説明

黄色梅干の製造方法

【課題】簡便な製造工程によって、梅干を従来にない鮮やかな黄色に着色する方法を提供する。ひいては、梅干本来の個体差による色調差が改善され、一定の黄色に着色された梅干を提供することを目的とする。更に、肝臓機能の増強効果等の機能性を持った梅干を提供することを目的とする。
【解決手段】pHを2.0〜3.8に調整したウコン色素分散調味液に塩漬した梅を添加後、24時間以上浸漬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色に着色された梅干の製造方法に関する。詳細には、pH2.0〜3.8のウコン色素分散調味液により鮮やかな黄色に着色された梅干の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
梅干は、古くから保存食として日本の食卓で親しまれているが、市販されている梅干の大多数は紫蘇特有の赤色に着色された梅干である。一方、食品に使用可能な黄色色素としては、紅麹黄色素、ベニバナ黄色素及びクチナシ黄色素などが挙げられるが、これらの色素を用いて梅干を着色した場合は、鮮やかさに欠けるといった課題を抱えていた。
【0003】
色素成分としてクルクミノイド(クルクミン及びクルクミン誘導体)を含有する、ウコンを用いた梅干の製造方法としては、梅を食塩で塩漬けした後に、塩漬け液を除去し、ウコン液に塩漬け梅を浸漬後、ウコン漬けした梅を取り出して乾燥する方法が特許文献1に開示されている。ここで、特許文献1で使用しているウコン液は、ウコン粉末を煎じてエキスを抽出後、抽出液からウコン粉末を除去する工程により製造されている。しかし、ウコン色素の主成分であるクルクミノイドの中で、クルクミンは水に不溶であり、また、水や湯に可溶なクルクミン誘導体は誘導体のうち一部であるため、特許文献1で使用されているウコン液に色素成分はほとんど残存しておらず、製造された梅干は従来の梅干と大差ない色調を有しているに過ぎない。
【0004】
一方、特許文献2には、可溶化剤としてポリソルベートに溶解させたクルクミンの溶液を水性溶媒と混合する工程を有する、水性ウコン色素製剤の調製方法が記載されており、当該ウコン色素製剤を用いて着色できる飲食物の一種として梅漬けが記載されている。しかし、特許文献2で開示されている発明は、書段落[0044]に記載されているとおり、酸性条件下でも不溶物を生じることなく、着色対象物を均一に着色することを目的としている。一方、本発明はウコン色素(クルクミノイド)を水に溶解させることなく分散させた状態で梅干を着色することを特徴としており、かかる方法について特許文献2には何ら教えるところはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−39020号公報
【特許文献2】特許第4206923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、簡便な製造工程によって、従来にない鮮やかな黄色に着色された梅干を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み本発明者らが鋭意研究を行った結果、pH2.0〜3.8のウコン色素分散調味液に塩漬した梅を添加後、24時間以上浸漬することにより、従来にない鮮やかな黄色に着色された梅干を製造できることを見出して本発明に至った。即ち、本発明は下記項目1〜2に挙げる黄色に着色された梅干の製造方法に関する。
【0008】
項1.pH2.0〜3.8のウコン色素分散調味液に塩漬した梅を添加後、24時間以上浸漬することを特徴とする、黄色梅干の製造方法。
項2.クルクミノイドの含量が0.1〜5.0%であるウコンエキスを0.5〜5.0質量%含有する調味液を用いる、項1に記載の黄色梅干の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
塩漬した梅をpH2.0〜3.8のウコン色素分散調味液に24時間以上浸漬させるといった極めて簡便な工程にも関わらず、梅干を従来にない鮮やかな黄色に着色することが可能である。着色された梅干は梅干本来の個体差による色調差が改善され、一定の黄色に着色された梅干を提供することが可能である。更に、ウコン色素の主成分であるクルクミンは、肝臓機能の増強効果が知られており、機能性を持った梅干を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の黄色梅干の製造方法は、pHを2.0〜3.8に調整したウコン色素分散調味液に塩漬した梅を添加後、24時間以上浸漬することを特徴とする。本発明で調味液に用いるウコン色素としては、ウコン根茎またはその乾燥品、あるいはこれらの粉砕品を含水エタノールに浸漬して得られるウコンエキス(抽出物)を用いることができる。当該ウコンエキスは商業上入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ウコンエキスNO.3694」等を挙げることができる。また、クルクミノイド(クルクミン及びクルクミン誘導体)の精製品を一旦エタノール、プロピレングリコールや氷酢酸に分散、溶解させることにより、ウコンエキスを調製することも可能である。調味液に対するウコンエキスの添加量としては、調味液中のクルクミノイドの含量が、0.004〜0.05%となるように添加することが好ましい。例えば、クルクミノイドの含量が0.1〜5.0%、好ましくは0.8〜1.0%の範囲であるウコンエキスを調味液中0.5〜5.0質量%となるように添加することが好ましい。
【0011】
調味液は原材料として水と食塩、調味料、場合によってはさらに食品添加物である甘味料、酸味料、着色料、調味料、糊料、pH調整剤、酸味料を混合して得られる。このとき、本発明では当該調味液をpH2.0〜3.8、好ましくはpH2.3〜3.0の範囲に調整することを特徴とする。ウコン色素の主成分であるクルクミノイドはおおよそpH8以下で不溶であるため、当該調味液中でクルクミノイド(クルクミンおよびクルクミン誘導体)はほとんど溶解せず、分散した状態で存在する。そのため、調味液自体は黄濁したものとなるが、本発明ではあえて、かかる調味液を用いて梅干を浸漬することを特徴とする。一方、従来の黄色製剤であるベニバナ黄色素は、上記酸性条件下においても色素成分が溶解可能であり、着色効率は向上するものと考慮されうるが、ベニバナ黄色素を用いて同様に梅干の着色を試みた場合であっても、ウコン色素と同等の鮮やかさには梅干を着色することができない。
【0012】
調味液に浸漬させる梅は、収穫された梅を洗浄後、塩漬したものであれば梅の種類などに特に限定されることなく常法に従って塩漬された梅を使用することができる。例えば、梅実重量に対し、20wt%程度の食塩を加えて14日間〜1ヶ月程度塩漬した梅を使用することができる。そして塩漬後の梅を調味液に24時間以上、好ましくは96時間以上浸漬することにより、鮮やかな黄色に着色された梅干を製造することができる。ここで、浸漬時間が24時間未満であると着色不十分または着色むらが発生し、また風味の面でも不完全なものとなり、商品価値を損なう。
【0013】
前記で使用されたウコンエキスを含有する調味液(ウコン色素分散調味液)、または調味液に含有されるウコンエキスは、再利用が可能であり、方法としては2つ挙げられる。一つは、使用後の調味液にウコンエキスをはじめ調味液成分のうち浸漬により減少した分を継ぎ足して補填し、続けて浸漬を行うという方法である。もう一つは、調味液中の不溶化したウコンエキスを回収し、含水エタノールを加えること、あるいはpH調整剤でpH8程度にすることで再溶解して、新しい調味液に添加使用する方法である。
【0014】
以上のように、本発明ではpHを2.0〜3.8に調整したウコン色素分散調味液中に塩漬後の梅を添加し、24時間以上浸漬するといった極めて簡便な製造工程にも関わらず、従来にない鮮やかな黄色に着色された梅干を製造することができる。さらに、ウコンエキスを含有する調味液(ウコン色素分散調味液)または調味液中のウコンエキスは回収しての再利用が可能である。
【0015】
本発明の内容を以下の実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0016】
実験例1 黄色梅干の製造方法
表1に示す処方に従って黄色梅干の調味液を調製し、着色調味液2質量部に対し、塩分8%程度に脱塩処理した塩蔵梅1質量部を浸漬して、10℃で7日間保管し、黄色に着色された梅干を製造した。調味液のpHは約2.9となるように調整した(塩蔵梅の漬け込み終了時のpHは約2.6であった)。なお、使用色素は漬け上がり後の梅の着色濃度が同等となるように添加量を調整した。得られた各種黄色梅干について色の鮮やかさについて評価した。結果を表2に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
注1)サンライク※アミノベースNAG*使用
注2)サンライク※アミノベースUR(N)*使用
注3)クルクミノイドの含量が0.8〜0.9%であるウコンエキス「ウコンエキスNO.3694*」を使用した。
注4)サンエロー※NO.1224*使用
注5)サンエロー※NO.3L*使用
注6)サンエロー※NO.2.AU*使用
【0019】
【表2】

