説明

黒色三価クロム化成処理加工部品及びその製造方法

【課題】六価クロムを含有せず、六価クロム化成処理皮膜と同程度の耐食性を有し、更に黒色である皮膜を形成する技術の提供。
【解決手段】黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法であって、加工部品の表面に亜鉛系めっき皮膜を形成し、その上に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し、更に水洗処理して皮膜付き加工部品を得る皮膜形成工程と、前記皮膜付き加工部品を皮膜定着処理して黒色三価クロム化成処理加工部品を得る皮膜定着工程とを具備する黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は黒色六価クロム化成処理加工部品に代替する、黒色三価クロム化成処理加工部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき(亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき)加工部品の防錆処理として、六価クロムを含有する処理液を用いたクロメート処理がある。亜鉛系めっき後にこのようなクロメート処理を施すことで、亜鉛系めっき加工部品の耐食性は飛躍的に向上する。例えば、クロメート処理なし(亜鉛系めっきのみ)の加工部品を塩水噴霧試験(SST)に供すると数十分から数時間で白錆が発生するが、これにクロメート処理したものであれば白錆発生までの時間は72時間以上となる。
【0003】
しかし、六価クロム化合物は発癌性があり人体や環境に有害であるため、近年になりその使用が規制されるようになってきた。
そのため、亜鉛系めっき加工部品の防錆処理についても六価クロムを含有しない六価クロムフリー処理液の使用に切り替わりつつある。
【0004】
しかし、従来の六価クロムフリー処理液を用いて亜鉛めっき加工部品を処理した場合、形成された皮膜が無色又は淡い色調、特に黄色系の色調となり、下地の亜鉛系めっきの表面が見えるため、製品に高級感を付与することができなかった。
このように従来においては、六価クロムを含有せず、六価クロム化成処理皮膜と同程度の耐食性を有し、更に黒色である皮膜を形成する技術の開発が望まれてきた。
【0005】
これに関連する従来法として、例えば次に示すものが挙げられる。
特許文献1には、亜鉛系めっき鋼材の表面に黒色防錆皮膜を形成するための酸性の表面処理液であって、3価クロム化合物、コバルト化合物、キレート形成能のある有機酸、リン酸、および硫酸を含有し、6価クロムと硝酸イオンを含有しない酸性水溶液からなり、水溶液中のリン酸イオン/硫酸イオンの質量比が1以上であることを特徴とする表面処理液中に、亜鉛系めっき鋼材を浸漬した後、乾燥して、黒色防錆皮膜をめっき表面に形成することを特徴とする亜鉛系めっき鋼材の黒色化処理方法が記載されている。
また、この乾燥に関しては、常温乾燥でも加熱乾燥でもよいと記載されている。
そして、このような方法によれば、3価クロム化合物を主な皮膜形成成分とし、六価クロムを含まない処理液を利用して、6価クロムを含有するクロメート皮膜に匹敵する耐食性を示す、六価クロムフリーの黒色防錆皮膜を亜鉛系めっき鋼材のめっき表面に形成することができると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、素材となる金属部品の表面に亜鉛鍍金処理工程で亜鉛鍍金を施し、この亜鉛鍍金被膜の表面を希硝酸活性処理工程の処理溶液中で活性化させ、この後、この金属部品を水洗いして硝酸成分を除去し、続いて、この金属部品を黒色クロメート処理工程の三価クロム及び鉄成分を主成分とする無機塩溶液中で黒色被膜を生成させ、再度水洗いした後、仕上げ処理工程において三価クロム及びシリカを主成分とする無機塩及び有機酸溶液中で化成処理被膜を生成させて仕上げ処理を行い、これを乾燥工程において乾燥することで、金属部品の表面の耐食性を向上させるようにしたことを特徴とする黒色六価クロムフリー鍍金処理システムが記載されている。
そして、この方法により生成された黒色三価クロメート被膜においても、従来の黒色六価クロメート被膜と同様の耐食性及び強度が得られるとともに重厚感を有する黒色三価クロメート被膜が初めて得られ且つ光沢を有する黒色被膜の形成が可能となると記載されている。
