説明

黒原着ポリエステル系繊維構造物およびその製造方法

【課題】優れた深色性を有する繊維構造物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】(1) 有機色素を含有し、かつ分散染料で染色されている黒原着ポリエステル系繊維構造物。
(2)該繊維構造物の表面に、フッ素系化合物および/またはシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜を有する黒原着ポリエステル系繊維構造物。
(3) 有機色素を含有するポリエステル系繊維構造物を、さらに分散染料で染色する黒原着ポリエステル系繊維構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、深色性に優れる黒原着ポリエステル系繊維構造物およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ポリエステル系繊維などの合成繊維は優れた物理的特性および化学的特性を有しているため一般衣料素材として広く使用されている。しかし、ウール、絹などの天然繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維に比べ鮮明性、濃色の深み、発色性が劣るという欠点が有り、改善が望まれている。このため、従来からポリエステルポリマーに顔料や染料を混合分散させる原着方法が種々検討されている。例えばカーボンブラックをポリエステルに添加混合する黒原着繊維が一般的に知られており、耐候性、摩擦堅牢度に優れているため、衣料用、産業資材用として広く使用されている。しかしながら、色相の鮮明性には劣るといった問題があった。
【0003】また、従来から染色仕上げ加工工程において、繊維表面をウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂などの低屈折率樹脂で被覆する方法が一般的に知られている。例えば特開昭56−73175号公報には濃色に着色された繊維表面をウレタン系樹脂で被覆する方法が提案されている。また、特開平1−118684号公報にはポリウレタンエマルジョンと重合させた屈折率1.5以下の特定の水性樹脂組成物からなる濃色化剤と、メチロール基あるいはエポキシ基を有する水溶性熱硬化性樹脂を必須成分として含有する処理浴で処理し、繊維表面に皮膜を形成させる方法が提案されている。しかしながら、上記のようなウレタン系樹脂で繊維表面を被覆する方法は、深色性は向上するものの染料の泣き出しによる堅牢度の低下は避けられない問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、前記のような従来技術の問題点を解消することにあり、まず第1の目的としては、優れた深色特性を有する繊維構造物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】さらには、深色特性に加え、耐候性、摩擦堅牢度も改善された繊維構造物およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の繊維構造物は、前記課題を解決するため以下の構成を有する。
【0007】すなわち、有機色素を含有し、かつ分散染料で染色されている黒原着ポリエステル系繊維構造物である。
【0008】また、本発明の黒原着ポリエステル系繊維構造物の製造方法は以下の構成を有する。
【0009】すなわち、有機色素を含有するポリエステル系繊維構造物を、さらに分散染料で染色する黒原着ポリエステル系繊維構造物の製造方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明の黒原着ポリエステル系繊維構造物は、有機色素を含有し、さらに分散染料で染色されたものである。
【0011】本発明で用いられる有機色素とは、顔料または染料であって、いずれを用いてもよく、好ましくは可溶性の黒色染料であり、色相、耐熱性の観点からニグロシンおよび/またはその誘導体を好ましく用いることができる。ニグロシンまたはその誘導体は、ニトロベンゼン、アニリン、アニリン塩酸塩を鉄または銅の存在下に160〜180℃で加熱することにより得られるもので、ニグロシンスピリットソルブル(C.I.ソルベントブラック5)が代表的なものであり、このものをアルカリ処理または脂肪酸と反応させて得られるニグロシンオイルソルブル(C.I.ソルベントブラック7)、また、ニグロシンスピリットソルブルをスルホン化した水溶性タイプ(C.I.アシッドブラック2)などを用いることができるが、これに限るものではない。また、これらの化合物を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0012】本発明で用いられる分散染料は、ポリエステル繊維を染色できるものであれば、特に限定されることなく用いることができる。さらに、本発明に用いる有機色素と分散染料は、その組み合わせにより繊維構造物として、黒の色相になるものであればよく、有機色素、分散染料のそれぞれについては、いかなる色相のものを用いても構わない。例えば、補色関係にあるものを用いることも好ましい。
【0013】本発明の黒原着ポリエステル系繊維構造物においては、さらに前記した繊維構造物の繊維表面にフッ素系化合物および/またはシリコーン系化合物を主体とする重合体の皮膜を有することが、深色性の点でさらに好ましい。
【0014】フッ素系化合物としては、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合物、ポリペンタデカフルオロオクチルアクリレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフルオロエチルアクリレート、ポリトリフルオロエチルアクリレート、ポリトリフルオロクロロエチレン、ポリトリフルオロイソプロピルメタクリレート、ポリトリフルオロエチルメタクリレートなどを用いることができるが、これに限るものではない。