【0020】
<評価基準>
黄色味が鮮やかなものから順に+++>++>+>±>−の5段階で評価した。
【0021】
表2より、ウコンエキス中のウコン色素成分であるクルクミノイドはpH2.0〜3.8の範囲でほとんど溶解しないため、実施例1の調味液自体は黄濁していたが、あえてかかる調味液で梅干を浸漬することにより、鮮やかな黄色味に梅干を着色することができた。一方、従来の黄色製剤である紅麹黄色色素やクチナシ黄色素、ベニバナ黄色素を用いて同様に梅干の着色を試みたが、いずれも鮮やかな黄色に着色することはできなかった(比較例1〜3)。また、クチナシ黄色素は酸性で安定性が非常に低く、時間経過と共に色が消滅してしまうため、当該クチナシ黄色素を含有した調味液の再利用が困難である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
極めて簡便な工程にも関わらず、梅干を従来にない鮮やかな黄色に着色することが可能であり、従来にない色調を有する梅干を提供できる。着色された梅干は梅干本来の個体差による色調差が改善され、一定の黄色に着色された梅干を提供することが可能である。更に、ウコン色素の主成分であるクルクミノイド(クルクミンおよびクルクミン誘導体)は、肝臓機能の増強効果が知られており、機能性を持った梅干を提供することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH2.0〜3.8のウコン色素分散調味液に塩漬した梅を添加後、24時間以上浸漬することを特徴とする、黄色梅干の製造方法。
【請求項2】
クルクミノイドの含量が0.1〜5.0%であるウコンエキスを0.5〜5.0質量%含有する調味液を用いる、項1に記載の黄色梅干の製造方法。