説明

黄色分散染料の製造法

【課題】耐光性に優れた黄色分散染料の安価、簡便且つ工場生産可能な製造法を提供する。
【解決手段】4−メトキシ−2−ニトロアニリンのアミノ保護体のニトロ基をアミノ基へと還元し、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物を反応させ、次いでアミノ基の保護基Rを脱保護後、環化することを特徴とする下記式左で表される化合物を70質量%以上含有し、下記式右の化合物を30質量%以下含有する黄色分散染料の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黄色分散染料の製造法に関する。更に詳しくは、本発明は耐光堅牢度に優れた黄色分散染料の簡便な製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル繊維素材はその優れた耐熱性及び耐光性から自動車用内装素材としての用途が増加しており、その着色剤である分散染料に対しても一段と優れた耐光堅牢度が求められるようになっている。自動車用内装用途の中でも自動車シートとしての用途では、耐熱性を有するウレタンフォーム上にポリエステル繊維材料を張ってあることからシートが80℃以上の高温になることも少なくなく、更に過酷な条件である高温下での耐光堅牢度に優れる染料が求められている。通常の耐光堅牢度評価試験は、JIS L0842に規定する温度63±3℃で行うが、自動車用内装用途では、例えば、83±3℃の高温下で、しかも300〜600時間の露光に耐える耐光堅牢度が要求されている。
【0003】
ディスパース・イエロー71(C.I.Disperse Yellow71)は耐光堅牢度に優れた黄色分散染料としてポリエステル繊維の染色に使用されている。しかしながら、複数の購入先の市販品を購入し耐光堅牢度試験を行ったところ、耐光堅牢度は3−5級とばらついていた。
該黄色分散染料の製造法としては、特許文献1及び非特許文献1に4−メトキシ−2−ニトロアニリンからの製造法が記載されているが、この方法で製造した黄色分散染料の耐光試験を行ったところ、耐光堅牢度は3−4級と悪かった。ここで得られた黄色分散染料中の式(2)で表される化合物の含量が約25%、式(3)で表される化合物の含量が約75%であった。又、特許文献2には、5−クロロ−2−ニトロアニリンから製造する方法が記載されているが、原料である5−クロロ−2−ニトロアニリンは高価で、メトキシ基を導入する工程も必要であり経済的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51−130424号公報
【特許文献2】米国特許第3459489号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Chem.Research,(S),p485−487(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
市販のディスパース・イエロー71の耐光堅牢度評価試験の結果から、耐光堅牢度不良の原因は式(3)で表される化合物にあることが想定されたため、式(2)で表される化合物を優先して生成させ耐光堅牢度に優れた黄色分散染料の製造法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、自動車用内装用途のような過酷な条件下で使用可能な耐光堅牢度に優れる黄色分散染料の製造法について鋭意検討した結果、式(2)で表される化合物を70質量%以上含有し、式(3)で表される化合物を30質量%以下含有する黄色分散染料を得る製造法を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下の1)〜5)に関する。
1)下記式(1)で表される化合物のニトロ基をアミノ基へと還元し、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物を反応させ、次いでアミノ基の保護基Rを脱保護後、環化することを特徴とする下記式(2)で表される化合物を70質量%以上含有し、下記式(3)で表される化合物を30質量%以下含有する黄色分散染料の製造法。
【化1】

