説明

黒色または灰色二軸延伸フィルム及びその製造方法ならびにその使用

【課題】好ましい厚さが12〜600μmであり、従来技術における問題点が解消され、製造コストの面で優れ、電気絶縁が良好であり、ソーラーモジュールの暗色、特に黒色裏面積層体として好適に使用でき、また、通常の電気絶縁体分野においても好適に使用できるポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステルフィルムを主成分とし、少なくとも1つの黒色顔料を含む二軸延伸フィルムであって、当該ポリエステルが、ジオール成分として80モル%以上の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)と、ジカルボン酸成分として80モル%以上の1つ以上のベンゼンジカルボン酸および/または1つ以上のナフタレンジカルボン酸とから成り、当該ジカルボン酸成分は、2,6−ナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸の2種のジカルボン酸から選択される55モル%以上の主ジカルボン酸成分と、主ジカルボン酸成分とは異なる18モル%以上の第2ジカルボン酸成分とから成ることを特徴とする二軸延伸フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましい厚さが12〜600μmの黒色または暗色(灰色)二軸延伸フィルムに関し、フィルムは主としてポリエステルから成り、ジオール成分は実質的にシクロヘキサンジメタノールから成る。ジカルボン酸成分は、ベンゼンジカルボン酸および/またはナフタレンジカルボン酸の主ジカルボン酸成分と、主ジカルボン酸成分とは異なる18モル%以上の第2ジカルボン酸成分とから成る。上記フィルムは少なくとも1つの黒色顔料を含む。上記フィルムは製造特性、耐加水分解性および電気絶縁性に優れる。本発明は、さらに上記フィルムの製造方法およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
上記の厚さの範囲のポリエステルから成る二軸延伸フィルムはよく知られている。
【0003】
被覆電線、モーター絶縁体などの電気絶縁体や、ソーラーモジュールにおける裏面積層体の分野において、工業規模で主として使用されているポリエチレンテレフタレート(PET)のガラス転移温度(約78℃)の付近に達する温度で、数年間の長期耐久性が通常要求される。このような条件下では、ポリエステルの加水分解性がこれらの分野における耐久性に重要な意味を持つ。低末端カルボキシ基濃度(CEG濃度)が加水分解速度に影響を及ぼすことは長い間知られているが(例えば特許文献1参照)、低末端カルボキシ基濃度を有するポリエステルを工業的に実際に製造するには製造条件を細かく制御し、引続き固相重合を行う必要がある。
【0004】
ポリエステルフィルムの商業的製造における経済的理由により、フィルム製造中に生じる製造廃棄物(リサイクル又は再生品ともいう)を同様の製造工程に出来る限り高い濃度で再度導入することが必要とされる場合、このような原料は不利となる。二軸延伸ポリエステルフィルム製造中に、1kgのフィルムの製造に必要とされる原料は通常1.5〜2.5kgである。残る量(フィルムの0.5〜1.5kg)はフィルムの端部をトリミングした物やスクラップとして発生し、それらは粉砕され、引続き直接原料として再供給されるか、再度押出しして再粉砕して再供給される(リサイクル原料)。しかしながら、フィルム製造中および再生品の製造のための更なる押出しの際に、末端カルボキシ基濃度は大幅に増加し、このため再生品の再供給は制限されたり、再生品として全く使用できないこともある。ポリエステルの末端カルボキシ基濃度を低く制御することによる加水分解速度の低減は、その効果が制限され、複雑な添加剤系無しでは、得られるフィルムは、ソーラーモジュールにおける裏面積層体などの多くの使用分野において依然として充分な加水分解安定性を有さない。
【0005】
エチレングリコール及びテレフタル酸よりも異なるモノマーを選択することにより、PETの加水分解速度を顕著に低減することも出来る。テレフタル酸の代わりのモノマーとしてナフタレンジカルボン酸を使用したポリエチレンナフタレート(PEN)のフィルムは顕著に加水分解速度を低減することが出来るが、原料価格が高価であるため(PETの5倍の価格)、利用分野は限られており、更に、ガラス転移温度が120〜125℃と極めて高くなる等の他の理由により、二軸延伸フィルムの製造がより困難となる。更に、例えばソーラーモジュールの裏面積層体に使用する場合、他の異なるポリマーフィルム(例えばポリエステル、EVA等)との積層密着性が必要となる。PENは相対的に不活性なため、他のポリエステルを使用した場合に比べて積層体の製造がより複雑となる。
【0006】
ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメチレン)−テレフタレート(PCT)もまた加水分解安定ポリエステルとして知られているが、二軸延伸フィルムとしては商業的に使用されていない。それは材料の脆弱性、特に収縮率の低減が必要な二軸延伸フィルムの熱固定においての脆弱性の理由による。それゆえ、PCTは市場においてPETGとして加えられている(シクロヘキサンジメタノール(CHDM)+エチレングリコール(EG)をジオールモノマー単位とし、多くの場合EGの割合が50モル%を超えるPET)。しかしながら、PETGはもはや加水分解安定性が良くなく、加水分解安定性が必要と想定される使用(電気絶縁体。特にソーラーモジュール等での)には適さない。
【0007】
ソーラーモジュールの裏面積層体において、少なくとも最外層に積層される層、理想的にはすべての層は 25年の屋外での使用後においても充分な絶縁性が保証されるような非常に高い加水分解安定性が必要である。現在において、この問題は、通常ポリフッ化ビニル(PVF、例えば、Tedlar(登録商標)、DuPont社製)とPETとから成り、少なくとも外層がTedlarから成り、PETから成る層を2層のTedlarの間の中間層とする積層体により解決されている。しかしながら、Tedlar及び他のフッ素化ポリマーは高価であり、将来的にリサイクルの問題があり、特にソーラーモジュールの数が多いと、簡単にリサイクルも出来ず、地球環境保護の観点から廃棄(例えば焼却)することも出来ず、その寿命に達した場合に大問題となる。
【0008】
多くのソーラーモジュールの裏面積層体は、セルを透過した光を反射してセルの効率をたかめるために白色である。それにもかかわらず、より複雑な建築的応用において、例えばセルの回りを白いフレームとしないようなソーラーモジュールが要求される場合がある。ソーラーモジュールが通常暗色なので、上記の目的のためには暗色または黒色裏面積層体が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許公報第3051212号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述のように黒色または暗色(灰色)絶縁体としてのポリエステルフィルムを提供することである。すなわち、好ましい厚さが12〜600μmであり、従来技術における問題点が解消され、製造コストの面で優れ、電気絶縁が良好であり、ソーラーモジュールの暗色、特に黒色裏面積層体として好適に使用でき、また、通常の電気絶縁体分野においても好適に使用できるポリエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の本発明の目的は、ポリエステルフィルムを主成分とし、少なくとも1つの黒色顔料を含む二軸延伸フィルムであって、当該ポリエステルが、ジオール成分として80モル%以上の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)と、ジカルボン酸成分として80モル%以上の1つ以上のベンゼンジカルボン酸および/または1つ以上のナフタレンジカルボン酸とから成り、当該ジカルボン酸成分は、2,6−ナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸の2種のジカルボン酸から選択される55モル%以上の主ジカルボン酸成分と、主ジカルボン酸成分とは異なる18モル%以上の第2ジカルボン酸成分とから成ることを特徴とする二軸延伸フィルムによって達成できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の黒色又は暗色二軸延伸フィルムは、製造特性、耐加水分解性および電気絶縁性に優れ、ソーラーモジュールの裏面積層体などの電気絶縁体として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の二軸延伸(=配向)フィルムは、ポリエステルを主成分とする。