベルを伴う容器を含むことができる。適切な容器の例としては、ガラスおよびプラスチックを含めた様々な材料から形成することができる、ボトル、バイアル、および試験管が挙げられる。容器は、黄斑変性症関連障害を処置するのに有効であるscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品または製剤を保持する。容器上のラベルは、医薬品または製剤が、黄斑変性症関連障害を処置するために使用されることを示し、また、使用に関する手引きを示すこともできる。容器は、点眼剤用のボトルのように、組成物の眼への投与用に適合させることもできる。容器または単位製剤は、眼への、または眼周囲組織などの眼の周辺組織への埋め込みまたは注入用に適合させることもできる。本発明の態様では、容器中の医薬品または製剤は、本明細書に開示する眼用医薬品または製剤のいずれかを含むことができる。
【0118】
処置方法
本発明は、黄斑変性症関連障害を処置する、特に、黄斑変性症関連障害の疾患重症度、疾患症状、再発の周期性を予防および/または改善する、かつ/または黄斑変性症関連障害に伴う能力障害を遅延させるのに有効な量の、特に治療有効量の本発明のscyllo−イノシトール化合物または医薬品の使用を企図する。態様では、本発明は、本明細書に記載の医薬品または処置を使用して、哺乳動物における黄斑変性症関連障害を処置することを企図する。こうした使用および処置は、排他的ではないが具体的には眼組織および/または眼機能の変性を含めた、黄斑変性症関連障害の影響を遅らせるのに有効であり得る。
【0119】
本発明によれば、scyllo−イノシトール化合物は、人が黄斑変性症関連障害を将来的に発症し得る可能性を予防するものとして、一般集団におけるいかなる対象にも投与することができる。特定の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物は、例えば、黄斑変性症関連障害の発生率が通常より高い家系であるという理由で、または定義された遺伝的傾向が理由で、黄斑変性症関連障害のリスクがあると疑われる対象に投与することができる。本発明の特定の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物を用いて予防的に処置される別のカテゴリーの対象は、農薬、除草剤、有機溶媒、水銀、鉛などへの曝露など、黄斑変性症関連障害の発症に関係すると考えられる環境的曝露を経験したことのある人である。
【0120】
本発明は、一態様では、一般集団における人、より詳細には、例えばこの疾患の陽性の家族歴および/または遺伝子欠損の存在が原因で、黄斑変性症関連障害を発症するリスクがあると考えられる人を予防的に処置するための、本発明のscyllo−イノシトール化合物または医薬品の使用を提供する。加えて、本発明のscyllo−イノシトール化合物または医薬品は、黄斑変性症関連障害(例えばAMD)とすでに診断された人を、既存の眼障害または能力障害の進行を遅延させるように、および/または今のところ検出されていない眼障害または能力障害の発症を遅延させるように処置するために使用することができる。
【0121】
加えて、scyllo−イノシトール化合物は、黄斑変性症関連障害または加齢性黄斑症の初期段階に、特に、黄斑変性症関連障害という診断がほぼ確実であると決定された時に、対象に投与することができる。「初期段階」とみなされる時期は、症状の発症または診断後、最初の1か月、または2、3、6、8、もしくは12か月であり得る。対象は、黄斑変性症関連障害または加齢性黄斑症の初期段階における前駆症状時であり得る。
【0122】
本発明の態様では、scyllo−イノシトール化合物は、症状または診断の発症を遅延させるために、障害の後期段階に、対象に投与することができる。「後期段階」とみなされる時期は、症状または診断の発症後、6、8、12、18、または24か月を超える時期であり得る。
【0123】
本発明の医薬品および処置は、治療的効果および/または予防的効果を提供するために選択される。一実施形態では、黄斑変性症関連障害のための本発明の医薬品または処置の治療的および/または予防的効果は、下記のうちの1つまたは複数あるいはすべてとして顕在化し得る。
a)黄斑変性症関連障害の症状を患う対象への投与後の、該障害の症状の憎悪の低下、緩徐化、もしくは予防、または該障害の症状の非存在。
b)黄斑変性症関連障害の進行の緩徐化または停止。
c)H、D、C3、Ba、C3d、および/またはC3bなどの補体因子の調節。
d)既存の眼障害の進行の遅延、および/または今のところ検出されない眼障害の発症の遅延。
e)黄斑変性症関連障害、特に加齢性黄斑症の症状を患う対象における、本明細書に開示するscyllo−イノシトール化合物または医薬品の非存在下で測定されたレベルに対する、眼組織の変性の憎悪の低下、緩徐化、または予防。本発明の態様では、scyllo−イノシトール化合物または医薬品によって、眼組織の変性が、少なくとも約2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下する。
f)黄斑変性症関連障害の症状を患う対象への投与後、眼機能の増大または回復。本発明の態様では、本明細書に開示するscyllo−イノシトール化合物または医薬品によって、対象の眼機能が、少なくとも約0.05%、0.1%、0.5%、1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%、33%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%増大する。
g)視力の向上。特に、対象の平均視力の向上、具体的には、本発明による処置を受けていない対象と比較した場合の、平均視力の、少なくとも約1.2、1.5、1.75、2、3、4、5、7、8、9、または10倍の向上。
h)黄斑変性症関連障害を患う対象の疾患進行速度の低下または緩徐化。
i)眼機能障害の軽減、緩徐化、または予防。本発明の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物または医薬品によって、眼機能障害が、少なくとも約2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%軽減または緩徐化される。
j)対象の眼のいずれの量的条件も向上。実施形態では、向上は、対象の眼の条件のいずれの量的測定においても、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、または300%以上の増大であり得る。実施形態では、向上は、対象の眼の状態のいずれの量的測定においても、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%、または300%以上の低下であり得る。
k)VEGFまたはVEGF活性の低下または阻害。本発明の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物または医薬品によって、VEGFまたはVEGF活性が、少なくとも1%、1.5%、2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下する。
l)黄斑変性症関連障害を患う対象における既存または代替処置の減少。実施形態では、治療的効果は、既存療法の施用回数の減少、より詳細には、Lucentisの注入回数の減少を含む。
m)黄斑変性症関連障害を患う対象における、既存または代替処置の副作用または有害事象の減少。副作用および有害作用の例としては、限定はされないが、眼内炎(endophthalmitis)、網膜剥離、処置による医原性白内障(iatrogenic treatment cataract)、前房炎、霧視、白内障、結膜出血、角膜浮腫、結膜浮腫、角膜擦過傷、角膜沈着物、角膜上皮障害、眼脂、眼刺激、眼痛、高眼圧、眼圧(IOP)上昇、眼の異物感、流涙増加、眼そう痒症(eye puritis)、視力障害、眼瞼炎、網膜下線維症、眼充血、黄斑症、眼部不快感、眼内圧の亢進、硝子体剥離、点状角膜炎(punctuate keratitis)、視力低下、視力障害、硝子体浮遊物、硝子体混濁、眼瞼炎、結膜炎、アレルギー性結膜炎、光視症、硝子体障害、眼内炎症、眼炎、結膜充血、後嚢部混濁、網膜滲出物、網膜色素上皮の剥離、ドライアイ、眼球腫脹、眼瞼刺激、瞼板腺炎、散瞳、眼窩周囲血腫、網膜浮腫、網膜出血、および硝子体出血が挙げられる。
n)黄斑変性症関連障害の症状を患う対象の生存期間または寿命の延長。
o)アミロイドを含むオリゴマーおよび/または凝集物の集合の動態の低下、具体的には、こうしたオリゴマーおよび/または凝集物の集合の動態の2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の低下。
p)黄斑変性症関連障害の症状を患う対象における、本明細書に開示するscyllo−イノシトール化合物または医薬品の非存在下で測定されたレベルに対する、眼組織中のアミロイド、またはアミロイドを含むオリゴマーもしくは凝集物の蓄積の増大の低下、緩徐化または予防。本発明の実施形態では、該scyllo−イノシトール化合物または医薬品によって、アミロイド、またはアミロイドを含むオリゴマーもしくは凝集物の蓄積が、少なくとも約2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%低下する。
q)眼組織中での、アミロイドβ(例えばドルーゼン)を含むオリゴマーもしくは凝集物のアミロイドβ凝集または集合の予防、低下、または阻害。
