説明

黒色めっき皮膜及びその皮膜形成方法

【課題】黒色めっき皮膜及びその皮膜形成方法において、六価クロム化合物を含まないめっき液組成で六価クロム液使用の従来技術と同等以上に黒色度が高く均一で再現性良く繰り返し製造することができ、防錆性等の皮膜特性に優れていること。
【解決手段】被めっき部材10を脱脂洗浄し(S10)、水洗してアルカリ系脱脂洗浄剤を一旦除去し(S11)、直流電源装置を使用して電解脱脂し(S12)、再び水洗して(S13)、塩酸に浸漬して酸洗浄し被めっき部材10の錆・酸化皮膜等の除去を行い(S14)、水洗して(S15)、被めっき部材10に付着する酸洗浄剤を除去した後、めっき槽内のめっき液11(塩化クロム、炭酸コバルト、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸バリウムを含有する)に浸漬して直流電流を一定時間流して電解めっきを実施する(S16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6価クロムを含有しないめっき液による6価クロムフリーの黒色めっき皮膜及びその皮膜形成方法に関するものであり、特に、防錆性等の皮膜特性に優れた黒色めっき皮膜及びその皮膜を安定して形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の六価クロム化合物含有めっき液による黒色めっき皮膜は、めっき皮膜に残留するめっき液成分の六価クロム分を除去する必要があり、めっき後の処理工程で温水洗や還元処理などで対応しているが、余分なコストが掛る上、複雑な形状の被めっき部品等は手間が掛かり効率が悪い。また、完全に除去したかを全数確認することも実質不可能であり、六価クロム残留のリスクはぬぐい切れない。更に、生産設備においては六価クロムを含有するミストや洗浄排水が発生するため、無害化して放出する環境汚染防止対策が必要であり、これらの放出についても災害などの非常時の場合等、完全にリスクを回避しきれないといった問題があった。そこで、六価クロムを含有しない三価クロムを主体としためっき液を用いた黒色クロムめっき皮膜についての研究開発が活発に行なわれている。
【0003】
具体的には、例えば、特許文献1においては、3価クロムの供給源として塩化クロム(CrCl3)を200〜600g/l、触媒として炭酸バリウムを10g/l、錯化剤としてギ酸アンモニウムを10〜30g/l使用しためっき液を作製し、陽極に白金めっきのチタンを用い、陰極すなわち被めっき部材として薄肉鋼板を使用して、液温を0℃〜−4℃とし、電圧15V、電流値1.54A〜2.09A、電解時間1.5分〜5分で電解めっきしたところ、無光沢の黒色皮膜が得られた、としている。
【0004】
また、特許文献2においては、塩化クロムを150〜300g/l、亜硫酸ナトリウムを0〜50g/l、亜硫酸カリウムを0〜100g/l、ヨウ化カリウムを10〜20g/l使用しためっき液を作製し、陽極に不溶性アノードを用い、陰極すなわち被めっき部材として鋼板を使用して、液温を30℃〜50℃とし、電流密度2〜50A/dm2、電解時間5分で電解めっきしたところ、均一で緻密な無光沢の黒色皮膜が得られた、としている。
【0005】
更に、特許文献3においては、塩化クロムを200g/dm3(0.75mol/dm3)、塩化アンモニウムを30g/dm3(0.56mol/dm3)、シュウ酸を3g/dm3(0.024mol/dm3)、炭酸バリウムを5g/dm3(0.025mol/dm3)、ホウ酸を30g/dm3(0.49mol/dm3)、フッ化バリウムを10g/dm3(0.057mol/dm3)使用しためっき液を作製し、陽極にグラファイト電極を用い、陰極すなわち被めっき部材として鋼板を使用して、液温を−10℃〜10℃とし、電流密度33A/dm2で電解めっきしたところ、黒色度が高く均一で密着力も良好な黒色めっき膜が得られた、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−126769号公報
【特許文献2】特開2007−119826号公報
【特許文献3】特許第3646805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが確認試験を行なったところ、上記特許文献1に記載の技術においては、出来栄えが不安定で、黒色部と銀白部とが斑に存在する不均一なめっき膜となり、均一な黒色皮膜を生成できない場合があり、やや不安定であった。また、上記特許文献2に記載の技術においては、黒色皮膜は生成するが、めっき液組成に起因する亜硫酸ガスの発生があり、かつその成分の消耗が激しいのか黒色皮膜の生成も2、3回目まででめっき液の安定性にも問題あるのではないかと思われる。更に、上記特許文献3に記載の技術においては、均一なめっき膜が得られたものの、やや灰色がかった色調で黒色度が従来の六価クロム液での皮膜のレベルまでには再現できなかった。このように、上記の従来技術においては、均一な黒色皮膜を繰り返して確実に得ることができないという問題点があった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであって、6価クロムフリーの条件下において、黒色度が高く均一で再現性良く繰り返し処理することができ、防錆性等の皮膜特性に優れた黒色めっき皮膜及びその皮膜形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る黒色めっき皮膜は、クロム金属及び/または3価クロム酸化物及び/または3価クロム水和物と、コバルト金属及び/またはコバルト酸化物及び/またはコバルト水和物とを含有し、6価クロム化合物を含有しないものである。