当該ポリエステルのジオール成分は80モル%以上、好ましくは95モル%以上、更に好ましくは99モル%以上の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)から成る。CHDMとしては、シス型異性体(c−CHDM)、トランス型異性体(t−CHDM)及びそれらの混合物(c/t−CHDM)が挙げられる。本発明において「ジオール成分」とは、ポリエステルの骨格の部分であり、ジオールモノマー化合物の名に由来し、ここではモノマー化合物の名と等価に扱う場合がある。シクロヘキサンジメタノールの割合が高いほど耐加水分解性が高い。当該ポリエステルのジカルボン酸成分は、1つ以上のベンゼンジカルボン酸および/または1つ以上のナフタレンジカルボン酸(NDC)80モル%以上から成り、好ましくは1つ以上のベンゼンジカルボン酸および/または1つ以上のナフタレンジカルボン酸(NDC)95モル%以上、特に好ましくは99モル%以上から成る。本発明において「ジカルボン酸成分」とは、ポリエステルの骨格の部分であり、ジカルボン酸モノマー化合物の名に由来し、ここではモノマー化合物の名と等価に扱う場合がある。好ましくは、ジカルボン酸成分は上記の含有量のベンゼンジカルボン酸から成る。好ましいナフタレンジカルボン酸は2,6−ナフタレンジカルボン酸(2,6−NDC)であり、好ましいベンゼンジカルボン酸はテレフタル酸(TA)である。
【0014】
特に優れた加水分解安定性の実施態様として、ジカルボン酸成分が、2,6−ナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸の2種のジカルボン酸から選択される55モル%以上の主ジカルボン酸成分、特に好ましくはテレフタル酸55モル%以上の主ジカルボン酸成分から成る。
【0015】
ジカルボン酸成分は、主ジカルボン酸成分(55モル%以上)に加えて、主ジカルボン酸成分とは異なる18モル%以上の第2ジカルボン酸成分を有する。例えば、主ジカルボン酸成分がテレフタル酸である場合、第2ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、主ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸である場合、第2ジカルボン酸成分がテレフタル酸である態様が例示される。優れた加水分解安定性および製造特性(脆弱性が低い)を有する特に好ましい実施態様として、第2ジカルボン酸成分が18モル%以上、好ましくは20モル%以上、更に好ましくは25モル5以上のイソフタル酸(IPA)から成る。特に25モル%以上のイソフタル酸から成る場合、標準的なPETフィルムと同等の製造特性が達成できる。一方、熱安定性および加水分解安定性が悪化するため、IPAの含有量は通常40モル%以下、好ましくは36モル%以下である。IPAの含有量が18.0〜40モル%の範囲で、ポリエステルはPETフィルム製造のための押出機内で300℃未満の温度で容易に溶融でき、溶融ラインにおいて、ゲル形成や生産ロスにつながる剪断応力による温度の増加の必要が無い。IPAの含有量が18モル%未満の場合、ゲル形成や生産ロスが増加することがある。IPAの含有量が40モル%を超える場合、押出機の供給ゾーンにおいて原料が粘着し易く、押出機内でゲル形成が著しく増加することがある。
【0016】
IPAの含有量の範囲は、例えば、主ジカルボン酸成分がTAで、第2ジカルボン酸成分がNDC、好ましくは2,6−NDCである場合や、主ジカルボン酸成分がNDC、好ましくは2,6−NDCで、第2ジカルボン酸成分がTAである場合にも適応できる。
【0017】
上記のテレフタル酸、イソフタル酸およびNDC以外に、更に芳香族あるいは脂肪族ジカルボン酸などの他のジカルボン酸を加えてもよいが、通常これらのジカルボン酸を添加すると、通常製造特性および/または熱安定性および加水分解安定性が悪化することがある。それゆえ、これらを添加する場合、その割合は好ましくは10モル%未満、より好ましくは1モル%未満である。
【0018】
上述のように、TAは最も好ましいジカルボン酸である。好ましい実施態様において、TAに加えて、5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上のNDC、好ましくは2,6−NDCを添加するが、NDCならびに2,6−NDCの存在量は25モル%を超えて、理想的には21モル%を超えない方がよい。TA及びNDC、好ましくは2,6−NDCに加えてIPAを上述の範囲内で添加することが特に好ましい。NDCならびに2,6−NDCの添加量が高いほど、得られるフィルムの機械的強度が増加する。NDC/2,6−NDCの添加量が高いほど、加水分解安定性にも好ましい影響を及ぼす。しかしながら、NDC/2,6−NDCの添加量が増加するにつれ、原料コストが増加し、製造がより困難となる。
【0019】
上記のポリエステルが市販品として入手できないのであれば、基本的にDMT法またはTPA法に従って、製造することが出来、マスターバッチの製造の以下の記載において詳述されている。それによれば、それぞれのモル量で、対応するジオール及びジカルボン酸(TPA法の場合)を反応させるか、又は、それぞれの低級アルキルエステルを反応させる(DMT法)。
【0020】
フィルムはポリエステルを主成分とする。すなわち、フィルムは無機フィラーを除いて、70重量%以上のポリエステル、好ましくは95%重量以上のポリエステルから成る。残余の30重量%は、ポリプロピレン等の他のポリマーであってもよく、また、UV安定剤や難燃剤などの他の有機フィラーであってもよい(重量%はフィルムの総重量を基準とし、無機フィラーは除く)。
【0021】
上記ポリエステルは、上記の主モノマー成分に加えて更に他のモノマー成分を含有していてもよい。他のジオール成分としては、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール(DEG)、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。CHDM以外の他のジオールの割合は、20モル%以下、好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。シクロヘキサンジメタノールの割合が高いほど耐加水分解性に優れる。
【0022】
本発明の二軸延伸(=配向)フィルムは、上記の態様に加えて、以下の態様も取り得るので参考例として以下に記載する。本発明の他の実施態様の二軸延伸(=配向)フィルムは、ポリエステルを主成分とする。当該ポリエステルのジオール成分は35モル%以上、好ましくは55モル%以上、更に好ましくは70モル%以上の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)から成る。CHDMとしては、シス型異性体(c−CHDM)、トランス型異性体(t−CHDM)及びそれらの混合物(c/t−CHDM)が挙げられる。本発明において「ジオール成分」とは、ポリエステルの骨格の部分であり、ジオールモノマー化合物の名に由来し、ここではモノマー化合物の名と等価に扱う場合がある。シクロヘキサンジメタノールの割合が高いほど耐加水分解性が高い。当該ポリエステルのジカルボン酸成分は、1つ以上のベンゼンジカルボン酸および/または1つ以上のナフタレンジカルボン酸(NDC)80モル%以上から成り、好ましくは1つ以上のベンゼンジカルボン酸および/または1つ以上のナフタレンジカルボン酸(NDC)95モル%以上、特に好ましくは99モル%以上から成る。本発明において「ジカルボン酸成分」とは、ポリエステルの骨格の部分であり、ジカルボン酸モノマー化合物の名に由来し、ここではモノマー化合物の名と等価に扱う場合がある。好ましくは、ジカルボン酸成分は上記の含有量のベンゼンジカルボン酸から成る。好ましいナフタレンジカルボン酸は2,6−ナフタレンジカルボン酸(2,6−NDC)であり、好ましいベンゼンジカルボン酸はテレフタル酸(TA)である。
