説明

黒色化鋼板及びその製造方法

【課題】 優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板、並びに、当該鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】 Zn−Niめっき鋼板と、当該Zn−Niめっき鋼板の表面に形成される黒色化処理層と、当該黒色化処理層の外側に形成される有機樹脂層とを備える、黒色化鋼板であって、黒色化処理層に含まれる、金属ニッケル、酸化ニッケル、及び、酸化亜鉛の質量%を、それぞれ、A%、B%、及び、C%とするとともに、黒色化処理層の表面をP1、P1から0.1μm内側の黒色化処理層部位をP2とするとき、P1では、(A+B)/(A+B+C)≧0.01であるとともに、P2では、(A+B)/(A+B+C)≦0.15である、黒色化鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭電化製品等に好適に用いられる黒色化鋼板及びその製造方法に関し、特にクロムフリーの黒色化鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
黒色化鋼板は、耐食性や装飾性に優れていることから、パーソナルコンピュータ、複写機、オーディオ機器、空調機器等の家庭電化製品を中心に種々の機器の材料として広く使用されている。このような黒色化鋼板を製造するにあたっては、従来亜鉛系めっきを施した鋼板を黒色化処理した後、クロメート処理によってクロメート皮膜を形成し、その後、必要に応じて樹脂皮膜を形成するという方法が多用されてきた。
【0003】
しかしながら、クロメート皮膜には人体に有害な6価クロムが含まれるため、黒色化鋼板の製造に携わる人の健康を損ねたり、環境汚染を引き起こしたりする等の危険性が懸念されている。このため、今日では、クロムを含む処理液を用いることなく耐食性や装飾性に優れた黒色化鋼板を得るための技術が種々提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、亜鉛系めっきが施された鋼板の表面に、ニッケル及び亜鉛の金属とこれら金属の酸化物とを含む金属/酸化物複合黒色化皮膜を形成し、その上に、チオカルボニル基含有化合物及びバナジウム化合物の少なくとも一方と樹脂とを含有する非クロム型防錆皮膜層を形成した黒色化鋼板(非クロム型黒色処理亜鉛系めっき鋼板)に関する技術が記載されている。
【0005】
この黒色化鋼板では、上記の金属/酸化物複合黒色化皮膜中に、ニッケル及び亜鉛の水酸化物を含有させることもでき、上記の非クロム型防錆皮膜層には、燐酸化合物及び微粒シリカの少なくとも一方を含有させることもできる。非クロム型防錆皮膜層上には、樹脂層を任意に形成することができ、この樹脂層には黒色顔料を含有させることができる。
【0006】
一方、特許文献2には、金属イオン、水溶性有機樹脂、水分散性有機樹脂、酸、及び水性媒体を特定の割合で含有し、金属材料の耐食性、耐傷つき性、及び耐指紋性を向上させるとともに、色調変化及び低光沢化を防止することができる金属表面処理組成物に関する技術が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板の表面に、金属イオン、水溶性有機樹脂、水分散性有機樹脂、及び酸を含有する塗料組成物によって皮膜を形成させた黒色鋼板に関する技術が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献4には、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板の表面に、金属イオン、酸、及び特定の水分散性有機樹脂を含有する金属表面処理組成物の皮膜層を形成させた黒色鋼板に関する技術が記載されている。
【0009】
そして、特許文献5には、黒色化処理しためっき鋼板表面上にカーボンブラック等の黒色顔料を含有する有機樹脂層を形成し、さらにその上にクリアー樹脂層を形成させる方法に関する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2000−290783号公報
【特許文献2】特開2001−158969号公報