r)黄斑変性症関連障害の症状の発症後の、アミロイドβ、またはアミロイドβを含むオリゴマーもしくは凝集物の逆戻りまたは減少。
s)眼組織中での、アミロイドβ、またはアミロイドβを含むオリゴマーもしくは凝集物の溶解および/または破壊。
t)眼組織中での、アミロイドβ、またはアミロイドβを含むオリゴマーもしくは凝集物のクリアランスの増強。
【0124】
本発明の態様では、本発明の医薬品または処置の治療的または予防的効果は、(a)と(b);(a)、(b)、および(c);(a)、(b)、(c)、および(d);(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、および(f);(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、および(g);(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、および(h);(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、および(i);(e)、(f)、(g)、(i)、(k)、および(l);(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、および(j);(a)から(k);(a)から(l);(a)から(m);(a)から(n);(a)から(o);(a)から(p);(a)から(q);(a)から(r);(a)から(s);または(a)から(t)として顕在化し得る。
【0125】
持続性の治療的効果、また、ある種の実施形態では統計的に有意な持続性の治療的効果、を有する本発明のscyllo−イノシトール化合物、医薬品、および方法を選択することができる。治療的効果は、数日間、数週間、数か月間、または数年間にわたって持続し、それによって、疾患の重症度およびその合併症に、有益な大きい影響を与えることができる。本発明の態様では、治療的効果は、処置後、少なくともおよそ2から4週、2から5週、3から5週、2から6週、2から8週、2から10週、2から12週、2から14週、2から16週、2から20週、2から24週、2週から12か月、2週から18か月、2週から24か月、または数年という長い期間の間、持続することができる。治療的効果が持続する期間は、処置の継続期間およびタイミングと相関する可能性がある。対象を、周期的または連続的に、およそ、または少なくともおよそ、1週、2から4週、2から6週、2から8週、2から10週、2から12週、2から14週、2から16週、2週から6か月、2週から12か月、2週から18か月、2週から24か月、24か月を超える期間、または数年の間、継続的に処置することができる。
【0126】
治療的効果は、こうした化合物が無い場合の効果に対するscyllo−イノシトール化合物の効果の統計的分析という点から見て、統計的に有意な効果であり得る。「統計的に有意な」または「有意差がある」効果またはレベルは、標準よりも高いまたは低いレベルに相当する可能性がある。本発明の実施形態では、この差は、該化合物なしで得られる効果に比べて、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、1から10、1から20、1から30、または1から50倍高いまたは低い可能性がある。
【0127】
ある態様では、本発明の処置の有効性および効果がより高まることによって、不都合な副作用および毒性を弱めながら、処置の治療可能比を向上させることができる。また、これによって、黄斑変性症関連障害の代替処置の副作用を弱めるまたは排除することもできる。本発明の選択された方法によって、症状が出現してからずっと後に処置が開始された場合であっても、長引く疾患を改善することもできる。ある実施形態では、長期にわたる効果のある処置は、scyllo−イノシトール化合物、またはscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品の投与後に、本発明に従って実現することができる。
【0128】
本発明は、対象に有効量のscyllo−イノシトール化合物を投与することを含む、対象における黄斑変性症関連障害を処置するための方法を提供する。
【0129】
実施形態では、本発明は、対象における網膜中の、特に黄斑中のアミロイドオリゴマーまたは凝集物を、治療有効量の本発明のscyllo−イノシトール化合物または医薬品と接触させることを含む、黄斑変性症関連障害を処置するための方法に関する。
【0130】
実施形態では、本発明は、投与後に長期にわたってアミロイドオリゴマーおよび/または凝集物を破壊するのに有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品を提供することによって、黄斑変性症関連障害を処置するための方法を提供する。
【0131】
本発明は、実施形態では、眼組織におけるアミロイドの折り畳み、オリゴマー形成、および/または凝集を調節する、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0132】
さらなる実施形態では、本発明は、眼細胞中または眼組織中の既存のアミロイド、アミロイドオリゴマーまたはアミロイド凝集物の溶解/破壊を引き起こす、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物、医薬として許容されるその塩、あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0133】
一実施形態では、本発明は、眼組織中のアミロイドの集合を予防または阻害する、または眼組織中のアミロイドの沈着を遅延させるための方法であって、眼細胞中のアミロイドまたはアミロイドを含むオリゴマーもしくは凝集物の集合を予防もしくは阻害するまたはこれらの沈着を遅延させるのに有効な量の、scyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む方法を提供する。
【0134】
一実施形態では、本発明は、対象における黄斑変性症関連障害の症状の発症後、眼細胞中のアミロイドあるいはアミロイドを含むオリゴマーおよび/または凝集物を逆戻りまたは低下させる方法であって、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤またはビヒクルとを含む医薬品;を対象に投与することを含む方法を提供する。
【0135】
本発明は、一態様では、対象における眼細胞中のアミロイドまたはアミロイドを含むオリゴマーもしくは凝集物の除去を増強するための方法であって、眼細胞中のアミロイドまたはアミロイドを含むオリゴマーもしくは凝集物の除去を増強するのに治療上有効な量の、scyllo−イノシトール化合物;医薬として許容されるその塩;あるいはscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤またはビヒクルとを含む医薬品;を投与することを含む方法を提供する。
【0136】
本発明は、別の態様では、黄斑変性症関連障害を処置するための方法であって、投与後に長期にわたって眼細胞中のアミロイドおよび/またはアミロイドオリゴマーおよび/または凝集物の蓄積を低下させるために、哺乳動物に、ある量のscyllo−イノシトール化合物を(例えば眼内に)投与することを含む方法を提供する。
【0137】
本発明は、別の態様では、黄斑変性症関連障害を予防および/または処置するための方法であって、投与の必要のある哺乳動物に、投与後に眼組織中のオリゴマー化されたかつ/または凝集したアミロイドを破壊するのに有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品を投与することと;オリゴマー化されたかつ/または凝集したアミロイドの量を決定し、それによって該障害を処置することとを含む方法を提供する。オリゴマー化されたかつ/または凝集したアミロイドの量は、アミロイドに特異的な抗体、または検出可能物質で標識されたscyllo−イノシトール化合物を使って測定することができる。
【0138】
本発明は、さらなる態様では、眼機能を高めるのに十分なまたは有効な用量のscyllo−イノシトール化合物を提供する医薬品を個体に投与することを含む、処置の必要のある患者において黄斑変性症関連障害を処置するための方法を提供する。
【0139】
一実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害を処置するための方法であって、投与の必要のある哺乳動物に、投与後に長期にわたって眼機能障害を軽減するのに有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品を投与し、それによって眼疾患を処置することを含む方法を提供する。
【0140】
黄斑変性症関連障害を患う対象を処置するための方法であって、従来の治療剤または手順を用いた以前の処置に応答しなかった対象に、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を投与し、それによって対象を処置することを含む方法が提供される。一態様では、従来の処置に応答しなかった、加齢性黄斑変性症を患う対象を処置するための方法であって、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を該対象に投与することを含む方法が提供される。一態様では、加齢性黄斑変性症を患う対象を処置するための方法であって、従来の治療剤または手順を用いた以前の処置に応答しなかった対象に、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を投与し、それによって対象を処置することを含む方法が提供される。
