説明

黄色ブドウ球菌由来の細胞外マトリックス結合タンパク質

【課題】黄色ブドウ球菌の単離された細胞壁会合細胞外マトリックス結合タンパク質及びその活性断片、黄色ブドウ球菌によって引き起こされる細菌感染症の予防方法、診断方法、治療方法又は治療進度の監視方法を提供する。
【解決手段】ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEと命名される単離された細胞外マトリックス結合タンパク質並びにその対応するアミノ酸配列、核酸配列及びモチーフ。前記のタンパク質、ペプチド、その断片又はこれらの抗原部分に対する抗体又は抗体断片。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物学及び分子生物学の分野におけるものである。本発明は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来の細胞外マトリックス結合タンパク質及び該タンパク質を発現する遺伝子の単離と、その黄色ブドウ球菌感染症を抑制し、予防し且つ診断するための使用とを含むものである。
【背景技術】
【0002】
入院患者においては、黄色ブドウ球菌がカテーテルや補綴材のような内在医療器具、装置(device)に関連した感染症や、外科的創傷に関連した感染症の主要な原因である。公知の抗生物質の大多数に対して耐性を示す黄色ブドウ球菌分離株の著しい増加が世界中の病院で認められている。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSAという)感染症を治療するために最後に残っている抗生物バンコマイシンに対する耐性が最近出現していることから、院内黄色ブドウ球菌感染症の危険を減らすために、別の予防法又はワクチン法の必要性が強調されている。
【0003】
創傷又は体内内在医療器具、装置の初期の局在性感染は、敗血症、骨髄炎及び心内膜炎のような深刻な侵入性の感染症を招き得る。医療器具に関連した感染症において、体内に挿入された医療器具、装置のプラスチック面及び金属面は、挿入後まもなく宿主の血漿や細胞外マトリックスタンパク質、例えばフィブリノーゲン及びフィブロネクチンで被覆されてしまう。黄色ブドウ球菌がこれらのタンパク質に接着する(adhere)ことができることが、感染を開始するために極めて重要である。血管移植片、静脈内カテーテル、人工心臓弁及び心臓補助装置は血栓形成性であり、しかも細菌を定着させる傾向がある。黄色ブドウ球菌はかかる感染症を引き起こす最も有害な病原体である。
【0004】
フィブリンは血餅すなわち血液凝塊の主要な成分であり、またフィブリノーゲン/フィブリンは体内に挿入された生体材料上に沈着した多数の血漿タンパク質のうちの一つである。フィブリノーゲン/フィブリンに対する細菌の接着が器具に関連した感染の開始において重要であることを示唆する注目すべき証拠が存在する。例えば、Vaudauxらによって明らかにされているように、黄色ブドウ球菌は、用量に依存して、既にフィブリノーゲンで被覆されている生体外(in vitro)プラスチックに接着する〔J. Infect. Dis., 160:865-875(1989)〕。さらに、Herrmannらは、血餅又は心臓弁に対する損傷に似せたモデルにおいて、表面に接着している血小板に、黄色ブドウ球菌がフィブリノーゲン架橋を介して貪欲に結合することを例証した〔J. Infect. Dis., 167:312-322(1993)〕。黄色ブドウ球菌は、生体外で形成された血餅中のフィブリノーゲンに直接に接着することができ、しかも血漿から沈着し且つ架橋として働くフィブリノーゲンを介して培養内皮細胞に接着することができる〔Moreillon et al., Infect. Immun., 63:4738-4743(1995); Cheung et al., J. Clin. Invest., 87:2236-2245(1991)〕。Vaudauxら及びMoreillonらによって明らかにされているように、フィブリノーゲン結合タンパク質クランピング因子(以下、ClfAと略記する)を欠いている変異株は、生体外フィブリノーゲン、体外移植(explanted)カテーテル、血餅及び心内膜症用のラットモデルにおける損傷した心臓弁に対して低下した接着性を示す〔Vaudaux et al., Infect. Immun., 63:585-590(1995); Moreillon et al., Infect. Immun., 63:4738-4743(1995)〕。
【0005】
フィブリノーゲンに対する付着因子(adhesin)〔“クランピング因子(clumping factor)”と呼ばれる場合が多い〕は黄色ブドウ球菌の細胞表面にある。細菌表面のクランピング因子と、溶解しているフィブリノーゲンとの間の相互作用は、細菌細胞の瞬間的な凝集をもたらす。フィブリノーゲン上の結合部位は二量体フィブリノーゲン糖タンパク質のγ鎖のC末端にある。その親和性は極めて高く、凝集は低濃度のフィブリノーゲンにおいて生じる。科学者らは最近、クランピング因子が固相フィブリノーゲン、血餅及び損傷した心臓弁に対する接着も促進することを明らかにしている〔McDevitt et al., Mol. Microbiol. 11:237-248(1994); Vaudaux et al., Infect. Immun., 63:585-590(1995); Moreillon et al., Infect. Immun., 63:4738-4743(1995)〕。
【0006】
ClfAと呼ばれるクランピング因子タンパク質のための遺伝子は、クローン化され、配列決定され且つ分子レベルで詳細に分析されている〔McDevitt et al., Mol. Microbiol., 11:237-248 (1994); McDevitt et al., Mol. Microbiol., 16: 895-907 (1995)〕。この予言された(predicted)タンパク質は、933個のアミノ酸からなる。該タンパク質のN末端には残基39個からなるシグナル配列があり、その後に残基520個からなる領域(領域A)があり、この領域はフィブリノーゲン結合ドメインを含んでいる。その後に、ジペプチドすなわちセリン−アスパラギン酸の154反復からなる残基308個からなる領域(領域R)が続く。R領域の配列は、18個塩基対の反復 GAYTCNGAYT CNGAYAGY(配列番号:9)(式中、Yはピリミジン類を表し且つNは塩基を表す)によってコードされる。ClfAのC末端は、グラム陽性菌の多数の表面タンパク質に存在する特徴、例えば、LPDTG(配列番号:10)モチーフを有し、該モチーフは前記ClfAタンパク質を、細胞壁、膜アンカー及び一番端のC末端の正荷電残基に係留(anchoring)させる。
【0007】
血小板インテグリンαIIbβ3はフィブリノーゲンのγ鎖のC末端を認識する。これは凝集中の血液凝固の開始における極めて重要な出来事である。ClfAが血小板の凝集を妨げることができること及びフィブリノーゲンのγ鎖(198−411)のC末端に相当するペプチドが、フィブリノーゲンと相互作用する前記インテグリンとClfAとの両方を阻止することができる〔McDevittら、Eur. J. Biochem., 247:416-424(1997)〕ということから、ClfAとαIIbβ3はフィブリノーゲンのγ鎖の同じ部位を正確に認識するものと思われる。αIIbβ3のフィブリノーゲン結合部位は、“EFハンド”と呼ばれるCa2+結合決定基のすぐ側にあるか又は該決定基と重なり合っている。ClfAの領域Aは数個のEFハンド様モチーフを有する。3〜5mMの範囲の濃度Ca2+は、これらのClfA−フィブリノーゲン相互作用を妨害し、そしてClfAタンパク質の二次構造を変化させる。ClfAのEFハンドに影響を及ぼす突然変異は、フィブリノーゲンとの相互作用を低下させるか又は妨げる。Ca2+とフィブリノーゲンのγ鎖とは、ClfAの領域Aの同じ部位に結合するか又は重なり合っている部位に結合すると思われる。
【0008】
白血球インテグリンαMβ2のα鎖は、リガンド結合活性をもたらすアミノ酸 200個(A又はIドメイン)の挿入を有する。前記のIドメイン中の新規な金属イオン依存性接着部位(metal ion-dependent adhesion site)(MIDASと略記する)モチーフが、リガンドの結合に必要とされる。種々のリガンドの中から認識されるのがフィブリノーゲンである。フィブリノーゲン上の結合部位はγ鎖中(残基 190−202個)に存在する。最近、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)が真核生物のインテグリンを思い起こさせる種々の性質をもつ表面タンパク質αInt1Pを有することが報告された。この表面タンパク質は、MIDASモチーフを含んでいるαMβ2のIドメインとアミノ酸配列相同性を有する。さらにαInt1pはフィブリノーゲンに結合する。
【0009】
また、ClfAの領域AもαInt1pとある程度の配列相同性を示す。ClfAの領域Aの配列を調べることにより、MIDASモチーフになる可能性のあるモチーフが、明らかにされている。ClfA中のMIDASモチーフのDXSXS部分におけるカチオン配位残基と想定される残基の突然変異は、フィブリノーゲンの結合の著しい減少をもたらす。αMβ2のγ鎖の結合部位(190−202)に対応するペプチドがClfA−フィブリノーゲンの相互作用を阻害することが、O'Connellらによって明らかにされている(O'Connell et al., J. Biol. Chem., 印刷中)。従って、ClfAは2つの別々の部位でフィブリノーゲンのγ鎖に結合することができるように思われる。ClfA上のリガンド結合部位は、真核細胞インテグリンによって用いられるリガンド結合部位に類似しており、しかも2価のカチオン結合EFハンド及びMIDASモチーフを含んでいる。
【0010】
最近、種々の科学者により、黄色ブドウ球菌が、フィブリノーゲンを結合し得るClfA以外の種々のタンパク質を発現することが明らかにされている〔BodenとFlock, Mol. Microbiol., 12:599-606(1994)〕。これらのタンパク質のうちの一つは、おそらくはHomonylo-McGavin et al., Infect. Immun., 61:2479-2485(1993)に報告されている幅広いスペクトルのリガンド結合タンパク質と同じタンパク質であると思われる。別のタンパク質は、BodenとFlockによりInfect. Immun., 57:2358-2363(1989)に報告されているような凝固酵素、すなわちプロトロンビンの血漿凝固活性を活性化させる主要な細胞外タンパク質である。凝固酵素は、そのN末端にプロトロンビンを結合し、しかもそのC末端で可溶性フィブリノーゲンと相互作用する。Cheung et al., Infect. Immun., 63:1914-1920(1995)には、フィブリノーゲンを結合する凝固酵素の変異体が報告されている。凝固酵素が黄色ブドウ球菌のフィブリノーゲン結合能に寄与することができるがその寄与はあまり大きくないという幾つかの証拠がある。Wolz et al., Infect. Immun., 64:3142-3147(1996)によって明らかにされているように、凝固酵素が高水準で発現されるagr調節変異体においては、凝固酵素は可溶性フィブリノーゲンの細菌細胞に対する結合に寄与しているように思われる。また、Dickinson et al., Infect. Immun., 63:3143-3150(1995)によって明らかにされているように、凝固酵素は循環下に血漿で被覆された表面に対する黄色ブドウ球菌の結合に寄与するがその寄与はあまり大きくない。しかしながら、クランピング因子ClfAが、固定化フィブリノーゲン/フィブリンに対する細菌の結合をもたらす主要な表面配置フィブリノーゲン結合タンパク質であることは明らかである。
【0011】
さらに別の黄色ブドウ球菌細胞外マトリックス結合タンパク質を同定し、単離することは、黄色ブドウ球菌感染症の治療方法、診断方法、予防方法及び調査ツールの開発に有用である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明の目的は、黄色ブドウ球菌の単離された細胞壁会合細胞外マトリックス結合タンパク質及びその活性断片を提供することにある。
本発明の別の目的は、黄色ブドウ球菌によって引き起こされる細菌感染症の予防方法、診断方法、治療方法又は治療進度の監視方法を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、アミノ酸配列においてClfAに関連した黄色ブドウ球菌表面タンパク質であって、細胞外マトリックス又は宿主細胞に対する接着を促進することができる単離された黄色ブドウ球菌表面タンパク質を提供することにある。
本発明の別の目的は、黄色ブドウ球菌の細胞壁会合細胞外マトリックス結合タンパク質又はその活性断片に対する抗血清及び抗体を産生させることにある。
本発明の別の目的は、黄色ブドウ球菌ワクチン、例えばDNAワクチンを提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、臨床装置及び実験室の装置中で黄色ブドウ球菌生物体を検出し、識別するための改良された材料及び方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、黄色ブドウ球菌に特異的な核酸プローブ及びプライマーを提供することにある。
本発明の別の目的は、黄色ブドウ球菌の単離された細胞外マトリックス結合タンパク質又はペプチドを提供することにある。
【0015】
発明の要約
ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEと命名される単離された細胞外マトリックス結合タンパク質並びにその対応するアミノ酸配列、核酸配列及びモチーフが記載される。前記のタンパク質、ペプチド、その断片又はこれらの抗原部分は、黄色ブドウ球菌感染症の予防、抑制、治療及び診断に有用であり、しかも科学研究ツールとして有用である。また、前記のタンパク質、ペプチド、その断片又はこれらの抗原部分に対する抗体又は抗体断片もまた、黄色ブドウ球菌感染症の予防、抑制、治療及び診断に有用である。前記のタンパク質、ペプチド、ペプチド断片、抗体又は抗体断片は、その有効量をそれを必要とする患者に適当な方法で、好ましくは静脈内に、あるいは注射により投与して活性免疫又は受動免疫を付与することができる。別の態様では、前記タンパク質又はその抗体は、創傷に投与するか又は生体材料を被覆するのに使用して創傷又は生体材料に対する黄色ブドウ球菌の結合を妨害又は阻止するための遮断剤(blocking agent)として機能させることができる。
【0016】
特に、ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEと命名される黄色ブドウ球菌由来の細胞外マトリックス結合タンパク質が提供される。
【0017】
ClfBはフィブリノーゲン結合タンパク質である。ClfBの核酸配列及びアミノ酸配列を図5に示す。ClfBのアミノ酸配列は配列番号1であり、またClfBの核酸配列は配列番号2である。
【0018】
SdrCが、宿主の数種の細胞外マトリックスタンパク質、例えば骨シアロタンパク質(bone sialoprotein)(BSPと略記する)、デコリン、プラスミン、フィブリノーゲン及びビトロネクチンに結合することが知見された。SdrCのアミノ酸配列及び核酸配列はそれぞれ配列番号3及び配列番号4であり、これらを図7に示す。
【0019】
別の知見されたタンパク質 SdrDは、少なくともビトロネクチンを結合する。SdrDのアミノ酸配列及び核酸配列は、それぞれ配列番号5及び配列番号6であり、これらを図8に示す。
【0020】
SdrEは細胞外マトリックスタンパク質、例えば骨シアロタンパク質(BSP)に結合する。SdrEのアミノ酸配列及び核酸配列はそれぞれ配列番号7及び配列番号8であり、これらを図9に示す。
【0021】
ClfBは約88 kDaの予測分子量と約124k Daの見掛け分子量を有する。ClfBは細胞壁会合タンパク質であり、可溶性フィブリノーゲン及び固定化フィブリノーゲンの両方を結合する。さらにまた、ClfBはフィブリノーゲンのα鎖とβ鎖の両方を結合し、クランピング因子として機能する。SdrC、SdrD及びSdrEは細胞壁会合タンパク質であり、細胞外マトリックスタンパク質、例えばデコリン、プラスミン、フィブリノーゲン、ビトロベクチン及びBSPのカチオン依存性リガンド結合を示す。
【0022】
SdrC、SdrD及びSdrE、ClfA及びClfBのA領域には、共通TYTFTDYVD(配列番号18)モチーフ(図20参照)を駆動するのに使用できる高保存アミノ酸配列が存在することが知見された。前記モチーフは、ワクチンにおいて細菌感染症に対する幅広いスペクトルの免疫性を付与するのに使用し得る。また、前記モチーフは、モノクロナール抗体又はポリクロナール抗体の産生における抗体として使用して幅広いスペクトルの受動免疫を付与し得る。別の態様において、可変配列モチーフ(T/I)(Y/F)(T/V)(F)(T)(D/N)(Y)(V)(D/N)の任意の組合わせを、免疫原又は抗原として使用できるし又は抗体の調製において使用できる。
【0023】
前記のタンパク質ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEあるいはその共通又は可変モチーフは、細胞外マトリックス上の黄色ブドウ球菌結合部位を同定するための科学研究ツールとして有用である。また、これらのタンパク質は細菌病理学のメカニズムの理解及び抗生物質治療法の開発を促進する研究ツールとしても有用である。
【0024】
ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEの核酸配列又はその選択された断片、例えば前記の共通又は可変モチーフをコードする配列は、別の黄色ブドウ球菌細胞外マトリックス結合タンパク質を同定するための核酸プローブとして有用である。また、前記タンパク質のアミノ酸配列又はその選択された断片は、対応する核酸配列を同定するためのプローブとして使用することができる。
【0025】
ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEの核酸配列あるいは共通又は可変モチーフをコードする配列は、発現させることができる連続した(contiguous)核酸配列を含有するポリヌクレオチドとして有用である。前記の核酸配列はベクターに挿入し得、しかも組換えClfB、SdrC、SdrD及びSdrEタンパク質あるいは可変又は共通アミノ酸モチーフの製造用の微生物の中に配置し得る。これは前記のポリヌクレオチドを生体内真核細胞組織に導入することにより遺伝子産物の製造を可能にする。前記のコードされた遺伝子産物は、免疫刺激剤として又は免疫応答を生じることができる抗原として機能することが好ましい。すなわち、この態様の前記の核酸配列は、MSCRAMM〔微生物表面成分認識接着性マトリックス分子(Microbial Surface Components Recognising Adhesive Matrix Molecules)〕免疫原性エピトープをコードし、場合によってはサイトカイニン又はT細胞共刺激要素(costimulatory element)、例えばプロテインのB7ファミリーの一つをコードする。