【0023】
特に優れた加水分解安定性の実施態様として、ジカルボン酸成分が、55モル%以上、好ましくは60モル%以上、更に好ましくは64モル%以上の2,6−ナフタレンジカルボン酸またはテレフタル酸、特に好ましくはテレフタル酸から成る。
【0024】
ジカルボン酸成分は、主ジカルボン酸成分(55モル%以上)に加えて、主ジカルボン酸成分とは異なる5モル%以上の第2ジカルボン酸成分を有する。例えば、主ジカルボン酸成分がテレフタル酸である場合、第2ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、主ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸である場合、第2ジカルボン酸成分がテレフタル酸である態様が例示される。優れた加水分解安定性および製造特性(脆弱性が低い)を有する特に好ましい実施態様として、第2ジカルボン酸成分が5.0モル%以上、好ましくは10モル%以上、更に好ましくは25モル5以上のイソフタル酸(IPA)から成る(ジカルボン酸の総量に対して)。一方、熱安定性および加水分解安定性が悪化するため、IPAの含有量は通常40モル%以下、好ましくは36モル%以下である。
【0025】
IPAの含有量の範囲は、例えば、主ジカルボン酸成分がTAで、第2ジカルボン酸成分がNDC、好ましくは2,6−NDCである場合や、主ジカルボン酸成分がNDC、好ましくは2,6−NDCで、第2ジカルボン酸成分がTAである場合にも適応できる。そして、更に、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸および他のモノマー、例えば好ましいジカルボン酸である、TA、NDC、好ましくは2,6−NDC、IPA等にも適用できる。
【0026】
上記のテレフタル酸、イソフタル酸およびNDC以外に、更に芳香族あるいは脂肪族ジカルボン酸などの他のジカルボン酸を加えてもよいが、通常これらのジカルボン酸を添加すると、通常製造特性および/または熱安定性および加水分解安定性が悪化することがある。それゆえ、これらを添加する場合、その割合は好ましくは10モル%未満、より好ましくは1モル%未満である。
【0027】
上述のように、TAは最も好ましいジカルボン酸である。好ましい実施態様において、TAに加えて、5モル%以上、更に好ましくは10モル%以上のNDC、好ましくは2,6−NDCを添加するが、NDCならびに2,6−NDCの存在量は25モル%を超えて、理想的には21モル%を超えない方がよい。TA及びNDC、好ましくは2,6−NDCに加えてIPAを上述の範囲内で添加することが特に好ましい。NDCならびに2,6−NDCの添加量が高いほど、得られるフィルムの機械的強度が増加する。NDC/2,6−NDCの添加量が高いほど、加水分解安定性にも好ましい影響を及ぼす。しかしながら、NDC/2,6−NDCの添加量が増加するにつれ、原料コストが増加し、製造がより困難となる。
【0028】
上記のポリエステルは、上記のシクロヘキサンジメタノール(CHDM)に加えて、更に他のジオールを含んでもよい。更なるジオールとしては、例えばエチレングリコール(EG)、プロピレングリコール(PG)、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール(DEG)、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。これらのCHDM以外の他のジオールの含有率は、65モル%以下、好ましくは5モル%以下、更に好ましくは1モル%以下である。シクロヘキサンジメタノールの含有率が高い程、耐加水分解分解性が高くなる。フィルムは、通常16モル%未満、好ましくは8モル%未満、更に好ましくは2モル%未満のエチレングリコールを含有する。更に、フィルムはその総量に対し、通常8モル%未満の、好ましくは4モル%未満の、好ましくは1モル%未満のジエチレングリコール及びより高分子のポリグリコール、例えばトリエチレングリコール等を含有する。エチレングリコールの含有率が高い程、特にジエチレングリコール及びより高分子のポリグリコール含有率が高い程、加水分解速度が高くなる。プロピレングリコール(1,3−プロパンジオール)及びCの化学式を有する他のプロパンジオールは、加水分解速度に関してエチレングリコールよりも有利であるが、依然としてシクロヘキサンジメタノールよりは劣るので、その含有率は通常25モル%未満、好ましくは12モル%未満、更に好ましくは4モル%未満である。1,4−ブタンジオール及びC10の化学式を有する他のブタンジオールは、加水分解速度に関してプロパンジオールよりも有利であるが、依然としてシクロヘキサンジメタノールよりは劣り、しかも30モル%を超えると1,4−ブタンジオールは結晶加速度を急激に速くするのでフィルムの製造特性が悪化する。それ故、ブタンジオールの含有率は通常30モル%未満、好ましくは20モル%未満、更に好ましくは10モル%未満である。ペンタンジオール及び特にネオペンチルグリコール(2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール)は加水分解速度に関してブタンジオールよりも有利であり、これらの含有率は通常65モル%未満、好ましくは45モル%未満、更に好ましくは30モル%未満である。
【0029】
炭素数5を超える更なるジオールはシクロヘキサンジメタノールを除いてあまり好ましい物ではない。これは酸化、ラジカル分解などにより熱的信頼性が悪化するからであり、もし含有するのであれば、これらの含有率は通常15モル%未満、好ましくは8モル%未満、更に好ましくは4モル%未満である。
【0030】
最も好ましいシクロヘキサンジメタノールに加えて、2モル%を超えて2つの更なるジオールを、好ましくは2モル%を超えて1つの更なるジオールを添加することが好ましい。
【0031】
CHDM以外の更なるジオールを上記の量で添加することにより、製造特性を改良できる(より低い脆弱性)。
【0032】
以下に本発明の要旨に記載された本発明のフィルムについて更に記載する(なお、上記の他の実施態様としての参考例についても以下の記載は適応できるが、下記黒色顔料を含まなくてもよい)。本発明のフィルムは、フィルム表面形態や光学特性(グロス、ヘーズ等)を調節したり、光安定性や巻取り特性を改良する必要がある場合、更に無機または有機粒子を添加してもよい。そのような粒子としては、炭酸カルシウム、アパタイト、シリカ、二酸化チタン、酸化アルミニウム、架橋ポリスチレン、架橋ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ゼオライト及びアルミニウムシリケート等の他のシリケート等が挙げられる。これらの化合物の添加量は、フィルムの重量を基準として、通常0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜0.6重量%である。特に好ましい粒子は炭酸カルシウム及びシリカである。
【0033】
添加する粒子の粒径d50は、製造中の良好な操作安定性を達成するために、通常0.1〜8μm、好ましくは0.3〜5.5μm、更に好ましくは0.5〜2.5μmである。ポリエステルフィルムの製造中に破断が生じ、ポリエステルフィルムの製造コストが不利になることから、ガラス繊維などの繊維状無機添加剤は好ましくない。添加粒子のd50値が低いほど(これは後述する黒色顔料にも言えるが)、部分耐放電特性(後述する)が高くなる。d50値が8μmを超える粒子を添加すると、好ましい部分耐放電特性が得られなくなることがある。