【特許文献1】特許第3584937号明細書
【特許文献2】特開2004−263240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2に記載されたような従来法によって黒色三価クロム化成処理皮膜を表面に有する亜鉛系めっき加工部品を製造しても、耐食性が不十分となる場合があった。
したがって、本発明の目的は、六価クロムを含有せず、六価クロム化成処理皮膜と同程度の耐食性を有し、更に黒色である皮膜を形成する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来法において耐食性が不十分となる原因を検討した。そして、黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し水洗処理した後の処理が、耐食性に大きな影響を与えることを見出した。そして、次に示す本発明によって、上記の課題を解決することができることを見出した。
【0009】
本発明は、次に示す(1)〜(10)である。
(1)黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法であって、加工部品の表面に亜鉛系めっき皮膜を形成し、その上に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し、更に水洗処理して皮膜付き加工部品を得る皮膜形成工程と、前記皮膜付き加工部品を皮膜定着処理して黒色三価クロム化成処理加工部品を得る皮膜定着工程とを具備する黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
(2)前記皮膜定着工程が、前記皮膜付き加工部品をラックに保持して40℃以下雰囲気の中を通過させて黒色三価クロム化成処理加工部品を得る工程である上記(1)に記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
(3)前記40℃以下雰囲気がエアーブロー法によって対流されている上記(2)に記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
(4)前記ラックが振動するラックである上記(2)又は(3)に記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
(5)前記皮膜形成工程が、前記加工部品をラックに保持してその表面に亜鉛系めっき皮膜を形成し、その上に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し、更に水洗処理して皮膜付き加工部品を得る工程である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
(6)前記皮膜形成工程において、前記加工部品の表面に電気亜鉛めっき法によって前記亜鉛系めっき皮膜を形成する上記(1)〜(5)のいずれかに記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
(7)更に、前記皮膜形成工程の前に、前記加工部品の表面を脱脂処理し、酸洗浄処理し、電解洗浄処理をする前処理工程を具備し、前記電解洗浄処理が、前記皮膜形成工程における前記亜鉛系めっき皮膜の形成に用いるめっき浴の鉄イオン濃度を100mg/l以下とする処理である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
(8)更に、前記皮膜定着工程の後に、無色の無機及び/又は有機オーバーコート層を形成するコーティング工程を具備する上記(1)〜(7)のいずれかに記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載の製造方法により製造される黒色三価クロム化成処理加工部品。
(10)表面の明度指数が15未満であり、かつ塩水噴霧試験における白錆発生までの時間が72時間以上である上記(9)に記載の黒色三価クロム化成処理加工部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば六価クロムを含有せず六価クロム化成処理皮膜と同程度の耐食性を有し、更に黒色である皮膜を形成する技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を説明する。