【0010】
ここで、「クロム金属及び/または3価クロム酸化物及び/または3価クロム水和物を含有し」とは、クロム金属、3価クロム酸化物、3価クロム水和物のうちいずれか1つを含有する場合、いずれか2つを含有する場合、3つとも含有する場合を全て含む意味であり、同様に「コバルト金属及び/またはコバルト酸化物及び/またはコバルト水和物を含有し」とは、コバルト金属、コバルト酸化物、コバルト水和物のうちいずれか1つを含有する場合、いずれか2つを含有する場合、3つとも含有する場合を全て含む意味である。
【0011】
請求項2の発明に係る黒色めっき皮膜は、請求項1の構成において、前記クロム金属及び/または3価クロム酸化物及び/または3価クロム水和物を合計で15重量%〜85重量%の範囲内で含有し、前記コバルト金属及び/またはコバルト酸化物及び/またはコバルト水和物を合計で15重量%〜85重量%の範囲内で含有するものである。
【0012】
請求項3の発明に係る黒色めっき皮膜の形成方法は、被めっき部材に脱脂または脱脂及び酸洗浄の前処理等を施した後にめっき液に浸漬して電解めっきすることによって前記被めっき部材に黒色めっき皮膜を形成させる方法であって、前記めっき液は、塩化クロムを150g/l以上飽和溶液量の範囲内、より好ましくは180g/l以上飽和溶液量の範囲内で、水酸化カリウム及び/または水酸化ナトリウムを合計で5g/l〜100g/lの範囲内、より好ましくは合計で10g/l〜50g/lの範囲内で、塩基性炭酸コバルトを3g/l〜100g/lの範囲内、より好ましくは8g/l〜100g/lの範囲内で、それぞれ含有し、前記めっき液の温度が0℃〜60℃、電流密度が3A/dm2〜40A/dm2の範囲内の条件において電解めっきするものである。
【0013】
請求項4の発明に係る黒色めっき皮膜の形成方法は、請求項3の構成において、前記めっき液は、更に炭酸バリウムまたは水酸化バリウムを1g/l〜30g/lの範囲内、より好ましくは3g/l〜10g/lの範囲内で含有するものである。
【0014】
請求項5の発明に係る黒色めっき皮膜の形成方法は、請求項3または請求項4の構成において、前記めっき液は、更に二酸化マンガンを30g/l〜120g/lの範囲内、より好ましくは50g/l〜80g/lの範囲内で含有するものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る黒色めっき皮膜は、クロム金属及び/または3価クロム酸化物及び/または3価クロム水和物と、コバルト金属及び/またはコバルト酸化物及び/またはコバルト水和物とを含有し、6価クロム化合物を含有しないことから、6価クロムフリーの条件下において、均一で黒色度に優れた黒色めっき皮膜を繰り返し得ることができる。
【0016】
すなわち、本発明者らは、黒色めっき皮膜の形成方法について、実験研究を重ねた結果、3価クロム化合物とコバルト化合物とをめっき液に含有させて電解めっきを実施することによって、クロムとコバルトとを含有する均一なめっき皮膜が得られ、このめっき皮膜は無光沢の黒色を示すことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0017】
このようにして、6価クロムフリーの条件下において、黒色度が高く均一で再現性良く繰り返し製造することができ、防錆性等の皮膜特性に優れた黒色めっき皮膜となる。
【0018】
請求項2の発明に係る黒色めっき皮膜は、クロム金属及び/または3価クロム酸化物及び/または3価クロム水和物を合計で15重量%〜85重量%の範囲内で含有し、コバルト金属及び/またはコバルト酸化物及び/またはコバルト水和物を合計で15重量%〜85重量%の範囲内で含有することから、クロムとコバルトとによる均一で黒色度に優れた黒色めっき皮膜を、より確実に得ることができる。
【0019】
請求項3の発明に係る黒色めっき皮膜の形成方法について、本発明者らは、実験研究を重ねた結果、塩化クロムを150g/l以上飽和溶液量の範囲内で、水酸化カリウム及び/または水酸化ナトリウムを合計で5g/l〜100g/lの範囲内で、塩基性炭酸コバルトを3g/l〜100g/lの範囲内で、それぞれ含有するめっき液を用いて、めっき液の温度が0℃〜60℃、電流密度が3A/dm2〜40A/dm2の範囲内の条件において電解めっきすることによって、安定してクロムとコバルトとを含有する均一なめっき皮膜が得られ、このめっき皮膜は無光沢の黒色を示すことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させたものである。
【0020】