【0141】
本発明は、処置の必要のある対象において黄斑変性症関連障害を処置する方法であって、医薬として許容される製剤中に、実質的な毒性を有することなく黄斑変性症関連障害を処置するのに有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含む、または本質的に該化合物からなる組成物を患者に投与することを含む方法を提供する。本発明は、一態様では、処置の必要のある対象において黄斑変性症関連障害を処置する方法であって、医薬として許容される製剤中に、実質的な毒性を有することなく黄斑変性症関連障害を処置するのに有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含む、または本質的に該化合物からなる組成物を患者に眼内注入することを含む方法を提供する。一実施形態では、加齢性黄斑変性症(AMD)を患う対象を処置するための方法であって、医薬として許容される製剤中に、実質的な毒性を有することなくAMDを処置するのに有効な量のscyllo−イノシトール化合物を含む、または本質的に該化合物からなる組成物を患者に眼内注入することを含む方法が提供される。
【0142】
本発明の一態様では、片眼または両眼に黄斑変性症関連障害を患うヒト対象は、硝子体内注入を介して、scyllo−イノシトール化合物で処置される。本発明の実施形態では、該対象は、従来の治療法、具体的にはMacugenまたはLucentisを与えられている。
【0143】
本発明の方法を用いて処置される対象は、限定はされないが、間接検眼法(opthalmoscopy)、眼底撮影法、蛍光眼底血管撮影法、光断層撮影法(OCT)、網膜電図検査、外眼検査、細隙灯顕微鏡検査、圧平眼圧測定、角膜厚測定、および/または自動屈折測定(autorefaction)を含めた、当分野で既知の方法を使ってモニタリングすることができる。
【0144】
本発明はまた、黄斑変性症関連障害を処置するための、または黄斑変性症関連障害を処置する際の医薬品の調製のための少なくとも1種のscyllo−イノシトール化合物を含む医薬品の使用も企図する。一実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害を処置する際の治療的効果を提供するための、または黄斑変性症関連障害を処置する際の治療的効果を提供するための医薬品の調製のための、治療有効量の少なくとも1種のscyllo−イノシトール化合物の使用に関する。別の実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害またはその症状を予防するための、あるいは黄斑変性症関連障害またはその症状を予防するための医薬品の調製のための、予防有効量の少なくとも1種のscyllo−イノシトール化合物の使用に関する。さらなる実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害の長期的または持続的処置のための、あるいは黄斑変性症関連障害の長期的または持続的処置のための医薬品の調製のための、scyllo−イノシトール化合物の使用を提供する。長期的または持続的処置は、少なくとも4週、5週、6週、8週、10週、12週、14週、16週、20週、24週、30週、40週、52週、または78週、より詳細には、約2から4週、2から5週、3から5週、2から6週、2から8週、2から10週、2から12週、2から16週、2から20週、2から24週、2週から12か月、2週から24か月、2から12か月、2から14か月、2から18か月、3から12か月、3から14か月、3から18か月、6から12か月、6から14か月、6から18か月、または6から24か月の期間であり得る。
【0145】
本発明はまた、1種または複数の追加の治療剤または方法と、特に従来の治療剤または手順と組み合わせた、本発明のscyllo−イノシトール化合物、または医薬品/組成物を含む組成物、あるいはこれらを使用する方法も含む。本発明の態様では、対象は、光凝固療法または光線力学的療法を受けることもできる(例えば、米国特許第5,756,541号、第5,910,510号、第6,599,891号、第7,060,695号、第7,015,240号、米国特許出願公開第20030087889号、および第20040019032号を参照されたい)。例えば、対象は、ベルテポルフィンを光増感剤として用いる光線力学的療法(例えば、Visudyne Photodynamic Therapy(Novartis))を受けることができる。患者は、黄斑移動術を受けることもできるし、レオホレシス(rheophoresis)またはレーザー手術を使用して処置することもできる。黄斑網膜に高濃度で存在する強力な抗酸化物質であるルテインおよびゼアキサンチンなどのカロテノイドも、対象に投与することができる[例えば、Chopdarら、「BMJ」326、485(2003)」を参照されたい]。対象は、scyllo−イノシトール化合物と組み合わせて、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)治療剤も受けることができる。抗VEGF治療剤は、直接的または間接的にVEGFに結合する、またはVEGFを下方調節する、任意の分子であり得る。抗VEGF治療剤の例としては、限定はされないが、ペガプタニブ(Macugen(登録商標))、ラニビズマブ(Lucentis(登録商標))、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))、VEGFトラップ(例えば、アフリベルセプト、VEGF Trap−Eye)、あるいはsiRNA分子Cand5(Acuity Pharmaceuticals社)およびSirna−027(Sirna Therapeutics)が挙げられる。ある態様では、トリアムシノロン(Kenalog)を、scyllo−イノシトール化合物と組み合わせて投与することができる。scyllo−イノシトール化合物と組み合わせて投与可能な他の治療剤は、コンブレタスタチンA4リン酸塩(CA4P)(ZYBRESTAT(登録商標))、TG100801(点眼剤、TargeGen社)、ATG3(メカミラミン)(CoMentis社)、およびOthera(OT)−551抗酸化点眼剤(Othera Pharmaceuticals)である。scyllo−イノシトール化合物は、1種または複数の黄斑キサントフィル(ルテインおよびゼアキサンチン)、長鎖オメガ3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸(DHA))、エイコサペンタエン酸(EPA)、および亜鉛などの補助剤と組み合わせて投与することができる。
【0146】
黄斑変性症関連障害(例えばAMD)を処置するための従来の治療法の有効性を、対象において延長させるための方法であって、従来の治療法を受けている対象に、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を投与することを含む方法が提供される。実施形態では、従来の治療法の有効性を延長させる、再発までの時間を延長する、および/または治療法の副作用または有害事象を弱めるもしくは除去するのに治療上有効な量が投与される。一態様では、対象は、AMDに罹患している。特定の態様では、対象は、抗VEGF治療剤、具体的にはLucentisまたはMacugenを与えられている。
【0147】
第2の治療法または薬剤と、scyllo−イノシトール化合物とは、任意の順序で任意の期間、同時または連続的に投与することができる。各成分または各治療法は、別々に施すこともができるが、所望の効果、詳細には治療的効果、より詳細には相乗効果を提供するために、時間を十分に近づけることができる。第1の化合物または処置は、第2の化合物または処置を用いる処置を追加的に含むような投与計画で与えることができる。活性剤は、1つの製剤に組み合わせることもできるし、別々の製剤にすることもできる。一態様では、scyllo−イノシトール化合物は、従来の治療法の完了後、(例えば、ある一定期間内または継続的に)投与される。
【0148】
一実施形態では、抗VEGF処置(例えば、LucentisまたはMacugen)で処置を受ける(好ましくは、月に1回の処置を3か月間受ける)滲出型AMDを患う対象は、抗VEGF処置の中断または中止後に、特に再発後に、本発明のscyllo−イノシトール化合物または医薬品/組成物を投与される。
【0149】
本発明の処置のために選択される対象は、下記の1つまたは複数を有する可能性がある:
i.OCTによる黄斑内の液体の証拠と共に、5文字超の視力喪失。
ii.100mMを超えるOCT中心網膜厚の上昇。
iii.新規の黄斑出血。
iv.新規領域の古典的脈絡膜血管新生。
v.以前の抗VEGF治療剤の投与の1か月後よりも後の(OCTによる)残存流体。
【0150】
一実施形態では、抗VEGF処置(例えば、Lucentis)で処置を受ける滲出型AMDを患う対象は、抗VEGF処置の中断または中止後に、特に再発後に、本発明のscyllo−イノシトール化合物または医薬品を投与される。