【特許文献3】特開2001−164377号公報
【特許文献4】特開2002−127302号公報
【特許文献5】特開2002−47579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1、3、及び4に記載された鋼板では、非クロム型防錆皮膜層、又は酸化物層を形成し終えた時点で色ムラが生じたり、ロット毎に色調がばらついたりすることがある。このような色ムラあるいは色調のばらつきは、その後にたとえ黒色顔料を含有した樹脂層を形成させたとしても、優れた黒色外観を有する鋼板を得ることは困難であるという問題があった。また、特許文献2に記載された金属表面処理組成物を用いた場合でも、表面処理の対象となる金属材料に色ムラがあった場合には、優れた黒色外観を有する鋼板を得ることは困難であるという問題があった。さらに特許文献5に提案された方法では、有機樹脂中へ黒色顔料を均一に分散させることが難しいため色ムラが発生したり、ロットにより色調にばらつきが発生したりするという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板、並びに、当該鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
Zn−Niめっき鋼板は、クロメート処理によらずとも、その表面のZn−Niめっき皮膜を酸化させることにより、黒色化させることは可能である。ただし、表面のZn−Niめっき皮膜全体を一様に黒色化させることは困難であり、色ムラが生じたり、色調に白味がかかったり、ロット毎に色調がばらついたりするといった不具合が発生し易い。
【0013】
ここに、Zn−Niめっき皮膜が黒色化されるのは、めっき皮膜中に存在する金属ニッケルが酸化されて酸化ニッケルが生成されることに起因する一方、上記の不具合は、めっき皮膜表面に存在する亜鉛が酸化されて白色を呈する酸化亜鉛が生成されることに起因する。したがって、Zn−Niめっき皮膜を酸化した後に、当該めっき皮膜表面(以下において、「黒色化処理層」と記述することがある。)に存在する酸化亜鉛のみを選択的に除去すれば、優れた黒色外観を有する黒色化鋼板を得ることが可能になる。
【0014】
そこで、黒色化処理層に存在する酸化亜鉛のみを選択的に除去し得る処理液について種々検討した。その結果、pH2〜4の酸性水溶液又はpH11〜14のアルカリ性水溶液に、表面のZn−Niめっき皮膜を酸化させたZn−Niめっき鋼板を浸漬させて処理することが黒色外観の向上に有効であること、及び、当該処理を過度に行うと上記鋼板の耐食性が低下しやすいことを見出した。
【0015】
さらに、本発明者は、黒色化処理を施したZn−Niめっき鋼板の表面について詳しく調査した。その結果、黒色化処理層の状態が、黒色化鋼板の外観だけでなく耐食性にも大きく影響すること、及び、黒色化鋼板の外観は、当該鋼板の中心線平均粗さ(Ra)にも大きく影響されることを見出した。加えて、優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板に備えられる黒色化処理層を得るための黒色化処理条件について検討し、本発明を完成させるに至った。
【0016】
以下、本発明について説明する。
第1の本発明は、Zn−Niめっき鋼板と、当該Zn−Niめっき鋼板の表面に形成される黒色化処理層と、当該黒色化処理層の外側に形成される有機樹脂層とを備える、黒色化鋼板であって、黒色化処理層に含まれる、金属ニッケル、酸化ニッケル、及び、酸化亜鉛の質量%を、それぞれ、A%、B%、及び、C%とするとともに、黒色化処理層の表面をP1、P1から0.1μm内側の黒色化処理層部位をP2とするとき、P1では、(A+B)/(A+B+C)≧0.01であるとともに、P2では、(A+B)/(A+B+C)≦0.15であることを特徴とする、黒色化鋼板により、上記課題を解決する。
【0017】
上記の本発明において、黒色化処理層の中心線平均粗さRaは、1.2μm以下であることが好ましい。
ここに、中心線平均粗さRaとは、JIS B0601附属書2「2RCフィルタを適用した場合の中心線平均粗さ」により定義される算術平均高さをいう。
【0018】