[式中、Rはアミノ基の保護基を示す]
【化2】

【0009】
2)アミノ基の保護基Rが(C1〜C5)アルコキシカルボニル基、(C1〜C5)アシル基又は(C1〜C5)アルキルスルホニル基である前記1)に記載の製造法。
3)アミノ基の保護基Rがアセチル基又はn−プロピオニル基である前記1)又は2)に記載の製造法。
【0010】
4)ニトロ基のアミノ基への還元を塩酸又は酢酸と、鉄粉にて、必要に応じて水、イソプロピルアルコール又はジメチルホルムアミドを加え、50〜150℃で行うことを特徴とする前記1)〜3)のいずれか一項に記載の製造法。
5)1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物との反応をイソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、水及び酢酸からなる群から選択される少なくとも一つの溶媒中で、50〜150℃に加熱することを特徴とする前記1)〜4)のいずれか一項に記載の製造法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法で製造された黄色分散染料は、従来の方法で製造された黄色分散染料より優れた耐光堅牢度を有しており、又、安価、簡便且つ工場生産可能であり、該黄色分散染料により染色されたポリエステル、ナイロン等の繊維に優れた耐光堅牢度を付与するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の前記式(2)で表される化合物を70質量%以上含有し、前記式(3)で表される化合物を30質量%以下含有する黄色分散染料の製造法は、前記式(1)で表される化合物のニトロ基をアミノ基へと還元し、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物を反応させ、次いでアミノ基の保護基Rを脱保護後、環化することを特徴とする。
前記式(1)で表される化合物は、公知で安価に市販されている下記式(4)で表される4−メトキシ−2−ニトロアニリンのアミノ基を保護基Rで保護して得られる。
【化3】