【0151】
本発明は、従来の黄斑変性症治療法の効果を増強または助長させる方法と、治療有効量のscyllo−イノシトール化合物と、任意選択で抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)治療剤、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法とを投与する、あるいはscyllo−イノシトール化合物を含む組成物と、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)治療剤または抗酸化剤とを投与することによって、対象における黄斑変性症関連障害を処置する方法とを提供する。
【0152】
scyllo−イノシトール化合物は、こうした治療法が単独で施される場合と比較して、対象における黄斑変性症関連障害の処置における黄斑変性症治療法の効果を増強させるために、様々な用量および経路の投与計画で、従来の黄斑変性症治療法と同時に、別々に、または組み合わせて投与することができる。本発明の処置の有効性および効果がより高まることによって、不都合な副作用および毒性を弱めながら、処置の治療可能比を潜在的に向上させる。本発明の方法はまた、障害の長期的処置を向上させながら、有用性を高めることもできる。
【0153】
本発明の処置方法は、scyllo−イノシトール化合物を含む組成物と、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)治療剤または抗酸化剤との投与を含むことができる。本発明の代替処置方法は、scyllo−イノシトール化合物を含む組成物の投与のステップに続く、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)治療剤または抗酸化剤を含む第2の医薬組成物の投与のステップを含む。scyllo−イノシトール化合物の投与を、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)または抗酸化剤の投与の後に続けることもできる。医薬組成物の投与は、別々にも、同時にも行うことができる。
【0154】
本発明は、対象への別々または組み合わせ投与のための第1の成分として、治療有効量の滅菌したscyllo−イノシトール化合物と、第2の成分として、治療有効量の滅菌した抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)治療剤または抗酸化剤とを含むキットを提供する。第1および第2の成分は、単一容器に含めることができる。これらの成分は、滅菌した水性緩衝剤の状態に、あるいは凍結乾燥粉末の形または水を含まない濃縮物の形であり得る。これらの成分が、凍結乾燥粉末の形である場合、キットはさらに、成分を還元するための滅菌水を含むことができる。キットはさらに、政府機関(医薬品もしくはバイオ製品の製造、使用、または販売を管理する)によって規定された形式の通知書(この通知書は、ヒト投与のための、特に黄斑変性症関連障害を処置するためのキットの製造、使用、または販売の、政府機関による承認を反映している)を含むことができる。本発明はまた、治療有効量の滅菌したscyllo−イノシトール化合物と、治療有効量の滅菌した抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)治療剤または抗酸化剤と、前記医薬組成物を形成可能な1種または複数の医薬として許容される担体または賦形剤とを含む容器を含む、黄斑変性症関連障害の処置のために患者に投与する医薬組成物を調製するためのキットを提供する。
【0155】
本発明の医薬品および方法の治療有効性および毒性は、細胞培養におけるまたは実験動物を用いる標準の薬学的手順によって、例えば、ED50(集団の50%において治療的に有効である用量)またはLD50(集団の50%にとって致死的な用量)などの統計的パラメータを算出することによって、決定することができる。治療指数は、治療効果対毒性作用の用量比であり、ED50/LD50比として表すことができる。高い治療指数を示す医薬品が好ましい。
【0156】
本発明の組成物または方法の有効性は、眼内血管新生疾患を評価する際に一般に用いられる様々な端点によって決定することができる。こうした端点の例としては、下記のうちの1つまたは複数を測定することが挙げられる:
a)視力喪失。これは、例えば、基準からの所望の時点までの最高矯正視力(BCVA)の平均値の変化を測定することによって評価することができる。(例えば、「the Early Treatment Diabetic Retinopathy Study」;Cotter SAら、「Am J Ophthalmol.」2003;136:655〜661、の試験プロトコルを使用);
b)基準と比較して、所望の時点の視力喪失が15文字未満である対象の割合;
c)基準と比較して、所望の時点の視力獲得が15文字以上である対象の割合;
d)所望の時点で、Snellen視力が20/2000以下である対象の割合;
e)NEI Visual Functioning Questionnaire;
f)眼内圧;
g)細隙灯圧(slitlamp pressure);および
h)所望の時点での脈絡膜血管新生(CNV)の大きさ、およびCNVの漏出量(蛍光眼底血管撮影法を使用)。
有効性は、眼検査を実施すること、視力を評価すること、および眼内炎症を評価することなど、眼評価を行うことによって評価することもできる。
【0157】
投与
scyllo−イノシトール化合物、および該化合物を含むまたは該化合物からなる医薬品は、治療的または予防的効果、特に治療的効果をもたらすように、活性剤(1種または複数)を対象または患者の体内の薬剤活性部位と接触させる任意の手段によって投与することができる。投与の方法としては、限定はされないが、全身的、経胸膜、静脈内、経口、動脈内、筋肉内、局所、経吸入(例えば、ミストまたは噴霧として)、経鼻粘膜、皮下、経皮、腹腔内、消化管内、ならびに眼および眼周囲組織への直接投与が挙げられる。scyllo−イノシトール化合物は、錠剤、丸剤、散剤、カプセル、顆粒剤、注射剤、クリーム、液剤、坐剤、エマルジョン、分散剤の形、および他の適切な形で投与することができる。該化合物は、リポソーム製剤で投与することができる。scyllo−イノシトール化合物はまた、プロドラッグとして投与することもできる。
【0158】
本発明の態様では、scyllo−イノシトール化合物または医薬品は、眼または眼に付随する組織に投与される。該化合物および医薬品は、眼に局所的に投与することができ、点眼剤または洗眼剤の形とすることができる。黄斑変性症関連障害の処置を意図した治療剤の眼内投与は、当分野で既知である(例えば、米国特許第5,632,984号、第5,770,589号、および第6,3785,260号を参照されたい)。該化合物および医薬品はまた、眼への注射(眼内注射)、または眼に付随する組織への注射によって投与することもできる。これらは、結膜下注射、経中隔注射、硝子体内注射、経胸膜注射、網膜下注射、眼周囲注射、テノン嚢下注射、または球後注射によって投与することもできる。該scyllo−イノシトール化合物および医薬品はまた、好ましくは生体適合性のおよび/または生分解性の、投薬期間にわたって化合物を徐々に放出する持効性製剤である埋込体として、対象に投与することもできる。眼投与のための埋込体は、当分野で周知である;例えば、米国特許第5,501,856号、第5476,511号、および第6,331,313号を参照されたい。scyllo−イノシトール化合物はまた、イオン導入を使用して、例えば、米国特許第4,454,151号、ならびに米国特許出願公開第20030181531号、および第20040058313号に記載されている方法を使用して投与することもできる。実施形態では、投与の方法は、眼内投与であり、これには、経網膜、球結膜下、強膜ポケット、または強膜切開部注射が含まれる。実施形態では、投与の方法には、脈絡膜注射、経強膜注射、強膜パッチの留置、および選択的動脈カテーテル挿入が含まれる。
【0159】
本発明のscyllo−イノシトール化合物および医薬品は、持効性のために、局所的または全身的送達のために、製剤化することができる。治療的効果を提供するための医薬品および処置の効果を最大限にする投与の形式および経路を選択することは、熟練の医師または獣医師の能力の範囲内である。
【0160】
本発明の投薬計画は、選択されるscyllo−イノシトール化合物の薬力学的特性や、その投与の様式および経路;患者の人種、年齢、性別、健康、医学的状態、および体重、症状の性質および程度、併用する処置の種類、処置の頻度、投与経路、患者の腎機能および肝機能、ならびに望まれる効果などの既知の因子に応じて変わることとなる。
【0161】
黄斑変性症関連障害の処置において、効果、特に治療的効果を提供するのに有効となるであろうscyllo−イノシトール化合物の量は、標準の臨床技術によって決定することができる。処方に用いられる厳密な用量も、投与の経路および疾患の重篤度に依存することとなり、医師の判断および各患者の状況に従って決定されることとなる。
【0162】
投与に適した投薬量範囲は、治療的効果を提供するために個別に選択される。血液中、または眼の組織および/または眼に付随する組織中で、定義された最終的薬物濃度を提供するために、医薬的単位投薬量のscyllo−イノシトール化合物が、好都合に作製および投与される。
【0163】