【0034】
本発明のフィルムは少なくとも1つの黒色顔料を含む。
【0035】
黒色顔料は好ましくは酸化鉄黒色顔料、特にFe(CAS番号:1317−61−9)の式で表される酸化物である。好ましい実施態様において、フィルムは0.05〜25重量%、好ましくは1〜7重量%、更に好ましくは1.5〜5.5重量%のFeを含む。フィルムは黒色顔料としてFeの粒子を含んでもよいが、Feを粒子として含む場合、より大きな含有量でFeを含まないと、充分な黒色度を達成できないこともある。そこで、無機粒子にFeを被覆して使用することが好ましく、Feに被覆される無機粒子としては、マイカ、二酸化チタン、シリカ又は炭酸カルシウムが挙げられる。もちろん、黒色顔料として、カーボンブラック(グラファイト/カーボンブラック)、クロムスピネル及び銅スピネルも使用できる。これらの黒色顔料は、カーボンブラックを0.1〜1.5重量%組合せて使用することにより、さらに深い黒色度を達成できる。
【0036】
カーボンブラックを除く酸化鉄黒色顔料、クロムスピネル/銅スピネル及び他の無機黒色粒子を使用した際、その黒色顔料の粒径(d50)は通常10μm未満、好ましくは7μm未満、更に好ましくは5μm未満である。黒色顔料の粒径が大きい程、フィルムのヘーズが極端に大きくなり、フィルムの製造中にフィルムが破断するという重大な問題が発生し、更に電気絶縁性、特に部分放電圧(PVD)が大きく悪化する。
【0037】
一般的に、カーボンブラックを使用すると、黒色酸化鉄およびクロムスピネル/銅スピネル等の無機黒色粒子を使用した場合に比べて低い濃度で所望の黒色度が得られる。
【0038】
しかしながら、カーボンブラックには電気伝導性という欠点があり、電気絶縁体分野では伝導性の橋渡しとなってしまい絶縁効果が失われる。それ故、カーボンブラックのフィルムへの配合量は、通常10重量%未満、好ましくは8重量%未満、更に好ましくは5重量%未満である。フィルムが多層構造を有する場合、カーボンブラックが15重量%を超える層が存在しないことが好ましく、10重量%を超える層が存在しないことが更に好ましい。カーボンブラックを黒色顔料として使用する場合、フィルムは通常0.05重量%以上、好ましくは0.2重量%以上のカーボンブラックを含む。カーボンブラックとしてはファーネス法で製造されたものが好ましく使用される。カーボンブラックの粒径(d50)は、通常2μm未満である。好ましい実施態様において、カーボンブラックを介して導入される不純物である、ナフタレン、アセナフチレン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、ピレン、ベンゾ(ghi)フルオランテン、ベンゾ(a)アントラセン、シクロペンタ(cd)ピレン、クリセン、ベンゾ(b/j)フルオランテン、ベンゾ(k/j)フルオランテン、ベンゾ(e)ピレン、ペリレン、ジベンゾ(ac/ah)アントラセン、ベンゾ(ghi)ペリレン、アンタントレン、コロネン等の多環芳香族炭化水素(PAH)のフィルム中の総含有量が、通常1.5ppm未満、好ましくは1ppm未満、更に好ましくは0.5ppm未満である。このPAHの含有限度を達成するには、カーボンブラック表面から、トルエンで加熱沸騰状態でPAH類を抽出して分離し、その後ガスクロマトグラフィーとマススペクトルを組合せて(GC/MS)で同定、定量する。これにより、フィルムから相当量のPAH類が移行するのを防ぎ、使用者の危険を防ぐ。更に、高価な防御手段を使用すること無く、フィルムの製造に従事する作業者への汚染を防ぐことが出来る。
【0039】
黒色顔料は白色顔料と組合せて使用してもよい。白色顔料は黒色度を低くするが(灰色着色)、それによりフィルムの反射率が増加し、ソーラーモジュールの裏面積層体に使用した場合、ソーラーモジュールの効率を高めることが出来る。白色顔料は、上述のフィルムの操作特性/巻取り特性を改良するのに添加する粒子であってもよいが、この場合、十分な添加量と粒径が必要である。特に好ましい白色顔料としては、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、炭酸カルシウム 、非相溶性ポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンコポリマー(COCs)等)及びこれらの組合せである。白色顔料のフィルムの総重量に対する含有量は、通常0.1〜20重量%、好ましくは0.7〜10重量%、更に好ましくは1〜8重量%である。白色顔料/非相溶ポリマーの含有量が多いほど、光反射が良好となり、耐UV性が向上する。しかしながら、一方で、白色顔料/非相溶ポリマーによるコストの増加、および、フィルムの破断が増加することによるフィルムの製造特性の悪化により、含有量が10%以上、特に20%以上ではフィルムの破断抵抗性が悪化する。含有量が10%以上、特に20%以上ではフィルムの電気的特性も悪化する
【0040】
白色顔料の粒径D50は、通常0.05〜5μm、好ましくは0.07〜3.5μm、更に好ましくは0.1〜2.5μmである(無機白色顔料を使用した場合のみであり、有機顔料は通常融解する)。好ましい白色顔料は硫酸バリウム及び二酸化チタンであり、特に好ましくは二酸化チタンである。TiOの添加において、TiOを無機被覆することが好ましく、更に付加的に有機被覆することが好ましい。好ましい無機被覆としては、SiOによる被覆、好ましくはAlによる被覆、特に好ましくはSiO及びAlを組合せて使用する被覆である。SiO及びAlの被覆量は、TiOの重量を基準として通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上、更に好ましくは5重量%以上である。無機被覆成分の含有量が高い方が、本発明のフィルムのUV安定性において好ましい。これは、シクロヘキサンジメタノールモノマーを高い割合で含むポリマーの場合、PETと比較して、酸素やラジカルの攻撃を非常に受けやすいからである。UV照射下でTiOによりこれが加速されるので、最終使用においてUV曝露が有る場合、被覆TiOの種類を適切に選択することによって低減させることが出来る。無機被覆は、フィルムの脆弱化を導くようなTiOの表面の触媒的な効果を低減させ、有機被覆はTiOを熱可塑性ポリエステル中に導入する際に効果的に働く(相溶性を改善する)。好ましいTiOは市販品として得られ、例えば、R−105(DuPont社製、米国)、Rodi(登録商標、Sachtleben社製、ドイツ)等が挙げられる。
【0041】
TiOの添加は、一方において、黒色フィルムの光沢化を増加させ、それにより光反射が増加し、ソーラーモジュールの裏面フィルムとして使用した際に電気量を増加させる働きがある。他方、フィルム、すなわち裏面フィルムの耐UV性を改良するため(UV光が反射して戻ることにより)、屋外でソーラーモジュールを使用するには特に好都合である。TiOの平均粒径d50は、通常0.1〜0.5μm、好ましくは0.15〜0.3μmである。TiOの添加量は、フィルムの重量を基準として、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、更に好ましくは1〜3重量%である。TiOとしてルチル型TiOを使用すると、特に優れた光反射および耐UV性を達成できる。フィルムが多層構造を有する場合、下部の層よりも、光線に向かい合っている外層の少なくとも1つ又は両方に、白色顔料または非相溶ポリマーを含有させることが好ましい。それにより、光反射および耐UV性にプラスの働きを達成できる。
【0042】
本発明の好ましい実施態様において、フィルムの光線透過率は75%未満、好ましくは50%未満、更に好ましくは20%未満である。
【0043】
黒色顔料および白色顔料の添加量を上記のように規定することにより、所望の黒色度が発生する。代表的な好ましい実施態様において、ソーラーモジュールの裏面積層体の黒色度を使用するソーラーセルのそれと類似にする。
【0044】