なお、塩化クロムを180g/l以上飽和溶液量の範囲内で、水酸化カリウム及び/または水酸化ナトリウムを合計で10g/l〜50g/lの範囲内で、塩基性炭酸コバルトを8g/l〜100g/lの範囲内で、それぞれ含有するめっき液を用いることによって、より確実に安定して均一な黒色度に優れた黒色めっき皮膜を得ることができるため、より好ましい結果が得られる。
【0021】
このようにして、6価クロムフリーの条件下において、安定して黒色度が高く均一で再現性良く繰り返し製造することができ、防錆性等の皮膜特性に優れた黒色めっき皮膜の形成方法となる。
【0022】
請求項4の発明に係る黒色めっき皮膜の形成方法においては、めっき液が更に炭酸バリウムまたは水酸化バリウムを1g/l〜30g/lの範囲内で含有することから、めっき液の導電性が向上し、請求項3に係る発明の効果に加えて、より確実に、繰り返し黒色めっき皮膜を形成することができる。なお、炭酸バリウムまたは水酸化バリウムを3g/l〜10g/lの範囲内で含有するめっき液を用いることによって、より確実に均一で黒色度に優れた黒色めっき皮膜を得ることができるため、より好ましい。
【0023】
請求項5の発明に係る黒色めっき皮膜の形成方法においては、めっき液が更に二酸化マンガンを30g/l〜120g/lの範囲内で含有することから、請求項3または請求項4に係る発明の効果に加えて、より黒色度に優れた黒色めっき皮膜を繰り返し製造することができる。なお、二酸化マンガンを50g/l〜80g/lの範囲内で含有するめっき液を用いることによって、より確実に均一で黒色度に優れた黒色めっき皮膜を得ることができるため、より好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る黒色めっき皮膜の形成方法の概略を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施例1に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【図3】図3は、実施例2に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【図4】図4は、実施例3に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【図5】図5は、実施例4に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【図6】図6は、実施例5に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【図7】図7は、比較例1のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【図8】図8は、比較例2のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【図9】図9は、比較例3のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の実施の形態に係る黒色めっき皮膜の形成方法について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る黒色めっき皮膜の形成方法の概略を示すフローチャートである。
【0026】
図1に示されるように、まず、黒色めっき皮膜で被覆する被めっき部材10を、アルカリ系脱脂洗浄剤に浸漬させて脱脂洗浄し、被めっき部材10に付着する油分・汚れの除去を行う(ステップS10)。続いて、水洗して被めっき部材10に付着するアルカリ系脱脂洗浄剤を一旦除去し(ステップS11)、再びアルカリ系脱脂洗浄剤に浸漬させて、直流電源装置を使用して電解脱脂し、被めっき部材10に付着する油分・汚れを更に除去する(ステップS12)。
【0027】
次に、再び水洗して(ステップS13)、被めっき部材10に付着するアルカリ系脱脂洗浄剤を除去した後、塩酸に浸漬して酸洗浄し被めっき部材10の錆・酸化皮膜等の除去を行い(ステップS14)、水洗して(ステップS15)、被めっき部材10に付着する酸洗浄剤を除去した後、めっき槽内のめっき液11(塩化クロム、炭酸コバルト、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸バリウムを含有する)に浸漬して直流電流を一定時間流して電解めっきを実施する(ステップS16)。
【0028】
電解めっきが完了したら、めっき済み部材12をめっき槽から取り出して水洗し(ステップS17)、更に湯洗して(ステップS18)、付着しているめっき液11を除去する。そして、温風発生装置を使用してめっき済み部材12を乾燥し(ステップS19)、めっき済み部材11に付着している水分を除去する。これによって、黒色めっき製品13が完成する。
【0029】
次に、本実施の形態に係るめっき液の具体的な配合について、詳細に説明する。実施例1の配合として、塩化クロム六水和物220g/l、水酸化カリウム10g/l、水酸化ナトリウム10g/l、二酸化マンガン80g/l、炭酸バリウム3g/l、塩基性炭酸コバルト8g/lの濃度で純水に溶解して、めっき液を調製した。また、実施例2の配合として、塩化クロム六水和物220g/l、水酸化カリウム10g/l、水酸化ナトリウム10g/l、炭酸バリウム3g/l、塩基性炭酸コバルト8g/lの濃度で純水に溶解して、めっき液を調製した。