第2の本発明は、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板を、pH2〜4の酸性水溶液又はpH11〜14のアルカリ性水溶液により、5〜15秒間に亘って表面処理する第1工程と、第1工程後にZn−Niめっき鋼板を水洗する第2工程と、第2工程後にZn−Niめっき鋼板の表面に樹脂皮膜を形成する第3工程と、を含むことを特徴とする、黒色化鋼板の製造方法である。
【0019】
第3の本発明は、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板を、クロム化合物を用いることなく調製されたpH2〜4の酸性水溶液又はpH11〜14のアルカリ性水溶液により、5〜15秒間に亘って表面処理する第1工程と、第1工程後にZn−Niめっき鋼板を水洗する第2工程と、第2工程後にZn−Niめっき鋼板の表面に樹脂皮膜を形成する第3工程と、を含むことを特徴とする、黒色化鋼板の製造方法である。
【0020】
上記第2の本発明又は第3の本発明において、黒色化処理は、Zn−Niめっき鋼板を陽極酸化するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
第1の本発明によれば、金属ニッケル、酸化ニッケル、及び酸化亜鉛を含む黒色化処理層において、黒色化処理層表面に含まれる酸化亜鉛が99質量%未満に抑えられるため、優れた黒色外観を有する黒色化鋼板を提供することができる。加えて、黒色化処理層表面から0.1μm内側の黒色化処理層に含まれる金属ニッケル及び酸化ニッケルの合計質量が、同層に含まれる金属ニッケル、酸化ニッケル、及び酸化亜鉛の合計質量に対して15%以上となるため、優れた耐食性を有する黒色化鋼板を提供することができる。したがって、第1の本発明によれば、優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板を提供することが可能になる。
【0022】
また、第1の本発明において、黒色化処理層の中心線平均粗さRaを1.2μm以下とすることで、有機樹脂層を黒色化処理層の外側(例えば、黒色化処理層の表面)に均一に形成させることが可能になる。したがって、より一層優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板を提供することが可能になる。
【0023】
第2の本発明によれば、pH2〜4の酸性水溶液又はpH11〜14のアルカリ性水溶液で表面処理されることにより、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板表面の酸化亜鉛が選択的に除去され、酸化ニッケルは除去されることなく鋼板表面に留まる。この後、上記水溶液を水洗によって除去してから、Zn−Niめっき鋼板の表面に樹脂皮膜を形成することにより、酸化亜鉛が選択的に除去された後の黒色化処理層表面を化学的に安定化させることができる結果、優れた耐食性を有する黒色化鋼板を得ることができる。したがって、第2の本発明によれば、優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板を製造し得る、黒色化鋼板の製造方法を提供することができる。
【0024】
第3の本発明によれば、クロム酸やクロム酸塩などのクロム化合物を用いることなく調製されたpH2〜4の酸性水溶液又はpH11〜14のアルカリ性水溶液で表面処理されることにより、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板表面の酸化亜鉛は、選択的に除去され、酸化ニッケルは除去されることなく鋼板表面に留まる。この後、上記水溶液を水洗によって除去してから、Zn−Niめっき鋼板の表面に樹脂皮膜を形成することにより、酸化亜鉛を選択的に除去した後の皮膜表面を化学的に安定化させることができる結果、優れた耐食性を有する黒色化鋼板を得ることができる。したがって、第3の本発明によれば、優れた黒色外観及び耐食性を有するクロムフリーの黒色化鋼板を製造し得る、黒色化鋼板の製造方法を提供することができる。
【0025】