本発明は、黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法であって、加工部品の表面に亜鉛系めっき皮膜を形成し、その上に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し、更に水洗処理して皮膜付き加工部品を得る皮膜形成工程と、前記皮膜付き加工部品を皮膜定着処理して黒色三価クロム化成処理加工部品を得る皮膜定着工程とを具備する黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法である。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0012】
また、本発明は、本発明の製造方法により製造される黒色三価クロム化成処理加工部品である。
このような黒色三価クロム化成処理加工部品を、以下では「本発明の部品」ともいう。
【0013】
始めに、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、加工部品の表面に亜鉛系めっき皮膜を形成し、その上に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し、更に水洗処理して皮膜付き加工部品を得る皮膜形成工程を具備する。
<皮膜形成工程>
本発明の製造方法が具備する皮膜形成工程では、まず、加工部品の表面に亜鉛系めっき皮膜を形成する。
【0014】
ここで用いる加工部品は、その表面の少なくとも一部に金属部分を有し、かつ、後述する亜鉛系めっき皮膜の形成をバッチ式で行うことができる形状及び大きさであれば特に限定されない。つまり、コイル状に巻き取られた薄板鋼板等、亜鉛系めっき処理を通常連続式で行う部材を用いる技術は本発明の範囲外である。
【0015】
この加工部品の材質は鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、チタン、マグネシウム等の各種金属及びこれらの合金等であることが好ましく、鉄系の合金、つまり鋼材であることがより好ましい。鋼材に亜鉛系めっき皮膜を形成したものが、さらに好ましい。
また、形状は板状、管状や、線材、棒材、異型材が有する形状が例示される。更に、これらを更に加工した部品、半加工品又は製品であってもよい。
例えば、ボルトやナットといった小物部品、プレス成形品、打ち抜き加工品、鍛造物、鋳造品等が挙げられる。
【0016】
本発明の製造方法が具備する皮膜形成工程では、このような加工部品を亜鉛系めっき処理し、その表面に亜鉛系めっき皮膜を形成する。
前記加工部品を亜鉛系めっき処理する方法は特に限定されず、例えば公知の方法である電気亜鉛めっき法、溶融亜鉛めっき法又は気相めっき法等を適用することができる。これらの中でも電気亜鉛めっき法を適用することが好ましい。理由は、めっき皮膜の膜厚制御が比較的容易であり、また、設備費が高価にならないからである。
【0017】
亜鉛系めっき処理において用いるめっき浴も、公知のものを用いることができる。
なお、亜鉛系めっきとは、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっきを意味する。亜鉛合金めっきの例としては、Zn−Ni合金めっき、Zn−Fe合金めっき、Zn−Al合金めっき等が挙げられる。
【0018】
このような亜鉛系めっき皮膜が表面に形成された加工部品を、以下では「亜鉛系めっき加工部品」ともいう。
【0019】
本発明の製造方法が具備する皮膜形成工程では、前記亜鉛系めっき加工部品の上に、更に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成する。
この黒色三価クロム化成処理皮膜は前記亜鉛系めっき加工部品の表面に形成することが好ましい。六価クロム化成処理は、環境規制(EU委のRoHS、ELV指令等)で使用禁止となっている。三価クロム化成処理はこの代替品となり得る。
また、この亜鉛系めっき加工部品が有する前記亜鉛系めっき皮膜と、この黒色三価クロム化成処理皮膜との間に他の皮膜を形成してもよい。他の皮膜としては、例えばリン酸塩による化成皮膜等が例示される。
さらに、前記亜鉛系めっき皮膜及び前記黒色三価クロム化成処理皮膜は、各々複数形成してもよい。