【0030】
更に、実施例3の配合として、塩化クロム六水和物220g/l、水酸化カリウム10g/l、水酸化ナトリウム10g/l、二酸化マンガン60g/l、炭酸バリウム3g/l、塩基性炭酸コバルト6g/l、シュウ酸50g/lの濃度で純水に溶解して、めっき液を調製した。
【0031】
また、実施例4の配合として、塩化クロム六水和物160g/l、水酸化カリウム10g/l、水酸化ナトリウム10g/l、二酸化マンガン80g/l、炭酸バリウム3g/l、塩基性炭酸コバルト8g/lの濃度で純水に溶解して、めっき液を調製した。更に、実施例5の配合として、塩化クロム六水和物150g/l、水酸化カリウム10g/l、水酸化ナトリウム10g/l、二酸化マンガン80g/l、炭酸バリウム3g/l、塩基性炭酸コバルト8g/lの濃度で純水に溶解して、めっき液を調製した。
【0032】
比較のため、比較例1〜比較例3の配合のめっき液をも作製して、電解めっきを行った。比較例1は塩化クロム濃度限界確認実験の配合例で、塩化クロム六水和物140g/l、水酸化カリウム10g/l、水酸化ナトリウム10g/l、二酸化マンガン80g/l、炭酸バリウム3g/l、塩基性炭酸コバルト8g/lの濃度で純水に溶解して、めっき液を調製した。
【0033】
また、比較例2は黒色膜形成基本組成検証実験の配合として、塩化クロム六水和物220g/l、水酸化カリウム10g/l、水酸化ナトリウム10g/lの濃度で純水に溶解してめっき液を調製した。更に黒色膜形成基本組成検証実験となる、比較例3の配合として、塩化クロム六水和物220g/l、及び塩基性炭酸コバルト8g/lの濃度で純水に溶解してめっき液を調製した。実施例1〜実施例5及び比較例1〜比較例3の配合について、表1の上段に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の上段に示されるように、実施例2の配合は、実施例1の配合から二酸化マンガンを除いたものであり、実施例3の配合は、実施例1の配合に対して塩基性炭酸コバルト及び二酸化マンガンの量を減らすとともに、還元剤としてシュウ酸を加えたものである。更に、実施例4の配合は、実施例1の配合に対して塩化クロム六水和物の量を160g/lと減らしたものであり、実施例5の配合は塩化クロム六水和物の量を更に150g/lと減らしたものである。
【0036】
また、比較例1の配合は、実施例1の配合に対して塩化クロム六水和物の量を更に140g/lと減らしたものである。更に、比較例2の配合は、実施例1の配合から塩基性炭酸コバルト、二酸化マンガン、炭酸バリウムを除いたものであり、比較例3の配合は、実施例1の配合から水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、二酸化マンガン、炭酸バリウムを除いたものであり、塩化クロム六水和物及び塩基性炭酸コバルトのみからなるものである。
【0037】
これらのめっき液をめっき浴として、被めっき部材10として軟鋼鉄板(50mm×67mm×0.3mm)を用いて、めっき液に電流密度20A/dm2で直流電流を流して、10分間電解めっきを行った。陽極材質としては、グラファイト・カーボンを使用した。また、めっき液の温度を測定したが、10分間の電解めっきの間、めっき液の温度は10℃〜30℃の範囲内に保たれた。その結果得られためっき皮膜を、図2〜図9に示す。
【0038】
図2は、実施例1に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。図3は、実施例2に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。図4は、実施例3に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。図5は、実施例4に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。図6は、実施例5に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。図7は、比較例1のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。図8は、比較例2のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。図9は、比較例3のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜の表面を示す写真である。
【0039】
これらのめっき皮膜の評価を、表1の下段にまとめて示す。図2,図3,図4に示されるように、実施例1乃至実施例3に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜は、いずれも黒色度・均一性ともに非常に優れており、◎の評価である。なお、これらのめっき液を繰り返し用いて、図1のフローチャートにしたがって電解めっきを行ったところ、めっき液を10回使用しても、得られるめっき皮膜の黒色度・均一性は変化しなかった。