さらに、第2及び第3の本発明において、Zn−Niめっき鋼板を陽極酸化により黒色化処理することで、当該鋼板に美麗で均一な黒色化処理を施すことが可能になる。したがって、かかる形態とすることで、より一層優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板を製造し得る、黒色化鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
1.黒色化鋼板
1.1.Zn−Niめっき鋼板
本発明の黒色化鋼板を構成するZn−Niめっき鋼板は、母材鋼板にZn−Niめっきが施された鋼板であれば特に限定されるものではないが、美麗かつ均一に黒色化された優れた黒色外観を有する黒色化鋼板を得るという観点から、Zn−Niめっき付着量が5〜40g/m、Zn−Niめっき皮膜中のNi含有率が5〜30%であるZn−Niめっき鋼板であることが好ましい。Zn−Niめっき皮膜中のNi含有率は、より好ましくは10〜15%である。また、本発明の黒色化鋼板にかかる母材鋼板の種類も特に限定されるものではなく、JIS G 3141で規定されているSPCC、SPCD、SPCE等の一般用、絞り用、もしく深絞り用の冷間圧延鋼板はもとより、引張り強さが340MPa以上である高張力鋼板等、種々の鋼板を用いることができる。本発明の黒色化鋼板にかかるZn−Niめっきの組成及び付着量、並びに母材鋼板の種類は、目的とする黒色化鋼板の用途やグレード等に応じて適宜選択することができる。
【0027】
1.2.黒色化処理層
黒色化鋼板の黒色外観は、黒色化処理されたZn−Niめっき皮膜表面における金属ニッケル、酸化ニッケル、及び酸化亜鉛の存在割合によって変化し、酸化亜鉛の存在割合が大きいほど鋼板の黒色度が低下するとともに色調がばらつく。一方で、黒色化処理層の状態は、黒色化鋼板の耐食性にも影響を及ぼす。そこで、本発明にかかる黒色化処理層に含まれる金属ニッケル、酸化ニッケル、及び、酸化亜鉛の質量%を、それぞれ、A%、B%、及び、C%とするとともに、黒色化処理層の表面をP1、当該P1から0.1μm内側の黒色化処理層部位をP2とするとき、P1では
(A+B)/(A+B+C)≧0.01 (1)
とし、P2では、
(A+B)/(A+B+C)≦0.15 (2)
とする。
【0028】
上記P1において、上記式1を満たすように金属ニッケル、酸化ニッケル、及び酸化亜鉛を存在させれば、当該P1における酸化亜鉛の存在割合は99%未満となるため、本発明にかかる鋼板を優れた黒色外観を有する鋼板とすることができる。これに対し、黒色化処理層の上記P2において、上記式2を満たすように金属ニッケル、酸化ニッケル、及び酸化亜鉛を存在させることで、優れた耐食性を有する黒色化鋼板を得ることができる。したがって、上記式1及び2を満たす鋼板とすることで、優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板を提供することが可能になる。
【0029】
また、本発明にかかる黒色化鋼板では、より一層優れた黒色外観及び耐食性を有する鋼板を得るという観点から、黒色化処理層における中心線平均粗さRa(以下において、「表面粗度Ra」と記述することがある。)を1.2μm以下とすることが好ましい。このような形態とすることで、黒色化処理層表面の凹凸が少なくなるため、有機樹脂層を、黒色化処理層の表面に均一に形成させることが可能になる。
本発明において、上記Raの下限値は特に限定されるものではないが、黒色化処理層表面が平坦になり過ぎて光った印象の黒色外観になることを防止するという観点から、0.4μm以上であることが好ましい。なお、Raがこのような値である黒色化処理層を得る方法は、特に限定されるものではないが、例えば、Zn−Niめっきを施される母材鋼板表面のRaを上記範囲程度としておく等の方法を挙げることができる。
【0030】
1.3.有機樹脂層
本発明の黒色化鋼板では、黒色化処理層の外側(例えば、黒色化処理層の表面)に有機樹脂層が形成されている。本発明にかかる有機樹脂層を形成させる方法は特に限定されるものではないが、例えば、黒色化処理層の表面に有機樹脂を塗布し、その後、乾燥又は焼付けることで、有機樹脂層を形成させることができる。
本発明において、黒色化処理層の表面に塗布される有機樹脂層は特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、又はフェノール系樹脂等を好適に塗布することができる。