【0026】
遺伝子産物を用いるよりもむしろその遺伝子を用いる免疫化には幾つかの利点がある。第一の利点は比較的簡便なことであり、未変性(native)又はほぼ未変性の抗原を免疫系に存在させ得る。DNA免疫化の第二の利点は、前記の免疫原がMHC(すなわち、主要組織適合性遺伝子複合体)クラスI経路に入り、しかも細胞障害性T細胞の応答を招くことが可能なことである。細胞性免疫は感染症の抑制に重要である。DNA免疫化は体液性免疫応答と細胞性免疫応答の両方を喚起し得ることから、その最も大きい利点は、DNA免疫化が大多数の黄色ブドウ球菌遺伝子をそのワクチン可能性について調査するための比較的簡単な方法を提供するということであり得る。
【0027】
タンパク質ClfB、SdrC、SdrD及びSdrE又はこれらの活性断片と免疫反応性の抗体、例えば共通又は可変アミノ酸モチーフと免疫反応性の抗体が本明細書において提供される。前記のタンパク質又はアミノ酸モチーフを含有するワクチン又はその他の医薬組成物がさらに本明細書において提供される。
【0028】
前記の共通TYTFTDYVD配列エピトープ又は前記の可変性配列
(T/I)(Y/F)(T/V)(F)(T)(D/N)(Y)(V)(D/N)、具体的にはSdrCにおけるTYTFTNYVD(配列番号19)、SdrD及びSdrEにおけるTYTFTDYVD(配列番号18)、ClfBにおけるTFVFTDYVN(配列番号20)又はClfAにおけるIYTFTDYVN(配列番号21)に対する抗体及び抗血清が本明細書において提供される。また、前記エピトープを含有するワクチン又は医薬組成物も本明細書において提供される。
【0029】
さらにまた、核酸分子、前記のタンパク質、ClfB、SdrC、SdrD及びSdrE又はこれらの活性断片、例えば共通又は可変アミノ酸モチーフに対する抗体又は抗血清と、試料と反応させるための適当な試薬とを含有する診断用キットが提供される。
【0030】
本発明の一つの態様において、前記の診断用キットは、個体群(集団)の一般的水準(population norm)よりも高いClfB、SdrC、SdrD又はSdrEに対する抗体の水準をもつ患者又は動物を特定するのに使用される。患者又は動物の血漿は、得ることができ、加工することができ、そして黄色ブドウ球菌感染症に対する受動免疫を必要とする宿主に投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】未処理のClfAタンパク質とClfBタンパク質の特徴を比較する概略図である。Sはシグナル配列を示す。 Aは保存領域を示す。Pはプロリンに富む領域を示す。RはSD反復領域(領域R)を示す。Wは細胞壁スパニング領域を示す。Mは膜スパニング領域及び係留領域を示す。ClfAのEFハンドIと、そのClfB上の部分ホモローグとを黒い縦棒で示す。MIDASモチーフを、点線で連結されたハッチングした(DXSXS)縦線と狭い縦線(下流側T及びD残基)で示す。
【図2】clfBを配列決定するための一般的なプラスミドとプローブの組立てを表す概略図である。
【図3】対立遺伝子置換用カセットの組立てを表す概略図である。
【図4】黄色ブドウ球菌Newman株のsdrC sdrD sdrE遺伝子座の物理的地図の概略図である。
【図5】clfB及びフランキングDNAの核酸配列と、そのORFのアミノ酸翻訳である。
【図6】最も類似している領域におけるClfBタンパク質とClfAタンパク質それぞれの領域Aの一部分のアミノ酸配列を並べて示したものである。
【図7】sdrC遺伝子の核酸配列とそのアミノ酸翻訳である。
【図8】sdrD遺伝子の核酸配列とそのアミノ酸翻訳である。
【図9】sdrE遺伝子の核酸配列とそのアミノ酸翻訳である。
【図10】種々の領域R含有タンパク質の概略図である。
【図11】ClfA、ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEそれぞれのA領域同士の類似性を示す表である
【図12】Newman株の領域R含有遺伝子のA領域とB領域の類似性の領域のClustal(登録商標)多重配列の整列表を示したものである。星印はアミノ酸が同一であることを示し、コロンはアミノ酸の側鎖の極性及び疎水性/親水性の類似性が高くなっていることを表す。
【図13】ウェスタンブロッティングにより追跡した時間に対する黄色ブドウ球菌Newman株のClfB発現の経時グラフである。
【図14】ClfA/ClfBの濃度に対する吸光度のグラフであり、ClfA及びClfB由来のビオチニル化組換え領域Aの濃度を増加させた場合のフィブリノーゲン被覆プレートに対する結合を比較するものである。 符号 ■ はフィブリノーゲン−ClfAを表し;符号 ● はフィブリノーゲン−ClfBを表し;符号 □ はBSA−ClfAを表し;符号 ○ はBSA−ClfBを表す。
【図15】フィブリノーゲン濃度に対する結合された細胞数のグラフであり、ELISAプレートに固定化されたフィブリノーゲンに対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着を表す。 符号 □ は野生型を表し;符号 ◇ はclfAを表し; 符号 ○ はclfBを表し;符号 △ はclfAclfBを表し;符号XはclfAclfB,clfBを表す。
【図16】フィブリノーゲン濃度に対する結合された細胞数のグラフであり、ELISAプレートに固定化されたフィブリノーゲンに対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着を表す。 符号 □ は野生型を表し;符号 ◇ はclfAを表し;符号 ○ はclfBを表し;符号 △ はclfAclfBを表し;符号XはclfAclfB,clfBを表す。
【図17】IgG濃度に対する結合された細胞数のグラフであり、固定化されたフィブリノーゲンに対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着に対しての抗ClfB IgGを用いた前培養の効果を表す。 符号 □ は野生型を表し;符号 ◇ はclfAを表し;符号 ○ はclfBを表し;符号XはclfAclfB,clfBを表す。
【図18】体外に移植された血液透析用チューブに対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着を表す棒グラフである。
【図19】ポリメチルメタクリレート製カバーガラスに固定したフィブリノーゲン対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着性を表す棒グラフである。
【図20】共通及び可変モチーフを提供するために使用したClfA、ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEのA領域の高保存アミノ酸配列を示す表である。
【図21】抗TYTFTDYVD抗体の濃度に対する吸光度のグラフであり、抗体の濃度を徐々に増やしていった場合のClfA被覆プレート、ClfB被覆プレート又はBSA被覆プレートに対する抗体の結合を例証するものである。 符号 ■ はClfBに結合した抗体を表し;符号 ◇ はClfAに結合した抗体を表し;符号 ○ はBSAを表す。
【図22】ヒトのフィブリノーゲンの結合におけるClfAとClfBの異なる特異性を例証するウェスタンブロットである。
【図23】10種類の細胞外マトリックスタンパク質に対する組換えSdrCの領域Aの接着性を表す棒グラフである。BSAはウシ血清アルブミンを表し、BSPは骨シアロタンパク質を表し、CnIはコラーゲンI型を表し、CnIIはコラーゲンII型を表し、Dnはデコリンを表し、Fgはフィブリノーゲンを表し、Fnはフィブリネクチンを表し、Lnはラミニンを表し、Plasminnはプラスミンを表し、Vnはビトロネクチンを表す。
【0032】
図1は、未処理のClfAタンパク質とClfBタンパク質の特徴を比較する概略図である。Sはシグナル配列を示す。Aは保存領域(領域A)を示す。Pはプロリンに富む領域(反復を灰色の箱型により示す)を示す。RはSD反復領域(領域R)を示す。Wは細胞壁スパニング(spanning)領域を示す。Mは膜スパニング領域及びアンカー(anchoring)領域を示す。ClfAのEFハンドIと、そのClfB上の部分ホモローグ(homologue)とを黒い縦棒(vertical bar)で示す。MIDASモチーフを点線で連結されたハッチングした(DXSXS)縦線と狭い縦線(下流側T及びD残基)で示す。
【0033】
図2は、clfBを配列決定するための一般的なプラスミドとプローブの組立てを表す概略図である。反復を有するEcoRI断片をファージクローンA1-1からベクター pGEM 7Z(f)+ 中にクローン化してpA1-1E(上部のもの)を得、次いでXbalI断片を欠失させることによって縮めて、完全なclfB遺伝子を含有しているpA1-1EXが得られる。clfBと500 bp下流側DNAとを含んでいるSmaI断片を、過剰発現及び相補化作業(pA1-1EA)のためにpCU1中にクローン化した。また、変異体を選別するのに使用したHpaIプローブ及びハイブリダイズBamHI断片も示す。
【0034】
図3は、対立遺伝子置換用カセットの組立てを表す概略図である。pT181由来のTc決定基をpA1-1EX中の遺伝子の中間のHapI部位に平滑末端クローニングすることにより、clfBを分断した。次いで、黄色ブドウ球菌の温度感受性増殖を可能にするために、pTS2を前記カセットのSmaI部位にクローン化した。
【0035】
図4は、黄色ブドウ球菌Newman株のsdrC sdrD sdrE遺伝子座の物理的地図の概略図である。プラスミドクローンの範囲を線で示す。A6-2はLambdaGEM(登録商標)-12クローンである。pEJ1、pEJ2及びpEJ3は、ベクターpGEM 7Z(f)+ (pEJ1及びpEJ2の場合)及びベクターpBluescript KS+ (pEJ3の場合)にサブクローン化されたA6-2断片である。pC1はNewman株からベクターpBluescript KS+ に直接にクローン化されたHindIII断片である。矢印はsdrC、sdrD及びsdrEの転写の方向を示す。
【0036】
図5は、clfB及びフランキングDNAの核酸配列と、そのORFのアミノ酸翻訳である。開始コドンと思われるコドンに二重(double)下線を施し、主な領域を図1の略号を用いて示した。領域Aの二つの顕著な特徴、すなわちMIDASモチーフと推定されるDYSNS(配列番号11)と、ClfBと同一性の最も長い領域配列であるFTDYVN(配列番号12)とに下線を施す。縦棒(vertical bar)はプロリンに富む領域の反復を示す。可能な転写終結シグナルを規定する逆向きの反復に下線を施す。
【0037】
図6は、最も類似している領域におけるClfBタンパク質とClfAタンパク質のそれぞれの領域Aの一部分のアミノ酸配列を並べて示したものである。ClfAのEFハンドIに下線を施す。同一の残基を星印で示し、同類置換をピリオドで示す。ClfBのMIDASモチーフのDXSXS(配列番号13)部分に二重下線を施す。
【0038】
図7は、sdrC遺伝子の核酸配列とそのアミノ酸翻訳である。SdrCにおいてTYTFTNYVDとして発現される共通TYTFTDYVDモチーフ、B反復中の複数個のEFハンド、及びLPXTG(配列番号14)モチーフに、下線を施す。主要な領域、例えばシグナル配列(S)、領域A(A)、B反復(B)領域R(R)、細胞壁スパニングドメイン(W)及び膜係留ドメイン(M)を示す。
【0039】
図8は、sdrD遺伝子の核酸配列とそのアミノ酸翻訳である。共通TYTFTDYVDモチーフ、B反復中の複数個のEFハンド、及びLPXTGモチーフに下線を施す。主要な領域、例えばシグナル配列(S)、領域A(A)、B反復(B)領域R(R)、細胞壁スパニングドメイン(W)及び膜係留ドメイン(M)を示す。
【0040】
図9は、sdrE遺伝子の核酸配列とそのアミノ酸翻訳である。共通TYTFTDYVDモチーフ、B反復中の複数個のEFハンド、及びLPXTGモチーフに下線を施す。主要な領域、例えばシグナル配列(S)、領域A(A)、B反復(B)領域R(R)、細胞壁スパニングドメイン(W)及び膜係留ドメイン(M)を示す。
【0041】
図10は、種々の領域R含有タンパク質の概略図である。タンパク質の上の数値は領域中のアミノ酸の番号を示し、タンパク質の下の数値はシグナルペプチドの最初から数えたモチーフのアミノ酸配列上の位置を示す。
略号:S:シグナルペプチド; A:領域A; B:B反復; R:領域R; W.M:細胞壁スパニング領域及び膜スパニング領域。
【0042】
図11は、ClfA、ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEのA領域同士の類似性を示す表である。それぞれの配列を一対の組合せとして並べて示し、同じ残基の%を示す。
【0043】
図12は、Newman株の領域R含有遺伝子のA領域とB領域の類似性の領域の Clustal(登録商標)多重配列の整列表(alignment)を示したものである。星印はアミノ酸が同一であることを示し、コロンはアミノ酸の側鎖の極性及び疎水性/親水性の類似性が高くなっていることを表す。整列表1〜4は領域A由来の領域を示す。整列表1、3及び4は共通モチーフを表す。整列表2はClfAのEFハンド(下線で示す)の前後の相同性を表すものであり、共通TYTFTDYVD配列が5種類の遺伝子の全てにおいて保存されている。整列表5は下線で示した考えられるEFハンドを有するタンパク質SdrC、SdrD及びSdrEのB反復を示す。
【0044】
図13は、ウェスタンブロッティングにより追跡した時間に対する黄色ブドウ球菌Newman株のClfB発現の経時グラフである。振盪フラスコ培養物を特定の時間間隔で採取した。標準数の細胞を使用して溶菌液を調製した。
【0045】
図14は、ClfA/ClfBの濃度に対する吸光度のグラフであり、ClfA及びClfB由来のビオチニル化組換え領域Aの濃度を増加させた場合のフィブリノーゲン被覆プレートに対する結合を比較するものである。BSA-被覆プレートに対する結合を対照として示す。符号■はフィブリノーゲン−ClfAを表し;符号●はフィブリノーゲン−ClfBを表し;符号□はBSA−ClfAを表し;符号○はBSA−ClfBを表す。
【0046】
図15は、フィブリノーゲン濃度に対する結合された細胞数のグラフであり、ELISAプレートに固定化されたフィブリノーゲンに対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着を表す。フィブリノーゲンをその量を増やしながら使用してELISAプレートを被覆し、対数増殖相培養物から一定濃度の細胞を加えた。符号□は野生型を表し;符号◇はclfAを表し;符号○はclfBを表し;符号△はclfAclfBを表し;符号XはclfAclfB,clfBを表す。
【0047】
図16は、フィブリノーゲン濃度に対する結合された細胞数のグラフであり、ELISAプレートに固定化されたフィブリノーゲンに対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着を表す。フィブリノーゲンをその量を増やしながら使用してELISAプレートを被覆し、定常期培養物から一定濃度の細胞を加えた。符号□は野生型を表し;符号◇はclfAを表し;符号○はclfBを表し;符号△はclfAclfBを表し;符号XはclfAclfB,clfBを表す。
【0048】
図17は、IgG濃度に対する結合された細胞数のグラフであり、固定化されたフィブリノーゲンに対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着に対しての抗ClfB IgGを用いた前培養の効果を表す。符号□は野生型を表し;符号◇はclfAを表し;符号○はclfBを表し;符号XはclfAclfB,clfBを表す。
【0049】
図18は、体外に移植された血液透析用チューブに対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着を表す棒グラフである。2時間振盪フラスコ培養物から得た細胞を使用した。このグラフは3回の実験の平均値及びSEM(すなわち、平均値の標準誤差)を示す。
【0050】
図19は、PMMA(すなわちポリメチルメタクリレート)製カバーガラスに固定したフィブリノーゲン対する黄色ブドウ球菌Mewman株及び変異株の接着を表す棒グラフである。2時間振盪フラスコ培養物から得た細胞を使用した。このグラフは3回の実験の平均値及びSEMを示す。
【0051】
図20は、共通及び可変モチーフを提供するために使用したClfA、ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEのA領域の高保存アミノ酸配列を示す表である。
【0052】
図21は、抗TYTFTDYVD抗体の濃度に対する吸光度のグラフであり、抗体の濃度を徐々に増やしていった場合のClfA被覆プレート、ClfB被覆プレート又はBSA被覆プレートに対する抗体の結合を例証するものである。BSA被覆プレートを対照として使用した。有意な結合は認められなかった。符号■はClfBに結合した抗体を表し;符号◇はClfAに結合した抗体を表し;符号○はBSAを表す。
【0053】
図22はヒトのフィブリノーゲンの結合におけるClfAとClfBの異なる特異性を例証するウェスタンブロットである。このウェスタンブロットは、ヒトのフィブリノーゲンを単離し、その後にビオチニル化したClfA又はClfBのいずれかのA領域と共にニトロセルロース膜をインキュベーションすることにより作成した。ビオチニル化したClfAのA領域は、レーンA2に示すようにフィブリノーゲンのγ鎖を結合する。ビオチニル化したClfBのA領域は、レーンB2に示すようにフィブリノーゲンのα鎖とβ鎖の両方に結合する。
【0054】
図23は、10種類の細胞外マトリックスタンパク質、すなわちBSA、BSP、2つの型のコラーゲン、デコリン、フィブリノーゲン、フィブリネクチン、ラミニン、プラスミン及びビトロネクチンに対する組換えSdrCの領域A(SdrCAと略記する)の接着性を表す棒グラフである。前記の細胞外マトリックスタンパク質それぞれはマイクロタイターのウエルに固定化した。吸光度試験によってフィブリノーゲン、BSP、デコリン、プラスミン及びビトロネクチンに対するSdrCAとの反応性が明らかにされた。
【0055】
発明の詳細な説明
ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEと命名される単離された細胞外マトリックス結合タンパク質及びこれらの対応するアミノ酸配列、核酸配列及びモチーフを説明する。前記のタンパク質、ペプチド、その断片又はその抗原部分は、黄色ブドウ球菌感染症の予防、抑制、治療及び診断に有用であり、また科学研究ツールとして有用である。また、前記のタンパク質、ペプチド、その断片又はその抗原部分に対する抗体又は抗体断片もまた、黄色ブドウ球菌感染症の予防、抑制、治療及び診断に有用である。特に、前記のタンパク質又は抗体、あるいはこれらの活性断片は受動免疫又は細胞性免疫を誘発させるワクチンとして投与し得る。
