説明

黒色再現性に優れたインク組成物およびそれを用いたインクジェット記録方法

【課題】高品質な画像と、耐水性ある画像とを両立出来る、より具体的には、特定の染料の組み合わせによって、黒色再現性に優れ、普通紙においても高品質な画像(光学濃度が高く、ブリードがない鮮明な画像)が実現でき、速やかなインクの定着、印刷物の耐水性、耐光性を与えるインク組成物が実現できるインク組成物の提供。
【解決手段】下記の式(I)で表される染料を基本とし、さらに複数の染料を組み合わせてインク組成物とする。


[式中、R1 は−PO(OM)2 または−COOMを表し、XおよびYは独立してそれぞれアルコキシを表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニア、または有機アミン類の陽イオンを表す。]

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は黒色再現性に優れたインク組成物およびこれを用いたインクジェット記録方法に関する。
【0002】
背景技術
インクジェット記録方式に使用されるインクは、各種染料を水または有機溶剤、あるいはこれらの混合液に溶解させたものが一般的であるが、様々な特性において、万年筆やボールペンの様な筆記具用インクに比較し、より厳密な条件が要求される。
【0003】
さらに最近の動向として、インクジェット記録方式には高品質な画像(光学濃度が高く、ブリードがない鮮明な画像)、ハイスピード、印刷物の耐水性、耐光性に対しての要望が高い。
【0004】
ハイスピードな印刷を実現するためには、インクの速やかな定着が必要となる。そこで、インクの記録媒体への浸透性を向上させるという試みがなされている。例えば、特開平4−183761号公報、米国特許第5156675号、米国特許第5183502号等には、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを添加することや、グリコールエーテル類とノニオン性アセチレングリコール系界面活性剤の両方を添加すること等が開示されている。なお、本明細書において記録媒体への浸透性が高いインクを浸透インクということがある。
【0005】
しかし、これらの浸透インクは、特に表面に特殊な加工を施していない普通紙(オフィスや学校、家庭で使用されるコピー紙、レポート用紙、ボンド紙、便箋、はがき、伝票用紙などがある)に対して、インクが紙の中に浸透するために発色性が低下してしまう傾向があるため、光学濃度が高く、鮮明な画像を得ることが難しいことがあった。光学濃度を上げるために染料濃度を増加させると、目詰まり等の信頼性に問題が生じてくるおそれがある。そのため浸透インクに用いる染料には極めて高い溶解性が要求されている。
【0006】
溶解性の高い染料としてはC.I.フードブラック2(特開昭59−93766号公報など)や、その他多くの直接・酸性染料が従来広く知られ、従来、実際にインクジェット記録用インクには多く用いられてきた。しかしながら水への溶解性が高いことは即ち、水に溶け易いことであり、結果として印字の耐水性に劣ることがあった。
【0007】
そこで耐水性を得るために、特開平5−140495号公報ではピロリドン(2−ピロリドン、N−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンまたはそれらの混合物を指す)を含有するインク組成物が提案されている。このインク組成物は確かに耐水性、インク滴の吐出安定性については優れているものの、インクに要求される特性のすべてを十分満足できるには至っていない。
【0008】
印字物の耐水性を向上させるため、色材として、耐水性を有する黒色染料およびその染料を含むインクの提案もなされている。例えば、米国特許第4963189号明細書、米国特許第5203912号明細書には、塩基には容易に溶解しながらその一方で中性である水には溶解しないという特性の染料が開示されている。そして、耐水性に優れた印刷物が得られるインクが提案されている。
【0009】
また、特公平5−80956号公報ではリン酸基を有するジズアゾ染料、特開平3−91577号公報、特開平5−262998号公報などにはカルボン酸基を有するジスアゾ染料などを用いたインクの提案がなされている。
【0010】
しかし、耐水性を有する染料はインクの媒体に対する溶解しにくい傾向があるため、インクジェットヘッドの微細な吐出口において目詰まりを生じさせ易いという問題があった。さらに、耐水性を有する染料は浸透インクへの使用に適さないという課題もあった。
【0011】
一方で、インク組成物には真の黒色の再現が求められる。一部の染料の色相は青味を帯びている傾向にあり、それは本来の黒色(例えば、墨や漆色のような漆黒という黒色)とはやや異なるものである。色相を改良するために補色染料を組み合わせる検討もなされている。しかしながら、補色染料を組み合わせることによって、本来のインクの耐水性が損なわれたり、目詰まり等の信頼性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0012】
さらに、既存染料や新規構造染料を用いた耐水性に優れたインク組成物の提案が種々なされているが、十分な耐水性を満足し、かつ黒色再現性に優れ、高品質な画像を実現するインクが依然として求められているといえる。
【発明の概要】
【0013】
本発明者等は、今般、特定の染料を組み合わせて利用することにより、高品質な画像と、耐水性ある画像とを両立出来るとの知見を得た。より具体的には、特定の染料の組み合わせによって、黒色再現性に優れ、普通紙においても高品質な画像(光学濃度が高く、ブリードがない鮮明な画像)が実現でき、速やかなインクの定着、印刷物の耐水性、耐光性を与えるインク組成物が実現できるとの知見を得た。
【0014】
よって、本発明は、高品質な画像と、耐水性ある画像とを両立出来るインク組成物の提供をその目的としている。
【0015】
更に、本発明は、黒色再現性に優れ、普通紙においても高品質な画像(光学濃度が高く、ブリードがない鮮明な画像)が実現でき、速やかなインクの定着、印刷物の耐水性、耐光性を与えるインク組成物の提供をその目的としている。
【0016】
そして、本発明の第一の態様のインク組成物は、第一の染料群と第二の染料群とを少なくとも含んでなるインク組成物であって、第一の染料群が、下記の式(I)で表される染料であって、R1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 を表す染料と、R1 がアゾ基に対してm−位のCOOMを表す染料とを含んでなり、第二の染料群が、下記の式(II)で表される染料および/または下記の式(III )で表される染料からなるものである。
【0017】
【化1】