さらに、有機樹脂を塗布する際に使用する薬液も特に限定されるものではなく、例えば、上記樹脂を有機溶剤に溶解させた有機系薬液や、上記樹脂を水に分散させた水分散系の薬液等を好適に使用することができる。
加えて、本発明にかかる有機樹脂層は、主成分が有機樹脂であれば、その他に有機又は無機のインヒビター、防錆剤、界面活性剤、若しくはカップリング剤等を含んでいても良い。また、有機樹脂層には、カーボンブラック等の顔料成分が含まれていても良いが、黒色化処理層の色を活かす等の観点から、当該顔料成分は含まないことが好ましい。
なお、黒色化処理層の表面に形成されるべき有機樹脂層の厚さも特に限定されるものではないが、一般的に使用され易い黒色化鋼板を得るという観点から、0.1μm以上であることが好ましく、さらに、10μm以下であることが好ましい。
【0031】
2.黒色化鋼板の製造方法
本発明の黒色化鋼板の製造方法は、第1工程、第2工程、及び第3工程を含んでいる。そこで、以下に、各工程の実施形態について説明する。
【0032】
2.1.第1工程
第1工程は、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板を、pH2〜4の酸性水溶液又はpH11〜14のアルカリ性水溶液により、5〜15秒間に亘って表面処理する工程である。
【0033】
本発明にかかるZn−Niめっき鋼板の黒色化処理法は、特に限定されるものではないが、環境負荷低減という観点から、クロム酸やクロム酸塩等、クロム含有物質を用いることなくZn−Niめっき皮膜を酸化させ得る方法であることが好ましい。このような方法の具体例としては、陽極電解酸化による方法、酸化作用のある液体に浸漬する方法、あるいは交番電解による方法等を挙げることができる。これらの方法の中でも、美麗かつ均一に黒色化された鋼板を容易に得やすいという観点から、陽極電解酸化による方法を用いることが好ましく、特に、硝酸等の酸化性のある酸の水溶液中で陽極電解酸化する方法を用いることがさらに好ましい。
【0034】
本発明において使用される黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板は、本発明の黒色化鋼板において使用され得る鋼板を好適に使用することができる。そのため、Zn−Niめっき付着量、当該めっきの組成、及び母材鋼板は、上述したように、目的とする黒色化鋼板の用途やグレード等に応じて適宜選択することができる。
【0035】
本発明の第1工程では、酸性水溶液又はアルカリ性水溶液により、5〜15秒間に亘って、黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板の表面を処理する。このような処理を行うことにより、黒色化処理層における酸化亜鉛を選択除去して当該酸化亜鉛の存在割合を99%未満とすることができるため、優れた黒色外観を有する黒色化鋼板を提供することが可能になる。加えて、かかる処理を行うことにより、黒色化処理層表面から0.1μm内側の黒色化処理層に含まれる金属ニッケル及び酸化ニッケルの合計質量が、同層に含まれる金属ニッケル、酸化ニッケル、及び酸化亜鉛の合計質量に対して15%以上となるため、優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板を提供することが可能になる。
【0036】
本発明の第1工程における上記表面処理では、酸性水溶液又はアルカリ性水溶液における酸化亜鉛と酸化ニッケルとの溶解性を利用して、黒色化処理されたZn−Niめっき皮膜表面の酸化亜鉛を選択的に除去している。すなわち、酸化亜鉛と酸化ニッケルとでは、
i)酸化亜鉛の方が酸化ニッケルよりも酸性溶液に対する溶解性が高いことを利用して、又は、
ii)酸化ニッケルがアルカリ性水溶液に溶解しない一方、酸化亜鉛はpHが11以上のアルカリ性水溶液に溶解することを利用して、
黒色化処理されたZn−Niめっき皮膜表面の酸化亜鉛を選択的に除去している。
【0037】