投薬量範囲は一般に、所望の生体応答または治療的効果を引き起こすのに有効なものである。投薬量範囲は通常、約0.001μgから約5g/kg/日、約0.01μgから約5g/kg/日、約0.1μgから約5g/kg/日、約0.1mgから約5g/kg/日、約0.1mgから約2g/kg/日、約0.5mgから約5g/kg/日、約1mgから約5g/kg/日、約1mgから約500mg/kg/日、約1mgから約200mg/kg/日、約1mgから約100mg/kg/日、約5mgから約100mg/kg/日、約10mgから約100mg/kg、約25mgから約75mg/kg/日、約1mgから約50mg/kg/日、約2mgから約50mg/kg/日、約2mgから約40mg/kg/日、または約3mgから約25mg/kg/日のうちのいずれかであり得る。本発明の態様では、投薬量の範囲は通常、対象の体重あたり、約0.01μgから約2g/kg、約1μgから約2g/kg、約1mgから約2g/kg、5mgから約2g/kg、約1mgから約1g/kg、約1mgから約200mg/kg、約1mgから約100mg/kg、約1mgから約50mg/kg、約10mgから約100mg/kg、または約25mgから75mg/kgのうちのいずれかである。医薬品またはscyllo−イノシトール化合物は、1日1回、2回、またはそれ以上、とりわけ1日1回投与することができる。
【0164】
本発明のある態様では、投薬量は、硝子体内注射剤、結膜下埋込体、または点眼製剤で、眼に直接的に投与される。硝子体内剤形では、投薬量範囲は、投与あたり、約0.01μgから約10mg、0.01μgから約5mg、0.01μgから約1mg、0.01μgから約750μg、0.01μgから約500μg、0.1μgから10mg、0.1μgから5mg、0.1μgから1mg、0.1μgから750μg、0.1μgから500μg、1μgから10mg、1μgから5mg、1μgから1mg、1μgから750μg、または1μgから500μgのうちのいずれかである。結膜下剤形または点眼剤では、投薬量範囲は、投与あたり、約0.01μgから約20mg、0.01μgから約15mg、0.01μgから約10mg、0.01μgから約5mg、0.01μgから約1mg、0.1μgから約20mg、0.1μgから15mg、0.1μgから10mg、0.1μgから5mg、0.1μgから1mg、1μgから20mg、1μgから15mg、1μgから10mg、1μgから5mg、1μgから1mg、または1μgから500μgのうちのいずれかである。点眼剤の場合、投薬量を、1日1回、2回、または3回投与することができる。注射剤および埋込体の好ましい投与間隔は、毎週、隔週、毎月、隔月、またはそれ以上である。
【0165】
本発明のある態様では、1日1回、2回、3回、またはそれ以上、とりわけ1日1回または2回、より具体的には1日1回投与される本明細書に開示する化合物の経口投薬量範囲は、約0.01μgから5g/kg、1μgから2g/kg、1から5g/kg、1から3g/kg、1から2g/kg、1から1g/kg、1から600mg/kg、1から500mg/kg、1から400mg/kg、1から200mg/kg、1から100mg/kg、1から90mg/kg、1から80mg/kg、1から75mg/kg、1から70mg/kg、1から60mg/kg、1から50mg/kg、1から40mg/kg、1から35mg/kg、1から30mg/kg、3から30mg/kg、3から20mg/kg、1から20mg/kg、または1から15mg/kgのうちのいずれかである。本発明の実施形態では、1日2回投与される本明細書に開示する化合物の必要用量は、約1から50mg/kg、1から40mg/kg、2.5から40mg/kg、3から40mg/kg、または3から30mg/kgのうちのいずれかである。本発明の実施形態では、該化合物の1日に必要とされる用量は、約0.01μgから5g/kg、1μgから5mg/kg、または1mgから1g/kg、また、1から500mg/kg、1から250mg/kg、1から200mg/kg、1から150mg/kg、1から100mg/kg、1から70mg/kg、1から65mg/kg、2から70mg/kg、3から70mg/kg、4から65mg/kg、5から65mg/kg、または6から60mg/kgの範囲内、のうちのいずれかである。
【0166】
本発明のある態様では、1日1回、2回、3回、またはそれ以上、とりわけ1日1回または2回投与されるscyllo−イノシトール化合物の経口投薬量範囲は、約1から100mg/kg、1から90mg/kg、1から80mg/kg、1から75mg/kg、1から70mg/kg、1から60mg/kg、1から50mg/kg、1から40mg/kg、1から35mg/kg、2から35mg/kg、2.5から30mg/kg、3から30mg/kg、3から20mg/kg、または3から15mg/kgのうちのいずれかである。
【0167】
本発明の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物の経口投薬量範囲は、約0.1mgから約2g/kg/日、約0.5mgから約2g/kg/日、約1mgから約1g/kg/日、約1mgから約200mg/kg/日、約1mgから約100mg/kg/日、約10mgから約100mg/kg/日、約30mgから約70mg/kg/日、約1mgから約50mg/kg/日、約2mgから約50mg/kg/日、約2mgから約40mg/kg/日、または約3mgから30mg/kg/日のうちのいずれかである。
【0168】
本発明の実施形態では、1日2回投与されるscyllo−イノシトール化合物の必要とされる経口用量は、約1から約50mg/kg、1から約40mg/kg、2.5から約40mg/kg、3から約40mg/kg、3から約35mg/kg、とりわけ約3から約30mg/kg、のうちのいずれかである。
【0169】
本発明の他の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物の1日に必要とされる用量は、約1から約80mg/kg、また、1から約70mg/kg、1から約65mg/kg、2から約70mg/kg、3から約70mg/kg、4から約65mg/kg、5から約65mg/kg、または6から約60mg/kgの範囲内、のうちのいずれかである。
【0170】
本発明の医薬品または処置は、治療的効果を提供するために、単位投薬量の、本発明の少なくとも1つの化合物を含むことができる。「単位投薬量」または「投薬単位」は、活性剤それ自体、または1種または複数の固形または液体の医薬賦形剤、担体、もしくはビヒクルとの混合物、を含む物理的および化学的に安定な単位用量として維持されつつ、患者に投与することが可能、かつ取り扱いや包装が容易な単位、すなわち単回用量を意味する。
【0171】
scyllo−イノシトール化合物は、約50から約10000mg、約50から約2000mg、約50から約1000mg、約50から約700mg、約50から約500mg、約75から600mg、約70から約7000mg、約70から約6000mg、約70から約5500mg、約70から約5000mg、約70から約4500mg、約70から約4000mg、約70から約3500mg、約70から約3000mg、約75から600mg、約100から約1500mg、約150から約2500mg、約150から約2000mg、約200から約2500mg、約200から約2000mg、約200から約1500mg、約700から約1200mg、または約1000mg、とりわけ約200から2000mg、より具体的には約500から1200mg、約700から1000mg、または約500から1000mg、最も具体的には約500mgまたは1000mg、のうちのいずれかの単回投薬量単位または複数回投薬量単位(すなわち錠剤またはカプセル)で、1日1回、1日2回、提供することができる。
【0172】
本発明の態様では、全身的投与に使用できる投薬量としては、限定はされないが、約0.1μg/kgから約300mg/kg内、または約1.0μg/kgから約40mg/kg(体重)内、または約10μg/kgから約20mg/kg(体重)内、または約0.1mg/kgから約20mg/kg(体重)内、または約1mg/kgから約20mg/kg(体重)内、約0.1mg/kgから約10mg/kg(体重)内、または約1mg/kgから約10mg/kg(体重)内、または約0.1μg/kgから約10mg/kg(体重)内の投薬量範囲内の有効量が挙げられる。
【0173】
本発明の態様では、体表面積(平方メートル、またはmで表される)に基づく場合の、全身的投与に使用できる投薬量としては、それだけには限らないが、約0.1μg/mから約300mg/m(体表面積)内、または約10μg/mから約300mg/m(体表面積)内、または約100μg/mから約300mg/m(体表面積)内、または約1mg/mから約300mg/m(体表面積)内、または約10mg/mから約300mg/m(体表面積)内、または約10mg/mから約200mg/m(体表面積)内、または約10mg/mから約120mg/m(体表面積)内、または約40mg/mから約120mg/m(体表面積)内、または約60mg/mから約100mg/m(体表面積)内の投薬量範囲内の有効量が挙げられる。
【0174】