【0056】
ClfBは少なくともフィブリノーゲンに結合する。
SdrCが宿主の種々の細胞外マトリックスタンパク質、例えばBSP、デコリン、プラスミン、ビトロネクチン及び フィブリノーゲンに結合することが知見された。SdrDは少なくともビトロネクチンに結合する。SdrEは細胞外マトリックスタンパク質、例えば骨のシアロタンパク質(BSPと略記する)に結合する。
【0057】
ClfBのアミノ酸配列は配列番号1である。ClfBをコードする核酸配列は配列番号2である。ClfBの核酸配列及びアミノ酸配列を図5に示す。SdrCのアミノ酸配列及び核酸配列は、それぞれ配列番号3及び配列番号4であり、図7に示される。SdrDのアミノ酸配列及び核酸配列は、それぞれ配列番号5及び配列番号6であり、図8に示される。SdrEのアミノ酸配列及び核酸配列はそれぞれ配列番号7及び配列番号8であり、図9に示される。“単離された”という用語は、本明細書では、一緒に天然に産生する種々の成分の少なくとも幾つかを含有していないことを定義するものである。好ましい態様においては、単離された成分は少なくとも純度90%、さらに好ましくは純度95%である。
【0058】
ClfBは約88 kDaの予測分子量と約124k Daの見掛け分子量とを有する。ClfBは細胞壁会合タンパク質であり、可溶性フィブリノーゲン及び固定化フィブリノーゲンの両方を結合する。さらにまた、ClfBはフィブリノーゲンのα鎖とβ鎖の両方を結合し且つクランピング因子として機能する。ClfAとClfBとの間の同一性の水準が低いにもかかわらず、この二つのタンパク質は、明白な金属結合モチーフを持たないにもかかわらず二価のカチオンによる阻害に感受性であるメカニズムによって(別々の鎖上に)フィブリノーゲンを結合する。ClfBタンパク質は実験的心内膜炎において病原性因子(virulence factor)であるとことが例証された。
【0059】
前記のSdrC、SdrD及びSdrEタンパク質は、一次配列及び構造組織において前記ClfA及びClfBタンパク質と関連があり、細胞表面に局在している。前記のSdrC、SdrD及びSdrEタンパク質は、細胞壁会合タンパク質であり、そのN末端にはシグナル配列を有し且つそのC末端にはLPXTGモチーフ、すなわち疎水性ドメインと正に荷電した残基とを有する。また、それぞれのタンパク質は、細胞表面のリガンド結合ドメイン領域Aの効率的な発現を、Bモチーフと共に、可能にするのに十分な長さのSD反復含有領域Rを有する。細胞表面に配置されたSdrC、SdrD及びSdrEタンパク質のA領域に関して、それぞれのタンパク質は、血漿中の種々のタンパク質、すなわち細胞外マトリックスと相互作用することができるし又は宿主細胞表面の種々の分子と相互作用することもできる。それぞれのSdrタンパク質はClfA及びClfBと限られたアミノ酸配列類似性を共有する。ClfA及びClfBと同様に、SdrC、SdrD及びSdrEもまた細胞外マトリックスタンパク質のカチオン依存性リガンド結合を示す。
【0060】
前記の開示された複数の細胞外マトリックス結合タンパク質が主としてアスパラギン酸残基とセリン残基とを含む独特のジペプチド反復領域(領域R)を共有することを知ったことは予想外のことであった。ClfAもこのR反復領域を有することが、McDevitt et al., Mol. Microbiol., 11:237-248(1994);McDevitt et al., Mol. Microbiol., 16:895-907(1995)に報告されている。McDevittは表皮ブドウ球菌(S. epidermidus)中にR領域含有タンパク質をコードする遺伝子にハイブリダイズした遺伝子が存在することを報告した。しかしながら、McDevittらはR領域の機能を知らなかったし、また 黄色ブドウ球菌、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(S. hemolyticus)、S. lugdenensis 及び S. schleriferi由来の別の細胞表面タンパク質がこの珍しいモチーフを共有していることを知見していなかった。従って、本発明の一つの要旨において、同定用プローブとして前記のR反復領域を使用することを含む細菌感染症の予防、治療又は診断に有用な黄色ブドウ球菌、スタフィロコッカス・ヘモリチカス、S. lugdenensis及びS. schleriferi由来の遺伝子及びコード化タンパク質(但し、ClfAを除く)の同定方法が提供される。
【0061】
前記のDS反復は、前記の共通 GAYTCNGAYT CNGAYAGY (但し、Yはピリミジン類を表し且つNは任意の塩基を表す)を有し、第一及び第二のセリンコドンとしてTCNを有し且つ第三のセリンコドンとしてAGYを有するヌクレオチド18個の反復によりコードされる。前記のR領域は、前記タンパク質のC末端の近くにあり、典型的には40〜300DS残基を含有するか、又は特に 40、60、80、100、125、150、200又は250を超える反復単位を含有するものであり、そのアミノ酸の90%、95%、場合によっては98%以上がD又はSである。前記のR領域のDS反復はタンパク質同士の間の長さで変化し、これに対してR領域それ自体は細胞外マトリックスタンパク質を結合しないが、R領域は黄色ブドウ球菌の細胞表面でタンパク質の結合領域を呈し得る。従って、前記のDS反復(前記参照)をコードする共通DNAに対するプローブを、黄色ブドウ球菌が宿主組織に結合するのに必須の種々の結合タンパク質をコードする別の遺伝子を同定するのに使用できる。R領域に対する抗体は、さらにかかる別の結合タンパク質を発見するのに使用できる。
【0062】
前記のそれぞれのsdr遺伝子は密接に結合され、縦列に配置される。前記のそれぞれのSdrタンパク質は、ClfA及びClfBに対して組織類似性と配列類似性とを有する。そのN末端では分泌シグナル配列が、約500残基の長さのA領域の前にある。前記の種々のSdrタンパク質及びClfタンパク質のA領域は、そのファミリーの別のメンバーと一緒に整列させた場合には20〜30%の残基同一性しか示さない。
【0063】
SdrC、SdrD及びSdrE、ClfA及びClfBのA領域には、共通TYTFTDYVDモチーフを駆動するのに使用できる高保存アミノ酸配列が存在することが知見された。このモチーフは前記の種々のタンパク質の間で極くわずかの変化しか示さない。この変化を該モチーフの共通配列と一緒に図20に示す。前記のClfタンパク質〜Sdrタンパク質において、このモチーフは高く保存されている。このモチーフはワクチンにおいて細菌感染に対する幅広いスペクトルの細胞免疫を付与するのに使用できるし、またモノクロナール抗体又はポリクロナール抗体の産生における抗原としても使用できる。かかる抗体は幅広い受動免疫を付与するのに使用できる。
【0064】
前記の種々のSdrタンパク質は、領域AとR領域との間に配置された別の 110-113残基の反復配列(Bモチーフ)を2〜5個有することでClfA及びClfBと異なっている。それぞれのBモチーフは、真核生物のタンパク質に普通に認められる共通Ca2+結合EFハンド・ループを含有している。SdrDのB反復を5個含有する組換えタンパク質の構造上の保全性(integrity)はビスANS(すなわち、1-アニリノナフタレン-8-スルホン酸)蛍光分析によりCa2+依存性であることが明らかにされ、このことはEFハンドが機能性であることを示唆している。Ca2+を除去した場合には、前記タンパク質の構造はほぐれた(unfolded)立体配座に崩れた。Ca2+を加えることによって元の構造に復元された。前記の複数のSdrタンパク質のC末端Rドメインは、132-170個のSD残基を含有している。このドメインの後に、グラム陽性菌の多数の表面タンパク質に特有の保存された細胞壁係留領域が続く。sdr遺伝子座は、サザンハイブリダイゼーションによって試験したヒト及びウシ起源から得られた31種類の黄色ブドウ球菌全てに存在していた。しかしながら、数種の菌株では、3つの遺伝子よりもむしろ2つの遺伝子を含有していた。
【0065】
前記の種々のSdrタンパク質及びClfタンパク質では、このBモチーフは高く保存されており、これに対して縮重した変種(degenerate version)はフィブロネクチンン結合MSCRAMMS及びコラーゲン結合タンパク質Cnaにおいて生じる。Bモチーフは、R領域と共に、細胞表面から少し離れた距離でリガンド結合ドメインを示すのに必要である。
【0066】
複数の反復したBモチーフは、本明細書に記載の種々のSD反復タンパク質のサブグループの一つの共通点である。これらのモチーフは、Newmann株由来の前記の3種類のSdrタンパク質において異なる個数で認められる。個々のBモチーフ同士の間では明確な違いがある。最も保存された単位は、前記のR領域(SdrC B2、SdrD B5及びSdrE B3)に隣接して配置された単位である。これらは、幾つかの部位、特にC末端の半分(C-terminal half)における部位での残りの部分とは異なる。注目すべき構造の詳細は、隣り合ったB反復同士は常にC末端領域に存在するプロリン残基によって隔てられているが、プロリンは最後のB反復とR領域の間には生じないということである。それよりもこのリンカーは短い酸性のストレッチ(stretch)に特徴がある。これらの違いが、この末端の単位が他のBモチーフと比べて異なる構造的又は機能的役割を有するという証拠である。 SrdD及びSrdEのN末端のBモチーフは他のBモチーフから離れて漂流しており(drifted)、そして多数のアミノ酸の改変、例えば小さな挿入及び欠失があり、これに対して残りの内部Bモチーフはそれよりも高く保存される。前記の3種類のSdrタンパク質それぞれは、それぞれの種類のBモチーフを少なくとも一つ有することが認められる。
【0067】
前記の種々のSdrタンパク質のC末端Rドメインは、132-170個のSD残基を含有している。これらのドメインの後には、グラム陽性菌の多数の表面タンパク質に特有の保存された細胞壁係留領域が続く。
【0068】
ClfB、SdrC、SrdD及びSrdEのサブドメインを図10に示す。これらのサブドメインはタンパク質に応じてサブドメインA及びB1-B5を含んでいる。
【0069】
ClfBタンパク質、SdrCタンパク質、SdrDタンパク質及び SdrEタンパク質という用語は、本明細書では、ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEサブドメイン並びにClfB、SdrC、SdrD及びSdrEタンパク質の活性断片又は抗原断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフを含むと定義される。ClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び共通又は可変配列アミノ酸モチーフペプチド又はタンパク質の活性断片は、本明細書において、黄色ブドウ球菌が細胞外マトリックスタンパク質に結合するのを阻止できるペプチド又はタンパク質として定義される。 ClfB、SdrC、SdrD、SdrEタンパク質あるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフの抗原断片は、本明細書において、免疫応答を生じることができるペプチド又はタンパク質として定義される。
【0070】
核酸配列
ClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び前記の共通又は可変配列アミノ酸モチーフをコードする核酸配列は、組換え細胞外マトリックス結合タンパク質の製造に有用である。これらはまた、高い選択性又は特異性をもつ試料又は標本中の黄色ブドウ球菌結合タンパク質の検出用のプローブとして有用である。このプローブは、試料中の黄色ブドウ球菌の存在の検出、病気をもつ感染症の診断、試料中の黄色ブドウ球菌の量の定量、又は感染症の治療に使用される治療法の進度の監視に使用できる。また、前記の核酸配列及びアミノ酸配列は、生物体及び病気を研究するための実験室研究ツールとして、すなわち治療法の開発及び病気の治療を促進するのに使用できる。
【0071】
当業者には、ClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び共通又は可変配列アミノ酸モチーフはまた、配列リストに示した核酸配列に実質的に類似した配列によってコードされることが理解されるであろう。“実質的に類似した”という用語は、遺伝暗号の縮重によって、配列番号2、4、6及び8のいずれかに示す配列と同一ではないが、同一のアミノ酸配列を未だコードしているDNA配列を意味するか、又は異なるアミノ酸配列をコードするが前記タンパク質の活性を保持するDNA配列を意味する。その理由は、1個のアミノ酸が別の同様のアミノ酸で置換されているからであり、あるいはその変化(それが置換、欠失又は挿入であろうとなかろうと)タンパク質の活性部位に影響を及ぼさないからである。後者の場合、DNA配列が同じアミノ酸を少なくとも70%、80%、90%、95%又は場合によっては98%有するタンパク質をコードする場合には、該配列は開示された配列と実質的に相同性を有する。
【0072】
また、本明細書には、本明細書に記載の黄色ブドウ球菌由来の細胞外マトリックス結合タンパク質をコードする核酸分子と選択的にハイブリダイズする核酸分子の配列又はその相補的配列が示される。“選択的な”又は“選択的に”という用語は、ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフの適当な検出を妨げないために、他の核酸とハイブリダイズしない配列を意味する。従って、ハイブリダイズする(hybridizing)核酸の設計において、選択性は試料中に存在するその他の諸成分に左右されるであろう。ハイブリダイズする核酸は、該核酸がハイブリダイズする核酸のセグメントと少なくとも70%の相補性を有すべきである。本明細書で核酸を説明するのに使用しているように、“選択的にハイブリダイズする”という用語は、時には無作為にハイブリダイズする核酸を排除し、従って“特異的にハイブリダイズする”という用語と同じ意味をもつ。本発明の選択的にハイブリダイズする核酸は、ハイブリダイズする核酸のセグメントと少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、97%、98%及び99%の相補性を有することができる。
【0073】
本発明は、本明細書に具体的に示したようなコード化DNAあるいはDNAの相補的(すなわち向かい合っている)鎖に選択的にハイブリダイズする配列、プローブ及びプライマーを意図する。核酸との特異的ハイブリダイゼーションは、機能的な種特異的ハイブリダイゼーション能が維持される限りは、核酸において僅かな一時変異又は置換を生じ得る。“プローブ”という用語は、相補的核酸配列の検出又は増幅のために相補的核酸配列と選択的にハイブリダイズするためのプローブ又はプライマーとして使用することができる核酸配列を意味し、プローブは約5〜100個のヌクレオチド、好ましくは約10〜50個のヌクレオチド、最も好ましくは約18〜24個のヌクレオチドの長さの範囲で変化させ得る。従って、本明細書で使用する“プローブ”又は“プローブ類”という用語は、“プライマー類”を包含するものと定義される。本明細書において、緊縮条件下で種特異的核酸と選択的にハイブリダイズし、しかも Sambrook, J., E.F. Fritsch and T. Maniatisの著作, 1989, MOLECULAR CLONINNG: A LABORATORY MANUAL, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.に記載されているような興味ある配列に相補的なヌクレオチドを少なくとも5個有すべきである単離された核酸が提供される。
【0074】
前記組成物は、プライマーとして使用する場合には、標的分子の種々の領域にハイブリダイズして所望の領域を増幅させる核酸分子を少なくとも2個含むことが好ましい。プローブ又はプライマーの長さに応じて、前記の標的領域は70%の相補的塩基と完全な相補性との間で変化させ得、しかも緊縮条件下でもハイブリダイズさせ得る。例えば、黄色ブドウ球菌の存在を診断するためには、前記のハイブリダイズする核酸(プローブ又はプライマー)とそれがハイブリダイズする配列(例えば、試料由来の黄色ブドウ球菌DNA)との間の相補性の程度は、少なくとも別の細菌由来の核酸とのハイブリダイゼーションを識別するのに十分である。
【0075】
ClfB、SdrC、SdrD、SdrE、これらの活性断片あるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフをコードする核酸配列は、ベクター例えばプラスミドに挿入し、生きている生物体中で組換え発現させて、組換えClfB、SdrC、SdrD及びSdrEタンパク質又はこれらの断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフを生成させることができる。例えば、組換えClfBを生成するDNA分子、組換えSdrCを生成するDNA分子、並びに組換えSdrD及びSdrEの両方を生成するDNA分子は、それぞれプラスミドpA1-1EX、pC1及びλファージA6-2に入れて、NCIMBに1997年10月13日付けで寄託番号40903、40902及び40904それぞれとして寄託されている。
【0076】
黄色ブドウ球菌の検出方法及び同定方法
本明細書に記載の核酸を使用して黄色ブドウ球菌の存在を検出する方法及び同定する方法が提供される。これらの方法は、黄色ブドウ球菌感染症並びに病気、例えば上部気道の感染症(例えば中耳炎、細菌性気管炎、急性喉頭蓋炎)、下部気道感染症(例えば、気腫、肺膿瘍)、心臓感染症(例えば、感染性心内膜炎)、胃腸感染症(例えば、分泌性下痢、脾臓膿瘍、腹膜膿瘍)、中枢神経系感染症(例えば、脳膿瘍)、眼の感染症〔例えば、眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、内眼球炎、前隔膜及び眼窩の蜂巣炎、darcryocystitis(膀胱炎)〕、腎臓及び尿管の感染症〔例えば、副睾丸炎、腎臓内及び腎周囲膿瘍、毒性ショック症候群(toxic shock syndrome)〕、皮膚感染症(例えば、膿痂疹、毛襄炎、皮膚膿瘍、蜂巣炎、創傷感染症、細菌性筋肉炎)、骨及び関節の感染症(例えば、敗血性関節炎、骨髄炎)の診断に有用である。
【0077】
前記の方法は、黄色ブドウ球菌を含んでいると疑われる試料を採取する工程を伴う。試料を個体、例えば創傷、血液、唾液、組織、骨、筋肉、軟骨又は皮膚から採取し得る。次いで、得られた細胞を溶解し、そのDNAを抽出し、沈殿させ、次いで増幅させる。黄色ブドウ球菌のDNAの検出は、増幅させたDNAを該DNAと選択的にハイブリダイズする黄色ブドウ球菌プローブと前記のようにしてハイブリダイズさせることによって達成される。ハイブリダイゼーションの検出は、黄色ブドウ球菌の存在を示している。