本発明の第1工程にかかる酸性水溶液のpHは、酸化亜鉛の選択除去を適度に行うという観点から、2以上とする。さらに、酸化亜鉛を適当な溶解速度で溶解させるという観点から、当該pHは4以下とする。また、本発明の第1工程において使用することができる酸性水溶液は、pHが2〜4の酸性水溶液であれば特に限定されるものではないが、環境負荷低減という観点から、クロム化合物を用いることなく調製されていることが好ましい。このような酸性水溶液は、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、及び燐酸等の無機酸や、蟻酸及び酢酸等の有機酸、あるいは無機酸と有機酸との混合物を用いて調製することができる。これらのうち、入手容易性等の観点から、塩酸、硫酸、硝酸を好適に使用することができる。
【0038】
これに対し、本発明の第1工程にかかるアルカリ性水溶液のpHは、酸化亜鉛を効果的に選択除去するという観点から、11以上とする。本発明の第1工程において使用することができるアルカリ性水溶液は、pHが11〜14のアルカリ性水溶液であれば特に限定されるものではないが、酸性水溶液の場合と同様に、環境負荷低減という観点から、クロム化合物を用いることなく調製されていることが好ましい。このようなアルカリ性水溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウム等の無機アルカリや、ジメチルアミン等の有機アルカリ、あるいは無機アルカリと有機アルカリとの混合物を用いて調製することができる。これらのうち、入手容易性等の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを好適に使用することができる。
【0039】
一方、Zn−Niめっき鋼板を上記処理液中に浸漬するか、又は上記処理液をZn−Niめっき鋼板の両面にスプレーする等の方法により行われる、本発明にかかる表面処理の時間は、優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板を得るという観点から、5秒以上とする。また、酸化亜鉛が過度に選択除去されることを防止するという観点から、同処理時間は15秒以下とする。なお、当該表面処理において使用される水溶液の温度は、特に限定されるものではないが、黒色化処理層における酸化亜鉛の選択除去を効果的に行うという観点から、その温度は室温〜40℃程度とすることが好ましい。
【0040】
ここで、上述したように、Zn−Niめっき鋼板の黒色化処理においても酸化作用のある液体を使用することが可能であるため、黒色化処理において使用する酸性溶液のpHを2〜4とすれば、黒色化処理に引き続き、同一の処理槽内において、酸化亜鉛の選択的な除去を行うことも可能になる。このような形態とすることにより、黒色化処理の工程と酸性又はアルカリ性水溶液への浸漬の工程との間に従来行っていた洗浄・乾燥工程を省略して、第1工程を簡略化することもできる。
【0041】
2.2.第2工程
本発明の第2工程は、上記第1工程でZn−Niめっき鋼板の表面に付着した酸性水溶液又はアルカリ性水溶液を、水により洗い流す工程である。本発明の第2工程において使用される水は、上記酸性水溶液又はアルカリ性水溶液を洗い流すことが可能であれば特に限定されるものではなく、例えば、イオン交換水、上水、あるいは工業用水等を好適に使用することができる。また、水洗の方法も特に限定されるものではなく、例えば、浸漬や噴射等の方法を使用することができる。さらに、水洗に使用される水の温度及び流速も特に限定されるものではなく、適当な洗浄効果が得られる温度及び流速を適宜選択することができる。
【0042】
本発明の第2工程においてZn−Niめっき鋼板の表面に付着した水は、乾燥炉等により十分に除去される。ここで、使用される乾燥炉の形態は特に限定されるものではなく、例えば、通常の加熱式乾燥炉、送風式乾燥炉、あるいは真空乾燥炉等を好適に使用することができる。
【0043】
2.3.第3工程
本発明の第3工程は、上記第2工程を経たZn−Niめっき鋼板における黒色化処理層の表面に樹脂皮膜を形成する工程である。本発明の第3工程における樹脂皮膜形成方法は特に限定されるものではなく、例えば、黒色化処理層の表面に有機樹脂を塗布し、その後、乾燥又は焼付ける等の方法により、有機樹脂層を形成させることができる。このようにして黒色化処理層の表面に有機樹脂層を形成させることで、鋼板表面の黒色外観が損なわれることを防止することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明する。