[式中、
1 は−PO(OM)2 または−COOMを表し、XおよびYは独立してそれぞれC1-4 アルコキシを表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニア、および有機アミン類からなる群から選択される基の陽イオンを表す。]
【0018】
【化2】

[式中、
21およびR22は独立してそれぞれ水素原子または−C2 4 OHを表し、Z1 、Z2 、Z3 、およびZ4 は、独立してそれぞれ下記式(IV)または式(V)で表される基を表す:
【0019】
【化3】

[式中、
41およびR51は独立してそれぞれ水素原子、C1-4 アルキル、またはC1-4アルコキシを表し、Aは−SO3 Mまたは−COOMを表し、Mは上で定義したものと同義であり、nは1または2である。)]
また、本発明の第二の態様のインク組成物は、上記式(I)で表される染料であって、R1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 またはCOOMを表す染料と、下記の式(VI)で表される染料とを含んでなるインク組成物。
【0020】
【化4】

[式中、
Mは上で定義したものと同義であり、mは1または2を表し、nは0または1を表す。]
更に、本発明の第三の態様のインク組成物は、染料群Aと染料群Bとを少なくとも含んでなるインク組成物であって、染料群Aが、上で定義された式(I)で表される染料と、上で定義された式(VI)で表される染料とを含んでなり、染料群Bが、上で定義された第二の染料群である、インク組成物。
【発明の具体的説明】
【0021】
本発明によるインク組成物はインク組成物を用いた記録方式に用いられる。インク組成物を用いた記録方式とは、例えば、インクジェット記録方式、ペン等による筆記具による記録方式、記録計、ペンプロッター等のその他各種の印字方式が挙げられる。特に本発明によるインク組成物は、インクジェット記録方法に好ましく用いられる。インクジェット記録方式としては、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法、熱エネルギーを利用する方法、その他知られているまたは将来知られるであろうインクジェット記録方法において用いることができる。また、本発明によるインク組成物は、印刷の後、適当な熱定着手段(例えば、熱風、加熱ロール・板、赤外線など)によって乾燥、定着されても良い。
【0022】
第一の態様のインク組成物
本発明の第一の態様によるインク組成物は第一の染料群と第二の染料群とを含んでなる。
【0023】
これら二つの染料群を組み合わせることで、良好な黒色を再現でき、さらに耐水性ある印刷物の実現が可能となった。さらに、普通紙と呼ばれるオフィスや学校、家庭で使用されるコピー紙、レポート用紙、ボンド紙、便箋、はがき、伝票用紙などにおいても良好な黒色を再現でき、さらに耐水性ある印刷物の実現が可能となった。
【0024】
これら第一の染料群と、第二の染料群とのインク組成物中の存在比は、上記利点が得られる範囲で適宜決定されてよいが、例えば第一の染料群と、第二の染料群とのインク組成物中の重量比が1:0.1〜1:0.5の範囲にあるのが好ましい。
【0025】
また、インク組成物への全染料の添加量についても上記利点が得られる範囲で適宜決定されてよいが、例えば1〜25重量%程度が好ましく、より好ましくは2〜10重量%程度である。
【0026】
第一の染料群は、前記式(I)で表される染料であって、R1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 を表す染料と、R1 がアゾ基に対してm−位のCOOMを表す染料とを含んでなる。
【0027】
式(I)において、XおよびYが表すC1-4 アルコキシは、好ましくはメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基である。
【0028】
また、式(I)において、Mが表すアルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられる。また、Mが表す有機アミン類としては例えばモノ−、ジ−、またはトリ−低級アルキル置換(好ましくはC1-4 アルキル置換)アミン、アリルアミン、モルホリン、ピペリジンなどが挙げられ、さらに具体的にはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ジブチルアミンが挙げられる。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、この第一の染料群として、式(I)においてR1 がm−位のPO(OM)2 を表す染料と、式(I)においてR1 がm−位のCOOMを表す染料とを、その重量比で1:0.6〜1:1.5の範囲で含んでなるのが好ましい。このような第一の染料群を利用することで、保存安定に優れたインク組成物を実現できる。より具体的には、保存中析出物を発生させないインク組成物が得られる。
【0030】
この第一の染料群を構成する式(I)においてR1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 を表す染料は、特公平5−80956号公報に開示された染料群に包含されるリン酸基を有するジスアゾ染料である。この染料は、染料構造中にリン酸基を有するため、紙などのセルロース繊維に対する染着性が良好で、耐水性に優れる。また、同時にスルホン酸基のような水溶性の酸基を有するため、水性液媒体に対する溶解性に優れる。水に対する溶解性は水溶媒のpHにより異なるが、pH7.5〜11、好ましくはpH8.5〜10で良好な溶解性を示し、酸性pHでは難溶性となる。この染料の合成は、例えば次のように行うことができる。すなわち、m−アミノベンゼンホスホン酸を常法によりジアゾ化し、2,5−ジC1-4 アルコキシ置換アニリンとカップリングすることによりアミノ基を有するモノアゾ化合物を生成する。これを単離し、または引き続き、常法によりジアゾ化して、γ酸(2−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸)とカップリングすることにより得ることができる。
【0031】
また、第一の染料群を構成する式(I)においてR1 がm−位のCOOMを表す染料は、特開平5−262998号公報または特開平5−125318号公報に開示されているカルボン酸基を有するジスアゾ染料である。この染料は、染料構造中にカルボン酸基を有するため、耐水性が良好である。また、同時にスルホン酸基のような水溶性の酸基を有するため、アルカリ金属塩やアンモニウム塩の形で水性液媒体に溶解する。pH6以下では不溶となる。pH8.0〜10において良好な溶解性を有する。この染料の合成は、例えば次のように行うことができる。すなわち、m−アミノベンゼンカルボン酸を常法によりジアゾ化し、2,5−ジC1-4 アルコキシ置換アニリンとカップリングすることによりアミノ基を有するモノアゾ化合物を生成する。これを単離し、または引き続き、常法によりジアゾ化して、γ酸(2−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸)とカップリングすることにより得ることができる。
【0032】
本発明において好ましく利用される式(I)においてR1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 を表す染料および式(I)においてR1 がm−位のCOOMを表す染料の具体例としては次のものが挙げられる。
【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