【0020】
ここで、黒色三価クロム化成処理皮膜を形成するために用いる表面処理液は、三価クロムを含有し、実質的に六価クロムを含有せず、前記亜鉛系めっき加工部品の亜鉛系めっき皮膜の上に皮膜を形成した場合、黒色六価クロム化成処理皮膜と同程度に黒色を呈する表面処理液であれば特に限定されない。
【0021】
このような表面処理液としては、例えば、硝酸イオンと三価クロムとのモル比(NO/Cr3+)が0.5未満となる量で硝酸(イオン)を含有し、三価クロムはキレート剤との水性錯体の形態で存在し、更にCo及び/又はNiイオンを、キレート剤と難溶性の塩を形成しない状態で含有するものが挙げられる。
また、例えば、三価クロム化合物、コバルト化合物、キレート形成能のある有機酸、リン酸及び硫酸を含有し、六価クロムと硝酸イオンを含有しない酸性水溶液からなり、水溶液中のリン酸イオン/硫酸イオンの質量比が1以上である表面処理液が挙げられる。
また、例えば、三価クロム化合物を2質量%、フッ酸を1質量%、硫酸を1質量%含有するものが挙げられる。
【0022】
また、このような表面処理液のpHは0.5〜3.5であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましく、1.5程度であることがさらに好ましい。pHが低すぎると亜鉛系めっき加工部品を処理中に亜鉛系めっき成分の溶出が多くなり、形成された亜鉛系めっき皮膜と、黒色三価クロム化成処理皮膜とを表面に有する加工部品の耐食性が低下する傾向にある。また、pHが高すぎると黒色三価クロム化成処理皮膜の形成速度が遅くなる傾向があり、また黒色度も低下する傾向にある。
【0023】
このような表面処理液を用いて亜鉛系めっき加工部品の表面に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成する方法として、例えば従来公知の方法である浸漬法、スプレー法、塗布法等が挙げられる。
これらの方法を適用する際の処理時間、表面処理液の温度等も、所望の皮膜厚さ等を考慮し適宜調整すればよい。例えば浸漬法であれば、通常は表面処理液の温度を30℃程度とし、浸漬時間は40秒程度とすればよい。
【0024】
このような方法で、前記亜鉛系めっき加工部品に更に黒色亜鉛系めっき皮膜を形成することができる。
このような方法で、前記亜鉛系めっき加工部品に更に黒色亜鉛系めっき皮膜を形成したものを、以下では「三価クロム化成処理加工部品」ともいう。
【0025】
本発明の製造方法が具備する皮膜形成工程では、このような三価クロム化成処理加工部品を水洗処理する。
ここで水洗処理の方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。例えば、浸漬法、スプレー法、振動法等が挙げられる。
このような水洗処理の後に得られるものが皮膜付き加工部品である。
【0026】
また、このような皮膜形成工程では、前記加工部品をラック(治具、籠等を含む。本発明におけるラックの定義は後述する。)に保持してその表面の亜鉛系めっき皮膜を形成し、その状態(前記加工部品をラックに保持した状態)のまま、その上に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し、更にその状態のまま水洗処理を行うことが好ましい。黒色三価クロム化成処理皮膜を安定状態にするためには、後述するような、ラックを用いた特別な処理を好ましく適用することができるからである。これに対して、六価クロム化成処理の化成皮膜は皮膜安定に要する時間が三価の場合よりも短く、特別な処理を必要としない。
【0027】
<皮膜定着工程>
本発明の製造方法が具備する皮膜定着工程では、前記皮膜付き加工部品を皮膜定着処理して黒色三価クロム化成処理加工部品を得る。
ここで皮膜定着処理とは、従来の加熱乾燥処理とは異なる処理である。
つまり、従来の六価クロム化成処理及び水洗処理後の乾燥処理や、白色又は黄色三価クロム化成処理及び水洗処理後の乾燥処理では、例えば60〜80℃程度の熱風をクロム化成処理皮膜の表面に当てて水洗水を乾燥させていたが、本発明においてはこのような方法は適用しない。本発明者が鋭意検討したところ、黒色三価クロム化成処理皮膜を形成する場合に、六価クロム化成処理や白色、黄色の三価クロム化成処理の場合と同様な方法で乾燥させると、その皮膜が劣化し、耐食性が低下することがわかった。更に、次に説明する皮膜定着処理を行うことで、黒色三価クロム化成処理皮膜は耐食性が低下し難くなることを見出した。