【0013】
該保護基としては、脱保護前の続く反応条件下で安定であり一般にアミノ基の保護に使用される基であれば特に限定されず、例えば、プロテクティブ・グル−プス・イン・オ−ガニック・シンセシス(PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS)[第2版、T.W.Greene等著、ジョン・ワイリ−・アンド・サンズ(JOHN WILEY & SONS)発行、1991年]等に記載されている基が使用可能である。中でも、ウレタン型保護基、アシル型保護基、スルホニル型保護基又はベンジル型保護基等が好ましい。
【0014】
該ウレタン型保護基とは、Rとして、例えば、ベンジルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよい(C1〜C5)アルコキシカルボニル基、パラメトキシベンジルオキシカルボニル基、パラニトロベンジルオキシカルボニル基等が挙げられ、置換基を有していてもよい(C1〜C5)アルコキシカルボニル基が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基等が特に好ましい。
【0015】
該アシル型保護基としては特に限定されず、Rとしては、例えば、ベンゾイル基、置換基を有していてもよい(C1〜C5)アシル基等が挙げられ、置換基を有していてもよい(C1〜C5)アシル基が好ましく、例えば、ホルミル基、アセチル基、n−プロピオニル基、イソブチロイル基、メトキシアセチル基、フルオロアセチル基、ジフルオロアセチル基、トリフルオロアセチル基、クロロアセチル基、ピバロイル基等が挙げられ、アセチル基、n−プロピオニル基が特に好ましい。又、アミノ基をフタルイミドとして保護してもよい。
【0016】
該スルホニル型保護基としては特に限定されず、Rとしては、例えば、p−トルエンスルホニル基、(C1〜C5)アルキルスルホニル基等が挙げられ、(C1〜C5)アルキルスルホニル基が好ましく、例えば、メタンスルホニル基、nープロパンスルホニル基等が挙げられる。
該ベンジル型保護基とは、Rとして、例えば、ベンジル基が挙げられる。又、ジベンジル基により保護してもよい。
【0017】
アミノ基の保護は、前記式(4)で表される4−メトキシ−2−ニトロアニリンのアミノ基を文献公知の方法を応用して行えばよい。
例えば、アシル型保護基の導入について説明すると、導入するアシル基の対応する酸ハロゲン化物又は酸無水物等を用い、通常、有機溶媒中で、必要に応じて塩基を加えて室温下、1〜2時間撹拌し行う。
使用する酸ハロゲン化物又は酸無水物の量は、4−メトキシ−2−ニトロアニリンに対してモル比で1.0〜3.0倍、好ましくは1.0〜2.0倍、更に好ましくは1.0〜1.5倍である。
【0018】
該酸ハロゲン化物として好ましくは、例えば、塩化アセチル、臭化アセチル、塩化n−プロピオニル、塩化nーブチリル、塩化ベンゾイル等が挙げられ、より好ましくは塩化アセチル、臭化アセチル、塩化n−プロピオニルが挙げられる。
該酸無水物として好ましくは、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、クロロ酢酸無水物、ジクロロ酢酸無水物、無水安息香酸が挙げられ、より好ましくは無水酢酸、プロピオン酸無水物が挙げられる。
反応に使用してもよい該塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の無機塩基、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ピペリジン、ピペラジン等の有機塩基が挙げられる。好ましくは、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トリエチルアミン、ピリジン等であり、より好ましくは炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等である。
【0019】
アミノ基の保護に使用される該溶媒は、通常の有機合成に用いられる溶媒を使用することが出来、例えば、ベンゼン、トルエンによって代表される芳香族系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチルに代表されるエステル系溶媒、ジメチルスルホキシドによって代表されるスルホキシド系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドによって代表されるアミド系溶媒、エチルエーテル、ジメトキシエタンによって代表されるエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロエタンによって代表されるハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンに代表されるケトン系溶媒等が挙げられる。好ましくはケトン系溶媒が挙げられる。これらの群から選択される少なくとも一つ以上の溶媒を用いて反応を行うことが出来る。又、無溶媒で反応を行うことも出来る。
溶媒を使用する場合、その溶媒量は4−メトキシ−2−ニトロアニリンに対して重量比で0.1〜10倍程度、好ましくは0.5〜7.0倍程度、更に好ましくは1.0〜5.0倍程度である。
【0020】
HPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて反応をモニタリングし、原料の消失によって反応の終了を確認して、その後、反応液を濾過し水洗を繰り返して4−メトキシ−2−ニトロアニリンのアシル化物を得ることが出来る。
【0021】
本発明の製造法における前記式(1)で表される化合物(以下、A体と記載する)のニトロ基をアミノ基へと還元する工程について説明する。
ニトロ基の還元は一般的に行われる還元法にて行うことが出来、例えば、水素添加法、鉄粉法等が挙げられる。設備面、経済性を勘案すると酸と鉄粉にて還元する鉄粉法が好ましい。鉄粉法で鉄粉と共に使用される酸としては、塩酸、臭化水素酸等の無機酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸が挙げられ、好ましくは塩酸、酢酸が挙げられる。
【0022】
還元反応には過剰の酸を溶媒として使用してもよいが、必要に応じて下記の溶媒も併せて使用してもよい。該溶媒としてはベンゼン、トルエンによって代表される芳香族系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチルに代表されるエステル系溶媒、ジメチルスルホキシドによって代表されるスルホキシド系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドによって代表されるアミド系溶媒、エチルエーテル、ジメトキシエタンによって代表されるエーテル型溶媒、クロロホルム、ジクロロエタンによって代表されるハロゲン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンに代表されるケトン系溶媒、メタノール、エタノール若しくはn−プロパノールによって代表されるアルコール系溶媒、水が挙げられる。中でも好ましくはアミド系溶媒、アルコール系溶媒、水が挙げられる。更に好ましくはジメチルホルムアミド、イソプロピルアルコール、水が挙げられる。又、溶媒としてこれらの群から選択される溶媒を混合して用いてもよい。
【0023】
溶媒中に鉄粉と酸を加えて加熱し、撹拌下、A体を少量ずつ添加し、3−アミノ体(下記式(5)で表される化合物;以下、B体と記載する)を得る。この際、鉄粉はA体に対してモル比で1.0〜10.0倍、好ましくは1.5〜7.0倍、更に好ましくは2.0〜5.0倍になるように使用し、50℃〜150℃、好ましくは80℃〜100℃にて反応させる。HPLCにて反応をモニタリングし、原料の消失によって反応の終了を確認して、その後、反応液を濾過し、B体の溶液を得る。B体は単離してもよいが、その溶液のまま次の反応に用いてもよい。
【化4】