第一の染料群を構成する上記二つの染料は、それぞれ個別に合成されて混合されてもよいが、上記二つの染料の混合物として同時に合成されてもよい。そのような同時合成の方法としては、次のスキームに記載の方法が挙げられる。
【0039】
【化11】

工程(i)において、m−アミノベンゼンホスホン酸とm−アミノベンゼンカルボン酸との混合アミンを、例えば温度0〜5℃で、同時にジアゾ化する。次に、工程(ii)において、2,5−ジアルコキシ置換アニリンと、例えば温度0〜5℃、pH0.5〜3.5で、カップリング反応を行う。工程(iii )において、得られたモノアゾ化合物を、例えば温度25〜35℃で、ジアゾ化し、続いて温度5〜15℃、pH9〜10において、γ酸(2−アミノ−8−ナフトール−6−スルホン酸)とカップリング反応を行う。
【0040】
本発明の第一の態様において用いられる第二の染料群は、前記式(II)で表される染料および/または前記式(III )で表される染料からなる。
【0041】
これら第二の染料群に属する染料は公知であり、例えば特開平4ー233975号公報、カラーインデックス(THE SOCIETY OF DYERS AND COLOURISTS )に記載されている。
【0042】
本発明において好ましく利用される第二の染料群に包含される染料の具体例としては次のものが挙げられる。
【0043】
【化12】