【0028】
本発明の製造方法が具備する皮膜定着工程において、皮膜定着処理とは、前記水洗処理後の前記皮膜付き加工部品を比較的低温において、その表面に極力負荷を加えずに、皮膜の化学的安定化を促進しつつ、その表面に付着している水洗水を除去する処理である。
【0029】
このような皮膜定着処理は、前記皮膜付き加工部品をラックに保持して40℃以下雰囲気(40℃以下の温度雰囲気)の中を通過させる処理であることが好ましい。
この温度は15〜40℃であることがより好ましく、20〜35℃であることがさらに好ましい。
また、前記40℃以下雰囲気内での保持時間は前記皮膜付き加工部品の種類、形状等によって変化するものの、通常20秒〜2分程度である。
このような皮膜定着処理であると、黒色三価クロム化成処理皮膜の表面に負荷を加えずに、皮膜の脱膜や部分的剥離というような損傷を受けることなく、その表面に付着している水洗水を除去することができるという効果を奏するので好ましい。
【0030】
また、本発明においてラックとは、治具や籠等、前記皮膜付き加工部品を保持して運搬することができるものを意味する。更に通電することができるものであることが好ましい。電気めっきにおけるラック法で用いられる治具が例示できる。
また、ここで40℃以下雰囲気としては、例えば内部を40℃以下に調整された電気炉等が例示できる。
【0031】
また、このような皮膜定着処理においては、前記40℃以下雰囲気の中がエアーブロー法によって対流されていることが好ましい。理由は前記水洗処理後の前記三価クロム化成処理加工部品の表面の温度分布を均一にすることができ、局所的な温度負荷を避けることができるので、この皮膜の物理的又は化学的な損傷に基づく耐食性劣化を回避することができるからである。
【0032】
また、前記ラックが振動するラックであることが好ましい。つまり、ラック自体が振動可能であることが好ましい。理由は前記皮膜付き加工部品の表面から水洗水が除去される速度が速まるからである。加工部材におけるコーナー部や曲げ部等は、水洗水が滞留する場合が多く「液抜け」がよくない。
【0033】
具体的にラックを振動させる方法は、特に限定されないものの、例えばバイブレータをラックに設置し、連続的に又は断続的にバイブレータを作動させればラックを振動させることができる。
【0034】
また、他の方法としては、例えばシリンダーを介してラックにノック式振動発生器を接触させ、シリンダーによりラックをノックすることで、ラックを振動させる方法が挙げられる。ここでラックをノックする周期は0.3〜1.0回/秒であることが好ましい。
また、例えばシリンダーでラックを直接ノックすることで、ラックを振動させる方法が挙げられる。ここでラックをノックする周期は0.5〜3.0回/秒であることが好ましい。
さらに、例えばカム方式によりラックを上下又は水平方向に振動させる方法が挙げられる。このような上下動をするラック及び水平方向に運動するラックも本発明でいう振動するラックに含まれる。ここで上下動のストローク量は75〜150mmであることが好ましい。また、上下動のサイクルは3〜8秒であることが好ましい。また、ここで水平方向へのストローク量は100〜450mmであることが好ましい。また、水平方向の運動のサイクルは0.5〜3.0秒であることが好ましい。
ここで、前記皮膜付き加工部品を吊り下げる方式で処理する場合には、上下方向の振動ではなく、水平方向(前後又は左右方向)の振動方法が望ましい。
【0035】
本発明の製造方法は、このような皮膜形成工程と皮膜定着工程とを具備するが、更に、前記皮膜形成工程の前に、前記加工部品の表面を脱脂処理し、酸洗浄処理し、電解洗浄処理する前処理工程を具備することが好ましい。
更に、前記脱脂処理と酸洗浄処理との間に脱脂剤洗浄処理を行うことが好ましい。
このような前処理工程を具備すると、前記皮膜形成工程における亜鉛系めっき皮膜の形成速度が速まり、形成された亜鉛系めっき皮膜の性状(耐食性等)がより高まり、めっきムラの解消がされ、めっきの付き方がより均一になるので好ましい。
【0036】
ここで脱脂処理、酸洗浄処理及び電解洗浄処理は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。