【0015】シリコーン系化合物としては、ポリジメチルシラン、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーンなどを用いることができるが、これに限るものではない。
【0016】本発明では、これらのフッ素系化合物、シリコーン系化合物を併用またはいずれか一方を用いるものであり、それぞれのポリマー、モノマー、反応中間体などを単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0017】また、本発明において、前記した重合体皮膜の洗濯やドライクリーニングに対する耐久性を向上させる観点から、繊維表面に、メチロール基を有する化合物を重合成分としてなる重合体またはアクリル酸エステル重合体を介して、前記したフッ素系化合物およびシリコーン系化合物を主体とする重合体の皮膜を有するものが好ましい。メチロール基を有する化合物としては、メチロール尿素系、メチロールメラミン系、メチロールエチレン尿素系、メチロールトリアゾン系、メチロールウロン系、メチロールグリオキザール系、メチロールプロピレン尿素系などを用いることができるが、これに限るものではない。アクリル酸エステル重合体としては、ポリブチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルアクリレートなどを用いることができるが、これに限るものではない。
【0018】また、本発明において、該重合体皮膜の屈折率が1.5以下であることが、深色性向上の観点から好ましい。
【0019】また、本発明において、該重合体皮膜中にイオン性界面活性剤が存在することが好ましい。イオン性界面活性剤としては、アルキルスルホン酸型、アルキル硫酸エステル型、アルキルリン酸エステル型などのアニオン系界面活性剤、第4級アンモニウム塩型、アミン塩型、塩酸グアニジンなどのカチオン系界面活性剤などを用いることができるが、これに限るものではない。これらのイオン性界面活性剤が前記した重合体皮膜中に存在することにより、一時的な帯電防止性を付与できると共に、該重合体の均一な被膜化が可能となり、深色性をより向上させることができる。
【0020】本発明の黒原着ポリエステル系繊維構造物のL値(明度)は、JISに規定された値であり、8.5〜12であることが、優れた深色特性を有する点で好ましい。
【0021】本発明におけるポリエステルとは、繊維を形成するものであればどの様なものでも良く、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを挙げることができ、第3成分として、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ポリエチレングリコール、アジピン酸、ビスフェノールAなどが共重合されたものであってもよい。
【0022】本発明におけるポリエステル系繊維構造物とは、織物、編物および不織布などをいい、綿、ウールなどの天然繊維との混紡、交撚、交織、交編などを施したものも含まれるが、これらに限られるものではない。
【0023】本発明の黒原着ポリエステル系繊維構造物の製造方法において、ポリエステル系繊維に有機色素を含有させる方法としては、ポリエステル重合時またはチップ化前に有機色素を添加する方法、有機色素を含むマスターチップを予め作っておき、紡糸時にベースポリマーにチップ状態あるいは溶融状態でブレンドする方法、あるいは有機色素を含む液状体を作っておき紡糸時にブレンドする方法など一般的な原着方法によって有機色素を含有させることができる。
【0024】また、分散染料で染色する方法は、後染め工程における捺染、浸染のいずれであってもよい。
【0025】本発明における、有機色素の含有量は、深色性能を優れたものとする観点から、繊維重量に対して0.1〜10重量%添加されていることが好ましい。
【0026】本発明の繊維構造物の製造方法は、さらに前記した黒原着ポリエステル系繊維構造物に、フッ素系化合物とシリコーン系化合物からなる混合溶液、あるいはエマルジョンをパディング、スプレー、印捺などの方法で付与した後、乾熱、スチーミング、過熱蒸気による加熱処理を行い、繊維表面に重合体皮膜を形成させるものである。また、メチロール基を有する化合物またはアクリル酸エステル化合物からなる溶液を付与する場合には、前記混合溶液、あるいはエマルジョンを付与するに先立って、同様な方法で処理してもよいし、前記混合溶液、あるいはエマルジョンと同浴で処理してもよい。また、イオン性界面活性剤は、前記混合溶液あるいはエマルジョンと同浴で処理することが、均一被膜化による深色性向上の観点から好ましい。
【0027】本発明においては、深色性能を優れたものとする観点から、重合体皮膜が、繊維構造物に対して0.1〜10重量%付与されていることが好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0028】また、本発明で用いる処理液には、必要に応じて浸透剤、仕上げ加工剤、例えば、難燃剤、抗菌・防臭剤、撥水・防汚剤などを添加してもよい。
【0029】本発明のポリエステル系繊維構造物は、学生服、婦人・紳士用途、和装品、裏地などに用いられるが、特にブラックフォーマル用途に好適に用いられる。
【0030】
【実施例】以下、本発明を実施例をあげて、さらに具体的に説明する。
【0031】なお、実施例および比較例における測定値は、次の方法で得たものである。
<深色性>深色性は、SMカラーコンピューター(スガ試験機製)を用い、明度L値を求めた。L値は濃色ほど値が小さく、淡色ほど値が大きくなる。
<摩擦堅牢度>JIS L 0849に規定の方法に準じて、乾燥時と湿潤時を試験し、汚染用グレースケールを用いて級判定した。