【0078】
おそらくは、核酸(例えば、プローブ又はプライマー)ハイブリダイゼーションの検出は、検出可能な部分を使用することによって促進することができる。例えば、プローブはビオチンを用いて標識でき、しかもストレプトアビジン被覆マイクロタイタープレート検定において使用できる。その他の検出可能部分としては例えば放射性標識、酵素標識及び蛍光標識が挙げられる。
【0079】
DNAは直接に検出してもよいし、又は分析に先立ってポリメラーゼ連鎖反応(PCRと略記する)又は他の増幅方法を使用して酵素的に増幅させてもよい。RNA又はcDNAも同様にして検出することができる。ClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び共通又は可変配列アミノ酸モチーフの高められた発現又は低下させた発現は、核酸分子の定量に関する技術において周知の方法、例えば増幅法、PCR法、RT-PCR法、RNアーゼ保護法、ノーザンブロッテイング法及びその他のハイブリダイゼーション法を使用して測定することができる。
【0080】
ClfBあるいはSdrC、SdrD又はSdrEタンパク質、ペプチド、モチーフ、その断片あるいはこれらのいずれかに対する抗体の存在について試験する診断検定法もまた感染症の存在を検出するのに使用できる。試料中のタンパク質又は抗体濃度を測定する検定方法は当業者には周知であり、放射免疫検定法、ウエスターンブロット分析法及びELISA(すなわち、酵素結合抗体免疫吸着検定法)検定法のような方法が挙げられる。
【0081】
アミノ酸配列
少数のアミノ酸の置換又は欠失が機能的ClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、ペプチド、タンパク質、これらの断片中に存在していてもよいことは、当業者には理解されるであろう。本明細書に記載のアミノ酸配列及び実質的に類似しているアミノ酸配列は、合成ClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、ペプチド、タンパク質、その活性断片を製造するのに使用できる。活性なClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、ペプチド又はタンパク質断片は、本明細書では、細胞外マトリックスタンパク質に結合するか、あるいは黄色ブドウ球菌と競争するか、あるいは細胞外マトリックスタンパク質、例えばデコリン、プラスミン、フィブリノーゲン、ビトロネクチン又は骨シアロタンパク質に対して黄色ブドウ球菌が結合することを阻止するClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、部分又はペプチドとして定義される。
【0082】
アミノ酸配列と共に使用する場合には、“実質的に類似している”という用語は、1個のアミノ酸が別の類似したアミノ酸で置換されるという理由、あるいは変化(それが置換、欠失又は挿入であろうとなかろうと)はタンパク質又はペプチドの活性部位に影響を及ぼさないという理由から、配列番号1、3、5又は7のアミノ酸配列と同一ではないが、同じ機能性をもち且つClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び共通又は可変配列アミノ酸モチーフの活性を保持するタンパク質を生成するアミノ酸配列を意味する。2つのアミノ酸配列は、アミノ酸の少なくとも約70%(好ましくは少なくとも約80%、最も好ましくは少なくとも約90%又は95%)がその配列の所定の長さ全体にわたって対合する場合には、“実質的に相同性”である。
【0083】
細胞外マトリックス結合タンパク質抗体
前記の単離された組換え又は合成ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、あるいはペプチド又はその活性断片又はその融合タンパク質は、細胞外マトリックス上の黄色ブドウ球菌の結合部位を同定するための科学研究ツールとして有用である。これは、細菌病理学のメカニズム及び抗生物質治療法の開発についての理解を促進するであろう。さらにまた、前記の単離された組換え又は合成タンパク質あるいはその抗原部分(エピトープ坦持断片を含む)、あるいはその融合タンパク質は、ヒト又は動物に免疫原又は抗原として投与することができる。これらは、ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいはそのモチーフ又はペプチドと反応性の抗血清を産生させるために、単独で又はアジュバントと組合わせて投与することができる。さらにまた、前記ペプチド又はタンパク質は、該タンパク質について極めて高い親和性をもつ抗体を誘導することができる高度免疫患者について抗血清を選別するために使用することができる。
【0084】
抗血清から単離された抗体は、黄色ブドウ球菌又は黄色ブドウ球菌細胞外マトリックス結合タンパク質の特異的検出に有用であり、又は研究ツールとして有用である。本明細書で使用する“抗体”という用語は、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、サルに適合させた(simianized)抗体及びヒトに適合させた(humanized)抗体並びにFab断片、例えばFab免疫グロブリン発現ライブラリーの産物を包含する。
【0085】
モノクロナール抗体は当業者に周知の方法で産生される。その好ましい方法はKearney et. al., J. Immunol., 123:1548-1558(1979)の方法の部分改変法であり、該文献は本明細書において参照される。要するに、マウス又はウサギのような動物に、アジュバントに溶解した免疫原を接種し、次いでその脾臓細胞を採取し、骨髄腫細胞系例えばP3X63Ag8,653と混合する。前記細胞にポリエチレングリコールを添加することによって融合を生じさせた。得られた細胞をヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジン(HATと略記する)を含有する選択培地中に移植することによってハイブリドーマを化学的に選択する。好ましい抗体を産生するハイブリドーマは、クローン化され、増殖され、将来の生産のために凍結貯蔵される。
【0086】
一本鎖抗体を産生させる方法は当業者には公知であり、米国特許第4,946,778明細書に記載されており、本明細書に記載のタンパク質に対する一本鎖抗体を産生するのに使用できる。ファージ・ディスプレイ(phage display)法が、ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ又は天然ライブラリーに対する抗体を有することについて選別されるヒト由来のリンパ球PCR増幅v遺伝子から、ClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び共通又は可変配列アミノ酸モチーフあるいはその抗原部分に対する結合活性をもつ抗体遺伝子を選択するのに使用し得る。二重特異性抗体は2つの抗原結合ドメインを有し、それぞれのドメインは異なるエピトープに対して向けられる。
【0087】
前記抗体は、黄色ブドウ球菌の同定又は定量用の検出可能な標識を用いて直接標識してもよい。免疫検定において使用される標識は、一般的に当業者に知られているものであり、酵素、放射性同位元素、並びに蛍光性、発光性又は発色性の物質、例えばコロイド状の金及びラテックスビーズのような着色粒子が挙げられる。適当な免疫検定法としては酵素結合抗体免疫吸着検定法(ELISA)が挙げられる。
【0088】
別法として、抗体は、免疫グロブリン、例えばプロテインA又はGあるいは二次抗体に対する親和性をもつ標識した物質との反応により間接的に標識してもよい。抗体は、二次物質と複合させてもよいし、該抗体と複合させた二次物質に対して親和性をもつ標識した第三の物質を用いて検出してもよい。例えば、抗体はビオチンに複合させ、得られた抗体−ビオチン複合体を、標識したアビジン又はストレプタビジンを使用して検出してもよい。同様に、抗体は、ハプテンに複合させてもよく、得られた抗体−ハプテン複合体を、標識した抗ハプテン抗体を使用して検出してもよい。抗体及び検定複合体を標識するこれらの方法及びその他の方法は、当業者には周知である。
【0089】
また、開示されたタンパク質に対する抗体を、製造設備又は実験室において、例えば親和クロマトグラフィーによって追加量のタンパク質を単離するのに使用してもよい。
【0090】
前記の種々のタンパク質又はその抗原部分は、黄色ブドウ球菌細菌感染症の診断に有用であり、また活性免疫又は受動免疫用の抗黄色ブドウ球菌ワクチンの開発に有用である。創傷に投与するか又は生体外及び生体内の重合体状生体材料を被覆するのに使用する場合には、前記タンパク質とその抗体の両方は、創傷部位又は生体材料に対する黄色ブドウ球菌の初期結合を妨害又は阻止する遮断剤として有用である。抗体は投与される患者における免疫原性が低いように修飾されるのが好ましい。例えば、患者がヒトである場合には、抗体は、Jones et. al., Nature, 321:522-525(1986)又はTempest et. al., Biotechnology, 9:266-273(1991)に報告されているように、ハイブリドーマ誘導抗体の相補性決定領域をヒトモノクロナール抗体に移植することによって、“ヒトに適合させ”てもよい。
【0091】
本明細書に記載の抗体、タンパク質及び活性断片を用いて被覆すべき医療器具又は重合体状生体材料としては、糸、縫合物、代替心臓弁、心臓補助装置、ハード及びソフトコンタクトレンズ、眼内レンズ移植品(前室、後室 又は水晶体)、その他の移植品、例えば角膜インレー、角膜補綴材、血管内ステント、epikeratophalia device、緑内障シャント(shunt)、網膜用糸、強膜バックル(screral buckles)、歯科用補綴材、甲状腺形成装置、喉頭形成装置、血管移植片;ソフト及びハード組織補綴材、例えばポンプ、刺激装置及び記録装置を含む電気装置、聴覚補綴材、ペースメーカー、人工喉頭、歯科インプラント、乳房充填物、ペニス充填物、頭蓋/顔面の腱、人工関節、腱、靭帯、半月(軟骨)及び円盤、人工骨、人工器官例えば人工膵臓、人工心臓、人工肢及び心臓弁; ステント、ワイヤー、ガイドワイヤー、静脈内及び中枢静脈カテーテル、レーザー及びバルーン血管形成装置、血管及び心臓用装置(チューブ、カテーテル及びバルーン)、心室補助装置、血液透析装置、血液酸素発生装置、尿道/尿管/尿路装置(Foleyカテーテル、ステント、チューブ及びバルーン)、気道カテーテル(気管内及び気管瘻孔形成用チューブ及びカフス)、腸内供給用チューブ(例えば、経鼻胃チューブ、胃内及び空腸チューブ)、創傷ドレンチューブ、体腔例えば胸膜腔、腹腔、頭蓋腔及び心膜腔の排出用チューブ、血液バッグ、試験管、血液採取管、バキュテーナー、注射器、針、ピペット、ピペットチップ並びに血液チューブが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0092】
本明細書で使用する“被覆された”又は“被覆する”という用語は、前記の器具、装置の表面、好ましくは黄色ブドウ球菌に暴露されるであろう外面に前記のタンパク質、抗体又は活性断片を塗布することを意味する。前記の器具、装置の表面はタンパク質、抗体又は活性断片で完全に被覆される必要はない。
【0093】
免疫学的組成物及医薬組成物
ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、ペプチド又はタンパク質を含有する免疫学的組成物(例えばワクチン)及びその他の医薬組成物は本発明の範囲に含まれる。ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、ペプチド又はタンパク質、あるいはこれらの活性断片又は抗原断片、あるいはその融合タンパク質のうちの一つ又はそれ以上を単独で又は他の抗体と組合わせて、ワクチンについて当業者に知られている方法及び材料を使用して製剤し、包装し得る。前記の免疫応答は、病気の治療に又は予防に使用し得るし、また抗体免疫又は細胞免疫、例えば細胞障害性Tリンパ球又はCD4Tリンパ球のようなTリンパ球によって産生される細胞免疫を付与し得る。
【0094】
免疫学的組成物(例えばワクチン)及びその他の医薬組成物は、単独で使用するか又は他の遮断剤と組合わせて使用して、黄色ブドウ球菌によって引き起こされるヒト及び動物の感染症から保護し得る。特に、前記組成物は、黄色ブドウ球菌によって引き起こされる心内膜炎からヒトを守るのに使用できるし、あるいは黄色ブドウ球菌によって引き起こされる乳腺炎からヒト又は反芻動物を守るのに使用できる。ワクチンもまた同様の黄色ブドウ球菌感染症から犬科及び馬科の動物を守るのに使用できる。
【0095】
免疫原性を高めるために、前記のタンパク質は担体分子に複合させてもよい。適当な免疫原性担体としては、タンパク質、ポリペプチド又はペプチド、例えばアルブミン、ヘモシアニン、チログロブリン及びこれらの誘導体、特にウシ血清アルブミン(BSAと略記する)及びカサガイ(keyhole limpet)のヘモシアニン(KLHと略記する)、多糖、炭水化物、重合体及び固相が挙げられる。その他のタンパク質から誘導される物質又はタンパク質から誘導されない物質が、当業者に知られている。免疫原性担体は、典型的に少なくとも1,000ダルトンの分子量、好ましくは10,000ダルトンよりも大きい分子量を有する。担体分子はハプテンに対する共有結合を促進する反応性基を含有する場合が多い。アミノ酸のカルボン酸基又はアミノ基、あるいは糖タンパク質の糖基がこのようにして使用される場合が多い。かかる基を欠く担体は、適当な化学薬品と反応させてかかる基を生成させる場合が多い。免疫応答は、免疫原をマウス、ウサギ、ラット、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ニワトリのような動物及びその他の動物、最も好ましくはマウス及びウサギに注射した際に生成するのが好ましい。あるいはまた、前記タンパク質又はポリペプチドの多重コピーを含有する多重抗原ペプチド、あるいは抗原的に又は免疫学的に均等のポリペプチドは、担体を使用せずに免疫原性を高めるのに十分に抗原性であり得る。
【0096】
ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、ペプチド又はタンパク質は、複合体に対する免疫応答を高めるのに有効な量でアジュバントと共に投与し得る。この時には、ヒトに幅広く使用される唯一のアジュバントはミョウバン(リン酸アルミニウム又は水酸化アルミニウム)であった。サポニン及びその精製成分QuilA、フロイントの完全アジュバント並びに研究及び獣医学用途で使用されるその他のアジュバントは、ヒト用ワクチンへの使用可能性を制限する毒性を有している。しかしながら、化学的に定義された調剤、例えばムラミルジペプチド、モノホスホリル脂質A、リン脂質複合体、例えば Goodman-Snitkoff et. al., J. Immunol., 147:410-415(1991)に記載され且つ本明細書において参照されるもの、Miller et. al., J. Exp. Med., 176:1739-1744(1992)に記載され且つ本明細書において参照されるプロテオリボソーム内の複合体のカプセル(encapsulation)及びNovasome(登録商標)脂質小胞〔Vescular Systems Inc.(米国ニューハンプシャー州Nashua所在)製〕のような脂質小胞中のタンパク質のカプセルも有用であり得る。
【0097】
本明細書で使用する“ワクチン”という用語は、ClfB、SdrC、SdrD、SdrE及び共通又は可変配列アミノ酸モチーフをコードする核酸分子、あるいは開示された配列と同一ではないが実質的に相同性である核酸分子且つ同じ機能性及び活性を有するペプチド又はタンパク質をコードする核酸分子、あるいは医薬組成物中のその抗原部分を患者に投与するDNAワクチンを包含する。遺伝子免疫化に関しては、当業者に知られている適当な送達方法として、筋肉内へのプラスミドDNAの直接注入法〔Wolff et al., Hum. Mol. Genet., 1:363(1992)〕、特異的タンパク質担体と複合させたDNAの送達法〔Wu et. al., J. Biol. Chem., 264:16985(1989)〕、リン酸カルシウムを用いたDNAの共沈法〔Benvenisty and Reshef, Proc. Natl. Acad. Sci., 83:9551(1986)〕、リポソーム中へのDNAのカプセル化法〔Kaneda et al., Science, 243:375 (1989)〕、粒子衝撃法(particle bombardment)〔Tang et al., Nature, 356:152(1992)及び Eisenbraun et al., DNA Cell Biol., 12:791(1993)〕並びにクローン化レトロウイルスベクターを使用する生体内感染法(Seeger et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 81:5894, 1984)が挙げられる。
【0098】
医薬組成物の投与方法及び投与量
前記のClfB、SdrC、SdrD又はSdrEタンパク質、核酸分子、抗体又はこれらの断片を含有する医薬組成物は、医薬用担体例えば塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、その他の治療用化合物及びこれらの組合わせと組合わせて製剤し得る。前記製剤は投与方法に適したものであるべきである。前記組成物は前記細胞外マトリックスと黄色ブドウ球菌宿主細胞との結合相互作用を妨害、調節又は阻止するのに有用である。
【0099】
投与に適した方法としては、局所投与、経口投与、肛門内投与、膣内投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、皮下投与、鼻内投与及び皮内投与が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0100】
局所投与に関しては、医薬組成物は、軟膏、クリーム、ゲル、ローション、点滴剤(例えば、点眼剤及び点耳剤)又は溶液(例えば、うがい剤)の形態で製剤化される。創傷又は外科的包帯、縫合糸及びアエロゾルには医薬組成物を含浸させ得る。医薬組成物は慣用の添加剤、例えば防腐剤、染み込みを促進する溶剤、及び皮膚軟化剤(emollient)を含有していてもよい。また、局所用製剤は、慣用の担体、例えばクリーム又は軟膏ベース、エタノール又はオレイルアルコールを含有していてもよい。
【0101】
好ましい態様において、ワクチンは非経口投与(すなわち、筋肉内投与、皮内投与又は皮下投与)あるいは鼻咽頭内投与(すなわち鼻内投与)による免疫化用の単回投与剤として包装される。ワクチンは三角筋中に筋肉内注射するのが最も好ましい。ワクチンは製薬学的に許容し得る担体と組合わせて投与を促進させるのが好ましい。前記の担体は、通常は水又は緩衝塩溶液であり、防腐剤を含有させてもよいし又は含有させなくてもよい。ワクチンは、投与時に再縣濁させるために凍結乾燥されていてもよいいし、又は溶解されていてもよい。