また、前記電解洗浄処理は、特に電解洗浄によって、前記加工部品の表面に付着する鉄イオン付着量を低減し、次の工程である前記皮膜形成工程における前記亜鉛系めっき皮膜の形成に用いるめっき浴の鉄イオン濃度を100mg/l以下とする処理であることが好ましい。また、この鉄イオン濃度は70mg/l以下とすることがより好ましく、50mg/l以下とすることがさらに好ましい。
前記亜鉛系めっき皮膜の形成に用いる前記めっき浴の鉄イオン濃度をこのような値以下とすると、三価クロム化成処理皮膜が均一性良く形成できるからである。
【0037】
前記亜鉛系めっき皮膜の形成に用いる前記めっき浴の鉄イオン濃度をこのような値以下とするための具体的な電解洗浄処理方法としては、例えば次の方法が挙げられる。
例えば、従来公知の電解洗浄処理方法において通常2タクト行う処理を3タクト行う方法が挙げられる。
また、例えば第1工程:アルカリ溶液中陽極酸化、第2工程:塩酸酸性溶液中陽極電解、第3工程:アルカリ溶液中陰極電解等の3工程の組合せで行う方法がある。
【0038】
また、本発明の製造方法は、更に、前記皮膜定着工程の後に、無色の無機及び/又は有機オーバーコート層を形成するコーティング工程を具備することが好ましい。理由は形成された本発明の部品の耐食性や摺動性や耐指紋性といった耐食性以外の因子も更に向上するからである。
【0039】
ここで、無色の無機オーバーコート層を形成するために用いる処理液は、例えばコロイダルシリカ(ケイ酸塩)、りん酸塩や金属酸化物(チタニア)が用いられる。
このような処理液を用いて無機オーバーコート層を前記黒色加工部品の表面に形成する方法は、特に限定されず例えば従来公知の方法を適用することができる。例えば、スプレー法、浸漬法、及び塗布法等が挙げられる。はけ等を用いて塗布してもよい。
このような無機オーバーコート層の厚さは特に限定されないが、1〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることが更に好ましい。このような厚さであると色調がより均一になるからである。また、耐食性がより向上するからである。
【0040】
また、ここで、無色の有機オーバーコート層を形成するために用いる処理液は、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂等のように公知のものから選ぶことができる。
このような処理液を用いて有機オーバーコート層を前記黒色加工部品の表面に形成する方法は、特に限定されず例えば従来公知の方法を適用することができる。例えば、スプレー法、浸漬法、塗布法等が挙げられる。はけ等を用いて塗布してもよい。
このような有機オーバーコート層の厚さは特に限定されないが、1〜30μmであることが好ましく、10〜20μmであることが更に好ましい。このような厚さであると色調がより均一になるからである。また、耐食性がより向上するからである。
【0041】
次に本発明の部品について説明する。
本発明の部品は、このような本発明の製造方法により製造することができる。
本発明の部品は、前記加工部品の表面に前記亜鉛系めっき皮膜を有し、更にその上に前記黒色三価クロム化成処理皮膜を有する。
【0042】
これらの皮膜は各々複数存在してもよい。また、前記亜鉛系めっき皮膜と前記黒色三価クロム化成処理皮膜との間に前記他の皮膜が存在してもよい。このような場合であっても本発明の範囲内である。
【0043】
本発明の部品は六価クロムを含有しない。また六価クロム化成処理皮膜と同程度の耐食性を有する。更に六価クロム化成処理皮膜と同程度に黒色である。
具体的には、本発明の部品の表面の明度指数は15未満であり、かつ塩水噴霧試験における白錆発生までの時間は72時間以上である。
更に、本発明の部品における色差は1.0未満であることが好ましい。上記本発明の製造方法において、クロメート処理溶液の組成、特に鉄イオンを主とした不純物の濃度を制御して製造した場合に色差が1.0未満となる傾向がある。また、本発明の製造方法において、前記皮膜定着処理が、前記皮膜付き加工部品をラックに保持してエアーブロー法によって対流されている40℃以下雰囲気の中を通過させる処理であると、色差が1.0未満である本発明の部品を製造できる傾向がある。
【0044】
ここで明度指数とは、国際照明委員会(CIE)のCIE表色系(L表色系)で定義されるLの値を意味する(以下「L値」ともいう)。