[式中、Rはアミノ基の保護基を示す]
【0024】
得られたB体に、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物を加えてアミノ基と反応させ、イミド体(下記式(6)で表される化合物;以下、C体と記載する)を得る。
【0025】
この際、反応促進剤として塩基又は塩基性酸化物を加えてもよい。
該塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の無機塩基、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ピペリジン、ピペラジン等の有機塩基が挙げられる。
該塩基性酸化物としては、例えば、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。
中でも好ましくは炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、トリエチルアミン、ピリジン、ピペリジン、ピペラジン、酸化マグネシウム、酸化カルシウムが挙げられ、より好ましくは炭酸水素ナトリウム、ピリジン、ピペリジン、酸化マグネシウムが挙げられる。
又、反応促進剤としてこれらの群から選択される化合物を混合して用いてもよい。
【0026】
1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物の使用量は、前記のA体に対してモル比で0.5〜3.0倍、好ましくは0.7〜2.0倍、更に好ましくは0.8〜1.5倍であり、50℃〜150℃、好ましくは80℃〜100℃に加熱し撹拌下で反応させる。
【0027】
HPLCにて反応をモニタリングし、原料の消失によって反応の終了を確認して、その後、反応液から生成物を濾取し水洗を繰り返してC体を得ることも出来る。
【化5】