本発明の他の態様では、眼内および硝子体内投与または注射については、使用できる投薬量の例としては、限定はされないが、眼あたり、約0.1μgから10mg、1μgから10mg、0.1μg、1μg、5μg、10μg、15μg、20μg、25μg、30μg、50μg、75μg、100μg、200μg、300μg、400μg、500μg、600μg、700μg、800μg、900μg、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、または10mgのうちのいずれかが挙げられる。眼周囲投与または注射については、使用できる投薬量の例としては、限定はされないが、眼あたり、約0.1μgから50mg、1μgから20mg、5μgから10mg、25μgから50mg、0.1μg、0.5μg、1μg、5μg、10μg、15μg、25μg、50μg、100μg、150μg、200μg、250μg、300μg、350μg、400μg、500μg、600μg、700μg、750μg、800μg、900μg、1mg、1.5mg、2mg、2.5mg、3mg、3.5mg、4mg、4.5mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、12.5mg、15mg、20mg、25mg、30mg、40mg、または50mgのうちのいずれかが挙げられる。
【0175】
対象は、実質的に任意の所望の日程で、scyllo−イノシトール化合物または該化合物の医薬品を用いて処置することができる。本発明のscyllo−イノシトール化合物または医薬品は、1日に1回または複数回、とりわけ1日に1回または2回、1週間に1回、1か月に1回、または連続的に投与することができる。しかし、対象は、隔日もしくは1週間に1回、1か月に1回、またはそれ以上の頻度などの、より少ない頻度で処置することもできる。scyllo−イノシトール化合物または医薬品は、およそ、または少なくともおよそ、1週、2週から4週、2週から6週、2週から8週、2週から10週、2週から12週、2週から14週、2週から16週、2週から6か月、2週から12か月、2週から18か月、2週から24か月の間、または24か月を超える間、周期的または連続的に対象に投与することができる。
【0176】
実施形態では、加齢性黄斑変性症障害の処置のための方法は、投与を必要とする対象に、ほぼ毎週、ほぼ隔週、またはほぼ、4、5、6、7、8、ないし10、または11ないし14日ごとに、scyllo−イノシトール化合物を投与することを含む。一実施形態では、scyllo−イノシトール化合物は、ほぼ7日ごとに投与することができる。特定の実施形態では、投与は、3または6か月ごとに1回、または1年に1回の投与とすることができる。特定の実施形態では、投与は、約1週、約2週、約3週、約4週、約5週、約6週、約7から12週、約12から24週、または約24から52週の間、継続することができる。ある種の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物の投与は、約5週間の間、ほぼ7日ごとである。特定の実施形態では、投与は、断続的であり得る。例えば、患者は、約4から8週の間、週1回処置を受け、次いで、翌年を通して約3から6回処置を受けることができる。
【0177】
一実施形態では、投薬量のscyllo−イノシトール化合物を、持効性製剤または持効性埋込体で投与することが可能である。持効性埋込体には、ある期間にわたって徐々に化合物を放出し、かつ、より少ない頻度での(例えば、1か月に1回、約2〜6か月に1回、約1年に1回の、または反復する必要のない単回投与での)化合物の投与を可能にする埋込体が含まれる。持効性の埋込体、装置、または製剤は、注入による眼への局所適用によって投与することもできるし、眼内、硝子体内、硝子体腔、硝子体、網膜下、眼周囲、眼球後、結膜下、もしくはテノン嚢下などの、眼もしくは眼に付随する組織中の様々な位置に外科的に埋め込むこともできる。持効性製剤は、イオン導入法と組み合わせることができる。本発明の様々な実施形態において使用することができる、眼送達に適した製剤を含めた持効性製剤は、例えば、米国特許第6,713,081号、第6,692,759号、第6,331,313号、第5,869,079号、第5,824,072号、米国特許出願公開第20050048099号、第20050281861号、第20080089923号、および第20070160592号、ならびに公開されたPCT出願WO2007065149号に記載される。
【0178】
併用療法または併用組成物については、第2の薬剤または療法に使用される投薬量は、当業者に知られている、前臨床試験および臨床試験に使用される、また、商業用途で使用されるような投薬量と同じであり得る。薬剤を組み合わせることによって、1種または複数の薬剤の効力が増す可能性があるので、濃度は、現在使用されている投薬量よりも低くすることができる。例えば、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法または抗酸化剤の投与量を低減させるかつ/または投与頻度を低減させる目的で、scyllo−イノシトールを、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法または抗酸化剤と組み合わせて、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法または抗酸化剤の有効な処置を実現しつつ、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法または抗酸化剤のいかなる悪影響も減らすことを実現することができる。
【0179】
本発明の併用療法のための、scyllo−イノシトール化合物の特定の投薬量は、最適な増強効果(例えば相乗効果)を得るために患者に必要とされる最大量であり得る。こうした最大量は、scyllo−イノシトール化合物投薬量の絶対的上限によって抑えられ、またこれは、対象が許容可能であり、かついかなる重篤な合併症も発症しないような最大量である。当業者であれば、本発明に従って患者へ投与されることとなる本発明の組成物および併用療法の様々な成分の量は、上述の因子に依存することとなることを認識するであろう。
【0180】
以下は、従来療法との併用療法についての投与計画の例である:
1.黄斑変性症関連障害の有効な処置のための、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法と組み合わせた、scyllo−イノシトール化合物の1日に複数回、1日に1回、1週間に複数回、1週間に1回、1か月に複数回、または1か月に1回の投与;
2.黄斑変性症関連障害の有効な処置のための、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法と同時の、scyllo−イノシトール化合物の1日に複数回、1日に1回、1週間に複数回、1週間に1回、1か月に複数回、または1か月に1回の投与;
3.1日に複数回、1日に1回、1週間に複数回、1週間に1回、1か月に複数回、または1か月に1回のscyllo−イノシトール化合物での処置と、1日に複数回、1日に1回、1週間に複数回、1週間に1回、1か月に複数回、または1か月に1回、別に施される抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法;
4.scyllo−イノシトール化合物と、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法との1日に複数回、1日に1回、1週間に複数回、1週間に1回、1か月に複数回、または1か月に1回の施用、ならびに、1日に複数回、1日に1回、1週間に複数回、1週間に1回、1か月に複数回、または1か月に1回用量のscyllo−イノシトール化合物の補助的投与;ならびに
5.1日に複数回、1日に1回、1週間に複数回、1週間に1回、1か月に複数回、または1か月に1回のscyllo−イノシトール化合物での処置;scyllo−イノシトール化合物と、抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法との組み合わせ;および、1日に複数回、1日に1回、1週間に複数回、1週間に1回、1か月に複数回、または1か月に1回、別々に施される、scyllo−イノシトール化合物と抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法との組み合わせ。
診断
実施形態では、本発明は、scyllo−イノシトール化合物を用いて対象からの眼組織におけるβ−アミロイドを検出することによって、対象における黄斑変性症関連障害を診断するための方法を提供する。ある実施形態では、本発明は、対象における黄斑変性症関連障害を診断する方法であって、(a)対象から試料を収集することと;(b)scyllo−イノシトール化合物がβ−アミロイド(存在するならば)と結合した場合に検出可能なシグナルを発する検出可能な物質でタグ標識またはラベル標識されたscyllo−イノシトール化合物と前記試料を接触させることと;(c)試料中のβ−アミロイドのレベルを決定するために、試料中のβ−アミロイドと結合したscyllo−イノシトール化合物からの検出可能なシグナルを検出することと;(d)標準と比較すること(ここでは、対応する標準に対するβ−アミロイドのレベルの変化が、患者が加齢性黄斑変性症に悩んでいるという指標となる)とを含む方法を提供する。標準は、疾患を患っていないまたは初期段階の疾患を患うコントロール対象からの試料、あるいは対象の他の試料由来の試料について定量化したレベルに相当し得る。
【0181】