【0102】
前記タンパク質を複合させ得る担体もまた、重合体状徐放系であってもよい。ワクチンの製剤においては、合成重合体が抗原の制御された放出を行わせるために特に有用である。例えば、メタクリル酸メチルの1μよりも小さい直径をもつ球への重合が、Kreuter J., MICROCAPSULES ANDNANOPARTICLES IN MEDICINE AND PHARMACOLOGY, M. Donbrow (Ed.). CRC Press, p.125-148 に報告されている。
【0103】
また、前記タンパク質のマイクロカプセル化も制御された放出を与えるであろう。マイクロカプセル化用の具体的な重合体の選択には多数の因子が寄与する。重合体合成法及びマイクロカプセル化法の再現性、マイクロカプセル化の材料及び方法のコスト、毒物学的プロフィール、可変放出速度の要件並びに重合体と抗原の物理化学的適合性が考慮しなければならない全ての因子である。有用な重合体の例は、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリウレタン、ポリオルトエステル、ポリアミド、ポリ(d,l-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGAと略記する)及びその他の生分解性重合体である。抗原の制御された放出にPLGAを使用することは、Eldridge, J.H. et al., CURRENT TOPICS IN MICROBIOLOGY AND IMMUNOLOGY, 146:59-66(1989)によって検討されている。
【0104】
ヒトに投与する際の1回の典型的な投与量は0.01 mg/kg〜10 mg/kgである。この範囲を基礎として、さらに重い体重については相当する投与量を決定することができる。投与量は医薬組成物が投与される個人個人に適して調節されるべきであり、個人個人の年齢、体重及び代謝に応じて変化するであろう。ワクチンはさらに追加成分としていてチメロザール(thimerosal)〔エチル(2-メルカプトベンゾエート-S)水銀ナトリウム塩〕〔Sigma Chemical Company(米国ミズリー州セントルイス所在)製〕のような安定剤又は生理学的に許容し得る保存剤を含有していてもよい。
【0105】
タンパク質−標識複合体
検出可能な生体分子又は化学薬品を用いて標識化した場合には、本明細書に記載の細胞外マトリックス結合タンパク質は、生体内及び生体外診断並びに実験室での研究のような用途に有用である。種々の種類の標識、及び該標識を前記タンパク質に複合させる方法は、当業者には周知である。数種の特異的標識を以下に示す。標識は抗体又はレセプターのようなタンパク質に複合させる場合に特に有用である。
【0106】
例えば、前記タンパク質は32P、3H、14C、35S、125I又は131I(これらに限定されない)のような放射性標識に複合し得る。標識の検出は、シンチレーション計数法、γ線分光分析法又はオートラジオグラフィーのような方法であり得る。
【0107】
蛍ルシフェリンの誘導体のような生物発光標識も有用である。生物発光物質は前記タンパク質に慣用の方法で共有結合され、得られた標識化タンパク質は、酵素、例えばルシフェラーゼがATPとの反応を触媒して生物発光分子を生じて光の光子を放出する場合に検出される。
【0108】
蛍光助剤もまたタンパク質を標識するのに使用し得る。蛍光助剤の具体例としては、フルオレセイン及びその誘導体、フィコエリトリン、アロ-フィコシアニン、フィコシアニン、ローダミン及びテキサス・レッド(Texas Red)が挙げられる。蛍光助剤は一般的に蛍光検出器で検出される。
【0109】
別法として、前記タンパク質は色素原を用いて標識して酵素又は親和性標識を提供し得る。例えば、前記タンパク質はビオチン−アビジン反応に利用できるようにビオチニル化し得る。例えば、前記タンパク質はペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ又は他の酵素を用いて標識して、基質を加えた際に色素反応又は蛍光反応を示し得る。5-アミノ-2,3-ジヒドロ-1,4-フタラジンジオン〔ルミノール(登録商標)としても知られている〕〔Sigma Chemical Company(米国ミズリー州セントルイス所在)製〕のような添加剤及びp-ヒドロキシビフェニル〔p-フェニルフェノールとしても知られている〕〔Sigma Chemical Company(米国ミズリー州セントルイス所在)製〕のような速度増強剤を使用して、蛍光反応を介してセイヨウワサビペルオキシダーゼのような酵素を増幅させることができる。また酵素基質の発光発生素又は蛍光発生素ジオキセタン誘導体も使用できる。かかる標識は酵素結合免疫検定法(ELISA)を使用して検出できるし又は分光光度計を使用して色の変化を検出することによって検出できる。さらにまた、前記タンパク質は当業者に周知の方法に従って免疫電子顕微鏡法で使用されるコロイド状の金を用いて標識し得る。
【0110】
細胞中のリガンドの位置は、前記のように抗体を標識し、当業者に周知の方法例えば、Warren and Nelson, Mol. Cell. Biol., 7:1326-1337(1987)に記載されているような方法を使用する免疫蛍光顕微鏡法に従って標識を検出することによって決定することができる。
【0111】
選別方法
ClfB、SdrC、SdrD及びSdrEタンパク質又はこれらの断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフは、黄色ブドウ球菌宿主細胞と細胞外マトリックスとの結合相互作用を阻害する物質を同定するための材料を選別する方法に有用である。前記の選別方法に従って、前記の関心事の物質は、ClfB、SdrC、SdrD又はSdrEタンパク質あるいはこれらの断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフペプチドの1種又はそれ以上と組み合わされ、該分子の前記細胞外マトリックスに対する結合の程度が測定され又は観察される。前記の物質の存在が結合の阻害をもたらす場合には、その場合には該物質は生体内又は生体外で黄色ブドウ球菌を阻止するのに有用であり得る。この選別方法は、同様に、黄色ブドウ球菌と細胞外マトリックスとの相互作用を促進する物質を同定するのに使用することができる。
【0112】
前記の選別方法は静菌性又は殺菌性をもつ物質の同定に特に有用である。
例えば、黄色ブドウ球菌アゴニスト又はアンタゴニストの選別には、合成反応混合物、すなわちClfB、SdrC、SdrD、SdrEタンパク質の1種又はそれ以上、あるいはこれらの断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフペプチドと、前記タンパク質の標識した基質又はリガンドとを含有する細胞区画(例えば、膜、細胞エンベロープ又は細胞壁)を、調査する物質の存在下で、インキュベートする。前記タンパク質を作動又は拮抗する前記物質の能力は、標識化リガンドの結合の減少又は基質産物の形成低下によって示される。十分に結合し且つ基質から生成物形成速度を高める物質がアゴニストである。基質から生成物の形成の速度又は水準の検出は、リポーター系、例えば生成物に転化された熱量測定標識化基質、ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフの核酸又はタンパク質活性の変化に応答するリポーター遺伝子、及び当業者に知られている結合検定法を使用することによって高め得る。競争阻害検定法も使用することができる。
【0113】
可能なアンタゴニストとしては、ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフの核酸分子又はタンパク質に結合し、それによってこれらの活性を阻害するか、あるいは結合分子(例えばフィブリノーゲン)に結合して該結合分子に対するClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフの核酸分子又はタンパク質の結合を阻害する小さな有機分子、ペプチド、ポリペプチド及び抗体が挙げられる。例えば、ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフの活性を阻害する化合物は、ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフペプチド又はタンパク質の結合部位に結合するか又は該結合部位を占有し、それによって細胞結合分子に結合することを防止する小分子であり得る。小分子の例としては、小さな有機分子、ペプチド又はペプチド様分子が挙げられるが、これらに限定されるものではない。別の可能なアンタゴニストとしてはアンチセンス分子が挙げられる。好ましいアンタゴニストとしては、ClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフペプチド又はタンパク質に関連した化合物及び変異体又は誘導体があげられる。
【0114】
また、本明細書に記載の核酸分子も殺菌活性について種々化合物を選別するのに使用し得る。
【0115】
治療用途
前記のClfB、SdrC、SdrD、SdrEあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、ペプチド又はタンパク質、核酸分子又は抗体は、前記の医薬組成物又は方法の他に、病原体と、内在器具上の哺乳類細胞外マトリックスタンパク質又は創傷中の細胞外マトリックスタンパク質に対する感染を招く哺乳類宿主との間の初期の物理的相互作用を妨害するのに有用である。これらはまた、ClfB、SdrC、SdrD、SdrE又はこれらの断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフ、ペプチド又はタンパク質媒介哺乳類細胞侵入を防止するのに有用である。さらにまた、これらの分子は組織の損傷を仲介し(mediate)、感染症における発病の正常な進行を防止するのに有用である。
【0116】
黄色ブドウ球菌検出用キット
本発明はまた、前記のClfB、SdrC、SdrD、SdrEタンパク質又はこれらの活性断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフをコードする核酸プローブの1種又はそれ以上を含有するキットに関する。これらのプローブは試料中の黄色ブドウ球菌又は黄色ブドウ球菌細胞外マトリックス結合タンパク質の検出に使用することができる。かかるキットはまた、プローブを試料にハイブリダイズさせ、結合されたプローブを検出するのに適当な試薬も含有することができる。
【0117】
別の態様においては、前記キットは1種又はそれ以上のClfB、SdrC、SdrD又はSdrEタンパク質、ペプチドあるいは共通又は可変配列アミノ酸モチーフ特異抗体を含有し、試料中の黄色ブドウ球菌又は黄色ブドウ球菌細胞外マトリックス結合抗体の検出に使用することができる。
【0118】
さらに別の態様においては、前記キットは1種又はそれ以上のClfB、SdrC、SdrD又はSdrEタンパク質、あるいはこれらの活性断片、例えば共通又は可変配列アミノ酸モチーフを含有し、試料中の黄色ブドウ球菌又は黄色ブドウ球菌細胞外マトリックス結合タンパク質の検出に使用することができる。
【0119】
本明細書に記載のキットは、さらに試料を安全に採取する装置、試薬を入れるための容器、時間計測装置、試料希釈用緩衝液、並びに比色計、反射計又はそれに対する色の変化を測定し得る標品を含有していてもよい。
【0120】
好ましい態様においては、試薬、例えばタンパク質又は抗体は凍結乾燥し、最も好ましくは単一の容器に凍結乾燥される。前記の容器に対する水性試料の添加は、凍結乾燥試薬の溶解をもたらし、これらを反応させる。試料を添加する前の試薬同士の反応を最小限にする当業者に周知の方法に従って、種々の試薬を単一の容器中で連続的に凍結乾燥するのが最も好ましい。
【0121】
実施例
本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。反対に、本発明は、本明細書の記載を読んだ後に本発明の精神から乖離することなく当業者に提案し得る種々の別の態様、改変及び均等物を有し得ることが明確に理解されるべきである。
【0122】
実施例1
遺伝子のクローニング、配列決定及び発現
clfBと命名されたフィブリノーゲン結合性タンパク質遺伝子を下記のようにして単離し、クローン化し、配列決定した。
【0123】
菌株及び増殖条件
clfBのクローニング及び配列決定に使用した大腸菌と黄色ブドウ球菌の種々の菌株を下記の表1に示す。大腸菌はL-ブロス又は寒天上で常法により増殖させた。黄色ブドウ球菌はトリプチケース ソイ ブロス(Oxoid社製)又は寒天上で常法により増殖させた。適当な場合には、下記の抗生物質を培地中に配合した。アンピシリン(Apと略記する) 100μg/ml; テトラサイクリン(Tcと略記する) 2μg/ml; クロラムフェニコール(Cmと略記する) 5μg/ml; エリスロマイシン(Emと略記する) 10μg/ml。
【0124】
表1.この研究で使用した菌株


【0125】
DNAの操作
特に明記しない限りは、DNAの操作はAusubel et al., CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY. New York, John Willey and Sons(1987) 及びSambrook et al., MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL, 2nd ed., Cold Spring Harbour, New York, Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989)に記載されているような標準的な方法に従って行った。DNA操作用の酵素はNew England Biolabs社(米国マサチューセッツ州ビバリー所在)及びPromega社(米国ウィスコンシン州マディソン所在)から入手し、製造業者に指示されたようにして使用した。黄色ブドウ球菌Newnan株由来のゲノムDNAは、Muller et al., Infect. Immun., 61:551-558 (1993)の方法に従って調製した。さらに小さい規模の調製は、リソスタフィン12μg/mlと20mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)とを含有するリン酸塩緩衝食塩水(PBSと略記する)中で細胞を溶解し、次いでプロテアーゼK処理(1%SDS中で500μg/ml)を60℃で1時間行い、フェノールとクロロホルムで抽出し、そして10mM トリスHCl(pH8.0)、1mM EDTAに対して透析することによって行った。プラスミドDNAは黄色ブドウ球菌からVrieseme et al., Appl. Environ. Microbiol., 62:3527-3529(1996)の方法に従って調製した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び配列決定に使用する大腸菌プラスミドDNAは、Feliciello and Chinali, Anal. Biochem., 212:394-401(1993)の部分改変アルカリ溶解法により常法に従って行い、また場合によっては大規模な単離と色素浮遊密度遠心分離によって行った。キメラプラスミド用の大腸菌形質転換細胞の選別は、Gouill and Dery, Nucl.Acids Res., 19:6655(1994)の迅速コロニー溶解法により定法に従って行った。
【0126】
反復含有遺伝子座のクローニング
黄色ブドウ球菌Newman株のゲノムライブラリーを、λGEM-12置換ベクター〔Promega社(米国ウィスコンシン州マディソン所在)から、調製されたXholIハーフサイトアーム(half-site arm)として入手した〕中で製造業者の指示書に従って組立てた。黄色ブドウ球菌Newman株の領域A及びRに特異的なオリゴヌクレオチドプローブは、McDevitt and Foster, Microbiology, 141:937-943(1995)に記載のようにしてpCF14上のクローン化遺伝子から、これらの領域(A及びR領域)をポリメラーゼ連鎖増幅し、次いでPromega Prime-a-Gene(登録商標)キット(Promega社製)を使用して[α-32P]dATPを用いてランダムプライマー標識することによって調製した。得られたバンクを65℃のハイブリダイゼーション温度で一夜、ササンブロッティングにより選別した。選択したクローンを2回単一プラーク精製し、次いで貯蔵のために及びDNA単離用ファージの大規模調製用の液体培養液の接種のために、プレート溶菌液保存液を調製した。
【0127】
領域RのDNAに相同性を有する3.87kbのHindIII断片を黄色ブドウ球菌のゲノムからクローン化した。3〜4kbの範囲のHindIII切断ゲノムDNAをアガロースゲルから切り出し、精製し、次いでpBluescriptクローニングベクターに連結した。プラスミドを大腸菌JM101の中に形質転換し、領域RのDNA挿入断片を含有する組換え大腸菌の同定をPCR選別法により同定した。PCR生成物は領域RのDNA特異的プライマーを使用して生成させた。次いで、陽性PCR反応を生じるプール(pool)内の個々のコロニーを、PCR産物を生成する可能性について分析した。一つの形質転換体、pC1が同定され、領域Rと相同性をもつ3.87kbの断片を含んでいることが認められた。
【0128】
DNAの配列決定
clfBのDNA配列をプラスミドpA1-1EX、すなわち組換えファージA1-1からpGEM7Z(f)+ 中にサブクローン化した断片を含有するプラスミドから得た。Erase-a-Base(登録商標)キット(Promega社製)を使用して、ぴったり重ねて削除(nested deletion)を行った。Flash Dye Primer Sequencing Kit(Genpak社製)を、Model 373A配列決定装置〔Applied Biosystems(米国カリフォルニア州フォスターシティー所在)製〕中での配列決定に使用した。前方向きで確認の配列決定を行った。sdrD及びsdrEの二本鎖配列決定は、pGEM7Z(f)+ 中に組換えファージA6-2からサブクローン化した断片を含有するサブクローンpEJ1、pEJ2及びpEJ3上で重ね合わせ削除及びプライマー歩行により行った。プラスミドクローンpC1上のsdrC及びsdrDの5´末端の自動化配列決定分析を行った。配列決定分析は二つの鎖について公知の配列に対するプライマー伸長によって行った。
【0129】
clfBホモローグに関する黄色ブドウ球菌株の選別