上記の添加剤に加えて、フィルムは更に、難燃剤(好ましくは有機リン酸エステル類)および/またはUV安定剤ならびに熱安定などの他の成分を含んでいてもよい。好ましいUV安定剤としては、仏国特許発明第2812299号明細書に記載されている。特に好ましいUV安定剤としては、特に十分に長期に渡って安定性を有し(通常ソーラーモジュールに要求される20年を超える)、UV吸収剤として機能するトリアジン系安定剤、UV光を吸収する働きはほとんど示さないものの、高いシクロヘキサンジメタノール割合の高い酸化を受けやすいポリマーを保護するHALS系安定剤(ヒンダードアミン系光安定剤)の製品などが例示される。トリアジン系安定剤とHALS系安定剤とを組合せて使用することにより特に効果的であり、トリアジン系安定剤の代りに、ベンゾトリアゾール又はベンゾフェノンの様な他のUV吸収剤系もまた使用できる。好ましい実施態様として、UV安定剤を添加する層の重量を基準として0.1〜5重量%のUV安定剤を添加する。UV吸収剤およびHALS系安定剤の有効な最小添加量はそれぞれ0.1重量%であり、両者を組合せて使用する場合は層中に、合計で少なくとも0.2重量%の添加となる。強力なUV曝露下(無保護の状態で直接的に又は間接的に日光に数年間曝露)では、UV吸収剤およびHALS系安定剤の合計量は、最も強く曝露される層の重量を基準として0.5重量%以上である。
【0045】
本発明の多層フィルムの外層にすでに白色顔料が2重量%以上または非相溶ポリマーが10重量%以上含有され、その厚さが2μm以上である場合、光源に向いている層の下部層への安定剤の添加は、実験的にUV安定性を大きく改良しない。それゆえ、多層フィルムの場合、UV安定剤を含む外層より内部の層には全くUV安定剤を加えないか、或いは外層に含まれるUV安定剤の量の60%未満の量、好ましくは30%未満の量で、再生品を導入するなどの手段によりUV安定剤を添加する。UV吸収剤として機能するUV安定剤の具体的に入手できる例としては、Tinuvin(登録商標)1577(=2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシル)オキシフェノール、BASF社製、以前はCiba Sc社製、スイス)が挙げられる。HALS系安定剤の具体例としては、分子量が通常500を超え、好ましくは900を超え、更に好ましくは1300を超えるポリマー系またはオリゴマー系安定剤が特に好ましく、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)−1,6−ヘキサンジアミンポリマーとモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンのメチル化反応生成物(CAS番号:193098−40−7)が挙げられ、市販品としてCyasorb(登録商標)−ZV−3529(Cytec社製、米国)として普及しており、本発明において特にこのましい安定剤である。より低分子量の安定剤よりも、より低濃度に安定剤を使用することにより、ポリマー系およびオリゴマー系HALSは安定剤として効果が優れ、より良好な電気的性質を付与する。
【0046】
上記の安定剤を上記の添加量で使用する際、UV−A範囲における本発明のフィルムの光線透過率は、370nmにおいて通常10%未満、好ましくは6%未満、更に好ましくは3%未満である。
【0047】
更に、長期間の熱安定性を改良するために、フリーラジカル捕捉剤として安定剤をフィルムに添加することが好ましい。本発明のフィルムにおいて、ラジカル捕捉剤のような熱安定剤を、フィルムの重量を基準として50〜15000ppm、好ましくは100〜5000ppm、更に好ましくは300〜1000ppm含むことが好ましい。
【0048】
ポリエステル原料に添加する安定剤としては、立体障害性フェノール、2級芳香族アミン等の第1の安定剤の群、または、チオエーテル、ホスファイト、ホスホナイト、ジブチルジチオカルバメート亜鉛などの第2の安定剤の群、相乗効果が期待できる第1の安定剤の群と第2の安定剤の群との組合せ等から選択できる。中でも好ましい安定剤は上記フェノール系安定剤である。フェノール系安定剤としては、立体障害性フェノール(ヒンダードフェノール)、チオビスフェノール、アルキリデンビスフェノール、アルキルフェノール、ヒドロキシベンジル化合物、アシルアミノフェノール、ヒドロキシフェニルプロピオネート等が挙げられ、これらは「Kunststoffadditive」(プラスチック添加剤、第2版、Gachter Muller著、Carl Hanser−Verlag社)および「Plastics Additives Handbook」(第5版、Dr. Hans Zweifel著、Carl Hanser−Verlag社)に記載されている。好ましい安定剤としては、Ciba Specialties社(Basle、スイス)のCAS番号6683−19−8、36443−68−2、35074−77−2,65140−91−2、23128−74−7、41484−35−9、2082−79−3及び「Irganox」(登録商標)1222であり、特に好ましくは「Irganox」(登録商標)1010、「Irganox」(登録商標)1222、「Irganox」(登録商標)1330、「Irganox」(登録商標)1425及びこれらの組合せ等が挙げられる。
【0049】
本発明のフィルムは、基本的に、公知の押出し法により製造でき、単層であっても多層であってもよい。
【0050】
フィルムの厚さは、通常12〜600μm、好ましくは25〜350μm、更に好ましくは35〜300μmである。フィルムの厚さが12μm未満では、想定される使用、特にソーラーモジュールにおいて適切な電気絶縁性を達成することは通常困難であり、更にフィルム製造が一層困難である。フィルムの厚さが300μmぐらいから引張強度がかなり低下し、600μmを超えると想定される使用には低過ぎることがある。
【0051】
黒色顔料、白色顔料やその他の添加剤は、好ましくはマスターバッチを介して対応する層に添加する。マスターバッチの調製に関しては、好ましくは粒子/添加剤およびポリエステルをマルチスクリュー押出機(多軸押出機)の中で混合し、オリフィスダイを介して押出し、粉砕する(押出マスターバッチ)。
【0052】
しかしながら、マスターバッチやバッチ原料(=重縮合マスターバッチ)の製造のために、粒子/添加剤をポリエステルの製造過程に直接添加することも出来る。そのような場合、DMT法(ジメチルテレフタレートを開始原料とする法)においては、通常エステル交換反応後で重縮合前に粒子/添加剤を、それぞれシクロヘキサンジメタノール中に分散させた形態で直接添加する(例えば、エステル交換反応器と重縮合反応器との間の供給ラインに)。なお、添加をエステル交換反応前にすでに行っていてもよい。TPA法(テレフタル酸を出発原料とする法)においては、重縮合反応の開始時に添加を行うことが好ましい。しかしながら連続的な添加も可能である。この方法では、シクロヘキサンジメタノール中の分散体は、添加前にPROGAF(登録商標)PGF 57フィルター(Hayward社製、米国インディアナ州)によって濾過することが好ましい。
【0053】
例えば凝集体の形成などの技術的な特徴の観点から、重縮合マスターバッチは有利である。短期間の調節や、少量または可変のバッチサイズのため、押出マスターバッチは重縮合マスターバッチと比較して自由度があり有利である。
【0054】
フィルム製造中に押出機内に直接粒子または添加剤を処方することも可能である。しかしながら、これは、均一性が他の2方法に比べて悪く、フィルムの特性に悪影響を与える凝集体が生じる可能性もあり、しばしば不利となる。
【0055】
本発明のフィルムの製造方法は、フラットダイを介して、粒子/添加剤を備えていてもよい対応する1つ以上の同一または異なるポリマー溶融体を押出す工程と、押出された溶融体を1つ以上のロール(冷却ロール)上で冷却して固化させて実質的に非晶のフィルム前駆体を得る工程と、引き続き得られたフィルム前駆体を再加熱して二軸延伸(配向)する工程と、得られた二軸延伸フィルムを熱固定する工程と、引き続きフィルムを巻き取る工程とから成る。
【0056】