【0040】
また、図5,図6に示されるように、実施例4及び実施例5に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜は、いずれも黒色度・均一性ともにまずまずであり、○の評価である。実施例4及び実施例5に係るめっき皮膜を、実施例1に係るめっき皮膜と比較すると、やはり塩化クロム六水和物の濃度は180g/l以上であることがより好ましいことが分かる。実施例4及び実施例5に係るめっき液を繰り返し用いて、図1のフローチャートにしたがって電解めっきを行ったところ、めっき液を10回使用しても、得られるめっき皮膜の黒色度・均一性は変化しなかった。
【0041】
これに対して、図7に示されるように、比較例1のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜は、全体に皮膜が付着しておらず、黒色度はあるが均一ではなく、塩化クロム六水和物の量が不足していることが分かる。また、図8に示されるように、比較例2のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜は、茶褐色である上にムラが生じている。更に、図9に示されるように、比較例3のめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜は、やはり茶褐色である上にムラが生じており、黒色度・均一性ともに劣っている。
【0042】
また、防錆性を評価するために、実施例1に係るめっき液を用いて電解めっきして得られためっき皮膜について、塩水噴霧試験を実施した。試験方法は、JIS−Z−2371塩水噴霧試験方法の7.2.1「中性塩水噴霧試験」に準拠して実施した。その結果、12時間経過後までは全く錆が発生せず、めっき皮膜が密着性及び防錆性に優れていることが明らかになった。
【0043】
このようにして、本実施の形態に係る黒色めっき皮膜及びその形成方法においては、6価クロムフリーの条件下において、黒色度が高く均一で再現性良く繰り返し製造することができ、防錆性等の皮膜特性に優れた黒色めっき皮膜を得ることができる。
【0044】
本実施の形態においては、めっき液に炭酸バリウムを含有する実施例1乃至実施例5に係る配合のみについて説明したが、炭酸バリウムを全く使用しない配合においても、同様に黒色度が高く均一な黒色めっき皮膜を得ることができる。
【0045】
また、本実施の形態においては、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムを1リットル当たり10gずつ使用した場合について説明したが、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムとを同量使用する必要はなく、更には水酸化カリウムと水酸化ナトリウムのいずれか一方のみを使用しても良い。
【0046】
本発明を実施するに際しては、黒色めっき皮膜のその他の部分の構成、組成、配合、成分、形状、数量、材質、大きさ、製造方法等についても、また黒色めっき皮膜の製造方法のその他の工程についても、本実施の形態及び各実施例に限定されるものではない。
【0047】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム金属及び/または3価クロム酸化物及び/または3価クロム水和物と、
コバルト金属及び/またはコバルト酸化物及び/またはコバルト水和物とを含有し、
6価クロム化合物を含有しないことを特徴とする黒色めっき皮膜。
【請求項2】
前記クロム金属及び/または3価クロム酸化物及び/または3価クロム水和物を合計で15重量%〜85重量%の範囲内で含有し、前記コバルト金属及び/またはコバルト酸化物及び/またはコバルト水和物を合計で15重量%〜85重量%の範囲内で含有することを特徴とする請求項1に記載の黒色めっき皮膜。
【請求項3】
被めっき部材をめっき液に浸漬して電解めっきすることによって前記被めっき部材に黒色めっき皮膜を形成させる方法であって、
前記めっき液は、塩化クロムを150g/l以上飽和溶液量の範囲内で、水酸化カリウム及び/または水酸化ナトリウムを合計で5g/l〜100g/lの範囲内で、塩基性炭酸コバルトを3g/l〜100g/lの範囲内で、それぞれ含有し、
前記めっき液の温度が0℃〜60℃、電流密度が3A/dm2〜40A/dm2の範囲内の条件において電解めっきすることを特徴とする黒色めっき皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記めっき液は、更に炭酸バリウムまたは水酸化バリウムを1g/l〜30g/lの範囲内で含有することを特徴とする請求項3に記載の黒色めっき皮膜の形成方法。
【請求項5】
前記めっき液は、更に二酸化マンガンを30g/l〜120g/lの範囲内で含有することを特徴とする請求項3または請求項4に記載の黒色めっき皮膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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