本発明の好ましい態様によれば、式(I)におけるMが揮発性を有する化合物の陽イオンを表し、式(II)および/または式(III )におけるMがアルカリ金属の陽イオンである組み合わせが、印字の耐水性およびノズルの目詰まり防止の観点から好ましい。ここで、揮発性を有する化合物とは、アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、secーブチルアミン、tert−ブチルアミン、ジブチルアミン、アリルアミン、モルホリン、ピペリジンおよびその混合物があげられる。
【0044】
本発明の第一の態様によるインク組成物は、上記の染料群と、水と、有機溶媒とから基本的になる。
【0045】
本発明の好ましい態様によれば、有機溶媒として含窒素環状化合物および多価アルコールとが、上記の染料群と組み合わせて用いられるのが好ましい。
【0046】
含窒素環状化合物の添加によって、染料の溶解を安定化させ、さらにノズルの目詰まりを防止し印字を安定に行うことができる。さらに染料の発色を補助し、また印字の耐水性を向上させるとの利点が得られる。その添加量は1〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは3〜20重量%である。含窒素環状化合物の具体例としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、およびこれらの混合物などがあげられる。
【0047】
また、多価アルコールの添加によって、ノズルの目詰まりがより有効に防止されるとの利点が得られる。その添加量は1〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは3〜20重量%である。多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、グリセリン、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の第一の態様のインク組成物は、ノニオン性アセチレングリコール系界面活性剤を含んでなる。この添加によって、インクの速やかな定着(浸透性)と、1ドットの真円度を保つことができるという利点がえられる。
【0049】
本発明において用いられる具体的なノニオン性アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、サーフィノール465、サーフィノール104、オルフィンSTG(以上 日信化学社製 商品名)等が挙げられ、特にオルフィンSTGが効果的である。その添加量は0.05〜3重量%程度が好ましく、より好ましくは0.5〜2重量%である。
【0050】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の第一の態様のインク組成物は、グリコールエーテル類を含んでなる。この添加によって、インクの浸透性がより増すとともに、カラー印刷を行った場合の隣合うカラーインクとの境界のブリードを減少させることができ、非常に鮮明な画像を得ることができる。
【0051】
本発明において用いられるグリコールエーテル類としては、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。その添加量は3〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは5〜15重量%である。
【0052】
本発明の好ましい態様によれば、インク組成物のpHがトリ(ヒドロキシアルキル)アミンの添加によって調整されるのが好ましい。pHの調整方法としては、KOHやNaOHなどの無機塩基を用いる方法、または、アミン類などの有機塩基を用いる方法が考えられる。無機塩基はある添加量から急激にpHの上昇を起こす場合があり、制御が困難なことがあり、また固体であるためにインク組成物中に無機塩基自体の析出を生じノズルの目詰りを起こす原因となる場合がある。また、有機塩基は窒素原子が正にチャージするために染料などと反応してしまうおそれがある。これら無機塩基および有機塩基のいずれの使用にあったっても上記した問題が発生しないよう留意が必要である。一方で、トリ(ヒドロキシアルキル)アミンは、上記の問題の発生が少ないことからその利用が好ましい。その添加量は、求められるpHおよびその他のインク組成物の特性を勘案して適宜決定されてよいが、好ましくは0.1〜2重量%程度であり、より好ましくは0.3〜1重量%程度である。
【0053】
更に本発明の好ましい態様によれば、前記したトリ(ヒドロキシアルキル)アミンと共に、更に元素周期Ia族からなる群より選択される金属元素の水酸化物を少なくとも1つ含んでなるのがより好ましい。この水酸化物は上記の無機塩基に属するが、トリ(ヒドロキシアルキル)アミンと共に用いた場合、目詰り回復性がより改善される。さらに、前記した無機塩基のみでpH調整を行う場合に比べ、析出物の発生が少なく、更にpHの変化も起こらないとの利点が得られる。金属水酸化物としては、LiOH、NaOH、KOHなどが水への溶解性も高く、好適である。その添加量はインクの特性、特に目詰り回復性が改善される範囲で適宜決定されてよいが、0.01〜1重量%程度が好ましい。
【0054】
また、本発明による第一の態様のインク組成物には、耐水性、黒色再現性の効果を損なわない範囲で、さらに染料が添加されても良い。また、必要に応じて、低級アルコール類、アルギン酸ナトリウム等の水溶性ポリマー、水溶性樹脂、フッ素系界面活性剤、防カビ剤、防錆剤等が添加されてもよい。
【0055】
本発明によるインク組成物をインクジェット記録方法に用いる場合、良好な応答性、吐出安定性、適当なドットの広がりおよび良好なその真円度などを実現するために、インク組成物の粘度は0〜50℃の動作時温度において30mPa・s以下が好ましく、より好ましくは1.2〜20mPa・s程度であり、またインク組成物の表面張力は0〜50℃の動作時温度において20〜35mN/m程度であるのが好ましい。
【0056】
本発明の第一の態様によるインク組成物は、常法に従って製造することができる。例えば、各成分を充分混合溶解し、孔径約0.8μmのメンブランフィルターで加圧ろ過したのち、真空ポンプを用いて脱気処理してインクを調製する。
【0057】
第二の態様によるインク組成物
本発明の第二の態様によるインク組成物は、上記式(I)で表される染料であって、R1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 またはCOOMを表す染料と、上記式(VI)で表される染料とを含んでなる。
【0058】
これら二つの染料群を組み合わせることで、良好な黒色を再現でき、さらに耐水性ある印刷物の実現が可能となった。さらに、普通紙と呼ばれるオフィスや学校、家庭で使用されるコピー紙、レポート用紙、ボンド紙、便箋、はがき、伝票用紙などにおいても良好な黒色を再現でき、さらに耐水性ある印刷物の実現が可能となった。
【0059】
式(I)で表される染料と式(VI)で表される染料とのインク組成物中の存在比は、上記利点が得られる範囲で適宜決定されてよいが、例えば式(I)で表される染料と式(VI)で表される染料とを重量比4:1〜1:10の範囲で含有してなるのが好ましく、より好ましくは3:1〜1:5の範囲である。
【0060】
また、染料のインク組成物への添加量についても上記利点が得られる範囲で適宜決定されてよいが、例えば1〜20重量%程度が好ましく、より好ましくは2.5〜10重量%程度である。
【0061】
本発明の第二の態様によるインク組成物に用いられる前記式(I)で表される染料は、前記本発明の第一の態様において説明されたものと同義であってよい。またその好ましい具体例も同一であってよく、従って、好ましい具体例としては上記(I−1)〜(I−24)の染料が挙げられる。また、本態様においては、式(I)で表される染料とは、R1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 を表す染料およびR1 がアゾ基に対してm−位のCOOMを表す染料のいずれであってもよい。
【0062】
本発明の好ましい態様によれば、式(I)中のMが、アンモニウム、置換アンモニウム、モルホリニウム、またはピペリジニウムなどの揮発性のアルカリ塩であるのが好ましい。これらの利用により印刷物の耐水性がより改善されるからである。このような塩の形成に使用されるアミンの例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、プチルアミン、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、ジブチルアミン、アリルアミン、モルホリン、ピペリジンおよびその混合物が挙げられる。但し、式(I)の染料が完全にアンモニウム塩、置換アンモニウム塩、モルホリニウム塩、ピペリジニウム塩である必要はなく、アルカリ金属塩との混合物であってもよい。その場合、染料全体に対するアルカリ金属塩の比率は50%以下であることが好ましい。
【0063】
本発明の第二の態様において用いられる前記式(VI)で表される染料は、米国特許第4963189号明細書、米国特許第5203912号明細書に記載された公知の染料である。
【0064】
前記式(VI)で表される染料の好ましい具体例としては次のものが挙げられる。
【0065】
【化13】