1.試験材の作製
種々の表面粗度Raの冷延鋼板を母材鋼板とし、当該母材鋼板に、Ni含有率が12.5%であるとともに、めっき付着量が20g/mであるZn−Niめっきを施して、Zn−Niめっき鋼板とした。そして、このZn−Niめっき鋼板に対して、以下の3つの方法で黒色化処理を行った。
(X)陽極電解酸化:硝酸ナトリウム30g/Lの水溶液中で、20A/dm、130C/dmの通電量にて陽極電解酸化を行うことにより、Zn−Niめっき鋼板表面に黒色化皮膜を生成させる。このようにして黒色化皮膜を生成させたZn−Niめっき鋼板を、その後、水洗し、引き続き乾燥させることにより、分析試験材とする。
(Y)交番電解:硝酸ナトリウム30g/Lの水溶液中で、20A/dm、200C/dm、60Hzの通電量にて交番電解を行うことにより、Zn−Niめっき鋼板表面に黒色化皮膜を生成させる。このようにして黒色化皮膜を生成させたZn−Niめっき鋼板を、その後、水洗し、引き続き乾燥させることにより、分析試験材とする。
(Z)硝酸浸漬:50℃の1N硝酸溶液中にZn−Niめっき鋼板を10秒間浸漬させることにより、当該めっき鋼板表面に黒色化皮膜を生成させる。このようにして黒色化皮膜を生成させたZn−Niめっき鋼板を、その後、水洗し、引き続き乾燥させることにより、分析試験材とする。
上記3通りの方法により黒色化処理を施した分析試験材を、酸性又はアルカリ性の水溶液に浸漬後、水洗・乾燥し、表面分析に供した。そして、上記乾燥後、さらに表面に樹脂を塗布し、鋼板温度が120℃となるようにオーブンで焼付後冷却することにより、表面粗度、色差、及び耐食性調査用の試験材(黒色化鋼板)とした。試験材作製時の黒色化処理方法(上記X、Y、及びZ)、使用した水溶液の種類(酸性:x、y、アルカリ性:z、使用なし:−)、母材鋼板の表面粗度Ra、表面処理時間、水溶液の濃度、温度及び流速、形成させた樹脂の種類及び厚さ、並びに、後述する表面分析結果、色差及び耐食性の結果を、表1にあわせて示す。
【0045】
【表1】


なお、表1において、xはpH2.5に調製した硫酸を、yはpH3.5に調製した硫酸を、zはpH11.5に調製した水酸化ナトリウム水溶液を用いて表面処理を行ったことを、それぞれ表している。
【0046】
2.分析方法及び評価方法
2.1.表面分析
上述の方法により作製した分析試験材を、島津製作所製島津X線光電子分光装置EACA3200を用いて分析した。ここに、黒色化処理層表面P1の分析は、Arによるスパッタリングを実施しないで分析した。一方、Arによるスパッタリングを120秒間実施した場合の値を、上記表面から0.1μm下の黒色化処理層P2における分析結果とした。なお、本分析において、ESCA分析装置附属のArスパッタリングは、SiO換算で1秒当たり0.65nmのスパッタリング量であった。
【0047】
上記ESCA3200におけるワイドスキャンから得られるNi/2pのピーク及びZn/LMのピークを、それぞれナロースキャンにより特定後、ピーク分離することにより金属ニッケル、酸化ニッケル、並びに酸化亜鉛のピークへと分離し、上記P1並びに上記P2における各原子の存在割合を算出した。算出結果を、表1に示す。
【0048】
2.2.表面粗度測定
上述の方法により作製した分析試験材を、株式会社ミツトヨ製SURF TEST SV−600を用いて、中心線粗さRaの測定を行った。測定結果を、表1に示す。
【0049】
2.3.性能評価
2.3.1.色差(黒色外観)
上述の方法により作製した試験材を、スガ試験機製色差計SM−7−IS−2Bにて色差(ハンターLab表色系におけるL値)を測定した。測定結果及び評価を、表1に示す。ここに、上記L値は、近隣の3点における測定結果の平均値とした。
なお、色差(黒色外観)の評価は、以下に示す基準に基づいて行った。
<評価基準>
L≦23 : ◎=優
23<L≦24 : ○=良
24<L≦25 : △=やや劣
25<L : ×=劣
【0050】
2.3.2.耐食性