また、色差とは、同様にCIE表色系で定義されるΔEの値を意味し、ΔE=((ΔL+(Δa+(Δb1/2から算出される。
このL値及びΔEは公知の測定機器で測定することができる。
なお、米国標準局(NBS)の提唱する基準によると、ΔE<1.5なら、その測定面は同一色調とみなすことができる。
【0045】
また、塩水噴霧試験とはJIS Z 2371に準じた試験である。本発明において塩水噴霧試験は35℃、5質量%NaCl溶液(pH:6.5〜7.2)を噴霧する条件で行う。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について説明する。
<実施例1>
加工部品として炭素鋼(SS400)で、厚さが2mm、10×10mmの平板を用意した。
【0047】
そして、この加工部品を用いて前処理工程(脱脂処理、脱脂剤洗浄処理、酸洗浄処理及び電解洗浄処理)、皮膜形成工程(亜鉛系めっき処理、黒色三価クロム化成処理及び水洗処理)及び皮膜定着工程を行った。
各々の処理について以下に説明する。
【0048】
<前処理工程>
まず、前記加工部品にアルカリ脱脂処理を施した。ここでは水酸化ナトリウムを10質量%となるように水道水で溶解したアルカリ脱脂処理液を用いた。このアルカリ脱脂処理液を50℃とし、その中に前記加工部品を浸漬してアルカリ脱脂処理を行った。
次に脱脂剤洗浄処理を行った。ここでは前記加工部品の表面に残存するアルカリ脱脂処理液を水道水で洗い流す処理を行った。
【0049】
次に酸洗浄処理を行った。ここで酸として硫酸を用い、これを45質量%の水溶液としたものに前記加工部品を浸漬した。
次に電解洗浄処理を行った。具体的には50℃、10質量%NaOH溶液中で、陽極電解(電流密度:0.1A/dm)を45秒間行った。
【0050】
<皮膜形成工程>
上記のような前処理工程を施した前記加工部品に亜鉛系めっき処理を行った。具体的には株式会社晴喜製作所製の電気亜鉛めっきラインを用いめっき処理をした。ここで、電流密度は2.5A/dmとし、浴温度は25℃で16分間の処理をした。また、用いた亜鉛めっき浴はジンケート浴であり、金属Znを8g/l、NaOHを100g/l含有するものである。
【0051】
次に黒色三価クロム化成処理を行った。具体的にはトライナー(TR−175、日本表面化学社製)をpH=2.0、30℃に調整したものに50秒間浸漬して行った。
【0052】
次に水洗処理を行った。具体的には25℃とした純水中に60秒間浸漬した。
このような水洗処理を行い皮膜付き加工部品を得た。
【0053】
<皮膜定着工程>
次に、得られた皮膜付き加工部品に皮膜定着工程を施した。
具体的には、通常加工部品の電気亜鉛めっき処理で使用される長方形の治具を用いて上記皮膜付き加工部品を保持した状態で、35℃雰囲気の中を50秒間で通過させた。ここで35℃雰囲気は、熱交換器、ブロアー及び排気ファンからなる装置を用いて35℃に調整した空間である。ブロアーを用いているのでこの空間内は対流されている。また、ここでブロアーの送風量は10m/minとした。
また、この35℃雰囲気内において、この治具をバイブレータを用いて水平方向(ここでは治具の移動方向に平行な方向とした)に振動させた。ここで水平方向のストローク量は300mmとし、水平方向の振動のサイクルは1秒とした。
このような方法で黒色三価クロム化成処理加工部品を製造した。
【0054】
次に、このような処理を行い製造した黒色三価クロム化成処理加工部品(「黒色加工部品1」とする。)を塩水噴霧試験(上記のJIS Z 2371に準じた試験)に供した。また、分光測色計(スガ試験機社製)を用いて、その表面のL値及びΔEを測定及び算出した。その結果を第1表に示す。
【0055】
<比較例1>
上記実施例1における皮膜定着工程の代わりに従来公知の熱風乾燥処理を行ったこと以外は、全て実施例1と同じ処理を行い黒色三価クロム化成処理加工部品(「黒色加工部品2」とする。)を製造した。
熱風乾燥処理は、具体的に65℃に熱した空気(電熱式ヒータで加熱し、直径:80mmの円筒より吹出す)を加工部品(10×10×2mmの平板)に当てるという方法で行った。
そして、実施例1と同じ試験を行った結果を第1表に示す。
【0056】
<参考例1>
上記比較例1における皮膜形成工程の黒色三価クロム化成処理の代わりに、黒色六価クロム化成処理を行ったこと以外は、全て比較例1と同じ処理を行い黒色六価クロム化成処理加工部品(「黒色加工部品3」とする。)を製造した。