フィルム中に目立ったゲルの形成が生じるため、押出工程全体における温度が295℃を超えないこと、好ましくは285℃を超えないこと、更に好ましくは280℃を超えないことが好ましい。これは製造工程におけるフィルム破断を生じさせたり、電気的特性を悪化させたりする。
【0057】
二軸押出機中で原料を溶融して押出すことにより、最も優れた加水分解安定性および電気特性を達成できる。単軸押出機を使用した場合、原料を押出前に乾燥させる必要がある。この予備乾燥は110〜155℃の温度で20分〜1.5時間行われる。乾燥時間が長く温度が高い程、供給ポリマーの熱分解が起りやすくなる。
【0058】
二軸延伸は連続的に行われる。このため、初めに長手方向(機械方向=MD)に延伸し、次いで横方向(機械方向に垂直=TD)に延伸するのが好ましい。これにより、分子鎖が配向する。通常、長手方向の延伸は、延伸比に対応する異なる回転速度を有する2つのロールを使用して行われ、横方向の延伸はテンターフレームを使用して行われる。また、連続二軸延伸でなく、同時二軸延伸で二軸延伸してもよい。
【0059】
延伸温度および延伸比は、所望とするポリエステルフィルムの物性によって決定され、広い範囲で選択できる。通常、長手方向および横方向の延伸温度は、使用する(共重合)ポリエステルのガラス転移温度Tg+5〜Tg+50℃の範囲である。延伸温度をガラス転移温度Tg+5〜Tg+20℃の範囲に調節するとフィルムの生産性において好ましい。ポリエステルのガラス転移温度に近い温度で延伸するとフィルム端部が脆弱となりやすく、製造中に見ることが出来、破断を生じやすい。長手方向の延伸比は、通常2.0〜6.0、好ましくは2.7〜4.5であり、横方向の延伸比は、通常2.0〜5.0、好ましくは3.1〜4.6であり、第2の長手方向および横方向の延伸を行う場合、その延伸比は1.1〜5.0である。
【0060】
長手方向の延伸は、横方向の延伸と同時に行ってもよい(同時延伸法)
【0061】
延伸後、170〜255℃、好ましくは210〜250℃、更に好ましくは220℃〜240℃で0.1〜10秒間、フィルムの熱固定を行う。この温度は、実際には空気温度よりも大抵1〜3℃低い温度に熱固定フレームを調節して行われる。熱固定プロセスにおいて調節される温度(空気または大気温度)はフィルム上で直接測定することはできない。しかしながら、米国特許第6737226号明細書の第6欄に記載のように完成されたフィルムを利用して決定でき、実際に行われている熱固定の温度はその温度に1〜3℃を加えたものである。その結果は、製造プロセスにおける熱固定温度に関する分布を示す。
【0062】
熱固定の開始に引続き、フィルムは、横方向、好ましくは長手方向に対して通常0.5〜15%、好ましくは2〜8%の弛緩処理を行い、冷却した後、常法により巻取られる。優れた電気絶縁性を達成するために、面積延伸比(MD×TD)が5を超え、好ましくは7を超え、更に好ましくは8を超えることが好ましい。好ましい実施態様において、面積延伸比は17未満である。面積延伸比が20を超えると、フィルムの操作安定性において好ましくなく、面積延伸比が24を超えると、経済的に関心のあるシートフィルムウェブの長さを達成することが難しい。
【0063】
上記の面積延伸比で製造されたフィルムの弾性率は、フィルムの全方向において通常1500N/mmよりも大きく、好ましくはフィルムの全方向において2000N/mmよりも大きく、更に好ましくはフィルムの全方向において2300N/mmよりも大きい。そして、通常フィルムの弾性率が5000Nmmを超える方向は無く、好ましくはフィルムの弾性率が4000Nmmを超える方向は無い。
【0064】
本発明のフィルムは、通常全方向における5%伸張応力(F5値)が40Nmmを超え、好ましくは全方向における5%伸張応力(F5値)が50Nmmを超え、更に好ましくは全方向における5%伸張応力(F5値)が60Nmmを超える。そして、本発明のフィルムは、通常5%伸張応力(F5値)が140Nmmを超える方向は無い。
【0065】
本発明のフィルムは、通常全方向の引裂き強度が65Nmmを超え、好ましくは全方向の引裂き強度が75Nmmを超え、更に好ましくは全方向の引裂き強度が85Nmmを超える。そして、本発明のフィルムは、通常引裂き強度が290Nmmを超える方向は無く、好ましくは引裂き強度が220Nmmを超える方向は無く、更に好ましくは引裂き強度が190Nmmを超える方向は無い。
【0066】
フィルムの後加工(カッティング、巻取り、積層、積み重ね等)においてフィルムを良好に取扱うために、上述の機械的特性に準拠することは、非常に望ましいことである。高い機械的特性は、後加工における変形やしわを防ぐ。上述の延伸比の上限においては、製造工程においてフィルムの部分的な過剰延伸(過剰伸長)のリスクが生じ始め、これにより、過剰延伸されたエリアでは引張強度が低くなり、物性が不安定となる。延伸比に加えて、機械的強度はIPA含有量にも大きく影響される。IPA含有量が増加するほど、通常強度は減少し、IPA含有量が40モル%を超えると上述の好ましい強度範囲を達成することが困難となる(延伸比を非常に増加させる必要があり、それによりフィルム製造工程におけるフィルム破断が多くなる)。IPA含有量が20モル%未満、特に18モル%未満の場合、上述の好ましい機械的強度を達成するのとなると、フィルム製造工程におけるフィルムの部分的な過剰延伸(過剰伸長)のリスクが増加する。
【0067】
上述の延伸比は更に、ソーラーモジュールの裏面絶縁体として製造中および利用中の機械的強度(例えば荷重下)として十分可撓性である伸長破断強度を有するフィルムを提供する。フィルムの全方向における伸長破断強度が20%を超えることが好ましく、45%を超えることが更に好ましく、75%を超えることが特に好ましい。このような伸長破断強度を達成するためには、面積延伸比が24未満であることが好ましく、17未満であることが更に好ましい。IPA含有量が増加すると伸長破断強度も増加する。
【0068】
好ましい実施態様において、本発明のフィルムの150℃(15分)における収縮率は、両方向(MD、TD)において通常3%未満であり、好ましくは2.5%未満であり、更に好ましくは1.9%未満である。横方向の収縮率は好ましくは1.0%未満、更に好ましくは0.75%未満、特に好ましくは0.1%未満である。フィルムの収縮率が通常−1.0%未満の収縮率(すなわち1%以上の伸張)の方向は無く、好ましくは−0.75%未満の収縮率の方向は無く、更に好ましくは−0.5%未満の収縮率の方向は無い。これは熱固定の空気温度が210℃を超えるように、好ましくは220℃を超えるように、更に好ましくは228℃を超えるように調節することによって達成できる。好ましくは横方向に3%を超えて弛緩処理し、好ましくは200℃未満の温度で30%以上の弛緩処理を行う。裏側絶縁体、特にソーラーモジュールの裏側絶縁体に使用する場合、低収縮率は重要である。これは積層工程において高温となるため、高収縮率はフィルムの大きなロスにつながり、更に、波打ちやしわなどの問題も生じるからである。もし、収縮率、特に横方向の収縮率が高いと、フィルムは積層中に収縮し、余剰の部分がなお存在し、切断する必要がある。逆に収縮率が負(伸長する)である場合ソーラーモジュール上に波打ちやしわが発生し、かなり多くのソーラーモジュール製品が選別処理されてしまうであろう。
【0069】
本発明のフィルムにおける2つの最重要な電気的特性は、絶縁耐力(BDV)及び部分放電能力(PVD)である。特に絶縁耐力(BDV)は重要である。
【0070】
本発明のフィルムの50Hz、21℃、50%相対湿度で測定した絶縁耐力(BDV)は、40V/μm以上であり、好ましくは100V/μm以上であり、更に好ましくは190V/μm以上である。
【0071】
部分放電能力(PDV)は以下の式で示される。
【0072】
PDV[V]=x[V/μm]・フィルムの厚さ[μm]+y[V]
【0073】
本発明のフィルムは、上記式においてx>0.75[V/μm]で且つy>100[V]であり、好ましくはx>1[V/μm]で且つy>200[V]であり、x>1.5[V/μm]で且つy>300[V]である。
【0074】