[式中、Rはアミノ基の保護基を示す]
【0028】
次に、得られたC体のアミノ基の保護基Rの脱保護を行い環化して黄色分散染料を得る。
【0029】
アミノ基の保護基Rの脱保護は保護基に合わせた公知の方法を応用して行えばよい。その際には、通常、反応条件に適した溶媒を使用する。該溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンによって代表される芳香族系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチルに代表されるエステル系溶媒、ジメチルスルホキシドによって代表されるスルホキシド系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドによって代表されるアミド系溶媒、エチルエーテル、ジメトキシエタンによって代表されるエーテル系溶媒、クロロホルム、ジクロロエタンによって代表されるハロゲン系溶媒、酢酸、プロピオン酸に代表されるカルボン酸系溶媒、アセトン、メチルエチルケトンに代表されるケトン系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノールによって代表されるアルコール系溶媒が挙げられる。又、水を用いてもよい。好ましくはカルボン酸系溶媒、アルコール系溶媒、水が挙げられる。より好ましくは、酢酸、イソプロパノール、水が挙げられる。
又、これらの群から選択される溶媒を混合して用いてもよい。
【0030】
脱保護反応は、例えば、前記溶媒中で強酸又は強塩基にて行ってもよいが、酸性条件が好ましい。例えば、Rがアシル基の場合、C体に対し塩酸を1.0〜10倍量、好ましくは2.0〜8.0倍量、更に好ましくは3.0〜7.0倍量使用し、50℃〜150℃、好ましくは80℃〜100℃に加熱し、撹拌して反応させればよい。
脱保護後に加熱して環化反応に付してもよいが、脱保護反応を加熱して行うことにより脱保護後に環化が起き、式(2)で表される黄色分散染料を主生成物として得るのが好ましい。この際に、式(3)で表される黄色分散染料が副生する。
HPLCにて反応をモニタリングし、原料の消失によって反応の終了を確認して、その後、反応液から生成物を濾取し、水洗を繰り返して黄色分散染料(式(2)及び式(3)で表される化合物の混合物)を得ることが出来る。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。実施例において、特に断りのない限り、部は重量部を、%は重量%を意味する。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は後記のHPLC分析により確認することが出来る。
【0032】
実施例1
酢酸131部に4−メトキシ−2−ニトロアニリン50部を常温で攪拌しながら加え、無水酢酸36部を攪拌しながら滴下し、35℃に加温後、35〜40℃で1時間攪拌した。反応後、攪拌しながら水400部を加え晶析を行った。結晶を濾過・水洗いし、乾燥を行い、A体(Rがアセチル基)57.5部を得た。次に、ジメチルホルムアミド56.6部と水60部に鉄粉61.1部と酢酸8.2部を加えて85℃に加熱し、85〜90℃で1時間攪拌する。得られたA体全量をジメチルホルムアミド169.9部に溶解した後、この溶解液を1時間かけて滴下し、85〜90℃で30分反応した。反応終了後、すぐに鉄粉を濾別し、ジメチルホルムアミド56.6部で残った反応液を鉄粉から洗い出した。得られたB体(Rがアセチル基)を含む反応液と洗液を合わせ(約350部)、攪拌しながら1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物54.2部を加え、1時間で95℃まで加熱した。95〜100℃で5時間反応後、35℃まで放冷した。その後、攪拌しながら水1000部を加え晶析を行った。結晶を濾過・水洗いし、C体(Rがアセチル基)の湿ケーキ190部を得た。次に、イソプロパノール1000部に攪拌しながら得られたC体全量を加え、水660部と35%塩酸145部を加えて82℃まで加熱した。還流下82℃で10時間反応し、室温まで放冷した。25%苛性ソーダ水溶液約245部を加えてpH8〜9に調整後、1時間攪拌した。攪拌しながら水500部を加え、結晶を濾過・水洗いし乾燥を行い、黄色分散染料63.3部を得た。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は表1に示す。
【0033】
実施例2
酢酸100部に4−メトキシ−2−ニトロアニリン34部を常温で攪拌しながら加え、無水酢酸30部を攪拌しながら0〜40℃で滴下し、20〜40℃で1時間攪拌した。反応後、攪拌しながら水500部を加え晶析を行った。結晶を濾過・水洗いし、乾燥を行い、A体(Rがアセチル基)38.6部を得た。次に、イソプロピルアルコール111部と水40部に鉄粉16部と酢酸2.8部を加えて85℃に加熱し、85〜90℃で1時間攪拌する。得られたA体20部をイソプロピルアルコール100部でスラリーとした後、このスラリー液を1時間かけて滴下し、85〜90℃で30分反応した。反応終了後、すぐに鉄粉を濾別し、イソプロピルアルコール50部で残った反応液を鉄粉から洗い出した。得られたB体(Rがアセチル基)を含む反応液と洗液を合わせ(約300部)、攪拌しながら1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物18.9部を加え、1時間で95℃まで加熱した。95〜100℃で23時間反応後、35℃まで放冷した。その後、攪拌しながら水500部を加え晶析を行った。結晶を濾過・水洗いし、C体(Rがアセチル基)の湿ケーキ55部を得た。次に、イソプロパノール68部に攪拌しながら得られたC体8.7部を加え、水68部と35%塩酸26部を加えて82℃まで加熱した。還流下82℃で11時間反応し、室温まで放冷した。25%苛性ソーダ水溶液約49部を加えてpH8〜9に調整後、1時間攪拌した。攪拌しながら水500部を加え、結晶を濾過・水洗いし乾燥を行い、黄色分散染料7.2部を得た。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は表1に示す。
【0034】
実施例3
実施例2と同様にして得られたB体(Rがアセチル基)を含む反応液と洗液を合わせた溶液(約300部)のうち103部に攪拌しながらピペリジン5.2部、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物7.1部を加え、1時間で83℃まで加熱した。81〜83℃で12時間反応後、35℃まで放冷した。その後、攪拌しながら水500部を加え晶析を行った。結晶を濾過・水洗いし、C体(Rがアセチル基)の湿ケーキ35.3部を得た。次に、イソプロパノール49部に攪拌しながら得られたC体6.8部を加え、水49部と35%塩酸19.6部を加えて82℃まで加熱した。還流下82℃で10時間反応し、室温まで放冷した。25%苛性ソーダ水溶液約45部を加えてpH8〜9に調整後、1時間攪拌した。攪拌しながら水500部を加え、結晶を濾過・水洗いし乾燥を行い、黄色分散染料23.7部を得た。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は表1に示す。
【0035】
実施例4
実施例1と同様にして得られたB体(Rがアセチル基)を含む反応液と洗液を合わせた溶液(約350部)のうち105部に攪拌しながら1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物8.1部を加え、1時間で93℃まで加熱した。88〜93℃で11時間反応後、酸化マグネシウム0.4gを添加し35℃まで放冷した。その後、攪拌しながら水500部を加え晶析を行った。結晶を濾過・水洗いし、C体(Rがアセチル基)の湿ケーキ84.5部を得た。次に、イソプロパノール74部に攪拌しながら得られたC体10.2部を加え、水74部と35%塩酸28.7部を加えて82℃まで加熱した。還流下82℃で9時間反応し、室温まで放冷した。その後、攪拌しながら水500部を加え、結晶を濾過・水洗いし乾燥を行い、黄色分散染料8.6部を得た。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は表1に示す。
【0036】
比較例1
中国より入手したディスパース・イエロー71の市販品を比較例1とする。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は表1に示す。
【0037】
比較例2
従来の製造法である特許文献1又は非特許文献1に記載の製造法で4−メトキシ−2−ニトロアニリンから黄色分散染料を得た。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は表1に示す。
【0038】
黄色分散染料の分析法と耐光堅牢度の試験法
実施例1〜4、比較例1〜2の各染料原末30部、デモールRN(分散剤、花王(株)製)40部、ラベリンWP(界面活性剤、第一工業製薬(株)製)30部を混合し、SGI(微粉砕機)を用いて最大粒径5μm以下になるまで微分散化して染料ペーストを得た。
【0039】
HPLC分析条件
モデル:GLSciences GL−7400
カラム:Inertsil ODS−P(5μm)φ4.6x150mm (40℃)
検出器:UV 254nm
移動相及び分離条件:
A:アセトニトリル B:水
A液30%−(5分)→30%−(15分)→90%−(10分)→90%
【0040】
染色条件
前記各染色ペーストにてPET(ポリエチレンテレフタレート)布を染色する。
染色条件(Green Dyeing)
被染物:PETトロピカル
染色濃度:2.0%owf(on weight of fiber)、Disperse Blue BLF 1.0%owf
紫外線吸収剤:KP UV−AL(W)paste 2.0%owf
浴比 1:20、pH4.5
均染剤:KP レベラー AL 0.5g/L
温度、時間:130℃x60分
【0041】
染色後、通常の条件で還元洗浄を行う。
還元洗浄
添加剤:
ハイドロサルファイト:2g/L
苛性ソーダ: 1g/L
活性剤: 1g/L(日華化学製サンモール700E CONC)
温度、時間:80℃×15分
還元洗浄後、被染物を水洗いし乾燥させる。
【0042】
耐光堅牢度試験
JIS L0842に準じて促進型キセノン・アーク:89℃、110MJ(189hrs.)にて行った。JIS L0842に従い等級を評価して表1に示す。等級の数字は大きい方が耐光堅牢度に優れる。
【0043】
表1