【0066】
【化14】

式(VI)で表される染料は、上記したとおり、米国特許第4963189号明細書、米国特許第5203912号明細書に記載されてものであることから、それらの記載を参照して製造することができる。また、特開平2−140270号公報、カラーインデックス第3版(Colour Index, Third Edition, The societyof Dyers and Colourists)に記載の方法によっても製造することができる。
【0067】
上記の式(I)および式(VI)で表される染料は、特公平5−80956号公報または、特開平5−262998号公報、特開平5−125318号公報、米国特許第4963189号明細書、米国特許第5203912号明細書などで公知の通り、溶解のためには添加されたインク組成物は塩基性であることが求められる。従って、本発明によるインク組成物においても、そのpHが塩基性に調整されてなるのが好ましい。本発明の好ましい態様によれば、インク組成物はpHは8.5〜11の範囲にあるのが好ましく、より好ましくは8.5〜10の範囲である。
【0068】
本態様によるインク組成物は、上記の染料群と、水と、有機溶媒とから基本的になる。
【0069】
本発明の好ましい態様によれば、インクの速やかな定着(浸透性)を得ると同時に、カラー印刷に於けるブリードを防止するのに効果的な添加剤として、グリコールエーテル類の添加が好ましい。グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。その添加量は、インクの浸透性およびブリード防止の能力の効果を得られる範囲で適宜決定されてよいが、式(I)で表される染料および式(IV)で表される染料は、グリコールエーテル類には難溶または不溶であることからその過剰の添加はノズルの目詰りを生じるおそれがあるため、3〜30重量%程度が好ましく、より好ましくは5〜15重量%程度である。
【0070】
また本態様のインク組成物においても、第一の態様のインク組成物と同様の理由から、ノニオン性アセチレングリコール系界面活性剤の添加が好ましい。その具体例としては、先に第一の態様について記載のものが挙げられる。その添加量も同様に適宜決定されてよいが、本態様においては0.05〜5重量%程度が好ましく、より好ましくは0.1〜2重量%程度である。
【0071】
本態様においても、第一の態様によるインク組成物の場合と同様の理由から、インク組成物のpHは、トリ(ヒドロキシアルキル)アミンの添加によって調整されるのが好ましい。その添加量についても同様であってよい。
【0072】
更に本態様においても、第一の態様によるインク組成物の場合と同様の理由から、トリ(ヒドロキシアルキル)アミンと共に、更に元素周期Ia族からなる群より選択される金属元素の水酸化物を少なくとも1つ含んでなるのがより好ましい。その添加量についても同様であってよい。
【0073】
また、本発明による第二の態様のインク組成物にあっても、第一の態様のインク組成物と同様に、耐水性、黒色再現性の効果を損なわない範囲で、さらに染料が添加されても良い。また、必要に応じて、低級アルコール類、アルギン酸ナトリウム等の水溶性ポリマー、水溶性樹脂、フッ素系界面活性剤、防カビ剤、防錆剤等が添加されてもよい。
【0074】
本発明によるインク組成物をインクジェット記録方法に用いる場合、上記した本発明の第一の態様によるインク組成物と同様の粘度および表面張力を有するモノであることが好ましい。
【0075】
また、本態様のインク組成物も、上記した本発明の第一の態様によるインク組成物と同様の方法によって製造することができる。
【0076】
第三の態様によるインク組成物
本発明による第三の態様によるインク組成物は染料群Aと染料群Bとの二種類の染料を含んでなる。
【0077】
これら二つの染料群を組み合わせることで、良好な黒色を再現でき、さらに耐水性ある印刷物の実現が可能となった。さらに、普通紙と呼ばれるオフィスや学校、家庭で使用されるコピー紙、レポート用紙、ボンド紙、便箋、はがき、伝票用紙などにおいても良好な黒色を再現でき、さらに耐水性ある印刷物の実現が可能となった。
【0078】
染料群Aと染料群Bとのインク組成物中の存在比は、上記利点が得られる範囲で適宜決定されてよいが、重量比で1:0.1〜1:0.5の範囲で含有してなるのが好ましい。
【0079】
また、染料のインク組成物への添加量についても上記利点が得られる範囲で適宜決定されてよいが、例えば1〜25重量%程度が好ましく、より好ましくは3〜15重量%程度である。
【0080】
本態様において染料群Aは、前記式(I)で表される染料と、前記式(VI)で表される染料とを含んでなる。
【0081】
ここで、前記式(I)で表される染料は、前記本発明の第一の態様において説明されたものと同義であってよい。本態様においては、式(I)で表される染料とは、R1 の置換位置は特に特定されないが、アゾ基に対してm−位のPO(OM)2 またはCOOMを表す染料が好ましい。さらに、その好ましい具体例も第一の態様のものと同一であってよく、従って、好ましい具体例としては上記(I−1)〜(I−24)の染料が挙げられる。
【0082】
本発明の好ましい態様によれば、本態様のインク組成物は、式(I)で表される染料と、式(VII )で表される染料とを、重量比4:1〜1:10の範囲で含んでなるのが好ましく、より好ましくは3:1〜1:5である。重量比が上記範囲にあることで、染料群Aの水性溶媒への溶解性が良好となるとともに、溶解安定性も向上するので好ましい。
【0083】
染料群Aのインク組成物への添加量は適宜決定されよいが、例えば1〜20重量%程度が好ましく、より好ましくは2.5〜10重量%程度である。
【0084】