【0032】実施例1有機色素として、C.I.ソルベントブラック5を1重量%含有するポリエチレンテレフタレートを用い、溶融紡糸した後、延伸して83デシテックス36フィラメントの延伸糸を得た。次いでこの延伸糸にダブルツイスターにより1,800回/mのS撚をかけ、加撚糸とした。次いでこの加撚糸をタテ糸、ヨコ糸に用いて織密度タテ115本/2.54cm、ヨコ58本/2.54cmの朱子織物に製織した。
【0033】次いでリラックス精練(98℃、20分)、中間セット(180℃、30秒)後、市販のブラック染料(“ダイアニックスブラックBG−FS”)で染色した後、還元洗浄(80℃、20分)を行い、水洗し、乾燥した。
【0034】表1に示すように、深色性、摩擦堅牢度がともに良好な繊維構造物が得られた。
【0035】実施例2有機色素として、C.I.ソルベントブラック7を1重量%含有するポリエチレンテレフタレートを用いた以外は、実施例1と全く同じ処理を行った。
【0036】表1に示すように、深色性、摩擦堅牢度がともに良好な繊維構造物が得られた。
【0037】実施例3実施例1と同じ朱子織物の黒染色物を用い、下記に示す配合で調液した処理液に浸漬し、マングルで絞り率100重量%の処理液を付着させた後、120℃で3分間乾燥し、次いで160℃で30秒間熱処理を行った。
【0038】
“マックスガードEC243” 4重量% (京絹化成製、フッ素系撥水剤、屈折率1.38)
“トーレシリコンSM8702” 1重量% (東レシリコン社製、アミン変性ジメチルポリシロキサン、屈折率1.48)
“スミテックスレジンM−3” 0.1重量% (住友化学製、トリメチロールメラミン)
“スミテックスアクセレーター” 0.1重量% (住友化学製、トリメチロールメラミン用触媒)
“ナイスポールNF20” 1重量% (日華化学製、カチオン系帯電防止剤)
表1に示すように、深色性、摩擦堅牢度がともに良好な繊維構造物が得られた。
【0039】実施例4実施例1と同じ朱子織物の黒染色物を用い、下記に示す配合で調液した処理液を用いた以外は、実施例3と全く同じ処理を行った。
【0040】
“アサヒガードAG480” 4重量% (明成化成製、フッ素系撥水剤、屈折率1.38)
“トーレシリコンSM8702” 1重量% (東レシリコン社製、アミン変性ジメチルポリシロキサン、屈折率1.48)
“スミテックスレジンAMH” 0.5重量% (住友化学製、アクリル酸エステル樹脂)
“デレクトールLM3” 1重量% (明成化成製、アニオン系帯電防止剤)
表1に示すように、深色性、摩擦堅牢度がともに良好な繊維構造物が得られた。
【0041】比較例1有機色素が非含有のポリエチレンテレフタレート100%の丸断面繊維をタテ糸、ヨコ糸に使用した朱子織物の黒染色物を用いた以外は、実施例1と全く同じ処理を行った。
【0042】表1に示すように、深色性が劣ったものが得られた。
【0043】
【表1】


【0044】
【発明の効果】本発明によれば、優れた深色性を有し、しかも耐候性、摩擦堅牢度が改善された繊維構造物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】有機色素を含有し、かつ分散染料で染色されている黒原着ポリエステル系繊維構造物。
【請求項2】該繊維構造物の表面に、フッ素系化合物および/またはシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜を有することを特徴とする請求項1に記載の黒原着ポリエステル系繊維構造物。
【請求項3】該有機色素がニグロシンおよび/またはその誘導体である請求項1または2に記載の黒原着ポリエステル系繊維構造物。
【請求項4】請求項2において、該繊維構造物の表面に、メチロール基を有する化合物からなる重合体またはアクリル酸エステル重合体を介して、フッ素系化合物および/またはシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜を有する黒原着ポリエステル系繊維構造物。
【請求項5】重合体皮膜の屈折率が1.5以下である請求項2〜4のいずれかに記載の黒原着ポリエステル系繊維構造物。
【請求項6】該重合体皮膜中にイオン性界面活性剤が存在する請求項2〜5のいずれかに記載の黒原着ポリエステル系繊維構造物。
【請求項7】該繊維構造物のL値(明度)が8.5〜12である請求項1〜6のいずれかに記載の黒原着ポリエステル系繊維構造物。
【請求項8】有機色素を含有するポリエステル系繊維構造物を、さらに分散染料で染色する黒原着ポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【請求項9】該繊維構造物にフッ素系化合物および/またはシリコーン系化合物を主体とする皮膜を付与する請求項8に記載の黒原着ポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【請求項10】該有機色素がニグロシンおよび/またはその誘導体である請求項8または9記載の黒原着ポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【請求項11】請求項9において、メチロール基を有する化合物またはアクリル酸エステル化合物を含む皮膜を介して、該フッ素系化合物および/またはシリコーン系化合物を主体とする皮膜を設けることを特徴とする繊維構造物の製造方法。
【請求項12】該フッ素系化合物および/またはシリコーン系化合物を主体とする皮膜に、イオン性界面活性剤を含む請求項9〜11のいずれかに記載の黒原着ポリエステル系繊維構造物の製造方法。

【公開番号】特開2001−271277(P2001−271277A)
【公開日】平成13年10月2日(2001.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−79465(P2000−79465)
【出願日】平成12年3月22日(2000.3.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】