プラスミドpA1-1EXから614bpの内部AccI断片を切り出し、GENECLEAN II(登録商標)キット〔BIO 101 Inc.(米国カリフォルニア州La Jolla所在)製〕を使用してアガロースゲルから精製し、次いで図2に記載のようにして[α-32P]dATPを用いて標識することにより、clfBの領域Aコード部分に特異的なプローブを調製した。同様にして、プラスミドpA1-1EX由来の1.2kb BamHI断片を使用して、遺伝子(領域A、細胞壁及び膜スパニング領域、並びに約100bp下流側のDNAをコードする)の末端の領域に対してプローブを調製した。1群の菌株由来のゲノムDNAのHindIII消化物をサザンブロッティングし、次いでこれらのプローブを使用して選別した。
【0130】
clfBの領域Aの発現
下記のプライマー:
(配列番号15)

(配列番号16)

を使用してPCRにより、プラスミドpA1-1EXからclfBの領域A(S45〜N542の残基をコードする)を増幅させた。
【0131】
BamHI及びKpnI(下線を施した部分)それぞれの切断部分を、それぞれのプライマーの5´末端に結合して生成物中にこれらの部位を導入し且つ発現ベクター中へのそのクローニングを促進させた。前方側のプライマーはその後に1個の塩基の誤対合(G、下線を施した)、すなわちコドンEのコドンGへの変化を含むことが認められた。反応混合物(50μl)は、標準Promega(米国ウィスコンシン州マディソン所在) Taq反応緩衝液中にdNTP類2mM、MgCl2 1.5mM、pA1-1EX 1ng、プライマー50nM及び1.25UTaqポリメラーゼを含有していた。Perkin Elmer Cetus(米国カリフォルニア州フォスターシティー所在)製のthermocycler中で94℃で4分間最初の変性を行い、次いで94℃で1分間の変性し、50℃でアニーリングしそして72℃で1.5分間の鎖伸長することからなるサイクルを30回行って増幅を進めた。各工程の間には最小限の加熱と冷却を行った。最後に10分間鎖伸長させた。単一の生成物が得られ、これをWizard(登録商標)PCR精製キット(Proemga社製)を使用して精製した。得られた生成物は、最初にHis-tag発現ベクター pQE30中にクローン化した。しかしながら、この系では高い水準の発現を得ることができなかったことから、前記の生成物を別のベクター、GST融合ベクター pGEX-KG中にBamHI部位とHindIII部位との間に再クローン化した。溶菌液から、グルタチオン-セファロース〔GST Gene Fusion System(登録商標)、Pharmacia社(米国ニュージャージー州Piscataway所在)製〕を用いた親和クロマトグラフィー及びグルタチオン-S-トランスフェラーゼ融合部分からトロンビン切断により組換えタンパク質を得た。
【0132】
遺伝子座を有する反復のクローニング
置換λベクターLambda GEM(登録商標)-12を用いて、黄色ブドウ球菌Newman株のゲノムDNAのライブラリーを調製した。領域R特異的プローブを使用して約10,000個のプラークを選別した。保持された60個の陽性プラークのうちの26個を精製し、clfAの領域A特異的プローブを用いて対向選択した。clfAの領域A特異的プローブとハイブリダイズした1個のプラークは、それがclfA遺伝子を含有していることを示し、残りのハイブリダイズしないプラークのうちの3個のプラークを無作為に選択し、そのDNAを単離した。得られたDNAを数種類の制限酵素を用いて切断し、前記の領域Rプローブを使用してサザンブロッテングにより分析した。クローンA1-1とA2-3が重複する配列を含んでいるように思われた。制限地図作成及びサザンブロッテングによりこれらのクローンが単一の領域Rホモローグを含有していることが示された。EcoRVを用いて切断することにより前記の領域Rプローブにハイブリダイズする3個の断片が得られることから、クローンA6-2は3個の領域Rホモローグを含有することが認められた。
【0133】
さらに詳細に調べるためにクローンA1-1を選択した。なぜならば、このハイブリダイズ断片はクローンA2-3よりも幾分長いからである。前記の反復領域を含有する7.4 kbのEcoRI断片をλクローンA1-1からプラスミドpGEM7Zf(+)中にサブクローン化してプラスミドpA1-E1を得た。この挿入断片を4.4kbのXbaIセグメントを切除することによって約3kbに縮めて図2及び3に示すようなpA1-1EXを得た。
【0134】
クローンA6-2を制限地図化し、断片を図4に示すようにして配列決定するためにプラスミドベクターにサブクローン化した。領域Rプローブを用いたサザンブロッテング及び予備配列決定により、領域Rをコードする配列をもつ3種類の縦列に整列された遺伝子が存在することが示唆された。クローンA6-2に関しては、2つの完全なORFすなわちsdrD及びsdrEと、1個の不完全ORFすなわちsdrCとが存在していた。
【0135】
前記の2つの完全なORFを、クローンλA6-2から、プラスミドベクター pGEM7Zf(+)(サブクローンpEJ1及びpEJ2の場合)及びプラスミドベクター pBluescript KS+ (サブクローンpJE3の場合)中にサブクローン化した断片について配列決定した。sdrCは、黄色ブドウ球菌ゲノムDNAから別にクローン化した。Newman株の3.87bpのHindIII断片をプラスミドpBluescript KS+ 中に直接にクローン化してクローンpC1(図4)を得た。領域RのDNA挿入断片を含有するこのクローンを、PCR選別法により同定した。sdrCの配列と、sdrDの5´末端の162bpとをpC1から決定した。
【0136】
clfB遺伝子を坦持するプラスミドpA1-1EXは、ザ・ナショナル・コレクションズ・オブ・インダストリアル・アンド・マリン・バクテリア(the National Collections of Industrial and Marine Bacteria)に1997年10月13日付けで寄託番号40903として寄託された。sdrCに関する遺伝子を坦持するプラスミドpC1は、ザ・ナショナル・コレクションズ・オブ・インダストリアル・アンド・マリン・バクテリアに1997年10月13日付けで寄託番号NCIMB 40902として寄託され、またsdrD遺伝子及びsdrE遺伝子を坦持する組換えλファージA6-2は、ザ・ナショナル・コレクションズ・オブ・インダストリアル・アンド・マリン・バクテリアに1997年10月13日付けで寄託番号NCIMB 40904として寄託された。寄託物全てはブタベスト条約の要件を満たすものである。
【0137】
ClfBの特徴
プラスミドpA1-1EX内に含まれる読み取り枠(ORFと略記する)を図5に示す。このORFはグラム陽性球菌の分泌タンパク質を偲ばせる特徴を示す。このORF全体を図5に示すが、開始コドンはNコドンではないように思われる。このORFの5´末端にはATGコドンが存在していない。しかしながら、メチオニンが実際の挿入されたアミノ酸残基であるが、GTG及びTTGが黄色ブドウ球菌では翻訳開始コドンとして、例えばフィブロネクチン結合タンパク質(GTG)及びプロテインA(TTG)として時折使用される。最初のTTGコドン(L)は、リボソーム結合部位であり得るGGAGが適切に上流側に配置され、位置 -12で開始することから、十分に開始コドンであり得る。このように予測されたN末端の44アミノ酸残基領域はグラム陽性球菌の分泌タンパク質のシグナル配列に類似した性質、すなわち全体として正電荷をもつ19個の最も極性の残基からなる最初のストレッチ(stretch)、その後に続く疎水性残基の含有率が高い18個の中性残基及び最後に良好な共通切断部位AQASを有する主として極性の残基の短いストレッチを有する。
【0138】
シグナル配列に関する前記の予測が正しい場合には、ClfBの領域Aは498残基の長さであり、ClfA中の相当する領域と26.3%の同一性を示すか又は保存性の置換が含まれる場合には44.4%の相同性を示す。ClfAとClfBの間のアミノ酸類似性の最も顕著なストレッチは残基314−329(ClfAの場合)と残基304−319(ClfBの場合)の間で生じ、7個が同一の残基であり且つ5個が保存された残基である。ClfAでは、前記ストレッチは図6に示すようなフィブリノーゲンの結合に必要とされる推測されるCa2+結合ループ、すなわちEFハンドIのC末端の半分に重なり合う。MIDASモチーフのN末端部分のコンセンサス(consensus)に従う配列DYSNSは短い距離で上流に生じる。従って、下流側の配列についてD及びT残基を調べてMIDASモチーフを完全なものにした。残基D及びTはタンパク質全体にわたって頻繁に生じ、T339は配列DYSNSの63残基下流側に適切に配置される。しかしながら、前記コンセンサスはTから14-23残基下流側にD残基を必要とし、この場合には最も近いD残基は9又は28残基離れている(D348及びD367)。
【0139】
領域AのC末端では、著しくプロリンに富む領域が存在する(図5に示すように、21/42残基はPである)。この配列内には14残基の反復が存在する。上記のPすなわちプロリンに富む反復をコードするDNAが高く保存される。3種類の塩基の置換のうち、唯一のものはアミノ酸の置換、すなわちTに代わるSの同類置換が生じる。
【0140】
領域RはclfBではclfAよりも幾分短い(clfAでは308残基であるが、clfBでは272残基である)。領域Rをコードする配列はclfAの相当する部分において認められる18bpの共通反復を含有する。
【0141】
領域Rの後には、そのC末端の近くに特徴のあるLPETGモチーフ(おそらくは細胞選別シグナルと思われる)を含有する主として親水性の残基からなる短いストレッチが続く。予測されたタンパク質のC末端領域はClfA中の対応する領域と強い相同性を示し、膜スパニングドメイン及び係留ドメインそれぞれを偲ばせる大部分が疎水性の残基からなる最初のストレッチと、正に荷電した残基に富む最後のストレッチとを有する。ClfAとClfBの一般的な構成を図1で比較する。
【0142】
推定される転写終結信号はclfBに対して3´に生じる。読み取り枠は260bpの5´又は200bpの3´の範囲内で生ぜず、この遺伝子がオペロンの一部分ではないことを示唆している。
【0143】
SdrC、SdrD及びSdrEの特徴
sdrC、sdrD及びsdrEのDNA配列及びその翻訳したアミノ酸配列を、図7、図8及び図9に示す。それぞれの予測されたタンパク質は、シグナル配列と推定される配列と、ClfAの領域Aに対して限られた相同性をもつ約500残基の“領域A”(図10参照)と、変動する個数のB反復と、SD反復含有領域Rと、LPXTG細胞壁選別モチーフと、親水性膜アンカーと、一番端のC末端の正に荷電した残基とを有する。
【0144】
領域Rを含有する5種類のタンパク質の構成を図10に示す。SdrC、SdrD及びSdrEのA領域は、図11に示されるように、それぞれに対して互いに限られた配列類似性を有し且つClfA及びClfBのA領域に対しても限られた配列類似性を有する。5種類のタンパク質全ての間により強く保存されているこれらの配列の整列表(alignment)を図12に示す。共通TYTFTDYVDモチーフはClfAのEFハンド1モチーフと重なる(整列表2、図12)。ClfAのこの領域はO’Connell et al., J. Biol. Chem., 273:6821-6829(1998)に記載されているように、そのリガンド(フィブリノーゲン)結合活性において極めて重要であることが明らかにされており、また前記の新規タンパク質の生物学的活性においても重要であり得る。
【0145】
SdrC、SdrD及びSdrEの3種類のタンパク質は領域R含有タンパク質の別のサブグループを形成する。これらのタンパク質は、領域R及びAの他に、領域Aと領域Rの間に配置された異なる個数のB反復を含有する。このB反復はアミノ酸110〜113個の長さであり、かなりの類似性を示す(整列表5、図12)。領域Rに隣接している反復SdrC B2、SdrD B5及びSdrE B3は93〜95%同一である。それぞれの反復のN末端の近くには強く保存されたEFハンドが存在する。
【0146】
別の黄色ブドウ球菌株におけるclfBホモローグ
黄色ブドウ球菌の9種類の菌株を、clfB遺伝子についてサザンブロッティングにより選別した。ゲノムDNAをHindIIIを用いて完全に切断し、図2に示すように、clfBの領域Aをコードする配列の内部0.6kbのAccI断片を用いて探査した。プローブは9種類の菌株全てにおいて2〜3kbの間で変化する単一のHindIII断片を認識し、それぞれが単一のclfB対立遺伝子を有することを示している。clfBの領域Aと末端領域とから調製したプローブは、全ての菌株において同じ帯域を認識し、他の菌株中のclfBホモローグも領域Rを含有していることを示している。
【0147】
clfBの発現
領域AをコードするclfBの部分を、適当な5´制限部位を組み込んだプライマーを用いてPCRにより増幅し、大腸菌発現ベクター pGEX-KG中にクローン化した。誘導された細菌の溶菌液中に94.3 kDのタンパク質が検出された。得られた GST-ClfB融合タンパク質をグルタチオンセファロースアフィニティーカラム上に固定化し、トロンビンを用いて切断し、次いでSDS-PAGEで調べた。主なバンドは42 kDaであり、これに対して領域Aの計算分子量は54 kDaであった。このタンパク質を使用してウサギに抗体を生じさせ、以下に記載のようにして種々の条件下で増殖させたNewman株から調製した細胞溶解液のウェスタンブロットを探査した。得られた抗体は、平板培養物、静置増殖ブロス培養物、又は安定期まで増殖させた振盪フラスコ培養物それぞれから調製した溶菌液において抗原を検出することはできなかった。Newman株及びその誘導体の指数増殖期振盪フラスコ培養物から調製した溶菌液中には単一の124 kDaのバンドが検出された。処理によりシグナル配列と、LPETGの最後のGからタンパク質のC末端部分とが取り除かれていると仮定すると、ClfBの予測分子量は88.3 kDaである。Newman株の振盪フラスコ培養によるClfB産生の時間経過において、ClfBタンパク質は初期の指数増殖期において最も量が多く、指数増殖期の終りに向かって鋭い下り勾配を示し、その後はその量が検出できなくなってしまった。時間経過の研究の結果を図13に示す。
【0148】
実施例2
抗ClfB血清の製造
ウェスタンブロットにおいて大腸菌又は黄色ブドウ球菌の抗原と先反応(prior reaction)を示さない2匹の若いニュージーランド白色ウサギ(体重2kg)において、組換え領域Aに対する抗体を生じさせた。皮下に投与した注射液は、抗原25μgを含有し、抗原は乳化させたリン酸塩緩衝溶液(PBS)中で、等容量のアジュバントを用いて500mlまで希釈した。最初の注射液はフロイントの完全アジュバントを含有していた。2回目又は3回目の注射は2〜3週間の間隔で行い、これらの注射液はフロイントの不完全アジュバントを含有していた。前記の組換えタンパク質に対する応答が適切であると判断された時に、ウサギを出血させ、血清を回収し、IgG全部をプロテインAセファロース〔Sigma Chemical Company(米国ミズリー州セントルイス所在)製〕を用いてアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0149】
SDS-PAGE及びウエスタンブロッテング
試料を、10%又は12%アクリルアミドゲル中でSDS-PAGEにより分析した。単離された種々のタンパク質及び大腸菌細胞溶解液は、電気泳動用に、変性緩衝液中で5分間煮沸することによって調製した。黄色ブドウ球菌については、細胞を、10mM EDTAを含有するPBS 100mM中に、40単位のOD600になるまで縣濁した。次いで、それぞれの試料500μlに、プロテアーゼ阻害剤400μl〔Complete(登録商標)反応混液、Boehringer Mannheim(米国インディアナ州インディアナポリス所在)製〕、DNアーゼ及びRNアーゼそれぞれ5μl(10mg/ml保存液から、Sigma Chemical Company製)及び2mg/mlリソスタフィン保存液60μl〔Ambicin L(登録商標)組換えリソスタフィン、Applied Microbiology Inc.(米国ニューヨーク州タリータウン所在)製〕を加え、得られた縣濁液を透明になるまで37℃の水浴中でインキュベートした。次いで、得られた試料を常法のように操作した。ゲルをクーマシーブルーで染色するか又はBio-Rad Semidry(登録商標)装置〔Bio-Rad Laboratories(米国カリフォルニア州リッチモンド所在)製〕〕中でウェスタンブロッティングによりNytran(登録商標)膜に移した。黄色ブドウ球菌中の未変性ClfBの検出には、ブロットをBoehringer Mannheim製のBM Chemiluminescence Detection System(登録商標)(POD)を使用して製造業者の指示書に従って操作した。一次抗ClfB抗体を、室温で2時間インキュベートするために、1/1000希釈液で使用した。セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ(Sigma Chemical Co.製)と複合させたプロテインAを結合抗体の検出に使用し、これは室温で1時間インキュベートするために1/2000希釈した。低い感度を必要とするブロットは、5%脱脂乳を遮断剤(blocking agent)として使用した以外は同様にして処理し、得られたブロットをクロロナフトールと過酸化水素を使用して発色させた。
【0150】
ClfBが細胞壁に会合しているか否かを調べるために、指数増殖期培養液から得た細胞全部を、30%ラフィノースを追加した緩衝液中でリソスタフィンで処理してプロトプラストを安定化させた。プロトプラストを収穫し、得られたプロトプラスト及び上清をウエスタンブロッテングにより別々に分析した。ClfBタンパク質は上清中だけに検出され、これはClfB全てがペプチドグリカンに架橋し、プロトプラストを破壊することなくリソスタフィンで解離させることができることを示している。
【0151】
ClfBの発現は、トリプトン ソイ ブロス又はブレイン ハート インフュージョンのような富栄養培地中で増幅させることによって高められた。
【0152】
clfB対立遺伝子を含むことが知られている幾つかの黄色ブドウ球菌株を、ウェスタンブロッティングによりClfB産生について選別した。培養液を初期指数増殖期において最大発現まで収穫した。9種類の菌株について調べたうち、8325-4株、RN4282株及びV13株はNewman株と同様の大きさ及び強度をもつ免疫反応性抗原を発現し、これに対してGH13株及びP1株はこの大きさのきわめて弱いバンドを有していた。P1株、Cowan株及びM60株は分解産物であると思われるさらに小さい免疫反応性抗原を発現した。V8株及びPhillips株は検出できるClfBタンパク質を発現しなかった。8325-4株から誘導されたRN4220株は指数的高濃度でClfBタンパク質を発現した。
【0153】
実施例3
ビオチニル化組換えClfBの領域Aを使用したClfBの免疫検定
下記のプライマー:
(配列番号17)

(配列番号16)

を使用して、黄色ブドウ球菌Newman株のゲノムDNAから、clfBの領域AをコードするDNA(S45〜N542の残基をコードする)を増幅させた。
【0154】