本態様において染料群Bは、前記本発明の第一の態様において説明された第二の染料群と同義である。すなわち、前記式(II)で表される染料および/または前記式(III )で表される染料からなる。さらに、その好ましい具体例も第一の態様のものと同一であってよく、従って、好ましい具体例としては上記(II−1)、(II−2)、(III −1)、および(III −2)の染料が挙げられる。
【0085】
本態様においても、本発明の第一の態様によるインク組成物と同様に、式(I)におけるMが揮発性を有する化合物の陽イオンを表し、式(II)および/または式(III )におけるMがアルカリ金属の陽イオンである組み合わせが、印字の耐水性およびノズルの目詰まり防止の観点から好ましい。揮発性を有する化合物としては、第一の態様の場合と同様のものが挙げられる。
【0086】
さらに、本態様によるインク組成物は、上記の染料群と、水と、有機溶媒とから基本的になる。
【0087】
本態様においても、本発明の第一の態様によるインク組成物と同様の理由から、有機溶媒として含窒素環状化合物および多価アルコールとが、上記の染料群と組み合わせて用いられるのが好ましい。それらの具体例および添加量は第一の態様によるインク組成物と同様であってよい。
【0088】
また、本態様においても、第一の態様によるインク組成物と同様の理由から、ノニオン性アセチレングリコール系界面活性剤を含んでなるのが好ましい。その具体例およびその添加量は第一の態様によるインク組成物と同様であってよい。また、本態様においても、第一の態様によるインク組成物と同様の理由から、グリコールエーテル類を含んでなるのが好ましい。それらの具体例および添加量は第一の態様によるインク組成物と同様であってよい。
【0089】
本態様においても、第一の態様によるインク組成物の場合と同様の理由から、インク組成物のpHは、トリ(ヒドロキシアルキル)アミンの添加によって調整されるのが好ましい。その添加量についても同様であってよい。
【0090】
更に本態様においても、第一の態様によるインク組成物の場合と同様の理由から、トリ(ヒドロキシアルキル)アミンと共に、更に元素周期Ia族からなる群より選択される金属元素の水酸化物を少なくとも1つ含んでなるのがより好ましい。その添加量についても同様であってよい。
【0091】
また、本発明による第三の態様のインク組成物にあっても、第一の態様のインク組成物と同様に、耐水性、黒色再現性の効果を損なわない範囲で、さらに染料が添加されても良い。また、必要に応じて、低級アルコール類、アルギン酸ナトリウム等の水溶性ポリマー、水溶性樹脂、フッ素系界面活性剤、防カビ剤、防錆剤等が添加されてもよい。
【0092】
本発明によるインク組成物をインクジェット記録方法に用いる場合、上記した本発明の第一の態様によるインク組成物と同様の粘度および表面張力を有するインク組成物であることが好ましい。
【0093】
また、本態様のインク組成物も、上記した本発明の第一の態様によるインク組成物と同様の方法によって製造することができる。
【実施例】
【0094】
本発明を以下の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0095】
なお、以下の実施例において染料の番号は上記の具体的な染料の番号と一致するものである。
【0096】
実施例A染料(I−1)の合成
m−アミノベンゼンホスホン酸34.62g(0.20mol)を水400mlに撹拌しながら懸濁し、これに35%塩酸30.4g(0.29mol)を加え、0℃に冷却した。この溶液に温度が5℃を越えないように徐々に36%亜硝酸ナトリウム水溶液40.0g(0.21mol)を適下し、50分間撹拌することにより混合アミンをジアゾ化した。その後、得られた水溶液にチオ尿素を加え、過剰な亜硝酸を除去してジアゾ成分含有液を得た。一方、2,5−ジエトキシアニリン36.3g(0.22mol)を水500mlに分散し、35%塩酸21.3g(0.21mol)を加えて、溶解させ、カップリング成分含有液を得た。ここで、カップリング成分含有液を0℃に冷却し、これに温度が5℃を越えないように上記ジアゾ成分含有液を滴下した。次いで、3〜5℃で20時間撹拌してモノアゾ化合物;m−(2,5−ジエトキシ−4−アミノ−フェニルアゾ)ベンゼンホスホン酸を得た。
【0097】
得られたモノアゾ化合物混合物を水900mlに分散し、45%水酸化ナトリウム水溶液43.0g(0.48mol)を加え溶解した。この溶液に36%亜硝酸ナトリウム水溶液38.5g(0.20mol)を加えて25℃に冷却し、さらに20%塩酸130g(0.71mol)を30℃を越えないように徐々に加えた後、25〜30℃以下で3時間撹拌することによりモノアゾ化合物の混合物をジアゾ化した。その後、得られた水溶液にスルファミン酸を加えて、過剰な亜硝酸を除去してジアゾ成分液を得た。
【0098】
γ酸51.6g(0.21mol)を水600mlに加え、45%水酸化ナトリウム水溶液37.0g(0.42mol)で溶解し、5℃に冷却してカップラー溶液を調整した。これに先に調製したモノアゾ化合物のジアゾ成分含有液を反応温度が8℃を越えないようにかつ20%水酸化ナトリウム水溶液の添加により反応pHを8.5以上に保つようにしながら滴下した。その後8℃で3時間撹拌した。塩・酸析操作により、染料(I−1)で示されるジスアゾ染料約80g得た。
【0099】
染料(I−9)の合成
m−アミノベンゼンカルボン酸27.40g(0.20mol)を用いた他は、染料(I−1)の製造と同様にして、染料(I−9)で示されるジスアゾ染料を約70g得た。
【0100】
インク組成物の調製
次の表に記載のインク組成物を調製した。具体的には、全成分を混合し、70℃で1時間撹拌した。その後、撹拌を続けながら自然冷却し、温度が40℃以下になったところで、0.8μmのメンブランフィルターで減圧濾過し、所望のインクを得た。
【0101】
表中、実施例とされるインク組成物は、本発明の第一の態様によるインク組成物である。また、表中の数値は重量%を表し、また組成の残量は水である。
【0102】
【表1】