黒色六価クロム化成処理は、無水クロム酸:45g/l、硫酸ナトリウム:45g/l、硝酸銀:1.0g/lという組成であって25℃とした溶液中に25秒間浸漬することで行った。
実施例1と同じ試験を行った結果を第1表に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
第1表から、実施例1で得られた黒色三価クロム化成処理加工部品の明度指数が15未満であり、かつ塩水噴霧試験における白錆発生までの時間が72時間以上であり、ΔEが1.0未満となることがわかる。また、それらの値は、参考例1の六価クロム化成処理処理を行った場合と同程度であることがわかる。
一方、比較例1では明度指数、塩水噴霧試験における白錆発生までの時間、ΔEのいずれも実施例1の場合よりも悪化することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法であって、
加工部品の表面に亜鉛系めっき皮膜を形成し、その上に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し、更に水洗処理して皮膜付き加工部品を得る皮膜形成工程と、
前記皮膜付き加工部品を皮膜定着処理して黒色三価クロム化成処理加工部品を得る皮膜定着工程と
を具備する黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
【請求項2】
前記皮膜定着工程が、前記皮膜付き加工部品をラックに保持して40℃以下雰囲気の中を通過させて黒色三価クロム化成処理加工部品を得る工程である請求項1に記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
【請求項3】
前記40℃以下雰囲気がエアーブロー法によって対流されている請求項2に記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
【請求項4】
前記ラックが振動するラックである請求項2又は3に記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
【請求項5】
前記皮膜形成工程が、前記加工部品をラックに保持してその表面に亜鉛系めっき皮膜を形成し、その上に黒色三価クロム化成処理皮膜を形成し、更に水洗処理して皮膜付き加工部品を得る工程である請求項1〜4のいずれかに記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
【請求項6】
前記皮膜形成工程において、前記加工部品の表面に電気亜鉛めっき法によって前記亜鉛系めっき皮膜を形成する請求項1〜5のいずれかに記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
【請求項7】
更に、前記皮膜形成工程の前に、前記加工部品の表面を脱脂処理し、酸洗浄処理し、電解洗浄処理をする前処理工程を具備し、前記電解洗浄処理が、前記皮膜形成工程における前記亜鉛系めっき皮膜の形成に用いるめっき浴の鉄イオン濃度を100mg/l以下とする処理である請求項1〜6のいずれかに記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
【請求項8】
更に、前記皮膜定着工程の後に、無色の無機及び/又は有機オーバーコート層を形成するコーティング工程を具備する請求項1〜7のいずれかに記載の黒色三価クロム化成処理加工部品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法により製造される黒色三価クロム化成処理加工部品。
【請求項10】
表面の明度指数が15未満であり、かつ塩水噴霧試験における白錆発生までの時間が72時間以上である請求項9に記載の黒色三価クロム化成処理加工部品。

【公開番号】特開2007−277640(P2007−277640A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106108(P2006−106108)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(501080321)株式会社熊防メタル (2)
【Fターム(参考)】