HindIII及びBamHIの切断部位(下線を施した部分)をそれぞれのプライマーの5´末端に結合してHis-tag発現ベクターpV4中への前記産物のクローニングを促進させた。クローニングには宿主株として大腸菌JM101を用いた。得られた組換え領域Aをニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0155】
酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)
Immulon 1(登録商標)プレート〔Dynatech(登録商標)、Dynal Inc.(米国ニューヨーク州グレートネック所在)製〕を、10μg/mlヒトフィブリノーゲン (Chromogenix製) 100μlで一夜被覆した。次いで、これらのプレートを5mg/mlのウシ血清アルブミン(BSAと略記する)200μlで1時間保護した。次いで、得られたプレートを、0.1〜10μg/mlに希釈したビオチニル化ClfB(His-tag組換え領域A) 100μlと共に3時間インキュベートした。次いで、プレートを0.02% Tween 20及びBSA1mg/mlを含有するPBSで5分間3回洗浄した。次いで、得られたプレートをアルカリ性ホスファターゼ〔Boehringer Mannheim(米国インディアナ州インディアナポリス所在)製〕と複合させたストレプトアビジンの1/10000希釈液100μlと共に1時間インキュベートし、次いで前記のように洗浄した。次いで、得られたプレートを、p-ニトロフェニルホスフェート(Sigma Chemical Co.製)1mg/mlを含有する1Mジエタノールアミン(pH 9.8) 100μlと共に37℃で30分間インキュベートした。BSAだけで被覆したプレートを陰性対照として用いた。これらの吸光度を405nmで測定した。
【0156】
ウェスタンアフィニティーブロッティング
ヒトフィブリノーゲン(Chromogenix製)20μgを、15%アクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEに2時間供した。タンパク質を100Vで2時間ニトロセルロースに移した。得られたニトロセルロース膜を10%脱脂乾燥乳含有PBS中で一夜遮断した。次いで、得られたブロットをビオチニル化ClfB(His-tag組換え領域A)2.5μg/mlと共に振盪しながら1時間インキュベートした。ビオチニル化はEZ結合-スルホ-NHS-LC-Biotin(登録商標)〔Pierce(米国イリノイ州ロックフォード所在)製〕を用いて行った。次いで、得られたブロットを0.1%Tween 20を含有するPBS中で5分間3回洗浄した。次いで、得られたブロットを、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ〔Boehringer Mannheim(米国インディアナ州インディアナポリス所在)製〕と複合させたアビジンの1/200,000希釈液と共に1時間インキュベートした。次いで得られたブロットを前記のように洗浄し、Amersham(英国バッキンガム州Little Chalfont所在)製の増強化学発光装置を使用して発色させた。得られたバンドの特徴をフィブリノーゲンをSDS-PAGE及びクーマシーブルー染色に供することによって得られたものと比較した。
ビオチニル化した精製ClfB領域Aをブロット化したフィブリノーゲンの探査に使用したウェスタンアフィニティーブロットでは、染色したフィブリノーゲンのレーンと比較することによりClfBがフィブリノーゲンのα鎖とβ鎖を結合していることが示された。ClfBを除いた場合にはバンドは認められなかった。この実験により、フィブリノーゲンのγ鎖に結合することが知られているClfAとの重大な違いが明らかである。
【0157】
実施例4
ClfBの突然変異誘発
clfBにおける挿入変異は、図3に示すように、Tc耐性標識を含有する断片をpA1-1EX上の遺伝子の中間部に導入することによって生じさせた。pT181から得た2.35kbのHindIII断片をクレノウ酵素を用いて塞ぎ、平滑末端をpA1-1EXのHpaI部位に連結した。この組立て体に、温度感受性複製とCmr標識とを有するプラスミドpTS2を、AvaIを用いて切断することによりSmaI部位でクローン化した。このクローニング工程は大腸菌中で行い、形質転換体はAp上で選別し、温度非依存性に対する復帰突然変異体の選択を回避するために30℃でインキュベートした。次いで、プラスミドを精製し、電気穿孔法により黄色ブドウ球菌 RN4220株中に形質転換し、Tcr形質転換体を30℃で選択した。30℃で増殖させた5種類の独立したブロス培養液を、抗生物質を含有していない新しい培地中に1/100に希釈し、42℃で6時間又は18時間増殖させた。次いで、培養液を1/100に希釈し、42℃でさらにインキュベートした。かかる6種類の希釈液及び培養物を調製した。その時間では、Tc耐性が約1/1000コロニー形成単位(CFU)まで低下していた。次いで、得られた培養液を、Tc含有培地を用いてプレート当たり約100 CFUまで希釈し、次いで37℃で一夜インキュベートした。TcrであるがCmsではないコロニーは、プラスミドと宿主ゲノムとの間でも二重交差を受け、野生型遺伝子の突然変異遺伝子による置換、その後のプラスミドのロスを招くと推定される。培養物当たり500個のコロニーを選別した。11個の推定される突然変異体を、5個の培養物のうちの4個から単離した。4個の代表的な突然変異体を選択しゲノムDNAを単離した。clfAとclfBの両方を欠く変異株DU5944を、DU5876株由来のclfA2::Tn917をclfB変異株DU5943中に導入し、Emrについて選別することによって組立てた。
【0158】
エキソプロテイン(exoprotein)発現に悪影響を及ぼすことが知られている突然変異体がclfBに影響を及ぼしたか否かを調べるために、8325-4株とagr変異株ISP546とを比較した。ClfB発現の水準又は動力学において顕著な相違は認められなかった。
【0159】
細菌−フィブリノーゲンの相互作用におけるClfBの役割を調べるために、Newman株のclfB変異株を、図2に示すようにして対立遺伝子置換により組立てた。得られた変異体のゲノムDNAをBamHIで消化し、clfBの5´の半分(half)と約150bp上流側配列とを含有するプラスミドpA1-1E由来の標識した1.3kbのHpaI断片を用いてサザンブロッティングに供した。単一のバンドがそれぞれの場合において期待したようにハイブリダイズし、このバンドは野生型におけるよりも変異体において2.35kb長かった。前記変異株はRN4220株において最初に単離され、次いでNewman株に導入され、菌株DU5943を形成した。
【0160】
ClfBの過剰発現及びclfB変異体の相補性
ClfBの過剰生産は、clfB遺伝子と、pA1-1E由来の500bpの上流側DNAとを含有するSmaI断片を高コピー数シャトルプラスミドpCU1中にサブクローニングすることによって可能であった。次いで、得られた組立て体をRN4220株中に形質転換し、Newman株に導入した。形質導入体をCm上で選択した。サザンブロッティング及びウェスタンブロッティングにより、高コピー数がNewman株において維持されたこと及びClfBが野生型の水準よりも高水準で生産されたことが確認された。これは前記の上流側DNAがclfB遺伝子の発現に必要なプロモーターを含有していることを示している。得られた組立て体をclfB変異株に形質導入すると、野生型の水準よりも高い水準までClfB合成が保存された。また、組立て体を相補性の研究に使用するために、clfAclfB二重変異株(double mutant)に形質導入した。
【0161】
clfAclfB二重変異株を作成するために、clfA::Tn917変異株を、DU5876株からclfB::Tcr変異株DU5943に形質導入してDU5944を形成することによって伝達させた。野生型clfB+遺伝子をシャトルプラスミドpCU1中にクローン化してプラスミドpA1-1EAを得、これをclfAclfB変異株中に形質導入することにより導入して相補性を試験した。抗ClfB血清を用いたウェスタンブロッティングは、ClfBタンパク質が変異株DU5943中に見つからなかったことを示した。相補性プラスミドpA1-1EAを坦持する変異株では野生型よりも高い水準で発現し、これは遺伝子用量効果によるタンパク質の過剰発現を示している。
【0162】
実施例5
ClfB結合検定
凝集検定
黄色ブドウ球菌細胞の可溶性フィブリノーゲンに対する結合におけるClfBの役割を凝集検定において調べた。凝集検定は、Sarstedt(登録商標)平底マルチウエル試験プレート中で、ヒトフィブリノーゲン〔Calbiochem Corp(米国カリフォルニア州サンディエゴ所在)製、プラスミノゲンを含有していないもの、95%純度以上〕50μl容量を使用して行い、1mg/mlの開始濃度からPBS中で連続的に2倍に希釈して行った。黄色ブドウ球菌培養物をPBS中で1回洗浄し、最終的に6のOD600まで再縣濁し、次いで20μlをそれぞれのウエルに加えた。対照ウエルにはPBSのみを入れた。このプレートを勢いよく5分間攪拌し、凝集について肉眼で調べた。凝集力価は凝集が生じた最も低いフィブリノーゲン濃度であった。得られた結果を以下の表2に示す。結果は同時に重複して行った検定値の平均値である。
【0163】
表2.種々の培養相から得られた黄色ブドウ球菌Newman株と変異株の凝集力価
菌 株 凝集力価、フィブリノーゲンμg/ml
指数増殖期 定常期
野生型 0.98 0.98
clfA 3.91 >1000.00
clfB 1.95 0.98
clfAclfB >1000.00 >1000.00
clfAclfB(pA1-1EA;clfB+) 2.93 250.00
【0164】
clfA及びclfB単一変異株の凝集力価は、指数増殖期培養を使用した場合には野生型に極めて類似していた。しかしながら、二重clfAclfB変異株は、最も高いフィブリノーゲン濃度でも凝集を形成することができなかった。これに対し、pA1-1EA上の野生型clfB遺伝子を坦持する二重変異株は野生型とほぼ同じ結合活性をもつ凝集物を形成した。これらのデーターは、ClfBがクランピング因子であることを明確に示している。
【0165】
単一変異株同士の間の凝集力価の差は、ClfAだけを細胞上に存在させた定常期培養を使用する場合には極めて大きかった。野生型株及び単一のclfB変異株は同じ力価を有していた。単一のclfA変異株は凝集することができなかった、従って二重変異株と区別することができなかった。二重変異株が、過剰発現されたclfB+遺伝子によって補足された場合には、凝集を若干回復したことは予想外のことであった。これはおそらくタンパク質の発現全体にわたって反映していると思われる。
【0166】
プレート接着性検定
ClfBが固定化されたフィブリノーゲンに対する細菌の結合を促進することができるか否かを調べるために、マイクロタイタープレート接着性検定におけるフィブリノーゲン結合について、種々の菌株を試験した。プレート上に固定化されたフィブリノーゲンに対する細胞の結合を、Wolz et al., Infect. Immun., 64:3142-3147(1996)の検定法によって測定した。フィブリノーゲンを炭酸塩緩衝液(15mM Na2CO3、35mM NaHCO3、3.2μM NaN3、pH9.6)に希釈し、その100μlを使用して96ウエル平底ELISAプレート〔Immulon4(登録商標)、Dynatech製〕を4℃で一夜被覆した。対照ウエルには炭酸塩緩衝液だけを入れた。プレートを150mM NaCl、0.05%Tween20(登録商標)界面活性剤中で洗浄した後に、PBSに溶解した1%BSA、0.05%Tween中で37℃で1時間保護した。前記のようにして洗浄した後に、細胞縣濁液(PBS中で0.4のOD600) 100μlを加え、プレートを37℃で2時間インキュベートした。手動で穏やかに洗浄した後に、接着細胞を、25%ホルムアルデヒド溶液100μlを加え、室温で少なくとも30分間インキュベートすることによって固定した。得られたプレートをもう一度穏やかに洗浄し、クリスタルバイオレットを用いて染色し、再度洗浄し、次いでプレートを570nmでELISA読取装置で読み取った。検定間変化(inter-assay variation)を避けるために、実験は単一のプレートが完全な一組の結果を与えるように設定した。
【0167】
得られた接着のパターンは凝集検定において得られたパターンを強く反映していた(図15)。細胞の濃度を変化させた検定は、結合が0.4ODの細胞濃度で最大値の約半分である(二重変異体については除く)ことを示し、この細胞密度を以後に常用した。野生型、clfA、clfB変異株及びclfAclfB(pA1-1EA)は、結合においてフィブリノーゲン濃度に依存した増加を示した(図16)。この増加は、clfB変異株(ClfAを発現する)の場合はclfA変異株(ClfBを発現する)の場合よりも目立たず、ClfBはあまり貪欲でない及び/又は多くないレセプターであり得ることを示唆している。定常期細胞については、clfB変異株は野生型菌株に似た挙動を続けていたが、これに対しclfA変異株は極めて穏やかに結合した。凝集の場合のように、接着性は補完された(complemented)二重変異株を用いた場合よりも幾分高く、おそらくは遺伝子用量効果によるものと思われる。
【0168】
凝集検定及び接着検定は、ClfBが可溶性フィブリノーゲンと固定されたィブリノーゲンの両方に対する結合を媒介し、ClfAの活性に極めて類似していることを明らかにしている。
【0169】
ClfA及びClfB由来のビオニチニル化した精製領域Aの濃度を上げていった場合の固相フィブリノーゲンに対する結合を、直接にELISAにおいて比較した。得られた結果を図14に示す。前記2種類のタンパク質の接着プロフィールは、特に低い濃度では極めて類似していた。最も高い濃度では、ClfAの結合はClfBの結合よりも約50%高い。BSAに結合したタンパク質はなかった。
【0170】
固定化されたフィブリノーゲンに対する細胞接着に及ぼす抗ClfB抗体の影響
IgGによるフィブリノーゲンの結合の阻害を調べるために、検定に使用した細胞を、500μg/mlの濃度で開始してPBS中の精製IgGの連続2倍希釈液を用いてプレインキュベートした。プレインキュベーションはSarstedt(登録商標)マルチウエル試験プレート中で37℃で2時間行い、次いで細胞をフィブリノーゲン(2.5μg/ml)で被覆したELISAプレートに移し、前記のようにして保護した。検定の残り(rest)は前記のようにして行った。
【0171】
野生型及び変異Newman株の指数増殖期培養液から得た細胞を、精製した抗ClfB IgGの濃度を上げながらプレインキュベートし、次いで2.5μg/mlのフィブリノーゲンで被覆したプラスチック表面に対する細胞の接着を調べた。得られた結果を図17に示す。最も高い抗体濃度でも、clfB変異株の結合は阻害されておらず、また野生型細胞の結合はほとんど影響されなかった。しかしながら、clfA変異株の結合は、16μg/mlのIC50でIgG濃度に依存した低下を示した。IC50が高い(50μg/ml)が、相補性プラスミド上にclfB+を坦持する二重変異株もまた抗体によって阻害され、おそらくはClfBが細胞表面上で発現されるからであると思われる。
【0172】
固定化されたフィブリノーゲンに対するの細菌接着に及ぼす二価カチオンの影響
フィブリノーゲンの結合に対する金属イオンの影響を、同様にして調べた。
【0173】
MgCl2、MnCl2 又はTBS(50mMトリスHCl、pH7.5、150mM NaCl)に溶解したMgCl2それぞれの連続2倍希釈液と共に細胞をプレインキュベートし、50mMの濃度で開始して調べた。TBSをPBSの代わりに使用した。TBSはカルシウムとマグネシウムの両方の沈殿を生じる。細胞はこれらの条件下ではあまりよく結合しなかったことから、最初の細胞の濃度を二倍にした。
【0174】
ClfAとフィブリノーゲンとの相互作用は、Ca2+及びdMn2+によって阻害されるが、Mg2+には阻害されない。フィブリノーゲンに対するClfBに促進された接着に及ぼす二価カチオンの影響を、このようにして試験した。野生型株及びclf変異株の指数増殖期細胞とCaCl2とのプレインキュベーションは、フィブリノーゲンに対する結合を阻害した。ClfBのみを発現するこれらの菌株は、ClfAのみを発現する変異株(clfB)よりも高い感受性を示した。野生型株及び変異体の IC50はそれぞれ17mM及び14mMであり、これに対してclfB変異株及びclfB+相補化二重変異株のIC50はそれぞれ1.05mM及び0.06mMであった。MnCl2もまた野生型株及び変異株の結合を阻害し、clfBのみを発現する菌株に対してより強い影響を示した。野生型株及びclfB変異株のIC50はそれぞれ3.3mM及び6.4mMであり、これに対してclfA変異体及び相補化プラスミド上にclfB+を坦持する二重変異株のIC50はそれぞれ0.35mM及び1.26mMであった。MnCl2は、12.5mM以下では結合に対して影響を及ぼさなかった。
【0175】
従って、固定化フィブリノーゲンに対するclfBに促進された細菌の接着は、ClfAに促進された接着に対する同様の濃度でCa2+及びMn2+に阻害される。しかしながら、ClfBがClfA−フィブリノーゲン相互作用のCa2+促進モデュレーションに関係があるEFハンドIのホモローグを含有していないということから、前記の二つのメカニズムは異なっているように思われる。
【0176】
血小板−フィブリン血餅接着性検定
血小板−フィブリン血餅に対する接着性を、Moreillon et al., Infect. Immun., 63:4738-4743(1995)で用いられている検定法の部分改変法を使用して測定した。イヌの新鮮な血液を10%クエン酸ナトリウム緩衝液(Sigma Chemical Co.製)上に採取し、3000×gで室温で10分間遠心分離した。血漿画分を取出し、清潔な管に入れた。血小板−フィブリン血餅は、35mmペトリ皿中で血漿0.5ml容を0.2mM CaCl2 0.1ml容と混合することによって調製した。次いで、トロンビン(500U/ml Sigma製ウシトロンビン0.1ml)を加え、迅速に混合し、血餅を形成させた。細菌の接着性を測定するために、それぞれのペトリ皿に細菌(BHI増殖指数増殖培養からのもの)5×103 cfu/mlを含有するPBS2mlを加え、ペトリ皿をオービタルシェーカー(orbital shaker)上で3分間振盪した。接種材料を排出させ、血餅をPBS2mlで2回それぞれ5分間洗浄した。次いで、血餅を溶融TSA3mlを用いて被覆し、37℃で15時間インキュベートし、コロニーを数えた。接種材料として使用した細菌縣濁物をTSAプレート上に塗抹して全生菌数を得、次いで結合された接種材料のパーセントを計算した。結果は菌株当たり6〜10プレートの平均値として示し、スチューデントのT検定を使用して統計的に分析した。
Moreillonらによってこのモデルにおいて接着が顕著に低下したことが既に明らかにされているclfA変異株で行ったように、野生型Newman株と比較すると、