実施形態では、本発明は、scyllo−イノシトール化合物を用いて対象からの眼組織におけるβ−アミロイドを検出することによって、黄斑変性症関連障害を罹患する対象における、治療法に対する応答を評価するための方法を提供する。実施形態では、本発明は、黄斑変性症関連障害を罹患する対象における処置の有効性を評価するための方法であって、(a)処置前と処置後に対象から試料を収集することと;(b)scyllo−イノシトールがβ−アミロイド(存在するならば)と結合する時に検出可能なシグナルを発する検出可能な物質でタグ標識またはラベル標識されたscyllo−イノシトール化合物と前記試料を接触させることと;(c)試料中のβ−アミロイドのレベルを決定するために、試料中のβ−アミロイドと結合したscyllo−イノシトールからの検出可能なシグナルを検出することと;d)処置前と処置後に収集した試料中のβ−アミロイドのレベルを、標準と比較すること(ここでは、処置前と処置後の試料中のβ−アミロイドのレベルの差が、処置の有効性の指標となる)を含む方法を提供する。ある種の実施形態では、処置後の試料中のβ−アミロイドのレベルは、処置前の試料中のレベルと比較すると、より低いまたは低下しており、これは、処置が有効であることの指標となる。
【0182】
標準は、疾患を患っていないまたは初期段階の疾患を患うコントロール対象からの試料、あるいは対象の他の試料由来の試料について定量化したレベルに相当し得る。
【0183】
検出可能な物質の例としては、それだけには限らないが、以下が挙げられる:放射性同位元素(例えば、H、14C、35S、125I、131I);蛍光標識(例えば、FITC、ローダミン、ランタニドリン光体);ルミノールなどの発光標識;酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ,アルカリホスファターゼ、アセチルコリンエステラーゼ);ビオチニル基(これは、標識されたアビジン、例えば、光学的または熱量測定的方法によって検出可能な蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジンなどで検出可能である);および二次レポーター(例えば、ロイシンジッパーペア配列、二次抗体の結合部分、金属結合ドメイン、エピトープタグ)によって認識される、予め決定されたポリペプチドエピトープ。ある実施形態では、標識は、立体障害の潜在的可能性を低下させるために、様々な長さのスペーサーアームを介して付着する。実施形態では、検出可能なシグナルは、蛍光シグナルまたは酵素結合免疫吸着アッセイシグナルである。
【0184】
本発明の診断方法の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物は、2−[18F]フルオロ−2−デオキシ−scyllo−イノシトールである。
【0185】
本発明の診断方法の実施形態では、scyllo−イノシトール化合物は、[18F]−1−デオキシ−1−フルオロ−scyllo−イノシトールである。
【0186】
これらの診断方法は、眼組織におけるβ−アミロイドの異常の検出を包含する。典型的には、診断方法は、対象におけるβ−アミロイドの測定レベルを、黄斑変性症関連障害に罹患していない対象のコントロール集団において決定された基準レベルと比較することによって機能する。測定レベルがコントロール集団の基準レベルと有意差がないならば、診断試験の結果は陰性とみなすことができる。対象における測定レベルと、非罹患対象における基準レベルとの間に有意な逸脱がないならば、診断試験の結果は陽性とみなすことができる。測定レベルが、対象間の固有の変動や実験誤差により非罹患対象において典型的に観察される範囲から外れている場合には、逸脱は、有意とみなすことができる。診断方法のある実施形態では、測定レベルが、非罹患対象の基準レベルの平均+1標準偏差の範囲内でない場合に、有意な逸脱が存在する。ある実施形態では、測定レベルと基準レベルとの間の差が少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%の場合に、有意な逸脱が存在する。
【0187】
本明細書に開示する診断方法において結果が陽性であった対象は、黄斑変性症関連障害に少なく見積もっても罹患しやすい、または黄斑変性症関連障害のリスクがある可能性があり、その結果、最初の診断を確認するために、さらなる試験またはスクリーニングにかけることができる。例えば、対象を、脈絡毛細管のC5b−9複合体、補体経路分子、遺伝子マーカー(例えば、劣性シュタルガルト病または黄色斑眼底(fundus flavi maculates)のためのlp21〜ql3、劣性AMDのためのlq25〜q31、優勢黄斑変性症および成人型卵黄様黄斑変性症(adult vitelloform)のための6p21.2−cen)、およびドルーゼン関連の遺伝子型マーカー(例えば、RPE機能障害および/または死滅、免疫介在事象、樹状細胞の活性化、遊走、および分化、RPE下腔への樹状突起の突出、および地図状萎縮または円板状瘢痕(disciform scars)の存在)、あるいは黄斑変性症関連障害と相関するドルーゼン関連の遺伝子型マーカー(例えば、CD68、CD1a、HLA−DR、アポリポタンパク質E、クラスタリン、およびS100)についてスクリーニングすることができる。追加的スクリーニングとしては、ドルーゼンの存在および網膜の色素変化を含めた臨床症状のモニタリングを挙げることができる。
【0188】
本発明を、具体的な例を通して、より詳細に論じることにする。以下の例は、例示目的で提供するものであり、いかなる方法によっても本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0189】
AMDの眼の病態は、3つの生理学的に関連するリスク因子:特異的APOE遺伝子型(APOE4)、高齢、および高脂肪/高コレステロール(HF−C)食、を適用することによって、マウスモデルで再現することができる。こうしたマウスは、ヒトAMDの進行に類似した一時的で不完全浸透型の網膜色素上皮(RPE)沈着物(基底部沈着物)、RPE萎縮、および脈絡膜血管新生を発症する。[Malek,G.ら、(2005年)、「Proc Natl Acad Sci USA」102、11900〜5]。電気生理学的表現型が、この病態と関連している。APOE4 HF−Cマウスの網膜電図(ERG)記録により、統計的に有意なaおよびb波振幅の減少が実証されている。[Ding JDら、(2008年)、Vision Res.48(3):339〜45]。網膜/RPE損傷、基底部沈着物の蓄積、およびERGの減弱を妨げるscyllo−イノシトール(AZD−103/ELN005)の能力を評価した。
【0190】
従来通りに飼育し、周囲条件下で、制限無しの水と普通のマウス飼料(普通食、すなわちND)で維持した老齢の雄APOE4マウスを、3つの処置群に割り当てた。この割り当ては無作為であったが、群の間で動物の年齢を平均化した。ある群は、普通食で維持した。第2群は、高脂肪コレステロール(HFC)食(35%脂肪、20%タンパク質、45%炭水化物、1.25%コレステロール、0.5%コール酸ナトリウム)に8週間切り替えた。第3群には、制限無しのscyllo−イノシトール(AZD−103/ELN005)(10mg/mlで飲料水中に溶解)を7日間与えた。第3群はその後、HF−C食に8週間切り替え、その間、制限無しのscyllo−イノシトール(AZD−103/ELN005)を与え続けた。これらの動物は、食餌の割り当て前と、食餌を割り当ててから8週間後に評価を受けた。その後、すべての動物を屠殺した。これらの動物は以下の評価を受けた:
1.食餌割り当て前と後との眼底検査および撮影。
2.食餌割り当て前と後との、絶食させた動物の全血中の総血漿コレステロールレベル。
3.食餌割り当て前と後との全視野ERG。動物は少なくとも12時間暗順応させた。各動物に、ケタミン/キシラジンカクテルを用いて麻酔をかけ、瞳孔散大させ、この動物を37℃の加温パッド上に安定化させた。白金イリジウムワイヤループ電極を、2.5%ヒドロキシプロピルメチルセルロース点眼した眼と接触するように配置して使用し、ERG記録を記録した。マウスを明順応刺激装置(photopic stimulator)のチャンバ−に入れ、ここで、この動物をフラッシュ光(0.0005から開始し、1対数段階(log step)で減衰する1000cd−s/mの最大輝度)に曝露した。a波振幅は、基準からa波の谷までを計測し、b波振幅は、a波の谷からb波のピークまでを計測した。
4.アミロイドベータ、AMD病変部と関連する他のタンパク質(ビトロネクチン、アポE、アポB)、および視細胞シナプス末端と関連するタンパク質(すなわちSV2 VGLUT1、PKCα)を含めたタンパク質の死後の免疫組織化学的局在。
5.視細胞の定量化。眼を固定し、Epon−Spurr樹脂に包埋し、500nmに切断し、スライドガラス上に載せた。視神経を横切る断面を、網膜層の測定および細胞数の計数に使用した。外顆粒層の厚さおよび視細胞の線密度が算出されることとなる。
結果:
ApoE4マウスを12月齢まで加齢させた。この時点で、動物を3群のうちの1つに割り当てた:
・普通食(図1の黒線)
・高コレステロール食+通常の飲料水(図1の緑線)
・高コレステロール食+飲料水にscyllo−イノシトール(AZD−103/ELN005)を入れたもの(図1の赤線)