表中、染料(I−1)および(I−9)は、アンモニウム塩の形でインク組成物に添加した。また、プロキセルXL−2はゼネカ株式会社製防かび剤である。
【0103】
印字評価試験
以下の印字評価試験は、インクジェットプリンタ MJ−700V2/C(セイコーエプソン株式会社製)用ブラックインクカートリッジに上記実施例Aおよび比較インク例Aのインクを充填し、以下の試験1〜6について評価を行なった。
【0104】
画質評価には以下の試験紙を用いた。(1)〜(4)はいわゆる普通紙であり、(5)はインクジェットプリンタ専用紙(コート紙)である。
【0105】
(1) EPP用紙 (エプソン販売(株))
(2) Xerox P (富士ゼロックス(株))
(3) Xerox 4024 (Xerox Co.)
(4) Ricopy 6200 (リコー(株))
(5) EPSON ファイン用紙 ( エプソン販売( 株))
【0106】
試験1:黒色再現性
前記の試験紙についてグラフィック印刷を行い、ベタ部分の色相(分光特性・L* * * )を測定し、「電子写真学会テストチャート No.5 」(1988年)に示される黒色サンプルを標準色とした色差(ΔE)を求めた。
【0107】
なお、色相測定は、350〜750nmの波長領域における分光特性をマクベス社製 マクベス分光光度計CE−7000を用いて測定した。測定された分光特性より、標準色との明度(L* )および色度(a* , b* )の差をΔL* 、Δa* 、Δb* としたとき、色差(ΔE)は次の式で求められる。
【0108】
ΔE=[(ΔL* 2 +(Δa* 2 +(Δb* 2 1/2得られたΔEの値から、黒色再現性を次のように評価した。
【0109】
◎:ΔE≦1
○:1<ΔE<3
△:3≦ΔE<5
×:ΔE≧5
【0110】
試験22−1:画像品質
前記の試験紙について、アルファベット印字およびグラフィック印刷を行い、目視およびベタ部分の光学濃度(OD値)を測定し、次の基準に従い評価した。
【0111】
なお、OD値測定には、マクベス社製 マクベスTR−927を用いて、反射濃度を測定した。
【0112】
◎:にじみがなく、OD値が1.30以上
○:ややにじみが見られるが画像には影響なく、OD値が1.25以上
△:にじみは少ないが、OD値が1.25未満
×:OD値が1.20未満
【0113】
2−2:ブリード
インクジェットプリンタ MJ−700V2/C搭載のカラーインクと共にカラー印刷を行い、ブラックインクとカラーインクとの境界のブリードを目視により観察し、その結果を次の基準に従い評価した。
【0114】
◎:ブリードがなく、鮮明
○:ややブリードがあるが、鮮明である
△:ブリードがやや目立つ
×:ブリードがひどい
【0115】
試験3:耐水性
上記記録紙(1)および(2)にアルファベット印字を行った。その印字サンプルに水滴を滴下し、自然乾燥させた後のサンプルの状態を目視観察し、その結果を次の基準により評価した。
【0116】
◎:初期状態と変化なし
○:わずかに染料が溶け出しているが、文字がはっきりと読み取れる
△:にじみはあるが、文字は読み取れる
×:文字がにじみ読み取れない
【0117】
試験4:目詰まり回復性
プリンターの記録ヘッド内にインクを充填した後、記録ヘッドをキャップ位置からずらした状態で40℃で1カ月間放置した。その後、印字を開始したとき、正常な印字が可能となるまでに要したクリーニング回数を次のように評価した。
【0118】
◎:0〜2回
○:3〜4回
△:5〜10回
×:10回まで行なって回復せず
【0119】
試験5:乾燥性
印刷の後一定時間経過後に記録媒体と同種の紙の端部で印刷部位を擦り、擦れの有無を観察し、その結果を次のように評価した。
【0120】
◎:印刷直後に擦って、擦れが確認されなかった
○:印刷より10秒後に擦って、擦れが確認されなかった
×:印刷より10秒後に擦って、擦れが確認された。
【0121】
試験6:保存安定性
プリンターのインクカートリッジにインクを充填し、−30℃および70℃に2週間放置した。放置の前後で、インク物性、色調変化、異物・析出物の発生の有無を観察し、その結果を次のように評価した。
【0122】
○:物性・色調とも変化なく、異物・析出物の発生もない
×:物性・色調の変化があるか、異物・析出物の発生がみられた
上記の試験1〜6の評価結果は次の表に示される通りであった。
【0123】
【表2】