clfB変異株は接着性が低下した。
【0177】
血液透析管に対する接着についての検定
ClfBが生体材料関連感染症において黄色ブドウ球菌の付着因子として機能することができることを例証することを目的として、体外に移植したヒトの血液透析管を生体外細菌接着の促進について試験した。血液透析管をフィブリノーゲンとフィブロネクチンとを含有する宿主血漿タンパク質の複合混合物で被覆した。
【0178】
これらの実験では、体内に埋め込んだ後3〜3.5時間目に患者から取り出した血液透析管の一部分を用いた。培養物を2時間振盪しながら増殖させた。結果は3回の実験の平均値をSEMと共に示し、図19に示す。
【0179】
フィブリノーゲンで被覆したPMMA製カバーガラスに対する接着についての検定
フィブリノーゲンで被覆したポリメチルメタクリレート(PMMA)製カバーガラスに対する黄色ブドウ球菌Newman株と変異株の接着性を、カバーガラスを純粋なフィブリノーゲン(1μg/ml)で被覆した以外はGreene et al., Mol. Microbiol., 17:1143-1152(1995)に記載のようにして測定した。検定用の培養物は振盪しながら2時間増殖させた。結果を、3回重複して行った実験の平均値及びSEMで示し、図18に示す。
【0180】
管の一部分に対する接着のパターンは、PMMA製カバーガラス上に固定されたフィブリノーゲンに対する接着について並行して行った検定において固定化されたフィブリノーゲンについて認められた結合のパターンに類似していた。単一のclfA変異株は野生型に比べて幾分低い水準の接着性を有しており、これに対して二重clfAclfB変異株は野生株の水準の約30%まで低下していた。単一のclfB変異株のpA1-1EA上のclfB遺伝子との相補性は、野生型の水準よりも高い水準まで結合を回復し、これに対して二重変異株の同じプラスミドとの相補性は単一のclfA変異株とほぼ同じ水準まで結合を回復していた。
【0181】
実施例6
実験的心内膜炎における病原性因子(virulence factor)としてのClfB
クランピング因子Aは、Moreillon et al., Infect. Immun., 63:4738-4743 (1995)の実験的心内膜炎のラットモデルにおいて損傷した心臓弁に対する接着を促進する病原性因子であることが明らかにされた。従って、この感染におけるClfBの役割を、clfB変異株と、相補性clfB+プラスミドを担持する変異株との感染速度を比較することによって試験した。ラットにID60で5×103 cfuを用いて静脈内に感染させた。野生型株の61%が対照動物の心臓弁に感染し(n=13)、これに対してclfB変異株を感染させた動物の30%だけがコロニーを形成した(n=20)。これに対して、相補化した変異株の77%(n=9)が感染した。これは、ClfBが付着因子であり、心内膜炎モデルにおいて重要な病原性因子であることを明確に示している。
【0182】
実施例7
TYTFTDYVDペプチド抗体の産生
マルチプル抗原ペプチドフォーマット〔MAPと略記する;Research Genetics Inc.(米国アラバマ州Huntsville所在)製〕中でナノペプチドTYTFTDYVDを合成した。このペプチドを、製造業者の指示書(Pierce)に従ってKLHに複合させた。2匹の雌性ニュージーランド白色ウサギを、フロイントの完全アジュバントを用いて乳化させたKLH−TYTFTDYVD複合体を用いて皮下に免疫化した。このウサギを、3週間後に、フロイントの不完全アジュバントを用いて乳化させたKLH−TYTFTDYVDの皮下注射により免疫を上昇させた。第三のブースト(third boost)にPBS中のKLH−TYTFTDYVDを用いて皮下に投与した。動物を、最終ブースト後21日目に、TYTFTDYVD特異抗体について分析した。抗体の精製について、抗血清をトリスHCl(pH8.0)を用いて1:1に希釈し、プロテインA-セファロース(登録商標)カラムを通した。トリスHCl(pH8.0)、0.5M塩化ナトリウムを用いて連続して洗浄した後に、結合抗体を3.5M MgCl2中に溶出し、PBS中に透析した。
【0183】
Immulon-2マイクロタイタープレート〔Dynex Technologies(米国バージニア州Chantilly)製〕を、ClfA、ClfB又はBSA 1μgを用いて室温で2時間被覆した。前記タンパク質で被覆したプレートをPBS、0.05%Tween 20で3回洗浄し、次いでPBS、1%BSAで保護した。保護したプレートをPBS、0.05%Tween 20で3回洗浄した。精製したウサギKLH−TYTFTDYVD抗体50μlを、連続的にPBSに希釈し、前記マイクロタイタープレートに加え、次いでロッカープラットホーム(rocker platform)上で25℃でインキュベートした。ウエルを、PBS、0.05%Tween 20で3回洗浄し、二次抗体をこのウエルに加え、室温で1時間インキュベートした。二次抗体はアルカリ性ホスファターゼ複合ヒツジ抗ウサギIgG(Bio-Rad製)であり、PBD中に3000倍希釈したものであった。ELISAプレートを1Mジエタノールアミン、0.5mM MgCl2(p9.8)に溶解したp-ニトロフェニルホスフェート(Sigma製)1mg/mlを用いて37℃で1時間発色させ、次いでPerkin Elmer HTS 7000 Bio-Assay 読取装置を用いて405 nmで定量した。得られたデーターを図21に示す。これらのデーターは、抗共通配列TYTFTDYVD抗体がClfA及びClfBタンパク質に著しく結合するが、対照のタンパク質BSAには結合しないことを示している。
【0184】
実施例8
ウサギClfB IgGを用いた受動免疫化
下記のプライマー:
(配列番号17)

(配列番号16)

を使用して、clfBの領域AをコードするDNA(S45〜N542の残基をコードする)を黄色ブドウ球菌Newman株のゲノムDNAから増幅させた。
【0185】
HindIII及びBamHI(下線を施した部分)それぞれの切断部位をそれぞれのプライマーの5´末端に結合して、His-tag発現ベクターpV4中への前記産物のクローニングを促進させた。クローニングには、宿主株として大腸菌JM101を用いた。得られた組換え領域Aをニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。精製した組換え領域Aを用いて、標準方法に従って、ウサギにおいて抗体を上昇させた。抗ClfB A領域IgGを、プロテインAセファロースカラムを用いてアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。
【0186】
20匹スイスウェブスターマウス(23〜28g)を使用して、精製したウサギ抗ClfB A領域IgGを用いた受動免疫化がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌によって媒介させた感染症を防止できるか否かを調べた。
【0187】
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌601株を血液寒天平板上で培養した。次いで、一つのコロニーをBHIブロス10mlに接種し、37℃で一夜インキュベートした。得られた培養液を1:100希釈物に希釈し、新鮮なBHI 10mlに入れ、次いで1.5〜2.0の光学密度(O.D.)まで増殖させた。次いで、得られた培養液を遠心分離しPBS中で1回洗浄した。この培養液を、BSA5%とジメチルスルホキシド(DMSOと略記する)10%とを含有するPBSに再縣濁し、−20℃で凍結を続けた。得られた細菌溶液を溶かし、PBSに希釈し、適当な濃度に調整してからマウスに投与した。
【0188】
マウスを4つの処理群に分けた(処理群当たりマウス5匹)。マウスを下記の処理群に分けた。
抗体/細菌 投与量 CFU/マウス マウスの数
1 正常ウサギIgG/黄色ブドウ球菌 3.81×107 5匹
2 正常ウサギIgG/黄色ブドウ球菌 7.62×107 5匹
3 ウサギ抗ClfBIgG/黄色ブドウ球菌 3.81×107 5匹
4 ウサギ抗ClfBIgG/黄色ブドウ球菌 7.62×107 5匹
【0189】
1日目に、10匹のマウスにウサギ抗ClfB領域AIgG 10mgを投与し、別の10匹のマウスには正常ウサギIgG 10mgを投与した。両方の抗体は腹腔内(i.p.)注射により投与した。0日目に、全てのマウスに黄色ブドウ球菌3.81×107 CFU又は黄色ブドウ球菌7.62×107 CFUのいずれを静脈内(i.v.)感染させておいた。
全身の感染を体重の低下を評価することによって調べた。体重の低下は、病気及び負傷の場合をマウスにおいて評価する際に評価される一次パラメーターの一つである。各マウスの体重を1日目に記録し、その後は最後の屠殺を含めて毎日記録した。マウスの体重はほぼ0.1gまで測定した。
【0190】
正常ウサギIgGを注射したマウスは、ウサギ抗ClfB領域AIgGを用いて受動免疫化したマウスに比べて著しく大きい体重低下を示した(以下の表参照)。さらに、死体解剖でのマウスの病理学的評価により、ウサギ抗ClfB領域AIgGを用いて受動免疫化したマウスから取出した腎臓に比べて、正常ウサギIgGを注射したマウスから取出した腎臓における感染の病変及び病巣の数が多いことが明らかになった。
【0191】

【0192】
実施例9
ヒトフィブリノーゲンのα鎖とβ鎖を結合するClfB領域A
ヒトフィブリノーゲン(20μg;Chromogenix製)を2時間15%アクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより分けた。タンパク質を100Vで2時間ニトロセルロースに移した。得られたニトロセルロース膜を10%脱脂乾燥乳含有PBS中で一夜保護し、次いでビオチニル化ClfB又はClfAの領域Aタンパク質2.5μg/mlと共に振盪しながら1時間インキュベートした。次いで、この膜を0.1%Tween 20を含有するPBS中で5分間3回洗浄し、次いでセイヨウワサビペルオキシダーゼと複合させたアビジン〔Boehringer Mannheim製: 1:100,000希釈物〕と共に1時間インキュベートした。このフィルターを前記のように洗浄し、増強化学発光装置(Amersham製)を使用して発色させた。得られたウェスタンブロット(図22)はビオチニル化ClfAがフィブリノーゲンのα鎖とβ鎖に結合していること及びClfBがフィブリノーゲンのα鎖とβ鎖に結合していることを例証している。
【0193】
実施例10
ClfB領域Aはヒトの横紋筋腫細胞由来の75 kDタンパク質及び50 kDタンパク質を結合する
ヒトの横紋筋腫細胞をSDS-PAGE走査用緩衝液を用いて溶菌し、その種々の量
(2〜10μl)のタンパク質溶解液を、15%アクリルアミドゲルを用いたSDS-PAGEにより2時間で分けた。得られたタンパク質を、100Vで2時間ニトロセルロースに移した。得られたニトロセルロース膜を10%脱脂乾燥乳含有PBS中で一夜保護し、次いでビオチニル化ClfB又はClfAの領域Aタンパク質2.5μg/mlと共に一定に振盪しながら1時間インキュベートした。次いで、この膜を、0.1%Tween 20を含有するPBS中で5分間3回洗浄し、次いでセイヨウワサビペルオキシダーゼと複合させたアビジン〔Boehringer Mannheim製: 1:100,000希釈物〕と共に1時間インキュベートした。このフィルターを前記のように洗浄し、増強化学発光装置(Amersham製)を使用して発色させた。2つの主要なバンドが50 kD及び75 kDで認められ、ビオチニル化ClfB領域Aタンパク質と反応したことが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TYTFTDYVDモチーフを有する細胞外マトリックス結合タンパク質をコードする単離された核酸分子であって、前記タンパク質が黄色ブドウ球菌から単離されるものであり且つClfAではなく、SdrC、SdrD及びSdrEよりなるタンパク質群のペプチド又は核酸配列であり、SdrCは配列番号3のアミノ酸配列、配列番号4の核酸配列を含有し、SdrDは配列番号5のアミノ酸配列、配列番号6の核酸配列を含有し、SdrEは配列番号7のアミノ酸配列、配列番号8の核酸配列を含有することを特徴とする単離された核酸分子。
【請求項2】
配列番号4、配列番号6及び配列番号8からなる群の中から選択される配列に緊縮条件下で選択的にハイブリダイズする配列を含有する請求項1記載の単離された核酸。
【請求項3】
請求項1記載の単離された核酸を含有するベクター。
【請求項4】
前記の単離された核酸を発現させることができる生きている生物体中の請求項3記載のベクター。
【請求項5】
カチオン依存性リガンド結合を示し且つ共通TYTFTDYVDモチーフを有する単離された組換え又は合成タンパク質であって、前記タンパク質が黄色ブドウ球菌から単離されるものであり且つClfAではなく、SdrC、SdrD及びSdrEよりなるタンパク質群のペプチド又は核酸配列であり、SdrCは配列番号3のアミノ酸配列、配列番号4の核酸配列を含有し、SdrDは配列番号5のアミノ酸配列、配列番号6の核酸配列を含有し、SdrEは配列番号7のアミノ酸配列、配列番号8の核酸配列を含有することを特徴とする単離された組換え又は合成タンパク質。
【請求項6】
配列番号4、配列番号6及び配列番号8からなる群の中から選択される配列に緊縮条件下で選択的にハイブリダイズする配列を含有する核酸配列によってコードされる請求項5記載のタンパク質。
【請求項7】
生きている生物体中のベクターから発現されるタンパク質であって、前記ベクターが配列番号4、配列番号6及び配列番号8からなる群の中から選択される配列を含有する核酸配列を有するものである請求項5記載のタンパク質。
【請求項8】
製薬学的に許容し得る担体中の請求項5記載のタンパク質。
【請求項9】
固相上に固定化されている請求項5記載のタンパク質。
【請求項10】
配列TYTFTDYVDに対する単離された抗体又は抗体断片。
【請求項11】
共通TYTFTDYVDモチーフを有するタンパク質又はタンパク質断片に対する抗体又は抗体断片であって、前記タンパク質が黄色ブドウ球菌から単離されるものであり且つClfAではなく、SdrC、SdrD及びSdrEよりなるタンパク質群のペプチド又は核酸配列であり、SdrCは配列番号3のアミノ酸配列、配列番号4の核酸配列を含有し、SdrDは配列番号5のアミノ酸配列、配列番号6の核酸配列を含有し、SdrEは配列番号7のアミノ酸配列、配列番号8の核酸配列を含有することを特徴とする抗体又は抗体断片。
【請求項12】
共通TYTFTDYVDモチーフを有するタンパク質又はタンパク質断片を含有する診断用キットであって、前記タンパク質が黄色ブドウ球菌から単離されるものであり且つClfAではなく、SdrC、SdrD及びSdrEよりなるタンパク質群のペプチド又は核酸配列であり、SdrCは配列番号3のアミノ酸配列、配列番号4の核酸配列を含有し、SdrDは配列番号5のアミノ酸配列、配列番号6の核酸配列を含有し、SdrEは配列番号7のアミノ酸配列、配列番号8の核酸配列を含有することを特徴とする、試料中の黄色ブドウ球菌又は黄色ブドウ球菌細胞外マトリックス結合タンパク質を検出する診断用キット。
【請求項13】
共通TYTFTDYVDモチーフを有するタンパク質又はタンパク質断片に対する抗体又は抗体断片を含有する診断用キットであって、前記タンパク質が黄色ブドウ球菌から単離されるものであり且つClfAではなく、SdrC、SdrD及びSdrEよりなるタンパク質群のペプチド又は核酸配列であり、SdrCは配列番号3のアミノ酸配列、配列番号4の核酸配列を含有し、SdrDは配列番号5のアミノ酸配列、配列番号6の核酸配列を含有し、SdrEは配列番号7のアミノ酸配列、配列番号8の核酸配列を含有することを特徴とする試料中の黄色ブドウ球菌又は黄色ブドウ球菌細胞外マトリックス結合タンパク質を検出する診断用キット。
【請求項14】
SdrC、SdrD、SdrE及びその活性断片からなる群の中から選択されるタンパク質を含有してなる、黄色ブドウ球菌感染症治療又は予防用医薬組成物。
【請求項15】
感染症が敗血症、骨髄炎、乳腺炎又は心内膜炎である請求項14記載の組成物。
【請求項16】
SdrC、SdrD、SdrEからなる群の中から選択されるタンパク質又はその活性断片を含有してなる黄色ブドウ球菌感染症治療又は予防用医薬組成物であって、細胞外マトリックスに対する黄色ブドウ球菌の結合を阻害するための医薬組成物。
【請求項17】
SdrC、SdrD、SdrEからなる群の中から選択されるタンパク質又はその活性断片に対する抗体又は抗体断片を含有してなる、黄色ブドウ球菌感染症治療又は予防用医薬組成物。
【請求項18】
SdrC、SdrD、SdrEからなる群の中から選択されるタンパク質又はその断片を含有してなる組成物の使用であって、内在医療器具の黄色ブドウ球菌感染症を減少させるために医療器具を被覆するための使用。
【請求項19】
医療器具が血管移植片、血管内ステント、静脈カテーテル、人工心臓弁及び心臓補助装置からなる群の中から選択されるものである請求項18記載の使用。
【請求項20】
SdrC、SdrD、SdrEからなる群の中から選択されるタンパク質あるいはその活性断片、サブドメイン又はコード化遺伝子を含有してなる免疫応答誘発用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図5F】
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【図5G】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図7G】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図8G】
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【図8H】
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【図8I】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図9G】
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【図9H】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−178737(P2010−178737A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24144(P2010−24144)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【分割の表示】特願2000−522250(P2000−522250)の分割
【原出願日】平成10年11月25日(1998.11.25)
【出願人】(500226306)インヒビテツクス,インコーポレイテツド (2)
【出願人】(500226317)
【出願人】(500226328)
【Fターム(参考)】