8週間後、動物を網膜電図により評価した。各動物を、輝度が増大するフラッシュに曝露した。こうしたフラッシュに対する電気生理学的応答を、眼表面に接触している電極により記録した。aおよびb波をプロットした。b波が最大振幅を示したところで、この端点のデータを表1に示す(a波の評価の結果とは一貫性があった)。高コレステロール食に切り替え、ビヒクル処置を受けた動物は、すべてのフラッシュ輝度で、b波振幅の減少を示した。対照的に、高コレステロール食とともに、飲料水にscyllo−イノシトール(AZD−103/ELN005)を入れたものを与えられた動物は、普通食の対照動物と実質的に区別不可能なb波振幅を示した。したがって、Scyllo−イノシトール(AZD−103/ELN005)処置は、高コレステロール食によって引き起こされる網膜欠損を防止した。結論を言えば、scyllo−イノシトール(AZD−103/ELN005)で処置したAMD動物は、ERGで実証された通りに、網膜機能を保持していた。
【0191】
本発明は、本明細書に記述する特定の実施形態により範囲が限定されるべきではない。その理由は、こうした実施形態が、本発明の一態様を単に例示するためのものに過ぎず、機能的に等価ないかなる実施形態も、本発明の範囲内であるからである。実際、本明細書に提示および説明する変更に加えて、本発明の様々な変更が、上述の説明および添付の図面から、当業者には明らかになるであろう。こうした変更は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。
【0192】
本明細書に言及されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、個々の刊行物、特許、または特許出願が、まるで、参照によりその内容全体が組み込まれると具体的かつ個々に示されるかのように、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書に言及されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、本発明と組み合わせて使用される可能性もある、それらの刊行物、特許、および特許出願中に報告される方法等を説明および開示することを目的として、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいずれの記述も、先行発明を理由として、本発明がこうした開示に先行する権利を与えられないことを認めるものと解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IまたはIbの治療有効量のscyllo−イノシトール化合物を含む、黄斑変性症関連障害の処置に使用するための医薬品であって、
【化4】

式中、1つまたは複数のヒドロキシル基は、立体配置を維持する置換基によって置き換えられ、ここでは、該置換基は、水素;アルキル;置換アルキル;アシル;アルケニル;置換アルケニル;アルキニル;置換アルキニル;アルコキシ;置換アルコキシ;ハロゲン;−NHR(式中、Rは、水素、アシル、アルキル、または−Rであり、ここでは、RとRは、同じまたは異なり、かつアシルまたはアルキルを表す);−PO;−SR(式中、Rは、水素、アルキル、または−OHである);あるいは−OR(式中、Rは、−SOHである)からなる群から選択される、医薬品。
【請求項2】
式IaまたはIbにおいて、1つまたは2つのヒドロキシル基が、C〜Cアルキル、クロロ、またはフルオロ;アルケニル;C〜Cアルコキシ;あるいは−NHR(式中、Rは、水素またはアルキルである)で置き換えられる、請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
式IaまたはIbにおいて、1つのヒドロキシル基がC〜Cアルキルで置き換えられる、請求項1に記載の医薬品。
【請求項4】
式IaまたはIbにおいて、1つのヒドロキシル基がC〜Cアルコキシで置き換えられる、請求項1に記載の医薬品。
【請求項5】
式IaまたはIbにおいて、1つのヒドロキシル基がハロゲンで置き換えられる、請求項1に記載の医薬品。
【請求項6】
眼への投与に適した形である、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項7】
結膜下投与のための点眼用デポー製剤の形である、請求項6に記載の医薬品。
【請求項8】
硝子体内投与のための医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルを含む、前記請求項のいずれかに記載の医薬品。
【請求項9】
黄斑変性症関連障害の症状の発症後に、対象における眼機能を向上させるおよび/または眼組織の変性を遅延させるための方法であって、請求項1から8のいずれか一項に記載の有効量の医薬品を投与することを含む方法。
【請求項10】
対象における黄斑変性症関連障害を処置するための方法であって、請求項1から5のいずれか一項に定義した通りの有効量のscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを投与することを含む方法。
【請求項11】
対象における黄斑変性症関連障害の1つまたは複数の能力障害を遅延させる方法であって、請求項1から5のいずれか一項に定義した通りの治療有効量のscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを投与することを含む方法。
【請求項12】
対象における黄斑変性症関連障害の症状または再発の周期性を予防および/または改善する方法であって、請求項1から5のいずれか一項に定義した通りの治療有効量のscyllo−イノシトール化合物と、医薬として許容される担体、賦形剤、またはビヒクルとを対象に投与することを含む方法。
【請求項13】
対象が、片眼または両眼に加齢性黄斑変性症を患うヒト対象である、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
加齢性黄斑変性症が滲出型黄斑変性症である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
加齢性黄斑変性症が、加齢性黄斑変性症に続発する脈絡膜血管新生である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
最大12ディスク面積までの古典的、潜在性、および混合型の病変部と、20/40と20/320の間の眼の基準視力によって特徴付けられる血管新生型の加齢性黄斑変性症を対象が患う、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
対象が、5文字超の視力喪失、光干渉断層法(OCT)による黄斑内の液体の証拠、100mMを超えるOCT中心網膜厚の上昇、既存または新規の黄斑出血、既存または新規領域の古典的脈絡膜血管新生、およびOCTによる残存流体、のうちの1つまたは複数を有する、請求項9から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
対象が、抗VEGF療法で処置されるまたは処置されている、請求項9から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
対象が、抗VEGF療法の施用の休止後に再発をこうむる、または抗VEGF療法の間に再発をこうむる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
抗VEGF療法がMacugenまたはLucentisである、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、および/または光線力学的療法を用いる処置に最適以下で応答した対象における黄斑変性症関連障害を処置する方法であって、応答の向上または最適応答を提供するために、有効量のscyllo−イノシトール化合物と、任意選択で抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法とを対象に施すことを含む方法。
【請求項22】
抗血管内皮増殖因子(抗VEGF)療法、抗酸化剤、光凝固療法、または光線力学的療法によって1つまたは複数の有害事象をこうむるような、黄斑変性症関連障害を罹患する対象の処置の方法であって、請求項1から5のいずれか一項に定義した通りの治療有効量のscyllo−イノシトールを対象に投与することを含む方法。
【請求項23】
黄斑変性症関連障害を処置するための、請求項1から5のいずれか一項に定義した通りのscyllo−イノシトール化合物の使用。
【請求項24】
請求項1から8のいずれか一項に記載の少なくとも1種の医薬品と、容器と、指示書とを含む、黄斑変性症関連障害を処置するためのキット。

【図1】
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【公表番号】特表2012−505162(P2012−505162A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−530339(P2011−530339)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001448
【国際公開番号】WO2010/040232
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(504430972)ワラタ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (15)
【Fターム(参考)】