【0124】
実施例B
次の表に記載のインク組成物を実施例Aと同様にして調製した。
【0125】
【表3】

表中、染料(I−1)および(I−9)は、アンモニウム塩の形でインク組成物に添加した。
【0126】
印字評価試験
上記実施例Bのインク組成物について、上記試験1〜6と同様の印字試験を行った。その結果は次の表に記載の通りであった。
【0127】
【表4】

【0128】
実施例C
次の表に記載のインク組成物を実施例Aと同様にして調製した。
【0129】
【表5】

【0130】
印字評価試験
上記実施例Cのインク組成物について、上記試験1〜6と同様の印字試験を行った。その結果は次の表に記載の通りであった。その結果は次の表に記載の通りであった。
【0131】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の染料群と第二の染料群とを少なくとも含んでなるインク組成物であって、
第一の染料群が、下記の式(I)で表される染料であって、R1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 を表す染料と、R1 がアゾ基に対してm−位のCOOMを表す染料とを含んでなり、
第二の染料群が、下記の式(II)で表される染料および/または下記の式(III )で表される染料からなるものである、インク組成物。
【化1】

[式中、
1 は−PO(OM)2 または−COOMを表し、XおよびYは独立してそれぞれC1-4 アルコキシを表し、Mは水素原子、アルカリ金属、アンモニア、および有機アミン類からなる群から選択される基の陽イオンを表す。]
【化2】

[式中、
21およびR22は独立してそれぞれ水素原子または−C2 4 OHを表し、Z1 、Z2 、Z3 、およびZ4 は、独立してそれぞれ下記式(IV)または式(V)で表される基を表す:
【化3】

[式中、
41およびR51は独立してそれぞれ水素原子、C1-4 アルキル、またはC1-4アルコキシを表し、Aは−SO3 Mまたは−COOMを表し、Mは上で定義したものと同義であり、nは1または2である。)]
【請求項2】
第一の染料群として、式(I)においてR1 がm−位のPO(OM)2 を表す染料と、式(I)においてR1 がm−位のCOOMを表す染料とを重量比1:0.6〜1:1.5の範囲で含んでなる、請求項1記載のインク組成物。
【請求項3】
第一の染料群と、第二の染料群とを、重量比で1:0.1〜1:0.5の範囲で含有してなる、請求項1または2に記載のインク組成物。
【請求項4】
式(I)におけるMが揮発性を有する化合物の陽イオンを表し、式(II)および/または式(III )におけるMがアルカリ金属の陽イオンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項5】
含窒素環状化合物および多価アルコールを含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項6】
請求項1において定義された式(I)で表される染料であって、R1 がアゾ基に対してm−位のPO(OM)2 またはCOOMを表す染料と、下記の式(VI)で表される染料とを含んでなるインク組成物。
【化4】

[式中、
Mは上で定義したものと同義であり、
mは1または2を表し、
nは0または1を表す。]
【請求項7】
式(I)で表される染料と式(VI)で表される染料とを、重量比4:1〜1:10の範囲で含有してなる、請求項6に記載のインク組成物。
【請求項8】
染料群Aと染料群Bとを少なくとも含んでなるインク組成物であって、
染料群Aが、請求項1において定義された式(I)で表される染料と、請求項6において定義された式(VI)で表される染料とを含んでなり、
染料群Bが、請求項1において定義された第二の染料群である、インク組成物。
【請求項9】
式(I)で表される染料と、式(VI)で表される染料とを、重量比4:1〜1:10の範囲で含有してなる、請求項8記載のインク組成物。
【請求項10】
染料群Aを1〜20重量%含んでなる、請求項8または9に記載のインク組成物。
【請求項11】
染料群Aと、染料群Bとのインク組成物中の重量比が1:0.1〜1:0.5の範囲にある、請求項8〜10のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項12】
式(I)におけるMが揮発性を有する化合物の陽イオンを表し、式(II)および/または式(III )におけるMがアルカリ金属の陽イオンである、請求項8〜11のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項13】
含窒素環状化合物および多価アルコール類を含んでなる、請求項8〜12のいずれか一項記載のインク組成物。
【請求項14】
トリ(ヒドロキシアルキル)アミンによってpHが8.5〜11に調整されてなる、請求項1〜13のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項15】
元素周期Ia金属元素からなる群より選択される水酸化物を少なくとも1つ含んでなる、請求項1〜14のいずれか一項記載のインク組成物。
【請求項16】
前記水酸化物が、LiOH、NaOH、またはKOHである、請求項1〜15のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項17】
グリコールエーテル類を3〜30重量%の範囲を含んでなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項18】
ノニオン性アセチレングリコール系界面活性剤を0.1〜5重量%の範囲で含んでなる、請求項1〜17のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項19】
表面張力が20〜35mN/mである、請求項1〜15のいずれか一項に記載のインク組成物。
【請求項20】
インク組成物を付着させて記録媒体に印字を行う記録方法であって、インク組成物として請求項1〜19のいずれか一項に記載のインク組成物を用いる、方法。
【請求項21】
インク組成物の液滴を吐出し、該液滴を記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法であって、インク組成物として請求項1〜19のいずれか一項に記載のインク組成物を用いる、インクジェット記録方法。
【請求項22】
請求項20または21に記載の記録方法によって記録が行われた、記録物。

【公開番号】特開2009−102662(P2009−102662A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29984(P2009−29984)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【分割の表示】特願2004−233664(P2004−233664)の分割
【原出願日】平成8年11月5日(1996.11.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】