【0044】
この結果から明らかなように、比較例1に示す中国の市販品は式(3)で表される化合物がメインで耐光堅牢度は3−4級であり、カーシート等の使用に適さない。又、比較例2に示す従来の製法により得られる黄色分散染料も式(3)で表される化合物がメインで耐光堅牢度が3−4級であり、カーシート等の使用に適さない。これらの染料では式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は25〜29:75〜71である。
一方、本発明の製造法による実施例1〜4の染料の式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物の組成比は92〜86:8〜14であり、式(2)で表される化合物の含量が多く、耐光堅牢度も4−5級とカーシート等の使用に十分可能なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物のニトロ基をアミノ基へと還元し、1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物を反応させ、次いでアミノ基の保護基Rを脱保護後、環化することを特徴とする下記式(2)で表される化合物を70質量%以上含有し、下記式(3)で表される化合物を30質量%以下含有する黄色分散染料の製造法。
【化1】

[式中、Rはアミノ基の保護基を示す]
【化2】

【請求項2】
アミノ基の保護基Rが(C1〜C5)アルコキシカルボニル基、(C1〜C5)アシル基又は(C1〜C5)アルキルスルホニル基である請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
アミノ基の保護基Rがアセチル基又はn−プロピオニル基である請求項1又は2に記載の製造法。
【請求項4】
ニトロ基のアミノ基への還元を塩酸又は酢酸と、鉄粉にて、必要に応じて水、イソプロピルアルコール又はジメチルホルムアミドを加え、50〜150℃で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造法。
【請求項5】
1,8−ナフタレンジカルボン酸無水物との反応をイソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、水及び酢酸からなる群から選択される少なくとも一つの溶媒中で、50〜150℃に加熱することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造法。

【公開番号】特開2012−246404(P2012−246404A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119920(P2011−119920)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)