耐食性評価面が70mm×150mmの大きさとなるように切断した試験材の裏面及び端面部をテープによりシールした後、上記表面処理液を塗布した面に、JIS Z2371「塩水噴霧試験方法」に規定されている塩水噴霧試験を120時間に亘って行い、耐食性評価面における白錆発生状況を観察した。耐食性評価は、以下に示す基準に基づいて行った。耐食性の評価結果を、表1に示す。
<評価基準>
評価面に占める白錆発生面積の割合が2%以下 : ◎=優
評価面に占める白錆発生面積の割合が2%を超え5%以下 : ○=良
評価面に占める白錆発生面積の割合が5%を超え20%以下 : △=やや不良
評価面に占める白錆発生面積の割合が20%を超える : ×=不良
【0051】
3.評価結果
表1に示すように、黒色化処理層に含まれる金属ニッケル、酸化ニッケル、及び酸化亜鉛の質量%をそれぞれA%、B%、及びC%とする時、実施例1〜16では、上記P1における「(A+B)/(A+B+C)」の値(以下において、「質量比」と記述する。)が0.01以上であるとともに、上記P2における質量比が0.15以下であった。そのため、これらの実施例1〜16にかかる試験材は、優れた黒色外観及び耐食性を有していた。なお、本実施例1〜16のうち、表面粗度Raが1.2以下であった実施例7〜12、14、及び16にかかる試験材では、特に、黒色外観が優れていた。これに対し、表1に示すように、比較例1〜10にかかる試験材では、少なくとも、上記P1における質量比が0.01未満であるか、又は上記P2における質量比が0.15を超えていたため、実施例1〜16にかかる試験材よりも黒色外観及び/又は耐食性が劣っていた。以上より、本発明によれば、優れた黒色外観及び耐食性を有する黒色化鋼板が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn−Niめっき鋼板と、該Zn−Niめっき鋼板の表面に形成される黒色化処理層と、該黒色化処理層の外側に形成される有機樹脂層とを備える、黒色化鋼板であって、
前記黒色化処理層に含まれる、金属ニッケル、酸化ニッケル、及び、酸化亜鉛の質量%を、それぞれ、A%、B%、及び、C%とするとともに、前記黒色化処理層の表面をP1、該P1から0.1μm内側の前記黒色化処理層部位をP2とするとき、
前記P1では、(A+B)/(A+B+C)≧0.01であるとともに、前記P2では、(A+B)/(A+B+C)≦0.15であることを特徴とする、黒色化鋼板。
【請求項2】
前記黒色化処理層の中心線平均粗さRaが1.2μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の黒色化鋼板。
【請求項3】
黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板を、pH2〜4の酸性水溶液又はpH11〜14のアルカリ性水溶液により、5〜15秒間に亘って表面処理する第1工程と、
前記第1工程後に前記Zn−Niめっき鋼板を水洗する第2工程と、
前記第2工程後に前記Zn−Niめっき鋼板の表面に樹脂皮膜を形成する第3工程と、
を含むことを特徴とする、黒色化鋼板の製造方法。
【請求項4】
黒色化処理されたZn−Niめっき鋼板を、クロム化合物を用いることなく調製されたpH2〜4の酸性水溶液又はpH11〜14のアルカリ性水溶液により、5〜15秒間に亘って表面処理する第1工程と、
前記第1工程後に前記Zn−Niめっき鋼板を水洗する第2工程と、
前記第2工程後に前記Zn−Niめっき鋼板の表面に樹脂皮膜を形成する第3工程と、
を含むことを特徴とする、黒色化鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記黒色化処理が、Zn−Niめっき鋼板を陽極酸化するものであることを特徴とする、請求項3又は4に記載の黒色化鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2006−28581(P2006−28581A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208653(P2004−208653)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】