ポリエステルのジオール成分およびジカルボン酸成分のモル分率を本発明の範囲に規定することにより、これらの電気的特性を達成できる。機械的特性が上述の好ましい範囲である場合、更に好ましい範囲である場合、特に、弾性率および引裂き強度が上述の好ましい範囲を超えない場合に、上述の電気特性は、特に確実に達成できる。望ましい電気的特性を達成するためには、熱固定温度を210℃未満にならないように且つ250℃を超えないように調節することが更に好ましい。
【0075】
ポリエステルから成るポリマー電気絶縁材の耐久性は熱や相対湿度などの環境条件によって大きく影響を受ける。そのような湿度および温度条件での経年変化によるポリエステルの悪化の評価基準は、使用したフィルムが徐々に脆く脆弱になり、水が浸入し、それが電気的特性に悪影響を及ぼすか、または所望の電気絶縁性効果が失われるかもしれない。電気絶縁性フィルムが積層体の総機械特性に寄与する場合の使用分野では、この特性が経年変化により失われるであろう。
【0076】
ポリエステルにおいて、その弊害の多くはポリエステル鎖の加水分解による切断であり、特に最低限の鎖長からの切断によりフィルムの脆弱性が大きくなり、伸長や曲げのような機械的応力に耐えられなくなる。
【0077】
鎖長を測定する方法および加水分解の程度を測定する方法(すなわち、耐加水分解性)としては、経年に基づく標準粘度(SV、以下に示すように早退粘度ηrelと関係)の変化を測定すればよい。このため、温度110℃、相対湿度100%の条件のオートクレーブ中にフィルムサンプルを保持し、定期的にSVを測定する。
【0078】
好ましい実施態様において、測定開始前のSV値は750を超え、好ましくは800を超え、更に好ましくは850を超える。使用するポリマーの分解速度が同じであれば、測定開始時に鎖長が長いほど耐久性が長くなり有利である。耐久性が非常に短いことからSV値が600未満に対応する鎖長は避けるべきである。SV値が1200を超えるような余りにも鎖長が長い場合も、押出工程における問題、加工性に悪影響を及ぼすことや経済的な使い勝手の理由から避けるべきである。
【0079】
分子鎖の分解速度の測定としては、オートクレーブ中の測定時間に対してSV値をプロットし、最良適合線の傾きを決定する。オートクレーブ中の条件は以下の実施例の測定法に記す。実施例に記すオートクレーブ中の条件下で、好ましい実施態様として、傾き(固有粘度(SV)の減少率)が−3(SV−E/h、SV−E=SV単位)を超え、好ましくは−2(SV−E/h、SV−E=SV単位)を超え、更に好ましくは−1(SV−E/h、SV−E=SV単位)を超える。傾き(固有粘度(SV)の減少率)が−4(SV−E/h、SV−E=SV単位)未満では、材料の劣化が余りにも速いため、如何なる場合も避けるべきである。材料は使用中に変化するために、傾き(固有粘度(SV)の減少率)が0以上となることは難しく、これは、PETを中間層としたフィルムのような本発明の標準フィルムとは大きく異なり、積層体安定性において困難性を引起す。
【0080】
ポリエステルのジオール成分およびジカルボン酸成分のモル分率を本発明の範囲に規定することにより(特にIPA及びEG量の上限を超えることは好ましくない)、これら本発明の低SV劣化速度を達成できる。上記の要因とは独立して、上述の製造パラメーターに従ってフィルムを製造することにより、SV劣化速度は更に良好な影響(劣化速度の低減)を受ける。
【0081】
本発明のポリマーシステムを含有するフィルムは、高温高湿下で優れた電気特性を保持できるため、電気絶縁分野において、特に、フィルムが高温(60℃を超える)で、高湿度(相対湿度が10%を超える)の条件下で、長期間の使用(数年)に曝される分野で極めて好適に利用できる。そのような利用分野としては、例えば、自動車のリボンケーブル、座席のヒーター用ケーブル、モーター用絶縁体、ソーラーモジュールの裏側絶縁体などが挙げられる。従って、フィルムは単独使用することも出来、EVА又はPEフィルム等の他のフィルムに積層して使用することも出来る。
【0082】
本発明のフィルムの代表的な積層構造の実施態様を、図1〜5に示し、以下にその構成を説明する。
【0083】
本発明のポリエステルフィルム及びその積層体に含まれる他のフィルムは、好ましい接着剤を使用して接着でき、例えば、本発明のフィルム又はそれぞれの他のフィルムに対して接着剤を溶液またはホットメルトとして塗布する。そして、各フィルムを2つのローラー中に挟んで接着する。接着剤としては、フィルムの個々の種類によって適切なものを選択すればよい。接着剤としては、ポリエステル、アクリレート系および他の工業的標準型接着剤系に基づく接着剤が好ましい。好ましくはポリウレタン系接着剤である。従って、2成分型接着剤系は特に好ましい。これらは、多官能アルコールと反応して結合を形成する末端イソシアナート基を有するポリウレタンプレポリマーから成る。末端イソシアナート基は、ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)、トルエンジイソシアナート(TDI)等の芳香族タイプのイソシアナート基であっても、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、イソフォロンジイソシアナート(IPDI)等の脂肪族タイプのイソシアナート基であってもよい。上記の化合物は、イソシアナート基過剰での状態で混合するが、更に、必要とされる特性、例えば接着性、接着面の乾燥度、固形分量、調色などを達成するために、安定剤、粒子、有機溶媒などの他の添加剤を一緒に混合してもよい。接着剤混合物は室温で硬化させても加熱して硬化させてもよい。接着剤を有する面および/またはその反対面(接着剤を有しない接着される面)は接着性を両校にするために、物理的な前処理を行ってもよい。好ましい方法としては、コロナ放電前処理、火炎処理、プラズマ前処理などが挙げられる。好ましくはコロナ放電処理が使用され、これにより、部分的に酸化される場所が生じ、フィルム表面の極性が増加する。
【0084】
この方法において製造された本発明の単層フィルム又はその積層体は、ソーラーモジュールの製造中に、ソーラーモジュールを包埋する材料に接着する必要がある。最も一般的に使用され、工業的に実施されている包埋材料としては、エチレンビニルアセテート(EVA)であり、加えて、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルブチラール(PVB)等の他の材料も用いられる。
【0085】
包埋材料との接着は、基本的に、積層する際の接着剤として用いたものと同じイソシアナート系接着剤を使用してもよい。本発明のフィルムが太陽電池セルの包埋材料(上記のように、通常EVA)に面する外層として形成される場合、通常、接着剤を全く必要としない。これは、驚くべきことであるが、本発明のフィルムは、通常の包埋材料に対し(特にEVAやPVB)、既に良好な接着性を有しているためである。上記の物理的な前処理を付加的に行うことにより、接着性が改良される。包埋材料に対する接着性は、塗布層を設けることによっても改良される。ここでは、フィルムの機械方向延伸の後で横方向延伸の前のフィルムの製造中に行うインラインコーティング法が、更なる付加的工程を必要としないため、特に経済的である。
【0086】
ソーラーモジュールの裏側カバーとして使用されるために、塗布層は湿気や高温に対して優れた長期耐久性を有するべきである。塗布層は優れた機械的強度を有するべきであり、フィルムの製造中、巻取り中、巻きほどし中およびソーラーモジュール製造中に発生する応力や歪みに対しても安全に耐えることが出来る。
【0087】
好ましい実施態様において、本発明のフィルムにポリウレタンと架橋剤とから成る塗布剤を接着剤として塗布し、詳細については、例えば国際公開第2010/094443号パンフレットに記載されている。
【0088】
ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)を積層材として使用する場合、通常接着剤は不要と出来る。この場合においても、上記の物理的前処理が有効である。
【0089】
本発明のフィルム及びフィルムを含む積層体は、ソーラーモジュール製造中に、包埋材料に接着され、公知の方法に従って圧着される.
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例における評価方法を示す。
【0091】
(1)標準粘度SV:
ポリエステルの標準粘度SV(DCA)は、ポリエステルのジクロロ酢酸1重量%溶液を作成し、ウベローデ型粘度系を使用して25℃でDIN 53726に従って測定した。得られた相対粘度ηrelより、SV=(ηrel−1)×1000の式を使用して、標準粘度SV値を算出した。
【0092】
本発明のフィルムにおいてポリマー原料をジクロロ酢酸に溶解し、白色顔料は測定前に遠心分離により分離した。顔料の割合は、本発明のフィルムにおいて、灰分定量法により決定し、その余剰重量分(顔料粒子の重量で増えた分)で補正した。即ち、補正された重量=(測定された重量)/((粒子含有量(100−顔料粒子の含有量(%)/100)である。
【0093】
(2)収縮率:
熱収縮率は、1辺10cmの正方形のフィルムについて測定した。試料フィルム片は、一辺が長手方向に平行に、もう一辺が長手方向と垂直に(横方向に)なるように切り出して作成した。試料フィルムの長さは正確に測定し(長手方向の辺の初期長さをL0 MD、横方向の辺の初期長さをL0 TDとする)、対流オーブンの中で、収縮温度において(この場合150℃)15分間熱処理を行った。試料フィルムを取出し室温にて長さを正確に測定する(熱処理後の長手方向の辺の長さをLMD、熱処理後の横方向の辺の長さをLTDとする)。収縮率は以下の式から算出した。
【0094】
長手方向収縮率(%)=100×(L0 MD−LMD)/L0 MD
横方向収縮率(%)=100×(L0 TD−LTD)/L0 TD
【0095】
(3)370nmの波長における透過度:
「Lambda 3 UV/Vis」分光計(Perkin Elmer社製)を使用して測定した。
【0096】
(4)絶縁耐圧:
フィルムの絶縁耐圧は、DIN 53481−3(DIN 40634に記載されているフィルムに対する要求に従った)に準じて測定した。球&板系(電極径:49.5mm)を測定に使用し、50Hz正弦波交流電圧、21℃、相対湿度50%、空気中で測定した。
【0097】
(5)平均粒径d50
平均粒径d50はMalvern Master Sizer(Malvern Instruments Ltd(英国)社製)を使用したレーザーによる一般的な方法で測定した。他の装置としては、Horiba LA 500(堀場製作所製)またはHelos(Sympathec GmbH(ドイツ)社製)装置が挙げられ、基本的に同一の原理の装置である。水を入れたセルに測定サンプルを入れ、試験装置にセットする。試験は自動的に行われ、粒径d50の数学的な計算も一緒に行われる。粒径d50の値は、累積粒径分布曲線から決定し、50%におけるx軸の値を粒径d50とした。
【0098】
(6)機械的性質:
フィルムの機械的性質はDIN EN ISO527−1〜3に準じて測定した。
【0099】
(7)オートクレーブによる加水分解試験:
フィルム(10cm×2cm)をワイヤーで吊るしてオートクレーブ(Adolf Wolf SANOklav社製 ST−MCS−204)中に入れ、オートクレーブの中に水を2L入れた。オートクレーブを密封し、100℃に加熱した。水蒸気によって中の空気は排出口から送出された。約5分後にバルブを閉じ、温度を110℃に上昇させ、圧力を1.2〜1.5気圧に上昇させた。設定時間(12時間以上)が過ぎるとオートクレーブは自動的にスイッチが切れ、排出口が開放され、フィルムを取出した。そして、そのフィルムのSV値を測定した。
【0100】
(9)光線透過率:
光線透過率は、「haze−gard plus」(BYK−Gardner GmbH(ドイツ)社製)を使用し、ASTM−D1003に準じて測定した。
【0101】
実施例1:
表1に示す割合でR1及びR2を、二軸押出機(日本製鋼所製)内で脱気しながら混合し、押出した。押出しゾーン及び溶融ラインにおける温度は最高275℃であった。処理量は1時間当り2000kgであった。溶融体はフラットダイ(温度275℃)を介して冷却ロール(温度30℃)上に押出し、連続的に長手方向に105℃で3.2倍に延伸し、そして横方向に110℃で3.2倍に延伸した。
【0102】
フィルムの熱固定は222℃で行い、最終領域では横方向に2%の弛緩処理となるように調節した。2箇所の下流熱固定領域では、190℃及び150℃調節し、弛緩量は更に3%に達した。熱固定の総時間は15秒であった。得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0103】
使用した原料を以下に示す。
【0104】
R1:「Durastar DS2000」(Eastman社製(米国))、ポリシクロヘキサンジメタノール−テレフタレート−イソフタレート型共重合ポリエステル、SV=980、IPA含有量:約26モル%、TA含有量:約74モル%。
【0105】
R2:二軸押出機(日本製鋼所製)で、R1に20重量%のPrintex F 80(カーボンブラック、Degussa社製(ドイツ)、一次粒径:16nm、BET比表面積:220m/g、多環芳香族炭化水素類含有量:0.5ppm未満)を脱気しながらコンパウンドしたもの、SV=960。
【0106】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のポリエステルフィルムは電気絶縁が良好であり、特にソーラーモジュールの裏面積層体として好適に使用でき、また、通常の電気絶縁体分野においても好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムを主成分とし、少なくとも1つの黒色顔料を含む二軸延伸フィルムであって、当該ポリエステルが、ジオール成分として80モル%以上の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)と、ジカルボン酸成分として80モル%以上の1つ以上のベンゼンジカルボン酸および/または1つ以上のナフタレンジカルボン酸とから成り、当該ジカルボン酸成分は、2,6−ナフタレンジカルボン酸とテレフタル酸の2種のジカルボン酸から選択される55モル%以上の主ジカルボン酸成分と、主ジカルボン酸成分とは異なる18モル%以上の第2ジカルボン酸成分とから成ることを特徴とする二軸延伸フィルム。
【請求項2】
ジカルボン酸成分が1つ以上のベンゼンジカルボン酸から成る請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
ナフタレンジカルボン酸が2,6−ナフタレンジカルボン酸(2,6−NDC)であり、ベンゼンジカルボン酸がテレフタル酸(TA)である請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
主ジカルボン酸成分がテレフタル酸である請求項1〜3の何れかに記載のフィルム。
【請求項5】
主ジカルボン酸成分がテレフタル酸である場合、第2ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、主ジカルボン酸成分が2,6−ナフタレンジカルボン酸である場合、第2ジカルボン酸成分がテレフタル酸である請求項1〜4の何れかに記載のフィルム。
【請求項6】
第2ジカルボン酸成分がイソフタル酸(IPA)である請求項1〜4の何れかに記載のフィルム。
【請求項7】
第2ジカルボン酸成分の割合が20モル%以上である請求項1〜6の何れかに記載のフィルム。
【請求項8】
黒色顔料が、酸化鉄黒色顔料、カーボンブラック、グラファイト、クロムスピネル及び銅スピネルから選択される請求項1〜7の何れかに記載のフィルム。
【請求項9】
酸化鉄黒色顔料がFeである請求項8に記載のフィルム。
【請求項10】
黒色顔料の含有量がフィルムの重量を基準として0.05〜25重量%である請求項1〜9の何れかに記載のフィルム。
【請求項11】
黒色顔料の粒径(d50)が10μm未満である請求項1〜10の何れかに記載のフィルム。
【請求項12】
黒色顔料がFeで被覆された無機粒子である請求項1〜11の何れかに記載のフィルム。
【請求項13】
Feで被覆される無機粒子が、マイカ、二酸化チタン、シリカ又は炭酸カルシウムである請求項12に記載のフィルム。
【請求項14】
フィルムの厚さが12〜600μmである請求項1〜13の何れかに記載のフィルム。
【請求項15】
フィルムの光線透過率が75%未満であり、370nmにおけるUV光の透過率が10%未満である請求項1〜14の何れかに記載のフィルム。
【請求項16】
二軸延伸ポリエステルフィルムであって、(1)光線透過率が75%未満であり、(2)370nmにおけるUV光の透過率が10%未満であり、(3)フィルムの全方向の弾性率が1500Nmmを超え且つフィルムの弾性率が5000Nmmを超える方向は無く、(4)フィルムの全方向における5%伸張応力(F5値)が40Nmmを超え且つフィルムの5%伸張応力(F5値)が140Nmmを超える方向は無く、(5)フィルムの全方向の引裂き強度が65Nmmを超え且つフィルムの引裂き強度が290Nmmを超える方向は無く、(6)フィルムの全方向の長手方向および横方向の150℃で15分の収縮率が3%未満で且つ−1%未満の収縮率(すなわち1%以上の伸張)の方向は無く、(7)50Hz、21℃、50%相対湿度で測定した絶縁耐力(BDV)が40V/μm以上であり、(8)部分放電能力(PVD)をPDV[V]=x[V/μm]・フィルムの厚さ[μm]+y[V]の式で表した場合にx>0.75[V/μm]で且つy>100[V]であり、(9)固有粘度(SV)の減少率が−3(SV−E/h、SV−E=SV単位)を超えることを特徴とする二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項17】
請求項1に記載のフィルムの製造方法であって、当該製造方法は、フラットダイを介して1つ以上の同一または異なるポリマー溶融体を押出す工程と、押出された溶融体を1つ以上のロール上で冷却して固化させて実質的に非晶のフィルム前駆体を得る工程と、引き続き得られたフィルム前駆体を再加熱して二軸延伸(配向)する工程と、得られた二軸延伸フィルムを熱固定する工程と、引き続きフィルムを巻き取る工程とから成るフィルムの製造方法。
【請求項18】
請求項1に記載のフィルムから成る電気絶縁体。
【請求項19】
請求項1に記載のフィルムから成るソーラーモジュール用裏面絶縁体。

【公開番号】特開2012−158755(P2012−158755A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−18315(P2012−18315)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(596099734)ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ (29)
【Fターム(参考)】